遊園地――それはエンターテインメント溢れる娯楽施設。夢いっぱいのワンダーランド。人が溢れかえる地獄。リア充野郎共の聖地。
等、人によって捉え方が違うだろう。ちなみに俺は去年ぐらいまではリア充野郎共の聖地認定でした。
でも、今の俺の考えは違います。俺にとって遊園地は――
「ねー先輩! 今度はメリーゴーランド乗ろうよ! もちろん、二人っきりで!」
「いいえ、それよりあそこのお土産屋へ行きましょう。大丈夫、私がカードか何かで好きなだけ買い占めるから」
「そんな事より今度はあのアトラクションがいいな私は」
「わ、私は……怖いもの以外なら何でも良いぞ!」
――遊園地は、女子達がバチバチに争うフィールドです。
あれから色々なアトラクションを見て回り、それなりに遊園地を満喫していた――が、相変わらず女子陣の間には何か違う空気が流れている。多分、人には見えない守護霊的なのが戦い合ったりしてる気がする。誰かしら時とか止めそう。
助っ人達ももはやこちらの事知らんぷりで遊園地をエンジョイしている。親友が超SOSのサインを出しているのに何故君達は無視をする? まあ、居てくれるだけで精神安定剤的な役割をしてくれているから有り難いけど。
で、色々ありながらも大きな問題は起きずに遊園地巡りを続けたが、ここでまたまたあの問題へとぶち当たった。
問題にぶち当たった場所は体験型アトラクション『ボーン・バスターズ』とかいうシューティングゲーム風アトラクションの施設。
ゴンドラ的なのに乗って、移動中現れる骸骨の化け物を銃で撃ち落としていき、ポイントに応じて景品が貰える――といった何かよくありそうなアトラクション。
面白そうだし、シューティングゲームは割と好きなので来てみたはいいが、ここであの悪魔の看板が目に入った。
――このアトラクションは二人一組限定です。
「…………」
まあ、そうだよね。ゴンドラちっちゃいもんね。二人ぐらいが限界だよね。でも、それだと事案が発生してしまうんですよ。
というわけで今現在真後ろで起こってるであろう現実と向き合う為、まず大きく深呼吸をする。心を落ち着かせ、俺は悪くないと自己暗示をかける。十分な覚悟が決まったところで後ろを振り向く。
そしてその先には闘争心全開で向き合う四人の姿。これから殴り合いを始めるのではないかと思えてしまう空気。だが、彼女達がするのはもちろん非常に平和的なあれだ。
「最初はグー! ジャンケン――」
◆◆◆
『それではボーン・バスターズの世界へ、レッツゴー!』
陽気な女性アナウンスの声に合わせ、俺達が乗ったゴンドラ風の乗り物がレールを沿ってゆっくりと動き出す。
ここから出口まで、専用のおもちゃの銃を使って所々に出てくる骸骨型のターゲットを狙い撃つ。なんだかんだいって楽しみだ。でも、パートナーがパートナーだしな。
一体どういう反応をしているのか少し気になり、隣に座るパートナーに目を向ける。
彼女は手に持つおもちゃの銃を不思議そうに見つめ、色んなところをいじくっている。その姿はまるで子供が新しいおもちゃを買って、使い方を試行錯誤する感じだ。とはいえ、その表情は相変わらず無表情。そして多分考えもぶっ飛んでるだろう。
「……これからレーザーが出るのかしら?」
「出ませんよ」
「あらそう。少し残念ね……」
そんなガチなレーザー銃じゃ無いですから。やはりこの人世間知らずだな……
あのジャンケンの勝者であり、俺とこのアトラクションを遊ぶ権利を手に入れた朝倉先輩はどことなく楽しそうな雰囲気を醸し出していた。
表情には本当に些細な変化しか無いが、この数週間で大分先輩の感情的なものが分かるようになってきた。元々目や耳が良いせいか、表情の変化や声のトーンを聞き分けて他人の感情を理解するのは割と得意な方だ。朝倉先輩はきっとこの未知のアトラクションに少なからず興奮しているのだろう。まあ、それ以外の感情もありそうだが。
