モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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人類皆シスコンである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――待ってましたよ、先輩!」

 

 とある日の放課後――全ての授業が終わり、家に帰ろうと校門を抜けようとしたその時、不意にその行く道を遮るように出雲ちゃんが校門の陰から、俺の目の前に飛び出してきた。その突然の通せんぼに思わず仰け反り、そのまま尻餅をつきそうになったのをなんとか踏ん張り、内心ホッとしながらいきなり現れた彼女に話し掛ける。

 

「な、なんだいきなり? どうして校門の前なんかに隠れてたんだ?」

「そんなの決まってるじゃないですか! 先輩を待ってたんですよ!」

「俺を?」

 

 そうは口に出したが、大体想像は出来ていた。同じ一年である友香や中村達をわざわざ校門で待つ理由も無いし、別学年に俺や天城達以外の知り合いも居ないだろうし、その中でも彼女がわざわざ待つ相手といえば俺ぐらいだろう。

 とはいえ、待つ理由が分からない。ここで渋っても意味が無いので、直球で出雲ちゃんに問い掛ける。

 

「なにか俺に用でもあるのか?」

「はい! 先輩、今から私の家に来ませんか?」

「えっ、またいきなりだな……別に構いやしないけど、どうして?」

「もちろん、来週の事をじっくり話す為ですよ!」

「来週……?」

 

 はてさて一体なんの日だっただろうか――早急に脳内カレンダーを展開して、来週の日にちを確認する。

 

「……あ、もしかして誕生日?」

「はい! 来週の木曜は私の誕生日! つまり、先輩と私のデート日ですよ!」

「そうだったな……でも、その事で話って?」

「そんなの、デートの予定決めに決まってます!」

 

 デートの予定決めか……考えてみると、今までしたデートって全部相手が予定決めてたんだよな……ちゃんと予定を決めるのは案外初めてかもしれない。……遊園地のはさて置き。

 

「私、来週を最高の日にしたいんです! だから、バッチリ決めたいんですよ! 先輩とのデート内容を!」

「そ、そうか……まあ、俺も予定が分からないより把握してた方がいいし……分かった、今日決めるか」

「そう言ってくれると思いました!」

 

 そう満面の笑みを浮かべると、出雲ちゃんは俺の隣へ素早く移動し、俺の腕にすっかり手慣れた動作で自分の腕を絡ませ、全身を俺に預けるように倒し、思いきり抱き付く。

 

「じゃ、早速行きましょう先輩!」

「ちょっ、いきなりくっ付かないで……! というか、このまま直行?」

「はい! 同じ方向なんだからいいじゃないですか! ……それに、前に朝倉先輩の家にも行ったんですよね?」

 

 ギクリ――思わずそう口に出てしまいそうなほど、全身が緊張と微かな恐れから硬直する。今それを拾いますか……

 

「それに、なんだか最近天城先輩と一緒に登校してるらしいじゃないですか。桜井さんは同じ家だから仕方無く許しましたけど、天城先輩は違うんじゃないですか?」

「い、いや……天城はその、近くに引っ越してきたからさ……」

「私だって割と近場ですよ? 先輩と一緒の登校は禁止って決めたのに、話が違うじゃないですか?」

 

 ああ……そんなルール決めたねそういえば。もう最初の頃に決めた事なんてすっかり忘れてたよ……というか、出雲ちゃんそのルールを守ってくれてたのか……ちょっと意外。

 

「私は我慢してるのに、どうなんですか? そこら辺」

「あー、その……ご、ごめん……そこら辺は今度ちゃんと話そう。だから今回は大目に見てくれる?」

「……まあ、いいですよ。他にも色々聞きたい事ありますけど」

「えっ、まだなにか……?」

「……例えば、先輩と天城先輩が放課後に商店街でよく目撃されてる件とか」

 

 出雲ちゃんのその発言が耳へ入り込んだ瞬間、俺の体はさらに硬直した。

 放課後の商店街で天城と――それは間違え無く、太刀凪書店のバイト帰りの光景だろう。行きは大体バラバラだが、帰りは一緒。さらに最近は家の方角も同じになったので共に行動する時間が増えている。目撃されるのも不思議では無い。そもそも、天城みたいな有名人が目立たない訳無いし、そんなのすぐバレる事だ。出雲ちゃんの反応を見る限り、書店のバイトの件は知らなそうだが、いずれはバレるかもしれない。むしろバレて無い事が奇跡だ。

 

「いや、それはその……」

「……ま、その事はまた今度でいいです」

「へ……?」

 

