モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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ガールズトークは混沌である

 

 

 

 

 

 

 トランプ大会で一日のほとんどが埋まった黒南島四日目の夜、私達は夕食を食べ終えてすぐにお兄ちゃん達男性陣と別れ、残る女性陣全員揃って、別荘内の大浴場で今日一日の疲れを癒していた。

 あまりの広さに初日は全員恐縮してしまったのだが、四日もすれば慣れてしまうもので、みんな気持ちよさそうに湯船に浸かっている。

 そんな中、今回初めてここに来た燕さんは一切動じる事無く、興味津々に辺りを見回していた。

 

「マジで広いなオイ……泳げるんじゃねぇかこれ」

「止めてよね。というか太刀凪さん、あなた帰らなくていいのかしら? 夕飯までちゃっかりご馳走になってたけれど、いつまで居るつもり?」

「あー、その事だけど、アタシ今日はここに泊まるわ。今から帰んのもあれだし、お前らとも色々話してーしな」

「何を勝手な……はぁ、まあいいわ。問題は――」

「起こさねーから安心しろ! それより今は裸の付き合いを楽しもーぜ!」

 

 雪美さんの言葉を遮り、彼女の隣まで素早く移動して肩を無理矢理組む。それに雪美さんはあからさまに嫌そうな顔を見せ、燕さんを強引に引き剥がし、逃げるように湯船から出る。

 それに燕さんは不満そうに唇を尖らせる。が、湯船から出て露わになった彼女の裸体を見た瞬間、驚愕したように目を見開く。

 

「うっわ……雪美マジでスタイルいーな」

「いきなり何?」

「いや思わず口に出ちゃうでしょ。何そのスタイル、化け物かお前」

「人を化け物扱いしないで」

 

 と、雪美さんは少しキツイ目で燕さんを睨む。

 雪美さんは女性の目から見てもスタイル抜群だ。それは普段からも分かるのだが、衣服を身に着けずに、ありのままの全身が露わになっている今はそのスタイルの良さがさらに目立つ。

 全体的に男性が好きそうなふくよかな肉付きで、にも関わらず引き締まってるところはきっちり引き締まってる。俗に言うボンキュッボンという表現がまさに相応しいだろう。

 オマケに美人で頭も良くてスポーツも出来ると来たものだ。燕さんが化け物扱いする気持ちも分からなくは無い。

 

「悪い悪い。しっかしマジで胸デカいなオイ……ちょっと触っていいか?」

「お断りするわ。以前言った通り、友希君以外の生物には触らせる気は無いから」

 

 冷たいセリフを吐き、雪美さんは壁際に並ぶシャワーに向かい歩いていった。

 

「んだよノリ悪いなぁ。しっかし……」

 

 そう呟きながら燕さんは向かい側に居る出雲へと視線を向ける。

 

「……何見てるんですか?」

「いや、同じ女性でもこうも違うんだなーって」

「余計なお世話です! 大体、私はまだ成長途中ですから! それに、私の家系はみんな大きいからチャンスありますし!」

「え、嘘!?」

「盛大に驚かないでくださいよ! 馬鹿にして……もう!」

 

 散々怒鳴り散らした挙句(あげく)、出雲はドボンと口元まで湯船に浸かり、不機嫌そうにブクブクと気泡を立てる。

 燕さんはそんな出雲の隣まで移動して、励ますように肩を組む。

 

「まー、小さくてもいいじゃん! 気にするだけ損だぜ?」

「…………」

 

 燕さんは激励のつもりで言っているのだろうが、出雲はその言葉に機嫌を損ねたようで表情が引きつる。さらに肩を組んでいる事によって、出雲の顔には彼女の豊満な右胸が押し付けられている。恐らく、出雲の頬にはその大きく柔らかい胸の感触が嫌でも伝わっているだろう。そして、それが彼女のムカツキを加速させたのか、さらに表情が引きつる。

