――ゴールデンウィーク3日目
連休も終盤に突入したが、俺の連日デートは終わらない。
今日の相手は朝倉雪美先輩。現在、俺の中で危険度がかなり高い人物だ。天城や出雲ちゃんも、もちろん怖い。だがこの人は別だ。何故ならこの人は俺と付き合えなかったら俺と心中するつもりらしい。いや本気か分からないけど、絶対危険な面があるのは確かだ。
今日のデートで朝倉先輩の事を理解出来れば、考えを変える手掛かりが見つかるかもしれない――前の二人は全然見つからなかったが……今日は何か糸口を掴む!
そんなミッションを胸に、俺は待ち合わせ場所である白場駅前に向かった。しかし待ち合わせは駅前というルールがあるのだろうか?
そんなこんなで午前10時に駅前に到着。いつも通り時計塔の前へ向かう。今回も待たせてはいけないと早めに来たが……少し早過ぎたかな? などと思っていたが――
「あら、早かったわね」
すでに朝倉先輩は時計塔前に居ました。
早ぁ!? まだ約束の一時間前ですよ!? いくら何でも早過ぎるでしょう! 俺もだけど!
「は、早いですね……」
「先に待っていた方が良いと思って9時から待っていたわ」
「9時!? いくら何でも早過ぎるでしょう!」
「そうかしら? ごめんなさいね、私世間知らずだから」
そういう次元じゃ無いでしょ! まあ、どうあれ待たせてしまったのは悪いな……いやでも予想出来ないって約束の二時間前に来るなんて!
「でも、こうして友希君と早く出会えたし、悪い事でも無いけど。それじゃあ、そろそろ行きましょうか?」
「は、はい」
何かサラッとしてるなぁ……ん? 何か物足りない感じがするな……あ、ファッションチェックが無いのか。まあ、別に必須事項でも無いけどさ。
とはいえ前の二人はちゃんとコメントしたし、今回も何か一言言った方が良いかと思い、俺は朝倉先輩の服装チェックをそれとなく開始した。
朝倉先輩は白のワンピースに何かお嬢様とかが被ってそうな帽子と、超清楚感が溢れるファッション。本当にお嬢様みたいだな……というか改めて美人だなこの人……本当に日本人か? スタイルも申し分ないし……というか胸デカッ!
「どうかしたかしら?」
「え!? いや何でも……綺麗な服だなー、と思って……」
「そう? ありがとう。まあ、安物何だけどね」
安物……? 古着屋とかで売ってるのか? 俺そんな服や帽子見たこと無いけど。この人……実は凄い家柄だったりするのか?
イカン、あまり余計な事は考えるな……今はこのデートに集中だ! 平常心を保て! 朝倉先輩の事をより深く理解し、糸口を――
と、もはや恒例となった決意を固める自己暗示をしていると、朝倉先輩が俺の手をギュッと握ってくる。
「今日は楽しみましょう?」
……何故女性は他人の心を乱すような行為をするの!? スッゲェ手ぇ柔らかいんだけど! そして何かちょっと手付きがイヤらしい! 優しく触らないで! もういいです! 今日も平常心を放り捨て行ってきます!
「……で、まずはどこへ?」
「そうね……上映時間までまだ時間があるし……少しブラブラしましょうか?」
今上映時間って言ったな……嫌な予感しかしない……
そんなうっすらと想像が出来た先の事に不安を感じながら、俺と朝倉先輩は駅ビルへと向かった。
◆◆◆
駅ビルを適当に散策し、時間を潰した俺達は、本来の目的地へやって来た。そう、あの駅ナカの映画館に。
「あの映画が今人気だと聞いて、デートにピッタリだと思ってね」
朝倉先輩が指差したのは案の定昨日と同じ映画……またハットトリックかよ! 何なの!? デート=この映画っていう決まりがあるのか!? 流石にマンネリ過ぎる! もう夢に出て来るレベルだよ! 内容熟知してるよ!
