モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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押して駄目なら引いてみるものである

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふへぇ……やっと全部終わったぁ……」

 

 疲れを全て乗せた声を口からこぼしながら、私は顔からベッドに倒れ込む。毛布のフワフワとした感触が全身に走り、ほんの少しだけ疲れが無くなった――気がする。

 私がこんなにも疲れている理由は、今さっきまで学校の宿題と向き合っていたからだ。期限が明日までというのをすっかり忘れていて、お昼を食べてすぐに慌てて片付けたのだ。

 ずっと机と向き合っていたせいか凝り固まった体をなんとか動かして、仰向けになって、枕元の携帯を手に取る。

 

「うわぁ……もう六時だ……」

 

 確か宿題を始めたのは午後の一時だったから……ざっくり五時間近くずっと宿題と格闘していた事になる。我ながら、よく頑張った。

 友くんは昨日の内に終わらせてたみたいだし、私も見習わないとなぁ……そういえば、友くんまだ帰って来て無いのかな? 午前中に出掛けたらしいけど。

 集中していて外の様子を気にする余裕は全く無かったので、友くんが今、家に居るのかも分からない。もし居るのなら思う存分甘えて、疲れを癒やしたいなぁ――そんな事を考えながらベッドから起き上がろうとしたその時、不意に携帯が鳴る。

 こんな時間に誰だろうと不思議に思いながら、寝っ転がったまま耳に携帯を持って行きながら、着信を押す。

 

「はい、もしも――」

『聞ーてよ陽菜ぁ!!』

 

 瞬間、鼓膜が破れてしまいそうなほど大きな声が、携帯から響き渡る。

 

「こ、この声……恵理香ちゃん?」

 

 とてつもない絶叫に思わず片目を瞑りながら、携帯を耳から話して画面に目を通す。そこには間違え無く、京都で出会った私の大事な親友――恵理香ちゃんの名前が映し出されていた。

 一体どうしたのだろうと不思議に思いながら、再び耳に携帯を寄せて、恵理香ちゃんに話し掛ける。

 

「ど、どうしたの恵理香ちゃん? いきなり電話なんて……」

『ごめん……でもね! あたしゃね! 居ても立ってもいられなくなったんですよぉ!』

「ほ、本当にどうしちゃったの……? それに、なんか涙声だよ?」

 

 テンションは以上に高い……というかぶっ飛んでるけど、恵理香ちゃんの声はどことなく泣いているようにも聞こえる。

 もしかしてとても悲しい事でもあったのだろうか、それで壊れるぐらいにおかしくなっちゃったのだろうか。親友の身に何が起こったのか心配を強めながら、私は問い掛けた。

 

「恵理香ちゃん、何かあったの? 私でよかったら、何でも聞くよ?」

『ううっ……ありがとう陽菜……実はね、椿がね……』

「えっ、椿ちゃんに何かあったの!?」

『椿の奴ね……また男に告白されたんだよぉ!』

「…………ほへ?」

 

 思ってもいなかった言葉に、思わず変な声が口からこぼれ落ちた。

 

『椿の奴ね、今日いきなり呼び出されて告白されたとか言ってさ! しかもウチの学校でも結構有名な野球部のイケメンから! そんで椿はその告白を断ってさ! 「ウチ、ああいうの好みや無いねん」とか言ってさ! もー、なんか私ムカついて!』

「えっと……どうして?」

『だってあんなイケメンから告白されて、あっさり断ってんだよ!? こちとら高校生活始まってもう二年なのに浮いた話の一つも無いんだよ!? なのに椿は、ウチモテるから、どーせまた別の男から告白されるし――みたいな余裕かましてさ! もー、ムカついて!! この差なんなの? 神様のイタズラ? 私には恋愛する資格も無いって言うんですかぁ!!』

「あ、アハハハッ……」

 

