モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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彼女達の恋愛、己の恋愛

 

 

 

 

 

 

 祐吾が法条に告白された翌日の放課後の事――珍しく帰る時間が重なったので、いつもの男性陣四人で下校する事になり、校舎を出た時だった。孝司が突然険しい目つきで祐吾を睨みながら、彼に問い掛けた。

 

「お前さ……法条の奴に告白されたって、マジか?」

「……はぁ、どこで聞いたか知らないが、情報ってのは本当に出回るのが早いな」

「否定しないって事は……マジなのか? 本当に告白された訳か!? どう返事した訳!? 付き合う事になった訳か!? どうなんだオイ!」

「うるせぇ。答える義理は無い。知りたきゃそっちに聞け」

 

 と、祐吾は親指で俺の事を指す。

 

「何っ!? お前は何か知ってるのか!? 答えろ友希ゴラァ!」

「なんなんだよそのテンション……というか、お前自分で答えろよ」

「面倒臭い気がしたんでな。任せた」

 

 なんだよそれ……まあ、確かに今の孝司からは、むしゃくしゃしてるから誰かを殴り飛ばしたい的な空気を感じるが。このまま、あの二人は付き合い始めたよ――などと言ったら勢いで俺が殴られそうだ。

 どうしたものかと口ごもりながら進んでいると、校門の近くに見知った人物の姿を見つけ、俺達は揃って足を止めた。

 その人物とは、今まさに話題に出ていた法条。彼女は一人、校門の端の方で落ち着かない様子で足をブラブラさせていた。どうやら誰かを待っているようだ。そしてその相手とは恐らく――

 それを察したのか、祐吾は一人で法条の下まで歩み寄り、彼女に声を掛けた。

 

「こんなところで何してる? C組の授業はA組(ウチ)より早く終わっただろう?」

「な、何って……一緒に帰ろうかなぁー、と思って」

「……お前、家反対方向だろう」

「い、いいじゃん別に! あ、あたし達、恋……なんだし。それとも何!? 一緒に帰る暇すら無いって言う訳!?」

「……まあ、構わんが。じゃあ、俺はここで」

 

 と、後方で呆然と彼らのやり取りを見ていた俺達にそう言い残して、祐吾は法条と共に姿を消した。

 

「……なんなのアレェ!?」

 

 数秒間の沈黙を挟んでから、孝司が絶叫を上げながら地面を力強く踏み付ける。

 

「こ、孝司君落ち着いて……」

「こんなもん落ち着けるかぁ! もう完全にそうじゃん! 確定じゃん! 出来ちゃってるじゃんアレェ! 紛うこと無きカップルじゃん! どーせあの後手ぇ繋いで仲良く帰ってるんだろう!? 何青春謳歌しとんじゃあのド腐れイケメンがぁ……!」

 

 声にならない唸りを上げながら、孝司は頭を抱えて悶えるように体を上下左右に暴れさせる。

 

「あはは、大分混乱してるみたいだね……友希君は知ってたの?」

「まあな。おい孝司、うるさいからその唸り声止めろ」

「ううっ、ちくしょうめぇ……なんであいつばっかりいい思いしてんだよ……恋愛とか興味ねぇとか言ってたくせに、ちゃっかり彼女作りやがって……万死に値する!」

「まあまあ。でも確かに、祐吾君が恋人を……しかも法条さんとだなんて、驚きだよね。まあ、祐吾君にも愛情ってものがあったんだろうね」

「愛情……」

 

 翼が口にしたその単語に、俺は思わず呟く。

 法条と交際すると決めたのだから、当然祐吾にも何かしらの愛情と呼べるものがあったのだろう。それがどんなものかは分からないが、それはあの祐吾が交際を決めるほどに強い感情だったはずだ。

 一体、彼は何を思って、彼女と共に歩む事を決めたのだろうか?