「こういう映画は嫌いかしら?」
「い、いえそんな事は……」
とはいえ先輩が決めたものを否定する事も出来ないよな……仕方無くチケットを買いに受付へ向かう。
うっわぁ……そして受付またあのお姉さんじゃん……ゴールデンウィークに三連勤とかどんだけだよ……彼氏とデートでも行きなさいよ! そして案の定俺に気付いてるよぉ……ガン見してるよぉ……もう何か顔に嫌悪感すら感じるよぉ……俺悪くないよ!
「受付の人、何だか怖い顔してたわね?」
「か、風邪じゃないですかねぇ?」
「あらあら……大変ね」
そのまま売店へ直行して適当に飲み物を買い、席で上映を待つ。
もはや日課みたいになってるぞ……大丈夫? 『映画館にやってくる浮気高校生!』的な事呟かれたりしてないよね?
そんな俺の社会的な地位を心配していると、朝倉先輩が顔を近付け、耳打ちをしてくる。
「友希君、映画を観る際の作法とか……あるかしら?」
「作法……ですか?」
「恥ずかしい事に、私映画観るの初めてで……」
マジですか!? そんな高校生居るんだな……世間知らずとか自称かと思ってたが、もしかしてガチな世間知らずなのかこの人?
「と、とりあえず大声は出さない、急に立ち上がらないとかですかね」
「なるほど……ありがとうね」
うっすらと微笑み背もたれに寄りかかる事無く、ピンと背筋を伸ばしてスクリーンへ顔を向ける。表情は相変わらず変わらないけど、何となくワクワクしているようにも見える気がする……他の二人もそうだったが、意外な可愛らしさとかもあるんだな……
そんな事を考えている内に上映が始まる。流石に三回目となると飽きてくるな……一瞬寝てしまおうかと考えたその時、朝倉先輩が急に膝の上に置いていた俺の手を握ってくる。
一体どうしたのかと朝倉先輩の様子を伺うが、先輩は真剣な眼差しでスクリーンを真っ直ぐ見つめていた。まるでアニメを真剣に観る子供のように。
本当に初めてっぽいな……なら、最後まで付き合うか。その方が先輩も良いだろう。
俺は眠気を消し去り、真剣に映画を最後まで見続けた。まあ、終始先輩の柔らかい手の感触で全然集中出来なかったのだが――それは別の話だ。
◆◆◆
――数時間後
上映終了後――適当な料理店で食事を済ませた後、先輩が「是非行きたいところがある」と言うので、そこを目指して駅を離れ街を歩いていた。
「どこに行くんですか?」
「着いてからのお楽しみよ」
何かどっかで聞いたなそれ……女性はそのパターンが好きなのか?
しばらく歩き続けると、朝倉先輩が不意に足を止める。
「ここよ」
「ここは……ゲームセンター?」
「一度来てみたかったのよ。付き合ってくれるかしら?」
「それは……構いませんけど……」
これまた意外だな……こんな庶民のたまり場的な場所にそんな事とは縁遠い先輩が来たがるとは……いや、だからなのか?
そんな事を考えながら先輩に手を引っ張られてゲーセンへと足を踏み入れる。自動ドアが開くと同時に中から聞き慣れたゲームセンター特有のやかましい音が流れてくる。
「予想以上にうるさいのね……みんなよく鼓膜が破けないわね」
ゲームセンターの第一印象がそれとは……先輩っぽいといえば先輩っぽいが。まあ、俺朝倉先輩の事そんな詳しくしらないんだよな。正直見た感じの偏見だし……後で色々聞いてみるか。
「ねぇ友希君、あれは何かしら?」
「へ? ああ、あれはクレーンゲームですね。あのアームを使って景品を取るゲームです」
「あれが……面白そうね」
そう小さく呟きながら朝倉先輩が台へ向かい早足で歩き出す。俺も慌ててその後を追いかける。が、先輩は台の前で立ち止まったまま動こうとしない。やるんじゃ無いのか?
