モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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波乱まみれなプールデイズ~激闘の午後~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 激動の午前を終え、施設内の一郭にある休憩所でみんなと合流したと同時に、その場にある椅子に座り、頭をテーブルに突っ伏した。

 

「……お疲れだったみたいだな」

「えっと……ご愁傷様」

 

 同じ席に裕吾と翼が座り、労いの言葉を掛けてくるが、正直反応する気も起きない。

 予想以上にハードな午前だった……これから後三回――いや、これから数時間は全員での集団行動もあるからそれ以上か……はぁ、気が滅入る。

 だが、今日この日を俺は乗り越えねばならん。改めて気を引き締め、顔を上げる。瞬間、ふと別の席に居るあいつの姿が目に入る。

 その人物は孝司。何故か先の俺と同様にテーブルに突っ伏し、魂が抜けたようにくたびれてる。

 

「……どしたあいつ? 簡潔に教えて」

「ナンパ五連敗」

「あー……」

 

 そうだとは思ったけどやっぱりか。でもあんなに落ち込む事か? 失敗するのは分かり切ってるだろう。とりあえず見てるだけで生気が薄れるから、声掛けとくか。

 

「おーい、そんな落ち込んでんなよ」

「そうだぞ。お前が失敗するなんて当然だろう」

「失礼な事言うな! だいたいな、ナンパ失敗したのお前らのせいだぞ!」

 

 いきなり起き上がったと思ったら、裕吾と翼の事を指差す。

 

「お前らがついて来たせいでナンパが上手く行かなかったんだよ!」

「俺達は関係ないだろ」

「ありありだわ! お前らのせいで俺完全にアウトオブ眼中だったぞ!」

「俺達が居ようが居まいがお前はどうせナンパ失敗するよ」

「うるせぇ! 少なくともお前らが女の子のハートかっ攫ったのは事実だろ! あー、イケメンって妬ましい!」

「やかましいな……お前一回もナンパ上手くいった事無いだろう。今年も同じだったって事で終わろうぜ」

「終われるかぁ! 俺だってキャッキャウフフな夏を手にしたいんじゃぁ!」

 

「あのー」

 

 孝司の熱弁がヒートアップする中、別の席に座っていた友香が手を挙げて発言する。

 

「盛り上がってるとこ悪いけど……お腹空いた」

「ああ……悪かったな。よし、そんじゃあなんか買ってくるか。リクエストあるか?」

 

 会話を切り上げ、一人一人の食べたい物を聞く。

 全て聞き終えたところで、男性陣四人で休憩所を離れ、それらを買いに行く事にした。

 

 

 

 

「えっと……飲食店ある方ってどっちだっけ?」

「あっち」

 

 裕吾が指差した方角へ、四人並んで歩く。

 その間も孝司はローテンションのまま。ちょくちょく溜め息を吐いて、正直鬱陶しかった。

 

「あのな……そろそろテンション上げろウザったい」

「お前に俺の気持ちが分かるまい……俺に春はいつ来るの?」

「……前世?」

「俺の春終わっちゃってんの!?」

「ハハハッ……まあ、孝司君にもその内良い出会いがあるよ」

「だと良いですけど……ん? おぉ……!?」

 

 肩を落とし落胆したと思った矢先――孝司が目の色を変え、急に目的地とは別方向に歩き出す。とうとう壊れたかと思いながら、とりあえず追い掛ける事に。

 孝司は数メートル先の壁際で止まり、そこに貼られている水着姿の十代の女子高生達の写真が華々しく載っているビラのような物を食い入るように見つめる。

 

「なんだそれ?」

「どうやら来週ここでやるイベントの広告っぽいけど……」

「何々……『ラヴァーズチルドレン』スペシャルライブ! イン・白場プライムビーチ……なんだこりゃ?」

「お前ラヴァーズ知らねぇのか!?」

 

 俺がホツリとそう呟くと、孝司がいきなりグアッといきなり驚愕の表情で振り返る。

 