 そしてとうとう出雲の堪忍袋の緒切れたようで、腕を振り払って燕さんを睨み付ける。

 

「なんなんですか!? 嫌みですか!? 巨乳特有の嫌みですか!?」

「そ、そう怒んなよ……あっても邪魔臭いだけだぜ?」

「元からおっきい人には私みたいな人種の苦労は分からないんですよ! 毎日毎日牛乳飲んでお腹くだしながら頑張ってるんですよこっちは!」

「いや知らねーよ……というか意味あんのそれ?」

「それに(すが)るしか無いんですよ!」

「ふーん……大変だなぁ……」

 

 出雲の怒涛の怒りの叫びに気圧されながらも、燕さんは興味を持ったように呟く。すると突然、何かを思い付いたように手を叩き、ニタリと口元を吊り上げる。

 

「なら、もっといい方法があるぜ?」

「はぁ? なん――」

 

 出雲が言葉を言いかけた瞬間、燕さんは素早く出雲の背後に移動し、そのまま彼女の両胸を鷲掴んだ。

 

「な、何してるんですか!?」

「揉んだら大きくなるってよく言うだろ? アタシがやってやるよ」

「そ、そんなの――ひゃあ!? ど、どこ触ってんですかぁ!」

「ホレホレー、アタシのありがたーいマッサージよぉー。思う存分堪能しなさーい?」

「誰が……あっ、そこはっ……! ダメッ……!」

「つーか意外と柔らけーな。将来可能性あるんじゃね?」

「何言って……というか、ヤメッ……!」

 

 ……声だけ聞いてると何だかいけない事が起こっているようにしか思えない。だが実際目の前に繰り広げられている光景は女子高生が無職の女性に乳を揉まれて身悶えてる光景だ。……十分いけないか。

 その光景を湯船の端っこの方で優香さん達他のメンバーと一緒に唖然と眺めていると、シャワーを終えた雪美さんがこちらへ歩み寄ってくる。

 

「……何をしてるのかしら?」

「うーんっと……おっぱいが小さくて悩んでる出雲ちゃんの為に、燕さんが大きくなるように揉んであげてるの!」

 

 そう陽菜さんがざっくりとした説明をすると、雪美さんは呆れたように溜め息をつき、何も言わずに湯船へ足を入れた。

 

「全く……胸の大きい小さいでガタガタ言って……くだらないわね」

「そんな事無いですよ! 女性にとっては重要な事です!」

「あら、あなたもそういうの気にするのね。というより、あなたは十分大きいじゃない」

「私だって小学校の頃は気にしてたんですよ! ただ、中学から一気に大きくなって……」

「そ、そうなのか?」

 

 突然、今まで黙っていた海子さんが陽菜さんの言葉に食いつくように割り込む。

 

「うん。特に何もしてないけど、突然成長したの!」

「そ、そういう事もあるんだな……」

「……もしかして海子ちゃんも気にしてるの?」

「え!? いや、私は、その……」

「そういえば……前家に遊びに行った時、雑誌のバストアップに関する記事の切り抜き見かけたな……」

「優香!? いきなり何を……というか見たのか!?」

 

 どこか悲痛な叫びに、優香さんは申し訳無さそうに頷く。すると海子さんは一気に顔を赤くして、照れ隠しをするように湯船に潜る。

 

「まあまあ海子ちゃん! 海子ちゃんだってちっちゃく無いんだし、そんな気に病む事無いよ!」

「……言ってる事は分かるが……陽菜に言われると何だか落ち込む……」

 

 湯船から顔を出し、苦笑する。まあ、陽菜さんに言われたらねぇ……

 陽菜さんは雪美さん程では無いが、巨乳と言えるだろう。多分Eカップはあるだろう。でも、私の記憶では彼女の言う通り小学生までは普通だったし、陽菜さんのお母さんもそれほどでもなかったし……成長とは不思議なものだ。

 