「……ねぇ、友希君」
「何かまた質問ですか?」
「いえ、少し賭けをしないかしら?」
「賭け……ですか?」
「ええ。このアトラクションはどうやらポイント制らしいし、勝負をしてみない?」
「勝負……俺と先輩でですか?」
確かにこのアトラクションは最終結果はパートナーとの合計ポイントだが、一応個別に取ったポイントも確認出来る。
「このポイントが多かった方は相手に一つお願いを出来る――なんてどうかしら?」
な、なんだその古典的でベターな賭けは。まさか勝ったら付き合えとか……
「安心して。友希君が思っているような事はしないわよ。些細なお願いみたいなものよ」
「さ、些細ですか……」
この人の常識はある意味色々違うからな……キスとか普通に言われそう……まあ、嫌では無いんだが、それを知ったその他三人が何をしでかすか分かったもんじゃ無いしな……
いや待てよ……逆に俺が勝てば俺がお願い出来るという事か……なら乗ってみるのもありだな。いや決してイヤらしい意味では無いぞ! 誰に言ってんだ俺……
「……分かりました、乗りましょう」
「言ったわね? 男に二言は無しよ?」
気のせいか先輩の口角が少しつり上がった。結構自信があるみたいだな……でも、俺もゲーム好きとして、そう簡単に負ける気は無い! 俺がこの勝負に勝った時のお願いは――この後穏便に一日を過ごしてもらう事だ! もうそれだけで良い! 今日を無事に終われれば良いんだ!
「よし……絶対勝つ!」
僅かな平和を求め――とうとうアトラクションが開始された。というかスタート遅いな。
ゆっくりとレールの上を進むゴンドラの中で、俺と先輩はターゲットが現れるのを待つ。
ゴンドラが数メートル程進んだところで、骸骨型のターゲットが朝倉先輩の近くに出現した。
「そこね――」
そのターゲットに不格好ながらしっかりと銃を向け、引き金を引く。バァン! という電子音が鳴り、銃の先端が光る。それがターゲットにピッタリ当たればポイントになるのだが――
「あら? 反応しないわね」
朝倉先輩の一撃は外れ、ターゲットがケケケケケッ、とムカつく笑い声を上げて消える。流石にそう簡単に命中するものでは無いらしい。
だが、俺はこの手のゲームは大の得意だ。かつてゲーセンのシューティングゲームをたったワンコインでクリアしたというとてつもなく小さな伝説を残した俺にとって、こんな遊びは朝飯前だ!
「……そこだ――!」
左前辺りにターゲットが現れる。そこに銃を伸ばし、引き金を引く。その光の見えない弾は命中したらしく、骸骨型のターゲットがギィヤァァァァァ! というやかましい悲鳴を上げて倒れるように消える。うるさい骸骨だな。
「あら、お見事」
「こう見えても動体視力には自信ありますからね」
「ふふっ、友希君は凄いわね。ますます惚れちゃったわ。でも、もう慣れたし、悪いけど勝つわね」
「へ――?」
声を聞いただけで感じる圧倒的な自信。た、たった一発撃っただけでそこまで自信を持てるか? というか外したのに何故そんなに――そうこう考えてると、先輩は熟練のガンナーの如く手慣れた手付きで銃をクルクルと回し始める。何それカッコいい。
でもそれだけじゃ意味が無い――と心の中で呟いていると、先輩が銃を持った腕をピンッと伸ばし銃を撃つ。するとその銃口の先にまるで当たりに来たようにターゲットが現れ、あのやかましい悲鳴を上げる。
え、何これ。それ以降も朝倉先輩は、百戦錬磨の戦士かとツッコミたいぐらい迷い無く銃を連射して、次々とターゲットを撃ち落としていく。
俺も慌ててターゲットを狙うが、俺サイドに現れたターゲットすら朝倉先輩はかっさらっていった。何この無双!?
