モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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デートとデッドは紙一重~素直な大和撫子編~

 

 

 

 

 

 

 ――ゴールデンウィーク初日

 

 いよいよ今日から四日間、彼女達との連日デートが始まる……色々不安はある。だが、同時に楽しみでもある。だってあんな美人と二人きりのデートだ。……嬉しくない訳が無い。今日は一対一だし、不穏な空気になる事は無いはずだ! ……多分!

 だから、今日からは一応とことん楽しむスタンスで行こうとは思っている。けど……超緊張するんですけどぉ! ヤバいよ! デートヤバいよ! どうすればいいんだかさっぱり分からないよ!

 服とかも何着れば良いか分かんないし! とりあえず黒いパーカーに、ジーパンというシンプルなスタイルにした。危ない橋は渡れません! でも、地味すぎないか? これで良いのか!?

 

「友香、服とかこれで大丈夫だよな!?」

「朝から何回も同じ事聞くな! いいから早くしないと遅刻するよ!」

 

 お母さんかよ。まあ、確かにそろそろ出ないとマズいな。確か……11時、駅前で待ち合わせだよな……今は……10時10分。家から駅まで15分だから――

 

「さっさと行け!」

「おぐぅ!?」

 

 玄関前であれこれ考えていると、痺れを切らしたのか、友香がドロップキックを繰り出してくる。イライラするとシワが増えるぞ! お兄ちゃんヤダよシワある妹!

 俺はそのドロップキックの勢いに押されるまま家を飛び出し、待ち合わせ場所である駅へ向かった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 ――白場(しらば)駅前

 

 

 さて、待ち合わせ場所に着いたは良いが……まだ30分近くあるな……確か駅前の時計塔広場で――だよな。

 沢山の人が溢れかえる駅前。まあ、連休だしな。それにここ一応都心だし。

 人の荒波を進みながら、ようやく目的の時計塔広場に到着。時間でも潰そうかなー、と辺りを見回していると――

 

「世名君」

「ん? て、天城!? いつの間に……!」

 

 さっきまで居なかったはずの天城が背後に居た。気がつかなかった……というかまだ待ち合わせ前なのに早いな!

 

「も、もしかして待たせた?」

「ううん、私も今来たところ」

 

 おぉう……この会話アニメとかで見たことあるぅ……想像以上に……色々来るな。絶対相手待ってるはずだし、罪悪感がある。そして何か背中がムズムズする。何かハズい。

 いや、イカン! こんなんで照れてたら俺今日死ぬぞ! 気をしっかり持て世名友希よ!

 

「……どうしたの?」

「え!? いや何でも無い!」

「そう? ……ところでさ」

「はい何でございましょうか!?」

「えっと……服、何だけど……似合ってるかな……?」

 

 あぁー、これも何か見たことあるぅー! デート前のお約束的なあれだろ! 何かもう恥ずかしい! お家に帰って寝たい!

 とはいえ逃げる事は出来ないので、コメントするため天城のファッションを一通り見る。

 服装は……ピンクの膝丈ぐらいのスカートに白いシャツに、これまた可愛らしいピンクの上着。

 よく見ると髪型も違う。いつもは何も飾りを付けていないシンプルなロングヘアーだが、今回は後ろで束ねてちょい長めのポニーテールになってる。

 まあ、ファッションとか詳しく無いし、用語とかも全然知らないし、もう似合ってるとしか言いようが無いんだけどな。

 

「……どう?」

「へ!? あ、ああ似合ってる似合ってる!」

「そっか……良かった……」

 

 イカンイカン……つい見とれていた……というか天城が物凄く嬉しそうに顔を赤らめて肩を縮ませてるんだが。何これ可愛いんですけど。

 

「えっと……天城さん?」

「……え!? ご、ごめんちょっとぼーっとしてた……それじゃあ、行こっか」

「お、おう……ところで、今日はどこに行くんだ? そっち側に任せてたけど……」

「えっとね……まずは映画を見て……その後食事して……ちょっと買い物に付き合ってくれると嬉しいな」

「映画か……分かった。それじゃあ行くか」

 

 結構ちゃんとした感じのプランっぽいな……金は一応それなりに持ってきたし、大丈夫だよな、うん。

 いよいよデートの開幕だ……折れぬ心を持って、平常心を持って挑むんだぞ、俺!

