ある日の放課後の事。今日も学校での全日程を終え、教室で裕吾達と数十分ほど駄弁を交えてから、家に帰ろうと下駄箱のある一階へ降りた時だった。
「あら、友希君じゃない」
凛とした一声が不意に耳を通り抜け、俺は足を止めて振り返る。
声の正体は、思った通り朝倉先輩で、彼女は嬉しそうに口元に微かな笑みを浮かべながら、こちらへ歩み寄ってくる。
「こんな場所で会うなんて偶然ね。今、帰るところかしら?」
「はい。朝倉先輩は……生徒会ですか?」
チラリと、生徒会室がある方へ視線を送る。
「まあね。といっても、今日は生徒会の仕事がある訳じゃ無いんだけどね」
「そうなんですか?」
「ええ。今日はこの後、生徒会室で生徒会メンバーと軽いお茶会をする予定なの」
「お茶会ですか……?」
「お茶会と言っても、そんな堅苦しいものじゃ無いわ。茶菓子を片手に、適当な会話を交えるだけよ。暇な時はたまにしているの」
「へぇー」
生徒会の思わぬ活動に素直に驚いていると、ふと朝倉先輩が何かを思い付いたように手をポンッと叩く。
「そうだわ。もしよければだけど……友希君も参加してみない? 私達のお茶会」
「え? いいんですか?」
「ええ。人数が多い方が楽しいだろうし、友希君が居てくれた方が私も嬉しいわ。他のみんなも喜んで受け入れてくれると思うし、どうかしら?」
先輩は両手を背後に回し、少し体を傾け、俺を覗き込むような形でそう言う。その一連の動作に少しだけドキッとしながら、俺は返答を考える。
折角の誘いだし……ここは喜んで乗っておこう。わざわざ誘ってくれたんだし、断る理由も無いしな。それに二人きりならともかく、生徒会の面々も居るならそこまで緊張する事も無いだろう。
数秒の思索を終えてから、俺は先輩と目を合わせ、答えを返す。
「じゃあ、お言葉に甘えて……お邪魔させてもらいます」
「本当? とても嬉しいわ」
と、先輩は珍しく感情が分かりやすい、純粋に嬉しそうな笑顔を作る。
とてもご機嫌なのか、先輩は身軽にクルリと方向転換して、「それじゃあ行きましょうか」と調子の良い声色で言い、生徒会室がある方へ歩き出す。
先輩が嬉しそうで何よりだ――彼女の様子に釣られて嬉しい気持ちになりながら、俺も彼女に続いて歩き出す。
生徒会室の前に到着すると、先輩は当たり前だが我が物顔で扉を開き、中へ入る。
「さあ、入って」
先輩に促されるまま、俺も生徒会室の中へ足を踏み入れる。生徒会室という、普段はあまりお世話になる事の無い空間に少しばかり緊張しながら、室内に視線を巡らせる。
生徒会室には既に、副会長の夕上、会計の夜雲先輩、そして書記の花咲と、他の生徒会メンバーが揃っていた。
「あっ、朝倉会長……に、世名先輩?」
真っ先に俺達の存在に気が付いたのは花咲だった。彼女は朝倉先輩の後ろに立つ俺を不思議そうに見ながら、「どうして居るの?」と言わんばかりに首を捻る。
遅れて、他の二人も視線をこちらに向け、同様に不思議そうな表情を顔に浮かべる。
「世名友希……どうして貴様がここに居る?」
「羽奈、そんな怖い顔しないの。友希君はそこで偶然会ったから、私がお茶会に参加しないかって誘ったのよ。別に構わないわよね?」
「あ、そうだったんですね。私は構いませんよ!」
「僕も依存は無いよ。よろしく、世名君」
「……まあ、会長が決めたのならば、文句は言いません」
花咲と夜雲先輩は快く、夕上は少し納得いかない風にそっぽを向きながら、俺のお茶会参加を容認してくれる。
相変わらず、夕上は俺の事が気に食わないようだな……本当、どうしてここまで嫌われてんだろうな、俺。正直朝倉先輩と関わるまで、ろくに話した事も無いのに。……まあ、その朝倉先輩が原因なんだろうけど。
夕上は先輩の事を心の底から尊敬しているようだし、そんな憧れの先輩がこんな俺みたいな奴に恋してて、さらには返答を保留している訳だから、そりゃ毛嫌いもする。
「全く羽奈は……まあいいわ。じゃあ友希君の席を用意して……あら? そういえば彼は?」
「ああ、彼なら用事があるとかで今日はパスらしいよ」
「あらそうなの。なら丁度いいわ、友希君はあそこに座って頂戴」
と、朝倉先輩は夜雲先輩の隣、夕上の正面にある席を指差す。
だが、俺はある事が気になり、すぐさま移動せずしばらくその場に立ち尽くした。
「どうかしたの?」
「いや、あの……彼って誰ですか?」
「誰って……ああ、そういえば友希君は会った事が無かったわね。彼っていうのは生徒会の最後のメンバーよ」
「生徒会最後のメンバー……?」
それを聞いて、俺はようやく生徒会は本来五人居る事を思い出した。
言われてみれば、俺って生徒会メンバーはここに居る四人としか会ってなかったな。その最後の人には会った事無いな。……いや、それ以前に誰だかすら知らないぞ?
