モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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デートとデッドは紙一重~ツンデレな委員長編~

 

 

 

 

 

 ――ゴールデンウィーク4日目

 

 とうとう連日デートデイズもラストとなった。そう思うと少し心が休まる。正直この3日間、楽しくはあったが、それをゆうに上回る今後の不安や恐怖で、全然エンジョイした感が無かった。

 でも、そんな地獄の日々も今日で終わりだ。明日は最後のゴールデンウィークで、俺は自由! 今日を無事乗り越え、明日を迎えるんだ!

 

 まあ、ぶっちゃけ言うと今日はそれほど不安も無い。何故なら今日の相手は我がクラスの委員長、雨里海子だ。今のところ狂気性が少ないし、結構安心できている。

 とはいえ、油断は出来ない。雨里も隠れた狂気を持っているかもしれない。最大限地雷を踏まないよう、慎重に行く。

 

 そんなこんなで俺は白場駅(いつもの場所)に辿り着く。もうここに来るのも最後だな……いや今後も来る事あるだろうけど。

 今回も10時と少し早めに来たが、流石に昨日のような事は無いだろう。俺は待ち合わせ場所の時計塔へ向かおうとした――

 

「あっ……!」

 

 その時、不意に後ろから何やら裏返ったソプラノボイスが聞こえてくる。それに気を取られ、振り返る。そこには口を噤み、こちらを見つめる一人の女性が居た。

 

「あ、雨里!?」

 

 何で俺の後ろに!? いや、多分今来たんだろう。というかお前も早いな! 向こうも同じく驚いてるようだ。と、とりあえず挨拶しとくか……

 

「よ、よお……おはよう……」

「あ、ああ……早いん……だな」

「ま、まあな……あははは……」

 

 何これ気まずい。なんか分かんないけど気まずい。でも今回は二人同時刻に来た訳だし、どっちも悪くないよな、うん。よし、気を取り直して――今日こそ平常心を保つぞ!

 

「えっと……いきなりだけど、今日の予定は決まってるのか?」

「え!? あ、ああ……まずは映画を見てだな……」

 

 また映画かよ!? あなた達デートのイメージ偏り過ぎでしょう! まあ俺もデート=映画のイメージ強いけど!

 まあ、文句言っても仕方無いよな……雨里のプランに乗ろう。

 

「それから昼食、後は街をブラブラするぐらい……の予定だ」

 

 うん、まあ大体そんな感じだよね。何か似たような内容が続くけど、デートって大体同じだよな。気にしない気にしない。

 

「それじゃあ、さっさと行くか?」

「あ……ああ、そう……だな……」

 

 何だか間の悪い喋り方だったな。それに何か聞きたそうにしてたが……あ、もしかしてファッションチェックだったりするのか? 何かやけに服装気合い入ってそうだし。なら、何かコメントしてやるか。

 雨里の服装は黒のTシャツにショートパンツに上着を腰に巻いたスタイル。何というか……ボーイッシュな感じだ。雨里にしては何だか意外な服装だな……もっと女の子らしい服とか着そうだけど。

 

「な、何をジロジロ見ている!」

「へ? ああ、ごめんごめん!」

「その……か、勘違いするなよ! 別にこれは……お前がこういう服装が好きだと聞いたからこういう服にした訳じゃ無いぞ!」

 

 何そのツンデレ。ていうか全然ツンデレじゃ無いじゃん。スッゲェ素直に自白してるじゃん。あと俺、女の子らしいフリフリの服とかの方が好きだぞ、どっちかと言うと。多分間違った情報仕入れたなこの子。でも正直に伝えると折角の雨里の頑張りも無駄にするし……適当にはぐらかすか。

 

「そ、そうなのか……でも、雨里はそういう服よりもっと女の子らしい服の方が似合うと思うぞ、うん」

「そ、そうか? なら、今度はそうしよう……」

 

 よし、何とかそれとなく真実は伝えられた。改めて、行動開始だな。気を引き締めろ、世名友希!