 恵理香ちゃんの明後日の方向へ向かっている熱弁に、思わず抜けた笑い声が漏れる。

 彼女が何を言いたいのか、それはきっと、自分は告白すらされた事が無いのに、椿ちゃんがイケメンに告白されて、当然のように断ってる事になんとなく嫉妬してる――という事だろう。

 確かに椿ちゃんは昔から割と告白される事が多かったし、逆に恵理香ちゃんは全然そういった事に縁が無かった。だから恵理香ちゃんは椿ちゃんに、少なからず女性として嫉妬してるのだろう。恵理香ちゃんはなんだかんだ、素敵な恋愛というものに憧れているところがあるから。

 よくよく思い返してみると、私が京都に居た時も、こんな風に「また椿が男に告白されてたぁ!」と言って、愚痴を聞かされたりした事がよくあった。その度に私は黙ってそれを聞いて、慰めてあげたっけな。

 恵理香ちゃんにはちょっと悪いけど、とりあえず大事では無かった事にホッと一安心する。それからは恵理香ちゃんの気が収まるまで、彼女の愚痴を聞いてあげた。

 

 約十分後――ようやく落ち着いたのか、今まで止め処なく愚痴を吐き続けていた恵理香ちゃんの声が止む。

 

「……落ち着いた?」

『うん……ごめんね陽菜、八つ当たりみたいな事してさ』

「いいっていいって! いつもの事だしさ」

『アハハ……確かにそだね』

「フフッ……大丈夫、恵理香ちゃんにも素敵な出会いが待ってるはずだよ!」

『そのセリフもいつも聞いてる気がするけど……あんがとね』

 

 恵理香ちゃんの声からは、もう刺々しさは感じられない。愚痴を吐いたから、気持ちがスッキリしたようだ。

 本気で椿ちゃんに対して怒ってる訳じゃ無いんだろうけど、やっぱりそういった不満は抱えちゃうんだろうな……恵理香ちゃん、案外ネガティブなところがあるし。特に恋愛関係は。

 

『はぁ……我ながら情け無いよ、わざわざ電話してまで愚痴聞いてもらってさ……私メンタル弱いなぁ……』

「そんな事もあるよ。ほら、暗い話はそこまでにして、楽しい話しよ!」

『そだね。楽しい話ねぇ……そうだ、例の友くんとはどうなのよ?』

「どうって?」

『うーん……その後の進展とか?』

 

 なんか、前に銭湯で香澄ちゃんにも似たような事聞かれたなぁ……みんなそんなに私達の事気になるのかなぁ?

 

「進展かぁ……良くも悪くも、あんまり変わらないな……私も色々アピールしたりしてるんだけどね。友くんもちょっとドキッとした反応見せるけど、それは他のみんなでも同じだし」

『ふーん……行き詰まってる感じ?』

「そうかも……もちろんドキッとしてくれるのは嬉しいけど……私としてはもうちょっと、なんというか……いい感じになりたいかなぁ。今でも十分幸せなんだけどさ」

『いい感じにねぇ……なら、今までとは違うアプローチで行ってみれば?』

「例えば?」

 

 数秒ほど間を空けて、恵理香ちゃんの答えが返ってくる。

 

『押して駄目なら引いてみる……とか?』

「それって……?」

『アンタの事だから、普段から友くんにベッタリなんでしょ? なら、たまには引いてみるってのはどうよ? そうすれば、改めてアンタの魅力や大切さに気付くかもよ?』

「引いてみるって……例えば?」

『まず抱き付いたりは一切しない。出来るだけ態度は冷たく。あと……極端だけど無視?』

「えぇ!? そんなの出来るかなぁ……」

『恋を実らせる為に、色々と挑戦してみるのも悪くは無いんじゃない? 恋愛って、そういうもんでしょ?』

 

 た、確かにそういう駆け引きみたいなのも、恋愛には大切なのかもしれない。けれど、友くんに冷たく接したり、無視するなんて……考えただけでちょっと辛い。

 

