「困ったわね……」
夜――夕飯を終え、みんな揃ってだらけていると、廊下から母さんが右頬に手を当て、首を捻りながらリビングにやって来た。
何かトラブルでもあったのだろうかと、俺は読んでいた本を閉じて母さんに話し掛ける。
「どうかしたのか?」
「実はね、お風呂が壊れちゃったみたいでね。お湯が沸かないのよ」
「えっ!? お風呂壊れちゃったんですか!?」
陽菜の驚愕の声に、母さんは困り顔のまま頷く。
「昨日までは普通に使えてたんだけどね……明日業者さんに連絡しないと」
「そうなんですか……どうしよう、私まだお風呂入って無いや。友くんと友香ちゃんは?」
「俺もまだだな」
「私も」
「うーん、私は朝早くに入ったからいいけど……陽菜ちゃん達は入りたいわよね?」
母さんの問い掛けに、陽菜はコクコクと力強く頷く。
「一日入らないだけでも臭くなっちゃいますから! 出来れば汗流したいです!」
「別にいいんじゃないか? 一日ぐらい入らなくても、平気だよ」
「もー、友くんデリカシー無いんだから! 女の子はそういうの気にするの!」
怒った口調で言いながら、膨れっ面でこちらを見据える。
女性って本当に綺麗好きだよな……夏で汗ダラダラとかならともかく、今の時期は寒いし、一日ぐらい風呂入らなくてもそこまで臭わないと思うんだけどなぁ。
そんな事を思いながらも、「どうすればいいのかなぁ……」と頭を捻らせる陽菜と一緒に、解決策を考える。
水風呂、濡れタオルで体を拭く、潔く諦める――色々な案を考えては自主的にボツする事数回、ある事を思い出す。
「そういえば……近所に古い銭湯があったよな」
「銭湯? ……ああ、あったあった! 小さな頃、たまに行ってたよね! あそこまだあるんだ?」
「確かな。あそこならそんなに離れて無いし、人も少ないだろう。丁度いいんじゃないか?」
「うん! 私、銭湯行きたい! 背中流しっことかしようよ友香ちゃん!」
「えっ、あ、はい……」
急に話を振られ、友香は少し驚きながら返事をする。
「うーん、なんだかワクワクしてきた! 早く行こうよ友くん!」
「ん? いや、俺はいいや。二人で行って来いよ」
「えー!? どうして!? 一緒に行こうよ!」
「俺は別に一日入らなくても全然いいしな。わざわざ銭湯にまで行って、知らないお爺さんと裸の付き合いする気にもなれないしな」
「もう、そんな事言って……面倒臭いからってお風呂入らないなんて、友くん不潔だよ!」
「男っていうのはそういうもんだ」
陽菜は一緒に行きたいらしいが、悪いが今回は遠慮させてもらう。銭湯に行っても結局は女湯と男湯で分かれるんだし、一緒に行っても特に意味が無いだろう。それに特に汗もかいてないから、俺は彼女と違って外出てまで風呂に入りたいとは思えない。
「という訳で、今回は女性同士で気楽に行って来い。俺は大人しく帰りを待ってるよ」
「分かったよ……よく考えると、友くんだけ男湯に一人で寂しいもんね」
「いやそういう事じゃ……まあ、それでいいや」
「それじゃあ私と友香ちゃんで行って来るね! 早速準備しよ!」
陽菜はリビングを飛び出し、友香もあくびをしながら陽菜の後に続く。
せいぜい楽しんでこいよ――そう心の中で呟き、俺は再び読書へ戻った。
◆◆◆
「せっんとう! せっんとう! フッフフーン!」
と、陽菜さんはご機嫌な様子で歌いながら、小刻みにスキップする。その度に、お母さんが「銭湯と言ったらこれよ!」と言って私達に渡した、少しばかり古臭い桶の中に入ったシャンプーやブラシがガチャガチャぶつかり合う音が、街灯に照らされた住宅街の夜道に響き渡る。
随分楽しそうだなぁ……陽菜さんお風呂好きだもんね。テンションも上がるよ。
彼女は早く銭湯の大きなお風呂を満喫したいという感じだが、対して私は、実はそこまで乗り気では無い。正直に言えばお兄ちゃんと同じで、お風呂に一日ぐらい入らなくても大丈夫派だから。
