モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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波乱まみれなプールデイズ~開幕~

 

 

 

 

 

 

 

 雲一つ無い晴天。辺りに充満する熱気。耳を激しく刺激する蝉の鳴き声。

 そんな夏らしいものが溢れる中に聞こえる、どこか心地よいエンジンの音と細かな揺れ。その揺れを全身で感じながら、辺りを目だけを動かして見回す。

 

 俺は今、バスの中に居る。

 車内には俺の他にも多くの乗客が居る。その中には妹の友香に、裕吾達男子組、そして天城達五人も居る。

 俺達が何故みんな揃ってバスに乗っているのかというと、当然ある場所へと向かう為だ。

 

「あ、見えてきたよ」

 

 隣の窓際の席に座る友香に肩を叩かれ、窓へと視線を移す。そして視界に、ある建物が映った。

 街中から少し離れた場所にある、巨大な一つの施設。白場プライムビーチ――いわゆる、プールメインのレジャー施設。あれが、今回の俺達の目的地だ。

 

 

 この夏休み中にプールへ行くという事自体は決めていたが、ちゃんとした日程は決めてなかった。でもこないだの買い物でプールの話題が出た事をきっかけに、俺は今日この日に行く事を決め、全員を誘ったのだ。

 幸いみんな都合がよく、すぐにでも行けるとの事だったので、この8月2日――8月最初の日曜日である今日、みんなで白場市内にあるこのレジャー施設へ来たのだ。

 

「やっぱりデッカイ場所だねぇ……でも、どうして今日行こうって思ったの?」

「ん? 思い立ったら吉日って言うだろ? 8月終盤は色々予定決まってるし、早めの方が良いかなって。それに……」

「それに?」

「みんなも何か考えて動き始めてるらしいし、俺も動かないとなって思って」

「ふーん……相変わらず真面目だね。ま、それはともかく今日は楽しもうよ。せっかくなんだし」

「……そうだな」

 

 今回はあくまで友人達とプールに遊びに来てるんだ。なら、目一杯楽しむか。

 そう気を楽にさせながら、バスが施設に到着するのを、席に座り待った。

 

 

 ◆◆◆

 

「夏だ! プールだ! 水着だ! 美女だ! ワー!!」

 

 水着に着替え終え、外に出るや否や、孝司が両手を大きく空へ突き上げながら高らかに叫ぶ。元気だなぁ……

 

「お前よくそんなハイテンションでいられるな……明日から補習だろ?」

「分かってるよ! だから俺は今日思いっきり現実逃避するんだい! 水着美女に囲まれて英気を養うんだ!」

「随分と正直だね……」

「まあ頑張れ。一人で遠泳でもしとけ」

「地獄か! 俺の魅惑のボディにかかれば女子なんかわんさか集まんだよ!」

 

 魅惑のボディって……確かに孝司の体は多少引き締まってるけどお前に女子は集まらんだろう。何故ならこのグループには二人が居る。

 スポーツなんて全くしていないのに体が引き締まってる裕吾は女性の好みにどストライクだろう。

 泳げない翼はパーカーを着て完全に観覧スタイルだが、こいつはどこでどんな格好であろうと女子(ついでに男子)が集まってくるだろう。

 そんな女性ホイホイが二人も居るのにお前に集まる物好きが居るとは正直考え辛い。淡い期待を抱くだけ無駄だと思う。お前は流れるプールで延々流れとけ。それが幸せだ。

 

「……今とてつも無く失礼な事考えてただろう」

「……うん」

「認めんのかい! 何だよお前だって去年までは同じ立場だったろう! 俺は忘れないぞ! 去年ここ来た時俺とお前で三時間ぐらい競泳プールで泳ぎ続けた事!」

 

 あー、あったなそんな事。二人が女子に逆ナンされまくって暇してたからな。あれで大分泳ぎのスキルが高まった気がする。

 ま、今日は多分そうもいかないだろうな。何せ今年の俺は去年と違い、相手をする人が多い。

 

 

 

「セーンパーイ!」

 

 すると後ろの方から、聞き慣れた活気ある明るい声が響いた。その声に後ろを振り向くと、こちらへ駆け寄って来る黒色のパーカーを着た出雲ちゃんの姿が目に映った。

 

「すみませーん、待たせちゃいました?」

「いや全然。他のみんなは?」

「トロかったんで置いてきました! 友香はちょっと遅れるらしいです!」

「そ、そっか……それより出雲ちゃんもパーカー着てるけど……もしかして泳げない?」

「違いますよ! 水着は一番は先輩に見せたいから隠してきたんですよ!」

 

 そう言うと出雲ちゃんはニヤリと笑みを浮かべ、パーカーのチャックを開き、バッと脱ぎ捨てる。

 

「ジャーン! どうですか? ドキッとしました?」

 