『ま、やるかどうかは陽菜の自由だけど。って、そろそろ夕飯だわ。今日はいきなりごめんね! 今度連絡する時は、彼氏ゲットの報告にしてみせるから!』

「……あ、うん! またね!」

『うん、じゃーねー!』

 

 すっかり元気になった声を最後に、電話が切れる。

 画面が暗転した携帯を枕元に置き、私は仰向けのまま天井をぼーっと見つめる。

 

「押して駄目なら引いてみる……か」

 

 

 ◆◆◆

 

 

 翌日――眠りから覚めた私は、数分ほど布団の中に潜ってスッキリと眠気を消してから、自室のベッドから起き上がる。

 着ているパジャマを脱ぎ捨て、タンスから制服を取り出して袖を通してから、部屋を出る。

 一階に降りて、まずは洗面所に向かう。顔を軽く洗って、しっかりと身だしなみを整えてから、香織オバサン手作りの朝食が待っているリビングへと向かう。

 

「あ、おはよう陽菜ちゃん」

「おはようございます」

 

 リビングに入ると、香織オバサン、そして既に朝食を食べていた友香ちゃんから挨拶が来る。

 

「おはよう、陽菜」

 

 二人に続いて、友香ちゃんの隣で卵掛けご飯を食べている友くんが、同じ私に向かって挨拶の言葉を口にする。それに対して私は――

 

「……うん、おはよう」

 

 と、友くんから目を背けながら、淡泊な挨拶を返した。

 それに友くん、そして他の二人もキョトンとしたような顔で私を見る。けど私はそれに対して何も反応を見せずに、空いてる席に座る。

 

「……ぐ、具合でも悪いのか?」

「別に……醤油取ってくれる?」

「あ、はい……」

 

 分かりやすく困惑した反応を見せながら、友くんは私に醤油を差し出す。私はそれを無言で受け取って、溶き卵に流し込み、無言でかき混ぜる。

 

 …………心苦しいよぉ!

 そう、私は心の中で叫ばずにはいられなかった。まさか友くんに対して冷たい態度を取るのがこんなに心苦しいだなんて……今すぐにごめんって謝りたい! 思いっきり甘えたい!

 でも、私はその気持ちを必死に抑え込んだ。友くんとより良い関係になる為に、この――押して駄目なら引いてみる作戦を成功させる為に。

 正直、今すぐに止めたいぐらい辛い。けど、実行したからにはそう簡単に止める訳にはいかない。 ここまでやってしまったのだから、効果が出るまで実践するしかない。私だって、もっと友くんと良い関係になりたいから。

 

 でも、こんな感じでよかったのかなぁ……冷たい態度なんてよく分からないし……これで本当にいいんだよね? 友くんの気を引けるんだよね?

 誰かに聞く事も出来ないし、もう私にはこの状態を継続するしか道は無い。思いっきり友くんと冷たく接して、私の大切さを友くんに知ってもらうんだ!

 

 とはいえ、こんな態度で接していると流石に気まずくて仕方無い。だから私は恐らく不思議そうな顔でこっちを見ている友くん達とは目を合わせず、黙々とご飯を食べ続けた。

 いつもと違って話しながら食べていないせいか、いつもより数倍も早く朝食を食べ終わる。

 

「ごちそうさまでした。……私、先に学校行くね」

「先にって……急にどうし――」

「じゃあ、行ってきます」

 

 友くんの言葉を全て聞き終える前に立ち上がって、私はまだ朝食を食べている二人を残して玄関に向かった。

 うぅ……ごめんね、友くん……でも、我慢だぞ私! 頑張って作戦を貫くんだ! そうすればきっと、友くんももっと私を見てくれるようになるはずだから!