そして結局、朝倉先輩は外した最初のターゲットと俺が撃ったターゲットを除き、全てのターゲットを撃ち落としあっさりと勝利した上に、アトラクションの歴代最高記録すら更新してしまった。
そういえばこの人……割と何でもあっさり出来てしまうんだっけ……とはいえ凄すぎるだろう!
驚愕を隠せないままアトラクションが終了し、景品を貰い、みんなと合流しようと出口に向かい歩き始めた時。
「友希君、賭けの事……覚えてるわよね?」
不意の悪魔のような囁きに足を止める。完全に忘れてた……まさかあそこまでボロ負けするとは思ってなかったしな……仕方が無い、約束は約束だ、きっちり守ろう。でも先輩なら本当に凄い事要求しそうだし……大丈夫かな?
「で、何をお願いするんですかね?」
「そうね……色々あるけれど、軽いものにしましょう」
本当に軽いのだろうか……前に友達ならオッケーと頬にキスした人だ。全然宛にならない。
「じゃあ……頭を撫でてくれるかしら?」
「…………へ?」
「聞こえなかったかしら?」
「いや聞こえてましたけど……そんなんで良いんですか?」
「あら? もっと過激なのが良いかしら?」
「そういう意味では無くて! そのぉ……意外というか……そういうのに興味あるんだなぁというか……」
「私だって恋する女の子よ。思い人に優しくされたいという願望ぐらいあるわ」
目をうっすらと細め、口元を緩ませて、珍しく分かりやすく笑顔を浮かべる。
正直、先輩はそういった甘えるような行為には興味が無いと思っていたが……どっちかというとお姉さんキャラ的な印象が強かった分、驚きが大きい。
「……で、どうかしら? 嫌ならキスに変えてもいいのだけれど――」
「や、やります! すぐやります!」
普通ならグレードアップして嬉しい場面なのだろうに、慌てるのは俺だけ何だろうなぁ――そんな事を思いながら先輩に近寄る。
今更だが、先輩で生徒会長。さらにお嬢様である人の頭を撫でるとは、とてつもなく凄い上に、恐れ多い事だな……とはいえやらないと済まなそうなので、意を決して先輩の頭のてっぺんに右手を乗せ、軽く撫でる。先輩の髪は美しい銀髪の見た目通り、本当に人間の物かと思える程サラサラで、とてつもなく触り心地抜群だった。正直小一時間は撫で続けられそうだ。
とはいえ長時間年上の頭を撫で続ける訳にはいかないだろうと、数秒続けたところで手を離す。
「こ、これで良いですか?」
「ええ。たまにはこうして誰かに甘えたりするのも、悪くないわね……」
またうっすらと微笑む。とりあえずは満足してもらえたらしい。先輩も意外と乙女な人なんだな……
そう俯きながら考えていると、今度は朝倉先輩が俺の頭に手を乗せて優しい手付きで俺の頭をまるで動物を愛でるかのように撫でてくる。
「ありがとうね。また一緒に、遊びましょうね?」
そう美しい美声で囁きながら、今まで見せた事の無い母性溢れるような満面の笑みを見せる。突然のギャップがありすぎる笑顔に思わず咄嗟に言葉が出ずに、ただ顔を赤くして目を丸くして先輩を見つめてしまう。
「さあ、景品を貰いに行きましょう」
そのまま何事も無かったかのように先輩は出口へ向かい歩き出す。
何か……ずるいだろ、あれ――そんなモヤモヤする感情を振り払い、慌てて先輩の後を追いかけた。
◆◆◆
景品も受け取り、みんなと合流して再び遊園地巡りを再開した。一応あのアトラクション内であった事は言っていない。言ったら百パー大変な事になりそうだし。先輩もそれを理解してか、それともただ言う気が無いのか、何も言わない。
このまま安全に事が済めばいいんだが……
「うわ、もうこんな時間じゃん。そろそろ帰り時かね?」
