モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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嵐の前の静けさ

「はぁ……」

「……17回目」

 

 溜め息の数をカウントするんじゃないよ親友A。というか俺ものの数十分でそんなしてるのね溜め息。まあ、仕方無いよね……

 

 天城達と決まりを決めてから数日経った。あれからまあ、大きな動きは無かったのだが……少し周りの男子生徒の視線が痛かったり、色々苦労している。多分「女の子に囲まれやがって!」みたいな憧れを恨みに変えているんだろうが……だったら代わってくれ! すげー辛いぞ今の俺の状況! 猛獣の檻に丸腰で放り出されるよりキッツイよ! そんな苦労も知らないのに俺を恨まないで!

 

「はぁぁぁぁ……」

「……18回目。朝っぱらから溜め息連発するな、気が滅入る」

「だったら一緒に登校するな……」

「出る時間帯が同じで家も近いんだからしょーがねぇだろ。というかあの四人とは登校しないのか?」

「そういうのは各々の時間帯や俺の家との距離だとか、色々不平等だから登下校は同行禁止って事になった。他にも色々決めてる」

「……大変だな」

「誰のせいだと思ってんだ! 元はお前が拡散しなきゃ――」

「俺が拡散しようがしまいが、結果は変わらんだろう。お前が天城と良い感じになれば、あの三人は動くだろうし、結局は今の修羅場ルート直行だ。それに、その方が色々面倒が増えただろうし、逆に感謝してほしいぐらいだ」

 

 た、確かにどの道結果は変わらないかもな……でもだからってお前の罪は俺は許さないからな!

 

「はぁ……もうどうとでもなればいいさ……」

「19回目」

「もういいよ!」

 

 

 ◆◆◆

 

 ――昼休み

 

 昼休み――それは勉学に勤しむ学生達に与えられた、休息の時。俺はそれを毎日楽しみにして、母(時々妹)作の弁当を食べながら次の授業へのエネルギーを養い、友と会話を楽しむ素晴らしい時と感じていた。

 ――だが、今の俺にはちょっとした地獄だ。昼休みは、奴らが来る。

 

「セーンパイ! 一緒にお昼食べよぉー!」

 

 来たか……出雲ちゃんが満面の笑みで両手に弁当をぶら下げながら我がクラスへとやって来る。一年なのに二年のクラスに堂々とやって来るのも凄いよね。

 そしてその出雲ちゃんの後ろには天城と朝倉先輩も居る。そして前の席に座る雨里も俺の席へ歩み寄ってくる。その三人の手にも、弁当が二つ。

 そう、あれから毎日のように四人は昼休みにやって来て、俺と共に昼休みを過ごしている。それは別に構わない。俺も四人の事を知れる良い機会になる。

 だが、問題はそこじゃ無い。彼女達は何故か毎回自分の分と別に、俺に弁当を作ってくる。しかも四人全員。嬉しいよ? 女子の手作り弁当は正直嬉しい。でも四つは多いよね? 俺の胃袋は風船レベルに脆い訳ですよ。だからそれはちょっとキツいんですわ。

 でも、彼女達はそんなの気にしてくれない。「ここで止めたら他の奴に引けを取る!」とか考えてるんでしょうけど、俺気にしないよ! というか今は止めてくれた方が好印象! まあ、そんな思いは届かないんですけどね。この子達本当に俺の事好きなの?

 

「今日は先輩の為にいーっぱい愛情を込めて作ったから、残さず食べてね!」

 

 うん、それ昨日も聞いた。出雲ちゃんの愛情は無尽蔵だねー。でも俺の胃はそれを受けきれないよ。

 

「わ、私も今日は趣向を変えてアッサリした物を作ってみた。さ、さあ! 残さず食え!」

 

 雨里、その心遣いは有り難い。でもちょっと量が多いなー。レタス弁当箱から飛び出てるよ。胃からも溢れそう。

 

 

「私は今回少し平凡な感じになってしまったわ。ごめんね」

 

 朝倉先輩、平凡って何ですか? 何か見たことある黒いのがあるんですけど。これあれですよね? 三大珍味的なあれですよね?

 

「みんな、個性を求め過ぎですね。お弁当は普通が一番何です。はい、世名君、どうぞ」

 

 おお……流石天城。ザ・お弁当だな。インパクトは無いが絶対うまい。でも何か嬉しくはなれない。

 

「……あのぉ、全部食わなきゃ駄目?」

「駄目」

「駄目だ!」

「駄目です!」

「駄目よ」

「……ですよねー」

 

 ……胃薬持ってたっけ?

 

 

 ◆◆◆

 

 ――五時限目

 

 

「うっぷ……」

「どうした世名ー。幸せ酔いかー?」

 

 ただの食い過ぎですよコノヤロー。てゆうか教師が生徒の恋愛事情に漬け込むな!

