モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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恋愛成就は大変である 後編

 

 

 

 

 

 

 紅石神社にて始まった、見つければ恋が必ず叶うと噂のハートの石探し。

 天城、海子、陽菜、ついでに法条は自分の恋の成就の助けの為に、残りのメンバーは宝探し気分で適当に、それぞれ石を探しに境内に散らばった。

 そして俺もみんなをただ待っているのは退屈だと、同じように石を探しに境内を適当にうろついていた。

 木々に囲まれた参道を、目的の石が無いかキョロキョロと視線を動かしながら歩いていると、正面に見えた分かれ道の突き当たりに、中腰で地面を見渡す陽菜の姿を見つける。

 

「あ、友くん!」

 

 声を掛けようとしたその時、陽菜がこちらに気が付き、姿勢を正して駆け寄って来る。

 

「もしかして、友くんもハートの石探し?」

「ただ待ってるのも退屈だからな。それで、石は見つかったのか?」

「ううん、全然見つかんないよ。本当、この神社って石が多いよねー」

 

 左右に視線を振る陽菜に釣られて、俺も視線を動かす。

 彼女の言う通り、この神社はヤケに石が多い。今、俺と陽菜が立つ参道の周りにも、本殿周り同様に大量の白い石が敷き詰められている。

 しかし、本当に多いな。ここからハート型のやつを一つ見つけるなんて、砂漠で一粒の色違いの砂を見つけるようなもんだな。

 

「これって本当にあるのか? 例のハートの石」

「うーん、どうなんだろう? もしかしたら気付かない内に全部なくなってた……なんて事もあるかもしれないね」

「まあ、誰かが毎回確認してる訳でも無いだろうしな。時間いっぱいまで誰も見つけられないって可能性は十分にあるなこりゃ」

「それじゃあちょっと残念だよね。絶対見つけてみせるんだから!」

 

 陽菜はグッと拳を握り、気合いの入った表情を作る。が、すぐにその表情は崩れ去り、変わって疲労の色が顔に浮かぶ。

 

「とは言っても、ずっと中腰だからシンドイんだよねぇ……」

 

 と、弱音を吐きながら腰をさする。

 確かにこの大量の石の中から形の違う物を探すんだから、探索中はほぼ中腰状態だ。いくらまだ若い体とはいえ、そんな体勢をずっと維持していたら負担が掛かるに決まっている。

 

「まあ、腰を壊さない程度に頑張れよ」

「うん……どうにか楽に探せる方法とか無いかなぁ……」

 

 右手で腰を上下にさすり続けながら、陽菜は考え込むようにうーんと唸り声を上げる。しばらくその様子を見守っていると、何か思い付いたのか、ポンッと手を叩く。

 

「そうだ! 四つん這いならちょっとは楽かも!」

「四つん這い?」

「うん! これなら腰も折り曲げないし、地面を近くで見る事も出来るよ!」

「そう、だろうけど……どうなんだよそれ。大体そんな事したら汚れるだろ?」

「そんなのは後で洗えばいいよ! とりあえず、試してみる!」

 

 そう言うと陽菜は素早い動きでしゃがみ込み、そのまま膝と両手を地面に付け、動物のように見事な四足歩行状態になる。

 

「よし、これなら……って、イタタタッ……結構痛いよこれ……」

「当たり前だろ砂利道なんだから……それぐらいは考えろよ」

「ううっ……いい考えだと思ったんだけどなぁ……これじゃあ中腰よりキツイかも」

 

 自分のアイデアが呆気なく失敗に終わった事がショックだったのか、陽菜は四つん這いのままガックリとうなだれる。

 少し考えれば分かるだろうと、呆れながらしょぼくれた犬みたいな陽菜を後ろから見ていると、不意に俺達の間に強めの風が吹き――彼女が身に着けるスカートがフワリと揺れた。

 

「ちょっ!? 陽菜、危ないって!」

 

 幸い――というべきかどうか一瞬悩んでしまうところだが、スカートはギリギリのところで奥に隠れる景色を守り通した。が、このままではいずれ全貌が露わになってしまう。

 なので俺は慌てて陽菜に注意を飛ばしたのだが、当の本人はキョトンとした顔でこちらに目を向けるだけで、立ち上がろうとはしない。

 

