モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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姉御肌なスワロー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁぁ……眠っ……」

 

 朝。まだぼやける意識の中、体を起こして低い唸り声を上げながら全身を伸ばす。枕元にある目覚まし時計を手に取り、時間を確認する。まだ九時前……割と早く起きれたな。夏休みはつい長時間寝てしまって、生活のバランスが崩れてきてたからな……これぐらい早く起きるのもたまにしといた方がいいな。

 

「……あれ、そういえば……」

 

 時計を元の場所に戻した時、ふとある違和感を覚える。ここ最近いつもなら勝手に忍び込んで隣で寝てる陽菜の対応をしていたが、今日は珍しく居ない。

 どうやら昨日は忍び込んだりしなかったみたいだな……ま、あいつも毎日来る訳じゃ無いか。

 毎回ああでは俺も疲れる。少しほっとしながらベッドから抜け出し、部屋を出て一階のリビングへ向かった。

 

 

 

 それからリビングへ着き、先に起きていた母さんと友香におはようと告げ、ソファーに座って友香と共に適当にテレビを見て母さんの作る朝食が出来るのを待つ。

 待っている間にリビングを見渡してみたが、陽菜の姿は無い。どうやらまだ寝ているようだ。 まあ彼女は自分の部屋で一人寝ている時は大体午前中はずっと寝っぱなしだから、予想は出来たが。

 その事は母さんも陽菜も重々理解しているので、彼女が起きるのを待たずに先に朝食を頂く。朝食は目玉焼き、ウインナー、トーストといった王道な朝食スタイル。それをササッと全て平らげてものの数分で朝食を済ませる。

 

 その後、母さんはパートの仕事がある為外出。俺と友香は食器洗いや洗濯を二人で分断して行い、手早く終わらせる。

 やる事も全て終わらせ、特にこの後の予定も無く、完全に暇になった俺達。適当にだらけながらテレビを見たり、本を読んだり、自室から持ってきたゲームを無言でプレイしたりと、グータラでだらしない兄妹という図がリビングに発生した。

 

 夏休みとはいえ社会人にとっては平日の午前中のテレビは大体ニュース番組ぐらいしかやっていない。流石にそれを見て暇潰しを出来る人種では無い俺達は早急にテレビを消し、俺は読者、友香はゲームと、それぞれ自由に暇を潰していた。

 

 

 そんな時間がしばらく続き、もうすぐ正午という時間帯に差し掛かった時、ピンポーンとインターホンが静寂に包まれてたリビングに高らかに鳴り渡る。それに本から視線を外し、友香もイヤホンを外して玄関の方へ視線を向ける。

 

「客か?」

「こんな時間に珍しいね……誰だろ?」

「さあ? 俺が出るよ」

 

 読みかけの本にしおりを挟み、適当にテーブルの上に置く。外に出てもおかしくない服装である事を確認してから、リビングを出て玄関へ向かう。

 

「はいはーい……」

 

 ドアに手を掛け、開く。玄関前に立っていたのは真夏だっていうのに暑そうな黒いパーカーを着た女性。その女性は俺と目が合うと同時に、フラフラと手を挙げてひ弱な声を出す。

 

「おーっす……」

「って、燕さん!? どうしてここに!? ていうか俺の家なんで知って……って、何か元気無いですね」

 

 こないだ知り合ったばかりである燕さんの来訪に驚き、次々と疑問に思った事が流れるように口から放たれる。すると燕さんはどこか虚ろな目をしたままその問い掛けに返答する。

 

「場所は鶴姉に聞いた。ここに来たのは鶴姉に言われた。元気が無いのは昨日の事で鶴姉にコッテリしごかれた……」

「あー……」

 

 なるほど、それじゃあ元気無いのも仕方無いか。というか見事に千鶴さん関連ばっか。

 

「で、千鶴さんに言われたって……何か用ですか?」

「あぁ……これ」

 

 右手に持った大きく膨れ上がったビニール袋を差し出す。それを片手で受け取ると、予想外の重さが腕全体に襲い掛かる。

 慌てて両手でしっかり持ち直し、中身を覗き込む。

 

