モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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引っ越し作業は大忙しである

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……? 天城に千鶴さん……?」

 

 

 とある日の放課後のバイト中――次の仕事へ移る為に店内を歩いていると、少し離れたレジの近くで天城と千鶴さんが何か話しているのが目に入り、足を止める。

 千鶴さんが仕事に関して何かを指示しているのかと思ったが、見た感じ天城が千鶴さんに話しているようだった。一体何を話しているのか気になり、悪いと思ったが耳を傾ける。

 が、もう会話は終了したようで、天城がペコリと頭を下げ、千鶴さんも何かを口にしてその場から去る。

 結局何を話していたか分からず、モヤモヤとした気分になりながらも仕事に戻ろうとした時、天城がこちらに気付いたようで歩み寄ってくる。折角だし聞いてみるか。

 

「天城、千鶴さんと何話してたんだ?」

「え? んっと……ちょっと明日から三日か四日ぐらいお休みにしてもらえるように頼んでたの」

「なんだシフトの相談か。でもまたどうして? 家の都合かなんかか?」

「うん……まあ、そんな感じかな」

 

 そう言うと、天城は何かを考えるように顎に手を当てて目を伏せる。数秒後、首を小さく縦に振り、俺の事を真っ直ぐ見つめる。

 

「世名君には言っておかなきゃだよね。実は……引っ越しするんだよね」

「ひ、引っ越し!?」

「あ、引っ越しって言っても白場から離れる訳じゃ無いよ! ちゃんと学区内だし、バイトも止めないし」

「な、なんだそうなのか……てっきりこの町から出てくのかと思ったよ……」

「ご、ごめん……言い方悪かったね」

 

 天城は申し訳無さそうに謝るが、何故か嬉しそうにクスリと笑った。

 

「……どうした?」

「ううん、私が引っ越すって事にそんなに慌ててくれたのがなんか嬉しくて。だって、それって私がこの町から出てくのが嫌だったって事……だよね?」

「え? あっと……いや、何も解決してないのに出て行かれるのはその……ばつが悪いというか……なんというか……」

 

 気恥ずかしさからだんだんと顔が熱くなり、思わず天城から目を逸らす。その反応に天城はまたまた嬉しそうに微笑む。何これ恥ずかしい。

 

「えっと……それより! どうしてこんな時期に引っ越し?」

「その……香澄関連でちょっとね」

「香澄ちゃん関連?」

「うん。実はまた香澄にストーカーが付いたみたいでさ」

「また!? まさか何かあったのか!?」

「ううん、まだ前みたいに何かあった訳じゃ無いんだ。けど、家がバレちゃったみたいでさ。このまま放っておくと何があるか分からないからさ。だから、早めに引っ越そうって事になって」

 

 そんな事が……しかし、まだストーカーが付きまとってるんだな。香澄ちゃんも大変だ。

 

「それで、明日からその引っ越しを始めるから、放課後に色々手伝う為に休みを貰う事にしたの」

「そっか……天城も大変だな」

「まあね……実は、同じ理由で引っ越しするの今回で三回目だったりするんだ」

「マジか!? そりゃまあ……大変だなぁ……」

「うん……前の家、結構気に入ってたんだよね……でもまあ、今回の引っ越しは私としては嬉しいかな……?」

 

 天城は後ろで手を組み、口元を綻ばせながら何故か頬を染める。その反応が一体どういう事なのか理解出来ず、俺は首を傾げる。それを見ると、天城はハッと我に返ったように目を丸くして、顔を背ける。その反応にますます意味が分からなくなるが、あんまり問い詰めるのもあれだと思い、その疑問を心の奥に押し込んだ。

 天城は話す事を全て言い終えたのか、それ以上は何も言わなかった。こちらからも問う事も無いなと、仕事へ戻ろうとした直後、一番大事な事を聞いてない事に気が付き、それを彼女に問い掛けた。

 

「そういえば、引っ越し先はどこになるんだ?」

「え!?」

「……え?」

 

 なんだ今の反応……流石に驚き過ぎだろう。

 

「えっと……聞いちゃマズかった?」

「そ、そんな事無いよ! ただ……」

 

