モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

126 / 197
情報屋の強襲

 

 

 

 

 

 

 

 

 某日、昼休み――いつものように……とはいっても最近は週に三回程度だが、今日もいつもの五人に昼食に誘われ、俺は彼女達と屋上に来て、一緒に昼食を楽しんでいた。

 今日は朝から気温が真冬ばりに低く、暖房や風除けといった防寒の類が一切無い屋上は、まるで巨大冷蔵庫の中のように寒い。そのせいで屋上には俺達以外の生徒は居らず、いつもは昼休みに盛り上がっているここも、今は少しばかり寂しい場所となっている。

 とはいっても、学年もクラスも違う俺達が出来る限り目立たず集まるには、屋上ぐらいしか場所が無い。という事で、俺達はこの寒さを耐えて、寒さでかじかむ手を必死に動かしている。

 

「ハッ……クション!」

 

 そんな中、陽菜が全身を大きく動かしながら、大きなくしゃみをする。鼻を啜り、両腕でブルブルと震える体を抱える。鼻先やほっぺたは霜焼けで赤くなっている。恐らく、彼女の体は相当冷えてるだろう。

 対して、寒さに動じずに平然とした顔の朝倉先輩が、そんな彼女を横目で見る。

 

「大きなくしゃみね、はしたない」

 

 いつものように冷淡な言葉が、白い息と共に吐かれる。それに陽菜は、ガチガチと声を震わせながら返事をする。

 

「だだだ、だって寒いんですもん……みんなは平気なの?」

「私は寒いのは得意なの」

「私も、そこまで苦手では無いな。優香は、確か苦手だったよな?」

「まあね……桜井さんよりはマシだろうけど」

「そうなんだ……私はもう限界だよぉ……」

 

 と、陽菜は寒そうに身を縮こませながら、自分の足と足を擦り合わせる。

 前々から思っているが、女性は真冬でも下はスカートで辛そうだ。男からしたら、真冬にほぼ生足とかとても我慢出来ない。学校も、冬ぐらいズボンにしてやったらどうだろうか? スカートでないといけない理由があるのだろうか?

 そんな何気ない疑問を頭に浮かべていると、不意に右腕に何かが当たる。一体なんだと一瞬考えたが、その見に覚えのある感触と現在の席順に、すぐに答えは出た。

 今俺達は屋上にあるベンチに、三人と三人、向かい合わせで座っている。俺の向かい側には陽菜、朝倉先輩、海子。そして(ジャンケンで決めた結果)俺の左隣には天城、そして今何かが当たっている右側には――出雲ちゃんだ。

 そうなれば、自ずと答えは出てくる。俺は慌てて顔を横に向ける。視線の先には案の定、俺にピッタリとくっ付く出雲ちゃんが映っていた。

 

「い、出雲ちゃん……? 何を?」

「私は朝倉先輩達と違って、寒さには弱いんで……先輩から熱を貰ってるんでーす。先輩の腕、暖かーい……」

 

 めちゃくちゃ弾んだ声を上げながら、霜焼けのせいか気持ちが高ぶっているせいか、赤く染まった頬を俺の腕に押し当てる。その仕草と感触にこっちの体温まで上がってくる。

 その時、不意に周囲から風の寒さを打ち消すかのような、不穏な熱気を感じる。慌てて視線を巡らせると、案の定妬みという炎をたぎらせる皆の顔が映る。

 

「大宮さん、さっさと離れて。じゃないと全身が永遠に冷える事になるわよ?」

「嫌ですよ。だって寒いんですもん」

「だったらそこら辺をアホな犬のように駆け回りなさい。その方がお似合いよ」

「いいな出雲ちゃん……私も暖まりたい!」

「悪いが行かせないぞ、陽菜」

 

 と、俺の方へ近寄ろうとした陽菜の肩を、海子が掴んで移動を阻止。

 