「……でも桜井さんの言う通り、海子はスタイルいいと思うよ? 腰回りも引き締まってるし」

 

 そう、優香さんがフォローするように口を開く。

 確かに、日頃から運動しているだけあって、全体的に引き締まってる感じがする。いわゆる健康的な体型……といった感じだろう。いつも家でゴロゴロしてる私にとっては羨ましいものだ。

 

「そ、それを言うなら優香の方がいいだろう! 胸もあるし、運動もしてないのに引き締まってるじゃないか! ……どうしたらそんなに体型を維持出来るんだ……」

 

 海子さんがボソッと、若干嫉妬を含んだ言葉を呟く。それに優香さんは対応に困ったように苦笑いを浮かべる。

 優香さんは理想的なスタイルと言えるだろう。出過ぎず、小さ過ぎずなバストに、それにあったウエストとヒップ。全体のバランスなら一番だろう。非の打ち所が無い。

 ……女性のスタイル分析して、私変態みたいだな……最近お兄ちゃんの事で傍観に徹する事が増えたせいかな……

 私が自分自身に呆れている間にも、彼女達の会話は続いていた。

 

「わ、私だって結構体型気にするよ? 意外とお肉とか付いてるし……」

「え、そうなの? どれ……」

「キャア!? 桜井さん、いきなり何を……」

「本当だ! お腹のお肉ちょっとだけプニッとしてるね!」

「ちょっ、大きな声で言わないで!」

「でも、気にする程でも無いと思うよ? 何か触ってて気持ちいいし!」

「だ、だからってそんなに触らないで……ヒャッ!」

 

 優香さんが突然体をビクッと、大きく動かす。多分、今水中で陽菜さんにお腹を摘まれたりしてるのだろう。

 優香さんは何かを耐えるように口と目をギュッと閉じて、だんだんと頬が紅潮していく。男性が見たら物凄く高ぶりそうな光景だ。それを見かねたのか、海子さんが間に入って陽菜さんを止める。

 

「おい、流石に止めてやれ」

「あ、ごめん優香ちゃん! つい夢中になっちゃった……」

「はぁ……はぁ……」

 

 陽菜さんがパッと離れると同時に、解放された優香さんはぐったりと縁にもたれ掛かる。かなりグロッキーみたいだ……優香さんはこういうのに弱いタイプのようだ。

 

「優香ちゃん、大丈夫?」

 

 脱力する優香さんを心配して陽菜さんが彼女に近寄ろうとした瞬間――突然背後の水面から腕が伸び、陽菜さんの胸に掴み掛かる。

 

「うわぁ!? 何ぃ!?」

「フッフッフッ……なーんか面白そうな事してんじゃん。アタシも混ぜろよ!」

 

 そう不適な笑みを浮かべながら、燕さんが水面から顔を出す。あれ、さっきまで出雲の相手をしてたのに、いつの間に……

 チラリと出雲の方へ視線をやると、優香さんと同じように浴槽の縁へもたれ掛かっている姿が目に入った。どうやら相当揉まれ続けたっぽい。

 

「うおっ、やっぱり陽菜デケーな!」

「燕さん、くすぐったいよ! アハハハッ!」

 

 燕さんに両胸を揉まれる陽菜さんは身悶えながらも、どこか楽しそうに笑う。こういう戯れ好きそうだもんね……というか燕さんエロオヤジみたいだな……

 

「アッハハハ! よーっし……なら私もお返しで――」

 

 不意に、燕さんに揉みくちゃにされながら、陽菜さんはバッと両腕を伸ばし――何故か近くに居た海子さんの胸に手を伸ばした。

 

「な、何で私なんだ!?」

「折角だし、みんなで楽しも……グフッ……! くすぐった……!」

「そ、そんなのに付き合う気は――」

 

 海子さんが慌てて陽菜さんの手を振り払おうとした直前――陽菜さんが海子さんの胸を揉みだす。すると海子さんはピクッと肩を震わせ、動きを止める。

 