「これって……スイカですか?」

「そっ。アタシが迷惑掛けたから、鶴姉がお詫びとして渡してこいって」

「迷惑だなんてそんな……こっちは助けてもらった身ですし、受け取れませんよ」

 

 迷惑だなんて思って無いし、むしろこっちはちゃんとした礼も出来ていない。こんなの貰う訳にはいかない。

 受け取ったスイカの入ったビニール袋を返そうと前へ差し出すと、それをはね除けるように燕さんは右手を広げて突き出す。

 

「いや、頼むから受け取ってくれ……それを持って帰ると鶴姉に何て言われるか分かったもんじゃねぇ……」

「そ、そうですか……じゃあ、遠慮無く」

 

 青ざめた彼女の顔を見て、受け取るしか無いと手を引く。

 

「はぁ……これでアタシの役目は終わりだ……じゃあ、これで……」

「あ、えっと……よかったらこれ食べてきます?」

「……何?」

「その、これ結構大きいですし、俺達だけじゃ食べきれないと思うんで、よかったらですけど……」

「……いいのか?」

「ええ。これが前のお礼代わりって事で……どうですか?」

「お前……やっぱり良い奴だなぁ! なら有り難く頂戴するぜ! 実は今無一文で、昼飯食えるかどうか分かんなかったんだよなぁ!」

 

 燕さんは一気に表情を明るくし、豪快に笑いながら肩を組んでくる。

 無一文って……まあ、これでこないだの礼はきっちり返したって事にしとくか。

 

「じゃあ、ついでに昼飯も食ってきます? スイカはオヤツって事で……」

「おぉマジか!? 悪いな色々世話になって! 良いダチに恵まれたもんだ!」

 

 ダチって……まあ、年もあんま変わんないし構わないか。

 

 それから燕さんを家に上げ、リビングへ向かう。状況を友香に粗方説明するとしっかり納得してくれ、燕さんの分を含め昼飯作りの為にキッチンへ向かう。

 その料理が完成するまで、俺は燕さんと共にリビングの適当に待つことに。燕さんはソファーに座り、足を組んで辺りを物珍しそうにキョロキョロと見渡す。

 その時、廊下へ続く扉が開き、陽菜がリビングへやって来る。だらしなくパジャマを着崩し、とても眠そうに目を擦りながらフラフラとこちらに向かい歩み寄る。

 

「ふにゃぁ……友くんおはよ…………って、誰!?」

 

 ボケッとしながら首を動かし、燕さんの姿を捉えたと同時に一気に眠気が覚めたようで目を大きく見開き、後ずさる。まあ、起きて知らない人が家に居たらそうなるよね。

 とりあえず互いの事を説明しよう。まずは燕さんに陽菜の事を教えようとした時、燕さんが急にポンッと手を叩く。

 

「ああ、アンタが噂の幼なじみか。アタシは太刀凪燕。友希の……一応ダチって事で」

「ダチ……あ、友くんのお友達なんですね! 私は桜井陽菜です! どうぞよろしく!」

 

 燕さんの自己紹介にあっさり返事を返す。順応早いなおい。寝起きなんだしもうちょい混乱したりあるだろう。つーか……

 

「燕さん、陽菜の事どうして知ってるんですか?」

「んあ? ああ、あの後裕吾の野郎から電話が来てな。それでお前の現状やら色々聞いたぞ。そういやアタシ電話番号教えた覚え無いのによく掛けてこれたな……まあ、別に構わないんだけど」

 

 何それ怖っ……まあ、裕吾の事だ。千鶴さん辺りに番号聞いたりしたんだろう。何故わざわざ俺の事を伝えたのかは分からんが……知っといてもらった方が今後関わる時安心か。……もしかして裕吾の奴こうなる事を見込んで情報を伝えといてくれたのか?

 そんな事を考えてると燕さんが顔を寄せ、耳元で小さく呟く。

 

「バイト先の事とか、言わない方がいいんだろ? そこら辺はちゃんと分かってるから任しとけ!」

「た、助かります……」

 

 天城との約束で彼女達にはバイト先を知られないように考慮してるからな……陽菜にも太刀凪書店の事は伝えてないし、深く聞いてこない。出来ればこのままの方が助かる。

 

「ところで、燕……さん? は、友くんとどう知り合ったんですか?」

「いや、こいつと優香がアタシの姉が店長やってる店のバイト帰りに不良に絡まれてるところを助けてやったんだよ」

 

 あっさりバラした!? しかも割と事細やかに! わざとでしょ、絶対わざとでしょ!