生徒会という、ある程度生徒達に認知されている者達は、会った事が無くても記憶の片隅にはあるはずだ。少なくとも学年が同じ夕上は会う前から名前も見た目も知っていた。
だが、その例の彼に関しては全くもって知らない。学年が違う花咲と夜雲先輩の事はあまり知らなかったが、それでもうっすらと記憶にはあった。なのに、その彼はいくら頭を捻っても思い出せない――どころか見聞きした記憶も無い。
「……その人、何年生ですか?」
「二年生よ」
違ったら仕方無いと思ったけど……まさかの同じ学年か。
「貴様……もしかして奴を知らないのか?」
「まあ、仕方無いですよね。先輩影薄いですし。たまに生徒会室に来てるのに気付かなかったりしますし」
「確かに。僕も彼の隣の席なのに、気が付かない時があるよ」
「奴は無口だし、それも致し方ないでしょう」
身内までそういう認識なのか……というか、みんな頑なにその彼の名前を口にしないが、わざとなのか?
ここまでくると、その彼の事が異様に気になる。せめて名前だけでも知りたいと、俺は朝倉先輩に問い掛ける。
「あの……その人、名前は?」
「彼の名前? 彼は――」
朝倉先輩がその彼の名を口にしようとした瞬間――突然、生徒会室にガシャーン! と、ガラスが割れるような音が響いた。
「ああ!? 私のお菓子入れが粉々にぃ!?」
「花咲……お前は物を落としやすいのだから、そういう壊れ物は注意して扱え」
「す、すみません……」
「全く真昼は……ごめんなさい友希君。なんだったかしら?」
「……えっと、その彼の名前を……」
「ああ、そうだったわね。彼は――」
再び、朝倉先輩の口から彼の名前が放たれる――寸前。
「は……はっくしょーい!」
「花咲……人に顔を向けてくしゃみをするな!」
「うひぃ……すびばぜん……」
「鼻水を拭け! 本当にだらしないな貴様は……」
「真昼ったら……本当に騒がしくてごめんなさい。それで、なんだったかしら?」
「……もういいです」
なんなんだ一体……神様が俺に彼の名を知られないように妨害してるのか? それとも単なる花咲の嫌がらせか?
