モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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鍋はテンションが上がるものである

 

 

 

 

 

 

 

 急遽我が家で天城家、雨里家のメンバーを加えた合同鍋パーティーが開催される事になり、俺達は早速その為の準備を始めていた。

 まず人数が俺、友香、母さん、陽菜(父さんは絶賛仕事中)の元々の四人に加え、天城、香澄ちゃん、明美さん、海子、水樹さんの九人という軽いホームパーティーレベルまで増えたのだから、いつも使っているテーブルでは当然小さい。

 だから誕生日パーティーなどでも使った、ちょい大きめの長方形のテーブルを、物置から引っ張り出す事にした。俺と友香と陽菜で協力してそれをリビングまで持ってきた後、同じく物置に眠っていた椅子もいくつか引っ張り出す。

 ちなみに何故こんな余分な椅子があるかというと、前回の俺の誕生日パーティーで椅子が足りずに立食スタイルになった事から、今度もしパーティーをやった時に同じ事態にならないようにと、母さんが先日買ってきたのだ。まだ誕生日から一週間も経過していないのに、行動が早いものだ。

 そんなまだ新品同様の木製の椅子を、普段俺達が使っている椅子と合わせてきっかり九脚テーブルの周りに並べる。

 

「テーブル出せたー? だったら、カセットコンロ置いてくれるー?」

 

 キッチンで明美さん、水樹さんと共に鍋の準備をしている母さんの声に、俺はキッチンへ移動し、カセットコンロを受け取り、それをリビングのテーブルに置いた。

 

「ふぅ……こんなもんかな」

「これで準備万端だね! それにしても、ビックリしたよ! 優香ちゃん達がウチに夕飯食べに来るなんてさ!」

「まあ、食べに来たって訳では無いんだがな……すまないな、お邪魔して」

「……というか、ここは別にあなたの家では無いでしょ、桜井さん」

 

 と、天城が鋭い目を向ける。それに陽菜は「あ、そうだったね」と頭を掻きながら、あっけらかんと笑う。

 そんな軽い修羅場が発生するのを傍らで眺めながら、友香がこちらを横目で見つめ口を開く。

 

「にしてもお兄ちゃん、ただシュークリーム頼んだだけなのに、どうしてこんな事になったんでしょうかね」

「こっちが聞きたい……大体は母親組の勝手でこうなった訳だし」

「まあ、私は別にどれだけ客が来ようが、我が家で修羅場が巻き起ころうが、無事にシュークリームが届いたから文句は無いけど。……てっきり、ぐちゃぐちゃに崩れてると思ってたし」

 

 と、どこか含みを持たせた言葉を吐く。

 こりゃ完全にバレてるな、俺が途中で頼まれたシュークリームを崩壊させた事。ま、水樹さんに貰ったちゃんとしたシュークリームを渡したから、怒る気は無いみたいだが。

 

「――お鍋楽しみですね、お兄さん!」

 

 そんな何気ない兄妹の会話を交えていると、香澄ちゃんがどこからともなく現れ、俺の隣に立つ。すると、友香の表情が少し不機嫌そうになる。

 

「ごめんなさいね、私の提案で無理矢理お邪魔しちゃって」

「いや別に構わないんだけどさ……どうしてあんな事言い出したの?」

「それはもちろん、お姉ちゃんの為ですよ!」

 

 まあ、それ以外に理由は無いよな。

 

「お姉ちゃん消極的ですから、私が出来そうな助力は惜しまずするつもりですし。今回みたいに一緒に夕飯を共にするのも、関係性を深めるのに大事な事ですから! ……ま、芸能界はそんな上手く行かないんですけどね」

「そ、そう……」

 

 唐突に吐かれた毒にどう返していいか分からず、思わず顔が引きつる。それに気付いたのか、香澄ちゃんは慌てたようにアイドルスマイルを作り、俺の顔を覗き込む。

 

「ともかく! 今日はお姉ちゃんの協力を全力でするつもりですから、お兄さんもしっかりお姉ちゃんを見てあげて下さいね?」

「お、おう、そうするよ……」

 

 流石現役アイドルと言うべきか、超至近距離から繰り出される笑顔の輝きに、思わず緊張して鼓動が高鳴る。が、突然背中につねられたような痛みが走り、緊張がぶっ飛ぶ。その痛みが右隣に立つ友香の仕業だと気付き、俺はすぐさま彼女へ目をやる。

 

