モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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イベントは連続するものである

 

 

 

 

 

 陽菜とのデートから一夜明けた月曜日。

 またまた俺の部屋に忍び込んだ寝ぼけた陽菜をあしらった後、俺は憂鬱な気分で学校へ向かった。

 何故憂鬱なのか。学校へ行けばあの四人から昨日の事を聞かれる可能性もあるから――それも理由の一つだが、今回は違う。

 

 俺が憂鬱な理由。それは……今日、先日行ったテストが返ってくるからだ。

 テストをする時も憂鬱だが、返ってくる時も憂鬱だ。予想より上なら喜ぶし、下なら凹む。それだけなら良い。自分一人で一喜一憂するだけだ。

 

 だが、そうもいかないのが現実だ。何故なら、ウチの学校ではテストの結果が下駄箱前の掲示板に堂々と張られる。つまり、俺のテストの結果が全校生徒に知れ渡るという事だ。そんなの憂鬱にならない方がおかしい。

 赤点は免れたと思う。だが、それでも自分の結果が第三者へ知られるのは良い気分では無い。しかも、俺は今学園ではちょっとした有名人だ。あの学園のアイドルその他多数に告白された奴が大して勉強出来ない奴――そんなの赤っ恥だ。

 

 大体テストの結果を張る理由はなんだ? そんなの公開処刑じゃ無いか。絶対このシステムを考えた人は馬鹿の気持ちを考えた事無いだろ。というか――

 

「脳内で愚痴ってるとこ悪いが……学校着いたぞ」

 

 共に登校していた裕吾の声に顔を上げると、目の前には乱場学園の校舎が。いつの間に着いてた……色々考え事してて無意識だった……最近多いなこういう事。

 というか、何で裕吾(こいつ)は俺の脳内を勝手に予想して当ててるの? エスパーですかこいつ。

 

「お前は分かりやすいんだ。行くぞ」

 

 また読まれた……俺ってそんなに単純?

 

「そういえば……もうすぐあれだけどお前大丈夫なのか?」

「あれ?」

「忘れてるのか……まあ、向こうから来るだろ」

「……どういう事?」

 

 

 

 ◆◆◆

 

 ――昼休み

 

 昼食を手早く済ませ、俺は本校舎一階の下駄箱前にやって来た。そこには多くの生徒が集まり、人集りが出来ていた。

 そう、皆俺と同じようにテスト結果を見に来たのだろう。さて、憂鬱だが俺も自分の点数確認するか。出来れば真ん中辺りにあってくれ。

 人を掻き分け、掲示板の前に着く。そこから張られているテスト結果から自分の名前を探す。

 

「えっと……お、あった」

 

 二年の場所から自分の名を発見し、その順位と点数を不安になりながら確認する。

 点数は……良くは無いけど、赤点では無さそうだな。順位は……真ん中よりちょい下か。まあ……まずまずかな? あんだけ大変な状況だった訳だし、これぐらい取れれば良い方だろ。これで補習は無いな……一安心だ。

 

「ついでだし……みんなも探してみるか」

 

 自分の点数も知れて気が休まったので、知り合いの点数を探してみる。

 二年は……裕吾と翼は相変わらず上位組か。孝司は……結構下だな。というか、これ赤点のライン入ってないか? ……まあいいか。天城と海子はどうだ?

 二人も上位組である事は間違え無いと上から彼女達の名前を探す。と、すぐ二人の名前が見つかった。海子が二位で、天城が三位だ。

 二人共凄いな……正直勉強に集中出来る状況では無かっただろうに……あれ、じゃあ一位は誰だ?

