モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

116 / 197
サン・アフェクション③

 

 

 

 

 

 私と友くんは、生まれた時からずっと一緒に居た。

 それは決して大げさな表現じゃ無い。同じ病院で同じ日に生まれて、家も歩いて五分も掛からない近所で、同じ幼稚園に通って、同じ小学校に入学した。私と友くんは本当にずっと、一緒に同じ道を進んでいた。

 毎日のように遊んで、家族みんなで遠くへ出掛けたり、時々お泊まり会なんかしたり、一緒にお風呂に入ったり寝たりしたり――自分で言ってしまうのはなんだか恥ずかしいけど、とても仲が良かった。

 

 

「ねぇねぇ友くん! おままごとしようよ! 私がお母さんで、友くんがお父さんね!」

「こないだもやったじゃん……他の事しようよ」

「うーん……じゃあ、お医者さんごっこ! それとも、お人形遊び?」

「どっちも前やったよ……たまには外で遊ぼうよー」

「ブー……じゃあ、公園に遊びに行こ!」

 

 

「わー、見て見て友くん! ペンギンさんだよ!」

「コラ陽菜! こんな人が多いところで走らないの!」

「まあまあ、子供は元気が一番よ」

「可愛い……ねぇ友くん! ……あれ、友くんは?」

「友希君なら、和希さんと向こうで鮫見てるぞ」

「えー、ペンギンさんの方が可愛いのに……」

「男の子はカッコイイのが好きなんだよ」

「ふーん……」

 

 

「友くん! 一緒にお風呂入ろ!」

「今テレビ観てるからいい」

「えー、なんでよー! 一緒に入ろーよー!」

「駄目だぞー、友希。女の子のお願いはちゃんと聞いてやらないとな」

「……わかったよ」

「やったー! 一緒に背中ゴシゴシしよ!」

「はいはい……」

 

 

 友くんと一緒に過ごす毎日は、とても楽しかった。幼稚園に進んでも友くんと一緒に遊ぶ事は多かったが、そこでは新しいお友達も沢山出来た。裕吾もその一人だ。彼と友くんはよく分からないが意気投合したらしくて、幼稚園以降は私と友くんだけじゃ無くて、裕吾も一緒に遊ぶ事が多くなった。

 

 

「ねぇ裕吾、それ何?」

「……父さんのパソコン」

「おー! はいてくだね! 友くんスゴイよ!」

「どうやるか分かるの?」

「……なんとなく」

「裕吾スゴーイ! 友くんより頭いいね!」

「お、おれだってやれるし! それ貸して!」

「壊しそうだからヤダ」

「んなっ!?」

「アハハ! 友くんざんねーん!」

 

 

 友くんや裕吾、沢山のお友達と過ごした楽しい幼稚園の生活はあっさりと過ぎ去り、とうとう私達は小学校に入学した。

 勉強は昔から嫌いだったけど、なんとか頑張って思いっきり学校生活を楽しんだ。そこでも沢山のお友達も出来たし、変わらずに友くんと一緒の毎日を過ごせて、小学校での生活もとても幸せなものとなった。

 けど、辛い事もあった。小学校で沢山のお友達が出来た私がクラスの中心みたいで気に入らなかったのか、同じ学年のいじめっ子に狙われて、ちょっとしたいじめを受けたりした。

 殴られたりとか、そんな酷いものじゃ無かったけど、とっても心は苦しかった。でも、私がいじめられているのを知って、友くんがいじめっ子達に立ち向かってくれた。

 それ以降、いじめっ子達は私や他の生徒をいじめる事は無くなった。友くんのお陰で、私は……いや、私だけじゃ無い。いじめられていた多くの子が救われた。

 

 

 そんな風に毎日友くんと一緒に居た私は、いつの間にか彼を、男性として好きになっていた。

 理由は正直自分でも分からない。でも、私は友くんと一緒に居るのが当たり前だった。そして、その空間が、時間が私は何より好きだった。友くんと一緒に、隣に居るだけで、私はとても幸せだった。

 だからこれからも、ずっと友くんと一緒に同じ道を進んでいくんだと、私は心に決めていた。

 一緒に小学校を卒業して、同じ中学、高校に通う。その間でちゃんと告白して、友くんと恋人になる。いっぱいデートしたりして、友くんとラブラブな日々を過ごす。そして高校を卒業した後は、私は恋人として、そしていつかはお嫁さんとして、彼を支える――そんな未来を、毎日思い描いていた。

 

 

 けど、そんな幸せに突然終わりが来た。私が小学五年生になってしばらく経ったある日、サラリーマンとして毎日忙しく働くお父さんが、珍しく夕飯前に帰ってきて告げた一言が――私の思い描く未来を壊した。

 

「陽菜……実はお父さん転勤する事になってな……悪いが、白場から引っ越す事になったんだ」

「…………え?」

 

 引っ越す――いきなり何の前触れも無くお父さんが口にした言葉に、私はそれしか言葉が出なかった。

 白場から引っ越すって事は……この家から出て行くって事? それじゃあ学校も止めて、別の学校に行くの? 色んな感情が渦巻いたけど、私が一番強く思った事は、ただ一つだった。

 私……友くんと離れ離れになっちゃうの?

