モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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文化祭の始まりは準備期間から 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――では、これより緊急会議を始めるぞ」

 

 出雲ちゃんとの誕生日デートから一夜明けた翌日。俺の日常は大きな変化が訪れる事も無く、今日もいつもと変わらず学校での時間を過ごす――はずだったのだが、今日はどうやらいつもとはほんの少しだけ違う一日になりそうだ。

 本来なら、今の時間はハル先生による数学の授業の予定だったのだが、ハル先生は教室の隅っこにある小さなデスクの前に座り、ニコニコと笑いながら教室全体を眺めている。その代わりに、我が2年A組のクラス委員長である海子、そして副委員長の男子生徒が教壇に立っている。

 海子はどこか厳しい剣幕でクラスメイト達を見回し、副委員長はチョークを片手に海子の斜め後ろで待機している。生徒全員がその二人へ視線を集中させる中、海子はバンッ! と両手で力強く教壇前の机を叩き、口を開く。

 

「授業を中止してまで緊急会議を行う理由は、当然皆も理解しているな?」

 

 海子の問い詰めるような迫力のある言葉に、生徒は言葉を失ったように全員視線を四方八方に逸らす。俺も海子の問いの答えを知ってはいるのだが、なんとなく発言する気にはなれず、他と同じように沈黙を貫く。

 これ以上待っても発言は無いと判断したのか、海子は軽く息を吐き、机から手を離して腕を組む。そして斜め後ろの副委員長に目配せを送り、副委員長はそれに従い黒板に何かを書き始める。その間に、海子は再び口を開く。

 

「分かっていると思うが、来週の土曜と日曜は我が乱場学園の文化祭だ。当然各クラスは飲食店だったり劇だったり、なんらかの出し物をする事になる。……だが、私達のクラスは未だに何をするかが一切決まっていない」

 

 ギロリと、海子が生徒を威圧するように睨み付ける。その眼差しの理由を理解している生徒達は皆、再び視線を海子から逸らす。それに一瞬呆れた様子を見せながら、海子は話を続ける。

 

「出し物を決めても、準備期間というものがある。遅くても来週の火曜までに決めなくては間に合わない。そこで――この時間でその出し物を決めるぞ!」

 

 海子が声量を三割ほど上げた声を上げると同時に、副委員長が『文化祭の出し物案』と黒板に書き終えて定位置に戻る。

 

 そう、海子が言った通り学園最大級のイベントと言っても過言では無い文化祭の日が近付いているのだ。そして、ウチのクラスはその出し物が決まっていないのだ。

 

「いいか、そろそろ決めておかないと本格的にマズイ。教師陣からも早くしろと言われている。だからなんとしてでも決めるぞ! 絶対にだ!」

「き、決めるっていってもそんな簡単に決まるもんじゃないだろ」

 

 不意に、教室の一番後ろの席に座る男子生徒がそう口にする。刹那、それを耳にした海子がその生徒を睨み付け、そのまま破壊してしまうのではないかと思うほど強く、机を叩く。

 

「だいたいな……お前らがグダグダしているからこうなったのだろう! 先月からこういった会議をしているにも関わらず、お前らがちっとも案を出さないのがいけないのだろう! あれがいいと言ったり、これがいいと言ったり、あれはヤダと口にしたり……少しは真面目に考えろ!」

 

 海子の若干早口な怒号がクラス中に響き渡る。だ、大分イライラしてるな海子の奴……クラス委員長というまとめ役だし、この状況でイライラするのは仕方無いか。とはいえ、今の怒号でクラス中若干引いてるぞ。

 

 普段俺と接する海子は照れてたり恥ずかしがっていたりするのが大抵だが、普段のクラス委員長としての海子はかなり迫力がある。強気で真面目な性格で、皆を引っ張る良きリーダー的存在。そしてちょっぴり怖い。それがみんなが知ってる雨里海子という人物だ。今更だが、俺と話す時の恥ずかしがり屋な海子とは大違いだ。まあ、今日はちょっといつもより怒り心頭な感じだが。

 

 そんな事を考えながら不機嫌全開の海子を見ていると、後ろからちょんちょんと肩を叩かれる。それに後ろを振り向くと同時に、肩を叩いたであろう男子生徒が俺の耳元へ顔を近付ける。

 

