モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

59 / 197
アイドルと修羅場は突然やって来るものである

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば……昨日、あれからどうだった?」

 

 香澄ちゃんのストーカー騒ぎの翌日。いつも通りに太刀凪書店で仕事をこなしている最中、ふと先日あの後どうなったのかが気になり、隣で俺と同じように陳列作業をする天城へ問い掛けてみる。

 すると天城はその問い掛けに、何故か肩をビクッと大きく揺らし、こちらへチラチラと視線を向けたり逸らしたりする。

 

「な、なんかあったのか……?」

「べ、別に何も無いよ! ストーカーもこれといったトラブルも無かったし、香澄もスッカリ世名君の事許したみたいだし!」

「そ、そうか……? ならよかったけど……何でそんな動揺してるんだ?」

 

 流石に反応のしかたが過剰過ぎる。それに顔も何故か真っ赤だし。こういう顔は何回も見てきたが、今の質問にそうなる要素は無いと思うんだが……

 

「やっぱり、昨日あの後に何かあったのか?」

「ほ、本当に何でも無いよ! ただ、上目遣いとか、スキンシップとか……」

「……どういう事?」

「べべ、別に! とにかく、何も無かったから!」

 

 そう言うと天城は俺から素早く顔を背け、気恥ずかしさを紛らわすように仕事へ戻る。

 

「香澄ったら、あんな事教えて……私には無理だって……」

 

 仕事をしながら、天城が物凄く小声でそう呟くのが耳に届いた。何の事かさっぱり分からんが……とりあえず問題では無いんだろうな。

 これ以上問い詰めるのは何だか可哀想だったので、俺は何も言わずに仕事に没頭した。

 

 

 

 

 

 

 

 その後も仕事をこなし続けたが、千鶴さんが「今日は店を早めに閉めるからもう帰れ」と言われ、俺達はいつもより少し早い午後三時頃に仕事を終える事になった。

 早く閉める理由は、どうやら昨日のストーカー騒ぎが関係してるらしい。あのせいでスーパーのバイトをクビになり、なおかつストーカーを撃退する為とはいえまた暴力沙汰を起こした燕さんをこってりを説教する為らしい。

 そんな理由で店を早く閉める事が認められるのかと思うが、太刀凪書店は何もかもがアバウトだ。それに店長である千鶴さんが決めたのなら、誰も文句は言えまい。

 

 何はともあれ、俺の本日のバイトは終わり。天城といつもの場所で別れ、俺は家へ帰宅したのだった。

 

「ただいまー」

 

 ドアを開けて玄関へ入った瞬間、そこがいつもと違う事に気付いた。

 玄関に今、家に居るであろう友香の靴とは別に、二つの靴があるのが目に入ったのだ。客か……友香の友達か? でもこの靴は男物だし……一体誰だ?

 客人の正体が気になりながらも、とりあえず渇いた喉を潤す為にリビングへ向かう。廊下を歩き、リビングの扉を開こうとした瞬間――そのリビングから不可解な足音が聞こえる。

 ドタドタという、人が慌ただしく動くような音。一瞬陽菜辺りかとも思ったが、さっき玄関に靴が無かったから今は留守のはずだ。ならば……客人?

 

「…………」

 

 なんとなく想像が出来た俺はどう対応しようか数秒程考える。そして考えがまとまった俺は、扉へ手を掛け、その扉を押し開く。

 

「友希ぃぃぃぃぃ!!」

 

 その直後、俺の数メートル先の正面に居たどこぞの馬鹿が雄叫びを上げながら拳を上げ、こちらへ突進するような勢いで走ってくる――と同時に俺は扉を半開きの状態で止め、バタンと閉めた。

 

「クローズ!?」

 

 そして突進して来た馬鹿は、その突然の閉鎖に反応出来ずに扉へと激突した。

 

「……暴れんな馬鹿。扉壊れんだろうが」

 

 扉にへばり付き、そいつがもう動かない事を確認してから、俺は扉を再度開き、リビングへと足を踏み入れた。

 リビング全体を見回すと、そこには呆れた顔の友香。そして無関心な顔をする裕吾の二人が居た。

 どういう状況なのか理解するのは後回しにして、とりあえず俺は真横へ振り向き、扉の近くで鼻頭を押さえてへたり込む馬鹿――孝司へと目線を移した。

 

「で、何の用?」

 

