――告白されるのってどんな感じ何だろう……そんな事を何度か考えた事がある。
きっと俗に言う心がキュンキュンするって感じだったり、恥ずかしくて訳が分からなくなったりするのだろう。
現に俺は天城から告白されそういう状態になった。いわゆる超嬉しいという状態だろう。それが告白された人間の当たり前な反応だろう。
だが、俺は今告白されて――絶句してます。
え……ええぇぇぇ!? 今雨里の奴なんて言った? 付き合え? 俺に? 襟首掴んだ状態でカツアゲにしか見えない状況で告白ぅー!? どういうことなの!?
何かの間違えかと雨里にチラリと顔を覗く。うわぁー、顔真っ赤ですよ。恥じらう乙女の顔ですよ。間違え無いですよこれぇー!
色々言いたい事はある! だが、一番気になるのは、何故このタイミングで告白したんだ!
俺は今学園のアイドルである天城に告白された存在であり、それは学園中に知れ渡り、コイツも知っているはず。というか俺言ったし。
でも、雨里はそれを聞いた上で俺に告白してきた。友人が告白した相手に重ねて告白した。……つまりどういうことなの!?
「……黙って無いで返事をしろ! イエスか、ノーか!」
「ちょっ、ちょっとストップ!」
「ストップなどという選択肢は無いぞ!」
「お願い! ストップさせて! じゃないと俺の脳内情報が事故起こして消える! それと手を離してもらえると助かる!」
「そ、そうか……なら、仕方あるまい……」
ようやく襟首を離せてもらえた。と、とにかく話を聞こう。
「えっと……今のは告白って事でいい……のかな?」
「そ、そうだな……」
聞いといてあれだけどマジですか……何、この謎の告白連鎖。しかも相手がどっちも美人で親友同士で……もう俺の思考回路がオーバーヒートしそうだ……
「まあ、答え云々はともかく……何故俺に告白をした?」
「そ、それは……! 好き……だからに決まってるだろう……」
消え入りそうな声で指をツンツンしながら言わないで! 何か心臓がキュンとくるから! て、そういう事じゃ無いよな。色々感情が沸き上がるが、今は抑えろ!
「そ、そういんじゃ無くてその……今の状況で何で告白したのかなー……と。いやだって、一応俺はアナタの親友に告白された訳でして……その相手に告白するというのは……ちょっと、何というか……あれだなぁと思い……」
本当、何と言えばいいんだろう……俺恋愛物の漫画とか読まないから良く分かんないよ女心。何をどう思ってこのタイミングで動いたんだ雨里よ!
「それは……今だからこそだ!」
「……つまり?」
「つまり……優香がお前に告白したと聞いて……どうにかしなくてはと思って……そうしたら、手紙を出していて…………という事だ……」
…………全然分かんない! え、どういうこと? 女子の思考回路分かんない! 恋愛思考分かんない! というか色々分かんない! 誰か助けて!
「その……よく、分からないんだが……」
「と、ともかく! 私はお前が好きだ! だから付き合え!」
「力押し!?」
いやいや! 流石にこんな困惑状態で「よし、付き合おう!」とか言える程メンタル強くないよ俺! 俺ゲームではチュートリアルスッゲーやるタイプだから! 石橋は一回ぶっ壊すぐらい叩くタイプだから! こんな訳の分からない空間に今すぐ飛び込めません!
「お、お前の気持ちは何となく分かった! とりあえず時間をくれ! 返事は後日返すから!」
「……分かった。待っているぞ」
何とか納得はしてもらえた様だ……すると雨里が紙切れを俺に渡してくる。
「私のメールアドレスと電話番号だ。いつでもかけてこい……」
だから消え入りそうな声出さないでー。スッゴい罪悪感湧くから!
そのまま雨里は教室から出て行く。姿が見えなくなると同時に物凄い廊下を駆け走る音が聞こえる。廊下は走っちゃ駄目ですよー……
「……どうなってんだよこれ……」
まさか雨里に告白されるとは……驚きが勝っていたが今考えるとスッゴい恥ずかしくなってくるな……でも、正直そんな浮かれている場合では無い。だって俺は今二人の女性に告白されている事になる。しかも二人は親友同士。どうすんだよこれ……俺が原因で絶交とか嫌だぞ……でも、返事はしなきゃだろうし……
「まさかこんな事で迷う事になるとは……」
色恋沙汰何て縁が無いと思ってたのに……どうしたもんか……もう、帰ろう――
「ああー! 先輩こんなところに居たぁー!」
「へぁ!?」
突然力強く開かれた教室の扉と共に舞い込んだ天真爛漫な声。誰だ!?