「おい世名、お前雨里の機嫌取れよ。彼氏だろ?」

「えぇ……なんで俺が……ていうか彼氏って訳じゃ……」

「お前の話し以外聞かなそうじゃん。頼むぞ彼氏」

 

 はぁ……やっぱりこういう役回りは俺に回ってくるよね……まあ、このままじゃ事が進まないしやるか。

 

「あのぉ……怒ってても先に進まないし……そのぐらいで収まろうぜ?」

「むっ……まあ、そうだな……」

 

 俺の言葉に海子は落ち着きを取り戻したようで、ゴホンと咳払いをしてみんなをゆっくりと見回す。

 

「取り乱してすまないな。では改めて、何かいい案が無いかみんなで考えるとしよう」

 

 よかった……なんとか機嫌取りは成功したようだ。今後もこういう場面になったら俺が対応するんだろうな……全く、嫌では無いが面倒だな……目立つし。

 

「流石だな世名」

「今度も雨里さんが機嫌損ねた時はよろしくね」

 

 その前に機嫌を損ねるような事はしないでくれ――そんな周りの生徒達へのお願いを心の内で呟き、とりあえず別の事に思考を回す。当然、クラスの出し物についてだ。

 文化祭の出し物といえばいくつか定番なものはあるが、何をするかと決めるのは割と難しい。予算や準備期間も考慮しなくてはいけない。それに同学年なら他のクラスと出し物が被っていてはあまり客も集まらないかもしれない。やるんだったら多くの人に楽しんでほしい。それは海子や他のみんなも同じだろう。

 

「さて、何か案を出す前に……出来れば他のクラスが何をするか知りたいところ……情報を持っている者は居るか?」

 

 海子の問いにみんなは答えを持ち合わせていないのか、口を開かない。代わりに、全員がある一点へ一斉に視線を向ける。窓際の一番後ろの席、裕吾の席に。

 裕吾は情報通として(あとついでにイケメンとしても)割と有名だ。彼なら当然他のクラスの情報ぐらい手に入れてるだろうと、皆考えているのだろう。

 そして皆のその予想は的中したようで、裕吾は背もたれに寄り掛かったダラッとした状態で喋り出す。

 

「……E組が劇。D組が体感型の謎解きゲーム。C組がメイド喫茶。B組はウチと同じようにまだ決まってないようだ」

「なんだ、まだ決まってないクラスあるんじゃん」

「謎解きゲームかぁ……どんな感じなんだろう?」

「というかやっぱりメイド喫茶とかやるとこ出たかぁ……これただの飲食店注目されなさそうだな」

 

 裕吾の報告に生徒達が各々好き勝手に喋り出す。そんな中、ある男子生徒が何か大発見をしてしまったような驚いた顔を浮かべ、急に立ち上がる。

 

「おい待て! ……C組がメイド喫茶って……それってつまり、天城さんがメイド服を着るって事か……?」

「……!?」

 

 その発言に、全男子生徒が目をクワッと見開く。恐らく、全員が天城のメイド服姿を想像したのだろう。……俺も少し想像したし。

 なんとも言い難い沈黙が流れる。そして数秒後――男子生徒が一斉に立ち上がり、高々と両腕を天井に向かって掲げながら雄叫びを上げた。

 

「うおぉぉぉぉぉぉ! 文化祭サイコー!」

「メイド喫茶とか提案した奴は誰だ!? 俺はそいつを神として崇めたい!」

「というかあの転校生の巨乳っ子も着るのか!? 天国かよオイ!」

「こりゃ出し物なんかしてる場合じゃねぇ! 俺は二日間そこに入り浸る!」

 

 男子生徒達の魂の砲哮が教室にこだまし、女子生徒がそれに呆れるように眺める。

 テンション上がり過ぎだろう……気持ちは分からなくも無いが。しかし、メイド喫茶か……天城は乗り気にやるとは思わないが、陽菜は物凄く楽しみそうだな。そういえばここ数日あいつヤケにソワソワしてたけど、そういう事だったのかな?