 結局弁当四つを全て平らげたのだが……もう死にそう。大食いファイターとか居るが、本当尊敬するわ。胃袋強いって凄い。

 

 まあ、そんなこんなで俺は胃に襲い掛かる苦痛に耐えながら午後の授業を耐えきり、何とか放課後を迎えた。

 ようやく帰れる……早く帰って家で胃薬飲んで休もう……そう思ったが、その帰宅(救い)への歩みを、胃痛の原因である四人に止められる。

 え、何? 俺何か悪い事した? 謎の威圧感を放つ四人に不安がっていると、代表してか、朝倉先輩が口を開く。

 

「友希君。今週末、デートしましょう」

「…………デート?」

 

 今そう言ったよな? デッドじゃねぇよな? でも唐突に何を……

 

「ほら、今週末からゴールデンウィークでしょう? だから交流を深め、お互いを知る為にデートしようかと?」

「へ? ああ……そういう事ですか……」

 

 そうか……もうそんな時期か。すっかり忘れてたわ……

 

「もちろん、朝倉先輩だけじゃ無く、私達全員とデートしてもらいますからね!」

 

 全員って……ゴールデンウィークほぼ潰れんじゃん! まあ、良いけどさ……やる事無いし。

 

「わ、分かったよ……それぐらいなら」

「じゃあ、週末から順番にデートね。忘れないでよ?」

「了解です」

 

 デートか……一体どうなるのか……とりあえず、何も問題が無ければいいが……

 

 

 

 ◆◆◆

 

 帰り道。俺は遅れながら事の重大さに気付いた。

 

「……デートって何するんだ……!?」

 

 そう、俺はデートなんか一度もしたことない。そんな俺があの美女四人と連日デート? どんな無理ゲーだよ! どうする? 何をすれば良いんだ? デートプランはそれぞれの彼女力を見せるとか何かで向こうが決めるらしいが、俺も男としてしなきゃならん事があるだろう。だが何をすればいい!? スキルも知識も無い俺が何をどうすればいい!?

 

「親友Aよ……俺はどうすればいい!?」

「俺に聞くな。というか何をだ?」

「んじゃ……まず何を着ていけばいい? オシャレとかした方がいいのか? どうなんだ!?」

「……適当にしろ。じゃあな」

「アドバイスぐらい頂戴!」

 

 そんな虚しい叫びも聞かずに、親友Aは去って行く。

 もう何なのアイツ! 冷たすぎるだろ!

 

「はぁ……もういいや」

 

 もういい……自分の力で何とかしてやる! というかいつの間にか家に着いてたし……仕方無い、家にある服を適当に出して、ネットで色々調べるか……その前に胃薬だな。

 

「ただいまー……」

 

 家に入ってすぐ、リビングへ向かい薬箱を取りに行く。

 

「あ、お帰りー」

「おう、ただいま」

 

 リビングに行くと妹の友香(ともか)がいつも通りソファーに寝そべりながらゲーム雑誌を読んでいた。本当に……家だからってだらけきってるのはどうかと思うぞ? 折角の美人が台無しだぞ。

 妹は外面は良くて友人も多く、それなりにモテるらしいが、家ではただのだらしない妹だ。

 まあ、そんな奴でも年頃の女子なんだよな……髪も俺と同じ黒髪だったが、今は茶色に染めているしな。……もしかしたらデートとかそういうのにも詳しかったりするのだろうか?

 

「…………」

 

 いやいや! 妹にデートの事聞くとかどんだけ情け無いんだよ! 流石に兄としての名が廃る! けど……

 

「……なあ、お前デートとかでして欲しい事ある?」

 

 結局聞いてしまった。情け無い兄で済まない……でもそんな微妙な顔で俺を見ないで!

 

「……何、出雲にデートに誘われたの?」

「……そんなところです」

「はぁ……そんな事で悩むとは……妹として恥ずかしい……」

 

 ごめんなさい。本当にごめんなさい。しょうがないよ、俺そういう知識皆無なんだもん。

 

「……まあ、別にその場で考えれば良いんじゃない? だってお兄ちゃんの事好きならどうでも喜ぶでしょ?」

「そ、そういうもんか?」

「そうだよ。出雲いつもお兄ちゃんの話ばっかしてるし。私も出雲の立場ならそう思うと思うし」

「友香……お前、まさかあの四人の仲間入りしないよな? 禁断の恋的なの望んでないよな?」

「思い上がるな馬鹿兄貴。どうしてそうなる」

 

 しょうがないだろ……今俺は謎のモテ期に遭遇してそういう事を想像してしまってもしょうがない精神なんです。だってお前反抗期とか来た覚えないし。

 

「私は別にお兄ちゃんの事嫌いじゃ無いけど、そんな思いは湧かないっての。大体今のお兄ちゃんに追い討ち掛けるような事しないわよ。困らせるのヤダし」

「友香……俺は今お前から理想の愛情を感じたぞ! お兄ちゃん感激!」

「抱き付こうとすな! 良いから明日のデートの事でも考えとけ!」

 

 妹のカウンターの蹴りを食らい、派手に仰け反る。鼻にダメージが……

 

「そうだな……とりあえずやれるだけの事はやって来るぜ……」

「頑張れー。あ、私は姉誰でも良いよー」

 

 気が早いだろ! 本当にどこまでが本気なのか……

 とりあえず、俺は自分の部屋へ戻り、デートに向けて色々試行錯誤を繰り返した。四人の事、何か分かれば良いんだけどな……詳しく話を聞いてみるか。それが今の状況を動かす手掛かりになるかもしれないしな。

 

 

 

 そんな一抹の期待と不安を抱えながら時は過ぎ――とうとう天国と地獄のゴールデンウィークがやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 




 主人公の胃を早速壊しました(物理)

 タイトル通り、繋ぎの回です。次回から、各ヒロインを掘り下げるデート回です。

 とても甘い感じになると思うので、お楽しみに。



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