 

 ――と、決意を固めている途中、俺はまた突然のボディタッチが襲ってくるのでは無いかと警戒を強める。

 

「……よし、行くぞ」

「へ? お、おう……」

 

 こなかった……自意識過剰過ぎたか? まあ、平常心を保てそうで助かる。

 そう思っていたが、ふと視線を隣を歩く雨里の手元にやる。雨里は右手を何やらピクピクと動かしながら少しこっちに寄せたと思ったら、素早く引っ込め、また寄せ――というのを苦悶の表情で繰り返していた。

 ……これはあれか? 手を繋ぎだいけど出来ない的なあれか? だとしたらスッゲェピュアじゃんこいつ……凄い可愛いじゃん。

 

「…………」

 

 しばらく脳内議論を交わし、俺は意を決して雨里の手を取る。

 

「――!?」

 

 雨里の口から声にならない声が出る。どんだけテンパってんだよ……まあ、他の三人は繋いだし、あくまで平等が俺達四人の関係性だし、一人だけ仲間外れは駄目だろう。これぐらいはしてやらないとな。

 チラリと雨里に視線を送ると、雨里は嬉しいやら恥ずかしいやら、口角を上げ、端から見たら奇妙な顔をしていた。

 何だろう……こっちまで妙な気持ちになる……今日も大変そうだなぁ……

 

 

 

 ◆◆◆

 

 ――数時間後。

 

 俺と雨里はなんとなく気まずくなった空気のままいつもの映画館へやって来た。さて、今日もお姉さんに妙な顔されましょうか……今日辺り殺意とか持たれるんじゃねぇかな……

 雨里と共に受付へ向かう。お、今日はいつものお姉さんじゃ無い! ようやく休みを貰ったのか……彼氏とデートでもしてんのかね。

 

「すみません、このチケットを二枚」

「……ん? これを観るんじゃ無いのか?」

 

 俺は雨里が指差した映画を見て、そう問い掛けた。

 雨里がチケット購入したのは、いつもの『君に届くように愛を叫ぶ』では無く、いつぞや興味を持ったアニメ映画の『ロボットVS異世界怪獣』の方だった。

 

「なんだ? こっちの方が良いのか?」

「いや、女子はこっちの方が人気だって……」

「私はあまり恋愛映画には興味が無いしな。それにお前もアニメの方が好きだろう?」

「あ、知ってるの? でも良いのか?」

「構わない。私もアニメは好きだしな」

 

 え、マジで? 意外だわ……まあ、正直あの映画は飽きてたし、こっちも気になってたから有り難い。

 

 チケットを二枚購入し、いつもの売店で飲み物を買い、席に座り上映を待つ。

 

「しかし雨里がアニメ好きとは意外だったなぁ」

「アニメは日本の誇る文化だ! 派手なアクションに引き込まれるストーリー、まさに娯楽の最高峰だ!」

 

 おおぅ……ここまで熱くなるとは……こりゃ相当好きだなアニメ。

 ワクワクしながら上映を待つ雨里を見て、少し微笑ましい気持ちになりながら、俺も静かに上映を待った。

 で、とうとう上映開始。内容は異世界からの侵略者にロボットで迎え撃つ――というタイトル通りのストーリーだった。アクションは前評判通り凄かったし、話もかなり作り込まれていて、想像以上に楽しめた。

 

 結局、俺と雨里は一回も目を離さずにその映画に没頭した。

 

 

 ◆◆◆

 

 ――数時間後

 

 

「いやぁ、本当にアクション凄かったな! 思わず見入っちゃったよ」

「ああ、あの監督の作品は何回か観たが、今回も満足な出来だった。DVDが出たら即購入せねばな」

 

 映画終了後、近くのレストランで感想を語り合いながら昼食をとっていた。しかしまさか雨里とこうしてアニメの感想を語り合うとは……予想もしてなかったな。

 

「えっと……この後どうするんだっけ?」

「ん? ああ、近くをブラブラするつもりだが……何か要望はあるか?」

「いや、今回はお前に任せるよ」

「そうか……なら、自由に散策といこうか」

「了解」

 