 男達の雄叫びが響き渡る中でそんな事を考えていると、突然教室にその雄叫びを掻き消すようにドンッ! と大きな衝撃音が響く。その音に全員黙り、音の出所である黒板の方へ目を向ける。そこには黒板に拳を押し当て、恐ろしいほど鋭い眼光で皆を睨む海子の姿。

 

「……出し物」

「は、はい……」

 

 海子のドスの利いた声に流石に全員逆らえず、大人しく席に座る。海子の奴、人を殺しそうな迫力だったぞ……海子を怒らせてはマズイな、うん。

 

 ともかく、その海子の鶴の……いや、鬼の一声で事は収まり、ようやく出し物決めが開始された――のだが、天城のメイド服が楽しみなのか男子生徒は一切集中出来てない様子で、他の者もなかなかいい案が出せずに時間だけが刻々と過ぎていった。案自体はいくつか出たのだが、バンドや劇といった練習時間が多く必要なものばかりで、準備期間が短く時間が無いという理由で全て却下された。

 結局、時間内に出し物が決定する事は無く、全員連休を使い案を考えてくるという宿題が出されて緊急会議は終わったのだった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 放課後――下校の為に裕吾と共に教室を出ると、偶然孝司、翼の二人と出会し、そのまま四人で下駄箱まで向かう事に。その移動中、俺達は文化祭の出し物について話す事に。

 

「そういえば、B組もまだ出し物決まってないんだってな」

「まあな。色々案は出てんだけどなかなか決定しなくてなー」

「どーせお前がくだらない案を出してるんだろ」

「勝手に決めつけんな! 俺は色々面白そうな案出してるわ!」

「孝司君、結構色々案出してたけど、全部女子に却下され続けたからね」

「……やっぱそうじゃねーか」

「うるせぇ! コスプレ喫茶の何が悪いんだ! 可愛い女の子見放題とか全員幸せじゃん!」

「そんな事だろうと思ったよ。というか、それC組のメイド喫茶と被るだろ」

「あー、C組メイド喫茶なんだっけ? よく女性陣が許したよな。ま、そういう企画は大歓迎だけどよ。あとはあれが上手くいけばなー」

「あれ?」

 

 まだ何かくだらない事を考えているのか――そう孝司の事を哀れみの眼差しで見つめていると、下駄箱の方から何やらガヤガヤ声が聞こえてくる。

 

「何だか騒がしいね」

「なんだろうな? 気になるし見てみるか」

 

 階段を下りて一階へ辿り着くと、下駄箱近くの掲示板の周りに人集りが出来ているのが目に入った。どうやら掲示板に張ってある何かに集まっているようだ。一体何が張ってあるのか気になり、人を掻き分け掲示板の前に立つ。

 

「えっと……『多分! 第三回ぐらい! ミス・ランジョーコンテスト』……って、なんだこれ。というか多分って。ぐらいって」

「ざっくりだな。……見た感じ、ミスコンの広告みたいだな」

「ミスコン!? ウチの学校そんなんやってんの? ……というか、去年やってたか?」

「去年はやってねーよ。なんせ、今年俺が企画したんだからな!」

「へー…………へ? これ、お前が企画したのか?」

 

 そう問い掛けると、孝司は誇らしげに胸を張り、思いきりドヤ顔を浮かべる。

 

「まあな。褒め称えてもいいぜ」

「むしろ何やってんだこいつと軽蔑したいよ……つーか、こんな大会みたいなのを生徒が企画出来るもんなのか?」

「そこら辺はよく分からんが、俺がセンセーに是非ミスコンがやりたいです! って、打診したらなんか通ったぜ」

「適当過ぎんだろ……そんなんでいいのか?」

「――いいんじゃないかしら? これも我が学園の文化祭の恒例みたいなものだし」

 

 不意に、聞き覚えのある凛とした声が俺達の耳に届く。直後、周囲の生徒がざわめいて散り散りに動き、掲示板から離れる。その人の波の向こうから、二人の女子生徒がこちらへ近寄ってくる。

 一人は朝倉先輩。もう一人は彼女の部下とも言える夕上。恐らくこの騒ぎを聞き付けて、生徒会としてやって来たのだろう。二人は俺達の前に立つと、周囲の生徒達をグルリと見渡し、代表して夕上が口を開く。

 

「全く……他の生徒の邪魔になるから、用が無い者は早く下校しろ!」

 

 夕上の迫力のある一言に、周囲の生徒が一斉にそそくさと下駄箱に向かい歩き出す。

 流石生徒会副会長。その名に恥じない威厳があるな――そんな事を思っていると、不意に夕上がこちらを睨み付ける。

 