 自信満々に胸を張り、自分の水着をアピールするかのように腕を上げ、頭の後ろで手を組んで、まさにモデルのポージングのように立つ。

 出雲ちゃんの水着は黒を基調としたビキニ。左胸の布地には紫の蝶の柄があり、何だか大人っぽい感じの水着だった。

 

「むー、何ですかその微妙なリアクション」

「え? あ、いや少し驚いたというか……似合ってるよ」

「なーんかあっさりしてるけど……まあ、良いんですけど」

 

 少しムスッとしたように頬を膨らませる。

 いや、可愛い事には可愛いんだけど、やっぱり出雲ちゃんにはこういう大人っぽいのよりもっと可愛らしいのが似合うと思うんだよな……でも、前にそんな事言ったら機嫌悪くなったし……言わない方がいいか。

 それに、ドキッとしたのは事実だし。スタイルは少し大人しめだけど、全体的なバランスだったら標準以上と言っても過言では無いし、普通に美人なんだよな……

 

「ん? どうしました先輩? あ、もしかして見惚れちゃいました?」

「そ、そうじゃないよ!」

「もー、照れなくていいんですよ! 先輩にならいくらでも見せちゃいますからぁ……ほらほら!」

「い、いやぁ……」

 

 流石に女性の水着を凝視し続けるのは……色々キツイので遠慮しときたい。

 

「あ、真島先輩はあんま見ないで下さいね。本当に」

「まだなんも言ってねぇだろ! ごちそうさまでした!」

 

 ごちそうさまって何だよ。後輩に対して頭下げるなよ情けない。そのお辞儀の角度仕事の上司とかにするあれだぞ。

 当然出雲ちゃんもそれにはドン引きのようで、ゴミを見るような目で孝司を見下ろしてる。うん、あれはしょうがないね。俺でもそうなる。

 

 そんなちょっとした騒ぎを起こしていると、突如周囲がどよめき始める。

 一瞬騒ぎ過ぎたかと思ったが、どうやら俺達に向けてのものじゃ無いっぽい。じゃあ一体なんだ?

 

「あら、何だか賑やかね」

 

 そのどよめきの中、誰かが俺達に話し掛けてくる。

 なるほど……どよめきの正体はこの人か。そう納得しながら、後ろを振り返る。

 そこには予想通り、水着を着た事によりその豊満なスタイルを露わにした朝倉先輩が立っていた。そりゃこんな日本人離れした銀髪美女が現れたらガヤガヤするわな。

 

「お待たせしちゃったわね。それにしても……プールというのはよく見られる場所なのね。落ち着かないわ」

「いやぁ……それは先輩は別かと……」

「クッ……デカい……」

 

 出雲ちゃんが爪をかじりながらボソッと呟く。やっぱり女性にとっては敵視する存在なのかな、先輩って。男から見てもデカいのはよく分かるし。

 あれ? そういえば先輩が着てるの……こないだの買い物の時一番最初に試着した白いのだな。結局あれ買ったのか。

 

「ところで先輩、他の三人は?」

「そろそろ来るんじゃないかしら……ほら、噂をすれば」

 

 朝倉先輩が指を指した方から、天城、海子、陽菜の三人がこちらへ歩んでくるのが遠目に見えた。

 三人もこちらへ気付いたようで、陽菜が声を上げながら手を大きく振る。

 水着姿の美女が三人が並んで歩いているのは、何だか凄い光景だった。あの空間だけ何だか別次元に感じる。あんなのと知り合いで、好意を寄せられてるって……俺凄いな。

 

「友希……」

 

 そんな事を考えていると孝司が突然俺の肩を叩く。

 また愚痴を言われるのかと憂鬱になりながら振り向く。が、何故か孝司は若干涙目で、震えていた。そして、小さく口を開いた。

 

「ありがとう……!」

「……キモイぞお前」

 

 まあ、ありがとうって言っちゃう気持ちは男として何となく分かるよ。でもそれを声に出しちゃイカンよ。お前そんなんじゃ彼女出来んぞ?

 そんな友人の未来を少し心配してると、陽菜達が俺達の元へ辿り着く。

 

「おっ待たせー!」

「すまんな、少し着替えに手間取ってな」

「世名君達、待っててくれたんだ」

「まあな。これで後は友香だけか……何してんだあいつ」

「お手洗いじゃない? それより友くん友くん!」

「ん?」

「私達の水着、誰のが一番可愛い?」

「……は?」

 

 なんの前触れも無く言い放たれた陽菜の質問に、俺は思わずぽかんと口を開いてしまう。こいつ……いきなり過ぎるだろう。

 天城と海子も質問に一瞬驚いたように反応するが、すぐに迫真の表情でこちらを見つめる。

 これは……決めろって事か? 参ったな……とりあえずコメントしとくか。

 でも流石に適当に返すのもあれなので、軽く三人の水着を確認してみる。

 

 天城はシンプルな白の布地にピンクの花柄のビキニ。スタイルも実に平均的で、個人的にベストバランスな体型だ。目立ったところは無いが、見てて何だか癒される。

 

 海子は上は白と水色のボーダー柄に、下はデニムのショートパンツといったスタイル。体型も天城より少し抑え目って感じで、実に健康的だ。なんだかいつもより胸が大きい感じがするが、もしかして着やせするタイプか?