 友くんに謝りたい気持ちをグッと堪えながら、私は玄関を開けて外に出て、初めて一人で乱場学園に向かった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「はぁ……」

 

 昼休み――自分でも驚くほど大きな溜め息を吐きながら、私は机に突っ伏した。

 学校に着いた後も、私は朝の事を気にし続けていた。友くんにあんな風に接した事が、未だ気に病んで仕方無い。あの後、友くんとは全く顔を合わせていないから、友くんが朝の事をどう思っているか気が気でない。

 友くん、怒ったりしてないかな……今更だけど、この作戦って本当に効果あるのかな? もしかして逆効果って事無いよね? 不快な思いさせたりしてないよね? だとしたら……私とんでも無い事しちゃったんじゃないの? これが理由で、興味を持ってもらうどころか、嫌われちゃったり?

 

「――いさん……くらいさん」

 

 そんなの嫌だよぉ……早く全部正直に伝えて、友くんに謝った方がいいかな? でも、友くんはこんな事で誰かを嫌いなったりする人じゃ無いし、大丈夫だよね? 

 折角決意してやったんだから、このまま中途半端に作戦を終わらせるのも嫌だし……でも、友くんに嫌な気分を感じさせるのはもっと嫌だし……それにもし本当に嫌われちゃったりしたら、私もう立ち直れないよ……うぅ、どうすればいいんだろぉ!

 

「――桜井さん!」

「うひゃあ!?」

 

 突然、耳に入り込んできた大声に、私は思わず机から跳ね上がる。

 

「全く……声を掛けてるんだから、返事ぐらいしなさいよ」

「あ、優香ちゃん……ど、どうかしたの?」

「……あなた、何かあったの? 朝から様子が変だけど」

「えっ、な、何でも無いよ……」

「……ならいいけど。それより、今日はみんなで屋上に集まってお昼でしょう?」

 

 そっか、今日は友くんやみんなと集まってのお昼だっけ……でも、友くんと顔を合わせるのは気まずいし……一緒に居たらまた冷たく接しないといけないし……

 

「……私、今日はいいや。一人で食べるよ」

「えっ……!?」

 

 と、優香ちゃんはとても驚いたように目を丸くする。

 

「……まあ、あなたがそう言うなら、何も言わないけど……本当に何も無いの?」

「う、うん……みんな待ってるだろうし、早く行った方がいいよ」

「……分かったわ。それじゃあ」

 

 どことなく納得いかないような顔をしながらも、優香ちゃんはそれ以上問い詰めずに教室を出て行った。

 変な心配掛けちゃったかな……ごめんね、優香ちゃん……というかよく考えてみると、別に優香ちゃんには冷たく接する必要も、この作戦の事も隠す必要も無いんだよね。

 

「はぁ……誰かに打ち明けたら、少しは楽になるのかなぁ?」

「――打ち明けるって、何をかな? 陽菜っち」

 

 という声と共に、私の机の陰からひょこっと生えて出てくるように、人影が目の前に飛び出してくる。

 

「うわぁ!? って、杏子ちゃんか……ビックリしたよぉ……」

「アハハ、ごめんごめん。ところで珍しいねぇ、陽菜っちが世名っちとの昼飯タイムを拒否するなんてさ。なんかあったの?」

「え? うんっと……」

「あたしでよければ話聞くよ? というか聞かせてくんない? あの陽菜っちが世名っちとの時間を求めないなんて、一大スクープの匂いがプンプンしますからねぇ……」

「め、目が怖いよ杏子ちゃん……」

 

 でも、そうだな……この際だし、杏子ちゃんには全部聞いてもらおうかな。正面一人でこの事実を抱えるのは、辛くてたまらない。理解してくれてるが一人居ると考えるだけで、気持ち的に少しは楽になるかもしれない。

 杏子ちゃんにも私の実行している作戦を知ってもらおう、そしてついでにアドバイスを貰おうと、私は彼女と一緒にお昼を食べながら、全てを話した。

 

「ふーん……押して駄目なら引いてみる作戦ねぇ……」

 

 私の話を全て聞き終えると、杏子ちゃんはお昼ご飯の焼きそばパンをパクリと平らげ、パックに入った牛乳でそれを流し込む。

 