 

「愛情ねぇ……あいつには一番似つかねぇ言葉だな。なあ?」

「…………」

「友希君? どうかしたの?」

「えっ? ああ、なんだ?」

「なーにボーっとしてんだよ。考え事か?」

「……いや、愛情って、なんだろうな……ってさ」

 

 俺がそう言うと、二人は唖然と言った風な目でこちらを見つめた。

 

「お前……なんだその今更極まりない疑問は。それが何ヶ月も恋愛の悩み抱えてる奴の言う事か? そういうの普通最初に考えるでしょ? 馬鹿なの?」

「好き勝手に言うなオイ……」

 

 しかし、何も言い返せない。全くもってその通りだから。

 

「急にどうしたの? そんな事言うなんて」

「いやさ……祐吾の事とか、元旦での事とか、最近色んな事があったからさ。色々考えるようになったんだよ。俺の気持ちって、愛情ってなんだろうってさ」

「……なんのこっちゃ。まーたお前は飽きずにお悩み中ですか。相変わらず、優柔不断な奴だなお前は」

「んぐっ……」

「ま、それがお前って奴か。何なら軽く相談に乗ってやるぜ? いつまでもウジウジしてるの見てるのは、こっちもイライラするしな」

「孝司君、そんな言い方しなくても……でも、僕達で良ければ力になるよ。話してみれば、少しは考えが纏まるかもよ?」

「孝司、翼……」

 

 ――あなたはもう少し、友を頼るべきです。

 

 そうだな……このまま一人で悩み続けても、いつも通り堂々巡りだ。彼らの意見を聞けば、少しは何か変わるかもしれない。

 

「悪いな……じゃあ、ちょっとお願いするよ」

「うん、任せてよ。といっても、力になれるかどうか分からないけどね」

「ま、なるようになるさ。よっし、立ち話もなんだし、近くのファミレスにでも行くか。友希、わざわざ付き合ってやるんだから、お前の奢りな」

「……お前、それが目的じゃ無いだろうな?」

「まっさかー。ほら、行くぞー」

 

 調子の良い奴だな……でもまあ、それぐらいは感謝の印として出してやるか。

 相談事の為、俺達は帰路から少し外れ、近所のファミレスを目指す。数十分ほどで目的の店に到着。適当な席に着き、ドリンクバーや軽食程度にいくつか料理を注文。

 注文終了後、ドリンクバーから各々飲み物を確保し、軽く喉を潤してから、早速俺達は本題に入った。

 

「で、例のお悩みとは何ぞや?」

「ああ……その、昨日色々と祐吾に言われたんだよ。それで思ったんだ。俺って今まで彼女達の事ばっかり考えてきたけど、自分の事はあんまり深く考えてきて無かったなって」

「……つまり?」

「なんて言うのかな……彼女達を納得させる答えを、不幸にさせない答えを出すんだ――って、ずっとそうやって考えて、俺は彼女達と向き合ってきた。でも、そればっかり考えていて、自分の事は二の次にしてたな、って思って。そのせいで自分の愛情とか、そういうのはほとんど考慮してなかったから、それでいいのかな……みたいな?」

 

 自分でも曖昧過ぎだと思える内容に、二人は無言で視線を交わしてから、再び俺を見る。

 

「うーん、分かったような、分からないような……相変わらず小難しい事考えてんな」

「要するに、天城さん達の事を第一に考えていたから、自分の気持ちを蔑ろにしていた気がする。それで本当に良いのだろうか――って感じなのかな?」

「まあ、そんな感じ……だと思う」

「なんだよそれ。自分の悩みなのに曖昧だな」

「仕方無いだろ! 自分でも頭がこんがらがって、訳分かんなくなってんの! そういうのあるだろ?」

「まあ、友希君は物事を深く考え過ぎちゃうタイプだからね」

「つーかさ。なんか前も似たような事で悩んでなかったか?」

「そ、そうだったか?」

 

 言われてみると、そんな記憶があるような無いような……確かに、以前にも祐吾に似たような事言われたような……色んな事で悩み過ぎて、頭がこんがらがってきたぞ。

 

「ま、そういうのもお前らしいけど。解決したと思ったら、すぐ似たような事で悩んだり。堂々巡りって、お前の為にある言葉だよな本当に」

「……言い返す言葉も無い。でもだからこそ、こうして相談してるんだよ。このまま一人で考えてたら、いつまでも抜け出せない気がするんだよ。……あんまり、時間は掛けられない」