だから出来れば私も家でお留守番をしていたかったのだが、流石に陽菜さん一人だけ行かせて、知らないお婆さんと裸の付き合いをさせるのはどうだろうかと思い、彼女に付き合う事にした。
別にお風呂は嫌いでは無いし、たまには大きなお風呂で癒しの時間を堪能するのも悪くは無い。今は面倒臭いという感情は忘れて、純粋に銭湯を楽しもう。
「あ、見えてきたよ! あれだよね?」
ふと、自作の歌を歌い続けていた陽菜さんが大きな声を上げながら、正面を指差す。その人差し指の先には、昭和のテイストが残る、目的地である銭湯。
「思ったより早く着きましたね」
「そうだね。うわぁ……見たらだんだん思い出してきたよ! 全然変わってないね! 懐かしいなぁ……」
過去にも訪れた事のある銭湯に関する昔の記憶が鮮明になったのか、陽菜さんは感動したように目を輝かせ、古めかしい建物を見上げる。
私もここに来た事は何回かあるが、最後に利用したのは小学校低学年の時だ。正直曖昧な記憶しか残ってないが、確かに懐かしい気持ちは感じる。古風な外観がそう感じさせるのかもしれない。
「初めて来たのは幼稚園の時だったかな? 私、友くんと一緒がいいって、男湯に入ろうとしたんだよねー」
「そんな事あったんですね……」
「えへへ……まあ、流石にお母さん達に止められちゃったけどね」
そりゃそうだ。自宅ならともかく、公共の施設でそういうのは流石にアウトだ。……よく思い返してみると、私もちっちゃい頃に似たような事言った気がするな……
だんだんと蘇ってくる過去の思い出に頭を捻らせていると、一際強い夜風が私達を襲った。
「ううっ……! 寒い……思い出に浸るのもいいけど、早く中に入ろっか」
「ですね……」
このまま突っ立っていては風邪を引いてしまいそうなので、陽菜さんと一緒に銭湯の中に入ろうとした――その時。
「あれ? もしかして……友香?」
という声が夜風に乗って耳に流れ込んできた。足を止めて振り返ると、そこには私達と同じように桶を抱えている、出雲が立っていた。
「あれ、出雲ちゃん!?」
「桜井先輩まで……どうしてこんなところに?」
「家のお風呂が壊れたの」
「えっ、友香の家も……!?」
「
「う、うん……」
これは驚いた、どうやら出雲の家のお風呂も壊れてしまったようだ。それで私達と同じく、この銭湯を利用しに来たようだ。
同じタイミングでお風呂が壊れて、同じ銭湯を利用しに来るなんて……なんたる偶然。
出雲も陽菜さんも奇跡に近い出来事に少なからず驚きを感じているようで、呆然とした様子で立ち尽くしていたが、ふと出雲が視線を巡らせる。
「……ところで、先輩は居ないんですか?」
「友くん? 俺は一日ぐらい入らなくてもいいから、二人で行って来いって」
「……そうですか」
お兄ちゃんに会えなくて少し残念なのか、出雲は肩をすくめる。
「にしても、出雲もここに来るなんてビックリだよ」
「うん。でも、一緒に入れて嬉しいよ! よかったら出雲ちゃんも背中流しっこする?」
「な、なんで私がそんな事しなきゃならないんですか……先輩なら喜んでしますけど、あなたの背中なんて流す気ありませんから!」
「そっか……じゃあ私が流してあげるよ!」
「それも却下です!」
いつものように出雲が好戦的な態度で、陽菜さんと言葉を交わし合う。
この様子だと長くなりそうだなと、長年の付き合いからなんとなく察した私は、とりあえず銭湯の中に入ろうと彼女達を促す為に口を開く――寸前。
「あれ? 友香ちゃん?」
と、再び夜風に乗って声が耳に流れ込んできた。それに再び振り返ると、そこにはまたまた私達と同じように桶を抱えた優香さん、そしてその妹の天城香澄が立っていた。
「桜井さんに大宮さんも……どうしてここに?」
「……もしかして、優香さんの家もお風呂壊れたんですか?」
「えっ、どうして分かったの!?」
的中したらしく、優香さんはとても驚いたように目を丸くする。
ここまで来たら、もう嫌でも察する事が出来る。どんだけ壊れてるんだ、みんなのお風呂。もうこれガス会社がどうかしたんじゃないだろうか?