 ささっと昼食を済ませ、店を後にする。さて、ここから後半戦だな。何も問題が無いといいけど……

 

「よし、行こうか」

「ああ――ん?」

 

 雨里が何も言わずに右手を出してくる。えっと……これは何かな? 俺が少し戸惑っていると、雨里も何やら不思議そうな顔をして自分の出した右手を見る。するとどうしたのか、雨里の顔が一気に紅潮し始め、手を素早く引っ込める。

 

「ちち、違うぞ! 勘違いするな! べ、別に手を繋ぎたかったとかそういうのでは……! えーっと、そのぉ……!」

 

 だから何そのツンデレじゃ無いツンデレ! 全て洗いざらい吐いてるじゃん! 本心だだ漏れじゃん!

 雨里の奴……かなりポンコツだな。テンパると相当ポンコツだ。まあ、それがギャップで良いけども!

 

「はぁ……ほら」

 

 ここで無視という訳にもいかないだろうと、左手を出す。それを少し躊躇しながらも雨里はそれを握る。顔真っ赤だよ、羞恥心マックスだよ。やめてこっちまで余計恥ずかしくなるから!

 

 ともかく手を繋ぎ、俺達は街へと繰り出した。雨里がやけにぎこちなくニヤニヤしているが……そっとしておこう……

 

 

 ◆◆◆

 

 駅を離れ、街の散策を開始して一時間ちょい。洋服屋だったり、色々見て回りながら時折雨里と会話を交える。そんな事が続く中、とあるクレープ屋の前で雨里がふと足を止める。

 

「クレープ屋……こんな店あったか?」

「そういえば最近オープンしたって言ってたな……買ってくか?」

「そうだな……少し興味がある。少しはしたないが、買い食いするか」

 

 無言で頷き、クレープ屋前のそれなりの長さがある列に並ぶ。

 数分後、ようやく俺達の番になる。

 

「すみません、チョコバナナと……お前は?」

「苺を一つ頼む」

「じゃあ、それを一つずつで」

「ストロベリーとチョコバナナを一つですね。それにしても、可愛らしい彼女さんですね」

「か、きゃのじょ!?」

 

 店員のお姉さんにいじられ、雨里が盛大に噛む。落ち着け……というかお姉さんも唐突だなおい。

 しばらく待つとお姉さんがクレープを二つ手に持ち、やってくる。

 

「はいお待たせしました。カップルサービスという事で、少しオマケしときましたよー」

 

 気前いいな……まあ、有り難く受け取っておくか。

 料金を払い、クレープ片手に店の近くにある席に座る。

 

「……私達はそんなにカップルに見えるのだろうか?」

「……まあ、周りからはそう見えるのかもな」

 

 まあ実際デートだしな。関係性はもっと複雑だけど。

 

「彼女か……悪くない響きだな……」

 

 ……何かスッゴい可愛い声で可愛らしい事言ってたんだけど。何あの表情、悶え死ねるぞ俺。もの凄い小声で言っていたが、スッゴいハッキリ聞こえた。俺そういうの聞こえちゃうタイプだし。

 

「……何か言ったか?」

「いいや! 別に!」

 

 アワアワ手を振りながら紛らわすようにクレープにかぶりつく。

 そうなるよね……とはいえこれ以外言う事ねーぞ? 掘り返すのもあれだし、無視するのもあれだからこれしか言う事無いって! 今分かった、難聴系の主人公はみんなこういう気持ちだったんだな! そう言うしかないよな! だって答えがそれしか無いもん!

 

 そんな何か少し申し訳無い気持ちになりながらクレープを食べ進める。

 

「ん? おい、クリーム付いてるぞ」

「ほ、本当か?」

「ああ右頬の……ああ、いいや面倒だ」

 

 少し身を乗り出し、雨里の頬に付くクリームを指で取る。

 

「ほい、取れたぞ――」

 

 すると雨里の顔が再び紅潮し、表情がガチガチになる。……やってから気付いたが、こういうの簡単にやっちゃ行けないよな……?