「うひゃあ!? あ、あんまり強く……ンッ……! グゥ……!」

「うわっ、海子ちゃんのおっぱい柔らかーい!」

「マジか? ちょっとアタシにも触らせろよ!」

「か、勘弁して……キャア!?」

「おー、確かに柔らかいなー。なかなかやるじゃーん。おい、優香も混ざるか?」

「え、遠慮しときます……」

 

 何だこの乳揉みのやり合い……昨日までお通夜みたいな空気だったのに、燕さん加わっただけでここまで混沌になるのか……

 目の前の光景を唖然と見ていると、同じく傍観していた雪美さんが頭を抱えて溜め息を吐く。

 

「まるで子供ね……友香ちゃん、こんなのに関わってないで上がりましょう。逆上(のぼ)せちゃうわ」

 

 そう言うと雪美さんはわいわい騒ぐ彼女達を無視して、湯船から上がり、脱衣所へ向かう。私も申し訳無いが、乳揉み大会に巻き込まれたく無いので、気付かれないようにそっと脱衣所へ向かった。

 

「そう言うなって。楽しめるだけ楽しもうぜぇ?」

「ちょっ、待っ――イヤァァァァァ!」

 

 そんな優香さんの甘い悲鳴が聞こえたところで、私は脱衣所へ足を踏み入れ、扉を閉めた。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 お風呂から上がった後、お兄ちゃん達男性陣と合流して、明日の事を話し合った。何時に集合して、船に乗るかなどを確認してから、再び男子、女子に別れて早く休む為に部屋へ戻った。

 部屋に戻ってからはすぐに就寝の準備をして、それぞれベッドに潜り込んだ。その際、燕さんと彼女が強引に連れてきた雪美さんも今日はこの部屋で寝る事になったので、私と出雲、優香さんと海子さんは同じベッドで寝る事になった。

 

「全く……どうして私が一緒に寝なければいけないのかしら……」

「いいじゃん、みんなで寝た方が楽しいだろ?」

「はぁ……まあ、いびきを掻いて眠りを妨げる人が居なければいいけど」

 

 チラリと、雪美さんが隣のベットで横になる私――というより出雲へ視線を向ける。

 

「する訳無いですぅ! そっちこそ、今まで一人で寝てたのは寝相が悪かったりするからじゃないですか?」

「ただ一人の方が気楽なのよ。まあ、確かに寝相は少し悪いかもね。友希君と一緒に寝た時、寝ぼけて抱き締めちゃったし」

 

 挑発するような口調で雪美さんが言い放つと、周囲の空気が一気にピリついた。

 昨日までの会話がほぼ無い状況も辛かったけど、今日はさらに辛そうだなぁ……そう、内心うんざりする。

 

「まあ、そう殺気立つなよ。そうだ、折角だからお前達と友希の思い出でも聞かせてくれよ」

「思い出……ですか?」

「ああ。よく考えるとアタシ、そういうのあんま知らないしな。恋バナでもしよーや」

「恋バナか……」

「これを機に、自分がどれだけ友希を愛しているかを知らしめる良い機会じゃねーか? それに、相手の事も知れるしよ」

 

 相手の事を知るか……もしかして燕さんなりに彼女達の親睦を深めようとしてるのかな? ……まあ、その理由があっても、一番の理由は楽しそうだからかもね。

 でも……初日にも似たような事してとんでもない暴露大会になって大変だったけど……大丈夫かな?