「どしたの友くん。そんなに慌てて」

「どしたのじゃねぇよ! いいから早く立て!」

「……? うん、分かった」

 

 全く事態を飲み込めてはいないようだが、陽菜はゆっくりと立ち上がる。何事も無かったように膝小僧と手の平に付いた砂を払い、クルリとこちらへ体を向ける。

 

「で、どうしたの?」

「お前な……もうちょっと注意しろよ! もう少しでスカート捲れるとこだったぞ!?」

「あ、そうだったの? 結構強かったもんねー、今の風」

 

 アハハと、緊張感も危機感も欠片すら感じられない笑い声を出す。そのあまりにもお気楽な反応に、俺は思わず頭を抱えた。

 

「本当……お前には羞恥心とかそういうのは無いのか……少しは気にしろ!」

「もう、なんで友くんが怒るのさぁ……大体、私だって周りに人が居たら注意するよ」

「だったら注意しろよ! 今は俺が居るだろうが!」

「友くんは別だよ。だって友くんに見られても、別に嫌じゃ無いし」

 

 あっさりと陽菜が口に出した言葉に、思わず言葉を失った。

 そういえばこういう奴だったな、こいつは……俺に対しては警戒なんてする気が無いんだな。

 

「というか、別に友くんが怒る理由無いじゃん。友くんは私のパンツ見るの嫌なの?」

「嫌、とかじゃ無いけどさ……女性として少し注意しろって言ってるんだ。例え相手が俺でもさ」

「えー、別にいいじゃん」

「俺がよくないの! ともかく、少なくとも今後外ではこういう事に気を付けろよ!」

「はぁーい……もう、友くんったら本当に恥ずかしがり屋なんだからさ」

 

 クスクスと笑い声をこぼしながら、陽菜は俺の顔を覗き込む。それに俺はどう反応を返せばいいか困り、スッと目を逸らす。

 

「フフフッ、本当可愛いなぁ」

「い、いいからさっさと石でもなんでも探しに行けよ! モタモタしてると集合時間になるぞ!」

「はいはい。それじゃあ私はあっち行くね。またね、友くん!」

 

 満足感溢れる笑顔と共に手を振りながら、陽菜は分かれ道の先に消えていく。それを俺は姿が見えなくなるまで見送り、彼女が居なくなると同時に大きく息を吐いた。

 あいつとの絡みは色々と疲れるなぁ……あんな無警戒で羞恥心も無く、素直に接してくると、なんだかこっちの神経がすり減る。……なんか、前にも似たような事あったな。

 まあ、それまでに心を開いてくれてるって考えると、嫌な気分では無いけどさ。それでも今後は最低限の恥じらいを持ってくれると、俺としては有り難い。

 そんな恐らく叶わないであろう願いを心で祈りながら、俺も移動を開始した。

 

 陽菜とは反対方向の道に進んだが、先は行き止まりで、俺は仕方無くスタート地点である本殿近くに戻る事にした。

 

「ん? あれは……天城か」

 

 林を抜けて元の場所に戻って来てすぐ、俺は入口の鳥居の近くでしゃがみ込んで石を探す天城を発見した。どうやら彼女はかなり集中しているようで、まだこちらに気付いていないようだ。

 邪魔しては悪いかと思い、そのままこの場を立ち去ろうとも思ったが、不意に振り返った天城と目が合う。これでは無視した方が失礼なので、俺は彼女の方へ歩み寄る。

 

「よお天城。どうだ、見つかったか?」

 

 そう問い掛けると、天城は肩をすくめて頭を振る。

 

「ううん、まだ。やっぱり難しいよ、この中から見つけるのは」

「そりゃこんなにいっぱいあるもんなぁ……天城、あんまり体力ある方じゃ無いし、疲れただろ」

「ちょっとね……でも、こんなところでへこたれてる訳にはいかないよ。ハートの石、絶対見つけたいもん」

 