 

 そう決意を固めた瞬間――天城が俺の手を握ってきた。

 

「…………へ?」

「友達でも……これぐらいしても良いよね?」

「そ……そうですねぇー……」

 

 はいもう心乱れましたー! この子可愛いよコンチキショー!

 俺はこの一日を無事終える事が出来るのだろうか――期待一割不安九割を抱き、最初の目的地、駅ナカの映画館を目指した。

 

 

 ◆◆◆

 

 ――映画館前

 

 

「で、何を観るんだ?」

「あれ! 今一番人気の映画だよ!」

 

 天城が目をキラキラと輝かせ、上にある映画のポスターを指差す。うん、スッゴい従順な瞳だ。て、見るのそっちじゃねぇわ。改めて天城が指差す方を向く。

 えっと……『君に届くように愛を叫ぶ』か……何か聞いたことあるもんが混ざってる気がするが……良いか。

 

「今一番話題な恋愛映画なんだよ! 私スッゴく楽しみで!」

「へぇー。女子の間ではこういうの流行ってるのか……」

 

 男子の間では隣のポスターにある『ロボットVS異世界怪獣』とかいう映画が話題らしいが。タイトルから微妙な感じが漂うが、かなりアクションが作り込まれたアニメらしい。

 アニメ好きとして正直気になるが、今日は天城に付き合う方が最優先だ。天城も本気で映画を楽しみにしてるらしいしな。

 

「それじゃ、券買いに行くか。金は――」

「前売り券持ってるよ!」

「観る気満々だったんだな……」

「ずっと楽しみにしてたから。それに……世名君と付き合えたら、一緒に観に行こうかなー、て……」

「そ、そうなのか……」

「うん……ちょっと形は変わってるけど、一緒にこれて良かったな……」

 

 ああー、何か色んな意味で胃が締め付けられる……俺はどうすれば良いの!?

 とりあえず前売り券を持ち、受付へ向かう。受付のお姉さんが少しニタッとした顔で見てくる。きっと初々しいカップル的な感じで見てるんだろうな……でもちょっと止めてくれ。何か色々心苦しい。

 席は真ん中ぐらいの席を確保。売店で適当に飲み物やポップコーンを買って、上映10分前ぐらいに、席へ着く。

 

「楽しみだなー……」

 

 天城は足をぶらぶら揺らしながら待ちきれない、といった表情で忙しなくポップコーンを食べる。本当に楽しみだったんだな……

 ジッとその天城を見ていると、不意に目が合う。すると天城が慌てて口に運び掛けたポップコーンを戻す。どうしたんだ?

 

「えっと……はしたなかったよね……?」

「ああ、そんな事か。別にそんな事無いよ、可愛らしかったし」

「かわっ……!?」

 

 そうひっくり返った声を出し、天城が顔を背けてポップコーンを頬張る。……言ってから気付いたけど、そういう事サラッと言っちゃ駄目だよ俺。

 気まずい感じになり、何とかしようとした矢先――部屋が一気に暗くなった。どうやら上映時間らしい。天城もそれに慌ててスクリーンの方を振り向く。まあ、終わったらまた自然な感じに戻るか……

 

 で、ついに上映が始まった。内容は病気のヒロインが――的な良くも悪くもベタな内容。まあ展開も早く、意外とのめり込める内容で楽しめた。

 途中何度か天城へ視線を向けたが、天城は完全に映画に集中していたようで、一回も目が合わなかった。まあ、楽しんでくれてるなら何よりだ……

 

 

 

 

 ――数時間後

 

 

「スッゴい面白かったね! 最後のシーン、私ちょっと泣いちゃったよ!」

「お、おう……」

 

 泣いたのにテンション高いな……まあ、気持ちは分からなくも無いが。

 

「……世名君、もしかしてつまらなかった?」

「え? そんな事無いよ。意外と楽しめたし、観れて良かったよ」

「そ、そっか! 良かった……」

 

 ほっと胸をなで下ろす天城。こう見ると結構感情がはっきりしてるんだな……近寄りがたい存在かと思ってたけど、全然そんな事無いんだな。

 そんな事を思ってると、天城がパッと俺の手を掴む。

 

「さ、次はお昼にしよ! 近くに美味しいレストランあるから!」

「お、おお……!」

 

 元気良く駆け足で歩く天城に引っ張られ、次の目的地である駅ビルにあるレストランへ辿り着く。イタリアン料理の店らしい。結構洒落た感じ……金平気かな?