「と、とりあえず出雲ちゃん、一旦離れてくれないかな? ほら、俺まだ弁当食べてる途中だから……」

「先輩がそう言うなら……終わったらまたくっ付くていいですか?」

「駄目に決まってるでしょう」

 

 俺に代わり天城が冷ややかに答える。それに「あなたには聞いてませんよ」と言いたげな目を向けながら、出雲ちゃんは俺から離れる。

 ひとまず彼女の抱擁から解放された事にホッとするが、周りの空気は未だ悪い。冷たい上に不穏な空気はゴメンだと、俺は慌てて話題を変える為に、口を開く。

 

「そ、それにしても、今日は本当に寒いな!」

「うん……ずっと布団に潜ってたい気分だよ……雪でも降るんじゃないかな?」

「雪か……これだけ寒いと、有り得るかもな。まだ11月なんだがな」

「雪ですか……私は嫌いですね。歩き辛いし、寒いし、何より……」

 

 そこで言葉を区切り、出雲ちゃんはチラリと朝倉先輩を見る。

 

「雪って言うと、どっかの誰かさんを思い浮かべますしね」

「そう。私は別に空に浮かぶ雲を見ても、誰一人思い出さないけど」

「ムカツク言い方ですね……でも、来週に降ってくれるなら、雪は大歓迎ですけど」

「なんで?」

 

 そう問い掛けると、出雲ちゃんの代わりに海子が俺の問いに対する答えを口にする。

 

「もしかして……私達の修学旅行か?」

「そうですよ。もし修学旅行の日に雪が降れば、新幹線とかが止まって中止になるかもしれませんし。そしたら、来週も先輩と一緒に居られますから!」

「それもそうね……その発想は無かったわ。ちょっと祈ってみようかしら」

「ふざけないで下さい。あなた達の勝手な考えで、たった一回の修学旅行を潰さないで」

「冗談よ。生徒会長として、生徒達が望まぬ事は願わないわ」

「私は割と本気ですけどね。だって、四日も先輩に会えないなんて寂しいじゃないですか……」

 

 唇を尖らせながら、出雲ちゃんは寂しそうに目を細める。

 そういえば、告白されてから学校がある日はほぼ毎日会ってる訳だし、よく家にも遊びに来るから、出雲ちゃんと長期間顔を合わせないってのは、告白以降は割と初めてかもしれないな。夏休みとかは会わない日も多かったけど。

 

「気持ちは分からなくは無いが……それぐらい我慢しろ」

「雨里先輩達は一緒に行けるからそう言えるんです! 私だって、先輩と一緒に修学旅行行きたいんです!」

「こればっかりはどうしようも無いわね。私と一緒に我慢しなさい」

「それが余計やなんです! あなたと一緒にお留守番みたいな感じで……」

「まあまあ出雲ちゃん。修学旅行って言っても、たった四日だし。帰ってきたら相手してあげるから。お土産も買ってくるし」

 

 そう言ってあげると、出雲ちゃんはほんの少し納得いかないといった風にほっぺを膨らませながら、俺の顔を見つめる。

 

「絶対ですよ? 帰ってきたら、ちゃんと相手して下さいよ? あと、修学旅行中は出来る限り天城先輩達の相手しないで下さい!」

「調子に乗り過ぎよ、大宮さん」

「ハハッ……まあ、帰ってくるまでは友香と遊んであげてくれよ」

 

 あいつも俺達が居なかったら、暇だろうしな。

 

 そこで会話は一段落。みんな手持ちの弁当を、黙々と食べ進める。しかし、不意に朝倉先輩が箸を置き、口を開く。

 

「そういえば、風の噂で聞いたのだけれど……なんだかネットで騒がれてるらしいわよ、あの甘義カスミに、お兄さんが居るとか」

 

 ギクリ。その言葉に、思わず肩が小さく跳ね上がる。天城も同じように、少し表情が強張る。

 朝倉先輩が口にしている事は、恐らく先日の日曜日に、俺と天城と香澄ちゃんで買い物に出掛けた際の出来事だろう。やっぱり、噂になってしまったようだな。

 