 改めて一位の人物を確認する。そこには知っている名前が書かれていた。夕上か……流石副会長ってだけはあるな。

 

 

 二年の知り合いもざっと見終わったので、今度は一年、三年の方を見てみる。

 朝倉先輩は……って、当然一位だよな。つーかこれオール満点じゃん。化け物かよあの人……

 

 次は一年っと……お、友香結構上だな。勉強頑張ってたし、上々って感じだな。出雲ちゃんは……真ん中らへんか。

 

「……これで大体知り合いのは目を通したか」

 

 ざっと掲示板に張られたテスト結果を眺め終わり、目を休ませる。

 つーか俺の知り合い頭良い奴多いな……こりゃ俺も今度は頑張った方が良いかな……あんまり差が付くと何かあれだし。

 

 結局最後に少し憂鬱な気持ちになりながら再び人を掻き分け、掲示板から離れる。

 その時、ほぼ同時にその人混みから出て来た一人の人物と不意に目が合う。

 

「あ、世名君……」

「ん? 何だ天城も見に来てたのか」

「うん。世名君、赤点は阻止出来たらしいね」

「何とかな……そっちは凄いな、学年三位なんて。少し尊敬するよ」

「別に、大した事じゃ無いよ。それに、テスト前は余計な事考えたく無かったから、勉強ばっかしてたし」

「余計な事?」

「……桜井さんの事とか」

「あ……」

 

 少し突っ込み過ぎたか……天城達は陽菜の事を許してはくれたけど、決していい気分では無いだろうしな。

 

「桜井さんが来たせいで、世名君が遠ざかっちゃう気がしてさ……不安だったんだよね」

 

 そう言うと、天城の表情が少し曇る。胸元で拳を握り、何か歯痒そうに唇を噛む。

 天城……そりゃ少し苛立つ事もあるよな。自分が告白した相手に次々と他の女性がやって来るんだから、苛立たない訳無い。

 でも、俺は天城と今すぐ付き合ってやる事は出来ない。俺が今出来るのは彼女の事を見て、知る事だけだ。答えを出すために。

 

「心配するなって。陽菜が来ても俺のやる事は変わらない。ちゃんと天城の事は見てるから、安心してくれよ。全然望んだ形じゃ無いだろうけど……」

「……それじゃあ、約束も守ってくれるの?」

 

 約束……? 何の事だ? なんか色々してるような……どの事言ってるんだ?

 

「……7月10日」

「え?」

「今週……私の誕生日なんだよね。世名君、覚えてくれてた?」

 

 そ、そうだったっけ? 正直ここ最近大変で忘れかけてた……あれ、誕生日って事は……

 

「誕生日はさ……好きなだけ付き合ってくれるんだよね……?」

 

 そうだ……前の海子の誕生日の時に言った。今度みんなの誕生日の時は好きなだけ付き合うと。それを裏切る訳にも、裏切りたくも無い。ただ、ここ最近の事で完全に頭から離れてた。

 

 すると天城もこちらが忘れていた事に気が付いたのか、さらに表情が曇り、悲しそうに俯く。

 

「そう……だよね。世名君、忙しそうだし、仕方無いよね」

「ご、ごめん……」

「いいよ別に。……世名君も大変だろうし、別に私に構わなくても大丈夫だよ? 私は今まで通りにしてくれるなら満足だし……」

 

 その力無い言葉と共に、天城が笑みを浮かべる。その顔は、とても悲しそうだった。

 確かに、陽菜の事だったりで最近大変だったし、落ち着く時間は正直欲しいし、天城の申し出は有り難い。けど――

 

「……そんなの駄目だ」

「え……?」

「俺は答えを出すまで、みんなをしっかり見るって決めたんだ! だからここで天城だけを除け者に出来ない! しっかり、天城の誕生日に好きなだけ付き合うよ。約束だからさ」

「世名君……フフッ、やっぱり世名君は優しいね。それじゃあ……今週の土曜日……付き合ってくれる?」

「もちろん。それが今の俺に出来る事だから」

「ありがとう。それじゃあ……デート、してくれる?」

 

 天城の申し出に、俺は頷く。それに天城は嬉しそうに明るい笑顔を見せる。よかった……元気になってくれたみたいだ。

 