 入店後、入り口近くの席に座り、適当にメニューを注文。天城はカルボナーラ。俺はミートソースとどちらもパスタ。後はピザにドリンクバー。これだけなら、俺一人でも払えそうだな。流石に男としてここは奢らないとな。

 しばらく映画の感想を語りながら待っていると、料理が来る。

 

「おお、美味そうだな。いただきまーす」

「いただきます」

 

 そう言うが、天城は手を動かさない。どうしたんだ? 何かトラブル? 少し心配になって声を掛けようとしたが、不意に天城の目に急に力が入る。

 

「世名君!」

「はい!?」

「…………はい! あーん!」

「…………え?」

 

 これは何かな? 天城が自分のカルボナーラを巻きつけたフォークを俺に向けてるよ? いや、流石にこれは俺でも答えは分かる。だが……良いのか? 色々良いのか!?

 

「……は、早くしてよ……! 恥ずかしい……」

「え!? あ、はい……!」

 

 恥ずかしいのはこっちなんだが……やるしかない! 行くんだ友希!

 覚悟を決め、差し向けられるカルボナーラに食らいつく。あ、スゲェ美味い。

 

「…………」

「…………」

 

 気まずい……天城超顔赤いし。そして俺もそう。ていうかこういうのカップルがやる事だよね! 俺達一応友人って事だし……でもあそこでスルーは流石に心苦しいし……ああー、もう訳分かんない! パニックナウ!

 

「……た、食べよっか!」

「そ、そうだな!」

 

 うん、今のはとりあえず無かった事にしておこう。そうしよう。あ、そういえば今天城が使ってるフォーク……いや、止めておこう。言ったら更に困った展開になりそうだ。

 

 それから俺達は会話を交わす事無く、黙々と食事を進め、店を後にした。

 

「ご、ごめんね、奢ってもらって……」

「いいよいいよこれぐらい!」

 

 ちょっと予想より高かったけど……

 

「えっと……これから買い物だっけ?」

「うん。洋服とか……色々見て回りたいな。それで、色々アドバイスとか欲しいなって」

「アドバイス? 俺の何かで良いのか? 俺ファッションとか詳しく無いぞ?」

「世名君のアドバイスが良いの。だって、世名君の好みな女性になりたいし……」

 

 前髪をクルクルしながら、照れ臭そうに目を逸らす。もうそれ以上可愛い行動しないで、俺の心がヤバいから色んな方向に!

 

「じゃ、じゃあ行こうか!」

「う、うん!」

 

 空気に耐えきれなくなり、天城の手を引っ張って駅ビルの洋服店を目指す。

 

「ふふっ……」

 

 途中嬉しそうな天城の小さな笑い声が聞こえる。俺の中の理性やら、告白が曖昧になった罪悪感が滅茶苦茶になりながら、店を目指した。本当……どうしてこうなった!

 

 

 

 ◆◆◆

 

 洋服店をいくつか回り、俺の「可愛い」やら「似合ってる」というアドバイスにならないアドバイスを聞きながら、ショッピングを続ける天城。俺なんかのアドバイスで決めて良いのだろうか……一応真面目に答えてるけど……

 

 で、ショッピング開始から数時間後、俺達はアクセサリーショップに立ち寄っていた。

 

「ありがとうね、荷物持ってもらって」

「別に良いよ。大して重くないし。それより、店見て回ったら?」

「うん、そうするね」

 

 そう優しい甘い声で言うと、両手が荷物で塞がっている俺の服の袖をちょんと摘んで来る。一緒に見ようって事か? それにしても何故この子は何もかも可愛い行動をするんだ? 俺軽く萌え死ねるよ?

