――日曜日 午前11時
なんやかんやで来てしまったXデー。四人に同時に休日デートに誘われるという修羅場イベントに対し、俺はある答えを出した。
そして今、俺はそれを若干後悔してます。
「行きたくねぇ……」
ゴールデンウィークに散々世話になった白場駅前。その時計塔前の広場に居る、とある集団からとてつも無い空気を感じ、俺は足を止めていた。
当然その集団とは――例の四人だ。
「まあ……こうなるだろうとは思ってたけど……」
俺が四人の誘いに出した答えは「全員で出掛ける」という至極簡単な答えだ。とはいえ、「デートに誘われたのにそれはねーだろ」と多く方から反論を貰いそうな答えだが、ちゃんと彼女達に対する言い訳も考えてある。一応理に適ってる。けど、彼女達がまともに受け入れる感じが微塵も無い。元々かなり捻くれた理屈だし。
「……いくか」
ここで立ち止まってても仕方無い。覚悟を決めて一発ぐらい殴られにいこう。
微かに震える足を何とか踏み出し、時計塔前へ向かう。彼女達もこちらに気付き、若干表情が柔らかくなるが、相変わらず何か怖い。
「や、やあ! 今日は絶好のお出掛け日和――」
「先輩! これどういう事ですか!」
「どうして他の者が居る!」
「ちゃんと説明してくれるよね?」
「じゃないと私達納得出来ないわよ?」
早速怒号の弾幕頂きました。うん、分かってた。怒る理由も分かるよ。だってデートと思って来たら他の女も居るって、凄いカオスな状況だもんね! でも、俺は悪くは無い! いや悪いけど、考え方によっては、俺では無く、君達も悪いんだぞ!
「いやー、偶然みんなに誘われてさ……だったらみんなで行けば――」
「デートの誘いなんだから、二人っきりじゃないと駄目じゃないですか!」
「でもほら、こないだの四人が俺を誘った時――四人ともデートなんて言ってないじゃん?」
その言葉に、四人は口を閉じてピタリと止まる。
そう、俺がこの方法を選んだのはそれが理由。四人は俺を誘う時、「デートに行こう」では無く、「一緒に出掛けよう」といった言葉で俺を誘った。つまり、これは「私と君、そしてその他のメンバーで出掛けよう」と、無理矢理解釈する事も出来なくも無い。
いやもちろん四人がデートの誘いをしているのは百も承知だ。だが、四人を平等に捌くにはこれしか無かった。誘われた時にデートに行こうと言われたら終わりだったが、あの内容ならこの抜け道を選べた。
つまり俺は、四人の友人に同日に誘われたから、みんなを誘って出掛ける事にした――という事だ。
……まあ、むちゃくちゃな理論かましてるのは重々理解している。四人も確かにそうだけど、それは無いだろ――的な顔をしている。その気持ちは凄い分かります。でも俺にはこれ以外思いつかなかった! 全員平等で、誘いを受けるなんてこれぐらいしか方法無いもん!
「……ど、どうします? このまま続行? それとも解散? 四人に任せますよ?」
恐る恐る聞いてみたが、四人は他の者をジッと睨みつけるのみ。怖いんだけど……良いじゃん! デートじゃ無くても友達と休日に出掛けるの楽しいじゃん! たまには修羅場を忘れようぜ!
俺がこの空気を何とかしてくれと祈っていると、天城が口を開く。
「私は構わないけど……このメンバーだと、終始ギスギスして終わりそうだけど?」
うん、それはごもっとも。ていうか俺が保たない。一瞬でライフポイントが無くなる。だから、助っ人を呼んでいます。そろそろ来る頃だろう……カモン! 俺の友達!
そう後ろをチラリと振り向く。と、その助っ人達の姿が見えた。来てくれたか、マイフレンド!
