モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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変動の秋
二学期の始まりは騒がしいものである


 

 

 

 

 

 

 

 

 8月31日――夏休みも終わり、今日からいよいよ二学期の始まりだ。

 夏休み中も割と世話になった目覚まし時計を使い、一分のズレも無く予定の時間に起き、タンスから約一ヶ月ぶりに制服を取り出し、袖を通す。それから身支度を済ませ、顔を洗ってからリビングへと向かう。

 リビングに入ると、一足先に朝食を食べていた友香と目が合い、彼女は食パンをくわえながら喋り出す。

 

「おはよー」

「おはよう。食べるか喋るかどっちかにしなさい」

「はーい」

 

 友香は適当に返事をしながらパンを噛みちぎり、ゴクリと飲み込む。

 

「……そういえば陽菜は?」

「先にご飯食べ終えて部屋に戻ったよ」

 

 そうなのか……珍しいな、あいつが早起きなのは。まあ、学校楽しみにしてたしな。

 とりあえず俺もテーブルに出ていたパンを口にして、久しぶりの学校に備えて気力をつける。

 しばらく朝食を食べ進めていると、不意にリビングの扉が開き、そこから陽菜がやって来る。

 

「あ、おはよう友くん!」

「おう、おはよう。随分早いな」

「今日から学校だもん! 寝坊なんて洒落にならないからね! ……ところで友くん」

 

 陽菜は突然その場でクルリと一回転して、こちらを何かを求めるような目で見つめる。

 

「……何?」

「制服! 似合ってる?」

「え? まあ……いいんじゃないか」

「むー、なんか反応薄いなぁ……私の制服姿見るの初めてなのに!」

「そうは言われても、ウチの制服は見慣れてるから……」

 

 乱場学園の制服は基本は白のワイシャツに黒のスカートと、変わったところの無い超シンプルな制服だ。中にはアレンジしてる奴もいるが、陽菜は友香と同じように何もいじってない。

 それにこの夏に水着に浴衣にと、色んなのを見てきた。だから正直これといった新鮮味が無い。

 が、陽菜は何か変わったリアクションが欲しかったのか、プクッと頬を膨らませていじけたようにそっぽを向く。

 

「友くん、そういうところはよくないよ! 女の子はこういうのは誉めてほしいんだから!」

「わ、悪かったよ。別に似合ってないとは言ってないだろ? 普通に可愛いって」

「まあ、それならいいけど。……あ! そろそろ行かないと!」

「もうか? 早くないか?」

「なんか色々あるみたいだから、早く行かないといけないの! それじゃあ友くん、友香ちゃん、また後でね!」

「気を付けろよー」

「はーい!」

 

 陽菜はそのままリビングを飛び出す。その後、玄関から慌ただしく扉が開け閉めされる音が耳に流れ込む。

 

「……大丈夫かあいつ」

「……お兄ちゃん、陽菜さんのお父さんみたいだね」

「お父さんって……そう見えるか?」

「うん。世話焼きな感じ」

 

 まあ、あいつは色々不安だからなぁ……目を離したらどうなるか分かったもんじゃ無いし。学校で変に目立ちすぎたり、問題起こしたりしなきゃいいけど。

 

 とりあえず俺もさっさと朝食を食べ終え、最後に準備を全て済ませてから、友香と共に久しぶりに乱場学園へと向かった。

 

 

 

 夏休み前と変わらない通学路を歩み、いつもと同じ時間を掛けて学校へ到着。懐かしさを感じながら下駄箱で上履きに履き替え、友香と別れて自分の教室へ向かう。

 久しぶりのクラスになんとなく緊張しながらも扉を開き中に入る。それから案外はっきりとしている記憶を頼りに自分の席へと向かい、椅子に腰を下ろす。

 久しぶりの教室は相変わらずガヤガヤとうるさく、とても楽しく盛り上がっていて――男子生徒の殺気が溢れる視線が痛い。

 

「……はぁ」

 

 本当に久しぶりだなぁ、この感覚。心無しか夏休み前より殺気が強まってる気がする。夏の甘い思い出が無かったのかな? だからって俺に恨みを向けるのはどうかと思うよ! 確かに色々満喫したけどね!