 

「バイト帰り……え、友くんと優香ちゃんって同じお店で働いてるの!?」

「……あ、悪い言っちった」

 

 燕さんも完全に無意識だったようで、自分でも驚いたような反応を見せながら謝罪する。

 まさか……こんな形で明かされる事になるとはな……いや、でも同じ場所に住んでる以上その内明らかになる事だろうと思ってはいたが……予想外なタイミングだったな。

 

「友くん、どういう事?」

「そ、それは……」

 

「もういいんじゃない?」

 

 どう答えるべきか迷っていると、リビングからラーメンのどんぶりを持った友香がリビングへやって来る。

 

「いつまでも隠せるような事じゃ無いんだし、陽菜さんには言っちゃえば? それに、彼女なら心配無いんじゃない?」

「うっ……まあ、それもそうだな」

 

 天城には悪いが、もう隠せないだろう。それに陽菜なら、自分もそこで働くなんてわがままは言わないだろうし、平和的に解決する事が出来るかもしれないしな。

 

「……分かった、ちゃんと話すよ」

「うん……でも友くん」

「……なんだ?」

 

 神妙な眼差しでこちらを見つめる陽菜。何か真面目な話かと思い、俺も自然と顔が強張る。

 が、次の瞬間彼女から出たのは言葉では無く――低く唸る腹の虫だった。

 

「……その前にご飯食べたい……」

 

 陽菜は表情を一気に崩し、猫背になりお腹を押さえる。……真面目だと思った俺が馬鹿だった。

 

「……飯食いながら話す」

 

 

 

 

 

 

 それから四人でテーブルを囲い、友香が作った醤油ラーメンを啜りながら陽菜にざっくりとした説明をする。

 俺と天城が燕さんの姉、千鶴さんが経営する太刀凪書店にて二人でバイトをしている事。そして天城に頼まれ、それを陽菜を含めた他の四人に内緒にしてほしいと頼まれた事と、その理由。

 それを聞くと、陽菜はズルズルとラーメンを口に運びながら考え込むように目を閉じる。そしてチュルンっとラーメンを飲み込むと、目を開く。

 

「つまり……優香ちゃんは友くんと二人っきりのバイトを邪魔されたく無いから内緒にしてて、それに友くんは協力してたって事?」

「まあ、そんな感じでいい」

「なるほどねぇ……そんな秘密を抱えてたんだぁ……全然気付かなかった! でも、これて気付かない方がよかった?」

「……いや、今回のは仕方無いよ。天城も分かってくれるだろうし。ただ、他の三人には内緒にしてくれると助かる」

「まあ、確かに出雲ちゃん辺りは一緒に働くー! とか言いそうだもんね。雪美さんも凄い事しそうだし!」

 

 何故かワクワクしたような口調で話を広げる。全然ワクワクしないんだよこっちは……問題起こしたら千鶴さんになんて言われるか分かったもんじゃ無い……

 

「ともかく、お前にはちゃんと――」

「分かってるよ。私は別にワガママ言わないよ。ただでさえ一緒に住んでるんだから、それで十分だよ。それに優香ちゃんに悪いし、迷惑でしょ?」

「陽菜……悪い、ありがとう」

「でも、隠し事されてたのはちょっと嫌な気分になったなー」

「それは……ごめん」

「いいよ別に。ただ、今度はあんまり隠し事しないでよ? いつか海子ちゃん達にも話すんだよ?」

 

 人差し指を立て、俺の鼻先に近付けて上下に振る。

 確かに……いつかは彼女達にも話さないといけないかもしれないな。……とりあえず、彼女達のわだかまりがある程度収まってからだな。

 

「クククッ……」

 

 突然、俺と陽菜のやり取りを黙って見ていた燕さんが小刻みに震え、笑い声を漏らす。すると箸を素早く動かし、陽菜を差す。

 