「世名友希、お前もぼーっとしてないで、用が無いなら去れ」

「羽奈、そんなに厳しく言わなくてもいいじゃない。友希君だって迷惑掛けたくて居る訳じゃ無いんだし」

「……はぁ、会長は少しこいつに甘すぎです」

「想い人なんだからちょっとぐらいは甘くしないと」

「……もういいです」

 

 これ以上は話しても無駄だと言わんばかりに、夕上は肩をすくめる。

 流石生徒会長。副会長なんて物とせず自分のやりたいように進むな――そんな事を思いながら、先ほどの先輩の言葉が気に掛かり、問い掛けてみる。

 

「あの……この学園の恒例ってのは?」

「ああ、その事ね。ウチでは文化祭を盛り上げる為、生徒達に文化祭で行うイベントの企画持ち込みを許可してるの。今回もそのミスコンとやら以外にも、お笑いコンテスト、素人バンド大会と、結構持ち込み企画が多いのよ」

「そ、そうなんですか……なんかフリーダムですね」

「ウチの文化祭は案外緩いから。出し物も部活間、クラス間での合同の出し物も許されているし。まあ、イベントは人が集まらなければ中止だけど」

「当初は生徒の自主性を高める為――という目的だったと聞いていたが、最近は好き勝手にやりたい放題だ。中には女子生徒による水泳大会などと、ふざけた企画を出してくる輩も居る始末だ」

「私は結構楽しそうでいいと思うけどね。盛り上がれば何でもいいんじゃない?」

「いいわけ無いでしょう! 実際、このミスコンも如何なものかと思いますが?」

 

 まあ、ミスコンとかいかがわしい雰囲気あるよな。そして恐らくそんな事を考えてそうだしな、こいつの場合。

 チラリと孝司へ視線を向ける。それに釣られてか、他の者も全員視線を孝司へ集中させる。

 

「な、なんだよ! 別に変な事考えてねーぞ! 健全安心な大会を目指してます!」

「どうだかな。お前なら水着審査とかぶち込んできそうだが」

「はっ!? それがあったか……!」

「採用すんなアホ」

「そういえば、参加者は集まってるの?」

「ハッハッハ! ……見事にゼロだ」

 

 翼の問いにガクリと肩を落とす。そりゃこんな大会好き好んで出る奴はあんま居ないよな。

 

「クッソォ……このままでは俺の理想の文化祭が完成しない……夕上! お前出る気無いか!?」

「出る訳無いだろ阿呆が。そのまま中止になってしまえばいいんだ、この色欲の権化が」

「何その酷いあだ名! グゥ……朝倉先輩は出る気無いっすか!? 生徒会長として学園盛り上げましょうよ!」

「悪いけど、私も出る気は無いわ。だって――」

 

 突然朝倉先輩が俺の方に向かって歩き出し、真横に立つ。瞬間、俺の腕をガッシリと抱き締め、身を寄せる。

 

「私の美は友希君だけのものだから。他の人に見せびらかす気はさらさら無いわ。ね?」

「ね? と言われましても……」

「会長……一応他の生徒の目もあるので、そういった事を大っぴらにしないで下さい」

「あら、別にいいじゃない。私達の愛は学園中に知れ渡ってるのだから。ね?」

「いやだから、ね? と言われましても……」

「カァー! 相変わらずの幸せ者ですなコノヤロー! どーせお前はいつもの五人とイチャイチャしながら文化祭見て回るんだろー! いいよ別に! 俺はこの町の歴史とか明らかな手抜きの出し物で一人寂しく石ころとか眺めてるよーだ!」

「何言ってるんだお前……」

 

 孝司の意味不明な悲痛な叫びに呆れていると、不意にそれを傍らから眺めていた裕吾が口を開く。

 

「そういえば……お前どうするんだ、文化祭。多分あいつら、一緒に回りたいとか言い出すだろ?」

「あ、言われてみれば……」

 

 考えてなかったな……確かに文化祭っていうイベントを彼女達が逃す訳が無い。二人きりで見て回りたいと言い出す可能性は十分考えられる。とはいえ、そんな時間がある訳でも無いしな……五人で交代交代ってのは割と骨が折れる。どうしたものか……

 