ともかく、このまま彼に関する詮索を続けても、花咲による妨害がエンドレスに起こりそうなので、とてつもなく不本意だが、俺は彼の名を知る事を諦めた。……帰ったら裕吾に聞こう。
モヤモヤを内に残しながら、俺はその例の彼の席に腰を下ろす。朝倉先輩も窓際の一番奥の席に腰を下ろし、皆に視線を送る。
「さてと……色々ゴタゴタしてしまったけれど、始めましょうか」
「はい! 今日は自信作ですから、期待してて下さいよー」
椅子に座ったまま腰を曲げ、花咲が机の下に置いてある自分の鞄を探り始める。
「自信作って……お茶会のお菓子、お前が作ってるのか?」
「はい! 私、お菓子作りが趣味ですから! 私のお菓子は一度食べたら病み付きになりますよー。世名先輩の胃袋、鷲掴みです!」
「へぇ……真昼は友希君の胃袋を鷲掴みにしたいのかしら?」
と、朝倉先輩が据わった目で花咲を見ながら、若干殺気が籠もった言葉を投げ掛ける。
「えっ!? い、嫌だなぁ! そんなつもり全然無いですよ! 世名先輩の胃袋なんかに興味ありませんから! アハハハハー!」
それに花咲は顔に真っ青な笑顔を浮かべ、早口で誤解を解きながら、逃げるように再び鞄の中を探り始める。
そんな様子の彼女に呆れたようにかぶりを振ってから、夕上が「私がお茶を入れておきます」と言って席を立つ。
「えっと……よかった、砕けて無い……盛り付けるんで少々お待ちを!」
鞄の中から一つの袋を取り出し、花咲は夕上がお茶を入れる方へパタパタと走る。
彼女達の準備が終わるまで、楽な姿勢で待つ事、数分。
「お待たせしましたー! これが今回の、私のお手製お菓子です!」
自信満々に叫びながら、花咲はお菓子を盛り付けた皿を皆の前に置く。
「これは……クッキーか」
「はい! チョコとか、イチゴジャムとか、色んな味がありますよ! 是非是非ご賞味あれ!」
確かに、チョコやイチゴ、甘くて美味しそうな食欲をそそる匂いがする。自信作と言うだけあって、とても美味そうだ。
しばらく花咲の自作のクッキーを眺めていると、夕上が皆の前に一つずつカップを置く。
「こっちは紅茶か。これも美味そうだな」
「会長お気に入りの品だ。世名友希、しっかりと味わえよ?」
「あんまり高圧的にならないの。友希君、私達に気なんて使わないで、気楽にしてね?」
「は、はい……そうします」
「それでいいわ。それじゃあ、頂きましょうか」
朝倉先輩の言葉をキッカケに、皆が一斉に花咲特製のクッキーに手を伸ばす。俺もクッキーの中からチョコ味と思われるものを手に取り、口へ運ぶ。
瞬間、サクッとした食感とチョコの甘さが一気に口の中に広がる。思っていたより完成度の高い、既製品ともほぼ遜色の無い美味さに、思わず言葉を失う。
そんな俺の様子に、花咲は期待の眼差しを向けながら、ニヤニヤと笑みを作る。
「どうですどうです? 美味しいでしょう? ビックリしたでしょう?」
「……美味いな、これ」
「そうでしょう? フッフーン、少しは見直しましたか?」
思った感想を素直に告げると、花咲はこれでもかというほど胸を張り、したり顔を浮かべる。
そのどや顔が無ければ普通に尊敬するんだけどなぁ……それは置いといて、本当に美味いなこれ。普通に商品として売り出せるレベルかもしれない。
「まあ、気に入ってもらえたようで何よりです! あ、そうだ……これ! この余ったの、是非持ち帰って下さい!」
と、花咲はクッキーを入れていた紙袋を俺に差し出す。
「あら、珍しいわね。いつも余りは自分で持ち帰るのに。……友希君に何か気があるのかしら?」
「うっ……いちいち殺気を向けないで下さいよぉ……これは世名先輩にじゃ無く、妹の友香さんにです! その、私のせいで色々と迷惑を掛けたみたいですし……」
「迷惑?」
「私、世名先輩達が修学旅行に行ってる間、風邪引いて学校休んでて……その時、友香さん達が私の代わりに学校の雪かきを手伝ってくれたとか……だから、これはそのお詫びです!」
ああ、そういえば友香がそんな事言ってたな。花咲が雪でテンションが上がって雪遊びしてたら風邪引いて、代わりに生徒会の仕事を手伝った――みたいな事。