「アンタ、なかなか面白いじゃん! 気に入ったよ!」

「えっと……よく分かんないけどありがとうございます! あ、箸で人を差すのはよくないですよ?」

「おっと悪い悪い」

 

 箸を下げ、テーブルにコトリと置くと、隣に座っていた俺の肩を組んでくる。

 

「しっかし、面白い奴ばっかだなお前の恋人候補! 他の三人もこんな感じか? 是非会ってみてーもんだな」

「いやそれは……というか恋人候補って言い方……」

「……友くんと燕さんって仲良いんですねー。もしかして、燕さんも友くんに惚れちゃった人ですか?」

「は!?」

 

 突然陽菜が放った突拍子な言葉に、俺と燕さんは目を丸くする。だが、燕さんはすぐさま大口を開き、盛大に笑って、右手を横に振る。

 

「違う違う! アタシはそんな色恋沙汰には興味ねーよ! それにアンタらがコイツの事狙ってんのに、アタシまで首突っ込んで事をややこしくするような事はしねーよ! むしろアンタらを応援するつもりだよ、面白そうだし。よければ相談ぐらい乗るぜ?」

「あ、本当ですか! じゃあ、色々頼っちゃっていいですか?」

「おう、どんと来い! 友希も、なんかあったら相談しろよ? お前が恋愛事でウジウジしてる時は殴り飛ばしてやるよ!」

 

 力強く胸を張り、右手で拳を作ってドンッと胸元を叩く。

 殴り飛ばしてって……でも、何となく彼女は良い協力者というか……相談役になってくれそうだな。根はしっかりした人みたいだし、ちゃんとしたアドバイスをくれるかも……

 

「じゃあ、友くんにもっと好きになってもらうにはどうすればいいですかね?」

「そりゃお前、良いもん持ってんだからそれを使うっきゃねーだろ。いいか? もっと寄せてだな……」

 

 すると彼女は自分の胸を両側から挟みだす。黒いパーカー越しに、彼女の平均よりちょい大きいぐらいの胸が寄せられていくのが見て分かる。陽菜もそれを真似するように胸を寄せ上げる。彼女の燕さんより少し大きい胸が中心に集まり、着崩れたパジャマの隙間にくっきりとした谷間が生まれる。

 

 前言撤回……スッゲェ不安だわ。

 彼女の存在に先が思いやられた事と、思春期の男子には少々過激な光景から目を逸らすという二つの理由で手で目元を覆い隠し、はぁ、と溜め息を吐く。

 その俺の苦悩を察したのか、友香が頬杖をつきながら俺に話し掛ける。

 

「また大変になりそうだね」

「ははっ……全くだ」

 

 彼女が俺達の関係性にどんな風を巻き起こすのか……悪い方向に向かわない事を祈ろう。

 

「こうですか?」

「違う違う! もっとグイッと!」

「グイッとですか!?」

「もっともっと! バッと!」

「バッとですか!?」

 

「……いい加減にしろ」

 

 ……とりあえず今は、不安しか無い。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

「ところで友くん、スイカいつ食べるの?」

 

 昼飯のラーメンも平らげ、片付けを終えてリビングに戻ると同時に、陽菜が目を燦々と輝かせながら聞いてくる。

 

「お前……今昼飯食ったばっかだろ?」

「女の子の胃袋は無限大なの! ねー、燕さん!」

「そうだそうだ! さっさと食べちまおうぜ!」

 

 いつの間にか隣り合わせの席に座っていた陽菜と燕さんが肩を組み、体を左右に揺らす。

 何か仲良くなってる……それはいいとして、俺は流石にまだ腹パンパンだぞ? 出来ればもう少し経ってからがいいんだけどな……

 とはいえあの二人は完全に今食べる気満々だ。どうにかして諦めさせようかと、友香に味方についてもらおうと視線を向ける。

 

「…………」

 

 が、無言でどこからか持ってきた塩を片手に無表情、不動で待機する姿を見て速攻諦めた。

 こっちも食う気満々ですやん……これはもう即食べる感じか?