 そこで一旦言葉を切り、天城は再び地面に目を向ける。

 

「こんなおまじないみたいな物で全部決まるとは思って無いけど、少しでも自分の恋を叶える為の力になるんなら、手に入れたいから」

「天城……」

 

 そこまで真剣なんだな……その理由が俺との恋を成就させたいからって事を考えると、ちょっと照れ臭いな。

 微かな照れを覚え、俺は彼女から少しだけ目線を逸らす。すると、天城も自分の発言に対して恥ずかしさが芽生えてきたのか、徐々に顔が赤くなる。

 

「さ、さて! ここはもう十分探したし、他の場所に行こうかな!」

 

 わざとらしく言いながら、天城はスクッと立ち上がる。

 しかし――ずっとしゃかんでいたせいで疲れが溜まっていたのか、立ち上がると同時に天城はグラリと体勢を崩し、そのまま後ろへ倒れた。

 

「あっ……!」

「危ない!」

 

 彼女の体が地面に打ち付けられそうになった、寸前。俺は右腕を伸ばして、彼女の体を受け止める。身軽とはいえ、倒れた勢いが乗った天城の体を咄嗟に受け止めるのには多少骨が折れたが、そこは男の意地でなんとか持ち堪える。

 

「ふぅ……間一髪だったな……大丈夫か、天城」

「う、うん……ありがとう、世名君」

「構わないよ。無事でよかった」

「うん…………あの、世名君」

「ん?」

「その……ちょっと、恥ずかしいかな……」

 

 と、真っ赤に顔を染めながら、ウルウルと潤んだ目を逸らす。

 一瞬どういう事か理解が追い付かないかったが、今の俺と天城の状態に気付き、すぐさまその意味を察した。

 今の俺は倒れかかった天城の体を、右腕一本で支えている状態だ。分かりやすく言えば、お姫様だっこの途中――といった体勢だろうか。

 右手は彼女のわき腹をしっかりと掴み、顔は少し動かせば鼻先が当たりそうなぐらい近い。その状況を咄嗟の事に回転が遅れていた頭が理解し、一気に緊張が全身を走る。その緊張から思わず力んでしまい、彼女のわき腹をキュッと摘んでしまう。

 

「ひにぅ……!」

 

 指先にフニッとした柔らかな感触が伝わるのとほぼ同時に、天城が可愛らしい声を上げながら、目を瞑ってビクッと体を震わす。

 

「あ、ご、ごめん! わざとじゃなくて、その……」

「い、いいの……世名君は私を助けてくれた訳だし。それに……恥ずかしいだけで、嫌じゃ無いから……」

 

 嬉しさと照れが混ざったような笑みを浮かべながら、天城は俺を見つめた。そのあまりにも愛らしい笑顔に、俺は思わず目を奪われ、そのまま静止してしまう。

 早く彼女を起き上がらせなければいけないとは分かっているが、体が動かない。天城も自分から起き上がろうとはせず、うっとりとした目で、俺をジッと見つめるのみ。

 いつまでこの状況が続くのだろう――そう思った、その時。

 

「――オホンッ!」

 

 急に飛んできた、迫力のある咳払い。それにハッと我に返り、首を後ろへ回す。

 

「……二人揃って、鳥居の近くで一体何をしているんだ?」

 

 そこに居たのは、子供が見たら泣いて逃げ出してしまいそうなほど凄い迫力で、こちらを仁王立ちで睨む海子だった。

 

「あ、いや、これはその……」

「安心しろ、別に怒ってはいない。だが……説明はしてもらうぞ?」

「……はい」

 

 絶対怒ってるよな――その言葉を彼女に掛ける事無く、俺は彼女の質問に答えるのだった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「ふぅ……疲れた」

 

 小さく呟きながら、俺は先ほど陽菜と出会った場所とは反対方向にある参道を、とぼとぼと背中を折り曲げて歩いていた。

 あの後、海子にどうしてああいう事になったのか事情を説明し、なんとか(別に悪い事はしてないんだけど)お許しを貰う事が出来た。

 とはいえ、俺と天城があの状態で見つめ合っているという状況を目撃した海子は大変ご立腹状態だったので、宥めるのにはとても骨が折れた。

 だがどうにか理由を納得してもらう事が出来て、海子と天城も特に口論を交わす事は無く(海子は少し不機嫌そうだったが)先の一件は事なきを得た。

 