流石の花咲もそれは申し訳無いと思っているのだろう。だからお詫びとして、お手製お菓子を送ろうと。
「そういう事なら、受け取っとくよ。友香甘いの好きだし、きっと喜ぶよ」
「よろしくお願いします! ついでにお礼も言っといて下さい!」
「そういうのは自分で伝えなさい。それから、お詫びなら他の三人にも渡しておきなさい」
「うっ、それもそうですね……今度大宮さん達にも作っておきます」
「まあ、頑張りなさい」
適当な口調でエールを送り、朝倉先輩は紅茶を啜る。
それからしばらく、生徒会メンバーに混ざってなんて事のない会話を交えながら、お茶とお菓子を堪能する事数十分。不意に朝倉先輩が席を立つ。
「ごめんなさい、少々席を外すわね。みんなはそのまま楽しんでいて頂戴」
そう言って、朝倉先輩は生徒会室から立ち去る。
「おトイレですかね?」
「そういう事を軽々しく口にするな」
と、夕上は花咲の頭に軽いチョップを繰り出す。あうっ、と可愛らしい声を出し、花咲はくわえていたクッキーを机の上に落とす。
デリカシーが無いな、花咲は……朝倉先輩もこんな後輩を持って、気苦労が絶えないだろうな。俺なら彼女に振り回されて、音を上げるかもしれん。
「……あ、そうだ」
朝倉先輩が生徒会室を出てから数分後、ふと、花咲が小さく呟く。それに嫌な予感をヒシヒシと感じていると、思った通り花咲が俺にある質問をぶつけた。
「丁度会長も居なくなったし、世名先輩に聞きたいんですけど……ぶっちゃけ、朝倉会長とはどうなんですか?」
「…………どうって、なんだよ」
「そりゃ、あれですよ。ここまで進んだーとか、そんなんですよ。どうなんですか? ぶっちゃけゴールイン間近だったりします? チューぐらいはしちゃったり? それともそれとも、大人の階段登っちゃったり? ハッ、もしかして……私達が知らない間にこの生徒会室で逢い引きしちゃってたりします!?」
ありもしない想像を勝手にしながら、花咲は興味津々にキラキラと目を輝かせ、身を乗り出す。
こいつは……本当にデリカシーが無いな。遠慮とか、自重っていう言葉はこいつの脳内辞書には無いのか? ……無いんだろうな、きっと。
ともかく黙秘を続けていては、花咲の口から妄想に満ちた言葉が乱発されるだけだ。彼女を落ち着かせる為に、俺はなんの面白みの無い事実を伝えた。
「……悪いが、お前が想像しているような事は無ぇよ。そりゃ少しは互いの事を知ったりしたけど、今も現状はほぼ変わらないよ」
「なーんだ、そうなんですね。ざーんねん」
と、ガッカリしたように唇を尖らせながら、椅子にもたれ掛かる。
「なんでお前が残念がるんだよ」
「だって、私は会長の恋を真剣に応援してますから!」
「……そうなのか?」
「当然です! 私も会長には色々お世話になってますし! それに普段迷惑掛けてますから、プライベートぐらいは幸せになってほしいなーって」
「なら、プライベート以外も幸せになってもらえるよう、迷惑を掛けない努力をしろ」
「あ、アハハハハー……ガンバリマース……」
夕上の容赦無いツッコミに、花咲は力無く呟き、肩を落とす。
「はぁ……それはさて置き、私も花咲の意見には同意だな。会長にとって、最上の幸せはお前と付き合う事だろうしな。それを叶えてもらう為に、私達も出来る限り助力するつもりだ」
「そうですよ! 私達は会長の恋を全身全霊で応援しますから! ねぇ、夜雲先輩!」
「僕? まあ……確かに彼女には是非世名君とくっ付いてほしいかな。生徒会の仲間として、いち友人として、彼女には幸せになってもらいたいからね」
「はい! 会長がハッピーなら、私達もハッピーです!」
花咲達……そこまで朝倉先輩の恋を応援してるんだな。いつか軽く聞いた事はあるけど、そこまでとはな。
彼女達の言葉に嘘偽りは感じない。本当に真剣に、先輩の恋を応援しているんだろう。……愛されてるんだな、朝倉先輩。
「……まあ、それは貴様の返答次第なんだがな、世名友希。前にも少し言ったかもしれんが……会長を失望させるような答えは出すなよ?」