「……じゃあな」
「待って我が親友達! 帰りたい気持ち分かるけど! でもお願い止まって!」
その言葉に助っ人達がピタリと立ち止まる。
助っ人達は天城達の事を告げずに今日ここに来るようにメールを送った――
「……どういう事だこれ? 三文字で述べろ」
「ヘルプ!」
「……大体分かった。でも多分自業自得だろ?」
「そんなんに俺達巻き込むな! 何で貴重な日曜日をお前のヘルプに使わなきゃならん!」
「誘った時あっさり乗ったくせに」
「暇で悪いか!」
「ま、まあ落ち着いて……天城さん達ポカンとしてるよ?」
翼の言う通り、俺が三人と話している後ろで天城達は状況が分かっていないのだろう。キョトンとこちらを見ている。
「えっと……今日はコイツらも誘ってさ……折角だから、大人数で遠出しようかなって……これなら、ギスギスしない……かもだろ?」
「なるほど……お前俺達を天城達の暴走を抑える為に誘ったな?」
はいその通りです。流石に天城達も
「ど、どうでしょうか?」
「……はぁ……まあ、ちゃんとデートに誘わなかったのも悪いだろうし……」
「今回は私達の詰めが甘かったという事で納得しよう」
「まあ、こうしてみんなで出掛けるのも悪く無いかしらね」
「先輩の考えなら、文句は言いません」
な、何とか納得してくれたようだ……相変わらず殺気出てるけど。
と、ともかくこれで今日は友人同士で出掛けるという至って普通な状況になる事が若干無理矢理だが出来た! これで何も問題無ければ良いんだが……
「で、先輩。どこに行くんですか? メールには俺が決める――って言ってましたけど」
「あ、ああ……それなら問題は無い。折角の大人数だし、隣町に行こうと思ってな」
「隣町……何かあったかしら?」
「そのぉ……遊園地に行こうかと」
「遊園地?」
◆◆◆
電車で数分。白場市の隣町にある巨大テーマパーク――スクランブルパーク。キャッチフレーズは『大急ぎで回らないと全部は回りきれない!』とかいう何とも微妙な感じだが、娯楽施設としては十分な場所だ。
そんな場所に俺達八人は来たわけだが――正直ここから先は全くもって未定だ。まあ、適当にアトラクションを回ってれば時間が過ぎるだろう。四人も楽しめばギスギスした感じにはならないだろうしな。
「じゃあ……とりあえずどうする?」
「飯!」
いきなりかよ……というか親友Hよ、ノリノリじゃ無いか。何だかんだいって美人四人と休日に遊園地来てるんだもんな……そりゃテンション上がるか。俺もお前の立場なら良かったのに……
「じゃあ、昼飯にするか。みんなもいいよな?」
確認をとるとみんな黙って頷く。
そのまま遊園地内にある飲食店を目指し、適当に歩く。その途中――
「先輩、お昼ご飯食べ終わったらどうするんですか?」
「それはまだ――ん?」
出雲ちゃんが近付いて来たと思ったら急に右手を握ってくる。こ、これは……
「だったら各々好きな所にを回るのが良いんじゃないかしら? 私はこういう所に来たのが初めてだから、是非友希君に付き合ってほしいわ」
それに続き朝倉先輩が空いている左手を握ってくる。
この二人……平常運転じゃん! 第三者居ようが関係無いじゃん! 相変わらず火花散ってるよ! バチバチだよ! 修羅場ナウだよ!
先輩後輩に挟まれた状況の中、後ろから何やら嫌な気配を感じる。恐る恐る振り返ってみると――そこには殺気全開な天城と海子が。あー、駄目じゃん! 結局ギスギスしちゃってるじゃん! それから親友H、お前まで殺気出すな! お前に構ってる余裕無いの! 羨ましいとか思うな!
――これは……とんでもない選択をしてしまったかもな……俺。
よかれと思って計画した友人みんなで遊園地を楽しもう大作戦。上手く行けば四人の間に絆的なのが生まれ、少しでもギスギスした関係がやんわりすると思ったが……これはより一層関係が悪化しそうな予感……
俺はこの休日を無事乗り越えられるのだろうか――地獄の日曜日が始まった。
「………俺達帰る?」
「絶対居て!」
と、いうわけで全員で遊園地へ。
作中で言ってる通りむちゃくちゃな理屈ですが、主人公は悪くない。他の展開を思い付かない作者が悪い。
次回は遊園地を舞台にバッチバチの修羅場だよ。主人公のライフポイントがどれぐらい減るんだろうね。