 

「分かったよ……食べますか」

「ヤター!」

「いよっし! じゃあ早速割るぞ!」

「割りませんよ! ちゃんと切ります!」

「えー、つまんなーい」

「つまんなくて結構! 切ってくるからちょっと待ってろ!」

 

 興奮する彼女達を残し、一人キッチンに向かって燕さんから貰ったスイカをまな板の上に置く。

 スイカはかなりのサイズで、俺の顔をすっぽり覆ってしまう程大きい。これ……四人だけで食べれるか? 母さんと、一応父さんの分も残しとくとして、それでも結構残りそうだな。

 

「……ま、とりあえず切るか」

 

 ここで悩んでいても仕方無いので、手早く包丁を手に取り、手軽な三角形に切り分け始める。一応包丁はそれなりに使えるので、さほど苦労は無く切り分けを終える事が出来た。だがサイズが大きかったので、余計に多く切り分けてしまった。軽く十切れ以上はあるな……

 

「……とりあえず持ってくか」

 

 母さんと一応父さんの分を別の皿に取り分け、他は大皿に乗せて、そのままリビングへと持って行く。

 

「お、来た来た!」

「待ってましたー!」

「何だ三角形か……もっと大きくてよかったのに」

「こっちの方が食べやすいだろ? さて……お前ら、これ何切れ食べれる?」

 

 俺の問い掛けに三人は声を出さず、無言で指を数本立てて答える。陽菜は二切れ、友香と燕さんは三切れだ。

 結構食うのね……俺は一切れが限界かな。でも、それでもまだ余るな……切ったんだから今日中に消化しときたいけど、どうしたものか……

 頭を指先でポリポリ掻きながら考えていると、友香が塩の入れ物の蓋をパカパカ開け閉めしながら喋り出す。

 

「……どうせなら誰か知り合い呼んだら? 裕吾さんとか、翼さんとか」

「あー、それもいいかもな……って、今日は無理だな」

「どして?」

「裕吾は何か用事があるとか言ってた。翼は確か遠くの親戚の家に遊びに行って白場離れてる。あいつは絶賛補習中」

「ふーん……じゃあ優香さん達は?」

「天城達か……メールしてみるか」

 

 都合が良いかどうか分からないが、とりあえず誘うだけ誘ってみるか。ポケットからスマホを取り出して、誘いのメールを全員に送信する。いつも彼女達は返信が早いし、すぐ返ってくるだろう。

 

 そして待つ事数分、返信が来る。一番最初は……出雲ちゃんだ。早速内容を確認する。

 

 ――もちろん行きます! 先輩から誘ってくれるなんてスッゴい嬉しいです!

 丁度先輩に会いたいなぁー、て思ってたんですよ! これも愛の力ですかね? 二人っきりじゃ無いのは残念ですけど……ともかく、今すぐ向かうんで待ってて下さい!

 

 

 ……何か関係無い内容もあったが、とりあえず来るという事でいいんだな。ここから近いし、すぐ来るだろうな。

 

 出雲ちゃんからのメールを確認し終えスマホをしまおうとすると、また別の返信が届く。今度は天城と海子、ほぼ同時にだ。それを天城、海子と続けて内容確認する。

 

 ――わざわざ誘ってくれてありがとう。でも、残念だけど今家族のみんなと隣町に出ているので、行けそうにないかな……本当にごめんね。また今度、都合が良い時があったら誘ってね?

 

 p.s 世名君の事だから他の子も誘ってるんだろうけど、あんまり私抜きで楽しみすぎないでね?

 

 

 ――誘ってくれて感謝する。だが、こんなメールを送ったのだから忘れているのだろうが、今私は田舎の祖母の家に遊びに来ている。来週までは滞在する予定だ。そういう事で悪いが、行けそうにない。

 田舎から帰ったら何か土産を持って行くので、今度それを食べよう。ではな。

 

 

 二人は来れないか……そりゃ家族の都合もあるし、仕方無いよな。というか海子の事は完全に忘れてたな……こんなメール送っちゃって悪い事したな……後で謝っとくか。

 つーか天城のp.s……何か言い知れぬ威圧感があるな。ていうか、誰かが来れなくて除け者になる事考えて無かったな……今回は海子も来れなくて一人除け者って事は無かったけど……今後はそういう事も考慮しないとな。

 

 内心反省していると、最後の一人、朝倉先輩からの返信が届く。そのメールも、すぐに目を通す。

 

 

 ――友希君からお誘いを受けるなんて、光栄ね。幸い予定も無く町をブラブラと歩いていたから丁度良かったわ。すぐにそちらへ伺うから、少し待っていてね?

