モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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甘く修羅場な出店巡り 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず賑やかだねー、ここのお祭り!」

 

 出店が大量に立ち並び、焼きそばなんかの食欲をそそる匂いに包まれ、沢山の淡い光に照らされる神社の夜道を、みんなより先行して歩きながらはしゃぐ陽菜。久しぶりの白場の祭りに大分テンションが上がってるようだ。

 

「なんだか帰ってきたって実感がようやく湧いてきたよ!」

「遅いなオイ……」

「だってこのお祭りは思い出深いもん! 友くんとよく一緒に来たし! 友くん宝つりで貰ったお小遣い全部使っちゃって、私と二人でリンゴ飴分けたりしたよね!」

「ああ、そんな事もあったな……」

 

 確か最新のゲーム機が欲しくてやりまくったんだっけ。結局当たんなくて、なんであんな無駄遣いしたんだって後悔したなぁ……あれ以来宝つりはしなくなったな。

 陽菜との会話で過去の事が頭に浮かび、懐かしい気持ちを思い出していると、ふと背後から嫌な空気を察する。

 なんだか身に覚えがある感覚に、恐る恐る振り返ってみると――案の定、いつもの四人が黒い空気を出してこちらをジッと見つめていた。

 

「な、なんでしょうか……?」

「先輩、今の本当ですか?」

「はい……?」

「リンゴ飴一緒に分けたって話。つまり世名君と桜井さんで、同じリンゴ飴食べたの?」

「まあ……そうな、ちゃう……のかな?」

「それってつまり……間接キスよね? しかも飴っていう舐めるやつで」

「……そうなりますねぇ」

 

 この人達そういうのに敏感過ぎぃ! いや気持ちは分かるけど、そこはスルーしてよ! 俺も小学生だったし、下手したら間接キスという概念が生まれていない時期だったから! それぐらい許してよ!

 だが……今考えてみるとリンゴ飴を二人で分けたって凄い事だな……無知で無恥過ぎるよ、俺。

 急に過去の自分の行動が恥ずかしくなり、顔がだんだんと熱くなるのを感じる。それと比例するように、彼女達の不機嫌さも増していくような感じがした。

 このままではいけない気がし、慌てて頭を回して別の話題を考える。

 

「そ……そういえば、やっぱり浴衣着てる人が多いな! 女の子はオシャレしたいんだなー!」

 

 そう、とりあえず思い付いた事を口にしてみたが、四人はどこか白けた様子でこちらを見つめる。

 反応を返してくれ……コミュニケーション大事!

 

「……まあ、確かに多いよね、浴衣の人」

「そうですね。女の子はこういうイベントは大事にしたいものですから」

 

 その空気に見かねたのか、友香と香澄ちゃんが話題に乗ってくれる。

 

「……確かに、私服の人はあまり居ないな。去年私もそうだったが、私服は逆に目立つしな」

「折角なんだし、着たいもんね。こういう時以外に着ないし」

 

 その二人の会話をキッカケに他のメンバーも白けた様子を解き、話題に乗ってくれた。

 よかった……ナイスだ妹コンビ。あとで綿飴奢ってやろう。

 

「浴衣って可愛いし、やっぱり着たくなるよね!」

「そうかしら? 私はあんまりそうは思わないけど。みんなは平気なのかしら?」

「何がですか?」

「だって、浴衣って下着を着けないのがマナーなんでしょう?」

 

 と、朝倉先輩が口に出した言葉に皆一瞬沈黙する。

 

「いや、それは何というか……嘘情報みたいなものですよ」

「あらそうなの? てっきりみんな着けていないのかと思ったわ」

「何馬鹿な事言ってるんですか。そんなのスースーするじゃ無いですか」

「まあ、確かにそうね。現に気持ちが悪いし」

 

 朝倉先輩、本気でそう思ってたんだな……まあ、世間知らずだし、そういうのは真に受けちゃうところがあるのかもな。……ん、待てよ? という事は……

 

「あの、先輩……もしかして、それ実践しちゃったりしてます?」

「ん? ええ、それが常識だと思ったから」

「……じゃあ、今先輩下着……」

「ええ、着けてないわよ。上も下も」

「嘘ぉ!?」

 

 先輩の衝撃的なカミングアウトに全員が大声を上げる。

 着けてないって……先輩今ノーパンノーブラ!? つまり浴衣を脱げば……そういう事になるの!?