 

 最後は陽菜。オレンジを基調としたビキニ。他二人に比べると胸元のインパクトは桁違いだな……前に風呂上がりに遭遇した時も思ったが、やっぱりスタイル良いなこいつ……

 

「もー、友くんったらそんなにマジマジと見ちゃってぇー!」

「あ、あんまり凝視するな!」

「ちょ、ちょっと恥ずかしいかな……」

「ご、ごめん!」

 

 しまった……思わずじっくり見てしまったな。仕方ないよ、男の子だもん。

 

「で、結局誰がよかった?」

「え? あー……み、みんな似合ってるんじゃないかな? アハハハッ……」

 

 結局はぐらかす感じになってしまった……だって正直差なんて分かんない。本当にみんな似合ってるし、これしか言えない。

 三人もどこか不満げな顔だが、どうせそう言うだろうと思っていたのか、何も言わなかった。

 

「と、ともかく! みんな揃っ……て無いけど、今日は思いっきり楽しもう!」

「もちろんです! それじゃあ――」

 

 出雲ちゃんが俺の隣に近寄り、俺の腕へとしがみつく。いつもと違い布地が少ないせいで肌の感触が直に伝わってきて、思わず全身がブルッと震える。

 

「早速行きましょう先輩! 私流れるプールに行きたいなぁ……」

「待ちなさい」

「まさか……あなた一人友希君を独占するつもりかしら?」

「え、そのつもりですけど?」

「冗談じゃない! そんなの認められるか!」

「そうだよ! みんな仲良く遊ばないと!」

 

 ……やっぱりこうなるよね。みんなで何て行くとは思ってない。

 だから、今回は俺にも考えがある。

 

「……みんな、少し聞いてくれるか? 出雲ちゃんも、一旦離れてくれる?」

「うっ……分かりました……」

 

 出雲ちゃんが渋々俺から離れる。それから少し呼吸を整え、みんなへ視線を向ける。

 

「今日は一日中、大体……五、六時間はここに居る予定だ。その間、俺は誰か一人にずっと付きっきりのつもりは無い。その代わり、しっかりみんなに付き合う時間は個々に作る」

「つまり……私達みんなそれぞれにマンツーマンで付き合う……って事?」

「ああ。それ以外は集団行動だ。みんなも、それで良いか?」

 

 俺の提案にみんなしばらく黙り込む。だが、納得してくれたようで、みんな黙って頷く。

 よかった……誰かが反発したら終わりだったけど、何とか理解してくれたか。

 

「ありがとう。しっかり平等にするつもりだから安心してくれ」

「良いですけど……だれからとか順番は決まってるんですか?」

「そこは……みんなで話し合ってくれ」

「……分かったわ。じゃあ、平等にあれね」

「あれって?」

「遊園地の時と同じか……」

「今回は負けませんから……!」

 

 あれ……? ああ、あれか。あれなら平等に決まるな。ここは彼女達に任せとくか。

 

 彼女達は早速順番決めの為、少し離れた所で集まる。あれをしているだけなのに、以前同様に何故か殺気が漏れ出てる。大丈夫だよね? ちゃんとあれやってるよね?

 

 

「何だか大変だねー」

 

 彼女達が順番決めをしている最中、突然現れた友香が俺の隣へ立つ。こいつ……どこからいつ来た?

 友香は身に着けたピンク色のビキニの肩紐を指先でいじりながら、横目でこちらを見る。

 

「でも、お兄ちゃん大丈夫なの?」

「何がだ?」

「一日で全員と付き合うって、相当大変だよ?」

「それに、あの一癖も二癖もある奴らだ。お前耐えられるのか?」

「そこは頑張るよ……不安だけど」

「ファ、ファイト!」

 

 こうなった以上、死ぬ気で頑張るか。

 それに、いくらマンツーマンの時間を設けるとしても、基本は集団行動。それにより彼女達の仲が少しでも良くなればいいと思ってる。その為にも、色々頑張らないと。

 

 何はともあれ、プールを舞台にした波乱の一日が――いよいよ始まった。

 

「あーいこでしょ! あーいこでしょ! あーいこで――」

「……長ぇな」

 

 

 

 

 

 




 とうとう始まったプールイベント。
 各ヒロインとのマンツーマンで巻き起こる甘い展開。
 集団行動で激闘が繰り広げられる修羅場。
 そして果敢に挑む孝司のナンパの結末(これはどうでもいい)

 果たしてどうなるのか、次回プール編本格始動!



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