 いくら馬鹿とはいえ何の用無しに殴りかかってくる奴では無いだろう。……まあ、大体想像は付くけど。

 俺の問い掛けに孝司は左手で鼻を押さえたまま立ち上がり、右手で俺を指差す。

 

「決まってんだろ! テメェーカスミンと仲良くなったんだってな! だから殴りに来た!」

「訳分からん」

 

 まあ、そんな事だろうと思ったけどね。情報流れんの早いなぁ……こいつに知られたら面倒臭い事になるから教えないでおきたかったけど。

 そう心の中で愚痴を吐きながら、情報の流出元であろう裕吾へ視線を向ける。

 

「確かに伝えたのは俺だが、俺にその情報を教えてくれたのはそっちだ」

 

 と、裕吾は友香を指差す。

 

「お前……」

「いやー、ごめんごめん。口が滑った」

「……はぁ、まあいいけど」

「安心しろ。当然ネットには流してねーよ。知ってるのはここに居る奴と翼だけだ」

「出来ればこの馬鹿にも流さないでほしかったな……」

「いや面白そうだったから」

 

 お前の行動原理はそれだけか。俺は全然面白く無いの。はぁ……まあ、もう知られちゃったから仕方無いか。

 

「……で、それがどうして殴る事に繋がる」

「たりめぇだ! お前がいくらリア充しようが構わん……だが、ラヴァーズの恋人代表として、貴様を断罪する!」

 

 断罪って……とことん面倒だなぁ……やっぱり馬鹿だろこいつ。

 どうやってこの馬鹿から切り抜けようかと、頭を悩ませていると――ピンポーンとインターホンが鳴り響く。

 

「お、来客だ。じゃ」

「おい待てゴラァ! 話終わってねーぞ!」

「うるせぇな。客をほっとけねーだろ」

「妹ちゃんに任せとけよ!」

「いやぁ、ウチの妹は箱入り娘でねぇ……簡単に外の人と会わせる訳にはイカンのですよぉ……」

「嘘付くな! 今日も俺達を襟首ダルンダルンの服で出迎えに来たぞ、そこの娘さん!」

 

 友香よ……それは流石に無防備過ぎるぞ。お兄ちゃん心配。そういえば今も襟首ダルンダルンだわこの子。

 そう心で呟きながら来客出迎えに玄関へ向かう。それに孝司はしつこく言い寄りながらついて来る。

 

「ついて来んなよ……お前変人扱いされるぞ?」

「俺は社会的地位を失っても貴様を殴る! じゃないと気が済まないんじゃボケェ!」

「何その覚悟……馬鹿だろ、お前やっぱ馬鹿だろ」

 

 そんな会話を交えながら、結局ここまでついて来た孝司と共に玄関先へ辿り着く。流石にこいつも客の前では大人しくなるだろうと、さっさとドアへ手を掛けた。

 

「はいはーい……」

 

 ドアを開くと、来客らしき女性が一人、玄関前に立っていた。その女性は身に付けた帽子とサングラスを外し、俺達の顔を見つめてくる。その顔を見た瞬間、流石の孝司も口を閉じた。目を丸くして、驚愕の表情を浮かべて。

 

「こんにちは、世名さん! 遊びに来ちゃいました!」

「え、香――」

「カカ……カスミンンンンンンンンンンン!?」

 

 その孝司の叫びが、俺の声を掻き消し、周囲に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 まさかの来訪者、香澄ちゃんをとりあえずリビングへ上げ、適当な席へ座らせる。何故彼女が俺の家に来たのか、まずはその説明を聞こうと彼女へ質問を投げ掛けようとした直前――

 

「ほほ、本当にカスミン……!? マジで? そっくりさんとかじゃ無いよね? ドッキリとかでも無いよね?」

 

 興奮、動揺、混乱と、感情がごちゃごちゃな孝司が俺の言葉を遮り、香澄ちゃんへ問い掛ける。すると香澄ちゃんはアイドルのお手本と言っても過言では無い満面の笑みを浮かべ、首をちょこんと倒す。

 

「はい! みんなの妹、甘義カスミこと、カスミンです!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ! 生カスミン来たぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 彼女の決まり文句を聞いた瞬間、孝司はガッツポーズをしながら喉が潰れるんじゃ無いかと思ってしまう声量で叫び声を上げる。

 うるさっ……鼓膜破れる! 気持ちは分かるが近所迷惑だから静かにしてくれマジで……というか……俺の初対面と大分違うなこの子。アイドルモード入ってるとこんなに変わるのね。まあ、俺の場合は出会い方があれだった訳だけど。