「……これ一万円札は使えないのかしら?」
「使えません。両替しましょう」
それすら分からないのか……というか一万円持ち歩いてんのかこの人……もしかしてリアルなお嬢様だったりする?
で、朝倉先輩と共に両替を済まし、再びクレーン台の前に。百円玉を入れ、簡単な操作方法を教え、プレイを開始する。
「…………」
プレイを始めるや否や無言になり完全な集中状態になる。目線の先は少し大きめなクマのぬいぐるみ。あれが欲しいのか? 何か意外。
とはいえ素人が簡単に取れる訳も無く――
「あっ」
アームは人形を掴む事無く空を掠める。
「……案外難しいわね」
「まあ、最初はそんなんですよ」
「そう……」
朝倉先輩が少し不機嫌そうな顔になる。何かこの数時間で微かな表情の変化が分かるようになったな……仕方無い、ここは男として一肌脱ぐか!
先輩に変わり、今度は俺がクレーンの前に立つ。こういうのは得意な方だ。一発軽くゲットしてやるぜ!
軽く手をマッサージして、いざ百円玉を導入してプレイを開始。完璧なタイミングでアームを止める事に成功する。
――行ける! そう確信した通り、アームはクマのぬいぐるみをガッシリと掴み取り――数秒後落下した。
「…………ふっ……」
――恥ずかしいぃぃぃぃぃ! スッゲェ意気込んでやったのにスッゲェ地味にミスった! 何が完璧だよ! 自画自賛にも程があるわ! 絶対取るオーラ出してた分より恥ずかしい! もう帰りたい!
「そんな凹まないで。友希君じゃ無くあれぐらいで落とすアームが悪いのよ」
朝倉先輩、優しさだろうけど今はフォロー止めて! 傷口を抉るだけです!
そんなブロークンハートな状態から何とか立ち直り、なんか悔しいので再トライ。
その後も結局失敗を繰り返し、十回目にしてようやくクマのぬいぐるみをゲットした。
て、手こずらせやがって……まさかここでこんなに出費するとは……俺今月金欠不可避だな……
「はい、朝倉先輩……これ」
「あら? くれるのかしら?」
「いや、だって朝倉先輩が欲しがってたから……」
「それほど欲しい訳でもなかったのだけれどね……」
そうなの!? ならもっと早く言って下さいよ!
「でも……友希君が必死に取ってくれた物だし、有り難く受け取らせてもらうわ。ありがとう」
「うっ……!」
不意の笑顔に思わず言葉を詰まらせる。今のスッゲェ可愛かったんですけど。両腕でぬいぐるみを抱えるポーズでより一層可愛さが増してるんですけど。そんな笑顔向けられたら文句言えないっすよ! 美人ってズルい!
「それじゃあ――」
不意に朝倉先輩が百円玉を台に入れる。何を――すると朝倉先輩はまるで熟練の達人とも言える手付きでアームを動かし、いとも簡単にぬいぐるみを取ってしまう。
「なっ……!?」
「これ、お返し」
その取った人形を俺に渡す。……えぇ!? 何今の!? サラッと取ったぞ! 何あれぇ!?
「あ、朝倉先輩今の……!」
「あれ? 一回やって慣れたし、ずっと友希君の見てたから」
クレーンゲームってそんな簡単なものじゃ無いだろう! ミスしまくった俺の立場! まあ……どうでもいいや。朝倉先輩が満足そうだから何も言うまい。
「さて、そろそろ出ましょうか」
「え、もう良いんですか?」
「ええ。十分に楽しめたし、私はこういうガヤガヤする場所は合わないわ」
「そ、そうですか……なら出ますか」
ご満悦な朝倉先輩とゲームセンターを後にし、少し休憩をしようと昨日出雲ちゃんと弁当を食べた白場駅前公園に向かい、適当なベンチに座った。
「結構歩いたわね……でも、こういう風に街を練り歩く事はあまり無いから、とても楽しめたわ。ありがとうね、友希君」
「まあ……楽しんでもらえたなら何よりです……」
いつの間にか日も沈んでるな……そろそろ解散だろうし……聞いておくか?