「随分とまあ、ベタな作戦を実行してますなぁ……」

「うん……恵理香ちゃんが、そうしたら友くんも、私の大切さとかに気付くんじゃないかって」

「ま、たまにはそういうのも大事かもね。陽菜っちはただでさえ毎日ベタベタしてるんだし、そういう風に引いてみるのも悪手では無いかもね」

「そっか……でも、凄く辛いんだよね……友くんに冷たい事言うなんて、胸が苦しいよ……」

「とてつもない愛だねぇ……そこまで無理する必要も無いんじゃない? 自分が無理して世名っちの気を引いても、そんな嬉しく無いんじゃない?」

「……言われてみれば、そうかも」

 

 この作戦でもし友くんとの距離が縮まったとしても、私は本当に嬉しいだろうか? 苦しい思いをしてまで作った私じゃ無くて、いつもの私を好きになってくれる方が嬉しいんじゃないか?

 ……うん、絶対そうだ。こんなの私らしく無いよ。だって私は友くんに好きになってもらいたいだけじゃ無い、好きな時に好きなだけ友くんに甘えたり、楽しくお喋りしたりしたいんだ。

 だったらこんな風に回りくどい方法なんかじゃ無い、ただ素直に、大好きって言えばいいんだ。そうして友くんにも私を好きになってもらうのが、私の目指す未来なんだから。

 この作戦も別に悪くは無いと思う。友くんとの距離も、もしかしたら縮まるかもしれない。でも、これは私には似合わない。私は思いっきり、友くんに甘えたいもん!

 

「……うん、そうだね。私、ちょっと無理してた! 無理はよく無いよね! 恋は自分が楽しくなくっちゃね!」

「……よく分かんないけど、色々吹っ切れた?」

「うん! 私には友くんと冷たく接するなんて性に合わないよ! すぐにごめんなさいって謝って来る!」

「ハハハッ、陽菜っちらしいねぇ。ただ、もうすぐ昼休みも終わりだし、謝るなら放課後にしなよ。その方がゆっくり話せるでしょ?」

「あ、もうそんな時間か……」

 

 早く謝りたいけど、流石に授業前に邪魔するのはいけないよね。それに、友くん今日はバイトだったはずだし……謝れるのは結構先になりそうだ。

 正直に全て打ち明け、冷たく接した事を謝って、思いきり友くんに甘えたい――その気持ちをどうにか我慢しながら、私は午後の授業に向けてお弁当を平らげた。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「……友くん、まだかなぁ……」

 

 放課後――学校を終えて家に帰って来た私は、部屋で友くんがバイトから帰って来るのをひたすら待ち続けた。

 ごめんなさいって言いたい、ギュッて抱き締めたい、いっぱい楽しくお喋りしたい――溢れそうな気持ちを抱えながら、ベッドの上でゴロゴロ転がり続ける。

 そして日が沈み、外が暗くなり始めた、午後六時頃。

 

「――ただいまー」

 

 という声が、玄関から聞こえて来る。

 

「友くん、帰って来た……!」

 

 私は慌ててベッドから起き上がり、廊下へ飛び出す。そのまま階段に向かおうとしたが、先に下の階から友くんが上がって来る。

 

「あ、陽菜……ただいま」

「え、あ、うん……」

 

 気まずそうに言った友くんに釣られ、私も曖昧な返事をしてしまう。

 うぅ……早く謝りたいのに、今朝の事もあって少し気まずい……友くんも気にしてるみたいだし、早く正直に言わなきゃ。

 でも、私の口は思うように動かなかった。もしかしたら、今朝の事を友くんは怒ってるんじゃないか――そう思うと、なかなか言い出す事が出来なかった。

 

「……なあ、陽菜」

 

 私が口ごもっていると、友くんの方から声を掛けてくる。

 

「その、今朝のあれだけどさ……何かあったのか?」

「あ、えっと、その…………ご、ごめんなさい! あんな風に冷たい態度取っちゃって!」

 