「甘義カスミ……それって、香澄ちゃんの事だろう?」

「そ、そうだね……」

 

 海子の質問に、天城は少し気まずそうに視線を逸らす。それに朝倉先輩は何かを察したのか、さらに話を進める。

 

「話によると、先日の日曜日にその甘義カスミと黒髪の男――彼女の兄と名乗る人物が一緒に居たとか。でも、天城さんに兄も弟も居ないわよね? じゃあ……この黒髪の男って誰かしらね?」

 

 と、明らかに俺へ視線を向けながら言う。

 朝倉先輩、確実に気が付いているな……その男が俺だって事に。これは遠回しに、日曜日に何があったと俺と天城に聞いてるって訳だ。

 その事に、海子や出雲ちゃんも気が付いたのか、俺と天城に交互に目を向ける。

 

「まさか……天城先輩、日曜日に先輩とデートしてたんですか?」

「というか、友希が香澄ちゃんの兄とか……どういう事だ?」

「そ、それはその……」

「――その話、あたしも聞かせてもらっていーかな?」

 

 言い逃れは出来ないなと、彼女達に先日あった事をきっちり説明しようとしたその時、突然女性の声が俺達の下に届く。

 天城達五人の誰の声とも違う、甲高い声。その声が誰の者か考えるより先に、視線が声の方へと向く。そこに居た声の主と思われる女性を見た瞬間――

 

「げっ……」

 

 と、俺の声からこぼれた。嫌な予感をプンプン感じて。

 冷風が吹く中、ブレザーすら着ずに、白シャツの袖を捲るという活発な格好をした、青がかったボブヘアーの少女。そして俺は、彼女の事を知っている。いや、恐らくここに居る全員が彼女の事を知っているだろう。証拠に、陽菜を除いてみんな嫌そうな顔をしている。

 

「……何かご用ですか、法条(ほうじょう)さん」

「やっほー世名っち。アーンド、フィアンセ候補の皆々様。私が人前に姿を現す時……それ即ち、情報を求める時よ」

 

 頭に掛けた黒縁の眼鏡をクイッといじりながら、彼女は俺達の下へ歩み寄る。

 彼女は法条杏子(あんず)。我が乱場学園高等部の、新聞部部長である。そして、俺の中学時代からの知り合いである。いや、裕吾の友人――と言った方が正しいかもしれない。

 彼女との出会いは、中学一年の夏休み終わり。彼女は噂やゴシップ、そういった情報を集めるのが好きな、いわば情報屋という奴だ。そんな彼女と同じく、新庄裕吾という人間もまた情報屋だ。そんな二人はひょんな事から意気投合したらしく、以来情報屋仲間として仲良くしているのだ。

 で、俺は裕吾経由で彼女と知り合い、仲むつまじい……とまでは行かないが、それなりの付き合いもある。とはいえ、今の俺は彼女にとってはただのターゲットだろうけど。

 

「私も朝倉先輩と同じく、世名っちがあの甘義カスミの兄だって噂が流れてるのを聞いてねー。ズバリ真相を聞きに来たって訳」

 

 スラスラと言葉を口にしながら、法条は俺の向かい側のベンチ、海子と陽菜の間に無理矢理腰を下ろす。

 

「本当、お前の情報を嗅ぎ付ける鼻は凄いな……いつもみたく裕吾に聞けばどうだ?」

 

 学園のアイドル天城や、美女五人に告白された俺は、いわば現在この学園の話題の中心とも言える存在だろう。当然ゴシップ大好きな彼女は俺の事を無視せずに、何度も俺に突撃取材を敢行してきた事がある。

 しかし、「こいつも忙しいんだし、ほどほどにしてやれ」という裕吾の言葉により、彼女はあまり俺に取材を頼む事は無く、普段から俺と付き合いのある裕吾に話を聞く事で俺の情報を仕入れるようになった。

 だから、今回の事も出来れば裕吾に聞いてほしいんだが――そう思ったが、ある事を思い出す。

 