 

「そうね……他の人の愛を聞くのは耳障りだけど、私の愛情と思い出を思い知らせて相手の心を折るチャンスかもね」

「はぁ? 何ですかそれ。そんなんで折れる訳無いです。私の方こそ、先輩との甘ーい思い出を語り尽くしてやりますよ!」

「ほ、本当にやるのか?」

「いいじゃん! 楽しそうだしやろうよ! ね、優香ちゃん!」

「私は……まあ、ライバルの事を知れるのは良い機会かもね」

「よっしゃ! そんじゃあ決まりだな! 友香はいいか?」

 

 私はその問い掛けに適当に返事を返す。する事無いし、兄への愛や思い出を語られるというのは少しキッツイが……これもお兄ちゃんの為になる事だろうし、黙って傍観しよう。

 

「よっしゃ! んじゃ、アタシが進行な! それじゃあまず、この中で一番友希との付き合い長いのは……陽菜だよな?」

「うん! お母さんと友くんの両親が学生時代の知り合いで、赤ちゃんの時から一緒なんだ!」

「ほー、長いなそれ……他はどうなんだ?」

 

 燕さんの問い掛けに、最初は出雲が口を開いた。

 

「私は中一の時に友香と知り合って、家に遊びに行って先輩と知り合いました。ま、それなりの付き合いの長さですよ」

「たった三年じゃない」

「うっさいです! 告白までろくに会話もしなかった人に言われたく無いです!」

「その分愛情が深いからいいのよ。まあ、もっと早く……高校以前に知り合えたらとは思うけど。そこの二人はどうなのかしら?」

 

 首を上に向け、向かい側の優香さん達に目をやる。

 

「私は高校一年の時隣の席になってからです」

「私は……小学三年で同じクラスだった。まあ、その後すぐに引っ越したし、会話もほとんどしてないがな……」

「なーるほど……みんな出会った時期が案外バラバラなんだな。じゃあさ、全員その時に惚れたのか?」

「私は一目惚れね。まあ、友希君を好きだと気付いたのはしばらく経ってからだけど」

「私も……似たような感じです。世名君と出会ってすぐは気になる程度だったけど、クラスが別になってから寂しくなって……気が付いた」

「ふーん……他の三人も一目惚れか?」

 

 燕さんはいちいち顔を動かすのが面倒になったのか、起き上がってベッドに座り込んで部屋全体を見渡す。他の面々は起き上がろうとせず、そのまま会話を進める。

 

「私は先輩と話していく内に、心を奪われました。 一目惚れなんて薄っぺらいものじゃ無いですよ、私は」

「へぇ、じゃあ初めて会った時は好きでも何でも無かったって事ね」

「何ですかその言い方! 今は誰よりも愛してるからいいんです!」

「言い争いはその程度にしとけって。海子はどうなんだ?」

「私は……イジメから助けてもらったのが理由です。引っ越した後もずっと友希の事を考えていて……中学で再会出来たのが、凄く嬉しかったです」

「ああ、そういえばそうだったな。今度は守る立場になりたいとか言ってたな」

「そ、そういう事は言わなくていいです!」

「ハハッ、照れんなって! さて、陽菜はどうなんだ?」

 

 燕さんの問い掛けに、私も陽菜さんの方へ視線を向ける。陽菜さんはしばらく考え込むように黙り込むと、数秒後に口を開く。

 

「正直……覚えてないなぁ。友くんとは昔からずっと一緒に居て、居るのが当たり前だった。そんな友くんと毎日遊んで、優しいとこもカッコいいとこもいっぱい見てきた。好きになった理由はあると思うけど……いつの間にか好きになってたんだ、友くんの事」

「なるほどねぇ……流石幼なじみって感じだね」

「……何だか少し不愉快」

「そうね……面白くは無いわね」

「フンッ、幼なじみって言ってもただ付き合いが長いだけですよ」

「でも……羨ましくはあるな……」

 

 海子さんの言葉に、全員が黙る。やっぱり、幼なじみっていうアドバンテージはみんな羨ましいんだ……まあ、多分お兄ちゃんが一番気楽に接する事ができるのは陽菜さんだろうしね。それだけでかなり有利かもしれない。

 