「何だよいきなり……そんなに有名なのか?」

「有名も何も、今一番来てるアイドルグループだろうが!」

「へー……知ってる?」

「僕はあんまりテレビとか観ないし……」

「俺は一応知ってる。ネットでも有名だからな」

 

 そうなのか……俺テレビは観るけど、そういう芸能人の事は詳しくないな。

 少し気にはなったので孝司にどんなグループか訪ねようとしたところ――

 

「そもそもラヴァーズチルドレンっていうのは去年辺りから頭角を現したグループでな――」

 

 俺の前振り無く勝手に語り出した。水を獲た魚のように生き生きしだしたな……そんなんだから春が来ないんだよ。ま、好きに語らせるか。

 

「全員現役女子中高生の七人からなる今同世代から絶大な人気を誇るトップアイドルグループ! 中でもダブルセンターのカスミンこと甘義(あまぎ)カスミと、ユカリンこと小鳥遊(たかなし)ゆかりがまー、可愛くて――」

「あー……もういいわ」

 

 流石にヒートアップし過ぎた孝司の話を遮り、落ち着かせる。そんなにテンション上がるかね……

 

「んだよまだ語れる事あるぞぉ? しかし……まさかここでスペシャルライブをやるとは……こんな重大情報を逃すとは、ラヴァーズの恋人として情け無い……!」

「恋人……? お前流石にそれは痛々しいぞ?」

「ちげーよ! ラヴァーズのファンの事を恋人って言うの!」

「あー、ラヴァーズって恋人たちって意味だっけ?」

「そういう風にファンをグループ名と絡めるの、たまにあるよな」

 

 そういうもんなのか……最近のアイドル業界分からん。というかお前ファンなのね。

 

「チクショー、スペシャルライブ見てー! なあ、来週もここ来ない!?」

「来ねーよ。というかお前来週補習だろ」

「そうだった……」

 

 それを忘れるぐらいテンション上がってたのか……しかし、アイドルか……

 何となく貼ってあるビラを見つめてみる。確かにみんな可愛らしい子だし、多分歌も上手いんだろう。そういうの興味無かったけど、孝司がここまではまってるとなると少し気にはなるな……

 

 

「先輩――こういうの好きなんですかぁ?」

 

 そんな事を考えていたその時――突如背後から聞こえた冷ややかな声が耳を通り抜け、背筋が凍る。

 恐る恐る後ろを振り返ってみると、そこにはどこか据わった目でビラを見つめる出雲ちゃんが立っていた。

 

「い、出雲ちゃん!? どうしてここに……?」

「先輩達が帰ってくるのが遅いんで、私が代表で様子を見に来たんです! けど……先輩こういうの興味あるんですねぇ。へぇ……」

 

 全身をゾワッと震わせるような冷徹で落ち着いた声を出しながら、ビラを睨み付ける。さ、殺気が漏れて出てる……

 

「ち、違うぞ!? これは、孝司の奴がファンで、俺達はその話を聞いてたっつーかなんというか……」

「なーんだ、そうだったんですか? なら安心しました!」

 

 そう言うとニコッと笑顔を見せる。よかった、機嫌を取り戻したようだ……もはや俺が接点の無い女子も敵対象なのね。気を付けなければ。

 そう肝に銘じ、改めて昼食を買いに行こうとしたが、出雲ちゃんが突然孝司の方を振り向く。

 

「ところで真島先輩?」

「は、はい?」

「先輩に余計な事吹き込んだら――マジでぶっ殺しますからね?」

「あ、あのぉ……大宮さん?」

「アハッ、冗談です!」

 

 キャピと明るい声を出しごまかしたが、今のは冗談を言う顔と声では無かったぞ。

 

「さて、行きましょう先輩! 私お腹ペコペコです!」

「そ、そだね」

 

 今の事を無かった事にし、俺達は再び歩き出した。これが波乱のプールデイズ午後、最初の波乱だった。

 そしてこれ以降も様々な波乱が起こるのも必然だろう。……大丈夫か、俺?