 

「あ……ごめん……」

「い、いや! ありがとう……」

「…………」

「…………」

 

 しばらく沈黙が続く。

 ――気まずい! やっちゃったな俺ー! やったら気まずくなる行為トップ10の行動起こしちゃったよー! 俺本当後先考えねーな! 雨里スッゲェー恥ずかしそうだよ、トマトみたいに真っ赤だよ! プルプル震えてるからポニーテールが忙しなく揺れてるよぉ! スッゲェ可愛いじゃん! 何この生き物!

 

 だ、駄目だ! これ以上気まずい状態が続いたら死ねる! 話題! 何か話題を見つけねば!

 

「えっと……雨里はさ、どうして俺に告白なんてしたんだ?」

「なっ……!?」

「なっ……!?」

 

 何聞いてんの俺ぇ! より一層気まずくなったじゃん! 今一番聞いちゃ駄目なタイミングだよ! イカン、俺も相当テンパってるな……落ち着け、まずは俺が落ち着け……!

 今の質問を取り消そうとしたが――雨里の表情は緊張した趣ながら、どこか覚悟を決めた感じだった。これは……このまま行った方が良いか?

 

「……聞いてもいいよな?」

「…………」

 

 雨里が無言のまま頷く。どうやら、結果オーライらしい……よし、本題に移るか――!

 

「じゃあ聞くけど、なんで俺にぃ、そのぉ……惚れたりしたんだ? 確かに二年連続同じクラスだけど……そんな接点は無いはずだぞ?」

「……やはり、覚えて無いか」

 

 覚えて無い? もしかしていつか雨里と何か関わった事があるのか? でもここ数年の事を忘れるとは思えない……それとも他の三人同様、意外な理由だったりするのか?

 

「……私がお前を好きになったのは……小学三年の頃だ」

「しょ……!?」

 

 小学三年!? え、俺そんな頃から雨里と接点なんかあったか? いや、こんな美人居たら覚えてるはず! でも俺の小学校の知り合いに雨里なんて居ないし……どういうことだ!?

 

「まあ、覚えていないのも仕方無い。私はあの時は雨里海子では無かったしな……」

「……どういうことだ?」

「私の旧姓は蒼井――両親が離婚して、今の母方の性になった」

「そ、そうだったのか……」

「そして私は一度この白場市を離れてな」

「ど、どうして?」

「簡単な事だ。両親が喧嘩して、実家に帰った母について行ったのだ。いわゆる別居生活というやつだ。離婚したのはつい最近だがな」

「へぇ……ても、何でまたこの街に?」

「離婚が正式に決まり、母と再びここに戻って来たんだ。母もこの街は気に入っていたしな。それが四年前――大体中学一年の頃か。今の乱場学園の中等部に転入した」

「そ、そうなのか……」

 

 結構壮絶な人生送ってるんだな……でも、それが俺にどう繋がる? いや、何となく答えは出てる。

 

「それで……私はここを離れる前、お前と同じ小学校の出身だった。そして……お前とも何度か会った事もある」

 

 やっぱりそういう事だよな……思わぬ接点多すぎだろ俺ぇ……でも――

 

「あの、悪いんだけどさ……俺雨里と会った覚えが無いんだけど……小学校の頃でも雨里みたいな美人を忘れるとは思えないんだが……」

「び……!? よ、余計な事は言わなくて良い! ……まあ、正直小学校の頃とは私も大分変わったしな……これを見ろ」

 

 そう少し赤面しながらスマホを渡してくる。そこの画面に映っていたのは、茶髪のおさげと眼鏡が特徴的な女の子。

 

「……それが小学校の頃の私だ」

「嘘ぉ!? 別人じゃん! スッゴい地味じゃん!」

「そ、そういう事を大声で言うな! む、昔は引っ込み思案で目立つのが嫌いでそういう格好を……」

「引っ込み思案って……お前委員長とかクラスのリーダー的な事今やってんじゃん……」

「そ、それはこの街に戻って来て、生まれ変わろうと頑張った結果だ!」

 

 いわゆる中学デビューってやつか? こんなに変わるとはなぁ……ん? というかこの子見たことあるような……

 

「話を戻すぞ……私がお前を……好きになったのはだな……まだこの街を離れる前……お前に救われてな……」

 

 救う? 俺そんなヒーロー的な事したっけ?