 てっきりとことん追究されると思い込んでいたが、思いの外あっさり諦めた事に、ついヘンテコな声が漏れ出る。

 

「き、聞かないのか?」

「聞きたい気持ちもありますけど、今は先輩とのデートの方が大事ですから! さあ、早く私の家に行きましょう! 時間は少ないんですから!」

「あ、ああ……」

 

 ひとまず……助かったのかな? でも、その内言わなくちゃな、バイトの件に関しては。そこら辺、いつか天城と話すか。

 そんな事を考えながら、俺は腕に絡み付く出雲ちゃんに引っ張られるまま、彼女の家を目指して歩き始めた。

 

 

 彼女のスベスベとした腕の感触、スモールサイズながらキッチリとした弾力がある胸の感触、そして通行人から向けられる殺意に満ちた目――それらに耐えながら、俺の家から十五分程度離れた場所にある、大宮家に辿り着く。

 外見はごく普通の二階建ての一軒家。いつの日か急に雨が降り始めたから、ここに遊びに行った友香を迎えに来た事があったりして何度か立ち寄った事はあるが、ちゃんと中に入るのは初めてかもしれん。

 出雲ちゃんは家の鍵を開ける為に俺から離れ、カバンから鍵を取り出して錠前に差し込む。

 

「……あれ?」

 

 が、出雲ちゃんは鍵を回さず、その状態のまま静止する。

 

「どうしたの?」

「いや、鍵が開いてて……誰だろ?」

「親じゃないの?」

「いや、両親は今仕事中です。どっちも仕事人間で家に帰ってくる事がほとんど無いし、居るとは思えないけど……」

 

 そう呟くと出雲ちゃんは考え込むように口元に手を当てて俯く。俺は彼女の思考を邪魔をしないように後ろで黙って見守る。

 その時ふと、他人よりちょっとばかし聞こえがいい俺の耳に、家の中から響くドタバタと騒がしい足音が流れ込む。

 一瞬、家の中に泥棒が居て、家主が帰ってきたのに気付き逃げ出しているのかと思ったが、足音はどうもこちら側に近付いてきてる。泥棒なら正面から逃げたりしないだろう。

 では一体何者だ――そう不思議に思った瞬間、突然出雲ちゃんが顔を上げ、しまったと言わんばかりに口をあんぐりと開ける。

 

「ど、どした?」

「せ、先輩! やっぱり話は先輩の家にしましょう! 今我が家はちょっと都合が――」

 

 出雲ちゃんがあたふたとしながら俺の手を掴み、その場から走り出そうとした直前――バンッ! と大きな音を響かせながら、大宮家の玄関が突き押されたように開かれる。そして玄関前には、一人の人物が立っていた。

 美しくサラサラと風に靡くセミロングの金髪に、着崩したワイシャツから豊満な谷間が丸見えなジーパンの二十代前半と思われる女性。

 突然大宮家の中から飛び出してきた謎の女性に唖然としていると、不意にその女性が大人びた印象を抱かせる顔に子供のように無邪気な明るい表情を浮かばせ、こちらへ裸足のまま走り出す。そして――

 

「イッズモーン!」

 

 聞き覚えの無い単語を高音ボイスで叫びながら、出雲ちゃんに抱き付いた。

 

「イズモーン……やっと会えたぁー! 久しぶりだねぇ……」

「ちょっ!? 離してよ……! 苦しっ……!」

 

 謎の女性に抱き付かれた出雲ちゃんは、その女性を引き剥がそうとする。が、女性はエアクッション程度のサイズはある胸に出雲ちゃんの顔を抱き寄せたまま、一向に離れる様子を見せない。それに何故か若干涙を浮かべている。

 目の前で起こる謎の光景に、俺の思考は完全に停止し、そのままそこに立ち尽くしてその光景を見る事しか出来なかった。が、だんたんと出雲ちゃんが抵抗を止めるのが見え、危険を感じ取った俺は慌てて謎の女性に声を掛ける。

 

「あ、あの! そのままだと彼女死んじゃいますよ!」

「はっ!? つい久しぶり会えた喜びから……! イズモンしっかり! イズモーン!」

 

 俺の言葉で我に返ったのか、女性は慌てて出雲ちゃんを胸から離し、肩を大きく揺する。海中で揺れる昆布のように前後に激しく動かされる事数秒、パチッと目を見開き出雲ちゃんが意識を取り戻す。

 

「よ、よかった生きてた……!」

「イズモン……ごめんね私のせいで! 苦しかったよね! ごめんね!」

 