 その視線に少し憂鬱な気分になっていると、遅れて登校してきた裕吾が教室に入ってきて、こちらへと近付いてくる。

 

「よぉ、おはよう」

「おはよう。……相変わらず人気者だな」

「これを人気者と言えるお前の考えは凄いな」

「まあ頑張れ。……そういえば、あいつのクラスどこになるんだ?」

「あいつ? ……ああ、陽菜か。そういえば聞いてなかったな……」

 

 うっかりしてたな……確かにあいつどこのクラスになるんだ? ……もしもウチのクラスになったら色々面倒そうだな。とりあえず、周りの男子の殺気が三割は増える気がする。

 

「……お前なら知ってんじゃないの?」

「俺がなんでも知ってるとは思うな。ただ、可能性から言えば――」

「恐らくウチのクラスか、C組になるだろうな」

 

 不意に、裕吾の言葉を遮り、海子が自分の席からこちらへと近寄ってくる。とりあえず適当に挨拶を交わし、先の言葉の真意を問い掛ける。

 

「どうして分かるんだ?」

「二年のクラスでA組とC組だけ人数が一人少ない。転入生が入るならどちらかだろう」

「ああ、そういえばそうだっけ。って、C組といえば……」

「天城のクラスだな」

 

 天城と同じクラスか……それはそれで面倒な事になりそうな予感……まあ、いくら考えても仕方無いか。どうせもう決まってるんだろうし。

 それから三人で適当に話していると、予鈴のチャイムが鳴る。それに海子と裕吾はそれぞれの席に戻る。その数分後、教室の扉が開いて、 廊下から黒のロングスカートに、薄手の黄緑色の上着を羽織った女性が入ってくる。

 ウチのクラスの担任である、(かのう)春菜(はるな)先生だ。愛称はハル先生、おっとりとした目付きや、少し小柄な体型、ゆるふわ系な栗色の長髪から醸し出されるほんわかとした優しい雰囲気が生徒達に人気の教師だ。

 

「はい、皆さんお久しぶりです。夏休みは楽しめましたかー?」

 

 教壇に立つと、ハル先生はポンッと手を叩いて、いつも通りのおっとりとした口調で話し出す。

 

「今日からいよいよ二学期の始まりです。色々なイベントがありますが、勉学にも気を抜かずに、色んな事に全力で頑張りましょう。それでは早速、朝のHR(ホームルーム)を始めます」

 

 と、ハル先生は教壇の上に置いた資料に目を落とす。

 あっさりHRに入ったって事は転校生とかは居ないって事だよな。つまり……陽菜はC組に入ったのか。

 とりあえずこの教室がすぐさま男達の殺気に満たされる事が無くなった事に安堵する。ただ、やっぱり色々心配だ。天城と同じクラスだし、あいつが変な事言って、俺に良からぬ噂が流れないか心配だ……

 陽菜が変な事を口走らないように祈る間もHRは続く。

 

「今回のHRは以上です。……あ、一つ忘れてました」

 

 と、ハル先生はいきなり教壇の下に手を伸ばし、箱のような物を取り出す。

 

「いきなりですが、今から席替えをしたいと思いまーす」

「せ、席替え?」

「どうしてまたそんな事……」

「折角新学期が始まるんだから心機一転という事で。では出席番号順に前に出てくじを引いてくださーい」

 

 いきなりの提案にみんな戸惑いながらも、全員くじを引きに移動を開始する。

 ハル先生は自由人というか……まあ、悪い事では無いかもしれないな。

 それから生徒が順番にくじを引いていき、自分の番が回ってくる。箱の中に手を突っ込み、適当にくじを引く。番号は15番。

 ハル先生が黒板に書いた図によると、丁度真ん中辺りの席だ。とりあえずさっさとその席に移動して、腰を下ろす。

 