「そんな焦る必要無いんじゃないか? いつも通り、ゆっくり考えろよ。そういうのはいつか勝手に芽生えるもんだって、いつぞや言ってたじゃねぇか」

「うん。焦っても損だよ?」

「俺もそうだと思う。……けど、もう時間も無い」

 

 俺の呟きに、二人は揃って首を傾げる。

 

「言われたんだよ、あの元日の時、例の占い師に。春頃に、運命の選択をする事になるだろうって。もしその言葉が本当なら……時間が無い」

「ふーん……だから早いとここの悩みを解決したいと? お前、そんな占い信じてるのか? それはどうかと思うぞ?」

「……もちろん、他にも理由はある。むしろ、そっちが本命だ」

「それってどんな?」

 

 翼に問われ、俺は答えを急ぐもう一つの理由――クリスマスに朝倉先輩の父、葉霰さんに言われたあの事を二人に伝えた。

 

「そっか……朝倉先輩のお父さんが、そんな事を……」

「朝倉先輩だけじゃない。みんな新しい学年になれば、新しい道へ踏み出す。もう目標を持っている奴も、何人か居る。それなのにこの現状が続いてたんじゃ、みんな前に進みきれない。みんなはいつまでも待つって言ってくれてるけど、やっぱりこれじゃあ駄目だ。……俺は、そう思うんだ」

「なるほど……まあ、お前の気持ちは分かった」

 

 コップに入ったコーラを飲み干し、口を軽く拭ってから孝司は話を続ける。

 

「出来るなら早いとこ決着を付けたい。でも、自分の思いさえ定まっていない現状じゃそれも出来ない。だから、それぐらいはハッキリさせたい――ってところか」

「まあ、そんなところかな。きっと、まだまだ考えないといけない事は沢山ある。だからこれぐらいはさ」

「なるほど……ま、考えてみるか」

「うん。とはいっても、難しい問題だよね。愛情かぁ……」

「……というか、ぶっちゃけこれは俺達には分かりっこ無いだろ? お前の愛情なんて、お前にしか分かんねぇっての」

「そんなんは分かってるけど……なんか、ヒントぐらいさ」

「ヒントねぇ……お前だって、あいつらの事可愛いーとか、付き合いたーいとか、ドキドキしたりする事はあったろ? それが愛情じゃねーの?」

「確かにあるけど……愛情とは違う気がするんだよな……」

 

 愛情……付き合いたい、側に居たいって思う、強い感情。俺は一体、何を思って、彼女達と運命を共にしたいと思う?

 俺にとっての愛情とは、俺の抱える気持ちとは一体なんだろうか――必死に頭を回して考えていた、その時だった。

 

「あれ? 友希達じゃん。何してんの?」

 

 と、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきたので、思考を一時中断。首を声の方へ回す。

 そこには、少し大きめな緑のジャンパーに両手を突っ込み立つ燕さんの姿があった。

 

「燕さん? どうしてここに?」

「どうしてって、飯食いにだよ。いやー、なんか久し振りじゃん。そっちこそ何してんだよ?」

 

 そう言いながら、燕さんは自然な流れで俺達の席に腰を下ろす。

 とりあえず、俺が二人に相談に乗ってもらっている事を説明する。

 

「なるへそ……うっし! ならアタシもその相談に乗ってやるよ!」

「い、いいんですか?」

「困った時はお互い様ってもんよ。それに言ったろ? 相談ならいつでも乗ってやるって。ま、結局あんま乗ってねーけど」

「……そうでしたね。じゃあ、お言葉に甘えて」

「おう! あ、その前に……」

 

 燕さんはテーブルの上の呼び出しボタンを押し、店員さんに結構な量の料理を注文した。

 これも俺が奢る事になるのだろうか――そんな些細な不安を抱きながら、俺はさっき孝司達に伝えた相談内容を燕さんにも話した。

 

「ふーん、愛情ねぇ……なんか前も似たような事あった気がするけど、気のせいか?」

「……すみません」

「ま、気にすんな。人間、同じ事で何度も悩むもんだ。で、自分の気持ちがどうこうだっけか? うーむ……孝司の言う通り、そりゃお前にしか分からんよ」

「そうですよね……」

「まあ、強いて言うなら……その愛情の形って言うのは、一つじゃないんじゃねーか?」

 