「何すんだよいきなり!」

「そんなデレッとした顔してると、優香さん達怒るよ」

「え? 別にデレッとは――」

「あなたも、優香さんを応援するんなら、お兄ちゃんをたぶらかさない方がいいよ」

「別にたぶらかしてるんじゃ無いですよ。私はただ、お兄さんになるかもしれない相手として親しく接してるだけですから」

 

 その言葉に、友香は非常に分かりやすく眉間にシワを寄せる。

 

「それならしっかり義妹になってからにしなさいよ。なっても私は義妹だと認めないけど」

「あなたが認めなくてもお姉ちゃんとお兄さんが結婚したら私は立派な義妹ですから。ま、私もあなたを義姉とは認めませんけど」

 

 見えはしないが、二人の間に激しい火花が散る。

 友香の奴、まだ香澄ちゃんの事を認めとらんのか。しかも何故か香澄ちゃんも喧嘩腰だし。義妹とか義姉とか関係無しに、二人には仲良くしてほしいんだが。

 

「あ、そうだ! お兄さんこないだ誕生日だったんですよね? お祝い出来なくてごめんなさい。後でプレゼントにサインでも書きますよ! ネットオークションに出したらそれなりの金額になると思うんで!」

「え、遠慮しとくよ……」

 

 ご本人がそういう事を言っちゃイカンと思うぞ。ただ、孝司辺りなら何万でも出すからくれと言いそうだな。

 とりあえずこれ以上二人の間に居ては、第二の修羅場が発生しそうなので、ひとまず席に座って大人しく鍋を待つ事にする。

 いつものテーブルとは席の並びも違うので、とりあえず適当な席――椅子が四つ並ぶ、左側の下手から二番目の席に腰を下ろす。すると、今まで立って話をしていた天城達もこちらへやって来る。

 

「フッフフーン、お鍋楽しみだなー!」

 

 鼻歌を歌いながら、陽菜が俺の隣に座ろうとした、その時。

 

「――ちょっと待った!」

 

 天城と海子が声を揃えて叫びながら、座ろうとする陽菜の肩を掴んだ。

 

「ほえ!? 何!?」

「あなた、何ナチュラルに世名君の隣に座ろうとしてるの?」

「え? ……あ、本当だ」

「無意識なのか……ともかく! その……私達だって友希の隣に座りたいんだ! だから、そう簡単に片方を譲る訳にはイカン!」

「そっか、そうだよね。それじゃあ……」

 

 うーんと唸りながら唇に人差し指を押し付ける。数秒後、案を思い付いたのか口を開く。

 

「じゃあさ、ジャンケンで決めようよ! 勝った二人が、友くんの隣!」

「……あなたはいつも一緒に居るんだから、譲ってくれてもいいんじゃない?」

「私だって友くんの隣がいいもん! いつも隣な訳じゃ無いし!」

「そうか……なら、正々堂々とジャンケンで決めよう」

 

 スッと海子が拳を前に出し、天城もそれに続くように拳を出す。

 

「よーし、それじゃあ行くよ! ジャーンケン、ポン!」

 

 陽菜の元気の良い声と共に、みんなの手が出揃う。陽菜がグー。そして、天城と海子がパーだ。

 

「ふぎゃ!? 一人負けた……」

「これで、私と海子が世名君の隣ね」

「残念……じゃあ、私友くんの正面!」

 

 と言って、陽菜は同じく四つ椅子が並ぶ反対側の、俺の正面の席に座る。それに続いて、海子は端っこの俺の右隣に、天城は左隣に少し照れ臭そうに座る。残る友香は陽菜の隣に、香澄ちゃんは天城の隣に座る。

 

 

「はいはーい、ちょっと退いてねー」

 

 それから数分後、母さん達が鍋を持ってリビングからやって来て、テーブル中央のカセットコンロの上に置く。

 

「うわぁ、具がいっぱい!」

「ウチのに加えて、天城さん家の具材も入れたからねー。みんな、じゃんじゃん食べてねー」

 

 そう言いながら鍋の蓋を置き、カセットコンロの火を点ける。次第に鍋からグツグツと煮えたぎる音が聞こえ始め、食欲を掻き立てる匂いがリビングに広がる。

 

「美味しそう……涎出てきた……」

「ハハッ! 鍋はこの待ち時間も醍醐味の一つみたいなもんや! 美味そーな匂いを我慢した後に食べる一口目が最高なんや!」

「はぁ……ますますビール飲みたくなってきましたわ……帰りタクシーにしようかしら」

「少しは我慢しろ。金が勿体無いだろう」

 