 まさかの真実に思わず驚愕して口が塞がらなくなる。そして下着を着けていないという事実に、つい先輩の全身を舐め回すように視線が動く。

 浴衣の上からでは下着を着けていないなんて事は正直分からない。だが、帯により押し上げられている胸にも、体にピッチリと密着してラインがしっかり分かるお尻にも下着が着いてないと思うと……なんだか色っぽさが三割ぐらい増したような感じがして、緊張する。

 

「そんなに見つめないで。緊張しちゃうわ」

 

 そう言いながらも先輩は クスリと笑みを浮かべ、小さく体を揺り動かす。その振動で彼女の胸がボヨン、という効果音が付いてもおかしく無い程大きく揺れる。あんだけ揺れるって事は……マジで着けていないっぽい。

 

「先輩……何ガン見してるんですか」

「え!? あー、いや、その、男の(さが)と言いますか……ごめんなさい」

「フフッ、私は構わないわよ。ジッと見つめられるのは悪い気分じゃないし」

 

 再び、朝倉先輩は体を揺り動かし、見せつけるように胸部を大きく揺らす。

 

「ちょっと! それ以上先輩を誘惑したら浴衣剥ぎ取りますよ!」

「まあ怖い」

「……こんなくだらない事してないで、さっさと先に進みましょう」

「そうだ、折角の祭りを楽しむ時間が無くなってしまうぞ!」

「うわっ、本当だよ! 急ごう急ごう!」

「そうね、行きましょう友希君」

 

 朝倉先輩は下駄を鳴らしながら俺の隣へ移動して、こちらの顔を覗き込む。その一つ一つの動作に下着という支えが無い胸は揺れ動き、つい視線が向いてしまう。

 すると突然朝倉先輩の手を天城と出雲ちゃんが掴み、引っ張り出して俺の隣から無理矢理離す。

 

「これ以上色目使うのは……許しませんよ」

「これぐらいいいじゃない。なら、あなた達も脱げば?」

「何言ってんですかあなた!」

「あ、大宮さんはスポーツブラだから意味が無いかしら」

「勝手に決めないでくださいよ! バリバリランジェリーですから!」

 

 大声でそんな口喧嘩しないでくれよ……視線が集まってるから。バリバリランジェリーってなんじゃい。

 まだ一つも出店に寄ってもいないのにこの始末。一体どうなるのか先が不安になりながらも、出店巡りを再開したのだった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「これが金魚すくい……どうやるのかしら?」

「えっとね、このポイってやつで金魚をすくうんですよ! まあ、一緒にやりましょう! 私が教えますから!」

「……少し癪だけど、お願いするわ」

 

 出店巡りから数十分。金魚すくいの水槽の前でしゃがみながら話す朝倉先輩と陽菜を、フランクフルトを食べながら近くの木に寄りかかり見つめる。

 その金魚すくいの出店の横の出店では、出雲ちゃんと海子が二人で輪投げを楽しんでいる。

 

「あー! また外れた!」

「狙いが甘いんだ。少し貸してみろ」

「いいです、誰があなたの助けなんて……あ! また外れた……」

 

 向こうは仲良くしている訳では無いが、険悪な訳でも無さそうだ。

 最初はギスギスした空気が続くかと思っていたが、なんだかんだみんな祭りを楽しんでくれているようだ。これで少しは安心出来る。

 フランクフルトを食べ終え、残った串を少し離れたゴミ箱へ捨てに移動する。するとそこには天城と香澄ちゃんの姿が。

 

「あ、お兄さん」

「なんだ、二人もなんか食ってたのか?」

「うん。ちょっとお腹空いてたから」

「まあ、夕飯時だしな」

 

 俺も串をゴミ箱に放り捨て、元の場所へ二人と一緒に戻る。

 

「天城は金魚すくいとかやんなくていいのか?」

「うん。私ああいうの苦手で……」

「そうなのか?」

「そうですよ。お姉ちゃん昔金魚すくいで一匹もすくえなくて、泣いちゃったりしたんですから」

「か、香澄! あ、もちろん小さい時だよ!」

 

 天城は手をブンブン振りながら慌てて否定をする。

 