「世名っちだって知ってるでしょ? 裕吾、今日風邪で休みだって。だから聞きたくても聞けないの」

「えっ!? 杏子ちゃん、裕吾が風邪って本当?」

 

 陽菜の驚いた声に、法条はコクリと頷く。そう、裕吾はこの寒さのせいかどうかは分からんが、風邪を引いて休んでいるのだ。だから情報を聞く事が出来ない訳か。

 というか、陽菜の奴、法条の事を杏子ちゃんって言ってたけど……知り合いなのか? って、そういやこいつら同じC組か。なら知り合いでもおかしくないか。多分、法条の奴は陽菜に取材済みだろうし。

 

「そうだったんだ……お見舞いとか行ってあげた方がいいかな?」

「止めとけ。あいつそういうの迷惑がるタイプだ」

「そうだよ陽菜っち! 前にあたしがお見舞い行ってあげた時、あいつ『余計なお世話だ。風邪移るからさっさと帰れ』とか言ったのよ? 優しさで言ってるんだろうけど、もうちょっと言い方があるでしょ!」

「まあ、裕吾はそういう奴だからな」

「知ってるけどさ……で世名っち、カスミンの件、どういう事?」

 

 と、このまま話を逸らそうとしたがあっさり戻され、俺は言葉を詰まらせる。他のみんなも思い出したのか、俺をジッと見つめる。

 

「あのカスミンの兄が世名っちって、どういう事かな? あたし的には、結構スクープの匂いがするんだけど」

「そ、それはだな……」

「あ、ちなみにカスミンがゆかっちの妹だって事は知ってるから、そこら辺は気にしなくていーよ?」

 

 ゆかっち――もとい、天城の事を指差しながら、軽く吐く。それに天城は驚いたように目を丸くする。

 どうして知ってんだよ……と言いたいところだが、こいつならなんら不思議は無い。こいつの情報収集能力は、裕吾のそれに匹敵するのだから。

 彼女にはこの学園に居る全生徒、それどころか全教員の秘密を持っている、という悪い噂が付きまとっている。そしてその秘密を使い相手を揺すり、新たな情報を吐かせるという噂もある。

 その事から、彼女は生徒達からゲスの法条と呼ばれ、生徒達から恐れられているのだ。そして、その悪評はここに居るみんなも知っているだろう。

 そして天城は、香澄ちゃんの事が彼女の手により広まってしまうのでは――そう思っているのか、少し表情が強張っている。

 

「ん? ああ、心配しないでいいよ! ゆかっちとカスミンの事は誰にも言わないから! 今回の事も、別に学級新聞に載せたりしないよ!」

「あら? あなたは新聞部なのでしょう? 仕入れたビッグニュースは、記事にするのでは?」

「そうなんだけどさー、それはあたしのポリシーに反する……みたいな?」

 

 そう、悪評が絶えない彼女だが、実際彼女のせいで誰かの人生が破綻した、バラしたく無い秘密が広まった――なんて事は今まで一度も無いのだ。

 裕吾が言うには、彼女が情報を求めるのは、ただ単に自分が知りたいだけだから。秘密や情報を手に入るだけで、自分が楽しめれば彼女は満足なのだ。だから仕入れた情報を、相手が公表してほしくない情報は決して他言しない。

 仮にここで俺が先日の事を言ったとしても、法条はそれを自分の心の内に留めるだけで、公表はしないだろう。

 

「大丈夫だよ天城、彼女は信頼出来るらしいから」

「らしいって、他人行儀だなー。ま、いいけど」

「世名君が言うなら……信じるよ」

「サンキューゆかっち! じゃ、何があったか聞かせてくれるかな? 言っとくけど拒否権は無いからね? 情報仕入れる為ならあたしは何でもするって知ってるでしょ? さあ、大人しく吐いちゃいなよ!」

 