 

「おお、俺ラヴァーズのファンでして! CDも全部持ってて……あ、こないだのライブ行きました!」

「わー! 本当ですか? そんなに応援してくれるなんて、私嬉しいです! これからもよろしくお願いしますね、お兄さん」

 

 と、言いながら握手会などで培ったのであろう実に手際の良い動きで、孝司と握手を交わす。孝司はそれに石像のように固まり、彼女が手を離した後も、数秒間動かなかった。

 が、孝司は突然動きだし、彼女と握った右手を天井へと高らかに掲げた。

 

「う……おぉぉぉぉぇぉぉぉ! 生握手来たぁぁぁ!! 俺、この手一生洗わない……!」

「そうか、よかったな。おめでとう」

 

 すると、何故か裕吾が孝司へ近寄り、右手を差し出す。

 

「おう!」

 

 そして、孝司はそれを反射的に握る。

 

「……ん? あぁぁぁぁぁぁぁ!? テメェ何握手の上書きしてんだゴラァ!」

「いや何かテンション上がり過ぎでウザかったから。つーか握手の上書きって何だよ。つーか握ってきたのお前――」

「シャラップ! カスミン、もう一回――」

「はいはいファンサービスの時間はここまでだ」

 

 これ以上は埒が明かないと、孝司を無理矢理香澄ちゃんから遠ざけ、彼女の正面に座る。

 

「で、何をしに来たんだ香澄ちゃん」

「それはもちろん、笑顔を届けに……」

「いやアイドルモードはもういいから」

 

 俺がそう言うと、香澄ちゃんは満面の笑みからスッと落ち着いた真顔へとあっという間に変化する。おお……流石オンオフの切り替えが早いな……

 完全にオフの状態になった彼女はコホンと咳払いをしてから、俺の顔を澄んだ黒目でじっと見つめながら、話し始める。

 

「来た理由は……先日の事を謝罪したくて来ました」

「謝罪……?」

 

 すると香澄ちゃんは腰掛けるソファーから立ち上がり、床に正座をしたかと思うと、両手と頭を床に付け――いわゆる土下座をし始めた。

 

「先日までの無礼極まりない態度と発言……大変、失礼しました」

「え、ちょっ……えぇ!?」

「世名さんを冒涜するような愚行の数々……ムキになってしまい、あのような事を口にしてしまいました。どうか、お許し下さい」

「その……と、とりあえず顔上げて! 別に怒ってないから! 俺も悪かった訳だし、もう忘れよう! だから、ね?」

 

 まだ出会って数日程度しか経っていない年下の現役アイドルの女性に土下座で謝罪されるという、恐らく誰も経験した事の無いであろう出来事に激しく動揺しながらも、彼女にこの行動を止めされるように促す。

 数秒後、彼女はゆっくりと頭を上げ、瞳を潤ませた物悲しそうな表情で、こちらを見つめる。

 

「……許してくれますか?」

「ゆ、許す許す! 全然許しちゃうから! むしろごめんなさい! 何でもするから! だから泣かないで、ね?」

「そうですか……ならよかったです!」

「……へ?」

 

 涙を浮かべた表情から明るい笑顔へ一変したのを見て、思わずポカンと口を開く。な、何がどうなった?

 そんな俺の唖然とした様子を気にせず、香澄ちゃんは大きく背伸びをして、無邪気に笑う。

 

「やっぱり世名さんは優しいですね……私ほっとしました!」

「えっと……香澄さん? これは一体……」

「ごめんなさい世名さん。ちょっと一芝居打たせてもらいました! 世名さん、あっさり騙されちゃいましたね!」

「し、芝居って……だけど、土下座なんかするか普通? それに、割と人が居るのに……」

 

 周囲な俺以外にも人は居る。そしてもれなく全員今の彼女の小芝居に少なからず動揺してるようだ。当然だ、中学生という若い女性が何の躊躇いも無く土下座をしたのだ。彼女も人前でそんな事をするのは、かなり恥ずかしいだろうに……

 が、彼女はあっけらかんととした顔で右手を立てて横に振りながら、明るい声を出す。

 

「あ、安心して下さい! 別に普通の土下座なんて、私にとっては屈辱的でも何でも無いんで! お偉いさんとかには散々してきたので、もう慣れっこですから!」

「そ、そうなのね……」

 

 芸能界闇深っ……ともかく、彼女が何とも無いなら……よしとしよう。

 