 天城はほんのり赤面しながら目線を横に向けて、両手の指を忙しなく絡ませる。

 だから何故そんな反応になる……家知られるのはそんな恥ずかしい事では無いでしょう。前の家は知ってるんだし。

 しかし、天城が恥ずかしがっている以上聞くのは悪いのかと勝手に察した俺は、今の質問を無かった事にしようかと口を開こうとした。

 ――直前、天城が突然何かを覚悟したように目に力を込めて、スカートのポケットに右手を突っ込み、そこから紙切れを一枚取り出して俺に渡す。

 

「……これって?」

「そ、の……新しい家の住所!」

「そ、そうか……」

 

 相変わらず天城の様子がおかしいのが気になったが、とりあえず受け取った紙に書かれた文字に目を通す。そこには天城の言う通りどこかの住所が書かれていた。俺は早速脳内にざっくりとした地図を思い浮かべて、この場所がどこかを探る。そして、考える事約三十秒――

 

「……あれ? ここって俺の通学路の途中だな。しかも……ウチから結構近い」

「う、うん……そう、みたいだね……」

「へぇ……あそこら辺空き家あったのか。前より学校に近くてよかったじゃん。……ん? という事は……」

 

 チラリと、天城へ目を向ける。彼女は耳まで赤くなり、俯いている。その反応がさっきまで不思議でしょうがなかったが、今ならなんとなく理由が分かる。彼女が照れてる理由は恐らく――

 

「その……だから私達……ご近所さん……って事になるの……かな?」

 

 そういう事だろう。ご近所さんになって、嬉し恥ずかしい……と。

 近所と言っても徒歩五分は掛かる距離だし、そこまで嬉しい事かと思ったが、彼女にとってはとっても喜ばしい事なのだろう。海子や朝倉先輩の家はウチからかなり離れてるし、出雲ちゃんも近場ではあるが、十五分以上離れた場所だ。つまり、天城は俺の家に一番近い場所に住む事になる。居候の陽菜はさて置き、それは彼女にとって結構なメリットになるだろうしな。

 

「……まあ、なんていうか……よろしく……なのか?」

「えっと……そうだね、よろしく! って、別に何も変わったりはしないんだけどね……」

「まあな。でもウチと同じ住宅街か……なあ、もしよかったら引っ越しの手伝いとかしようか?」

「そ、そんな申し訳無いよ!」

「いいって。近所だから行くの楽だし、引っ越しも荷物片したり色々大変だろ?」

「世名君……それじゃあ、ちょっとお願いしちゃおうかな」

「任せとけ。それじゃあ予定を――」

 

 決めよう――そう口にしようとした矢先、背後からおぞましい殺気が襲い掛かったと同時に、見覚えがありまくる茶色い棒が俺の脳天に振り下ろされた。

 

「タァッ!?」

「仲良く話すのはいーが仕事しろダホォ!」

「ち、千鶴さん……説教するのはいいですけど、いきなり木刀で叩くのは止め――」

「あぁん?」

「なんでもないでーす……」

 

 ひとまず天城との会話は切り上げ、これ以上の木刀の洗礼を回避する為、仕事へ戻った。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 二日後――俺は約束通り、天城家の引っ越し作業を手伝う為に放課後、自宅には帰らずに直接彼女の家へ向かう事にした。

 通学路の途中にある彼女の家には迷う事無く到着した。代わり映えの無い、至ってシンプルな二階建ての白を基調とした、綺麗な一軒家。

 その家の前に立って全体をぼーっと見上げていると、 不意に玄関が開き、中から天城が出て来る。

 

「世名君! いらっしゃい。今日はよろしくね」

「おう。にしても、なんか引っ越しって感じしないな」

「もう業者さんに荷物は運んでもらって、後はダンボールから出したりするだけだから。さあ、上がって」

「ああ」

 

 天城に続いて、玄関へと足を踏み入れる。中は新居らしくとても綺麗で、玄関にも靴が全然出ていなくて、真新しさがある。

 

「あれ、香澄ちゃんは?」

「香澄は今お仕事。お父さんも仕事で、お母さんも今さっき買い物に」

「そうなのか……じゃあ、今は天城一人か」

「うん。そう……だ……ね……」

 