 と、いうわけで天城と共に店内を回り始める。イヤリングにペンダントにリング――種類豊富なアクセサリーを眺めて行くと、突然天城が足を止める。その視線の先にはハート型の銀色を基調としたペンダント。ハートの部分は少しラメが入ってるピンク色。男から見ても綺麗だ。

 

「……これ欲しいの?」

「え!? いや、可愛いなって……ただ手持ちが無くなってきてるし、いいかな」

「……良かったら買ってあげようか?」

「ええ!? いいよ! 申し訳無いよ!」

「良いって。大して高く無いし、それに謝罪の気持ちも込めて」

「謝罪?」

「ああ。その……きっと天城は勇気を出して告白してくれたんだろうけど、こんな事になっちゃってさ……だから、せめてもの償いだよ」

「世名君……それじゃあ、甘えちゃおうかな……」

 

 そう微笑みながら囁く。ネットに天城マジ天使とか書かれそうな笑顔だ。本当に……色々申し訳無い。

 ペンダントを手に取り、レジへ持って行く。ちょっと出費が多いけど、たまには良いよな。

 

「お値段、一万円になります」

「…………ん?」

 

 あれ、聞き間違えかな? これ値札に¥1000って書かれて……

 改めて値札に目をやる。そこにはしっかり¥10000と書かれていた。

 ……0一個見逃してたぁぁぁぁぁぁ! 何ベタなミスしてんだ俺! まさか本当にこんなミスをするとは……だが、もう引き下がれない……意を決して我が財布から一万円札を出す。……大分出費したなー、俺。

 

「はい、これ……」

「わぁ……ありがとうね、世名君! 一生大切にする!」

 

 そうしてくれると有り難い。俺の一万円札も喜ぶ。

 店の外に出ると天城はすぐさまそのペンダントを首に下げる。ペンダントは天城の実に平均的な大きさの胸元で、ピンク色のハートをキラリと輝かせ、ぶら下がる。

 

「どう……かな?」

「……似合ってると……思う」

「えへへ……ちょっとお手洗いの鏡で確認してくる!」

 

 パタパタと駆け足でトイレがある方へ歩く天城を見送りながら、俺は近くの椅子に座り、天城の帰りを待った。

 しかし……今日は色々あったな……明日以降も続けられるか俺? まあ、今日は天城が楽しんでくれて何よりだ。色々天城の事も知れたし、一応成果はありかな――

 

「ねぇ、お兄さん?」

「ん?」

 

 今日の事を目をつぶり振り返っていると、不意に声を掛けられる。誰だ? 目を開けると、目の前に見知らぬギャル系の女性三人が俺を囲むように立っていた。え、何?

 

「良かったらー、私達と遊ばなーい?」

「絶対楽しめるから、行かない? お兄さん結構顔整ってるしぃ?」

 

 ……どういうこと? 何だ、逆ナンってやつか!? 何なの俺の謎モテ期! ……いや、でも流石にこれは分かる。彼女達、遊ぶ金目当てだ。俺から遊ぶ金を巻き上げようとしているんだろうが、残念ながら俺は今の出費でほぼ手持ちが無い。他を当たってくれ。

 そう彼女達に告げようとした矢先――

 

「ねぇ?」

 

 不意に天城の声が聞こえる。どうやら戻って来たらしい。ギャル系の彼女達もそれに後ろを振り向く。

 

「あぁ? 何かよ――ひっ!?」

 

 ん? 何か声が裏返ってたぞ。どうしたのかと俺も顔を上げると――同じように裏返った声を漏らし、顔を思いっきり引きつらせる。

 

「私の連れに……何かご用ですか?」

 

 てててて、天城さん!? 何故腕を組み仁王立ちで立っておられるのですか!? 何故そんなに殺気を放っているのですか!? 何故笑顔なのにそんなに怖いんですか!? ヤバいよ、オーラ的なの漏れてるよ、鬼神的なの出るよぉ!?