 そんなこんなで、多分全てが丸く収まった後、海子と天城は再び石探しに向かい、俺も残り時間を潰す為にこうしてぶらついている――という訳だ。

 待ち合わせ時間までそんなに時間がある訳でも無いし、どうしようかと考えながら歩みを進めていると、木々に囲まれた道を抜け、小さな広場に辿り着いた。

 ここは一体どこら辺だったかなと、石探しの前に確認したこの神社の案内図を頭に浮かべていると――

 

「あれ? 世名っち」

 

 と、聞き覚えのある呼び名で俺を呼ぶ声が背後から飛んできた。それに一旦思考を止めて振り返ると、案の定そこには法条が立っていた。

 

「世名っちもここに居たんだ。……なんか気だるげだけど、どしたの?」

「え? ああ……まあ、色々な」

 

 多分そう見えるのは先の海子を宥める件で疲れたからだろうけど、それを素直に伝えるとからかわれそうなので、曖昧に答える。

 それに情報屋としては曖昧な答えが気になるのか、法条はピクリと眉を動かす。しつこく問われるかと思ったが、彼女は何も言わずに俺の横を通り抜けた。

 

「よく知らんけど、世名っちも大変だね。色々聞きたいけど、今はそんな時間無いからねー」

 

 そう軽い口調で言いながら、法条はしゃがみ込んで地面を眺め回す。

 

「例の石探しか?」

「それ以外に何があんの。さっきから探しまくってるのに、全然見つかんないだよねー。もう腰バッキバキ!」

「……そりゃ大変だな」

 

 文句を言いながらも、法条は端から見たら結構きつそうな体勢で石を探している。彼女も天城達と同じように、かなり真剣に例の石を求めているようだ。

 その理由は当然自分の恋――裕吾との関係を深めたいという一心からだろう。

 正直、彼女が裕吾の事を好きだと聞いた時は、信じられないという印象が強かった。いつも情報を求めて他人の恋愛事に遠慮無くズガズガ踏み込んでくる、あのゲスの法条と呼ばれる彼女が恋をしているなんて、有り得ないと。

 別に俺は彼女とそこまで関係が深い訳では無いが、正直恋愛とかは無関心で、あくまで情報の一つだと思っている。そう思っていた。

 だが、今の恋を叶える為に必死に石を探す彼女を見たら、どれだけ今の恋に真剣かが伝わってくる。それだけ裕吾の事が好きで、その恋を叶えたいと思っている事が。

 

「……お前さ、どうして裕吾の事好きなの?」

 

 そんな事を考えていると、ふと言葉がこぼれ落ちた。すると、しゃがんで石探しをしていた法条はビクリと体を弾ませ、バッと俺の方へ振り向いた。

 

「なななな、何聞いてんのよいきなりぃ!」

 

 そして真っ赤っかな顔で、俺に照れが紛れた怒号を飛ばす。一気に乙女な顔に変わった彼女に改めて唖然としてから、俺はさらに言葉を掛けた。

 

「いやだってさ、気になるじゃん。そりゃ裕吾はモテる奴だけどさ、それなりに理由はあんだろ?」

「だからって、そういう事聞く? なんで世名っちに言わなきゃならんのさ!」

「それは……まあ、そうだな」

 

 俺が聞く権利も理由もありはしないよな。どうせさっきの質問もうっかりこぼれた物だし、別に無理に聞こうとはしていない。

 答えたくないなら無理やり聞くのは止めようと、先の質問を撤回しようとした、寸前。

 

「……理由とかはさ、正直あたしにも分かんないよ」

 

 突然、法条はこちらへ背を向けながら言った。

 

「前にも似たような事聞かれて言ったかもしんないけど、ただ好きになっちゃっただけなんだよ……世名っちはあんまり知らないだろうけどさ、あたしと裕吾って毎日のように情報交換とかしてんだ」