 

 

 朝倉先輩は来れる……か。というか町ブラとかするんだなこの人。どれくらい掛かるか分からないけど、多分そんなに時間は掛からないだろう。

 

 とりあえず、これで全員か。海子と天城には悪いけど、これでスイカは何とかなるか?

 

「出雲ちゃんと、朝倉先輩は来れるって」

「そっか。スイカは十切れちょいだし、何とかなるかな」

「みんなでスイカかー……夏って感じでいいね!」

「だな! それにしてもまさか友希の恋人候補三号と四号にも会えるとは、楽しみだなー! どんな奴だ?」

「だからその呼び方……いや、もういいです」

 

 そういや燕さんの事あの二人に伝えようか……流石に今バイトの事を説明するのはあれだし、そこは隠して不良に助けてもらった事だけ話しとくか。……騒ぎが起こらないのを祈る。

 目を閉じて無事に済む事を願っていると、陽菜が急に声を上げる。

 

「……あれ、これもしかして二人来るまでスイカお預け?」

「当然だろ。誘っといて先に食うのはあれだろ」

「えー! そんなぁ……」

「嘘だろぉ!?」

「ガチで凹むな。それぐらい我慢しろ」

「……余計な事言っちゃったなぁ……」

「おい妹よ」

 

 食い意地凄すぎるだろう……はぁ、早く来てくれ二人共……この三人が暴走する前に。

 

 

 

 

 

 それから数十分後、出雲ちゃんと朝倉先輩は途中で出会したようで、二人揃って我が家にやって来た。

 

「は、早かったね……」

 

 玄関へ二人を出迎えに来たのだが、二人のどこか険悪なムードに思わず言いよどんでしまう。

 

「私だけ誘ってくれたかと思ったのに、どうしてこの女が……」

「……お邪魔するわね、友希君」

「ど、どうぞ……」

「あ! ちょっと先に上がんないでくれます!?」

 

 はぁ……けの二人は相変わらず仲が悪いというか……嫌な組み合わせになっちゃったな。

 しかし、そんな事言っても来たのだからもう無意味だ。彼女達の険悪のムードを仕方無しと受け入れ、リビングへ案内する。

 リビングの扉を開くと、廊下へエアコンの冷たい空気が流れ、暑さが籠もった通路を快適にする。

 

「お、来た来た」

「二人共、待ってたよー!

「おいっす!」

 

 リビングに入ると三人がこちらへ各々手を振る。それを見た瞬間出雲ちゃんと朝倉先輩は足を止め、しばらく静止。

 

「…………誰?」

 

 二人の声がピッタリと重なった。まあ、そうなるよね。

 手早く燕さんの説明をしてしまおうとしたが、それより前に二人が首を回し、俺の顔を睨み付ける。嫌な予感……

 

「先輩、誰ですかあれ? まさか……また幼なじみとか言いませんよね?」

「流石にこれ以上は……許容範囲を越えるわよ?」

「ち、違う違う! 彼女はそういうのじゃ無いから!」

「じゃあ何ですか!? というかぶっちゃけ女ってだけで許せません! あなた、先輩の何なんですか!?」

「場合によっては……ちょっとお話しさせてもらうけど?」

 

 イカン、いきなり殺気全開だ……やっぱりある程度説明しといてから会わせた方がよかったか?