「分かってるよ。金魚好きなのか?」

「そういう訳じゃ無いけど……子供の頃は誰だって欲しいと思うでしょ?」

「まあな。俺も昔は毎年やってたな。今はそう思わないけど」

 

 ま、今現在取ろうとしてる人達が居るけど。

 視線を金魚すくいに挑む陽菜と朝倉先輩へと向ける。

 

「むー……あ! 破けちゃったぁ……」

「なるほどね……大分コツが分かったわ」

「うわっ、雪美さん凄ぉい! 私も負けられないなぁ……オジサンもう一回!」

 

 どうやら陽菜は早くも失敗。朝倉先輩は流石と言うべきか、大量に金魚をすくい上げているようだ。

 しばらく金魚すくいに励む二人を眺めていると、ふと隣の天城が頬を膨らませているのが目に入る。

 

「どうした?」

「……世名君、また朝倉先輩見てた」

「そ、それが?」

「……またやらしい目で見てたんでしょ」

「んなっ!? ち、違うよ!」

 

 そ、そりゃしゃがんでるからちょっとお尻の輪郭がくっきりしてて、目がちょっと移ったりはしたけども……決してやらしい目で見てた訳では無い!

 と、否定の言葉を口にしようとしたが、天城はプイッとそっぽを向いてしまう。

 

「て、天城さーん?」

「……世名君も男の子だし、そういうのに興味があるのも分かるよ。悔しいけど、朝倉先輩の浴衣姿色っぽいもんね。私の浴衣なんてどうでもいいよね」

 

 駄目だ、完全に機嫌損ねてるな……どうにかして機嫌取らないと。

 

「別にそういう訳じゃ無いって……天城の浴衣姿だって魅力的だぞ! そのぉ……ピンクで可愛いし、和服が似合うよな! 流石大和撫子っていうか……良いと思うぞ!」

 

 とりあえず浮かんだ誉め言葉をどんどん口に出していく。しかし、天城は未だそっぽを向き向いたまま。これじゃ駄目か……

 

「……フフッ」

 

 が、不意に天城が笑い声を上げて肩を揺らす。それにポカンと口を開いていると、天城がクスクスと笑みを浮かべながらこちらを向く。

 

「世名君必死過ぎるよ。ちょっといじわるだったかな?」

「えっと……」

「ごめんね、さっき世名君があまりにもやらしい目で朝倉先輩を見てたから、ちょっといじわるしちゃった」

「いじわるって……」

 

 天城がそんな事するなんて……珍しいな。

 

「世名君がいけないんだよ? あんな風に他の女性を見てたら……嫉妬ぐらいしちゃうよ」

「それは……ごめん」

「いいよ。ちゃんと世名君にそういう気が無かったのは分かってる。でも、出来ればもうああいう目で他の女性を見ないでね?」

「お、おう……」

 

 とはいえ、難しいかな……だって目が向いちゃうし。

 

「でも、ああやって世名君が私を誉めてくれたのはよかったな……ねぇ、あれって……本心?」

「え……まあ、実際にそう思ったし……本心ではある……かな」

「そっか…………そっか……」

 

 嬉しそうに頬を綻ばせ、目を伏せながらひっそりと呟く。その可愛らしい行動にドキッとして彼女から顔を逸らす。天城もなんだか恥ずかしそうに俯き、沈黙する。

 気まずい空気が流れる。その空気を変えようと、香澄ちゃんに話題を振る為に彼女が居る天城の隣へ目を向けるが――そこに香澄ちゃんの姿は無かった。

 あの子いつの間に……大方お邪魔虫は退散します、的な感じで席を外したんだろう。

 頼みの綱も無くなり、この沈黙をどう破るか必死に頭を回す。その時――天城が突然、俺の右手の指先をギュッと握る。

 

「え……?」

「…………」

 

 突然の行動に驚き、彼女の顔へ目を向ける。天城はこちらに目を向けずに俯いたままで、頬はいつものように真っ赤に染まっていた。

 

「えっと……何か……?」

「な、なんでも無い……ただ……つ、繋ぎたかった……から」

「そ、それだけ……?」

「……嫌、だった?」

「べ、別にそんな事は無いけど……」

 

 繋ぎたかったからって……何その可愛らしい理由! 萌え死なす気か!