「それは……なんとなく知ってる。あいつ放課後とかよく新聞部に立ち寄ってるし」

「うん……でさ、そういう風に毎日毎日話してるとさ、裕吾の事をどんどん知っていくんだよ。どんな話に興味持つかとか、癖とかさ。で、そういうのを知っていく度に惹かれていってさ……」

「……で、仕舞いには好きになったと」

 

 俺の一言に、法条はコクリと頷いた。

 なんというか……大分純粋で単純な理由だな。まあ、恋に落ちるのは大体はそんな些細なキッカケか。

 

「……やっぱりおかしい? 他人の恋愛事情とかにズガズガ踏み込んでくあたしが、こんな純真な恋してんのは」

「正直信じられないとは思ってたけど、別におかしいとは言わないよ。お前だって恋する権利ぐらいあるだろう。俺は応援するよ、裕吾とはお似合いだと思うしな」

「……あんがと」

 

 と、ヤケに素直で小さい、耳をくすぐるような感謝の言葉を囁く。

 やっぱり、なんだかこそばゆいな……友達の恋愛事情を知るっていうのは。裕吾や滝沢達もこんな気持ちなのかね。

 

「あたし頑張るよ。どうすればいいか全然分かんないけど、裕吾にこの思いを伝えて、恋を叶える為にさ」

「そうか……ところで、前に陽菜と修学旅行で裕吾との距離を詰める云々言ってたけど……成果はどうなんだ?」

 

 新たに浮かび上がった疑問をぶつけてみると、法条は再びビクリと体を弾ませ、今度は振り返ろうとせず口も開かない。

 

「……昨日の自由行動に今日の自由行動、それにさっきの甘味処……お前が裕吾に対してアタックしてるところを見掛けて無いんだが……どうなの?」

「…………」

「……ぶっちゃけ進展ゼロだろ?」

「うっさいわね! そうよ! 進展どころかまともに話すらしてませんよ! 緊張して目すら合わせてませんよ! プランを考えても恥ずかしくて動く事すら出来てませんよ! どーせあたしは臆病者の意気地なしですよーだ!」

 

 と、勢いよく立ち上がって、俺を半ギレ状態の涙目で睨みながら怒鳴り散らす。

 

「全然駄目じゃん……もう明日で修学旅行終わりだぞ?」

「分かってるわよぉ……でも世名っち達にこの事バレてから裕吾の事スッゴい意識しちゃうし、いざ話し掛けるぞ! って思っても緊張して頭真っ白になるし、さっきの甘味処だってラブラブあんみつ頼もうと思ったけど恥ずかしくて無理だったし……」

「可愛いらしいなオイ」

 

 こいつ……天城や海子より全然乙女だな。彼女達も恥ずかしがり屋だが、結構やる時は頑張ってると思うぞ。

 

「お前……そんな事じゃ裕吾と付き合うなんて無理だぞ?」

「そんなのあたしが一番理解してるしぃ! ていうか、いつまでもウジウジしてて一向に誰と付き合うか決めれてない世名っちに言われたく無いし!」

「うぐっ……! 痛いところを……」

「はぁ……我ながら情け無いと思ってるよ……折角勇気出すって決めたのに、結局勇気出せてないんだもの。思い切って告白したゆかっちが勇者に思えるよ」

 

 まあ、そうだよな……彼女達から一気に告白されて感覚が麻痺してたけど、好きな相手に告白するってかなり勇気がいる事だよな。そんな一世一代の大勝負、簡単に出来るもんじゃ無いよな。

 

「でも、告白はともかくその為に色々と頑張らなきゃならないだろ? 裕吾がお前の告白を受けてくれるか分からないんだし」

「ぐっ……なかなかに厳しい事言うじゃん世名っち……分かってるよ! だから今、こうやってハートの石探しを頑張ってるんじゃん! 出来る事からコツコツと頑張るの!」

「……まあ、それがいいんじゃないか」

 

 無理に裕吾にアピールをしようとしても、今の法条じゃテンパって失敗しそうだ。ならこうやってご利益みたいなのに頼るのも、選択肢としてはありだ。恋が必ずかなうと噂の石を見つける事で、今後に自信が持てるようになるかもだしな。