「んなっ……!?」

 

 その時ふと、左隣の席から裏返った変な声が耳に流れ込む。その声に首を回す。その視線の先には――口をあんぐりと開け、目を丸くする海子が座っていた。

 

「……もしかして、お隣さん?」

「…………」

 

 海子は俺の問いにしばらく返事をせずに固まる。そして数秒後、ようやく落ち着きを取り戻したのか、コクリと頷く。

 ま、まさか海子が隣になるとは……まあ隣と言っても席がくっ付いてる訳では無いのだが……少し気まずいというか……緊張するな。そしてまた男共の殺気が強まった気がする。

 

「ま、まあ……よろしくな」

「よ、よ……よろしく、な……」

 

 

 それから席替えが終了するまで海子は顔を背けて無言を貫き、俺はその気まずさと周りの視線に耐え続けた。

 

「はい、これで席替えは終了ですね。この席でこの二学期、頑張っていきましょう。それでは、最初の授業を始めますね」

「あの、ハル先生! 次、始業式です……」

「……あ、そうでしたね。では皆さん、体育館へ移動しましょうか」

 

 あっけらかんとしたハル先生に皆呆れながら、体育館へと移動を開始した。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 始業式終了後、早速教室にて授業が開始された。ウチの学園は初日から普通に授業をして、普通に午後に帰る。二時間目辺りは夏休みボケで少し苦労したが、それ以降は以前の感覚を取り戻せた。

 そして午前中最後の四時間目の授業。内容はハル先生が担当する数学だ。そろそろ空腹も襲い掛かり、体力もかなり減ってきた。早く終わらないかなと思いながら、シャーペンを指先でクルクル回しながら授業を聞き続ける。

 

「ふわぁ……」

「……おい友希、授業中にあくびははしたないぞ」

「ふぁ? ああ、悪い」

 

 なんか授業中に説教受けるとか新鮮だな……しかし、海子は真剣に授業受けてるなぁ。今まで席も離れてたし気付かなかったが、本当に優等生って感じだよな。こういうところは俺も見習わないとなぁ。

 俺も少しは真剣に授業を聞こうと、シャーペンをしっかりと持ち、黒板を真っ直ぐ見つめる。

 その際、膝が机の足にぶつかり、机が揺れる。その振動で机の上の消しゴムが床に落ちる。

 

「あっ、はぁ……」

 

 それを取ろうと腰を折り曲げ、消しゴムに手を伸ばして掴もうとした瞬間――不意に反対側から伸びた手と俺の手が触れ合う。

 

「え?」

「なんっ……!?」

 

 それと同時に聞こえた声に、顔を上げる。そこには、驚いた表情でこちらを見つめる海子のほんのり赤く染まった顔があった。

 

「えっと……どうして?」

「あ、いや、拾ってやろうと思っただけで……」

「そ、そうか……」

 

 思わぬハプニングにどうしたらいいか分からず、ついそのままの状態で静止してしまう。海子も同じようで、微動だにせずこちらを見つめ続ける。

 

「雨里さーん、世名くーん、授業中に見つめ合うのは止めましょうねー」

 

 が、ハル先生の言葉にハッと我に返り、海子とほぼ同じタイミングで起き上がる。

 海子は急に恥ずかしさが増したのか、耳がみるみると赤くなり、それを紛らわすようにノートを食い入るように見つめる。

 俺もこれ以上は何も言わない方がいいと判断し、同じようにノートをジッと見つめて気を紛らわす。

 周りから「キャー、ラブラブー」とか、「リア充爆せろ」とかいう呟きが耳に流れ込んできたが、あまり気にせずに聞き流した。

 