と、色々考察しても仕方が無いので、とりあえず今、ここに来たばかりの優香さん達にざっくりと事情を説明してあげる。
「そ、そうだったんだね……」
「お兄さん達のお風呂も壊れていたとは……変な偶然もあるんもんだね」
「まさか天城先輩達も一緒になるなんて……はぁ、どうして先輩だけ居ないんだか……」
「いや、一緒に居ても別々じゃん」
「そうだけど……お風呂上がりに一緒にフルーツ牛乳飲んだりとか、色々したかったの!」
「確かに……お兄さんが居ないのは残念だね。お風呂上がりの色仕掛けとか出来たのにね」
「そ、そんな事しません!」
と、優香さんは妹の提案を速攻で否定する。
「……とりあえず、早く入りません? 寒いし」
「あ、そうだね! 優香ちゃんに、出雲ちゃんに、香澄ちゃん! 一緒に銭湯楽しもうね!」
「……ま、仕方無いわね」
「わざわざあなたが出るのを待つのも面倒ですからね。あんまり騒がないで下さいよ?」
「分かってるよ! それじゃあ、レッツゴー!」
元気良く右手を夜空に向けて伸ばしながら、陽菜さんは銭湯の中へ入る。他の面々も続けて中に入り、私は最後尾で中に入る。
番台のお婆さんにお金を渡して、女湯の脱衣場へ入る。
「あれ? 誰も居ないね?」
「本当ですね……ゆっくり出来そうですね」
「うん、貸し切りだね! 早く入ろう入ろう!」
陽菜さんは近くのロッカーを開けて、早速服を脱ぎ出す。私、そして他の三人も各自ロッカーを開けて、服を脱ぎ始める。
「うわぁ、出雲ちゃんの下着、なんかカッコいいね!」
上を脱ぎ終えた頃、不意に陽菜さんがそんな大声を上げる。釣られて、視線を反対側で服を脱ぐ出雲の方へ向ける。
出雲は既にシャツとスカートを脱ぎ終え、上下共に黒の下着姿に変わっていた。陽菜さんの声に驚いたのか、出雲はホックに伸ばしていた手を止めて、首を回す。
「な、なんですかいきなり……」
「ご、ごめんごめん……つい口に出ちゃった……その下着カッコいいね! 黒で、なんか大人っぽい!」
「そ、そうですか……? まあ、私のお気に入りですし?」
と、普段あまり大人っぽいと言われる事が無いので、陽菜さんの誉め言葉が嬉しかったのか、出雲は少し照れ臭そうにポリポリ頭を掻く。
「ねぇ、それどこで買ったの?」
「え? い、いや、買ったというか、なんというか……な、内緒です!」
「……? そっか……でもいいなぁ、私もそういうの欲しいな! 私って気に入ったデザインのがあっても、あんまり買えないんだよねぇ」
「どうしてですか?」
「いやぁ、気に入っても、そのお店にサイズ合うのが無かったりする事が多いんだよねー」
陽菜さんがそう口にした瞬間、出雲の表情が期限良さそうなものから一転、怒気を露わにした引きつったものに変わる。
「……へぇ、そうですか」
「あ、あれ? 出雲ちゃん……?」
「ちょっと良い人だと思った私が馬鹿だった……やっぱ巨乳は敵だ……!」
などと呟きながら、出雲はさっさと下着を脱ぎ捨て、一足先に浴場へ向かった。
「あ、アハハ……怒らせちゃったかな?」
「……まあ、多分平気ですよ。そこまで本気で怒っては無いですよ」
「そ、そうかな……? でも、一応後で謝っておこう……」
申し訳無さそうに肩を落としながら、陽菜さんは脱衣を再開する。
「……お姉ちゃんももうちょっと下着にこだわってみれば?」
私も脱衣を再開しようとしたその時、唐突に、香澄が優香さんに向けてそう言い放つ。
「い、いきなり何言い出すの!?」
「だって、お姉ちゃんっていっつも白かピンクの、なんの飾りっ気の無いシンプルな下着ばっかじゃん」
確かに、今も優香さんが身に着けてるのは、飾りっ気の無いシンプルな白のブラとパンツだ。別にそれが可愛く無い訳では無いし、十分に魅力的だと思うが。
「そ、それの何が悪いの?」
「そんなんじゃ、お兄さんの心掴む事なんて出来ないよって言ってるの」
「し、下着とそれは関係無いでしょ! 大体、シンプルなの以外に何があるっていうの!?」
「……紐パンとかティーバック?」
「ひ……! そんなもの履きません!」