孝司の言葉に全員が手持ちの時計に目をやる。俺もポケットからスマホを取り出し、時間を確認する。時刻は午後5時。確かに、帰るにはそろそろ良い時間だ。
「そうだな……そろそろ帰るか?」
「あ、そうだ! その前にさ、最後にあれ乗ろうよ!」
出雲ちゃんが指差した方向に全員息ピッタリに顔を向ける。その先にあるのは遊園地の目玉である観覧車だ。奥からの夕日の光でとてもロマンチックな乗り物に見えるそれは確かに締めには相応しい乗り物かもしれない。というか最後に乗ろうとして無意識に避けてたのかもしれん。
「そうだな……じゃあ折角だし、乗ってくか!」
最後ぐらいは目一杯楽しもう。そう観覧車目指して歩き出そうとしたその時――
「あ、ちょっと待ってて!」
出雲ちゃんに呼び止められ、どうしたのかと振り返ると、今日何回か見た光景が繰り広げられていた。
「……えっと、ジャンケンする意味無くない? 四人は軽く乗れるよ?」
「何言ってるんですか!」
「折角の観覧車なのよ」
「二人っきりの方が良い」
「だからここで決める!」
えぇー……良いじゃん、二人っきりじゃ無くて良いじゃん! みんなで入れば良いじゃん! ちょっとキツいけど五人は乗れるよ!
とはいえ思い立った彼女達は止まらない。ここが最後という事が分かってるからか、もの凄い気合いを感じる。軽い嵐でも巻き起こりそうな雰囲気だ。
「……最初はグー! ジャンケン――」
◆◆◆
宙に浮かぶ小さな空間。窓からは綺麗な夕日が見える、とても幻想的な風景だ。そしてその個室に二人っきりで居る俺と――天城。
「…………」
「…………」
――気まずい!
何話していいか全然分からん! 天城もあれだけ気合い込めてジャンケンに勝ったのに、二人っきりになってからずっと黙りっぱなしだ。まあ、女子と男子がこういう状況になれば、こうなるよな。
とはいえまだ観覧車は半分も回っていない。このまま沈黙が続くのは正直厳しい。ここから飛び出したくなる思いに駆られそう。
何か話題を振らなければ――無理矢理にでもとりあえず話し掛けようと口を開こうとした
瞬間――
「――あの!」
突然天城が声を上げる。不意な大声に怯んで、言葉が詰まる。
「えっと、何?」
「その……隣に座って……良い?」
モジモジと足を忙しなく動かしながら、ウルウルと潤んだ瞳を向けてくる。夕日の光が当たり、大きな黒目がより美しく輝き、思わずたじろいでしまう。
見た目もそうだけど、仕草もいちいち可愛すぎる! 天城は他の三人が居る時は積極的で威圧感があるけど、二人だけになると急に大人しくなるからそのギャップにどうしても動揺してしまう……落ち着いて、平常心を保て俺!
「あ、ああ良いぞ……」
「ありがとう……それじゃあ失礼して……」
ゆっくりと中腰のまま立ち上がり、正面から俺の隣へ移動する。ただでさえ若干狭い席に二人も座った事により、更に狭くなる。これでもかという程体が密着する。さ、流石にこれはヤバい……色々。
離れようとしたが、天城が俺の服の裾を押さえつけているらしく、移動出来なかった。照れてるのに積極的だなやっぱり……
天城の顔は夕日のせいか、何だかいつもより赤く染まっているようにも見えた。トロンとした目つきが可愛らしさをさらに引き立たせている。
この子と二人っきりとか……俺よく理性保っていられるな……他の三人の事が無かったら俺どうにかなってたぞ多分。いや、それ以前に三人の事が無かったら俺達付き合ってたかもしれないのか。
「……付き合うか――」
天城に聞こえない程度に小さく呟く。
もしあの三人が俺に興味を持つことが無く、天城に告白されただけなら――俺はどうしたのだろうか?