「もぉー! ずっと待ってたのに来ないから探しちゃいましたよー!」
教室に入って来たのは金髪ショートカットにブレザーを腰に巻いて若々しいオーラ溢れる少女。
彼女は……
「手紙出したのに来てくれないんで心配しましたよー。もう屋上で待ってる間飛び降りてやろうかと思っちゃいましたよ!」
手紙……忘れてた、もう二通手紙があるんだった……というかこの子が送り主かよ! 屋上って事は……血塗られた方か! ていうか今さらっと怖い事言ってなかった!? 世名友希またまたパニック!
「ご、ごめんな……ちょっと忘れ物してて……この手紙出したのって……大宮なのか?」
「はい! というか、前みたいに出雲ちゃんって呼んで下さい! じゃないとぶっ飛ばしますよ?」
ぶっ飛ばす!? 可愛い顔して何言ってるのこの子!? こんなバイオレンスな子だっけ!?
「そ、それは悪いな……おお……出雲ちゃん。少し聞きたいんだけど……何で赤いペンで書かれてるのかな? この手紙」
「それはー、ちょうど赤いペンしか持ってなくてー。勢いで書いちゃいました!」
んなわけあるかい! 赤ペンオンリーってどんな状況!? それにこの殺意はどう説明すんの!? 殺意付き赤ペンなのか!?
「……で、どうしてこんな手紙を?」
「そんなの決まってるじゃ無いですかー。告白する為ですよ!」
「そんなさらっと言っていいの!?」
流石に驚きしか感じられんぞ! さらっとし過ぎだろう! 良いのかそんな告白で! というかまた告白かよ! 何なの今日は!
「え、えっと……」
「で、どうなんですか? もちろんオッケーですよね? ね!?」
「ちょっ、ちょっと待って! 一旦落ち着こう! まず色々聞きたい事がある!」
「何ですか? 私先輩のお願いなら何でも聞きますよ?」
何か怖いよこの子……目がキラキラと輝いてるのにスッゴい怖いよぉ……
「と、とりあえず何故今のタイミングで告白なんてしたんだ? 俺が天城に告白されたのは知ってるだろう?」
「だからに決まってるじゃ無いですか! このまま何もしなかったら先輩が天城先輩と付き合っちゃうかもしれないじゃ無いですか! だから、取られる前に取ろうと思って告白しました!」
……やっぱり女子の思考良く分からん……あれか? 限定一個の何かを誰かに予約されたから自分も予約したって事? いや違うか……もう分かんない!
「で、どうなんですか? やっぱり私を選びますよね? ね? ね? ね!?」
「三段活用怖い! 落ち着こう! そんなすぐ答えは出せないって! 色々あるし……」
「色々って……天城先輩の事ですか?」
「そう! 流石に放置って訳にもいかないでしょ!? だからそれを含めて色々考えた上で返事を――」
「……やっぱり天城先輩と付き合うんですね……」
そう小さく呟き大宮……改め出雲ちゃんがゆらりとドアの方へ向かう。へ? 何?