 

 

 

 ◆◆◆

 

 それから昼食を食べ終え、俺達は午後の行動を開始した。

 正午から二時間ほどはマンツーマンの行動では無く、全員揃っての行動になる。

 

 正直マンツーマン続きでは俺の精神面が色々と保たないので、この時間を作る事にした――のだが。

 

「友くん友くん! あそこのダイビングプール行こうよ! 一番高いとこから、ドボーンって落ちようよ! きっと楽しいよ!」

「そんな物より、あの波のプールとやらに行きましょう。興味があるわ」

「いーえ、先輩は私と泳ぐんです!」

「私はもっと泳げるようになりたいから、是非世名君に付き合ってほしい」

「わ、私は! 私は……何をすればいいんだろうか……」

 

 一番神経が磨り減る時間となってしまった事を――今まさに後悔しています。

 

 そりゃそうだよね……こうなるよね! みんな仲良く遊ぼうなんて事にならないよね! 俺の考えが浅はかだった!

 

「お兄ちゃんモッテモテェー」

「大変だな」

「が、頑張れー」

「流れるプールで延々流れろクソッ……!」

 

 他四人は完全に他人事。お前らも何か提案しよう! そうすれば平和になるよ!

 だが、四人は傍観するのみ。女子陣五人も俺を中心に流れるプールの周りでしっちゃかめっちゃか。そろそろ収まろう! 周囲に迷惑!

 

「オイコラー! そこ騒いでんじゃねーぞ!」

 

 すると突然、ドスの利いた女性の声が俺達の元へ響く。どうやら近くの監視台に座っている監視員の人に注意されたっぽい。

 

「す、すみません!」

「たくっ、小学生のガキどもで手一杯なんだ。お前らみたいな年長者はしっかりマナー守ってくれよなぁー!」

 

 どこか迫力のある声で一喝すると、監視員の女性は足を組み、刺々しい茶色の長髪を掻きむしる。

 な、何だかワイルドな人だな……女性の監視員ってのも珍しいが、それ以外も色々変わってるな。というかアイス食ってるし。

 

「チッ……ハズレかよ」

 

 監視員の女性は食べ終えたアイスの棒を雑に監視台の上に置く。どうやら大分荒っぽい人だな……あんまり騒ぎを起こさないようにしないと。

 

「と、という訳だし、大人しくみんなで流れるプールでまったりしようぜ? な?」

 

 俺の提案に彼女達は渋々(一人を除き)頷いてくれる。これで一安心……かな?

 騒ぎも一段落し、俺達は全員で流れるプールへと入る事にした。集団行動といっても、一カ所に集まらず、適当にある程度バラけてだ。

 

 だが、当然そのプール内でも、彼女達の激闘は収まる事は無かった。

 

 

「はぁ……気持ち良いねぇ……このまま延々と流れていたいよぉ……」

 

 一人でしばらく泳いでいると、プカーっと仰向けで、流れに無抵抗で浮かぶ陽菜が俺の方へ来る。表情はだらしなく緩み、完全にリラックスした状態。こいつには本当に闘争心ってのが無いのな……有り難いけど。

 そういや、泳げるようになったのか。まあ泳げなかったのは何年も前の事だしな。

 そんな陽菜としばらく並行してプールを流れていると、陽菜が突然抱えていたビーチボールをポーンと上に放り、キャッチする。

 さらにもう一回放り、キャッチする。それを何回も繰り返す。

 

「……何してんの?」

「んー……何だろ?」

「知るか」

「まー、なんか楽しいからいいや。トッ!」

 

 再度、ボールを放る。そのボールは今までと違い、陽菜の元では無く俺の方へ落下してくる。

 仕方無く受け止めようと俺も仰向けになり、落ちてくるボールを受け止めようとする。

 

「ワワッ、ミスった!」

 

 が、落ちる直前に陽菜が慌ててボールに手を伸ばす。そしてそのボールをキャッチした瞬間――

 

「へ――グホォ!?」

 

 陽菜の体が俺に覆い被さり――胸元の双球が顔面を押し潰した。

 その勢いのまま激しい水しぶきを上げ、俺の体は水中に沈む。慌てて上がろうとするが、陽菜の体が邪魔で上がれない。

 さらに、彼女の双球に挟まれるせいで、とても息苦しい。し、死ぬ――!