 海子の鋭いツッコミに、水樹さんが「分かってるわよ」と子供のように唇を尖らせる。

 

「車だと飲めへんからな。グッスリ寝た後なら、問題無いんやけどな」

「そうですね……なら、ウチに一晩お泊まりしてきますか?」

「お、それナイスアイデアですね! 海子も友希君と一緒に居られるし、一石二鳥ですね!」

「な、何を言ってるんだ! 大体、明日は学校があるから泊まり無理だ!」

「あ、そっか。……制服とか持ってくればよかったわね」

「母さん!」

 

 海子の照れ隠しの意味もあるであろう叫びに、水樹さんは「冗談よ」と笑う。

 

「……私達は家近いから問題無いし、泊まってく?」

「ちょっ!? 何言ってるの香澄!」

「お、ええやんそれ! 優香やって世名君と一緒におりたいもんなぁ?」

「そ、それはそうだけどさ……」

「お泊まりとか一番親密になるチャンスだよ。同じベッドで一夜を共にするとかさ」

「一夜……!?」

 

 いつもよりトーンが上がった声を上げながら、天城はチラリと俺を見る。直後、香澄ちゃんが口にしたシチュエーションを想像してしまったのか、一気に顔を赤くしてバッと目を背ける。

 

「え、遠慮しておく! ……そういうの、私にはまだハードル高いし」

 

 消え入りそうなその一言に、海子が少しホッとしたように胸を撫で下ろすのが見えたが、触れずにスルーする。

 

「はぁ……お姉ちゃんの意気地無し」

「ホンマやな……ちょっとはオカンを見習いや! あたしなんて女の魅力全開でオトンを一週間で落としたんやで! あんたもちょっとは根性見せや!」

「そんな事言われても……恥ずかしいし」

「かぁー! あんたホンマにあたしの娘か!? もっと頑張れや! せやないと世名君他の子に取られんでー!」

 

 娘の恋愛の為に熱く語るのはいいですけど、それを娘の思い人である俺が居る前でやらないでほしいな。どんな顔してたらいいか分からん。

 

「アハハ、明美さん熱いなー。海子も頑張んなさいよー?」

「よ、余計なお世話だ! 私だって……少しは努力してる!」

「まあそうねー。あなたの部屋、いっぱい恋愛必勝本的なのあったしね」

「なんで知っている!?」

「あれ本当に実践出来てんの? 気になるあの子を一発で落とす、効果的な密着方法――だっけ?」

「言うなぁ!」

 

 なんだその記事……というか海子、そんなの読んでるのか。

 やはりどう反応したらいいか分からず、とりあえず二人と目が合わないように俯く。

 

「ウフフ、みんなが友希の為にそんなに頑張ってるんだと思うと、母親としてなんだか嬉しいわねー。私は誰でも大歓迎だからねー。友希、ちゃーんとみんなの思いに真剣に答えてあげるのよー?」

「い、言われなくても分かってるよ! というか、そろそろ鍋いいんじゃないか?」

「あ、それもそうね」

 

 母さんが鍋の蓋へ手を伸ばし、持ち上げる。瞬間、湯気がムワッと立ち上り、辺りを包み込んだ。

 

「おー、美味しそう!」

「さてと、それじゃあ食べましょうか」

 

 母さんが蓋を置き、両手を合わせる。それに続きみんなも同じように、手を合わせる。

 

「それでは、いただきまーす」

「いただきまーす!」

 

 みんなの甲高い声が響き、とうとう鍋パーティーが始まった。全員一斉に箸を鍋に伸ばし、思い思いに具を取っていく。

 

「んー、おいひぃー!」

「本当、美味しい……ちょっと食べ過ぎちゃいそう」

「そうだな……」

「あんた、こんな時もカロリー気にしてんの?」

「こういうのは気にせず楽しむのが、美味しく食べるコツやで」

「そうそう体重なんて気にするだけ損だよ」

「あなた、一応アイドルじゃないの?」

「ウフフ、沢山食べてねー」

 

 みんなが楽しそうに鍋を食べ進める中、俺も次々と野菜や肉を口に運ぶ。

 そんな食事開始から数分、香澄ちゃんが小さな声で、天城に話し掛ける。

 

「……ねぇお姉ちゃん、お兄さんあーんして食べさせたら?」

「な、何言ってるの!?」

「そういう小さな事が大事なんだって。さあ、レッツゴー!」

「で、でも……」

「恥ずかしがってる場合じゃ無いって! ささ!」

 