「それにしても……何でわざわざ芝居なんて……」

「それは……あれだけ酷い事したから、これぐらいはしないと許してもらえないかなーって。あ、謝罪の気持ちは本気ですからね! 本当に、すみませんでした!」

「だ、だからもういいって! この事はお互い忘れよう。な?」

「はい……やっぱり世名さんお優しいです! 演技なんて必要無かったですね」

 

 ニコッと笑う彼女の顔を見て、こちらも思わず顔が綻ぶ。最初は印象悪かったけど、この子も普通に良い子何だよなぁ……こうしてわざわざ謝りに来るんだし、本当は礼儀正しいんだな。

 

「……ところで世名さん」

「ん?」

「さっき……何でもするって言いましたよね?」

「…………言ったっけそんな事?」

「言いましたよ。何でもするから! だから泣かないで――って。私、記憶力は良いんで、よく覚えてますよ?」

 

 ああ……言ったな数分前に。動揺して思わず口に出ちゃったけど、迂闊だったなぁ……って、この子がそんな所をついてどうするんだ?

 まさかとんでも無い事をお願いされるんでは無いかと不安になり、無意識に唾を飲む。

 

「私ぃ、世名さんに一つお願いがあるんですけど……いいですか?」

「……内容による」

 

 その言葉に香澄ちゃんはニタリと不適な笑みを浮かべる。い、嫌な予感しかしないんですけど……

 

「それじゃあ……世名さん、お姉ちゃんと結婚してあげて下さい!」

「はい!? そ、それは……」

「――と、言いたいところですけど、そういうのはいけない事だって分かってるので、心の中に留めときます」

 

 よ、よかった……流石に強引にって訳じゃ無かったか……そこら辺は分かってくれてたか……という事は冗談――

 

「その代わり、別のお願い聞いてくれます?」

 

 では無かったようだ。甘くないなぁ……でも、一体どんなお願いなんだ?

 

「世名さん――是非、私の兄になって下さい!」

「……はい?」

 

 ど、どういう事だ……? 彼女の言ってる事が一瞬理解出来ず、思考が停止する。

 が、彼女は一人で会話を進める。両頬を手で覆い、体をクネクネ動かす。

 

「あの時の世名さん……カッコよくてぇ、頼りになってぇ――まさに私の理想のお兄ちゃん像にピッタリだったんです!」

「ああ……そういえば、兄に憧れてたとか……言ってたね」

「はい! ずっとそういう人を探してたんですけど、なかなか居なくて……でも、世名さんならピッタリだと思って! しかもお姉ちゃんの思い人! 一番重要なお姉ちゃんを幸せにしてくれる人っていう条件を満たしてる……もうこれ以上適任の人は居ませんよ!」

「えっと……その、悪いけどさ……まだ俺は天城と付き合うとか……そういう事を決めた訳では……」

「それは分かってます……けど、それを抜きにしても世名さんは私の理想的な兄なんです! だから是非、私を妹にして下さい!」

 

 な、何だこの子は……妹にしてくれって……つまりどういう事?

 全くもって彼女の心境が理解出来ず、どう問い質していいかも分からず困惑していると、外野から裕吾が口を出す。

 

「あー、天城の妹よ。それはつまり、私もあなたを巡る正妻戦争に参加します――って解釈でいいのか?」

「違います! それじゃあお姉ちゃんと敵同士になっちゃうじゃ無いですか! お姉ちゃんが悲しむのは嫌です! でも、妹なら別です! お姉ちゃんが結婚したら結局そうなるんだし、ノー問題です!」

「……だそうだ」

 

 分からん! つまりどういう事なの!? 俺は彼女に愛情的なのを向けられてるの!? それともそうじゃ無いの!? 妹になりたいって何!

 

「えっと……つまり香澄ちゃんは……どうしたい訳かな?」

「簡単です! 妹として甘えたり、妹として色々助けになったりしたいです! 後ぉ……お兄さんって、呼びたいなぁ……」

「…………」

 

 よく分からんが……つまり、こういう事か? 付き合うだとか、そういうんでは無く、俺を理想の兄と見立てて接したいって事か?

 ……結局よく分からんが、まあちゃんと節度は弁えてくれそうだし、困る事でも無い……のか?