「ど、どこに……」
「屋上です」
屋上? 今の時間何も無いよ? 夕焼けも見れないし、高いぐらいしか……
「……私、生まれ変わったら先輩の守護霊になりたいです……」
「待って待って待って待って!! 落ち着こう! クールに行こうクールに!」
「先輩……一緒に来てくれますか?」
「行かないよ!? 地獄に駆け落ち何てしないよ!?」
「……やっぱり天城先輩と付き合うんですね……さようなら……」
「さよならしないで!? 別に天城とまだ付き合うって決めた訳じゃ――」
「本当ですか!?」
うおっ、一気に明るくなった……とりあえず俺のせいで自殺ルートへ向かわせるのは阻止出来た……
「それじゃあ、私と付き合ってくれんですね!?」
「少し待ってくれ! そんなすぐには返事は出せないって事だ! 俺はそんな速攻対応出来る人間じゃ無いの! だから時間を下さい! お願いします!」
「……そうですよね! 先輩はちょっぴり深く考え過ぎるところがありますもんね! ゆっくり考えて、私への愛を確信して下さいね!」
い、色々ずれてると思うが、とりあえず凌げた……大宮……じゃなく出雲ちゃんも教室から立ち去って行く。
「ああそうだ。もし私に黙って天城先輩と付き合ったりしたら――私死んで一生先輩達恨みますから!」
そう、満面の笑みを浮かべてスキップしながら去って行った。
「…………どういうことなのぉぉぉぉ!?」
もう何回目か分かんないけど本っ当に訳分かんない! 出雲ちゃんあんなカオスな子だっけ!? もっと素直で可愛い子じゃなかったっけ!? というか何で俺の事好きなの!? もう雨里といい何なの今日は!
「はぁ……はぁ……」
これ以上は俺のSAN値が限界……これ以上食らったらヤバイって! 俺の体が悲鳴を上げているよ!
もう帰って寝たい……全て夢でした的なオチを望みたい! 最初の天城の告白も無しでいいから!
でも、俺にはまだ残っているんだ……最後の一通のレターが……ここまでの流れを組むと恐らく……いや! 流石に無いだろう! だって俺の知り合いの女子はもう居ないし! しかも明らかに脅迫状なこれはラブレターな訳無いって! うん、絶対大丈夫!
俺は意を決して最後の目的地、生徒会室へ向かった。というか何で生徒会? あそこ簡単に入れる場所じゃ無いでしょう? まさか生徒会関係者? なら平気だな! だって俺生徒会に知り合い居ないし!
「失礼しまーす……」
到着してすぐ、俺は生徒会室の扉を開いた。中に居たのは一人の女性。しかも相手は俺の知ってる人物だった。まあ、知り合いという訳でも無い。何故なら、相手は生徒ならほぼ知ってる生徒会長なのだから。
「遅かったわね、世名友希君」
「ど、どうして俺の名前を?」
「生徒会長なら当然よ」
「そう、ですか……で、朝倉先輩はどういった要件で俺を呼び出したんですか? こんな手紙で」
「ああ、それね差出人を特定されないようにそうしたのよ。別に物騒な要件じゃ無いわ」
紛らわしいわ! こんなの殺人予告にしか見えませんよ!
「……要件というのは天城優香さんの件よ。学園でも大きな騒ぎになっていて、少し困っているのよ」
そんな大事になってるのか……それは悪い事を……いや悪いの俺じゃ無くて親友Aだから!
「これは生徒会としてもどうにかしたいのよね。あまり大事になりすぎると、色々大変だから」
なるほど……良かった、流石に三連続は無かった……
「俺に出来る事なら、協力しますよ! 俺の原因でもあるので……」
「そう? 良かったわ。では私と付き合ってくれるかしら?」
「は――はい?」
は? 何故に? 何がどうなってそうなったの? 友希分かんない。
「えっと……どうしてですか?」
「だってアナタに恋人が居れば天城優香さんも諦めて、周りも騒がなくなる。それで万事解決でしょう?」
「い、いやいや! 色々違うでしょう! というかそれ良いんですか!?」
「良いわよ。私としては愛しの人と恋人になれるなんて幸せだし」
ハットトリック来たぁぁぁぁぁぁぁ!?
何で!? この人と俺接点無いよ!? なのに何で告白されてんの! 訳分かんないよ!
「ちょっ、何で――」
「何で告白したかって? それは当然愛してるからよ? アナタには覚えは無いでしょうけど、私は好きだもの」
だもの――じゃなくて! 意味分かんねぇー! 何でこの人は俺の事好きなの!? というかこれどうなんの!?
「な、何でこのタイミングで――」
「それは学園の騒ぎも収められるし、愛しの人と近しい存在にもなれて、一石二鳥だからよ?」
「無茶苦茶過ぎる!」
「それで、アナタはどう答えるのかしら?」
「え、えっとぉ……」
誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
主人公の胃が大変な事に。テンションがぶっ壊れてるね。ところで彼は何回分かんないと言ったのだろうか……
次回、修羅場発生です。