 

「アワワッ!? と、友くん!?」

 

 陽菜もその状況に気付いたのか、慌てて起き上がり俺を抱きかかえ、水上へ上げる。

 

「ガハァッ! ゲホッ! ゲホッ!」

「ご、ごめん友くん! 思いっきり押し潰しちゃった……」

「いや、良いんだけど……少しは考えろ……」

 

 あれを取ればそうなるって大体想像出来るだろ……少しは周りを見てほしい。まあ、陽菜も本気で反省してるみたいだし、攻めはしないけど……

 とりあえず無事に済んだ事に安堵し、体を動かそうとした時――ふと、頬に何かが当たる感触が走る。いや、頬だけでは無く顔全体に。

 一体何だと視線を少し動かしてみると――至近距離にオレンジ色の布地のような物が映った。

 

「……って!?」

 

 それが陽菜が着ていた水着だと理解するまでに、時間は掛からなかった。そう、俺はまだ陽菜の谷間の間に顔を埋めたままだった。というかむしろ陽菜が俺を抱き締めてるせいで、半ば強制的に埋められている。

 

「ちょっ!? 陽菜!」

「ん? どしたの?」

「どしたのじゃねぇよ! 離せよ! 色々ヤバイだろ!?」

「……? 良く分かんないけど、分かった!」

 

 そう言うとパッと腕を広げる。それとほぼ同時に、俺は即座に陽菜から離れる。

 あ、危なかった……色んな意味で。

 俺は全身に熱を帯び緊張してるのに対して、陽菜はキョトンとした顔でこちらを見ている。

 気付いて無い……訳が無いわな流石に。すると気にして無いって感じか? 風呂上がり見られても動じない奴だし、有り得る。

 必要以上に動揺されても困るが、こういう羞恥心が無さ過ぎるのも困るな……こっちの理性が危ない。

 

 とりあえず頬を思いっきり叩いてさっきの胸の感触を吹き飛ばし、記憶からも消す。が――

 

「あ、おーい!」

 

 陽菜が突然俺の後ろに向け、手を振るう。

 その行動が何を意味するか。それを察しながら、振り返ると――

 

「…………」

「なっ……のぁ……!?」

 

 顔を赤くしてわなわなと震える海子と、冷ややかな目でこちらを見る朝倉先輩が居た。

 俺はその事実に顔を青ざめ黙るが、陽菜は無邪気に話し掛ける。

 

「二人共居たんだ!」

「ええ、居たわよ。――あなたが友希君を押し潰したあたりから」

 

 最初から全部見られてた!

 

「アハハッ、危なかったよぉー。無事で良かったけど!」

「よ、良く無いだろう!」

「なんで?」

「なんでって……お、お前の胸がぁ……そのぉ……」

「……あ、おっぱい押し付けちゃった事?」

 

 随分どストレートに言うね!? 言葉濁そうとした海子の気持ちも考えなさいよ!

 

「別に私は気にしてないよ! それに、友くんだって別に嫌そうじゃ無かったし!」

「はいぃ!?」

 

 ここで俺に振る!? ていうか何その理由! 意味が分からないよ!?

 

「あれ? 友くんもしかして嫌だった?」

「へ!? あー、いやー、そのぉー、節度というか何というか……」

「へぇ……知らなかったわ。友希君にそんな好みがあるなんて」

 

 違いますよ!? 俺はそんな変態的趣味は持ち合わせておりません! ……嫌では無いけど!