 結局、それから四時間目は生徒の視線、その他諸々を感じながら受ける事となった。

 そしてようやく授業が終了して昼休みに入ると同時に、海子はその場から逃げ去るように走り出し、廊下へと飛び出した。

 相当しんどかったんだな。まあ、あんだけ注目されちゃたまんないよな。今はそっとしといてやろう。

 

「災難だったな」

 

 海子が走り去った廊下をぼーっと眺めていると、窓際の席を獲得した裕吾がこちらへやって来る。

 

「まあ、しばらくしたら俺も海子も慣れるだろ」

「そのしばらくがどれぐらいかが問題だがな。ところで、お前今日は弁当か?」

「いや、今日は売店の予定。そういや……陽菜の奴も売店か?」

「ついでに様子見てくればどうだ?」

「……そうだな」

 

 あいつの事だしクラスには間違えなく馴染めてるだろう。けど、天城の事もあるし一応様子は確認してた方がよさそうだな。あと……俺の事を言いふらしたりしてないか心配だし。

 早速俺は裕吾と別れ、二つ隣のC組へと向かう。教室の前に辿り着いた俺は、なんとなく気付かれないように後ろの扉から教室を覗き込む。

 転校生の噂が出回ってるのか、同じように教室を覗く生徒が何人も居た。これなら大して目立つ事無さそうなので、ゆっくりと陽菜を探す。

 

「陽菜は……居た!」

 

 窓際の席に陽菜の姿を確認し、そこに目を凝らす。彼女の席の周囲には多くの生徒が集まっている。どうやら転入生が必ず受けると言っても過言では無い、質問責めを受けているようだ。

 

「ねえねえ桜井さん、前はどこに住んでたの?」

「前は京都に住んでたよ! でもその前は白場に住んでて、またここに戻ってきたの!」

「そうなんだ……今はどこに住んでるの?」

「今は幼なじみの家に居候中なんだ!」

「へー、大変だねー」

「そんな事無いよ! 優しい人達だから!」

 

 やっぱりあいつのコミュ力みたいなのは凄いな……これならあっという間にクラスの人気者になりそうだな。 

 彼女と生徒達のやり取りに耳を傾けながら、今度は天城の姿を探してみる。だが、教室内に姿が見当たらない。

 

「あれれ? どうしたの世名君」

 

 しばらく天城の姿を探していると、不意に背後から声を掛けられる。それに驚きながら振り返ると、天城と海子の友人である川嶋由利がこちらを不思議そうな目で見つめていた。ああ、確かこいつもC組だっけ。

 

「もしかして……ひっちゃんの様子見に来たの?」

 

 ひっちゃん……ああ、陽菜の事か。あだ名付けんの早いな。

 

「ま、まあそんなところかな……なあ、天城は今どこに?」

「ゆっちゃんならお昼買いに売店に行ったよ」

「そ、そうか……なあ、陽菜と天城なんかあったりしたか?」

「ゆっちゃんとひっちゃんが? ううーん……」

 

 川嶋は腕を組んで、首を捻る。

 

「……別に、何も無かったよ。ひっちゃんは仲良さげに話し掛けてたし。ただ、ゆっちゃんはあんまり良い気持ちーって感じでは無かったかな。でも、嫌だって感じでも無かったかなぁ?」

「そうか……ありがとな」

 

 とりあえず、いざこざみたいな問題は無いならいいか。

 ひとまず騒ぎが起こる心配も無さそうだと安心し、そのまま売店へ向かおうとしたその時――

 

「ねぇ、桜井さんって、恋人とか居るの?」

 

 その女生徒の質問が耳へ流れ込み、俺は慌てて教室内に視線を戻す。

 

「恋人? 恋人はいないよ。ただ、好きな人ならいるよ!」

「本当に!?」

「もしかして、例の幼なじみさん?」

「エヘヘ……うん!」

「キャー! 何それロマンチックー!」

「どんな人なの? やっぱりこの学園の人?」

「そうだよ! とってもカッコよくて、私の大好きな人だよ!」

「素敵ー!」

 

 ――イカン! このままでは……何かがイカン! 早く逃げなくては……とんでもない事になるぞ、世名友希!