「……やっぱり、友希とは色々な思い出があるのか?」

「うん! いっぱいあるよ! 今日みたいにお泊まり会なんかもしたし! あ、そういえばあの時も今日みたいに一緒にお風呂に入って――」

「ちょっと待った!」

 

 不意に、出雲がガバッと起き上がって陽菜さんの言葉を遮る。

 

「お、お風呂って……あなた先輩と一緒にお風呂入った事あるんですか!?」

「うん。幼なじみだし、それぐらいあるよぉ」

「……幼なじみとはそういう関係なのかしら? 私世間知らずだから知らないのだけれど」

「い、いくら幼なじみでも男女でそれは無いだろう!」

「流石に……許せる事じゃ無いわね」

 

 全員が一斉に起き上がり、陽菜さんを睨み付ける。その威圧感には流石に陽菜さんも気圧されたようで、慌てて口を開く。

 

「お、お風呂に入ったのは流石に小学一年とかだよ?」

「それでも十分問題です!」

「そ、そんなに怒らないでよぉ……」

「これが怒らずにいられるかしら? 軽く血管がブチギレそうよ、私」

「まあまあそう血気盛んになんなよ。お前らだって赤裸々な思い出ぐらいあんだろ? 裸やら下着やら見られたり」

 

 燕さんがその場を宥めようとしたのかそう口にすると、何故か優香さんと海子さんがピクリと肩を震わせ、目を伏せる。その様子に気が付いた出雲と雪美さんが、据わった目を向ける。

 

「まさか……あったりしたんですか、そんな事」

「……それは一体いつ、どこで、どんな状況だったのかしら? 場合によっては……許さないわよ?」

 

 二人の問い掛けに、優香さん達は何も答えずに視線を逸らす。

 

「何勝手に先輩とそんなイベント経験してるんですか! 抜け駆けですか!?」

「あ、あれは事故だ! 大体、貴様に抜け駆け云々言われたく無い! 私は覚えているぞ! 友希が風邪を引いた時、貴様が何か良からぬ事をしようとしてたのを!」

「なっ、いつの事言ってるんですか!」

「えぇ!? 友くん風邪引いたの!? いつ!?」

「ややこしくなるから入ってこないで頂戴。大宮さん、それはどういう事かしら?」

「あなた……世名君に何かしたの?」

「今はその事関係無いし、結局雨里先輩が邪魔してくれましたけどね! というか、どうせ他の人も色仕掛けとかしてるんでしょ!」

「勝手な事言わないでくれるかしら?」

「あなたが一番怪しいんですよ! こうなったら、洗いざらい吐いてもらいますから!」

 

 やっぱり……前と同じように暴露大会みたいな感じになってきた……恋バナのはずが結局、いつもの修羅場になっちゃうんだなぁ……お兄ちゃん、本当に愛されてるねぇ。

 しばらくはこの状況が続くと覚悟した私は、黙って横になって、その様子を傍観し続けた。

 

「さあ、全部話してくださいよ!」

「嫌よ。思い出は心に留めておくものよ。あなた達に教える気は無いわ」

「えー、思い出はみんなで共有するのがいいと思うなー。ね、海子ちゃん!」

「ど、どうして私に振るんだ……まあ、一理あるが……」

「……他の人の世名君との思い出は不愉快だけど」

 

 相変わらず空気は悪いけど……なんとなく、よくなってる気がする。本当になんとなくだけど……多分、お兄ちゃんの望む結果に近付いてる――のかな?

 

 結局それから彼女達の言い争いは眠気が限界に到達するまで続き、全員が眠りについたのは二時間後だった。

 こんなんで明日朝早く起きられるのかと心配になりながら、私も眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 赤裸々混沌バストトークから始まり、いつもの修羅場で終わった女性陣の夜。
 友香視点で、友希が出なかったのはこれが初かな?

 お風呂シーンは文字だけだとあれですが、そこは紳士な読者様の妄想、想像力で補ってください。
 そんなこんなで別荘編四日目も終了。次回で別送編も完結です。






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