モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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文化祭の始まりは準備期間から 中編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、文化祭の出し物か……何があるかな?」

 

 放課後の帰り道。裕吾、翼と別れて一人で空を仰ぎ見て、家路を歩きながら呟く。

 折角なんだから多くの人に楽しんでもらえるような出し物がいいよな……やっぱり飲食店とか? それともボードゲームとかそういう体験型のもの? お化け屋敷とかもありだな。……とはいえ、準備期間も少ないし、何よりウチのクラスのやる気も怪しい。女性陣はともかく、男共はサボって天城達のメイド喫茶へ行きそうだ。

 楽しめて、やる気が出て、短い期間で準備出来る出し物か……はぁ、なかなかに難しいな。

 

 いくら頭を回してもアイデアが全く出ず、思わず小さな溜め息が漏れ出る。しかし、考えてこなかったら海子のストレスが加速しそうなので、諦めずにアイデアを考え続ける。

 そう思考を巡らせている間に、いつの間にか自宅付近に到着。続きは部屋で考えようと視線を正面に戻し歩みを速める。が、家の前に見覚えのある四人の女子――友香、出雲ちゃん、小波、中村のいつもの面子の姿が視界に映り、足が止まる。

 

「あ、センパーイ!」

 

 直後、出雲ちゃんがこちらに気付き手を元気いっぱいに振り、友香達もこちらへ視線を移す。俺もそれに軽く手を振り返し、彼女達の前まで歩く。

 

「どうしたみんな揃って。勉強会でもするのか?」

「今日は違うよ。文化祭の出し物関係で、ちょっと出掛けるの」

「文化祭の? そういえば、どんな出し物にしたんだ?」

「手作りスイーツの販売です! で、今からそのメニュー案のアイデアを探しに洋菓子店とか、色々回ってみようって事にしたんです!」

「手作りスイーツか……なんだか大変そうだな」

 

 友香も出雲ちゃんも料理は上手い方だし、大きな問題は無いだろうけど、色々大変そうだな。売り物として出すんなら、客に興味を持ってもらえるような物作らないとだし。

 

「ま、大丈夫だよ。愛莉がスイーツ作りが趣味だし、他にもお菓子作り得意な女子も多いから。なんとかなるでしょ」

「趣味と言っても、少々嗜む程度ですけどね」

「へぇ……ん? でもおかしくないか? 中村……それに小波もD組だろ? 友香と出雲ちゃんはB組じゃないか」

「ああ、言ってなかったっけ? 私達のスイーツ販売、B組とD組での合同の出し物なの」

「ご、合同? またどうして……」

「悠奈さんが企画したんですよ」

「人手も予算も二クラス分になるしね。それに、折角だから一緒の方が楽しいと思って」

 

 そういえば、朝倉先輩がさっき言ってたな。部活間、クラス間の合同の出し物が許可されてるって。それで友香達のB組と中村達のD組が手を組んだと。なるほど、ようやく合点がいった。

 

「ところで、先輩のクラスは何をするんですか?」

「ん? ああ、ウチはまだ決まってないよ。クラスの奴らがやる気無いというか、なんというか……」

「大変そうだね。ま、頑張ってよ。じゃ、私達はそろそろ行くよ」

「あ、そうだ! 先輩、よかったら一緒に行きませんか? 男性目線の意見も欲しいですし!」

「俺? んー、手伝ってやりたいけど、さっき言った通りウチのクラスの出し物がまだ決まって無いから、考えないといけないんだ。悪いけど、今回は協力出来ないかな」

「そうですか……じゃあ、仕方無いですね」

 

 と、出雲ちゃんは少し残念そうに肩をすくめる。しかし、すぐに表情を明るくして笑顔を浮かべる。

 

「でも、文化祭での楽しみがあるからいいです! 先輩、一緒に色んな出し物見て回りましょうね?」

「あ、その事なんだけど……ちょっといいかな?」

「なんですか?」

 

 出雲ちゃんは不思議そうにチョコンと首を傾げる。そんな彼女に、俺は先の――文化祭巡りを賭けて勝負をするという、朝倉先輩と決めた件の事を伝えた。

 その事を聞き終えると、出雲ちゃんは何を言わずに俯く。そして数秒後、俯いたまま不意に口を開く。

 