 そんな天城姉妹の秘密会議がガッツリ俺の耳を通り抜けるのに、どうしたらいいか考えながら箸を進めていると――

 

「んんっ!? このお肉スッゴく美味しい! 友くん、このお肉スッゴく美味しいよ!」

「何回も言わなくていいっての」

「ああ、それあたしらが買ってきた肉やな。商店街にある精肉店のでな、メッチャ美味いんやで」

「へぇ、そんなお店があるんですね。知りませんでした」

「ほへぇ、そうなんだ……ね、友くんも食べる?」

 

 そう言うと、陽菜は器にキープした肉を箸で持ち、身を乗り出してそれを俺の口元に運び出す。

 

「ほら、あーん!」

「な、なんだよいきなり! 自分で取って食うからいいよ!」

「そう言わずに! あーん……」

 

 俺の拒否を気にせず陽菜は腕を伸ばし続けるが、突然左右からその腕を誰かが掴む。

 

「桜井さん……あんまり調子に乗らないでね」

「流石に、私達も許容出来る範囲と出来ない範囲があるからな?」

「ご、ごめん……あ! なら、みんなで友くんに食べさせてあげようよ! それならみんな平等でしょ?」

「それは……私以外も食べさせるのは気に入らないから、却下」

「お、同じく……」

「……あーんするのが恥ずかしいだけでしょ」

 

 香澄ちゃんの言葉に、天城と海子はピクリと肩を震わせる。図星のようだ。

 

「ハハハッ、見てておもろいなあんたら。なんか昔を思い出すわぁ……あたしにもあーん一つで嬉し恥ずかしなんて時代もあったわ。夫婦になってからは、仕事やらなんやらでそれどころや無いからなぁ」

「フフッ、そうですね。まあ、私は今でも旦那とはラブラブですけど」

「それご自分で言っちゃいますか……」

「さっすが、見てるだけで恥ずかしくなってくるほどラブラブ夫婦で有名な世名さんやな。ちょっと羨ましいですわ」

 

 何それ知らない。ウチそんなんで有名なの?

 

「天城さんは旦那様と上手く行ってないんですか?」

「上手く行ってない訳や無いけど、共働きやからなー。そんな話す暇もありませんわ。ま、月に一度は外食したりは今でもしてますけど」

「あら、十分素敵な夫婦関係じゃ無いですか」

「そうですよ。私は独り身なんで、なんか羨ましいですわ」

「雨里さんはどうして離婚してしまったんですか?」

 

 母さんの遠慮無い質問に、水樹さんは笑いながら返す。

 

「くだらない喧嘩別れですよ。まあ、お互いの為にって事でキッパリ別れたんで、ある意味幸せな結末でしたよ」

「そうですか……離婚だなんて、私は想像しただけでなんだか泣けてきます」

「あたしは……なんや色々面倒そうやから、無縁でありたいですわ」

「もしそんな事態になったら、色々と相談になりますよ?」

「アッハッハ! そんな未来が来ーひんように頑張りますわ!」

 

 楽しそうに会話を交える母親組を横に、俺達子供組は少し気まずい空気になる。

 

「お母さん達、子供の前でそんな話しなくてもいいのに……」

「なんだか……居辛いな」

「大人の話なんて、気にするだけ損ですよ。お姉ちゃんそこのポン酢取って」

 

 楽しそうに赤裸々な話を続ける母親組。それを横目に、俺達は黙々と鍋を食べるのだった。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 鍋パーティー開始から約一時間半――楽しかった時間もあっという間に終わりを告げ、家へと帰る彼女達を見送る為に、俺達は秋の夜空の下に居た。

 

「さっむいわねー……お鍋食べたい」

「今食べたところだろうが……」

「今日はありがとうございました。とっても美味しかったです」

「こちらこそ、とっても楽しかったわ。またいつでも来て下さいねー」

「ほんなら、明日も来るか?」

「お母さん、流石に毎日来ちゃ迷惑でしょ」

「はぁ……そこは同意しときなよ、お姉ちゃん。本当に、今日お兄さんのウチに泊まんなくていいの?」

 

 香澄ちゃんが天城に、ジトッとした目を向ける。

 

「も、もういいでしょそれは! お泊まりとかそういうのは、しっかり心の準備をしてからじゃないと……」

「本当、意気地無しだね。私なんか心の準備なんて三秒あれば出来るよ?」

「アイドルの香澄と比べないでよ……」

「香澄ちゃんは随分とお姉ちゃんに厳しいわねー」

「当然です。私、お姉ちゃんにはお兄さんとくっ付いてほしいですから」

「妹の鑑ねー。私も、母親として娘をもっと応援しないとねー。どうする? 車突っ走らせて学校に必要なもん持ってこようか?」

「け、結構だ! ……私も、少し心の準備が出来てない」

 