 だが、その例の石はそう簡単に見つかる代物では無い。もう集合の時間まで時間も無いし、このまま見つからないという可能性も大いに有り得る。むしろその可能性の方が高い。

 しかし、法条はまだ諦めてはいないようだ。俺との話が終わってすぐに石探しを再開し、しゃがみながら辺りを歩き回っている。

 

「どこだ……どこだハートの石……」

 

 法条の顔にだんだんと焦りの色が見え始め、いつの間にかしゃがんだ状態から四つん這いの状態になり、辺りをうろつく。だが、やはり例のハートの石は見つからないようだ。

 そろそろ集合時間だし、あのまま四つん這いの状態で動き回っていると怪我もしそうなので、この辺りで止めておけと声を掛けようと――

 

「あっ……!」

 

 した、直前。突然法条は小さく声を上げ、四つん這いのまま右手を前方に伸ばす。そして伸ばした手の先にある小石をいくつか払い除け、一つの石を掴み取る。

 

「これって……間違え無い、ハートの石だ!」

「えっ!? マジか!?」

 

 立ち上がり、高らかに右手を天に向かって伸ばす法条の下へ駆け寄り、彼女が掲げる小石をジッと見据える。

 法条の摘む石は真っ白で、パソコンのキーよりちょっと大きいぐらいのサイズ。そしてその形は、噂通りに綺麗なハートの形をしていた。間違え無く、これが恋が必ず叶うというハートの石だろう。

 

「これが例の……ちっちゃいな」

「本当……こりゃ見つけるのシンドイわ……でも、見つかってよかったぁ……」

 

 と、法条は摘んだ石を眺めながら、ジンワリと涙を浮かべる。

 よっぽど石を見つけたのが嬉しいんだな……まあそうか、必ず恋が叶うって噂の代物を見つけたんだから。

 

「よかったな。これで、お前の恋も叶うかもな」

「うん……ま、あくまで噂だし、効果があんのかどうか分かんないけどね。……でも、ちょっと自信持てる気がする。あたしの恋は叶うんだって」

「……そうか」

 

 とりあえず……これで法条の恋路も一歩前進って事かな。小さな一歩だろうけど、彼女にとっては貴重な一歩だろう。

 

「……さて、それじゃ石も見つけたんだし、そろそろ戻ろうぜ。もう時間だしな」

「そだね。……ねぇ世名っち」

「ん?」

「この石を見つけた事なんだけどさ……みんなには、内緒にしといてくれる?」

「どうして?」

「いやだってさ……この石を真剣に探してたって裕吾にも知られたら……恥ずかしいし」

 

 唇をうっすら尖らせながら、照れ臭そうに言う。

 

「恥ずかしいって……お前なぁ」

「い、いいでしょそれぐらい! それとも何? 今の時間あたしと世名っちが二人っきりでお話ししてたって事をゆかっち達に過剰表現で伝えるけど?」

「うっ……」

 

 そういえば全然意識してなかったけど……確かに俺と法条、二人っきりだな。俺も法条も友達感覚で普通に接してるだけだけど、天城達が知ったら色々言われそうだな。

 これ以上変に場を荒らす訳にはいかないし、ここは大人しく従っておくのが最善だろうと、俺は頷いた。

 

「分かったよ、内緒にしとくよ。言い触らす事でも無いしな」

「サンキュね。じゃあ、先に集合場所に行っててよ。あたしは遅れて行くから」

「なんで?」

「途中でゆかっち達と出会したら、言い逃れ出来ないでしょ?」

「あ、それもそうか。……なんか嫌な感じだな……俺悪い事してないのに」

「アハハッ! 確かに、なんかあたし達が逢い引きしてるみたいだね!」

 

 すっかりいつもの調子に戻った法条が、笑い飛ばしながらそう言う。

 

「冗談でも止めてくれ……天城達に何を言われるか分かったもんじゃない」

「ごめんごめん。じゃあ、早く行った行った!」

「はいはい」

 