 ただでさえ大きな黒目をさらに大きく見開きながら、法条はシャツの胸ポケットからメモ帳とペンを取り出し、身を乗り出してくる。

 公表はしないだろうが、彼女が情報を仕入れるのに手段を選ばないのは、大体本当である。害は無いのだが、あまりいい気分では無い。

 でもまあ、この事はどうせ朝倉先輩達に言わなきゃならない流れだったし、法条に知られても問題は無いからいいか。

 天城に視線を送る。俺の考えを感じ取ったのか。天城はコクリと頷く。そのまま俺は先日の事を口にしようとした、その瞬間――法条がウキウキしながら、口を開く。

 

「これはあたしの予想なんだけど……もしかして、世名っちとゆかっち、ゴールインしちゃった感じ?」

「はい!? 何言ってんの!?」

「だって、ゆかっちの妹の兄を名乗ってる訳だから、そういう事でしょう? いやー、とうとう世名っちも腹を括った訳ね!」

「いや、違っ……」

「ハッ! もしかして……世名っち、カスミンと付き合っちゃった感じ!? 本当は恋人同士だけど、それはアイドルとしては駄目だから兄と偽ったとか!? 世名っちとカスミン、二人だけだったと聞いたし!」

「いやだから……」

「だとしたらこれは大スクープ! 修羅場に終止符を打ったのはフィアンセ候補の妹! 予想外な結末にあたしテンション上がってますわ!」

「お前ちょっと黙っててくんない!?」

 

 法条のせいで話があらぬ方向へと加速していく。もちろん、そんな事実は無い。

 しかし、今の言葉を真に受けてしまったのか、はたまた理解した上なのか、海子達がこちらを睨む。

 

「友希……今のは、本当なのか?」

「えっ!? いや、そんな訳無いだろ! 真に受けないで!」

「だとしたら、早く言ってくれますか?」

「そうね。場合によっては……」

 

 怖いんですけど……早く真実を伝えなくては!

 彼女達のなんとも言えない目に耐えながら、俺は先日の事を全て話した。彼女の兄を名乗ったのは、群がった人から香澄ちゃんを救い出す為の出任せだと。そして、日曜日に天城姉妹と買い物に出ていた事を。

 

「そう……いう事か」

「先輩と天城先輩がくっ付いた訳じゃ無いのはよかったですけど……」

「二人で休日にお出掛けとは……少し無視出来ないわね」

「……別にいいでしょう。あなた達だって、私の知らないところで世名君と会ってるくせに」

「と、とりあえずみんな落ち着いて。という事で、別に特別な事は無かった訳だからさ!」

 

 みんなどこか納得いかない顔をしながらも、何も言わずに口を噤む。

 よかった、とりあえずお咎めは無しのようだ。別に悪い事してる訳じゃ無いのに、なんだこの緊張感。

 ホッとする俺だが、正面の法条は期待外れと言いたげに溜め息を吐き、両手に持ったメモ帳とペンをしまった。

 

「なーんだ、思ったよりツマんない事だった。こんなんじゃ物足りないわよー」

「俺はお前に情報を提供する為に生きてる訳じゃねーよ。用が済んだなら帰れ」

「わー、冷たーい。ゆかっち達には優しいって聞いたのになー。彼女候補以外は興味無いって事ですかー」

「違うわアホ……」

 

 こいつ、悪い奴じゃ無いんだが、本当にうっざいな……裕吾抜きでは相手にしたくないな。

 

「ねぇ、なんかもっと面白い情報とか無いの? 例えば、彼女達と最近あった出来事とかさ」

「なんでそんな事言わなきゃならんのだ……」

「あたしは何でもいいから情報が欲しいの! 誰も知らないような情報を知る事が、あたしの人生最大の楽しみなんだから!」

 

 迷惑の掛かる楽しみだな……しかし、この様子だと簡単に引き下がってはくれないな。

 俺の予想通り、法条はターゲットを俺から天城達に変え、怒濤の如く喋り掛ける。

 