俺が聞きたい事――それは昨日出雲ちゃんにした質問と同じく、何故俺を好きになったのかという事だ。
出雲ちゃんは中学からの知り合いだし、天城は同じクラスだったし、接点はある。だが朝倉先輩とは本当に接点が無い。そんな俺に惚れる理由が分からない。
それを知らなきゃ、どうする事も出来ない。俺は意を決し、朝倉先輩へ問い掛けた。
「先輩は……どうして俺に告白なんてしたんですか? 正直一度も話した事は無いし……理由が知りたいです」
出来る限り真剣に聞いたつもりだ。朝倉先輩も少し真剣そうな顔付きになり、しばらく黙る。
「……そうね、簡単に言えば一目惚れね」
「ひ、一目惚れ!? 一体何で!?」
正直俺はそんなイケメンでは無いぞ。まあ、整っている方ではあると思うが、そんな一目惚れされるタイプでは無い。なのにどうして?
「そうね……少し長くなるけど、聞いてくれるかしら?」
真っ直ぐな瞳を向けられ、俺はそれに頷いて答える。朝倉先輩は「ありがとう」と小さく囁き、空を見上げた。
「……これは一応学校側に隠してもらっているんだけど……友希君には言わなきゃ駄目よね」
そ、そんな重大な事なのか……?
「――朝倉グループって知ってるわよね?」
「あ、あの大企業の?」
「ええ。私はそこの総帥の娘なのよ」
「へぇ……へぇ!? 娘!?」
あの大企業の!? 娘!? 嘘だろ!? ということは……朝倉先輩、マジでお嬢様かよ!?
「な、何で……えっと……そのぉ……」
駄目だ、意外すぎる真実に思考がパニクってる。聞きたい事があり過ぎて纏まらない! 落ち着け、クールにクールに……よし、落ち着いた。
「な、何でそんな事を隠してるんですか?」
「だって、あの朝倉グループの娘と分かったら学校に居辛いでしょ? 学校側にも公表しないように頼んでるし、朝倉って苗字も珍しく無いし」
「た、確かにそうでしょうけど……何でウチみたいな平凡な学校に?」
「それはその平凡な学校で平凡な生活をしたかったからよ。お嬢様学校なんかで窮屈に暮らすよりマシだわ。今も実家を離れて普通の家に暮らしているもの。まあ、使用人付きだけど」
使用人付きって! というか朝倉先輩そんな理由で学校決めて良いのか? ……とりあえず、朝倉先輩は凄い人だって事は分かった。でも、それが俺に惚れる理由と何が関係ある?
急かしたい気持ちを何とか抑え、朝倉先輩の話を聞き続ける。
「まあ、私の上に兄が居て、兄がグループを継ぐ事になっているから、割と自由にやらせてもらってるわ。家族も協力的で、不自由も無かった。けど、一つだけ……不満があった」
「不満……?」
「……私は昔から色々英才教育だったり色々受けていたせいか、割と簡単に何でも出来てしまうのよね」
何だその超人的な悩み……まあ、確かにさっきもクレーンゲーム一瞬で物にしてたもんな……でもそれが一体何なんだ?
「贅沢かもしれないけど、私はその自分の才能が嫌だった。何をやってもすぐ出来てしまって、達成感も何も無かった。望みもすぐ叶う。だから、一度人生というものに飽きていたの。何も面白く無いなって……」
な、なんか凄い重そうな話になったぞ……そこからどう俺に繋がるんだ?