 燕さんはピッと人差し指を立て、俺達を順繰りに指していく。

 

「愛情とはちげーが、アタシがお前らを気に入っている理由は全部違うぜ? もちろんこういう奴がお気に入りだってのはあるが。愛情もそれと同じだろ。相手の数だけ形があるってもんだ。優香のこういうところが好きだ。海子にこうしてやりたい。出雲のこういうところが放っておけない。雪美とこうしたい。陽菜とこうしてるのが幸せ――とかさ。で、その中で一番強い感情がお前の答えだ! ……と、アタシは思うぜ?」

 

 そう言って、燕さんは俺の背中を叩く。

 それぞれ違う……確かに、その通りだ。彼女達の良いところは、それぞれ違うんだ。なら、俺が好きだと思う理由も当然、相手によって違ってくる。

 

「……でも」

「ん? どうかしたか?」

「俺は……これまで彼女達の良いところをいっぱい見てきて、それをちゃんと理解しているつもりです。それでも、未だに答えは出ていない。こんなにも長い時間、彼女達と向き合い、見てきのに。だから本当にそんな愛情に気付いて、しっかりと答えが出せるのか、ちょっと不安です」

 

 そう、燕さんの言う事自体は分かっているつもりだ。問題は、その理由が自分でも分からない事。もう十分なほど彼女達を知っているはずなのに、俺の中に愛情は生まれない……いや、見つけられないと言うべきだろう。

 きっと彼女達を愛する感情は、愛情と言えるようなものは俺の中に曖昧だがすでに存在している。けど、何かがそれを認識する事を、表に出す事を、俺が彼女達を愛する事を妨げているんだ。

 

「このままじゃ、俺は愛情に気付けない……そんな気がするんです」

「……まあ、そこは祐吾の言う通り、深く考え無い事が大事だろ。頭空っぽにして接してみたら、何か見えるかもしれないぜ?」

「それは、分かってつもりです。けど……どうしても、考えてしまうんです」

「…………」

 

 俺の言葉に何も返さず、燕さんは次の言葉を待つように頬杖を突く。

 

「俺の選択には彼女達の将来が、幸福が、未来が懸かっている。それを思うと、どうしても考えてしまうんです。いや、考えない訳にはいかないかないんです。それが俺の義務で……責任だから」

「友希君……」

「たくっ……本当に糞真面目だな、お前は」

「……なるほど。そりゃ、答えなんか出ねぇわな」

 

 小さな声で呟き、燕さんは背もたれにもたれ掛かり、足と腕を組んで、鋭い目つきで俺を見据える。

 

「……お前の考えは立派だよ。けどな、一番大切なのはお前の幸せだろう? これは、お前の恋愛でもあるんだからよ」

「俺の……恋愛……?」

「確かにアイツらが幸せになれるような答えを出すのも大切だ。でもな、それ以上にお前が幸せになれる答えじゃないと意味ねーだろ。けど、当のお前がそんなんじゃ、そりゃ答えは出ねぇさ。だって幸せって、苦労して考えるもんじゃねぇだろ? 優香や海子達は、お前との幸せがなんなのかって、そんな悩んで考えてるか?」

「それは……」

「だからお前も何も考えず、アイツらと向き合ってみろ。そしたらお前にとっての幸せが、分かるかもしれないぜ? 幸せってのは、ふと感じるもんなんだからよ」

「何も考えずに……でも、それで――」

「いいんだよ!」

 

 俺の言葉を遮り、燕さんは声を張り上げる。

 

「言ったろ? これはお前の恋愛なんだ。だから強情であれ、わがままであれ! ただ自分が幸せだと思う答えを、相手を、愛情を見つけてみろ! ……それに、お前が幸せなのがアイツらにとっての幸せだと、アタシは思うけどな」

「燕さん……」

「……俺もそう思うぜ。結局、自分が第一だろ」

「そうだね。彼女達にとってじゃなく、友希君にとっての幸せ、考えてみるといいよ。それが、きっと彼女達の幸せにも繋がると思うよ」

「孝司、翼……」

 