「うっ……い、言われなくても分かってるよ……」
万が一そんな事になったら……俺の命は危ういかもな。
でも、そんな事にならない為に俺はここまで悩みまくってるんだ。先輩の為にも、そして他のみんなの為にも、デタラメな答えを出すつもりは無い。
「でもまあ、きっと世名君なら彼女も納得するような答えを出してくれるさ」
「……だといいですが」
「そこは私達がどうこう言うべき問題じゃ無いですよ。私達は遠くから、朝倉会長の事を見守りましょうよ!」
「そうだな……お前もたまにはまともな事を言うんだな」
「夕上先輩酷いです……私はいつもまともですから!」
「――なら、あなたのまともは大分異常ね」
ガラガラと、扉の開く音と共に、静かな罵倒が飛んでくる。
「ふぉっ!? 朝倉会長、いつの間に……」
「今戻ったのよ。真昼、今度辞書でまともという言葉を調べてみなさい。自分には似つかわしく無い言葉だという事がよく分かるわよ」
「会長まで……世名せんぱぁい! なんとか言って下さいよ!」
「俺に助けを求めるな……完全に同意だ」
「そんなぁ……みんな酷いですー!」
◆◆◆
お茶会開始から約四十分――花咲お手製のクッキーを全て平らげ、お茶会は無事に終了。夕上、夜雲先輩、花咲は生徒会室を後にして下校。俺と朝倉先輩は生徒会室に残り、食器などを片付けをしていた。
「これで終わりね……ごめんなさいね友希君、片付け手伝ってもらって」
「いいえ、これぐらいいいですよ。今日は誘ってくれてありがとうございました。紅茶にクッキー、どっちも美味しかったです」
「フフッ、満足してくれたのならよかったわ。また機会があったら誘ってあげるわ」
「期待して待ってますよ。それじゃあ、俺達も帰りましょうか」
鞄を持ち、生徒会室の扉に手を掛ける。
「……私も、まだまだ頑張らないとね」
ふと、朝倉先輩がそんな事を小声で口にする。俺は扉から手を離し、振り返る。
「どうかしました?」
「ああ、ごめんなさい。ただの独り言よ。さっきの話を聞いて、改めて頑張らないと……そう思ってね」
「さっきの……もしかして、先輩が居ない時の?」
「ええ、偶然聞こえてきてね。彼女達が私を応援してくれてるのはなんとなく知ってはいたけど、実際に口にしているのは初めて聞いたから」
朝倉先輩は嬉しそうに微笑みながら、生徒会室にある机を見回す。
「彼女達の応援を裏切らないように、私も頑張らないと……友希君と、幸せを掴む為にね」
「先輩……」
「その為に、これからも色々アタックするから……覚悟してね?」
ゆっくりと歩み寄って正面に立ち、先輩はウインクをしながら人差し指を俺の唇に押し当てる。
覚悟してね、か……俺も彼女の頑張る姿を、しっかり見て、受け止めてやらないとな。それが、選ぶ側の俺の義務だから。
「それじゃあ……早速アタックしちゃおうかしら?」
「え?」
「これから少しデートでもする? それとも……真昼が言ってたように、ここで逢い引きでもする? 友希君となら……いつでも歓迎よ?」
と、悪戯な笑みを作りながら、先輩はスカートの裾を摘んで、軽く上に上げる。じりじりと身を寄せ、胸と胸を重ね、少し紅潮した顔で俺を見上げる。
「ちょ、何を言って……!?」
「ウフフッ、冗談よ。そんなに焦っちゃって、可愛いんだから」
朝倉先輩はクスクスと
「さあ、もう遅いし帰りましょう。デートはまた、別の機会に……ね?」
朝倉先輩はクルリと振り返り、俺を見つめながら胸元に両手を添え、首を小さく傾げた。その仕草が妙に可愛らしく、思わず目を奪われる。
朝倉先輩のアタック……今までもそうだったけれど、一筋縄では行かなそうだな。
彼女に振り回される事はまだまだ多そうだ――そう思いながら、俺は先輩と共に生徒会室を後にした。
久し振りに生徒会メンバー登場。もうちょっと生徒会の和気あいあい感を書きたかったけど、技量が足りず断念。無念。
ちなみに、生徒会最後のメンバーである彼は、今後登場する予定は一切ありません。永遠の謎となるので、申し訳無いですが友希君同様モヤモヤしてて下さい。