 とはいえ無理に手を払うのはかわいそうだし、しばらくジッとする。しかし緊張からだんだんと手汗が滲み出してくる。

 

「――あの」

 

 そんな時、不意に誰かに声を掛けられる。それに慌てて顔を声の方へ向けると、そこには憎悪全開で立ち尽くす出雲ちゃんが。それに俺の全身から、冷や汗が滲み出る。

 

「なぁーに先輩といい感じになってるんですか、天城先輩」

「……別に、あなた達は出店で遊んでたから世名君と話してただけよ」

 

 出雲ちゃんの問い掛けに、天城はキツイ言葉を返す。相変わらず切り替え早っ。

 

「そうですか……なら、今度は先輩から簡単に注意を逸らしたらいけませんね」

「…………」

 

 一触即発の空気が流れる中、状況を察してか他の三人もこちらへ集まってくる。

 

「あら、どうしたのかしら?」

「え、あ、いや何でも……」

「そう? でも、私には友希君と天城さんが手を繋いでるように見えるけど」

「そうですよ! さっさと離してくださいよ!」

「…………」

 

 朝倉先輩と出雲ちゃんの二人に言い寄られ、天城は少し残念そうに俺の手を離す。

 

「全く、油断も隙も無いですね。先輩、今度は私と金魚すくいでもしましょう!」

 

 その直後、出雲ちゃんが空いた俺の右手を握り締め、身を寄せてくる。

 

「あなたも世名君から離れなさいよ」

「私はいいんです! ねー、先輩」

「そんなの納得出来るか! 早く友希から離れろ!」

「嫌ですよ!」

「そう。なら私も……」

 

 突如、朝倉先輩が出雲ちゃんとは反対側に移動して、俺の左腕を思いきり抱き寄せる。

 

「なっ!? あなたは何をやってるんだ!」

「ちょっと! 先輩から離れてくださいよ!」

「あら、あなたがくっ付いてるのだから私もいいでしょう?」

「そんな謎理論、認められないです」

「あー、二人共ズルーイ! 私も友くんギュッてするー!」

 

 出雲ちゃんと朝倉先輩が俺の両サイドをガッチリホールドする中、陽菜が正面から俺を飛びかかるように抱き締める。

 

「陽菜!? 何をしてるんだお前まで!」

「だって私もしたかったんだもーん!」

「だからって……友希がほぼ埋もれてるだろう!」

「そうですよ! さっさと離れてくださいよ!」

「あなたが離れればいいじゃない」

「というか全員世名君から離れて」

 

 ……やっぱりこうなるのね。気持ちは分かるが落ち着こう! ここは公共の場だから! 端っこでもみんなに迷惑! そして若干周りの男から殺気みたいのを感じるからぁ!

 

 結局その口論は約十分ほど続き、トイレに行っていた友香と、香澄ちゃんが戻ってきたのをキッカケに、ようやく収まったのだった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 先の一悶着から数分、再び出店巡りを再開した俺達は、一旦みんなで別れて夕飯代わりに出店の食べ物を自由に買いにいく事にした。

 焼きそば、たこ焼き、リンゴ飴、綿飴――他にも色んな出店がある祭りでは食事には困らない。

 俺もさっきフランクフルトを食ったが、物足りないので何かないかと探し回っていると、お好み焼きの出店を発見。ジュージューと焼ける鉄板の音に、美味しそうな匂いに釣られ、自然と足が進む。

 人も並んで無いし、あそこにしようとそのまま歩みを進めて店の前に立つ。

 

「すみませーん――」

 

 早速注文をしようと口を開きながら店員さんへ目を向ける――が、その店員さんの姿が視界に映った瞬間、思わず言葉を詰まらせた。

 

「って、燕さん!?」

「ん? おー、友希じゃん!」

「黒南から戻ってたんですね……というか、何してんですか……」

「そりゃもちろん小遣い稼ぎだ! 知り合いの出店手伝わせてもらってんだよ」

 

 またっすか……どんだけ知り合い居るんだよこの人。

 

「んで、注文じゃ無いのか?」

「え? ああ、お好み焼き一つ」

「あいよ!」

 

 注文を受けてから燕さんは手慣れた手付きでお好み焼きを作り上げ、パックに手早く詰める。

 