「そんな人生に飽き飽きしていた時――友希君に出会ったわ」
急に出て来た!? ていうか、俺先輩と会った事なんてあったか? 全く覚えが無いんだが……
「あれは……去年の話よ。私は図書室が好きでね。いつも通り放課後に一人本を読みに行ったわ。ちょうどテスト期間で、誰も居ないはずの図書室で……私はあなたと出会った」
テスト期間……? 放課後の図書室……あ! そういえばあったなそんな事……! 確かその日は家に客が来てて、知り合いの家も駄目だったから、一人図書室でテスト勉強してた! その時やけに綺麗な女の人が確か居た! あれは先輩だったのか……
でも、その女性とは一言も喋ってないはずだけど……それに目も合って無いはず。一体いつどのタイミングで?
「最初は何とも感じて無かったわ。それどころかちょくちょく問題に頭を悩ませていて、あんな問題も出来ないのかってイライラしたわ」
うっ……しょうがないでしょう、俺頭良く無いし、あの時は本当に切羽詰まってたし……赤点阻止するのに。
「でも……そんな考えは一瞬で吹き飛んだわ。あなたの姿を……笑顔を見て」
「笑顔……?」
「ええ。私にとっては取るに足らない事にあなたは直向きに、一生懸命取り組んでいた。その姿に、少し気を引かれてね。本を読まずにずっとあなたを少し遠くから見ていたわ。そして問題を解き終えた時――あなたはとても嬉しそうに、満足そうな顔をしていたわ」
え、俺そんな顔してたの? まあ、確かに全然分からない問題がいくつかあって、解けた時は「やっと終わった!」って感じでテンションは上がってたな。
「そんな笑顔を見て、何であの人はあんなに嬉しそう何だろう――って思ったわ。それは私には無い、達成感という感情だから。そして――私はいつの間にかあなたから目が離せなくなった」
ということは俺ずっと見られてたのか……ん? 待てよ、今までの話を纏めると……まさか――
「あのぉ……もしかして先輩が惚れた理由って……?」
「ええ――あなたのその笑顔に一目惚れしたのよ」
う……嘘ぉぉぉぉぉ!?
「そ、そんな理由ですか!?」
「そんなとは酷いわね。私は真剣にあなたに恋したのよ。女性の恋は意外とアッサリしたものよ?」
アッサリし過ぎでは!? マジか……接点が無いと思っていたらそんなところで繋がっていたのか……そりゃ理由気付きませんよね! 俺にしたら接点無いもん! 一方的な出会いだもん!
「それから色々あなたの事を調べたりしたけど、告白するのは少し躊躇してしまってね。でも、天城さんが告白したと聞いて、思い切って告白した――という訳よ」
「すみません……今思考が停止しているので少し時間を下さい……」
つまり簡単に話を纏めると……一人図書室で勉強に励む俺を見て一目惚れしました――って事か。……何それ!? 想像と全然違う! そんな理由で惚れちゃうもんなの!? チョロすぎるんじゃ無いですかね!?
というかそれ以前にお嬢様である先輩が俺みたいな庶民に惚れるとか良いのか!?
「ああ、一応言っておくけど別に朝倉グループの娘というのは重く考えなくていいわ。跡取りとかそんなのも無いし、私はいつでも嫁に行けるわよ」
思考読まれた!? じゃ無くて! 今はそういう事じゃ無くて!
と、とにかく惚れた理由は分かったし、良しとしよう……予想外過ぎる答えだったがな。落ち着いて、対処しよう……
「あの、話は変わりますけど、ラブレター出した時に他の手紙はありましたか?」
「ええ、二つあったわ。捨てようと思ったけど、誰かが来たから急いで生徒会室に戻ったから処理出来なかったけど。まさかこんな事になるなんてね……」
「そ、そうですか……じゃあ、もう一つ。もし俺が他の女性と付き合ったら――」
「友希君。――そんな事は有り得ないわ」
「……へ?」
「だって私は友希君が好き。なら、友希君も私を好きになるわ」
な、何を言っているんだこの人?