「それなら、簡単な方法があるじゃない」

「あ、朝倉先輩? 何かいい案でも?」

「私が友希君を独占して文化祭を見て回る――それで万事解決じゃない」

「いや何一つ解決してないんですけど……」

「とはいえ、私は出来れば友希君と二人だけで回りたいわ。他の四人もそうでしょうね」

 

 だよな……やっぱり、多少シンドイけど交代交代で回るか? でも当日は人で混み合うし、出し物によっては時間が取り辛くて予定が合わないかもしれない。二日間で全員均等に……ってのは難しそうだ。

 

「……いっそくじ引きとかなんかの勝負で、誰か一人が一緒に回るって決めたらどうだ?」

「勝負ってなんだよ……まあ、一人だけなら俺も楽だけど……それじゃあ申し訳無いというか……」

「無茶ばっかしても体に毒だぞ? 黒南島の時でも正々堂々と勝負して決めたし、今回も誰か一人に絞ってみろ。いっつもキツキツで全員平等を目指してたらお前保たないぞ?」

「そ、それはそうかもだけど……」

 

 出来ればみんなに楽しんでほしい。けど、確かに裕吾の言う通り無茶をして体を壊してもあれだ。どうするか……

 

「――私は別に構わないわよ」

「えっ……?」

「勝負に勝てば友希君を独占出来るのでしょう? なら、迷う事は無い。私は勝負を選ぶわ。きっと、他の者もそう言うわ」

「先輩……」

「それに、毎回みんな同じような思い出を共有していては差が付かないわ。ここで飛びっきりの素敵な思い出を作らないとね」

 

 そう言って、先輩はクスリと微笑む。

 言われてみると、夏休みはプールに夏祭り、みんな一緒だったしな。それに誕生日のデートも、結局はみんな経験する。特別な事を自分だけ経験したいっていう気持ちはあるのかもしれない。なら、今回の文化祭はそのいい機会かもしれない。

 

「……そうですね。あとで、他のみんなにも連絡してみます」

「ええ、それがいいわ。友希君を独占出来るなら、みんなも断らないでしょうし」

「……ところで、何で勝負するんだ? またビーチバレーか?」

「そうね……私なんでも勝てる自信があるけど……友希君は何かある?」

「勝負ですか……」

 

 そう言われると悩むな……ジャンケン……はあまりにあっさりし過ぎてるかな。そこは平等にみんなが競い合えるものがいいけど……何かあるか?

 

「……あ!」

 

 勝負の内容に必死に頭を悩ませていると、不意に孝司が手を叩きながら声を上げる。

 

「……なんだよ、何かいい案思い付いたのか?」

「ああ、思い付いたぜ……最高の案がな!」

「それって?」

「フッフッフッ……そう慌てんなよ。俺が準備を進めてやる! 楽しみに待っとけよ!」

 

 そう高らかに叫ぶと、孝司は下駄箱に走り出し、そそくさと靴に履き替え校門に向かい走り去る。

 

「いや、教えろよ……」

「まあ楽しみにしておきましょう。それじゃあ、私は生徒会の仕事があるからここで。友希君、文化祭を一緒に回れる事を祈っているわ。羽奈、行きましょう」

「はい。……世名友希。会長を失望させるような事はするなよ? それから……大きな騒ぎは起こすなと、さっき走り去った馬鹿に伝えておいてくれ」

 

 そう言い残し、夕上と朝倉先輩はこの場を立ち去った。掲示板前に残った俺、裕吾、翼はなんとなくその場に留まり、適当に会話を交える。

 

「なんだか色々あったな」

「そうだね……でも孝司君、一体何をするんだろうね?」

「どうせくだらない事考えてるんだろうけど……今は信じて待つしか無いな」

「だな。ついでにウチのクラスの出し物も考えないといけないしな。もし考えてきませんでした、とか言ったら雨里の奴が黒板へし折りそうだ」

「それは流石に無いだろ……ともかく、文化祭ってのは大変だな」

 

 学生生活最大級のイベントだ、一筋縄では行かないかもしれない。いい思い出になるよう、楽しめるように色々頑張らないとな――そう心で呟きながら、俺も裕吾と翼と共に下校するのだった。

 

 

 

 

 

 

 




 いよいよ始まった文化祭――の準備編。
 友希達の出し物、C組のメイド喫茶、孝司企画のミスコン、ヒロインとの文化祭巡りと、色々山積みな感じ。

 果たしてどうなるのか? 次回へ続く。






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