上擦った声で叫び、優香さんはささっと下着を脱いで浴場へ逃げ去った。
「全く……お姉ちゃんは羞恥心あり過ぎだよ。それぐらい攻める気でいないと、恋愛なんて勝てないよ!」
「あなた……実の姉にティーバック勧めるとかどーなの」
「別にティーバックぐらい普通じゃない? 私のグループにも履いてる子居るよ?」
「うわぁ……そんなアイドルの裏事情知りたくない……」
「ティーバックか……お尻の辺りスースーしないのかな?」
子供みたいな(そもそも子供はティーバックなんて存在知らないだろうが)疑問を口にしながら、陽菜さんも脱衣した状態で浴場に向かう。
謎の下着論議に軽く疲労感を覚えながら、私も浴場へ向かった。
広々とした浴場には私達以外誰も居らず、シンッと静まり返っていた。先に浴場に入った優香さんと出雲は既に、少し距離を開けて湯船に浸かっていた。
私達も早く暖かい湯に入ろうと、軽く体を洗い流してから、水に濡れたタイルを踏み締め、湯船に浸かる。
「はふぅ……気持ち良い……」
「あぁー……レッスンで疲れた体に染み渡る……」
気の抜けた声をこぼす陽菜さんと香澄。私もつい声が漏れそうになるが、寸でのところで堪える。
それからしばらくだらけた状態で黙々とお風呂を満喫していると、不意に香澄が口を開いた。
「そういえば皆さん、最近お兄さんとはどうなんですか?」
「……どうしていきなりそんな事聞くの?」
細めた目で睨みながら、出雲が質問し返す。
「単なる興味ですよ。私もお兄さんを巡る抗争に、無関係って訳でも無いですから」
「ふーん……まあいいけど。私は悪くは無いですね。よく先輩の家で一緒に遊んだりしてますから」
「お兄さんの家で……お姉ちゃんも近所なんだから、遊びに行けばいいのに」
「よ、余計なお世話です!」
「意気地なし……陽菜さんはどうなんですか?」
香澄の質問に、陽菜さんは人差し指を顎に添えながら首を捻る。
「うーん……私は最近は目立った事無いなぁ……でも毎日楽しいし、幸せかな!」
「ほおほお……だってさ。お姉ちゃんも頑張りな」
「い、言われなくても分かってるよ! 全く、余計な事に首突っ込むんだから……」
優香さんは顔半分を湯に沈め、ブクブクと気泡を立たせる。
「そりゃ首突っ込むよ! お姉ちゃん私が何か言わなきゃ、ずっとイジイジしてるでしょ!」
「わ、私だって頑張る時は頑張るよ!」
「頑張る時って?」
「…………いつか」
「……はぁ」
優香さんの弱々しい返答に、深い溜め息をつく。
「そんなんじゃ他の人達に追い越されちゃうよ?」
「何回も言わなくても分かってるって……油断したら、彼女達に抜かれちゃうかもしれないって」
「……意外ですね。天城先輩は、私達なんかに絶対に負ける訳無いって考えてると思ってました」
「もちろん、絶対負けるつもりなんて無い。……でも、私はこの半年間であなた達をよく見てきたつもり。だから分かるの……ちょっと遅れを取ったら、危ないって」
優香さんの言葉に、出雲と陽菜さんが驚いたように目を白黒させる。
ちょっと意外だ……そんな危機感みたいなのを感じてるなんて。優香さん、一応出雲や陽菜さん達の事を認めてはいるんだ。
「これまた意外ですね……てっきり私達の事なんて眼中に無いと思ってたのに」
「私もそこまで馬鹿じゃ無い。あなた達がどれだけ努力してるか知ってるつもり。そして、もしかしたら世名君の恋人に相応しい存在になるかもしれないとも、少しは思う」
「あなた……」
「もちろん、一番相応しいのは私だと思ってるし、その座を渡すつもりは無い。けれど……少なくとも要注意すべき手強いライバルだとは、認識してる」
「……そうですか」
壁際に背中を預け、出雲は天井を見上げる。
「正直に言えば、私も天城先輩と似たような事思ってますよ」
「あなたも……?」
「だって、悔しいけど……あなた達と比べたら私の女性としての魅力は、大分劣ってると思います。スタイルとか……性格とか色々」
「出雲ちゃん……」
「でも! 先輩に相応しい女性としては、私は一番だって言い張ります! あなた達は強力なライバルかもしれませんが、絶対負けませんから!」