「ほい、お待ち!」

「どうも。なんか慣れた感じですね」

「二年前から手伝ってるからな! これぐらい簡単よ!」

 

 二年前からか……そのスキルを活かしてお好み焼き屋で働けばいいのに――その言葉を飲み込み、適当に言葉を交わしてその場を離れようとする。

 

「あ、そうだ。燕さん花火大会見るんですか?」

「ああ、一応な。ま、店手伝いながらだけど」

「そうですか……俺達、色んなメンバー集めて穴場スポット行くんで、よかったら来てください。場所はメールでもするんで」

「お、マジか!? んじゃ、暇が出来たら行くよ!」

「はい。それじゃあ、これで」

「毎度ありー!」

 

 お好み焼き屋を離れて、みんなとの集合場所である休憩スペースへ向かう。

 数分後、出店の並びから少し外れた場所にある目的地に到着。まだ他のメンバーは来てないようだったので、休憩スペースのベンチに腰を下ろし、先にお好み焼きを頂く事に。

 

「ん、美味いなこれ」

 

 結構ボリュームもあるし、満足できる品だな。

 しばらくお好み焼きを黙々と食べ進め、半分ぐらい食べ終えた頃――

 

「あ、センパーイ!」

 

 出店の並びの方から出雲ちゃんが元気良く手を振りながら駆け寄って来る。右手には焼き鳥、左手にはプラスチックのパックを持っていた。

 

「あれ、もしかして先輩だけですか?」

「ああ」

「やったぁ! 先輩と二人きり!」

 

 嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、俺の隣に勢いよく腰を下ろす。

 

「二人きりで祭りを回れないんだから、少しはこういう時間もないと! 先輩は何にしたんですか?」

「お好み焼き。なんか燕さんが手伝いしててさ」

「太刀凪さんが? あの人、どこにでも出没しますね。まさか、先輩を狙ってるんじゃ……」

「いやいや、燕さんはそんなんじゃないから」

「信用出来ませんよ! もしかして、先輩彼女に気があったりしませんよね?」

「そ、そんな事無いよ! 燕さんは相談役なだけだよ」

「それは分かってます。でも、先輩あの人と仲良いですし」

 

 と、出雲ちゃんはこちらに疑いの眼差しを向ける。

 

「そんな特別仲が良い訳じゃないよ」

「まあ……何があろうと先輩は渡しませんけど!」

 

 プイッと顔を背け、右手に持つ焼き鳥を一気に食べる。食べ終えた串をパックに戻し、そこから別の焼き鳥を手に持ち、口へ運ぼうとする。

 が、突然手を止めて、俺のお好み焼きに目を向ける。

 

「それ、太刀凪さんが作ったんですか?」

「ああ、そうだけど」

「……美味しそうですね」

「……よかったら、一口食う?」

「え、いいんですか?」

「もちろん。はい、どうぞ」

 

 お好み焼きの入ったパックを出雲ちゃんに差し出す。しかし、彼女はそれを受け取らず、口を開いて何かを要求する。これは……食べさせてくれって事か?

 その行動に少し戸惑っていると、出雲ちゃんはさらに顔をこちらに近付ける。これはどうやらやるしかなさそうだな……まあ、これぐらいならいいか。

 割り箸でお好み焼きを一口サイズに切り、それを出雲ちゃんの口に運ぶ。そのお好み焼きを出雲ちゃんはパクリと口にする。

 

「……美味しいですね、これ」

「だろ? 燕さんも意外な才能があるもんだ」

「まあ、料理ぐらい出来ないと女として終わりですけど」

「ハハッ、まああの人は男気溢れる感じで、女性っぽいとこあんま無いからな」

「本当ですよ。そのくせして胸が大きいとか、どういう事なんですかもう……!」

 

 そう口にしながら、イラつきをぶつけるように焼き鳥を豪快に頬張る。

 大分ご立腹だな……出雲ちゃんにとって巨乳はもれなく敵なのかもしれないな。

 そんな事を考えていると、自然と彼女の胸元に視線が向いてしまう。その視線を感じた出雲ちゃんはさっと両腕で胸元を覆い隠す。

 

「先輩、失礼な事考えてます?」

「え、いやそんな……」

「いいんです! どうせ私は小さいですよ……でも決して貧乳じゃなくて、周りが大きいだけなんです。それに――」

 

 ブツブツと呟きながら、焼き鳥の串で手に持つパックをプスプス刺し続ける。

 なんか卑屈になってる……というか今日こういう系の話多いな……浴衣でスタイル浮き彫りになってるからか?

