モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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 このお話は、もしも主人公が本編とは違うヒロインと付き合ったら、というifストーリーです。
 当然ネタバレもあります。それから本編で選んだヒロインとは違うヒロインとイチャイチャしとるので、そういうの嫌だなぁという人はご注意を。


ifストーリー
二人の将来


 

 

 

 

 

 

 

 

「行ってきまーす」

 

 靴を履きながらリビングに向かって声を飛ばす。遅れて母さんから「行ってらっしゃーい」と返って来るのとほぼ同時に、扉を開いて外に出る。

 

 この地にやって来たばかりの春の空気が全身を包む。大分暖かくなってはきたが、まだ肌寒さは微かに残っている。

 ブレザーのポケットに手を突っ込んで冷えを誤魔化しながら、俺は家を離れて通学路を進む。

 

 所々に桜の木が見える住宅街を歩く事、約数分。道の脇に、一人の少女が立っているのが見えた。

 

 俺と同じ黒いブレザーで華奢な体を包み、スカートから綺麗なほっそりとした足を覗かせる、黒髪の少女。

 彼女は俺の存在に気が付くと、朝の陽射しのように爽やかな笑みを浮かべながら、俺の名を呼んだ。

 

「おはよう、世名君」

 

 彼女は天城優香――俺の、恋人である。

 

「おはよう。悪い、待たせちゃったか?」

「ううん、私もさっき来たばかりだから平気だよ。それじゃあ、行こっか」

「ああ」

 

 と、軽く言葉を交わしてから、俺達は一緒に学校に向かい始める。

 

 卒業式の日に彼女と交際を始めてから、早い事でもう一ヶ月半近い時が流れた。

 こうして交際に至るまでに色々な事があったが、俺と天城は恋人同士として、順調と言える日々を送っていた。

 

 だが正直、あまり大きな変化は無いと言って良い。

 別に毎日愛の言葉を囁き合う訳でも無いし、おはようのキスだとかそういうのをする訳でも無いし、未だに名字で呼び合う仲だ。まあこれに関しては、天城は名前で呼び合いたいみたいだが、まだ恥ずかしいという事で保留になってる状態だ。

 強いて変わった事があるなら、こうして二人切りで一緒に登校、そして下校をする事になった事、あとはデートの頻度が増えたぐらいだろう。それぐらい、俺と天城の関係は変化に乏しい。

 

 だが、別に今はそれで良いと、俺は思っている。彼女を好きだという気持ちは確かにあるし、こうして一緒に居るだけで幸せだ。それに――

 

「今日、結構冷えるね」

 

 手に息を吐き掛けながら、ふと天城がそんな事を口にする。

 

「だな。ちょっと手袋が欲しいぐらいだ」

 

 ポケットから手を出し、指の開閉を繰り返す。かじかんで、思うように動かない。

 

「本当に持って来ればよかったな……天城は平気か?」

「私もちょっと……その、手袋は無いけどさ……」

 

 天城がどこか照れ臭そうに視線を斜め下に落とす。

 すると、彼女がゆっくりと俺の手にそっと触れて、ぎこちない動きで指を絡めた。

 

「こうして手を繋げば、ちょっとは暖かい……よね?」

「え? あ、ああ。そう、だな……」

「じゃ、じゃあ、さ。しばらく、こうしていよ。……まだ人も少ないし、さ」

 

 緊張しているのか、消え入りそうな声で言いながら天城は俺に身を寄せる。彼女の手の温もりと感触、髪から漂う香りにこっちも緊張してしまい、体温が上がる。

 

 それに、天城も時には勇気を振り絞って、こうして積極的になろうと頑張っている。

 だから今はゆっくりと、彼女と一緒に歩もう。俺達は、恋人同士なのだから。

 

 彼女の手を、ギュッと握り締める。天城は少し驚いたように目元をピクリと動かすが、すぐに嬉しそうに頬を綻ばせた。

 

 そのまま辺りに人が増えるまでの間、俺達は手を繋いで、通学路を歩いた。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 天城と恋人になってからは、昼休みに二人でお昼を食べるのもお約束になっていた。

 そして今日も、二人で屋上に行き、昼食を堪能していた。

 

