モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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波乱の夏
夏休みの予定は前もって決めとくものである


 

 

 

 

 

 

 

 ――天城の誕生日デートから、かなりの時間が経過した。

 あれ以降、目立った事は起きず、至って平和な日々が続いた。彼女達も決して事を起こさない訳では無く、相変わらずいがみ合っているが、それでも大事は無い。

 

 そして今日は7月23日。いつの間にか、今週末に夏休みが始まる時期に入っていた。

 そんな時でも、いつもと変わらない日常が繰り広げられていた。男四人で昼休みを過ごすという、何ら変わらない日常が。

 

「はぁぁぁ……」

 

 昼飯も食べ終え、適当に時間を潰していると、突然孝司が盛大に溜め息を吐きながら頭を机に埋める。

 

「……どうしたんだいきなり」

「元気無いね?」

「元気? そんなの出る訳ないだろ?」

「何でだよ。お前去年の今頃ウッザイ程ハイテンションだっただろ」

 

 確かにそうだな。「夏休みだぜヒャッハー!」とか言ってウッザイぐらいハイテンションだったな。だが今の孝司からはハイテンションのハの字も感じられない。

 

「フッ……去年の俺はお気楽だったな……でもな! そんな風に今はなれねぇよ! だって夏休み来ちゃうんだぞ!?」

「良い事じゃん」

「良い訳あるかタコ! 俺には補習っていう地獄が待ってんだよ! やだよー! 夏休み来んなよー!」

 

 ああ、そういえばこいつ赤点取ったんだったな。という事は夏休みには補習が待ってる訳だ。俺は何とか逃れたが、ここの補習はかなりキツいらしい。

 

「でも赤点取ったお前が悪いだろう。せっかくみんなに協力してもらったのによ」

「うるせぇ! 馬鹿の脳内容量の少なさ舐めんな!」

「威張んなアホ!」

 

 だが、確かに舐めたらイカンな。こいつは多分九九すら全部覚えられなさそうだし。特に七の段とかスッポリ抜けてそう。

 

「馬鹿の事はほっといて……お前ら、夏休みどうするんだ?」

「僕は……特に決まって無いかな。あ、でも親戚の所には行くかも」

「俺も特には……夏休みもバイトあるし」

「……お前そんな気楽で大丈夫か?」

「なにが?」

「夏休みといえば男女間が一番お盛んな時期だろう。お前、しっかりあの五人相手出来んのか?」

 

 そうだよなぁ……何とかして平等に付き合うとは考えてるが、俺そんな超人じゃ無いし、しっかりスケジュール決めないとな。下手したらとんでもない事とか起きそうだし。

 

「大惨事になる前に、しっかり話し合った方が良いんじゃ無いか?」

「そうだね。友希君だってプライベートの時間は欲しいだろうし、彼女達もそこはちゃんと決めたいだろうし」

「……その方が良いか」

 

 なら、今日辺りに話し合って夏休みをどうするか決めとくか。夏はイベント盛り沢山だし、あの五人がそれを逃すとは思えないし。

 

「おい、我が親友よ」

「……何だ補習の親友H」

「夏休み……海とかプールとか……行くよな?」

「……ああ、お前の補習期間中にな」

「それは止めて! お願い誘って! 地獄を耐え抜いた俺に恵みを分けておくれ!」

 

 どんだけ必死何だよ……どうせあれだろ。水着目当てだろ。そりゃあんな美女達の水着姿を見たいと思うのは当然だろう。まあ、一応頭の片隅に入れとくか。

 

「はぁ……とりあえず、みんな誘っとくか」

 

 明日は終業式だし、今日放課後に夏休みをどうするか話し合わないと。……色々不安はあるが、避けて通れない道だ。

 意を決し、俺は皆に誘いのメールを送った。

 

 

 ◆◆◆

 

 ――放課後 世名家

 

「……という訳で、夏休みをどうするか……について話したいんだが、構わないか?」

 

 自室に流れる沈黙に汗を垂らしながら、発言する。

 それに部屋に固まって座る天城、海子、出雲ちゃん、朝倉先輩、陽菜の五人はそれぞれ無言で頷く。

 

「じゃあ、とりあえずは夏休みっていう期間をどうするかって事なんだけど……」

「それって、夏休みに何するか決めるって事?」

「……そうだな」

「おおー! いいねそれ! 海にプールに夏祭り! それから肝試し、花火に――」

 

 本題に入る前に、陽菜がワクワクとした表情で次々と夏の風物詩を呟いてく。話を聞けよ本当に……

 

「……で、そういうイベント事もそうだが、夏休みっていう長期の休日の間をどうするかって話なんだけど……みんなはどう?」

「極論は友希君と二人っきりでずっと共に居るのが理想的ね。休みなんだし」

「私も先輩と出来る限り一緒が良いです! 二人で!」

「私も……友希と一緒が望ましい。……出来れば二人で」

「……みんな意見は同じみたいね」

 

 ですよねー……でもそれは出来ん。だって俺は一人ですから。そんなに無休でみんなの相手は出来ない。陽菜は居候だから例外だけど。

 

「それはもちろん理解してる……けど、そこを何とか我慢してもらって……出来る限りみんなで……って事にしてくれないかなぁ?」

「……というと?」

「その、もちろんデートとか、二人っきりで付き合う事もする! でも、プールだったり夏祭りだったりとか、夏休みっていう時でしか出来ない大きな事は、みんなで行けたらいいなって……」

「……つまり、友希君とのデートはあるけど、基本はこのメンバー全員で――って事かしら?」

「その通りです。せっかくの夏休みなんだし、みんなで思い出作りってのも悪く無いかなって……もちろん! デートとかは積極的に付き合うし、誰かを除け者にとかはする気無いから!」

 