「そうなんですか……」

「勝手に決めたのは悪いと思ってるし、嫌なら止める。けど全員と文化祭巡りをするのは二日間では難しいかもしれないし、時間も平等に割けない。だから――」

「いいですよ、それで」

「へ?」

 

 俺が思ってたのとは予想外の答えが返ってきた事に、思わず変な声が漏れ出る。

 ず、随分あっさり納得したな……てっきり反対するかと思ったけど。

 

「あの人と同じ意見っていうのは少し癪ですけど……私も、先輩と私だけが共有出来るような特別な思い出が欲しいです。だから、その勝負に乗ります」

「い、いいのか? その……負けたら一緒に……少なくとも二人で回る事は出来なくなるけど……」

「勝負に勝てば先輩を独占出来るんでしょう? なら勝てば問題無しです! 確かにリスクはあるけど……このチャンスを私は活かしたいから――!」

「出雲ちゃん……そっか、ありがとうな。助かるよ」

 

 出雲ちゃん、何だか変わった感じがするな……一皮剥けた感じがある。昨日の事で色々吹っ切れたのかな?

 

「でも……真島先輩が勝負の内容を考えるっていうのが不満……というか、不安ですね……」

「……それはそうだな。変な案は出さないと思うけど……それに、もし変な案だったら却下するから」

「まあ、どんな勝負でも私が勝ってみせますけどね!」 

 

 そう言うと出雲ちゃんは急にグイッと俺に顔を近付け、首を小さく倒しながらニコッと笑う。

 

「先輩、文化祭デートのプラン、しっかり考えといて下さいよ? 私、全力で頑張りますから!」

「お、おう……」

 

 その無垢な笑み、明るい無邪気な声に思わず緊張し、たどたどしい言葉が漏れる。あざとい出雲ちゃんにドキドキしていると、傍らで見ていた友香が急にわざとらしく咳払いをする。

 

「いい雰囲気のとこ悪いけど、そろそろ行くよ出雲」

「あ、うん! それじゃあ先輩、またです!」

「そうだ、今日はみんなで愛莉の家に泊まるから、お母さん帰ってきたら夕飯いらないって言っといてー」

「分かった。気を付けろよー」

「はーい」

 

 そう返事をしながら、友香達はこの場を立ち去る。俺は彼女達の姿が見えなくなるまで手を振って見送る。そして四人の姿が視界から消えると同時に手を下ろし、玄関に向かい歩く。

 

「文化祭デートか……」

 

 勝負の結果がどうなろうと、誰かとは文化祭を回る事になるんだ。考えといて損は無いか。……ま、どのクラスがどんな出し物やるか分かんないと、プランの考えようが無いけど。あとで裕吾にでも情報貰うか。それに、クラスの出し物も考えないとな。……ああ、勝負の件も天城と海子にメールしないと。陽菜には、あとで直接伝えればいいか。

 

 やる事がいっぱいだな――そう少し気疲れしながら、玄関を開いて家の中へ入った。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「……駄目だ! 全然思い付かん!」

 

 右手に持っていたスマホをポイッとベッドの上に放り投げ、勉強机に突っ伏す。

 帰宅後、部屋に籠もってネットなどの情報を見ながら文化祭の出し物案をひたすら考えていたのだが、一時間近く経っても全くもって案が浮かび上がらなかった。

 いや、案自体はいくつか浮かんだ。しかしどれも短期間じゃ準備出来そうになかったり、特別な技術を必要としたり、他のクラスと被ったりするのでボツにするしかなかった。

 参ったな……こういうのは飲食店がメジャーなんだろうが、二年にはC組のメイド喫茶がある。恐らく男性客の大半はそこに流れるだろうし、ウチも飲食店にしたら注目なんてされない。準備をして結果がそれじゃあ流石に悲しい。……いっそ女性客を狙って執事喫茶とかにするか? ……いや、ウチのクラスに女性が興味持ちそうな男は裕吾以外に居ないから無理か。

 

「はぁ……せめて一つは考えないとな……」

 

 でないと海子に何を言われるか分からない。クラス委員長として俺だけひいきにするって事を海子はしないだろうし、アイデア無しで向かったら説教の一つは受けそうだ。正直委員長モードの海子に怒られるのは普通に怖い。実際に可能じゃ無くてもいいから、最低でも一個アイデアを持って行かないとな。