 が、そんな俺の心の叫びも知らず、朝倉先輩はこちらへ近付き――俺の顔を自分の胸元へと引き寄せた。

 

「ナフッ!?」

 

 純白の水着に隠される彼女の豊満な胸に挟まれ、さっき叩いてヒリヒリして鈍っていた頬の感覚が一気に覚醒し、まるでプリンのように柔らかい感触が伝わってくる。

 柔らかっ! デッカ! なんだこれ!? というか何してんのこの人!?

 

「どうかしら友希君?」

「あ、あなたは何をしているんだいきなりぃ! 友希を離せ!」

「あら? 友希君がこういうのが好みと言うからしたまでよ?」

 

 言ってない言ってない! そんな事言ってません! 俺はそんなドスケベじゃ無いよ! 節度は弁えてるよ! ……嫌では無いけど!

 海子は口をモゴモゴさせながら、何とか言葉を発する。

 

「だ、だからといってこんな公共の場で……!」

「公共でもこれぐらいは構わないでしょう? それに――愛しの人にこれぐらい出来なきゃ、恋人になるのは程遠いのでは?」

「なっ……ぐっ……!」

 

 何だその謎理論……というかあなたも少しは羞恥心持とう! 何かされるのは恥じらうのに自分からやるのは恥じらは無いのはどうかと思うよ!

 そして海子よ、ジリジリ近付くんじゃ無いよ。お前には無理だ! 顔真っ赤っかじゃねーか! 今にも恥ずか死にそうじゃん!

 

「むー、雪美さんばっかりズルイよ! 私もギュッてしたーい!」

「駄目よ。友希君は私のものだもの」

「違うよ! 友くんはみんなの友くんだよ!」

「そ、それも違うだろう……」

 

 イカン……どんどん大事になって来た。このままじゃどこかで流れてる天城と出雲ちゃんも集まってくるぞ……そうなる前に騒ぎを収めないと――

 

「オイコラァ! 騒ぎ起こすなって言っただろ!」

 

 すると、再びあの荒っぽい茶髪の女性監視員がメガホンを使い、叫ぶ。すっかり忘れてた……

 

「あんまりうるさいようだとプールの藻屑にすっぞゴラァ!」

 

 監視員が藻屑にって……イカンだろそれ。それから藻屑はプールには使わないと思います。

 とりあえず、これ以上騒ぎを起こすのもあれだし、ここを離れるか。

 他の三人も同じ考えらしく、黙り込み、朝倉先輩も俺を離す。

 

「べ、別の場所行きましょうか?」

 

 

 それからプールを上がり、他のメンバーを探してから、別のプールへ移動した。

 その移動中、あの女性監視員が他の職員に説教されたのを見たが、関わらないでおいた。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 流れるプールを離れた後、俺達は大人しく競泳プールの一つで泳ぐことにした。

 もちろんトラブルが無かった訳でも無いが、ある程度平和に遊び続けた。

 

 そしてそろそろ全員での集団行動が終盤に差し掛かった頃、飲み物を買いに俺と友香。そして女性陣からジャンケンで選んだ代表の天城の三人で売店に向かっていた。

 

「お兄ちゃん、大分お疲れだね」

「ははっ、まあな……」

「えっと……ごめんね、世名君」

「別に天城のせいじゃ無いよ」

 

 一人一人ならむしろ平和的で楽しいし。何人か固まってると楽しいより疲れが強いんだよな。

 午後からのマンツーマンも一波乱はあるだろうし、頑張らないとな。

 そんな事を考えながらチラリと天城へ視線を向けると、彼女がどこか浮かない表情でいるのが目に入った。

 

「ど、どうした?」

「えっ……? あ、ううん何でも。ただ……もうすぐ世名君と海子達が二人っきりになるって思うと、モヤモヤして……」

「あ……それは……」

「気にしなくていいよ。世名君は真剣に向き合ってるだけで、非は無いもん。ただ……わがままを言えば、ずっと一緒がよかったけど……」

 

 小さな声を出し、シュンと肩を落とす。

 少し気まずい空気になり、会話が途切れると、友香が急にわざとらしく咳払いをする。

 