いや、天城だけじゃ無い。もしこの四人の内たった一人に告白されたら――俺はどうしたのだろうか?
正直、俺は恋愛感情とかは詳しく分からない。そりゃ彼女とか欲しいとは思うし、天城に告白された時は凄い嬉しかった。でもそれは好きな人に告白されたからでは無く、多分単純に女子から告白されたからだろう。
あの時、俺は天城とすぐに付き合うという事は考えて無かった。理由はいくつかあるが、単純に相手に失礼だと思ったから。向こうはきっと――いや実際に真剣に俺を見てくれている。なら、俺にも真剣に向き合う義務がある。ただ彼女が欲しいからという理由で付き合うのはおかしいと思うから。だから俺は天城と友達として付き合い、彼女の事を深く理解して、そしてちゃんと天城の事を好きになりたい――そう思った。
でも今はこういった状況になってしまい、それどころではなくなってしまったのだが――
「……いや、違うか」
それどころじゃない――俺のやる事は変わらない。
俺は友達としてアイツらと付き合い、彼女達の事をちゃんと理解するだけ。ただその対象が増えただけだ、やる事は変わらない。
そして前にも決意した通り、誰を好きかちゃんと決める。そして四人から危険な感情を取り除く。これが一番大変そうだけどな……まあ、出来る事から地道にやるしかないか。
「出来る事か……」
今出来る事は何だろう……天城へチラリと目を向ける。天城は変わらず頬を染めて俯いていた。今出来る事は……少しでも相手を理解する事だよな。
「なあ、天城」
「な、何?」
「そのぉ……少し話さないか?」
「え……?」
「天城の事さ、知りたいからさ。こういう機会でも無いと、ゆっくり話せないし」
「世名君……うん、お話しよっか」
緊張が少しほぐれたのか、天城は柔らかい笑顔を見せる。
そこから、俺達はなんてこと無い会話を続けた。好きな食べ物だったり、趣味だったり。そんなどうでもいい事でも、話す度に少しずつ天城の事を理解出来た気がした。
そんな会話を続けていると、いつの間にか観覧車はもう終盤に差し掛かっていた。
「あ、そろそろ終わりだな」
「そっか……ちょっと残念だな」
ゆっくりと地面に近付く様子を、窓から眺める。天城も反対側の窓から同じように覗き込んでいる。
「世名君、また一緒に来ようね、遊園地」
「え? ああ、もちろん」
「今度は二人でだからね?」
「うっ、おう……」
二人か……今度はデート関連にもルールを決めないとな……考えてみると、俺が誰かを好きになっても四人の狂気的な考えを変えないと話にならないんだよなぁ……マジでどうすればいいのやら……
俺が頭を抱えていると、不意に天城が服の裾を引っ張りだす。顔を向けると、何やら真面目な顔付きでこちらを見つめていた。
「ど、どうかしたか?」
「……世名君!」
「は、はい!?」
「私は……私は、世名君が好き」
「い、いきなりどうした!?」
何故このタイミングで告白!? 一体何をどう思ってその言葉が出たんだ!? 天城も顔を真っ赤にしているし、何この状況!