 海子からの説教を回避するべく、上体を起こし、出し物案を生み出す為に腕を組んで思考を回す――矢先、いきなり部屋の扉が開き、予期せぬ来客が自室入り込んできた。

 

「友くん居るー?」

 

 入ってから聞くな。ノックぐらいしろ――そう心の内でツッコミと溜め息を吐きながら体を回し、来客者である陽菜へ目を向ける。陽菜は扉を閉めると俺の方へゆっくり歩み寄る。

 

「……なんか用か?」

「うん! ちょっとお願いしたい事があるんだけど……今いい? すぐ終わるから!」

「……構わないけど。で、何なんだ?」

「えっとね……コレ!」

 

 ゴソゴソと右手で部屋着であるショートパンツのポケットを探り、そこから何かを取り出して俺に渡す。

 

「……メジャー? これが何だよ?」

「んっと……友くんは私達のクラスが文化祭で何やるか知ってる?」

「ああ、メイド喫茶だろ?」

「うん! それでね、私もメイドさんとしてお客さんに接客するんだ!」

「まあ……だろうな」

 

 C組には天城……それに他にも川嶋とか、あんまり目立たないが美人が割と多い。というか、ウチの学園は全体的に美人が多い。ただ天城みたいに際立った者が居るからあまり注目されないだけだ。

 そして、陽菜は少なくともC組の中では五本の指には確実に入る美人だろう。そんな彼女にメイド服という最強レベルのコスプレアイテムを装備させずに裏方なんかに回したら、学園中の男子生徒が暴動を起こしそうだ。となれば、彼女をメイドとして接客させるのは最早必然と言えるだろう。

 

「……で、それとこれが何の関係が?」

「実は、そのメイドさんが着るメイド服なんだけど……クラスの人が全員分手作りするんだって!」

「全員分手作り!? そりゃまた凄いな……」

「クラスに裁縫好きな子がいっぱい居たからやろうってなったの!」

「気合い入ってんな…………で? これは何だよ」

「もー、そこまで言ったら察しようよ友くん」

 

 陽菜は腰に両手を当て、少しムスッと頬を膨らませる。

 察しろって……大体頼み事しに来たんなら要件をストレートに伝えろよ。

 

「まあいいけど。それで、さっきそのメイド服作り担当の子からメールが来たの。スリーサイズとか教えてって」

「そりゃ服作るんなら必要だわな。もう返信したのか?」

「ううん、最近計ってなくて分からないから。で、早速計ろうとしたんだけど……一人じゃ上手く計れなくてさ……」

「ふーん…………ん?」

 

 もしかして……いや、今の会話から察するにそれしか考えられない。

 

「まさか……?」

「うん! だから、友くんに手伝ってもらいたいの! 採寸!」

「……やっぱりか」

 

 想像した答えと陽菜の口から出たお願いが見事に一致し、思わず頭を抱えてうなだれる。それに陽菜は不思議そうに首を傾げ、俺の顔を覗き込む。

 

「どうしたの?」

「あのな……なんでそういうのを男の俺に頼むんだよ! 友香か母さんに頼めよ!」

「だって、友香ちゃんは今日愛莉ちゃんの家にお泊まりするし、オバサンも今居ないんだもん」

「帰って来るまで待てよ!」

「でも、出来るだけ早く返信頂戴って言われてるし! その方が早く制作に取り掛かれるからって」

「だからってな……採寸なんて頼みを軽々と異性にするもんじゃないぞ?」

 

 俺の注意に陽菜は再び頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げる。しかし数秒後、俺の言いたい事を理解したのか口を小さく開く。直後、口元をニヤッとつり上げる。

 

「あー、友くんエッチな事考えてたんでしょ?」

「ち……がわないく無いけど……つまり、そういう事だ!」

「顔赤いよ? もしかして照れてる? 友くんったら、そういうとこ可愛いよね!」

「よ、余計なお世話だよ……!」

「大丈夫だよ、友くんはそういう事しないって分かってるもん。友くん真面目で優しいから。というか……私は友くんの事好きだし、友くんにそういう事されても嫌じゃないよ?」

「何言って……はぁ、もういいわ」

 

 これ以上何か言っても、陽菜に笑顔で恥ずかしくなるような言葉を返されるだけだろう。少々照れ臭くはあるが、手伝ってやるしかなさそうだ。

 俺は陽菜から受け取ったメジャーを引っ張り出し、三十センチほど伸ばす。

 