 

 一体どう返すべきなのか……事の真意を完璧に理解しないまま悩んでいると、香澄ちゃんがウルウルと瞳を揺らしながら、上目遣いで俺の顔を覗き込んでくる。

 

「駄目ですかぁ……?」

「うっ……」

 

 いや分かってる……これも恐らく芝居を打っているのだと分かっている。だが――

 

「…………」

 

 今にも泣き出しそうな子犬のような目には……俺はとことん弱い。流石アイドル……こういうスキルは高いな。

 

「はぁ……分かったよ。それぐらいなら構わないよ。ただ、妹っていうならちゃんと節度は守ってくれよ?」

「はい! ありがとうございます世名さん! ううん、お兄さん!」

 

 泣き出しそうな顔はどこへやら再び満面の笑みを浮かべる。まあ、彼女達といがみ合う気は無いんだろうし、お兄さんって呼ばれるぐらいならいいか。

 

 

「ちょっと待った!」

 

 が、いきなり机がバンッ! と叩かれる音と共に怒号のような叫び声が響く。

 それにどうせ孝司辺りが納得いってないんだろう――そう思いあいつの方へ目をやるが、孝司はよく分からんがガチで凹んでるようで、膝を突いて崩れ落ちていた。

 あれ……じゃあ今の怒号は誰だ? そう思った矢先、背後から異様な迫力を感じ、慌てて振り返る。

 

「と、友香……?」

 

 そこには今までに見せた事の無い鋭い目付きでこちらを――というか香澄ちゃんを見つめる友香が立ち尽くしていた。まさか……今の怒号、こいつが?

 すると香澄ちゃんはその友香の威圧感に対抗するように目をギラつかせ、立ち上がって友香の目の前に立ち、友香の目を睨む。その雰囲気は昨日までの俺と接していた時と同様なものだった。

 

「……何ですか? そんな怖い目で睨んで」

「私は認めないから、あなたがお兄ちゃんの妹なんて」

「へぇ……何の権利があってそんな事言うんですか?」

「実妹の権利ですが……何か?」

 

 な、何だこの険悪な空気……こんな友香初めて見たぞ。

 

「……もしかして嫉妬ですか? みっともないですよ?」

「……私はただ、あなたみたいな奴がお兄ちゃんの妹に相応しく無いと思っただけ」

「ふーん……じゃあ自分は相応しいと?」

「そりゃ実際血の繋がった妹ですし?」

「血のねぇ……知ってます? 男性ていうのは実の妹より義理の妹の方が萌えるんですよぉ?」

「そんなの関係無い。大体、今はあなた赤の他人でしょ? ま、優香さんとお兄ちゃんが結婚したとしても、認めないけど」

「言ってくれますね……じゃあ、どっちがお兄さんの真の妹に相応しいか、勝負しますか?」

 

 何故にそうなる!? というか真の妹って何!?

 

「は? そんなの乗る訳無いでしょ? どんな事があろうと私はお兄ちゃんの妹なんだし」

「ふーん……もしかして怖いんですかぁ? 自分には妹の資質が無いって、私に負けるのが怖いんですか?」

「はぁ? んな訳無いでしょ? こっちはもう十六年間妹やってんのよ? いいわよ……受けてやろうじゃない」

「決まりですね……」

 

 いや、ちょっ……何でそうなった!? 何がどうなってるの!? というか友香お前どうした! キャラが崩れてるぞ! 基本傍観者で俺を困らせないというアイデンティティーはどうした!? そして香澄ちゃんも何故にそんな好戦的!? いや年上嫌いとは言ってたけども!

 ともかく、このままでは何だか面倒な事になりそうだと最近の経験から察し、二人を止めようと口を挟む。

 

「ま、まあ落ち着いて二人共! 一度冷静になって……」

「お兄ちゃんは黙ってて!」

「お兄さんは黙ってて下さい!」

「えぇ……」

 

 ピッタリとシンクロした二人の叫びに、呆気なく気圧され、俺は後ろへ下がった。

 ど、どうしたというのだ二人共……特に友香、お前に何があった? まさかとうとう来たのか反抗期! お兄ちゃん悲しい!

 

 でも、彼女達の様子はどこかで見たことがある。そう、ここ最近、嫌という程見てきた――

 

 

「さあ、どっちがお兄さんの妹に相応しいか……勝負よ!」

「望むところ……!」

 

「……修羅場だな」

「えぇ……」

 

 ……どうしてこうなった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 来訪したアイドルの突然の妹宣言。それに傍観者に徹していた友香が動き出す。

 次回、正妹戦争勃発! ……正妹って何?







▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。