 そう悲痛な叫びを上げると、女性は鯖折りの如く再び出雲ちゃんを力強く抱き締める。

 

「グフッ……!」

「ちょぉ!? 何リプレイしてるんですか!」

「はっ!?」

 

 女性は慌てて出雲ちゃんを離し、再度彼女を揺する。しかし、出雲ちゃんは身の危険を感じたのか彼女から素早く遠ざかり、肩で息をしながら彼女を睨み付ける。

 

「はぁ……はぁ……すっかり忘れてた……というか、いきなり出会ってなに殺そうとしてるの!」

「そ、そんなつもり無いのよ!? 私はただイズモンに会えたから、嬉しくってついハッスルしちゃっただけで……」

「だからって永遠の別れを与えるような事しないでよ……」

「ごめんってばぁ……ね、謝るから、もう一回だけギュッと……」

「お断りします!」

 

 目の前で繰り広げられる出雲ちゃんと謎の女性の会話に、俺はポカンと口を開きながら呆然としていた。するとその様子に気付いた出雲ちゃんが深く溜め息を吐き、頭を抱える。

 

「……先輩だけには見られたくなかった……」

「えっと……誰?」

 

 その問い掛けに、出雲ちゃんは長く沈黙する。そして数秒後、覚悟を決めた――というより、言うしかないといった雰囲気を醸し出しながら、口を開いた。

 

「…………姉です」

「え?」

「私の……姉です」

「…………えぇ!?」

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「――改めて、こちらが私の姉です」

 

 怒涛の出来事から数分後――ひとまず話は後回しにして、リビングへ上がった俺、出雲ちゃん、そして謎の金髪女性の三人。俺はリビング中央にあるガラステーブル周りに座り、出雲ちゃんと金髪女性は俺の正面に並んで座る。

 そして今、出雲ちゃんが淹れた麦茶を前に、謎の金髪女性の正体を聞いていた。

 

「ちょっとイズモン、紹介あっさり過ぎない? お姉ちゃん悲しい」

 

 と、女性は唇を尖らせて出雲ちゃんを見つめる。それに出雲ちゃんは冷めた流し目を向けるのみ。そしてそれに女性は肩をすくめて頬を小さく膨らませる。

 

「もうっ、イズモン相変わらず冷たいんだから。えっと、世名友希君……だっけ?」

 

 俺に目を向けた瞬間、出雲ちゃんに向けていた甘々な眼差しから、大人びた顔に見合ったキリッとした目に変わる。その一瞬にして見事な変化に思わず気圧され、言葉が詰まり慌てて頷いて無言の返事を返す。

 

「ご紹介の通り、イズモンの姉の大宮飛鳥(あすか)です。よろしくね」

「あ、はい……あの、さっきから気になってたんですけど……イズモンって?」

「もちろん愛称よ! 出雲だからイズモン! 可愛いでしょ? 私が考えたのよ! ねー、イズモン!」

「くっ付かないで! あとそれ気に入って無いから!」

 

 抱き付こうとする飛鳥さんを、イズモン――もとい出雲ちゃんは右手を突き出し必死に拒む。

 なんというか……変わったお姉さんだな。でも、なんとなく姉妹ってのは分かるな。……主に甘えっぽい声出すとことか、すぐ抱き付くとことか。

 

「というか……出雲ちゃんお姉さん居たの? 聞いた事無いんだけど……」

「当然ですよ。……友香や愛莉達にも言ってませんから」

「そうなの? でもどうして?」

「だって……その……」

 

 歯切れが悪そうに言葉を続けると、チラリと飛鳥さんへ目を向ける。飛鳥さんはそれに不思議そうに首を傾げ、出雲ちゃんはその反応に呆れたように溜め息をつく。

 

「……恥ずかしいじゃないですか、こんな姉」

「えぇ!? イズモン私の事恥ずかしいと思ってたの!? どんなところが?」

「そういうところ! こんな過度なシスコン姉が居るとか知られるのなんか嫌ですよ!」

「過度だなんて……私はただイズモンが大事なだけよ! 当たり前の事!」

「毎朝会う度に抱き付いてきたり、お風呂に急に乱入してきて体中揉みくちゃにする事のどこが当たり前なの!」

「姉としての当然な愛情行動よ!」

「変態としての過剰な異常行動よ!」

 

 ギャーギャーと目の前で巻き起こる姉妹喧嘩に、俺は口を挟む事が出来ずに黙って麦茶を飲む。二人の口論が終わるまでする事が無いので、とりあえず姉妹だという二人を見比べてみる事。