「だって私は友希君が欲しい。なら、友希君は私の物になるに決まってるじゃない」
あまりにわがまま過ぎる発言に思わず言葉を失う。でも、朝倉先輩は本気だ。
そうか……朝倉先輩は今まで何でも簡単にこなせるて言っていた。望みもすぐ叶うと。それが彼女にとっての当たり前なのだろう。
だから、俺が恋人になるのも当たり前だと思っている! 自分が欲しいと望んでいる、自分が好きになって欲しいと望んでいるから、当然俺が自分の物になる――そう考えているのか!?
「あ、朝倉先輩――」
「安心して。今は少し動揺してるだけ。友希君もすぐに私への愛情に気付くわ。だから、一緒に頑張りましょう? あの三人を黙らせる為に」
駄目だ、この人完全にそう思いきっている。それが彼女にとっての当たり前なのだ。きっとあの時の心中も、他の三人を――俺を惑わせる存在への威嚇のつもりだろう。俺の目を自分だけに向かせる為に!
――ははっ……こりゃ骨が折れるな……
人一人の考え方を根本から変えるんだ。何でもかんでも上手くいかない――それを教えなければ、彼女は俺を諦める事は無いだろう。
「さて、名残惜しいけど帰りましょうか」
「はい……そうですね」
さて……この人をどうにかするのはどうすればいいのやら――俺が今週何度目か分からない不安を募らせていると、不意に朝倉先輩が俺に顔を近付けてくる。
何か用か――そう思った瞬間、頬に何か柔らかい物が当たる感触が走る。
「…………へ?」
何今の……一瞬頭が真っ白になる。が、顔を近付けて柔らかい感触といえば――もうあれしか無いだろう。
それを察した俺は一気に顔が熱くなり、高揚する。
「あ、あんた何してるんですかぁ!? そ、そういうのはアウトでしょ! 一応俺達友達って事な訳で――」
「あら、口じゃなければ良いのでは? 海外では挨拶だと聞いたけど」
「ここは日本! ジャパン! 少しは常識を考えろ!」
「あらそう。ごめんなさい――私、世間知らずだから」
そう唇に指先を当て、うっすらと笑う。こ、この人は……!
「楽しかったわ。それじゃあね」
唖然とする俺を気にせず、手をヒラヒラと振り、朝倉先輩はその場を立ち去った。銀色の髪を靡かせ立ち去る彼女を、俺はただ呆然と見つめた。
「……どうなるんだよ、これぇ……」
俺は、本当に彼女を――彼女達の考えを変えられるのか?
◆◆◆
――朝倉家
「お帰りなさいませ、お嬢様」
友希君とのデートから帰宅すると、メイド服を着た使用人がいつも通り玄関先で出迎えてくれ、私は彼女に鞄を預ける。
「どうでございましたか、本日の世名様とのデートは」
「そうね……初めてしたけれど、良いものね。是非またしてみたいものね」
正直ただ出かけるだけでこれだけ楽しいとは思わなかった。友希君とも長い間居られたし、幸せなものね。そういえば、デート中は殆ど手を繋いだままだったわね……ふふっ、またデートに誘ってみましょうかね。まあ、周りの三人は邪魔だけども。
それにしても疲れたわね……長時間歩く事はあまりないし、幸せと疲れは別ね……
「お風呂の準備、出来てる?」
「既に」
「ありがとう」
今日の疲れを取るべく、浴室へと向かう。
脱衣所で服を脱ぐ途中、ふと唇に触れる。
「友希君の頬……意外と柔らかかったわね……きっと唇はもっと柔らかいでしょうね……」
でも、その為には友希君と恋人にならなければ……本当、周りの三人がとことん邪魔ね。まあ、彼女達を何とかして、友希君の目を覚まさせてあげないと――
「この高揚感、初めての感覚ね……一体いつ彼を手に入れられるのか楽しみね……」
まさかの全話中最長に……そんなこんなで3回目は生徒会長さん。
今回の話書いて思ったがクーデレは扱い辛い……まあ、徐々に掴んでこう。
次回はとうとうデート回ラストデイズです。今回甘さ成分が控えめだった分、次回は甘さ倍増の予定。