 そう、この四ヶ月間で研ぎ澄まされてきた第六感が危険信号を伝える。俺はそれに従い、急いでその場を離れようと教室から目を逸らし、約五十メートル先に見える階段を視界に捉える。そしてそこへ迅速に移動するべく、足にありったけの力を集中させる。

 そしてそのまま地を蹴り出し、生存への道を駆け抜けようと、俺は全ての力を解放した。

 

「――あ、友くん!」

 

 が、唐突に掛けられたその言葉により、俺は一歩進んだだけで足を止めた。

 

「…………」

「友くーん! おーい!」

「桜井さん、もしかして幼なじみって……」

「うん! あそこに居る友くんの事だよ!」

 

 …………終わった――そう察した瞬間に教室、廊下に居る全男子生徒の視線が俺に集まった。当然……殺気付きで。

 

「世名テメェコラァ!」

「またか! またなのか!? またなんですかこの野郎!」

「なんで可愛い子がみんな揃ってお前に惚れてるんじゃボケェ!」

「ぶち殺すぞ!」

「ふざけんじゃねぇよリア充! 俺達が灰色の夏を送ってる間に何相手増やしてんだアホンタラァ!」

 

 ありとあらゆる怒号を吐き捨てながら、数え切れない男子生徒が俺目掛けて押し寄せてくる。

 

「ま、待った! 俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇ!!」

「モテる男は全員悪人なんだよ馬鹿野郎が!」

「そうだ! 俺達の天城さん返せゴラァ!」

「授業中まで雨里さんとイチャイチャしやがって! 見せしめのつもりかぁ!」

「出雲ちゃんに毎回抱き付かれやがって……許せんぞクソがぁ!」

「朝倉会長にあんな事やこんな事されてんだろこの変態リア充が!」

「転校生との恋愛を妄想した俺の幸せ返せ!」

「そうだそうだ! あと妹さん俺にください!」

「今は関係ねーだろ! あと友香はお前みたいな奴には渡さん!」

 

 次々と襲い来る言い掛かりと、男子生徒の波に必死に抗いながら、抜け出そうともがく。しかしなかなか密集する生徒の波を抜け出る事が出来ない。

 一体どうやって抜け出せばいいのか、どうすれば収める事が出来るのか。それに思考を全力で回していると――

 

「何かしら、この集まりは」

 

 と、密集する生徒達の外側から、聞き覚えのある冷ややかな声が聞こえる。それに男子生徒の動きがピタリ止まる。

 その隙に何とか人の間を掻き分け、声が聞こえた方へ移動する。そして何とか生徒の壁を脱出する。が、その際にバランスを崩し、前方に倒れそうになる。

 すると、前に出た俺の右腕を正面に立っていた誰かが掴み取り、そのまま俺を引っ張る。

 

「うおっ……!」

 

 次の瞬間――俺の顔が何か柔らかい物に包まれる。それが一瞬何だか分からなかったが、その感触が身に覚えがある事を感じ、慌てて顔を上げる。

 

「大丈夫かしら? 友希君」

「あ、朝倉先輩……!?」

 

 そう、それは朝倉先輩の胸だった。朝倉先輩が俺を抱き締め、谷間に向かって引き寄せているのだ。

 

「ちょっ、何を……!?」

「友希君が大量な人に揉みくちゃにされてたから助けただけよ」

「だからって抱き寄せる理由は……!」

「まあそこは流れよ。ところであなた達、何をしてたのかしら?」

 

 朝倉先輩は俺を抱き締めたまま、男子生徒達を睨む。それに彼らは小さくざわめく。

 