 俺はずっと、彼女達の為って事を考えて、この恋路のゴールを求め、探してきた。彼女達が前に進めるような、幸せになるような答えが出せればそれで良いと。だからほとんど、俺自身の事なんて、俺の幸せなんて考えて無かった。彼女達の思いに応える事ばかりを考えていた。

 きっと、これが俺が愛情を見つける事を妨げている物の正体だ。彼女達の事を考え過ぎるあまり、自分の気持ちから目を逸らしていた。自分なんて、二の次だからって。

 でも違うんだ。燕さんが言ってた通り、これは彼女達の恋愛であると同時に、俺の恋愛でもあるんだ。それなのに自分の気持ちを蔑ろにするなんておかしい。それじゃあ本当の幸せなんて掴めない。それに、彼女達にも失礼だ。だって彼女達が求めているのは、俺の愛、俺との幸福な未来なんだから。

 真剣に考えるのも大切だ。けどそれより、俺が幸せじゃなきゃ駄目なんだ。だってきっと、彼女達もそれを望んでいるはずだから。

 もしかしたら、祐吾が言いたかったのも、こういう事だったのかな。もっと分かりやすく言ってくれれば良かったのに。ああいう言葉で俺がめちゃくちゃ悩むの、知ってるくせによ。

 ていうかよくよく思い返してみると、最初から答えに辿り着いてたじゃないか、俺は。そもそも今回相談したのは、それで良いのかって事だったんだから。本当に、遠回りし過ぎだな俺は。でも、燕さんの言葉のお陰で、ようやく気付けた。

 

「……ありがとうございます、燕さん。なんか、色々見えてきました」

「そうか……そりゃ何より」

「一度何も考えずに、彼女達と向き合ってみます。そうすれば今まで見えなかったもの……自分の気持ちが、見える気がするんです。そうしたら……きっと俺は、答えを掴める気がする」

 

 俺にとっての幸せ。その答えは、きっともう俺の中にある。後は、それを見つけ出して掴むだけだ。その為に、彼女達と向き合うんだ。今までの彼女達を理解する為で無く、俺の気持ちを理解する為に。

 

「……ま、アタシが言えるのはここまでだな。あとは、お前がやるだけだ」

「はい。本当にありがとうございます、燕さん」

「いいって事よ。最後の最後で力になれたみたいで何よりだ。絶対、見つけ出せよ。お前の幸せ」

「もちろんです。孝司と翼も、付き合ってくれてサンキューな」

「ま、特に何もしてないけどな」

「そうだね。結局、燕さんが全部言っちゃったしね」

「そんな事無いさ。二人が相談に乗ってやるって言ってくれなかったら、こうはならなかったんだから。お礼は言わせてくれよ」

「そうか。なら……」

 

 と、孝司はテーブルの脇にあるメニューを手に取る。

 

「遠慮無く礼は貰うぜ? 今の内にATM行っとけよ?」

「お前は……まあ、そういう話だしな。燕さんも、俺が奢るんで」

「お、マジで? んじゃ、もっといっぱい頼みますかねぇ!」

「……程々にお願いしますね」

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 孝司達と別れ、一人で帰路を歩く中、俺はこれからの事を考えていた。

 改めて彼女達と向き合うと言っても、どうしたものか。あんまり時間も掛けられないし。……いや、方法はもう決まっているな。彼女達と向き合い、自分の気持ちを理解するには、あの方法が打って付けだろう。

 早速思い付いた事を実行に移す。スマホを取り出して、彼女達全員に共通の内容を記載したメールを送る。

 最後、陽菜にも同じ内容のメールを送ろうとした寸前に、我が家に到着する。

 

「……ここまで来たら、直接でいいか」

 

 陽菜にメールを送るのを止め、スマホをしまって家の中に入る。

 

「あ、友くんお帰りー! 遅かったね?」

 

 玄関に入ると、偶然陽菜と出会す。いきなりの遭遇に少しばかりビックリしたが、すぐさま気を取り直してただいまと返してから、俺は彼女に話し掛けた。

 

「……なあ陽菜。今度の日曜……暇か?」

 

 

 

 


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