 正直、二人は全く似ていない。髪が金髪なのはともかく、それ以外は全くだ。顔立ちも出雲ちゃんは幼いのに対し、飛鳥さんは大人びてる。性格は……まあ、似ているっちゃ似ているのかもしれない。そして何より一番の違いは――失礼だが胸囲だろう。ざっくり言えば山と平野だ。本当に同じ血筋なのだろうか……もしそうなら、遺伝とは残酷なものだ。

 

「――先輩」

 

 そんな事を考えていると、出雲ちゃんが飛鳥さんとの口論を中断し、こちらをジトッとした目で見つめてくる。

 何故バレた――そんな疑問は後回しにして、話題を逸らす為に適当に言葉を出す。

 

「あっと……お、俺何回かこの家来た時、飛鳥さんの事一回も見た事無いけど……どうして?」

「……当然です。誰にも会わせないように細心の注意を払いましたし。それに、今姉は都心の大学に通っていて、そっちに一人暮らし中ですから」

「あ、そうなんですか?」

「そうなの! 本当はウチから通えるけど、お母さん達が向こうに住んでた方が便利でしょって無理矢理……私はイズモンと一緒に居たいのに!」

「私はせーせーしたけど」

「それは……災難でしたね。じゃあ、今日はなんで?」

「決まってるじゃない! もうすぐイズモンの誕生日! ちゃんと祝う為に帰ってきたのよ! 大学休んで!」

 

 と、飛鳥さんは何故か誇らしげに胸を叩く。

 そんな簡単に休んでいいのかね大学……衝撃行動過ぎるだろ。

 だが、出雲ちゃんは驚いた反応も呆れた反応も見せず、知らんぷりな様子で麦茶を飲む。どうやら初めての行動では無いらしい。

 

「しっかり当日のパーティーの献立も考えて、材料もバッチリ注文しといたから!」

「別にいいよ。どうせお母さんもお父さんも仕事で居ないんだし、パーティーなんて大それた事……」

 

 少し強めな力でコップをテーブルに置くと、出雲ちゃんは少し寂しそうに視線を落とす。

 そういえばさっき仕事人間とか言ってたな……もしかして家族との付き合いが上手く行ってないとかあるのか?

 

「大丈夫よ! 今年はお父さんとお母さんも仕事休むって!」

「え……?」

「去年は仕事で祝ってやれなかったから今年は盛大に祝ってやるって言ってたよ! だから大丈夫!」

「……そう、なんだ……」

 

 飛鳥さんの言葉を聞くと、出雲ちゃんは微かにだが、笑みを浮かべる。

 なんだ、別にそんな事無かったな。ただ単純に時間が取れないってだけか。よかったな、出雲ちゃん。

 

「それに! パーティーが始まる夜まではお姉ちゃんがイズモンとずっと一緒に居てあげるから! 安心してね!」

「あ、それはいらない」

「なんで!? お姉ちゃんショック! イズモンと遊ぶ為に色んな遊び考えたんだよ!?」

「遊びって……子供じゃないんだから……私! 誕生日は先輩とデートするの!」

「……先輩って?」

「目の前に居るでしょ!」

 

 ビシッと出雲ちゃんが俺を指差す。飛鳥さんはその指をゆっくりと視線で追い掛け、俺をジッと見つめる。

 

「……あのぉ、今更なんだけどさ……イズモンと世名君って……どういうご関係で?」

「え? あー、いや……説明しにくいというか――」

「恋人!」

「ヴェ!?」

「ちょっ……!」

「こ、恋、恋人って……本当?」

「あ、いや、その……ちょっと形が違うというか……こ、恋人候補……ですかね?」

「恋人候補……? ……まさか……イズモンをたぶらかす悪い男なの……?」

「ち、違いますよ! 全然健全なお付き合いをしてます! あ、いや、お付き合いっていうのはそういうのでは無く、なんというか……」

 

 初対面の人に説明する時毎度思うが……本当複雑だな俺達の関係!