 腕を組んで照れ隠しにそっぽを向く海子の頭を、水樹さんはからかうように軽く叩く。

 

「ま、マイペースでいいから頑張んなさいよ」

「優香も、しっかり頑張りやー」

「だから、もういいでしょ! 大体、今更だけど世名君目の前に居るんだよ!」

「全くだ! そういう話は止めてほしい……」

「いいじゃない、友希君だってあんたらが努力してんのは十分理解してんだから。ね?」

 

 ね? と言われても、反応に困るんですけど。

 結局どう言葉を返していいか答えが見つからなかったので、悪いと思ったが俺は苦笑いを返した。それに続くように、陽菜が唐突に口を開く。

 

「でも、私も優香ちゃん達とお泊まり会とかしたかったなー」

「ほんなら、陽菜ちゃんがこっちの家に泊まりに来るか?」

「ちょっと、止めてよお母さん。大体、もうしばらくしたら嫌でも一緒に泊まる事になるかもしれないんだし、いいでしょ別に」

「へ? なんかあったっけ?」

「ああ、そういえばもうすぐ修学旅行か」

 

 海子の言葉に、陽菜が「なるほど!」と手を叩く。

 そっか、そういえば今月だったな、ウチの修学旅行。

 

「今週中に宿泊先や部屋割り、詳しい内容も伝えられるだろうしな」

「私と優香ちゃん同じ組だし、一緒の部屋かもね!」

「そうならない事を祈るわ……」

「修学旅行か……その時こそ頑張りなよ、お姉ちゃん」

 

 ニヤついた香澄ちゃんの一言に、天城は「あんまりからかわないの」と言って、彼女のおでこをペシッと叩いた。

 

「青春ねー。さて、それじゃあそろそろ失礼しますわ」

「あたしらもこれで。今日はほんまに、ごちそうさんでしたー」

「ええ。お気を付けてー」

「バイバイ世名君。また明日」

「今日は色々とすまなかったな。また学校で」

「おう、また明日」

「またねー!」

 

 手を振りながら立ち去る彼女達に、俺達も手を振り返す。しばらくして、彼女達の姿が夜の暗がりに消えるのを確認してから、俺らは家の中に入った。

 

「今日は楽しかったね!」

「ん? まあ、そうだな。たまには、こういうのもいいかもな」

「今度は出雲ちゃんと雪美さん誘おうね!」

「そう……だな」

 

 あの二人が一緒だと、凄いギスギスした感じになりそうだけど。

 そういや、今日はそれほどギスギスしてなかったな。 まあ、外野のみんなの押しが凄かったからかな。

 

「そうだ、陽菜さんこの後シュークリーム食べます?」

「あ、食べる食べるー!」

「お前ら……鍋の後によく食えんな」

「おやつは別腹」

 

 そう女の子特有の言葉を口にして、友香は冷蔵庫へ向かった。

 別腹ねぇ……そういえば、今日は本当はただシュークリームを買いに行っただけなのに、随分と長い一日になったな。ま、たまにはこういう日常もいいか。

 

「はい陽菜さんどーぞ。お兄ちゃんにも、特別にあげる」

「俺は別に……いや、貰っとくよ」

 

 よくよく考えると、この限定シュークリームを三つも頼んだのは、こうやって最初から分けようとしてたのかもな。普通に一人で食おうとしてたのかもしれないけど。

 だがここは彼女の好意を受け取っておこうと、俺はシュークリームを貰い、二人と一緒に口にした。

 

「……やっぱ普通のシュークリームと変わんねぇな」 

「はい没収」

「ごめんなさいスッゴく美味しいです、はい」

 

 すぐさま謝罪をして、俺はそのシュークリームをもう一口食べる。

 味覚には自信ある方だけど、やっぱ限定とか言う割に特別美味しい訳じゃ無いよな……まあ、友香が満足してるならいいか。普通に美味いし。

 幸せそうにシュークリームを食べる友香と陽菜を横目に、俺も残りのシュークリームを頬張った。

 

 

 

 

 

 

 




 という事で、鍋パーティー終了。母親と妹の協力がなんだか色々と雑。
 本当はここからお泊まりイベントに移行しようかとも考えたけど、ネタが思い付かなかったので断念。いつか違った形でやりたい。





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