 夏休みっていう長い期間と数々のイベント事を、みんな平等で分けるなんていう事は俺には出来ない。でも、みんなまとめてなら可能だ。

 夏休みだから出来る特別な事は二人っきりになれないが、普通のデートなら一対一で受ける。それで何とか納得してもらいたいんだが……

 

「どう……かな?」

「……正直、先輩との夏祭りデートとか、期待して無かった訳じゃ無いです。けど……」

「友希にも都合がある。仕方無いが、そこは我慢する」

「それに、私達も夏休みは予定が無い訳じゃ無いしね。友希君と付き合える日が平等に近いなら、一応文句は言わないわ」

「世名君が考えたんなら、それでいいよ」

「みんな……」

 

 良かった、みんな納得してくれた……やっぱりみんなこの短い期間で少しは仲良く――

 

「でも、決してあなた達に遅れを取る気は無いわよ?」

「当然です。プールとか行っても、先輩は私が独り占めしちゃいますから」

「やれるものならやってみなさい。私は世名君をずっと見てるから」

「出来る限り優位に立つ……それは常に心掛けておくつもりだ」

 

 ――なってんのかなこれぇ? いや、ポジティブに考えよう。ただ、いつ独断行動に出るか分からないが……今は考えないでおこう。

 

「んー……難しい話は分かんないけど、とりあえず夏休み何するか決めようよ! みんなは何がいい?」

 

 四人が火花を散らす中、陽菜は気楽に喋り出す。こいつはマイペースだな。

 そんなマイペースの陽菜に闘争心も薄れたのか、四人は落ち着きを取り戻す。そこから改めて、夏休みの予定を決める。

 

 まずは各々の決まっている予定を聞く。みんな親戚の家に行くなど、家族絡みの予定があるらしく、常に暇だという訳でも無いらしい。ただ、皆期間がある程度固まっているのが幸いだった。

 

「じゃあ、次は何をするか、どこに行くか決めるか。みんな行きたいとことか――」

「海!」

 

 俺の言葉を遮り、陽菜が真っ先に手を挙げる。だから最後まで聞けよ。もういいけど。

 

「まあ、それは外せないわな。となるとプールもか?」

「後は夏祭りに、花火大会……肝試しなんかも良いかもしれないな」

「何というか……ベタなのばっかりですね。ま、私は先輩と一緒なら何でも良いですけど」

「それは同感だけど……少し物足りなさを感じるわね」

「うーん……あ、そうだ! 雪美さんって、お嬢様何だよね?」

「あら、あなたには話した覚えは無いけど……」

 

 朝倉先輩はチラリとこちらへ目を向ける。うっ、そういえば報告するの忘れてた……

 彼女が朝倉グループの娘と陽菜に伝えたのは俺だ。以前四人の事を陽菜に教えていた時、口が滑った。とはいえ、その事は朝倉先輩も天城達三人には俺との初デートの後、自らの口から伝えたらしいし、問題は無いだろう。それに俺の家族に、裕吾達と、俺の関係者には知られても問題無いと朝倉先輩も言ってくれてたし。

 とはいえ、隠し事をあっさり教えちゃったのは申し訳無いな。後で謝ろう。

 

「……まあ、構わないのだけれど。確かにその通りだけど何かしら?」

「お嬢様なら、別荘とかあるんじゃないかなーって思って……」

「確かに、夏には行こうとしてたけど……まさか連れて行けと?」

「いや、イベントとしては強いと思って!」

 

 陽菜の無邪気な提案に朝倉先輩は少し俯き、顎に手を当てて考え込む。

 

「そうね……何もする事も無いし。いいわ、あなた達を招待してあげる」

「やったぁ! ありがとう雪美さん!」

「ただし、あなた達はオマケよ。私はあくまで友希君を招待するの。別荘の近くには海もあるから、一緒に泳ぎましょうね?」

 

 朝倉先輩は他の四人に冷たい視線と言葉を浴びせると、俺に優しい言葉と笑みを向けてくる。反応し辛い……でも、別荘か……凄い夏休みになりそうだな。

 

「何か気に食わないけど……まあ、乗ってあげますよ。先輩と一緒なら良いですし」

「別荘かぁ……どんなのがあるんだろうね? 友くんはどう思う?」

「俺に振るなよ……」

「しかし、こう話していくと割と色々やる事があるな」

「そうね。大きなイベント以外にも……不本意だけど個々のデートなんかもあるだろうし」

 

 確かに、流石夏休み。やる事はまだまだありそうだ。

 

「よし、じゃあ他にする事を決めて、その後は出来る事をまとめて、日程を決めるか。どんどん案出せよ!」

「山登り!」

「釣り……とかどう?」

「海外旅行?」

「お泊まり会とかも良いかも! それから――」

 

 

 ◆◆◆

 

 結局、二時間程話し合いは続き、何とか大体のやる事とスケジュールも決まり、問題無く解散した。

 まだ未定のところだったり、不確定なのも少なくは無いが、これで夏休み本番に慌てて予定を組む――なんて事は無いだろう。

 色々あるだろうが、この夏休みという期間で、少しでも事が進展すると良いな。彼女達の仲も少しはいがみ合いが無くなって、そして俺の思いも少しは変われば――

 そんな思いを抱きながら、俺は夏休みが来るのを待った。

 

 

 

 ――そして、とうとう波乱の夏休みが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 夏休み前の予定決めの回。いわゆる繋ぎの回。
 まだどういった感じになるか分かりませんが、プールや夏祭りといった王道のイベントに加え、各ヒロインとの甘いエピソードに、新キャラの登場、ちょっとしたサブキャラとのエピソード等々、盛り沢山な内容になると思います。
 是非、楽しみにしてて下さい。

 という訳で次回、夏休み編堂々スタートです!



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