 俺は闘争心を露わにする二人に動揺する中、燕さんはどこか感心したように顎に手を当て、口を開く。

 

「ほー、相当友希ラブな奴らだなー。安心しなよ、別にアタシはアンタ達の敵ではねーし、友希を泥棒する気も無いよ」

「友希君を呼び捨てとは……随分仲良さげね?」

「ただでさえ先輩と関わってる時点でムカツクのに……!」

「ちょっ、一旦落ち着こう! しっかり説明するから!」

 

 止まること無く闘争心を強める二人と、あっけらかんと座る燕さんの間に割って入る。二人は何とか気を静めてくれたようで、眉間に寄せていたシワを緩める。

 それから不良に助けてもらった事、俺の知り合いの妹さんである事(バイトの事は伝えずに)など、彼女の事を掻い摘んで説明する。

 

「……なる程、大体理解出来たわ」

「分かりはしましたけど……本当にそういうんじゃ無いですよね?」

「ち、違うって! 彼女もそういう気は無いし、ただの友達だよ!」

「友達でも若干許せませんけど……」

 

 出雲ちゃんと朝倉先輩は俺の説明を聞き終えると、燕さんの方を睨み付ける。その赤子が泣き出してしまいそうな迫力に燕さんは微動だにせず、堂々と頬杖をつきながら視線を合わせる。

 

「あなた……先輩に手を出さないで下さいよ?」

「分かってるって! むしろアンタ達の事は応援するスタンスだよ。相談事ならいつでも乗るぜ?」

「そう……でも、万が一色目でも使ったら……覚悟してもらうわよ?」

「肝に銘じておくよ」

 

「…………」

 

 一触即発な雰囲気に、俺はもはや関与する事すら恐ろしくなり、黙って彼女達の睨み合いを端から見る事しか出来なかった。

 だがそんな俺とは違い、陽菜が良い意味で空気をぶち壊すような明るい声を上げる。

 

「それより早くスイカ食べよーよ! 私もう我慢の限界……」

「私も賛成です」

「お、すっかり忘れてたわ! 食べよう食べよう! ほら、お前らも立ってねーでさ!」

「ちょっ、話はまだ――」

「いっただきまーす!」

 

 出雲ちゃん達とのピリピリした空気はどこへ行ったのか、燕さんは陽菜、友香と共にスイカを食べ始める。

 

「……何なんですか、この人」

「はぁ……」

「け、決して悪い人じゃ無いから、あんまりギスギスしないで……な?」

「……先輩が言うなら」

「まあ、彼女は友希君にはそういった関心は無さそうだし、構わないけれど」

 

 二人はどこか不機嫌な様子だが、そう言ってくれる。とりあえず、いがみ合う気は無いって事でいいの……かな?

 

「うっめぇー! やっぱり夏はスイカだな! お前らも食べようぜ! あー……おっきい奴と、ちっさい奴!」

「ちっさい言わないで下さい! 大宮出雲です!」

「胸で判断するなんて……下品ね。朝倉雪美よ」

「出雲に雪美か。よろしくなー!」

「呼び捨てしないで下さいよ! 言っときますけど、私あなたを認めた訳じゃありません! 先輩に関わる女はみんな敵です!」

「そー言うなよ、冷たいなー!」

「ちょっ!? 肩組まないで――ムフッ!? 胸っ……! 苦し……!」

「はぁ……下劣ね」

 

 これは……燕さん誰彼構わず積極的に交友関係築くなぁ……でも、ああいう風に彼女達に気さくに接してくれる事で、彼女達の間のわだかまりに、俺達の関係性に何か変化を起こして――

 

「しっかし、出雲おっぱいちっせーなぁ。そんなんじゃ友希の興味引くの大変だぞー?」

「よ、余計なお世話ですぅ! それ以外にも方法はありますから! というかまだまだ成長途中ですからぁ!」

「逆に雪美はでっけーな。何それ、F以上はあんだろ? ちょっと触らしてくんない?」

「無視しないで下さいよ!」

「教える必要無いし、友希君以外の生物に触らせる気も無いわ。弁えなさい下劣女」

 

 ――くれるのかなぁ?

 

 

 

 

 

 

 




 燕さんまたまた登場。
 作中でも言ってる通り、彼女は正妻戦争には参加せず、友希達の相談役といったポジションです。新ヒロインと思いワクワクしてた方には申し訳無い。

 といっても彼女は割と登場すると思います。準レギュラー辺りです。
 そんな彼女がこの修羅場に変化をもたらすのか、もたらさないのか? 今後の登場に期待。





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