「ねぇねぇゆかっち、最近世名っちと何か無かったの? 嬉し恥ずかしな体験!」

「そ、そんなの……い、言わないから!」

「海子っちは? 最近世名っちと進展したようなエピソードは?」

「あ、ある訳……無いだろう!」

「ある感じだなー……イズっちは?」

「イズっちって……そんなの、あなたに言う筋合い無いですから!」

「陽菜っちは? 同棲してるんだから、色々あるでしょ?」

「うーん……いっつも楽しいから、パッと思い付かないなー」

「さいですか……じゃあ雪っち先輩は?」

「……そのヘンテコなあだ名はあえてスルーしましょう。そうね……」

 

 何かあるのか、朝倉先輩は顎に手を当てて下を向く。

 

「……実は、私と友希君は深ーく愛し合っているとかかしら? これは記事にしても構わないわよ?」

「そんな嘘記事、載させる訳無いでしょうが! しょーもない嘘付かないで下さい!」

「なるほどなるほど……雪っち先輩と世名っちは既にゴールインしてましたかー」

「あなたも信用しないで下さいよ!」

 

 イズっちこと、出雲ちゃんが大声で叫ぶ。

 

「アハハ、冗談だよ。にしても、本当になんにも無いのー?」

「毎回毎回なんかある激動な生活なんて送ってたら、身が保たねーよ」

「それもそっか。まあ、今日はこれぐらいで許してやるか。修学旅行が控えてるしね」

「なんで修学旅行?」

「だって、修学旅行っていったら学生最大級のイベントでしょ? そんな舞台で、スクープの一つや二つ、生まれない訳無いでしょ? その日こそ、私が大満足出来る日よ!」

「そうですか……まあ頑張れ」

「あ、世名っち達にも何か無いか期待してるから、よろしくねー?」

 

 と、嫌な笑顔を作り手を振りながら、法条は立ち上がり、屋上を立ち去った。俺はそれをみんなと見送ってから、ガクッと肩を落とした。

 

「はぁ、なんだか疲れたな……久しぶりだな、この感じ」

 

 中学の時、よくこうして色々くだらない、どうでもいい事聞かれてたな。今日は幸いあっさりと帰ってくれたが、修学旅行の時やその後、色々聞かれるんだろうか……裕吾にどうにかしてもらうよう、頼んでみるか。

 法条が立ち去ってからしばらく、みんな疲れたように黙っていたが、不意に出雲ちゃんが口を開く。

 

「それにしても、修学旅行ですか……行けない私としては、何も無い方が有り難いんですけどね。もしなんかあって先輩達の仲が進展するとか、冗談じゃ無いです」

「ま、そんな事は無いだろうけど。友希君、私と離れるのが嫌だったら修学旅行サボっていいのよ? 先生方には私が話を付けておくから」

「修学旅行は二年にしか無いのだから、それを友希から奪っていい訳無いでしょう!」

「冗談よ。友希君と修学旅行を一緒に経験出来ない不利ぐらい、どうという事も無いわ。どっかの誰かさんは不安みたいだけど」

「私も別に不安な訳じゃ無いですから! ただ単純に先輩と修学旅行を一緒に行けないのが残念なだけです!」

「それは同感ね。……修学旅行を二年、三年合同にしようかしら?」

「ふざけないで下さいよ!」

 

 いつものように口論を交える出雲ちゃんと朝倉先輩。それを俺は、いつものように苦笑いを浮かべながら眺める。

 修学旅行か……法条の言う通り、何かがあるかもしれない。それが俺達の今後に関わってくるのかどうなのか……それは、まだ分からない。でもまあ、とりあえず楽しもう。たった一度の、修学旅行を。

 

 

 

 

 

 

 

 




 新キャラ、法条杏子登場。
 本当はもっと早い段階で出す予定だったのに、タイミングを逃してこんな中途半端な登場に。
 そのまま登場させないでおこうかと思ったが、ナンパ回で軽く触れちゃったし、結局出す事に。今後も多分出番はある。






▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。