「あれ、世名君今日はお弁当じゃないの?」

「ん? ああ、今日は母さんが寝坊したとかでな。だから弁当作る暇なかったんだと」

 

 そう言いながら俺は手にしてたサンドイッチを口にする。

 

「そっか。でも、それだけじゃあお腹空かないかな?」

 

 味は申し分無いが、確かに天城の言う通り量が物足りないかもしれない。

 別に俺はよく食う方では無いけど、今日は確か午後から体育の授業があるし、それに放課後はバイトだ。それを考えると、もう少し多く食べときたいところかもしれない。

 

「まあ、しょうがないよ。バイト行く途中で、なんか買ってくさ」

「……ねえ、世名君。よかったら、私のお弁当ちょっと食べる?」

 

 と、天城は自分の弁当を差し出す。美味しそうな具材が箱いっぱいに敷き詰められていて、とても美味しそうだ。

 

「今日はちょっと多めに作っちゃってさ。だから、遠慮しないで」

「あれ? 今日の弁当、天城の手作りなのか?」

「うん。お母さんが忙しいみたいだったから。香澄の分も作ったから、張り切り過ぎたのかも」

「そっか。じゃあ、遠慮無く頂こうかな……って、俺箸持ってないや」

 

 まあ、手で摘まめる物もあるし、良いか。

 どれを頂こうか考えていると、急に天城が辺りをキョロキョロと見回す。

 

「どうした? 何かあったか?」

「う、ううん……その、今日、人少ないね」

 

 天城の言葉に、俺も辺りを見回す。

 確かに、今日は屋上で昼食を楽しむ生徒が少ない。俺らを含めて十人も居ない。

 

「まあ、今日は寒いしな。みんな中で食べてるんだろう。俺達も、教室で食べればよかったかな」

「う、うん。……だ、誰もこっち見てないかな……?」

「え? うーん……まあ、距離も離れてるし、注目はしてないかな?」

 

 少なくとも、以前の頃よりは注目されていない。それにどうやら周りもカップルが多いようだ。

 

「……じゃあ、ちょっとだけなら平気……だよね」

「ん? 何がだ?」

 

 俺の問いに返答する代わりに、天城は箸で摘まんだウインナーを、俺の目の前まで運んだ。

 

「は、はい! どうぞ!」

「……へ?」

 

 突然の事に、つい動きが止まる。

 これは……食べさせてくれるって事……でいいんだよな?

 このまま食らい付いていいのか思案していると、顔を真っ赤に染め上げた天城が、恥ずかしそうな薄眼で俺の目を見つめて来る。

 

「せ、世名君……出来れば、早く食べてほしいな……は、恥ずかしい……」

「あ、ああ、ごめんごめん! い、いただきます……」

 

 パクリと、天城の差し出すウインナーを口に頬張る。パリッとした感触が、濃厚な味わいが口の中に広がる。

 

「うん……美味しい」

「そっか、よかった……はぁぁ……」

 

 天城がドッと疲れが襲ってきたような溜め息を吐く。

 

「凄く緊張した……もう食べさせてあげるのなんて何回もしたのに……どうしてこう毎回緊張しちゃうんだろう……」

「ハハッ……まあ、それが天城らしいよ。こうして自分からしようってなれただけで、立派な進歩だと思うよ?」

「そ、そうかな……? 私としては、もっと堂々と出来たら嬉しいんだけど……」

「俺はああいう天城、好きだけどな。なんか、可愛らしくて」

「か、かわっ……!?」

 

 茹で上がったかのように、天城の顔が一気に燃え上がる。

 

「あ、そ、その、えっと……あ、あり、がとう、ございます……嬉しい、です……」

 

 天城は縮こまって、細々とした声で何故か敬語でお礼を口にする。

 ちょっとからかい過ぎたかな。こういう恥ずかしがり屋なとこは、しばらく直りそうにないな。でも、彼女のそういうところも、俺は好きだ。

 

 とりあえず話題を変えようと、俺は咳払いを挟んでから話し出す。

 

「そういえば天城は今日シフト入ってたっけ?」

「え!? あ、ああ、シフトね。うん、今日は私も仕事だよ」

「そっか。じゃあ、一緒に店に行くか?」

「うーん……どうしようかな……あ、別に一緒に行くのが嫌って訳じゃないよ! むしろそうしたい、けど……」

「けど?」

 