ザバンと水しぶきを上げながら、出雲は勢いよく立ち上がり、陽菜さんと優香さんを交互に指差す。
「……当然よ。絶対負けない……世名君の一番隣に居るのは、私だから」
「私だって負けないよ! 出雲ちゃんも優香ちゃんも、そして海子ちゃんも雪美さんも越えて、私が友くんの恋人になるんだもん!」
「望むところです……!」
どこか楽しげな笑みを浮かべ、三人は激しい火花を散らす。
なんだか知らない内に、彼女達の中で互いの認識が変わりつつあるようだ。認め合い、競い合う仲に。初めの頃に比べたら大分良い関係性に変わってきてる気がする。
お兄ちゃんが知ったら喜びそうだな――そう思いながら、私はひっそりと笑った。
「……なら、そんな強力なライバルに負けないよう、もっと積極的になろうね、お姉ちゃん」
「うっ……水を差すような事言わないでよ……」
「私はお姉ちゃんを心配して言ってるの! さっき言ってた通り、ちょっとでも油断してると抜かれちゃうよ? 出雲さんは小さい中に可愛らしさがあるし……」
「誰がちっちゃいよ! あなたも大して変わらないじゃん!」
「陽菜さんは……見ての通りあれだし」
と、陽菜さんを見る。その視線は湯船に浮かぶ、豊かに実った送球に向けられている。
「お兄さんも結局は男性ですからね。あんなおっきいので迫られたら、イチコロですよ」
「せ、世名君はそんな人じゃ無いから! ……まあ、あれは羨ましいけど」
「うーん……やっぱり友くんも興味あるのかな?」
「興味無い人の方が珍しいですよ。それで色仕掛けなんてしたら、もう瞬殺ですよ」
「色仕掛けかぁ……こんなんかな?」
と、陽菜さんは自分の胸を両サイドから挟んだり、下から持ち上げたりする。彼女の巨大なバストが動く度に水面が揺れて波紋が生まれる。谷間にはお湯が溜まり、立ち上る湯気と滴る水滴が彼女の色気を増幅させる。
その男性が見たら鼻の下を伸ばしそうな光景に、イラつきが最大限まで上昇したのか、出雲はピクピクと顔を痙攣させる。
「うーん……よく分かんないし、やっぱりお色気とかは私には合わないかな。……って、どうしたの? 出雲ちゃん」
「よくもまあ、そんなバカデカいのぶら下げといて言えますね……やっぱり巨乳は敵だぁ!」
悲痛な叫びを上げながら、出雲は湯船から上がる。
「出雲……どんだけよ」
「桜井さん……あなた、無神経過ぎるんじゃない?」
「え、えぇ……ご、ごめんね出雲ちゃん!」
「謝らないで下さいよ! なんか虚しくなりますから!」
「あうぅ……じゃあ、お詫びに背中流してあげるから! そんなに怒らないでよぉ!」
陽菜さんも慌ただしく湯船から出て、出雲の後を追い掛ける。
「お詫びになってませんから! 情けは無用です!」
「ううっ……優香ちゃーん!」
「私に助けを求めないでよ……」
文句を言いながらも、優香さんも湯船から出て騒ぐ出雲の下へ向かった。
「結局騒がしくなっちゃいましたねー」
「誰が発端なんだか……」
「まあ、思ったよりお姉ちゃん達が仲良さそうでよかったですよ! 妹としては、姉の人間関係はあんまり悪くなってほしくないですからね」
確かに、大分彼女達の仲は改善されたかもしれない。これもお兄ちゃん達にとっての大事な一歩……なのかな?
「あ、そうだ。私もあなたに負けるつもり無いですからね」
「なんの事?」
「決まってますよ。お兄さんの真の妹の座、私が貰っちゃいますから。その為に、お姉ちゃんには頑張ってもらわないと」
「……真の妹とか、そんな座は元から無いから」
「そーですか」
適当に返しながら、香澄も出雲達の下へ向かった。
とはいえ、私も油断は出来ないかもしれない。ちょっと油断したら、彼女は立派なお兄ちゃんの妹になるかもしれない。それだけの素質が、彼女にはある。
そうならない為に、私も少しは妹として努力でもしてみようか――そんな事を考えながら、私も出雲達の下へ向かった。
久し振りのヒロイン同士の絡み。なんだか彼女達の仲が深まる時は、必ずお風呂入ってる気がする。仲を深めるなら、裸の付き合いが効果抜群。