 ここを逃したら言うタイミングが無くなる――意を決して、私は大声で叫びながら頭を下げた。

 

「ど、どうしたんだよ急に!?」

「その、実はね……」

 

 困惑する友くんに、私は全てを話した。

 昨日恵理香ちゃんとの電話で助言を受けた事。そして友くんに私に対しての興味を深めてもらおうと、その助言を参考にわざと冷たく接していた事を、隠さず伝えた。

 

「なるほど……そういう事だったのか」

「その、本当にごめんなさい…………あの、怒ってる?」

「別に怒ってなんか無いよ。お前はお前なりに考えて、頑張ったんだろ? なら怒る理由なんてねーよ」

「……そっか」

 

 友くんの優しい言葉と微笑みに、思わず頬が綻ぶ。

 よかった……やっぱり友くんは優しいや。私が心配するような事は無かった。こういう事で怒らないって分かってはいたけど、安心した。

 ホッと一安心したと同時に、私の頭にはある疑問が浮かんだ。友くんは私にあんな態度を取られて、どう思ったんだろう――と。

 

「ねぇ友くん。友くんは私に冷たくされて、どう思ったの?」

「どうって……まあ、驚いた、かな」

「……それだけ? もっとこう……悲しかったり、寂しかったりしなかった?」

「悲しいって……それは、無いけど……」

 

 無いのかぁ……じゃあ、この作戦は失敗だったって事か……別に期待していた訳では無いけど、それはそれでちょっと残念だな。

 

「……ただ」

「ん?」

「なんというか……なんとなくむず痒かったというか、調子が狂ったというか……正直いつも通りの方が、接しやすいし有り難い……かな」

「……それって、いつもの私の方が好きって……事?」

「んなっ……!? ……まあ、どっちかと言えば……そういう事になる……かな」

 

 と、友くんは照れ臭そうに顔を赤くしながら、頭を掻いて目を逸らす。

 

「……そうなんだ」

「な、なんだよ?」

「そっか……やっぱり、いつもの私が一番……だよね!」

 

 友くんもこう言ってくれてるんだ。だったら私はいつも通りに――友くんに、好きなだけ甘えちゃおう!

 

「とっもくーん!」

 

 私は今まで溜まりに溜まった思いを全て叫び声に乗せて、大きく広げた両腕で友くんを抱き締めた。ギューッと思いきり友くんの体を抱き寄せ、ほっぺたをスリスリと擦り合わせる。

 

「ちょ、だからって急に抱き付くなって!」

「えへへぇ……とーもくぅん……」

 

 やっぱり、こうして友くんと触れ合うのが最高に幸せだ。どれだけ時間が掛かっても、なかなか進展しなくても、この私を友くんに好きになってほしい。

 そして毎日友くんと幸せに暮らす――そんな未来を信じて、私は今日も友くんに愛を伝え続けるんだ!

 

「友くんだーい好き! 大大だーい好き!」

「わ、分かったから離せって! 色々当たってるから!」

「やぁーだ! 今日はずっと辛い思いしたから、思う存分甘えるんだもーん!」

「お前が勝手にやった事だろうが……はぁ、もう好きにしろ……」

「うん!」

 

 それから私は、十分近く友くんに甘え続けた。友くんは時折「もういいだろ?」と言ったりしたが、それでも私を引き剥がそうとしたりしなかった。

 なんだかんだ言って私のわがままを聞いてくれる……そんな友くんが私は大好きだ――改めて再確認してから、私は友くんの温もりを感じ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 たまにはヒロイン視点でガッツリ一話書きたいな――という考えから生まれたお話。
 今更感が極まりない、少しベタな設定だったけど、(個人的には)可愛い陽菜が描けたと思うので満足。友希に対して冷たい陽菜は違和感しか無かった。
 またこんな風に恋を実らせる為に頑張るヒロイン視点の話を書き……たいなぁ(現在ネタ無し)






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