 俺が彼女の言葉を繰り返すと、天城は続きを述べる。

 

「その……一緒に行った後、仕事に影響出ないかなって。私、ただでさえ世名君と一緒に居ると、その……頬が緩みそうになっちゃうし。だから、仕事中も気が緩んじゃうんじゃないかなって。一人で行ったら、気持ちを切り替える時間出来るけど、二人だと……そんな暇無いし」

「なるほど……天城、そんな事考えてたんだ」

「だ、だって……私、世名君と付き合ってから、本当に幸せで……最近はなんか、緩みっぱなしというか……」

 

 と、天城は頬を両手で上に上げる。ムニッと表情が可愛らしいものに変わる。

 

「って、なんか私、気持ち悪い事言ってるかな……?」

「そんな事無いよ。俺は嬉しいよ、天城が幸せに思っててくれて。でも、それなら気にする必要無いんじゃないか? 天城、やる時はしっかりやる奴だし、責任感もある。仕事になったら、キッチリ切り替えられるさ」

「そ、そうかな……?」

「今までだって平気だったろ? それでももし不安なら、千鶴さんに怒られる事想像してみろ。嫌でも集中する」

「アハハ……それは、確かにそうかもね」

 

 想像してしまったのか、少し引き攣った笑みを浮かべる。

 

「だから気にする必要無いさ。まあ、天城がそうしたいなら、そうするけど」

「……ううん、一緒に行こっか。その……やっぱり、少しでも世名君と一緒に居たい、から」

 

 指を絡めながら、天城は小さな声で言う。俺はそれに、「分かった」と頷く。

 

「じゃあ、放課後のバイトに備えて、しっかり体力補充しないとな。弁当、もうちょっと貰って良いか?」

「うん、もちろん。じゃ、じゃあ……は、はい、あーん……」

 

 そうやって差し出された卵焼きを、俺はまたパクリと口にした。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 放課後。一緒に学校からバイト先である太刀凪書店にやって来た俺と天城は、準備を済ませて早速仕事を開始した。

 

 気が緩んでしまう事を気にしていた天城だが、実際にはそんな事は無く、しっかりと仕事モードに移行。テキパキと仕事をこなしていた。今はレジを担当している。

 

「いらっしゃいませ。こちら、カバーをお付けいたしますか?」

 

 早速レジにやって来たお客の対応をする天城。相手は、この店では割と常連の主婦さんだ。

 

「あ、息子さんへのプレゼントなんですか? へぇ、息子さん、こういう本が好きなんですね」

 

 いつの間にやら二人の会話は世間話に。楽し気に息子の話をする相手に対し、天城は笑顔で受け答える。

 

「息子さんに喜んでもらえるといいですね。ありがとうございます、またのご来店をお待ちしていますね」

 

 会計などを済まし、笑顔でお客を送る天城。

 

 気が緩むどころか、完璧な仕事ぶりだな天城……それに、大分接客にも慣れてきたみたいだ。他の作業に関しても、店で一、二を争うぐらいに上達してるし……俺、先輩なのにあっという間に抜かれてしまったな。

 彼女もそれだけ成長している、という事なのかな。なんだか、俺も嬉しい。

 

「なぁにボケっとしてんだ世名ぁ」

 

 そんな彼女を離れた場所から見守っていると、背後から恐ろしい声が聞こえて来る。

 振り返ると、そこには木刀携えた鬼が一人。

 

「ち、千鶴さん……」

「客少ないからってボーっとして良い訳じゃねーぞ? ほら早く働け。頭凹ますぞ」

「りょ、了解しましたー……」

 

 あんな事言いながら、俺が怒られてどうする……しっかりしないと。

 

 気を引き締めて、仕事に取り掛かってから約一時間。

 客足も落ち着き、店内が静まり返り仕事も一段落したのを機に、レジの天城に声を掛けた。

 

「お疲れ天城」

「あ、お疲れ世名君。さっき、店長に怒られてたみたいだけど、大丈夫?」

「ああ、見られてたのか……まあ、木刀食らってないだけマシかな」

「――なら今から食らわしてやろうか?」

 