 浴衣は洋服に比べて体のラインが出るし、いつもより過剰に気になるのかも。水着の時も気にしてた様子はあったような気がするし。

 朝倉先輩は見ての通りあれだし、陽菜もそれに負けず劣らずで、天城と海子もそれほど目立たないが悪くは無い。そんな面子に混じれば、自信が無くなるのも無理は無い。けど――

 

「そんなに気にする事無いさ。女性、胸だけが全てじゃ無いだろ?」

「分かってますけど……先輩だってどうせなら大きい方がいいですよね?」

「そんな事は無いよ。女性にはそれぞれ違った魅力があるんだから」

「それぞれ……じゃあ、私の魅力は何ですか? 出来れば体型面で!」

 

 い、いきなりだな……出雲ちゃんの魅力ねぇ……

 

「……別に胸が小さいからってスタイルが悪い訳じゃ無いし、むしろいい方だ。腰回りは引き締まってるし、肌もスベスベしてるし――」

「ちょっ、ちょっとストップ!」

 

 不意に、出雲ちゃんが大声を上げる。するとモジモジと足元を動かし、視線を落とす。

 

「さ、流石にそんなに言われると……恥ずかしいです」

「あ、ごめん……」

「け、決して嫌な訳じゃ無いですから! むしろ、そんなに魅力を感じてくれてるんだって、嬉しかったです! まあ、当然ですけど!」

 

 気恥ずかしさを誤魔化すように胸を張って大きな声を出す。こういうところも、彼女の魅力かもな。

 そんな事を考えながら出雲ちゃんを眺めていると、彼女は顔を赤く染める。すると最後の焼き鳥を手に取り、それをこちらへ差し出す。

 

「せ、先輩! 今度は私が食べさせてあげますよ!」

「唐突に何!?」

「先輩がドキドキさせるのがいけないんです! はい、アーン!」

「えぇ……」

 

 何だよその理由は……まあ、彼女を落ち着かせる為に付き合うか。少しハズいけど。

 恥ずかしがりながら差し出す焼き鳥を食べようとしたその時――突如、俺達の間に割って入るように、誰かが焼き鳥に食らい付いた。

 

「んなっ!?」

「んっ……美味しいわね、この焼き鳥」

「あ、朝倉先輩?」

「ちょっと! 何焼き鳥横取りしてるんですか!」

「ごめんなさい、美味しそうでつい」

 

 朝倉先輩はタレで汚れた唇をペロリと舐めながらそう口にする。

 

「何がですか……私の邪魔したかっただけでしょう!」

「まあそうね。全く、油断も隙も無いわね」

 

 と、先刻出雲ちゃんが天城に向かって言った言葉を、朝倉先輩は口にする。それに出雲ちゃんは悔しそうに唇を噛む。

 二人が火花を散らして睨み合う中、天城達も食べ物片手にやって来る。

 

「あれ、出雲ちゃんと雪美さん何かあったの?」

「どうせ、友希と二人きりで何かしようとしたところを邪魔されたとかだろう」

「……私と世名君の時間を邪魔した罰よ」

「何ですか私ばっかり! どーせあなた達も先輩と二人きりになったらなんかするくせに!」

「見苦しいわよ大宮さん。それに私は二人きりだろうと、そうでなかろうと好きにするわ」

「余計駄目です!」

 

 本日何度目かも分からない彼女達の言い争う風景を呆然と眺めながら、とりあえずお好み焼きを食べ進める。

 

「みんな……とりあえず落ち着いて飯食べようぜ? 時間ももう無いし……」

「……まあ、それもそうね」

「友希の言う通り、もうすぐ花火大会だしな。出店を回る時間が無くなったら元も子もない」

「フンッ……他の人が余計な口出ししなければ……」

「あなたが余計な事しなければよかったのよ」

「私はただ先輩との愛を深めてただけです!」

「それが余計なの」

 

 ……駄目だこりゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 なんだかんだマンツーマンの時間もあったりしたが、結局修羅場な夏祭り。
 夏祭り編、次回もまだまだ続きます。




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