 すると雨里が少し苦々しい顔をする。何か辛い思い出でもあるのか?

 

「私はこんな見た目だったからな……よくイジメグループの対象になっていたんだ。毎日地味な事から派手な事まで……色々なイジメを受けた……」

 

 イジメか……確かにウチの小学校そんなのが横行してたな……雨里もターゲットだったんだな……

 

「辛くて辛くて……でも引っ込み思案な性格で、言い返す事も出来ずに怯えていた。そんな時だ――ある一人の男子が、私を助けてくれた」

「え……?」

「その子は『一人をみんなで攻める何て許さない!』などと言ってな。そのイジメっ子達に何の接点も無い私を救う為に立ち向かってくれた。それが嬉しかった――」

 

 雨里がその時の事を思い出したのか、少し涙声になり、瞳が潤み始める。というか、その男子って――

 

「それが、お前だった――世名友希」

 

 やっぱりな……今話しを聞いていて、少し思い出した。

 確かに俺はあの頃イジメっ子グループに何回か刃向かった事があった。理由は単純にそのグループに幼なじみがイジメられてて、俺自身もイジメ自体が嫌で、そういうのに突っかかってただけだけどな……それ関連で確かに何人かに感謝された事はあるな……その中に雨里――もとい蒼井が居たって事か。

 

「それが……理由なのか?」

「あ、ああ……あの時私には味方が居なくて、そんな状況でお前が味方になってくれたのが嬉しかった」

 

 そうだったのか――俺にとってはあくまでイジメっ子に刃向かっただけで、雨里を救ったって理由じゃ無いしな……格好も全然違うし、心当たりが無い訳だ。

 

「でも、その助けてくれた相手が俺だって、良く分かったな?」

「街を離れても――お前の事は忘れなかった。ずっと心の中に留まっていた。だから、この街に戻ってきて、中学でお前を偶然見かけた時、すぐにあの子だと分かった」

 

 ああ、中学からは乱場学園に通い始めたんだっけ……確かに雨里とは何度かすれ違った事はあるな。まさか小学校の同級生だとは思わなかったけど……

 

「でも、クラスも違くて、話す機会も無くてな……結局中学三年間は関わる事が出来なかった。だから、高校で同じクラスになれて、物凄く嬉しかった……だが結局緊張してしまい、思いを伝える事が出来ずに今まで来た……」

「そうだったんだな……なんか悪いな、俺が気付けば良かったんだろうけど……」

「お、お前は悪く無い! 姿が全く違う上、名前も違うしな……」

 

 まあ、正直同一人物だとは思わないよな……下の名前は知らなかったし。

 

「……で、ついに俺に告白した……と?」

「そういう事だ……」

「何ていうか……俺が言うのも何だが、よく告白する気になったな? ろくに話しも出来なかったのに……」

「それは……お前が優香に告白されたという噂を聞いてな。優香は大切な友人だ。でも、そんな優香が……お前に告白したと聞いたら、居ても立ってもいられなくなった……! 私がずっと好きだったのに、それを奪われてしまう……! 私もせめて思いぐらいは伝えたい……そう思ってな」

「……それで手紙を出したって事か」

 

 なるほどな……何か想像してた感じとは違うな……なんか、胸が締め付けられるって感じで……モヤモヤするな。

 

「……最初は思いだけを告げて終わろうとした。友人の好きな相手を知って奪うつもりにはなれなかった。でも……お前を呼び出して、目の前にしたら、隠していた思いが抑えられなくなって……! お前と付き合いたい……! 誰にも……例え親友でも渡したく無い……! そう思ってしまって……」

「……今に至るって訳か」

「ああ、だが後悔はしていない。今はこうしてお前と一緒に居れる事が幸せで、とても充実している。優香には申し訳無いがな……だが、私は退くつもりは無い。私も――お前が好きだからな」

 