 背後からの声にビクリと肩が跳ねる。

 振り返ると、やっぱりそこには鬼が立っていた。

 

「その背後から声掛けるの心臓に悪いから止めて下さいよ……」

「慣れろ」

「横暴な……」

「……ところで、お前らって付き合ってるんだよな?」

「な、なんですかいきなり……まあ、確かにそうですけど……」

 

 答えると千鶴さんは「そうか」と呟いてから、何かを考え込むように俯く。

 

「……じゃああれか? 将来的には結婚する気か?」

「へ!? けけ、結婚、ですか……!?」

 

 突然の質問に、天城が上擦った声を上げる。

 

「なんだ? する気ないのか? それなのに付き合ってんのかお前ら」

「え、っと、それは、その……しょ、将来的には、し、したい、です、けど……」

 

 モジモジしながら答える天城。そんな彼女に、千鶴さんは容赦無く次なる質問をぶつける。

 

「じゃあもしそうなったら、天城はあれか? 専業主婦的なのになる気か?」

「え!? それは、まだ考えて無いですけど……そう、したいかな、とは思ってます……」

「そうか……」

「さっきからなんですか、そんな事聞いて。千鶴さん、結婚の予定でもあるんですか?」

「んな訳あるか。ふむ……だったら、天城は候補から外す事になるか……」

 

 千鶴さんの呟きに、俺と天城は互いに目を合わせる。

 候補って、なんの事だ?

 

「あの……もしかして、私に何かお願いがあるとか……ですか?」

「ああ、いや……はぁ、別に隠してる理由は無いか。何、これはまだ不確定な話なんだかな」

 

 そう前置きをして、千鶴さんは話し始める。

 

「まだまだ先の話なんだが、実は近隣の街に、この店の二号店や三号店、いわゆる支店を出そうかと考えていてな」

「え!? 支店ですか!?」

「ああ。有難い事に、ウチの経営は悪くは無い。前々から二号店なんか出そうかと考えていたんだが、最近知り合いに店を出すのに良い場所を紹介してもらってな。それで、本格的に考えてみようかと思ってな。まあ、恐らく五年か、それ以上先になりそうだがな」

「そ、そうなんですか……でも、そんな事考えてたんですね」

 

 意外と真面目に考えてるものなんだな、この人も……ちょっと驚きだ。

 

「でも、その話と私達、何か関係が?」

「それが本題だ。当然、新しい店を建てればその店にも店長は必要だ。だが、私にはここがあるから、付きっきりという訳にはいかない。そこでだ」

 

 ピッと立てた人差し指を、天城に向ける。

 

「その支店の店長、お前を候補に挙げようと思ってな」

「え? ……ええぇぇ!? 私が店長……ですか!? そんな、どうして!?」

「適当に雇っても良いんだが、それじゃあ不安でな。だから本店で働いてる誰かから選ぼうと考えてな。その第一候補が、お前という訳だ」

「そ、そんな……わ、私には無理ですよ、店長なんて、そんな……」

「そんな事無いと思うぞ。お前は真面目だし、責任感もある。技術もなかなかだし、きっとすぐにノウハウも物に出来る。少なくとも、私より良い店長になれる」

 

 確かに――ついそう言葉が漏れそうになるが、ギリギリで抑え込む。

 

「だがまあ、お前が世名と結婚して専業主婦になるなら、そうはいかないな……という話だ」

「ああ……それで天城に、あんな質問したんですね」

「そういう事。まあ、支店の話もいつ消えるか分からないし、候補は別にも居るからそう気にするな。あ、ちなみに世名も一応候補だぞ」

「え? お、俺もですか!?」

「ああ。天城ほどでは無いが、お前もそこそこ出来る奴だしな。こう見えて、お前を評価してるんだぞ?」

 

 そ、そうなのか……あの千鶴さんが、俺を評価してるとは……意外だ。

 

「まあ、話はこんなところだ。別に断ってくれても構わん。嫌なら何も言わなくていい。ただ興味があるなら、声を掛けてくれ」

「は、はい……」

「…………一つ、言っておく」

 

 千鶴さんが天城を真剣な眼差しで見つめる。

 