「えっと……私さ、ちゃんと世名君に好きって言ってないと思って……告白はラブレターだったし」
「ああ……そう言われればそうだな」
「だから、改めて伝えようと思って。私、絶対諦め無いよ。他の奴に世名君は渡さない……絶対世名君に好きになってもらう……だから――」
そこで言葉を切ると、天城は俺の手を両手でギュッと握り、顔の前まで上げる。
「私、精一杯頑張るよ。少しでも私の魅力を分かってもらう為に、いっぱい頑張る。だから世名君も、私の事……ちゃんと見てね?」
ちょこんと首を傾げ、甘えるような消えてしまいそうな声でそう囁く。それにどうこう言い返すでも無く、俺はぼーっと彼女を見つめた。
ああ、やっぱり彼女も真剣なんだ……いや彼女だけじゃ無い、他の三人もきっとそうだ。なら、俺はしっかり向き合わないとな。
改めてやるべき事を見つけた事に、自然と笑みがこぼれる。
「ああ、ちゃんと見るよ。みんなの事も見て、必ず答えを見つける」
「うん。でも……」
「うん?」
「出来れば私だけ見てくれると嬉しいんだけどなぁ……というか他の女は無視でも良いから」
……好きになるどうこうの前に、やっぱり四人の関係の改善からだな、うん。
◆◆◆
遊園地を後にして白場市に戻ってきた俺達は、駅前でそのまま解散した。
俺は帰り道が途中まで同じの裕吾と出雲ちゃんと共に家路を歩いていた。
「じゃ、俺はここで。また明日」
「おう、悪いな付き合わせて」
「別に構わん。俺より孝司に謝れ」
「だな。後で適当にメール送っとくわ」
そのまま裕吾はプラプラと手を振り、曲がり角の奥へ消える。
裕吾と別れ、出雲ちゃんと二人になった。が、出雲ちゃんももう少し進めば道が分かれる。とりあえずそこまで歩いていく。
「はぁ……」
「どうしたんだ溜め息なんかついて」
「しょうがないですよ! デートだと思ってたら天城先輩達も居たんですよ!」
「それは……スマン。今度からは色々対策練るから、今日は許してくれない?」
「まぁ、良いですけど……その代わり今度はちゃんとデートしてもらいますから!」
「お、おう……」
デートか……色々大変だろうが、要求には出来る限り答えなきゃな。帰ったらルール考えるか……
「はぁ……それはそうと、結局私だけ先輩と二人でアトラクション楽しめなかったし……」
「そ、それはジャンケンだから……」
「でも納得出来ませーん!」
わ、わがままだなこの子は……まあ、確かに出雲ちゃんの相手はあんまり出来なかったかもな……あくまでも平等が決まりだしな……
「まあ、こうして帰り道一緒なんだし、それで勘弁って事で……」
「むぅ……なら腕ぐらい組んで下さい!」
「えぇ!? それはちょっと――」
「雨宮先輩とは組んでたじゃないですか!」
「そ、それは……」
「私あの時雨宮先輩の腕切り落としてやろうかと思ったけど我慢したんですからね!」
怖いよ! やっぱりこの子狂気が強すぎるよ!
「はぁ……分かった――」
「やったぁ!」
俺が言い終わる前に腕に飛びついてくる。行動早すぎだろう!
「うへへぇ……先輩の腕暖かーい……」
そう全身を押し付けるように密着してくる。顔はとても幸せそうににやけている。本当……狂気の部分が無ければ、純粋に可愛いんだけどな……
その非常に歩きにくい状態のまま歩き、数分後に分かれ道に辿り着く。
「ほら、出雲ちゃんはこっちだろ?」
「えー、もうちょっとだけぇー!」
「全く……今度デートした時に好きなだけすればいいだろ?」
「え!? いいの!?」
「……おう」
勢いで言ってしまったが……とんでもない事言っちゃったか?
「絶対約束だからね! 破ったら呪っちゃうからね!」
いちいち言う事が怖いよ!
そんな言葉とは裏腹に、可愛らしくクルクル回りながら自分の家路の方へ楽しそうに歩き出す。
「センパーイ! 今度は二人っきりでデートだからねー!」
そう大声で叫びながら、そそくさと道の先へ消えていく。
「そういう事大声で言うなっての」
出雲ちゃんを見送り、俺も自らの家路へ戻る。
こうして色々な不安もあったが、またみんなの意外な一面なんかを見れたなんだかんだ有意義な休日は幕を閉じた。
無事終了……今回で一番株を上げたのは誰かな?
次回からも色んなシチュで各ヒロインを掘り下げていけたらなー、と思います。
それでは、次回もお楽しみに。