「第三者が居るの、忘れないでよ? 二人だけの世界に入らない」

「わ、悪い……」

「ご、ごめんね。私が変な事言ったから……」

「別に良いですよ。でも、最後はまたみんなで遊ぶんですし、気に病む事無いですよ。それに、来年もあるんだし」

「来年……?」

「来年もまたみんなで来ましょうよ。ね、お兄ちゃん?」

「ん? ああ、そうだな。この関係がどんな結果になろうと、別に天城達と縁を切るつもりは無いしな。よければまたみんなで来たいとは思ってるよ」

 

 みんながどうか分からないけど、誰か一人と付き合ったとしても、俺は出来る限り友達として付き合ってはいきたいしな。

 

「世名君……うん、そうだね!」

「ま、それまでにはちゃんと事が済んでるといいね」

「うっ……努力するよ」

 

 全く最後に余計な一言を……でも、気遣いには助かったな。

 空気も戻り、気を取り直して飲み物を買いに歩き出したその時――

 

「おおぅ!? 美人さん発見!」

 

 という声と共に、一人の男性が俺達の前に立ちふさがる。

 上下アロハのハワイアンスタイルに、グラサンをかけた金髪の二十代ぐらいの青年。何だろう……近付いちゃいけない気がする。

 

「しかも二人とは……これも神様の巡り合わせというものか……そこの麗しの諸君!」

 

 その男性はササッと華麗な動きでこちらへ近寄り、アロハシャツの胸ポケットから、一輪の薔薇を出す。

 

「どうですか? これから僕と素晴らしい一時を過ごしませんか?」

「は、はぁ……?」

「……どういう?」

 

 何だこの人……無駄にキャラが濃いな。もしかしてナンパか? そんな馬鹿な真似する奴があいつ以外に居たのか。

 別にナンパするのは本人の自由だが、二人も困ってるようだし、止めとくか。

 

「あの、すみません」

「ん? おや、これは気付かなかった。もしや彼女達のお連れの方かな?」

 

 気付いてなかったのかよ……でも一応話は通じそうだ。

 

「まあ……そんなところです」

「それは……! 既に相手の居る女性を誘うとは……紳士として失格だな……いやぁ、すまなかった!」

「あ、いや別に……」

「おっと、失礼。これ以上、君達の時間を邪魔してはいけないな。それでは、青春を謳歌したまえ、少年!」

 

 そう言うと、男性は颯爽とその場を去って行った。その男性が数秒後、近くの他の女性に同じような言葉を投げかけているのが聞こえた。

 

「……お兄ちゃん、あれ何?」

「……あれは変人だ。不用意に近付いちゃいけないぞ。お兄ちゃんとの約束」

「うん。言われなくても近付かない。なんか危ない気がする」

「そ、そうだね……でも、他の人に比べたらマシな方かもよ?」

「他?」

「う、うん。私も何回かされた事あるし。もちろん、全部断ってるけど」

「そっか……天城美人だし、ナンパされた経験ぐらいあるか」

 

 そりゃこんな可愛い子が居たら声掛けたくなるわな。何だか少し複雑な気分だけど。

 

「……ん? どした天城?」

 

 ふと目をやると、天城は何故か俺から目を背け、忙しなく両手をモジモジと絡ませていた。

 

「だ、だって……いきなり美人とか言うから……」

「……へ?」

「お兄ちゃん……デリカシーぐらい知っときな」

「えぇ!?」

 

 今の俺がいけないの!? 美人って誉め言葉だよね!? なのに何で責められるの!?

 

「はぁ……色々先が思いやられるね。みんな待ってるし、行こ」

「お、おう……!」

「うん……!」

 

 何だかスッキリしない形で終わったが、俺達は友香を先頭に再び歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 何だか濃いゲストキャラが多かったプール回中盤戦。
 過激なシーンがあるのはプール回ならでは?

 次回は残りの三人とのマンツーマンの後半戦!




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