「申し訳無いからとか、そういう感情で無理に受けようとするなよ。これはお前の……いや、お前達の将来に関わる大事な事だ」

「私達の、将来……」

「ハッキリ言って、書店なんて儲からない。ウチは幸い黒字が続いてるが、支店が成功するとも限らない。それに意外と大変だ。もしお前が世名と家庭を築くとして、店長をやる事は大きな負担になる。それはもし世名がなった時もそうだ。家族を支える稼ぎを出せるかなんて、分からない。お前らは一緒に人生を過ごして行くんだ。そしてそれは愛とかどうとかで成り立つほど、甘くは無い」

「店長……」

「だから私の今言った事は、あくまで選択肢の一つだ。進むも無視するも、お前ら次第だ。だからしっかり考えろ。お前らの将来を見据えてな」

「俺達の、将来……」

「……ちょっと説教じみたかね。お前ら今日はもう上がっていいぞ。気を付けて帰んな」

 

 そう言って、千鶴さんは俺達の前から立ち去った。

 

 

 

 仕事も終わり、太刀凪書店を後にした俺と天城は、二人で帰り道を歩んでいた。

 

「店長の話、ビックリしたね。まさか支店を出そうとしてて、私達を店長に指名するなんて」

「だな……あんな真面目な話されたの、初めてかもしれん」

「うん。……将来、かぁ」

 

 ふと、天城が呟く。

 

「深く考えてはいなかったけど、確かにそうだよね……店長の言う通り、人生ってそんなに甘くない。結婚するのだってその後の生活だってお金が掛かるし、大変な事がいっぱいある。好きだから、で上手く行く事ばかりじゃないんだ」

「そうだな。もしも、俺と天城の間に子供が出来たとしたら、育てる金だって必要になる」

「うん……子供は、出来れば二人以上は欲しいけど、その分大変だもんね」

「え、そうなのか? 天城、子供二人欲しいの?」

 

 突然の天城の二人以上欲しい発言に、つい聞き返してしまう。

 すると天城の耳がみるみると赤くなる。

 

「ち、違うよ! 別にその、変な意味じゃなくて、その……兄弟姉妹が居た方が、良い子に育ちそうでしょ? あ、別に私は良い子って訳じゃ無くて……あ、でも世名君は良い子だし……」

「お、落ち着いて落ち着いて。分かってるから。でも、その通りだよな。人生、甘くは無い」

「う、うん……色々考えなきゃいけない事、あるよね」

「……天城はどう考えてるんだ? 店長の件」

 

 天城は暫し考えてから、口を開く。

 

「正直、ちょっと興味はあるんだ。書店での仕事、凄く楽しいし……出来れば、もっと関わっていたい」

「そっか」

「でも、その……専業主婦として世名君を支えるってのも、憧れる。だから、まだ分かんないや。世名君は?」

「俺は……俺もまだ分からないや。天城と結婚したら、俺は大黒柱として家庭を支えないといけない訳だし……ちょっと難しいな」

「そっか……難しいね、将来の事って」

 

 アハハと、天城は困ったような笑い声を出す。

 

「……だから、一緒に考えようか」

「え?」

「これは私達の、二人の将来の話だもん。だから二人でゆっくり、話し合おう。二人の将来が、幸福な将来になるように、さ」

「……ああ、そうだな。まだまだ人生長いんだ。焦らず、考えよう」

「うん。これからも、ずっと一緒に……ね」

 

 寄り添うように、天城は俺の肩に頭を乗せる。俺は彼女の肩に手を回し、そっと彼女を抱き寄せる。

 

 二人の将来なんて、まだ分からない。でもきっと、幸福な将来になると祈っている。

 だって愛する彼女が、俺の隣に居てくれるのだから。

 

 

 

 




 という訳で、天城と恋人になったら、というifストーリーでした。
 最初はもっと大胆にイチャイチャさせようかと思いましたが、「天城さんはそんな事出来ないよね」と思い、少しだけ進展した、って感じにしました。
 いつかもっと大胆になれる日が来るのかな?

 このお話はifストーリーという立ち位置ですが、これもありえた可能性です。なので、「これがワイの求めた本来の未来なんや!」と思う方は、是非そう思って下さい。皆さんの考えの数だけ、エンディングがある。



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