 不意に、廊下を歩いていた天城が足を止める。しばらくそのまま静止しているかと思ったら、突然顔がまるで逆上せたように赤くなる。

 急にそのような反応を見せた天城に一瞬動揺したが、先程のやり取りを思い出して全て理解する。今、この家には家族が居らず、ここには現在俺と天城の二人しか居ない。つまり――二人きりという事だ。その状況に、恥ずかしがり屋の天城がテンパらない訳が無い。

 

「あっ……えっと……そのっ……」

「お、落ち着け! 気持ちは分かるが、とりあえず落ち着け! 別に、やましい事とかしないから。バイトの時みたいに、普通にしよう」

「う、うん……」

 

 とはいえ、二人きりは緊張するな……新居っていう俺だけでなく天城にとってもまだ馴染んでない場所なのがさらに拍車を掛けてるな。

 とりあえず空気を変える為、適当に話を振る。

 

「えっと……俺は何を手伝えばいいかな?」

「そ、そうだな……とりあえず、今日は荷解(にほど)きをするつもりだから、それを手伝ってくれると嬉しいな」

「分かった。最初は?」

「お母さんに頼まれてるから、最初はキッチン周りかな。それからリビングとか色々。あとは……私の部屋も手伝ってくれると嬉しいな」

「別に構わないが……い、いいのか?」

「何が?」

「いやその……天城の部屋って事は……私物の荷解きだろ? だから……俺が見たり触れたりしていいのかなーって思って……」

 

 その言葉に、天城は不思議そうに首を傾げる。しかし数秒後、意味を理解したのか、顔を真っ赤にして目を伏せる。その状態のまま、天城は小さく口を開く。

 

「……世名君のエッチ」

「い、いや! だって女性の私物だからその……そういうのもあると思っちゃうだろ!」

「そうだけどさ……そもそもそういうのは世名君には任せないよ。……恥ずかしいし」

「そ、そうだよな。悪い、変な事言って」

「う、ううん! 私こそ、変な反応してごめん。そういう事考えてなかったから……そうだよね、世名君だって男の子だし、そういうのに興味あるよね……」

「いや興味がある訳じゃ……」

 

 余計な事言ってしまったな……とりあえず、そういうのに触れないよう注意して手伝うか。

 

 それからリビングに向かい、軽くお茶を頂いてから作業を開始した。

 最初はキッチンで食器や調理器具を、天城の指示で並べていった。数はそれなりにあったが、これといったトラブルも無く作業は進んだ。

 その後はリビングでも荷解きを済ませ、俺達は二階の天城の部屋へ向かった。

 

「どうぞ。ダンボールいっぱいでちょっと狭いけど……」

「し、失礼しまーす……」

 

 天城に続いて部屋へ足を踏み入れる。広さは俺の部屋とほぼ変わらず、室内には勉強机とベッドと本棚、そして詰まれるダンボール。

 

「け、結構あるな」

「昨日全然手付けてなくてさ。洋服とか、本とか色々……特に本は書店で働くようになってから凄い増えちゃって……」

「ああ、分かる分かる。本棚でかいし、結構あるのか?」

「うん。だから世名君には悪いけど、本の整理任せていいかな? 私は洋服を整理したいから」

「了解。バイトに比べたら楽勝だよ」

「そっか。それじゃあお願いね」

 

 そう言いながら天城はクスリと笑いを漏らす。その言葉に頷き、早速作業を開始しようとしたが、目線を泳がせて、髪を人差し指でくるくるといじくる天城の姿が目に入り、思わず足が止まる。

 

「どうした?」

「え!? あ、その、なんというか……昨日来たばっかだけどさ……自分の部屋に世名君を上げるのはやっぱり恥ずかしいなって……い、今は二人っきりだから、尚更」

「あっ……」

 

 そういえば……今思うと、天城の部屋へ上がるのは初めてだな。ダンボールだらけで生活感は一切無いが、ここが天城の部屋である事は間違いない。今までもそうだったか、女子の部屋だと考えると、緊張するな。

 

「ご、ごめんまた変な事言って! あ、あそこに本が入ってるダンボールまとめてあるから、適当に並べてといて!」

 