 

 とりあえず、そこからなんとかして俺と出雲ちゃん、そしてその他多数との関係性を出来るだけ分かりやすく、一から説明する。

 十分ほど掛けてなんとか説明し終えると、飛鳥さんは納得したように腕を組んでコクコク頷く。

 

「なるほど……随分と複雑な関係なんだね」

「その……なんだかすみません、妹さんをこんな状況に巻き込んでて」

「それは別にいいわよ! イズモンが好きになったんなら世名君いい子だもん! それにイズモンが立派に恋愛してるなんて……なんだかお姉ちゃん嬉しいわ!」

「そ、そうですか……」

 

 てっきり「私の可愛いイズモンはあなたなんかに渡さない!」的な事言われるかと思ったが、そんな事無かった。そこら辺は意外と物分かりのいいんだな。

 

「でもイズモン、どうしてお姉ちゃんに教えてくれなかったの? 私の事にも関係するじゃない!」

「わざわざ教える必要無いじゃん」

「あるよ! イズモンの問題はお姉ちゃんの問題!」

「はぁ……ともかく、誕生日は先輩とデートだから、お姉ちゃんは留守番してるか向こうに帰ってどうぞ」

「そんなぁ…………そのデート、私もついてっちゃ駄目?」

「デートなんだから駄目に決まってるでしょ!」

「ショボーン……」

 

 出雲ちゃんに一蹴され、飛鳥さんは口にした言葉通り、しょんぼりとした表情を浮かべながら、人差し指をツンツンさせる。なんというか……正直な人だな、色々。

 

「分かった……恋に頑張るイズモンの為、一緒に居たい気持ちを抑えます」

「分かればいいの」

「でも、そっかぁ……あのイズモンが恋愛かぁ……それも、色んな人と世名君を巡ってか……」

「な、なに?」

「ううん、別に。ただちょっと嬉しいんだ。……色々心配だったから」

 

 飛鳥さんはどこか遠いところを見るように目を細め、うっすらと微笑む。

 

「……先輩! こんな人放っておいて、来週の事話そう! 私先に部屋に行ってるから!」

 

 不意に、出雲ちゃんが立ち上がり、リビングから逃げるように、早足で立ち去る。……一体どうしたんだ?

 

「――世名君」

 

 立ち去った出雲ちゃんの事を気に掛け、彼女が去った扉の先を見つめていると、飛鳥さんが神妙な顔付きでこちらを見つめながら、声を掛けてくる。

 

「な、なにか?」

「……イズモンってちょっとわがままで、甘えっぽくて、時々キツイ事も言ったりするけど、とってもいい子なの! だからさ……あの子をお願いね、世名君」

「飛鳥さん……」

「あ、別にイズモンと絶対付き合えとか言ってる訳じゃ無いのよ? イズモンも無理矢理恋人になられても嬉しくないだろうし! あと! いくら付き合っても、イズモンの一番は私だからね!」

「は、はあ……」

 

 譲らないんなだなそこは……本当、出雲ちゃんの事が好きなんだな。

 

「……それから最後に一つ」

「はい?」

「もしもあなたがイズモン以外の女性と付き合ったとしても、あの子と仲良くしてあげてね?」

「それは……もちろん、そのつもりです! 彼女は俺の妹の大事な友達ですし、俺にとっても大切な友人です。彼女さえよければ、これからもずっと関わりを保ちたいですし……」

「……そっか。ならよかった。――あなたは、イズモンを見放さないでね?」

「え……?」

 

 あなた……()

 その言葉の真意を問い質そうとした瞬間、飛鳥さんは正座の状態からバッと飛び上がるように立ち上がり、体を伸ばす。

 

「んー……! さって! 私はイズモンの為に、今日の晩御飯の準備でもしようかねー。世名君も食べてく?」

「え? いや俺は――」

「とりあえず男子高校生が好きそうな品を作るわねー!」

 

 聞いてないし……まあ、折角だしご馳走になるか。

 そう考える間も、先の飛鳥さんの発言が気に掛かった。ほんの些細な事。単なる言い間違いかもしれない。けれど、それが何故か気に掛かった。

 

「……とりあえず、出雲ちゃんのところへ行くか」

 

 でも、飛鳥さんはそれを深く言わなかった。俺が問い質そうとしたら、逃げるような反応をした。つまり、言いにくい事なんだろう。そんな事を、易々と聞いてはいけないだろう。

 それに、なんとなく思ってもいた。近い内に、聞けるんじゃないだろうかと。もちろん飛鳥さんからでは無く――出雲ちゃん本人から。

 そんな事を思いながら、俺は出雲ちゃんが待つ彼女の部屋へ向かった。それから彼女と来週のデートの予定を考え、案を出し合い、予定を決めた。

 

 

 

 

 

 

 そして月が変わり、10月1日――とうとう約三ヶ月ぶりの誕生日デートが、幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ようやく登場した出雲の家族、シスコンお姉ちゃん。彼女のプロフィールを登場人物一覧表に追加するので、気になる方は是非。(シスコンエピソードもちょっとあるよ)

 そして次回、お久しぶりのデート回。ただの甘いデートだけで無く、出雲の過去が色々と明らかになる予定です。お楽しみに。






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