「計ればいいんだろ? それで、何を計るんだ?」

「ありがとう友くん! えっとね、身長と体重は一人でも計れたから、スリーサイズと肩幅ぐらいかな?」

「わ、分かった……スリーサイズか……」

 

 そう口にすると、自然と視線が陽菜の体に移る。今まで何回も見てきたが、陽菜のスタイルはやはりとても豊満で、男心をくすぐる魅力的な体型だ。メジャーなんか使わなくとも、優に女子高生の平均を超える数値を叩き出すのは理解出来る。それを今から自分の手で計ると思うと、否が応でも緊張してしまう。

 が、その緊張を陽菜に悟らせてしまっては、「もー、友くんエッチなんだからー」と再びからかわれるのは目に見える。女子にエッチ扱いされるのは、幼なじみとはいえ流石に男子高校生のメンタルには少し応えるので、何とか煩悩を消し去ろうと数回深呼吸をする。

 一番簡単で単純なリラックス方法により落ち着きを取り戻した事を感じた俺は、このままさっさと済ませてしまおうと椅子から立ち上がる採寸を開始――

 

「あ、ちょっと待って!」

 

 しようとした矢先、陽菜が右手を前に出して制止する。思わぬ制止に気が乱れ、思わず軽く足がもつれてズッコケそうになる。

 折角落ち着いたのに……なんなんだよ全く。

 どうして待ってくれなどと言ったのか理由を問い質そうとした瞬間――

 

「うんっしょ……」

 

 突然陽菜がTシャツの裾を両手で捲り上げ、服を脱ぎ出そうとした。

 

「うぉい!? 何やってんだお前!?」

 

 俺はそれを何とかギリギリ、服が彼女の胸元を通り過ぎ、胸を露出させる寸前に腕を押さえ付け阻止。陽菜は驚いて裾をパッと離して腕を下ろし、捲り上がった服は重力の流れに従いペロンと元の姿に戻る。

 

「何いきなり服脱ごうとしてんのお前! 馬鹿か!」

「だって、採寸なんだから服脱がないと。ちゃんとした目盛りが分からないよ?」

「そんなもんは誤差だ誤差! 気にしなくていいの!」

「そうかな? ……下着は外した方がいいかな?」

「もっと誤差だわ! そんなポイポイ脱ごうとするんじゃありません! お前は羞恥心ってものを学んで来なさい! 分かりましたか!?」

「アハハ! 友くんお母さんみたいだね!」

「笑い事じゃないから……」

 

 全く……こいつ本当に恥ってものを知らないのか? どんな成長をしてきたんだか……いや、むしろ成長してないな。 子供の頃からこんなんだったなこいつ。

 

「はぁ……お前はもっと自分が立派な女子だという事を理解しとけ。いつまでも子供気分だと苦労するぞ?」

「むー、失敬だな! 私だって羞恥心が無い訳じゃないし、しっかり分かってるよ! ただ、友くんを信用してるから、大好きだから、友くんの前ではこうやって自由に振る舞ってるんだよ?」

「……だからって、自由過ぎるぞ。俺に対しても少しは羞恥心を抱け」

「私は別に友くんに裸見られても恥ずかしく無いもん!」

 

 俺が恥ずかしいんだよ……陽菜らしいっちゃ陽菜らしいけど、そんなんじゃこっちの理性が保たなくなるわ。

 

「はぁ……無駄話し過ぎたな。採寸するんだろ? ちゃっちゃと済ませようぜ」

「あ、そうだった! じゃあ、お願いね!」

 

 陽菜はクルリと回って俺に背を向け、両腕を横に広げる。T字状態で無防備な陽菜の背後にしゃがみ、両手を彼女の脇の辺りから前に伸ばし、メジャーを引っ張る。

 うっかり彼女の胸に手が当たらないように、伸ばしたメジャーをふっくらと膨らむ陽菜の胸に当てる。その小さな衝撃からか、彼女の胸が小さく揺れ動く。それを超至近距離で目視してしまい、高校生男子として当然の羞恥心から思わず目を逸らす。そのままメジャーをさらに引っ張り、陽菜の胸囲を確認する。

 

「…………」

 

 そのメジャーの目盛り、つまり陽菜のバストサイズを見た瞬間――俺は思わず言葉を失った。

 俺は正直、女子のスリーサイズとかそういうのには疎い。どれぐらいが平均なのかもあまり分からない。だが、この結果を見て、これだけは分かった。

 デカイ――と。

 