 ビシッと本棚の前に詰まれるダンボールを指差し、天城は気恥ずかしさを紛らわす為か、そそくさとダンボールを一つ開き、作業を開始する。

 俺もこれ以上発言してはより一層気まずくなりそうだと察し、天城が指差したダンボールの一つを開いた。

 中には文庫本が大量に敷き詰めれていた。恐らく軽く五十冊はありそうだ。そんなダンボールの中身を目にした瞬間、普通ならやる気が無くなりそうな気もするが、いつもバイトで本を嫌というほど見てる俺にとってはまだ少ない方だ。こんなんでやる気を無くしていては仕事は勤まらん。

 とりあえず、本をダンボールから十冊程度取り出し、目の前の本棚に並べていく。仕事の癖か、無駄に綺麗に並べたり、抜けた巻数が無いか確認したり、カバーの状態が崩れてたら正したりして、何だか必要以上に時間が掛かっている気がするが、とりあえず順調に荷解きを続ける。

 

 その作業の最中、ふと天城の様子が気になり、後ろで作業をする天城へ目を向ける。

 天城はダンボールから洋服を取り出し、それを黙々とクローゼットへと閉まっていく。作業に集中してるし、どうやら落ち着きを取り戻したようだ。

 俺のせいで集中出来ないかと思ったが、いらぬ心配だったようだな――そう安堵しながら、俺も早く作業を進めようと、新たなダンボールを開く。

 

「……ん?」

 

 しかし、そのダンボールに入っているのは本ではなく、布のような物が沢山丸められた状態で敷き詰めれていた。あまり見覚えが無いそれが何なのか分からず、とりあえず確認する為に一つ手に取ってみる。

 片手にすっぽり収まる程度の大きさで、ピンク色の布の両端を人差し指と親指で摘まみ、顔から三十センチほど離した場所まで上げる。すると丸まった布は重力の流れに従い、元の形に戻る。

 薄くて、可愛らしいレースのデザインで、三角形の男の俺が見慣れない一枚の布――女性用のパンツに。

 

「…………」

 

 とりあえず、まずは何故こんなものが本をまとめたダンボールの山にあるのか考える。まあ、天城が間違えたと考えるのが妥当だろう。

 次に、これを見てしまった俺はどうすればいいか考える。

 そっとポケットにいれる? 絶対に無い。そんな事したら変態と犯罪者の称号を同時に手に入れる事になる。窃盗、ダメ、ゼッタイ。

 ならば天城に「間違って下着混じってたぞー」と伝える? ノー、そんな事したら照れ屋な天城は恥ずかしさのあまり卒倒するだろう。

 ならば答えは一つ――そっとしておこう。

 自問自答を繰り返し、出した答えに従い、俺は天城の下着を見なかった事にして、ダンボールの中に戻そうとした。

 

 その時――突然その下着に向かいどこかから手が伸び、俺の手から下着を奪い取った。

 まるでひったくりの如き早技に驚愕しながらも、その手が伸びた方へ目を向ける。すると視界に、こちらをうるうると潤ませた瞳で見つめ、口元を歪ませ、両手を後ろに回してへたり込む天城の姿が映った。

 

「……えっと……か、可愛い下着ですねー……」

「…………世名君のエッチ」

「ご、ごめん! まさか下着があるなんて思いもしなかったから……いやそうじゃないか……そもそも俺がダンボール開けた時点で気付けばよかったんだし……そのぉ……本当にごめん!」

「わ、私も間違って置いてたのが悪いんだし……気にしなくていいよ」

「そ、そうか……」

「ううっ……どうしてちゃんと確認しなかったんだろう……」

 

 天城は俺の真横にあった他の下着が入っているダンボールに奪い取った下着を戻し、俺から遠ざけるようにそのダンボールを動かす。

 移動し終えると、天城は俺の目の前に正座をする。

 

「……さ、さっき見たの、忘れてね?」

「も、もちろん!」

 

 とはいえ、女子の下着なんてインパクト強いし、忘れられそうに無いけど。

 

 

「――駄目だよお姉ちゃん。そこは『今度は、私が履いてるの見てほしいな……』ぐらい言わないと」

 

 不意に、部屋の入口の方から天城の声真似をした元気のある声が聞こえ、俺と天城は慌てて扉へ目を向ける。

 