「予定とかは帰ってゆっくり決めてから連絡するね。それでいいよね?」

「ああ、任せるよ。俺に出来る事なら好きなだけ付き合うよ。天城には、目一杯楽しんでもらいたいからさ」

「うん。デートか……何だか久しぶりだね」

「そう……だな。何だかんだあの初めてのデート以来かな? ちゃんとしたのは」

「だね。……世名君」

「ん?」

「……ううん、なんでも無い。楽しみにしてるね!」

 

 そう言うと天城は小走り出その場から立ち去って行った。

 

 さて……誕生日デートか……来るのは分かってたが、何だかイベント続くなぁ。

 でも、多分これが夏休み前の最後のイベントだ。気を引き締めて行こう。

 

「……とりあえず、移動するか」

 

 さっきから周りの生徒の目が痛い。……場所は選ぶもんだね、うん。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ――天城家

 

「うーん……どんなのが良いかなぁ……?」

 

 世名君とのデートの約束も取り付け、私は家に帰ってから早速部屋に籠もり、デートプランを考えていた。

 せっかくの誕生日デートという特別なシチュエーションなんだ、思い出に残るような素敵なデートにしたい。けど――

 

「全然良い案が思い付かない……」

 

 思い出に残るようなデートって何だろう……そういえば、海子の時は家に泊まったりしたって言ってたな……それなら思い出に残るかな?

 ふと思い、世名君が私の家に泊まるというシチュエーションを想像してみた。――が、考えた瞬間に一気に気恥ずかしくなり、全身が暑くなり、汗ばむ。

 だ、駄目だぁ! そんなの恥ずかしくて出来ないぃ! でも、海子だって泊めたんだし、私もそれぐらいしないと……でも世名君と一緒の部屋なんて……って、別に一緒の部屋に寝る訳じゃないし! でも、せっかく泊まるんなら同じ――

 

 色々妄想が膨らみ、頭がこんがらがる。ううっ……変な事想像しちゃった……家は止めよう。私が壊れそうだ。

 

「……でも、桜井さんは世名君の家で暮らしてるんだよね……」

 

 そんな事を考えていると、ふと彼女の事を思い出す。突然やって来た、新たな恋敵(ライバル)の事を。

 彼女は今、世名君に最も近い場所に居る存在。そんな彼女に世名君を渡さない為には、少し攻めなきゃ駄目だろうか?

 

「……私は、世名君を渡したくない。桜井さんにも、他の人にも……!」

 

 今回のデートで、世名君に目一杯アピールして、楽しんでもらって、彼の目をこちらへ釘付けにする。それぐらいの気持ちで行かないと、世名君を取られてしまうかもしれない。そんなのは嫌だ……絶対、誰にも渡さない!

 

「でも、どうすればそんなデートが出来るのかな……」

 

 世名君を魅了するデートなんて……一体何をすれば? いくら考えても、答えが出ない。完全に煮詰まり、頭を悩ませていたその時、ふと世名君が言っていた言葉を思い出す。

 

 ――天城には、目一杯楽しんでもらいたいからさ。

 

「そっか……今回のデートは、私が楽しむ為のデートなんだ」

 

 なら、悩む必要なんて無い。

 世名君にアピールするとか、楽しんでもらうとか、深く考える必要無い。私が楽しめるデート……それをすれば良いんだ。だって、今回は私の誕生日デートなんだから。

 

「わがままに……したい事を考えれば良いんだ」

 

 今回ぐらい……他の子とのいがみ合いなんて忘れて、目一杯楽しめば良い。私がしたい事を、幸せだと思う事を――

 

「……うん、それでいいよね?」

 

 目一杯楽しむ――それだけを考え、私はデートプランを再び考えた。その日が来るのを心待ちにしながら。

 

 

 

 

 

 




 立て続けにやって来たデートイベント。主人公に休まる暇は無い。

 次回、誕生日デート天城編、開始です!



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