「こんなところで騒いで、他の生徒に迷惑でしょう。それに、私の友希君をイジメたら……退学させるわよ?」

「は、はいぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

 朝倉先輩の冷ややかな威圧感に、生徒達は一斉にその場から立ち去る。鶴の一声ならぬ、生徒会長の一声ってやつか……凄いな。

 

「全く……騒がしいものね。もう平気よ」

「ど、どうも……あの、そろそろ離してくれません?」

「あら、もうちょっとぐらいいいじゃない」

「――いいわけ無いでしょう!」

 

 突然、朝倉先輩の体が俺から引き剥がされる。谷間から顔が離れてすぐ、頬に残る胸の感触を振り払うように首をブルブルと振るい、彼女の後ろへ目を向ける。

 そこには、怒りの形相で朝倉先輩の首根っこを掴む出雲ちゃんが立っていた。

 

「あら、どうしてここに居るのかしら?」

「私は先輩をお昼に誘おうと来ただけです。それより……何先輩に手ぇ出してるんですか?」

「手を出したなんて酷いわね。私は友希君を助けただけよ」

「過程がどうあろうと先輩を抱き締めてた事実は変わんないでしょうが!」

 

 出雲ちゃんがグイッと顔を朝倉先輩の顔に近付け、彼女の瞳を睨み付ける。

 何か知らんが口論が始まった……まだ生徒は居るし、そこら辺にしといてくれ……周りの目が痛い。

 彼女達の口論を何も出来ずに呆然と眺めていると、陽菜が教室から出て来る。

 

「なんか凄い事になっちゃったね」

「元はお前が……はぁ、もういいや……」

 

 こいつも悪気は無かったんだし、何も言うまい……

 未だ口論を続ける二人を眺めていると、いきなり背後から海子と天城の二人が売店のパン片手にやって来る。

 

「あれ、世名君?」

「どうした? ヤケにくたびれてるな?」

「えっと……」

 

 どう説明したものかと頭を悩ませていると、どこからか川嶋が姿を現し、二人に事のあらましを説明しだす。

 

「えっとね、世名君とひっちゃんの関係が知られて、男の子達が世名君を揉みくちゃにしたの」

「よ、よく分からんが……大変だったな……それで、どうなったんだ?」

「朝倉先輩が颯爽と現れて、生徒達を追っ払ったの。あと、世名君が顔を朝倉先輩のおっぱいに(うず)めてた」

「最後の説明いらなくない!?」

「……世名君、どういう事?」

「え!? いや、違うよ? 俺が自分の意志で行った訳では無くて……」

「……埋めたのは本当なんだね」

 

 天城は据わった瞳でこちらをジッと見つめる。

 

「あ、いや……」

「ど、どうなんだ友希!」

「いや、だから……」

「ちょっと! 何先輩と勝手に話してるんですかあなた達!」

「抜け駆けは許せないわね」

 

 口論をしていた朝倉先輩と出雲ちゃんも、こちらへと歩み寄る。

 結局、いつもと変わらないな……二学期も、大変そうだ。

 

 ともかく、こうして相変わらず波乱にまみれた俺の高校二年の二学期が、始まったのである。

 

「というかあなた達どうして居るの? ここは二年の教室よ」

「生徒会長だもの。どこに居てもいいでしょう?」

「私は先輩の側が居場所ですから!」

「意味が分からんぞ……」

「まあみんな集まったんだし、一緒にお昼食べようよ!」

 

 本当……大変そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ようやく、二学期編がスタートです。
 何とか友希とのクラスメイトという自分だけのアドバンテージを守り、隣の席を獲得した海子に、早速学園の注目の的となった陽菜。
 これから一体どんな波乱の日々が繰り広げられるのか、乞うご期待。

 そして今回登場した担任のプロフィールを登場人物一覧表に追加します。
 ついでに学生組のクラスも追加記入するので、気になる人は要チェック。




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