「か、香澄ちゃん!? いつの間に……」

「こんにちは、お兄さん。全くお姉ちゃんは……折角いいチャンスなんだから、お色気の一つはしないと! ほら、スカートチラッと捲って! 男はチラリズムに萌えるんだから!」

「な、何言ってるの! そんな事しません! それにあんな恥ずかしい思い、もう御免だよ……」

「え……? お姉ちゃん、パンチラ経験あり?」

「い、いいから! 帰ってきたんなら、自分の部屋の片付けしなさい! まだ手付けて無いでしょ!?」

「はいはーい。それじゃあお兄さん、またあとで。あ、よかったらお姉ちゃんのパンチラの件――」

「いいから!」

 

 天城が香澄ちゃんの言葉を掻き消すほど大きな叫び声を上げる。香澄ちゃんはいたずらな笑みを浮かべ、この場を立ち去る。

 

「全く……ごめんね、香澄が変な事言って」

「いや、俺は別に……」

「何か聞かれても答えないでね? というか……あの時の事、忘れてくれたよね?」

 

 あの時――間違えなく、今し方話題に出た誕生日デートの時に起きたパンチラの事だろう。……天城には悪いが、今でも記憶に残ってる。女子高生の純白パンツが男子高校生の脳裏にへばり付くのは、ある意味致し方無い。

 が、その事実を告げても良い事は無いので、黙って頷く。天城は疑いの眼差しで見つめてくるが、何も言わずに目を閉じ、息を吐いた。

 

「……作業に戻ろっか」

「そ、そうだな。早く終われば香澄ちゃんの方も手伝えるし」

 

 と、残りのダンボールへ手を伸ばしたその時――天城がそのダンボールを奪い取る。

 

「て、天城?」

「か、確認するから……ちょっと待ってて……!」

「……了解」

 

 

 

 それから天城のチェックが終わってから作業を再開し、十分ほど時間を掛けて本の整頓を済ませ、同じく作業を終えた天城と共に香澄ちゃんの片付けを手伝いに隣の彼女の部屋へ向かった。

 手伝ってる最中香澄ちゃんに、「お姉ちゃんと何かあったんですか?」と何回か聞かれたが、天城の気持ちを思い黙秘を続けた。

 

 そして二十分ほどで香澄ちゃんの荷解きも完了。役目も終え、時刻も六時前といい時間だったので、俺は自宅へ帰る事にした。

 

 

「世名君、今日はありがとうね。お陰で助かったよ」

「どういたしまして。またなんかあったら手伝うよ。なんなら友香の奴を家から引っ張り出して、扱き使っていいから」

「そ、それはちょっと……」

「遠慮しなくていいよ。あいつは少し運動せんと」

「ま、まあ考えとくよ」

 

 天城は苦笑いを浮かべ、直後嬉しそうにほくそ笑みむ。

 

「どうしたのお姉ちゃん?」

「いや、そうやって気軽に世名君の家に行けるのが、何だか嬉しくてさ」

「……ま、前は遠かったしね。なんなら、お姉ちゃん通い妻みたいに晩ご飯作りに行けば?」

「通っ……!? な、なに言ってるの!」

「冗談冗談。でもお兄さん、もしよかったら今度ご飯食べに来て下さいよ。本当はお母さんさえ帰ってきてたら、今日一緒に食べたかったですけど。全く、相変わらず買い物長いんだから」

「そうだな……機会があればな」

 

 出雲ちゃんや、他の三人がどう言うか分からんが。

 

「さて……じゃあ、俺はこれで。また明日な」

「うん、またね。……あの、世名君!」

「ん?」

「その……私時々晩ご飯のおかず作ったりするからさ……余ったら、お裾分けするね!」

「……そっか、楽しみにしてるよ」

「……うん!」

 

 満面の笑みを浮かべた天城に俺、そして何故か香澄ちゃんも静かに微笑んだ。

 

 いつか来るであろうお裾分けを期待しながら、俺は天城家を後にした。

 

 

 

 




 バイト仲間に続き、ご近所さんのアドバンテージを手に入れた天城さん。まあ、居候がいるからそれほど有利ではないが。
 それより姉にお色気行為を進める現役アイドルの妹は問題無いのか……別にいいか。





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