 ギャル達も天城の出すおぞましいオーラに汗だくになり、顔を引きつらせる。

 

「えっと……そのぉ……」

「用が無いなら――早急に立ち去ってくれませんか?」

「ひっ……ひいぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 ギャル達がまるで魔王にでもあったのかというほど大きな悲鳴を上げ、逃げ去る。うん、怖いよね。俺もちょっと逃げそうになった。

 

「――世名君、アイツらに何もされなかった?」

「は、はい! 何もしてませんし、されてません! ノー問題です!」

「そっか……良かった」

 

 天城の笑顔がまた優しく、安心感のある笑顔に戻る。

 そうか……分かったよ、天城の事。この子……感情が――喜怒哀楽がハッキリし過ぎてるんだ。

 嬉しい時は素直に喜ぶ。けど、怒る時は尋常じゃなく怒る。だからあの他の三人と居る時は嫉妬が全部漏れ出てああなってるんだ。

 

「それじゃあ、帰ろうか?」

「は、はい……」

 

 俺は改めてとんでもない人に告白されたんだな――そう、自覚した。きっと……いや確実に今のまま俺が他の誰かと付き合えば、天城は何をしでかすか分からない。多分、出雲ちゃんや朝倉先輩より危険な存在だ。

 早く誰と付き合うか答えを決めなければ――そう思っていた。だが、その前に四人のこの愛情(気持ち)から危険な要素を排除しなければ――俺に未来は無い!

 

「……俺、大丈夫かなぁ?」

 

 天城にも聞こえないよう、俺は小さく呟いた。明日以降のデートで知ることになるであろう他の三人の素顔に、この先の結末に怯えながら――

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 ――住宅街

 

 

 世名君とのデートの帰り道。私は家路を一人歩きながら、世名君に買ってもらったペンダントをいじりながら今日の事を振り返っていた。

 

「今日はとっても楽しかったな……世名君と映画見て、買い物もして、ご飯も食べて……そういえば、あーんとかしちゃったけど、世名君引いてたかな……?」

 

 で、でも食べてくれたし、問題無いよね! ……あれ? そういえばあの後私あのフォークで普通に食事――

 ふと、その事を思い出し、無意識に口元に右手を当てる。その瞬間、私の顔が火でも上がったように熱くなる。

 あ、あれってかん……いや! 別にたまにはあるよね、友人同士でも! でもした事に変わりはなくて……ああー! 頭が混乱してきたぁー!

 何とか気恥ずかしい気持ちを振り払い、無心を意識して家路を歩き続ける。……意識してる時点で無心じゃ無いか。

 

「……まあ、少しぐらい良いよね……? 一番最初何だし……」

 

 そう呟くと、明日以降世名君が他の三人とデートする事を思い出す。胸が痛くて、心がムカムカするので、考えるのは止め、私が世名君を好きになった日の事を思い出した。

 

 私が世名君を好きになったのは去年の今頃だった。

 

 学園のアイドルだとか、周りの人達がそう私を煽てるのが、私はあまり好きじゃなかった。

 でも、周りの男の人は私をいやらしい目で見たり、欲を丸出しで話し掛けたりしてくる。女の人も私を敬遠したり、妬んだりする人ばかり。海子や他の友人も居たし、辛いことは無かったけど、少しだけそれが嫌だった。

 

 けど、世名君は違った。

 一年で同じクラスになった世名君が偶然私の隣の席になって、この人も私を変な目で見るんだろうな――そう思っていた。でも――

 

 ――隣の席だな、よろしく。

 

 そう、普通に私に話し掛けてくれた。ただ何の変哲も無いただの挨拶。邪な気持ちも、敬遠する気も無い、純粋な挨拶。そんな何て事無い一言が、私は嬉しかった。

 それ以来、授業中も無意識に彼を見たりしている内に、彼の魅力に気付き、だんだんと彼の事が気になっていった。

 そして今年。私は世名君と違うクラスになった。最初は何も思わなかった。でも、その日々を数日過ごす内に、物足りなさを感じた。世名君に会えないのが、寂しかった。

 その時、ようやく私は気付いた。彼の事を――好きになっていた事に。

 だから、私は思い切って告白した。彼の姿を、いつでも側で見ていたいから。まあ、結局こんな結果になってしまったが。

 

 でも、私は諦めない。絶対に――

 

「――早く世名君と恋人になりたいなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 という訳で、こんな甘い感じになりました。
 かなり長くなったし、何か書いてる間気恥ずかしさで体が痒かったです。後三回もやれるのか……? 作者心配。
 そういえばサラッと出たけど、この物語の舞台は白場市という架空の街です。どうでもいいから覚えなくても問題は無しです。

 まあ、次回もお楽しみに。








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