 真っ直ぐな瞳で見つめ、迷いも無く口を開く。

 参ったな……他の三人みたいに少し狂気じみていたらオーバーリアクションとかではぐらかせるが、雨里はとことん純粋だ。これは……また違った意味で難しいぞ。どうしたものか――

 

「少ししんみりさせてしまったな。そろそろ帰ろうとするか」

 

 残った僅かなクレープを頬張り、席を立つ。俺もクレープの残りを平らげ、同じく席を立つ。

 

 雨里は俺を小学校の頃から好きだったと……つまり他の三人のように――出雲ちゃんは分からないが、去年好きになった訳じゃ無いという事か。

 そんな思いを裏切って他の誰かと付き合うとか、罪悪感がハンパ無いな……とはいえ、それは他の三人も同じだ。期間はどうあれ、俺の事を好きになってくれたなら、それ相応の責任を持たなければいけない。

 

 今回のデートで全員の事がなんとなく分かった。

 俺がやるべき事――まずは俺自身が誰を好きか決める。そして四人の考えを平和的な方向へ持って行き、全員が納得出来る、幸せな結末へ導く――それが俺の責任と役目だと思う。

 

 はぁ……改めて考えると凄いしんどそうだな……でも目的はなんとなくだが出来た! 後はどう、それを成し遂げるかだな……

 

「……まあ、頑張るか――!」

 

 これからの困難に向け気合いを入れ直す。ここからが本番――だな!

 とりあえず家に帰って疲れを取ろうと考えていると、不意に雨里が歩みを止め、俺の方を振り向く。

 

「……一つお願いがある!」

「なんだ? 急に改まって」

「その、だな…………えで……」

「え?」

「下の……名前で呼んでくれないか!?」

「……えっと……つまり?」

「だから! 私の事を……海子と呼んでほしいんだ! 私も……下で呼ぶ」

 

 何その可愛いお願い! 告白したての男女か! あ、大体そうか。

 雨里はもはやこっちの方が平常なんじゃ無いかと思うほど見た赤面状態でこちらを見つめてくる。そんな目で見られたら断れないだろう!

 

「……それじゃあ――じゃあな、海子」

「ま、またな――友希」

 

 そう消えそうな声で囁くと、雨里――改め海子は全速力でこの場から立ち去る。

 本当……あんな良い子を振ることになるかもしれないと思うと――心が痛む。

 

 まあ、ようやくほんの微かだが、見えてきたゴールに不安と希望を抱きながら、俺は家路を目指し歩き始めた。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 ――雨里家

 

 

 世名――ではなく友希とのデートを終え私はすぐに夕食を平らげ、風呂で疲れを取り、自室のベッドに倒れるように寝転んだ。

 私は……友希とデートをしたんだな……嘘みたいだ。全然話せなかった彼と手を繋いで、映画を見て、ご飯を食べて……

 ――じゃあな、海子。

 一瞬、友希の言葉が頭に浮かび、顔がカァァっと熱くなり、意味も分からず枕に顔を埋め、足をバタバタと暴れさせる。

 

「はぁ……はぁ……夢では無いんだな……」

 

 私は彼とデートした。彼は私を見てくれている――でも、その視線を私だけの物にしたい。わがままなのは分かっている……優香も傷付けてしまうかもしれない……最悪絶交もあるかもしれない。

 でも――私は諦めたく無い。私は誰よりも前から友希を好きでいたんだ……だから、何を失ってもいいから――

 

「私は……あいつの一番大切な存在になりたい。それぐらいのわがままは――許されるよな?」

 

 

 

 

 

 

 

 




 というわけで最後はツンデレ委員長とのデート回です。
 ツンデレとか言ってるけど、全然ツンデレ要素が無いね。まあ、ツンデレ風という事で。
 後半はちょっとシリアスムードだったけど、全体的に甘い感じになった(しかも長い)
 海子は今のところ唯一の良心ですね。狂気感が0。

 無事デート回が終わり、ヒロインの事もなんとなく分かり、目的もなんとなく見つかり、とうとう彼女達との修羅場な日々が始まります! ハッピーエンド目指して頑張ります!






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