「友くん? どうかしたの?」

「い、いや何でも無い! 次はウエストだよな!?」

「……? うん、お願いね。あ、結果はこの紙に書いといて!」

 

 ペラッと、ポケットから取り出した一枚の紙を渡してくる。受け取ったそれを勉強机の上に置き、先ほど出た結果をサラサラと書き残す。

 書いてみるとより数字のインパクトが強いな。……というか、もしかしたら朝倉先輩はこれより上なのか? ……いや、考えるのは止めよう。今度会った時気まずくなる。

 

 余計な事を考えないように頭をまっさらにして、採寸を再開する。

 バストサイズが驚異的な事から他も凄く、驚愕するに違いないと予想していたが、バストのインパクトが凄過ぎたのか、さほど驚く事は無かった。……十分凄かったのだが。

 

 

「……終わったぞ」

「ふぅ……ジッとしてるのも何だかあれだね……ともかく、ありがとうね友くん!」

「どう致しまして……何だか訳も分からず疲れたよ……」

「やっぱり緊張してたの? ドキドキしてたの?」

 

 ズイッと、陽菜が嬉しそうにニタニタとニヤケながら顔を近付ける。俺はそれに答えるのがなんてなく照れ臭くて、黙って目を逸らした。が、その反応が嬉しかったらしく、陽菜はクスリと笑った。

 

「じゃあ、私はこの結果を伝えないといけないから、部屋に戻るね!」

「おう……あ、ちょっと待った」

「うん? 何?」

「えっと……文化祭の事で話があるんだ。実はさ――」

 

 彼女にも俺との文化祭巡りを賭けた勝負の事を伝えなければいけない事を思い出し、俺は先ほど出雲ちゃんに伝えたのと同じ事を彼女に伝えた。

 俺から全ての説明を受けた陽菜は、「うーん……」と小さく唸りながら腕を組む。

 

「つまり……その勝負で勝った人が、友くんと文化祭を二人で回れるって事?」

「ああ。勝負内容は孝司が決めるみたいだからなんとも言えないが……それでも構わないか?」

「もちろん! 何だか面白そう! でも、私としては友くんもみんなも一緒に回りたかったなー」

「みんな一緒か……それも考えたんだが、今回は学校……しかも文化祭が舞台だ。結構狭いし、人集まる。そんなとこで騒ぎを起こすと迷惑になりそうだからさ。あのメンバーが集まって何も起こらないとは思えないしな」

「うーん……それもそっか。友くんが決めたなら、言う事無いよ。勝負か……楽しみだな!」

 

 楽しみか……本当、陽菜の脳天気さというか……闘争心の無さには助かる。

 

「よーっし、絶対勝つぞー! 私も友くんと一緒に文化祭回りたいもん! 色んなとこ回る!」

「お化け屋敷とか?」

「うっ……! それは……ちょっと遠慮したいかも……」

「冗談だよ。ほら、早く連絡してやれよ」

「あ、そうだね」

 

 結果を書いた紙を陽菜に渡す。受け取った陽菜は再度お礼を言い、部屋を後にする。

 陽菜が居なくなり、一人になった部屋は一瞬で静寂に包まれる。やっと緊張感から完全に解放され、一息付いて席に座る。そのまま頭を空っぽにして天井を仰ぎ見る。

 

「……あ、海子と天城にメールしないと」

 

 帰ってすぐに文化祭の出し物について考えてたからすっかり忘れていた。慌ててベッドに放り捨てたスマホを取り、二人にメールを送る。

 

「これでよし……」

 

 何だか疲れたな……ずっと出し物について考えてたし、ちょっと寝るか。

 俺は頭を休める為にベッドに倒れ込み、目を閉じた。そのまま俺の意識は夢の世界へ――

 

 

「――友くーん! なんかカチューシャみたいのも作るから、頭のサイズも教えてって頼まれちゃった! もう一回計って!」

 

 向かう直前で、陽菜の叫び声と扉が開かれる音で現実へ引き戻された。

 ……ノックしろ。

 

 

 

 

 

 

 




 次回、文化祭準備編クライマックス。A組の出し物、文化祭巡りを賭けた勝負内容の行方は如何に? お楽しみに。





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