 法条に急かされるまま、俺は集合場所を目指して歩き出す。途中、こっそりと後ろを振り返ると、綺麗な石を見つけた子供のようにハートの石を掲げ、はしゃぐ法条が見えたが、声を掛けずに先へ進んだ。

 

 

 そのまま来た道を戻り、再び本殿のある広場へ戻って来ると、集合場所の近くに他のみんなの姿を発見する。

 

「あ、友くーん!」

 

 歩み寄ると、陽菜がこちらに気付き手を振る。

 

「みんなもう集まってたのか」

「アハハ、全然ハートの石見つかんなくてさ。友くんはどうだった? ハートの石、見つけた?」

「え? ああ……俺も見つけてないよ」

「そうか……結局、全員見つける事は出来なかったようだな」

「残念だね……」

 

 天城や海子も例のハートの石は見つけられなかったようで、シュンとした様子で俯く。

 

「そうだねぇ……あ、杏子ちゃんも戻って来たよ!」

 

 と、陽菜が俺が先ほど来た道の方を指差す。

 

「お帰り杏子ちゃん! 杏子ちゃんはハートの石見つけた?」

「いや全然。残念だったなー、噂の石を生で見てみたかったんだけどねー」

 

 本当は今、法条が手を突っ込んでいるブレザーのポケットに例の石が入っているのだろうが、彼女は裕吾にそれを悟られないようにしらを切る。

 俺から見たら嘘付け、と言える状況だが、事実を知らない皆は誰も言わない。裕吾も、特に問い詰めるつもりは無さそうだ。

 

「そっか……杏子ちゃんも駄目だったかぁ」

「やはり、そう簡単に見つかるものでは無いか……残念だが、諦めるしかないか」

「そうだね……流石にこれ以上探すのはシンドイしね」

 

 と言いながら、天城は腰を軽くさする。みんなずっと辛い体勢で地面と睨めっこしてた訳だし、流石にこれ以上石探しを続ける気力は無いようだ。

 

「それじゃあ、残念だけど行こっか」

「そうだな。まずは近くの店で昼食を取って……」

「その後はまた別の恋愛成就のスポット巡り……だね」

「うん! ハートの石は見つかんなかったけど、まだまだやる事はいっぱいあるもん! ね、友くん!」

「ああ、行くか」

 

 俺達は次の目的地を目指して、鳥居を潜って神社の外に出た。

 

「……ねぇ、世名っち」

 

 その移動中、不意に法条が近寄り、小声で話し掛けてくる。

 

「さっきの事、絶対裕吾には言わないでよね?」

「何回も言われなくても分かってるって。裕吾はもちろん、他の奴にも言わないよ」

「絶対だかんね? 言ったらあたしと世名っちが逢い引きしてた事をゆかっち達に言うかんね?」

「逢い引きじゃねぇわ! マジで止めろよな!」

「……二人で何話してるの?」

 

 法条と小声の会話を交わしていると、いつの間にか背後を歩いていた天城と海子が、俺達の間に割り込むような形でこちらを睨んでくる。

 

「なんだかコソコソと話しているようだが……」

「二人だけで隠し事? ……法条さん、どういう事かしら?」

「こ、怖いよゆかっちー……別になんでも無いから、安心していいよ!」

「……本当に?」

 

 と、天城と海子は確認を取るように俺へ視線を動かす。

 

「ほ、本当本当! なんにも無いから!」

「……ならいいけど」

「だがもし、何かあるんなら……じっくりと話を聞かせてもらうからな?」

「あ、アハハハッ……」

 

 どうしてこんな事に……俺はただ法条の恋路にほんの少し協力してるだけなんだけどな。

 俺は全て暴露して楽になりたい気持ちを抑えつつ、新たに出来た面倒な秘密に溜め息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ハートの石を手にしたのはヒロイン勢では無く、法条さんでした。噂通り、彼女の恋が叶うかどうか分かるのは、まだまだ先の話です。
 やっぱり法条はもうちょっと初期の段階で登場させといた方がよかったなと、後悔している今日この頃。

 ともかく、次回もお楽しみに。







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