 

 ずっと、ずっと一緒に居たのに。これからもずっと一緒に居ようって、彼の隣で彼を見守っていこうって決めてたのに……私は友くんと離れなきゃならないの?

 それを考えると胸が締め付けられるように苦しくて、死んでしまいそうだった。

 嫌だ、友くんと離れたくない。もっと友くんと……ううん、友くんとずっと一緒に居るんだ。ずっとずっと一緒に居たい。ここを離れるなんて、絶対に嫌だ!

 私はもうそれだけしか考える事が出来なくて、それをお父さんに伝えようと息を吸って胸の苦しみを抑えてから、叫ぼうとした。けれど、お父さんは私の気持ちを先読みしたように口を開いた。

 

「お前の気持ちは分かる。沢山の友達も居るだろうし、今の学校も好きだろう。友希君とも……離れ離れになりたくないだろう。けど、仕方が無いんだ。お父さんも、お前の望むようにしてやりたい。けど、ここにお前一人を置いていく訳にはいかないんだ。……分かってくれ」

 

 お父さんの眼鏡の奥から見える悲しそうな、辛そうな瞳に、私は何も言葉が出なかった。

 けれど、それでも引っ越すなんて嫌だ。その気持ちだけは折れる事は無かった。だから私はお父さんに辛い思いをさせるのを分かってても、自分の気持ちを叫ばずにはいられなかった。

 

「それでも……私嫌だよ! 私この町が好きなの! それに友くんと……大好きな人と離れるの嫌だよ! お父さんだって、お母さんと離れるのなんて嫌でしょ!?」

「…………」

 

 私の気持ちに、お父さんは俯いたまま何も言わなかった。いや、きっと言えなかったんだと思う。

 すると、お父さんの代弁をするように、お母さんが口を開いた。

 

「陽菜……あなたの気持ちはお父さんもお母さんも、痛いほど分かってる。けどね、お父さんもあなたに辛い思いをさせる為に引っ越すんじゃ無いのよ。社会で生きる以上、こういう辛い事を嫌でもしなきゃ駄目なの。それを分かって」

「……私、そんな難しい事分かんないよ……」

「……あなたがここに残りたいって言うなら、私はあなたと一緒にここに残ってあげたい。けどね、お父さんを一人にさせるのも私は嫌なの。あなたが友希君と離れたくないようにね」

「……なら、私が一人で――」

「まだ子供なあなたも一人にはさせられない。それぐらい分かるでしょ?」

 

 その一言に、とうとう私は言葉を失った。

 そんな事はもちろん分かっている。まだ子供な私じゃ、一人で生きていけない。お母さん達も、そんな私を一人にさせるのが嫌だという事も。

 もういくらわがままを言っても、この状況は変わらないって事も、分かっていた。

 

「……分かっ……たよ」

 

 だから私は、もうその現実を受け入れる事しか出来なかった。

 

「……ごめんな、陽菜」

「……ごめんなさい、陽菜」

 

 お母さんとお父さんは、同じ事を呟きながら、私を抱き締めた。私は二人の胸の中で、静かに涙を流した。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 それから引っ越し当日までの間、私は一切笑う事は無かった。

 友達と遊んでる時も、家族と一緒に居る時も、そして友くんと一緒に居る時でさえ、私は心の底から笑う事が出来なかった。

 友くんは明らかに私の様子がおかしい事に気が付いて、「なあ、どうしたんだよ?」と何回も聞いてきたが、私は引っ越しの事実を伝える事は無かった。離れ離れになるという事実を伝える、口にする勇気が無かった。

 

 結局友くんに引っ越しの事実を伝える事が出来たのは、白場での小学校最後の日が終わった時――クラスメイトのみんなに、先生から私の引っ越しの事が伝えられた時だった。

 その日の放課後、当然友くんは私に「どうして今まで黙ってたんだよ!」と凄い剣幕で言い寄ってきた。

 

「引っ越し、いつ決まってたんだよ」

「……今月の始めには、決まってた」

「そんな……どうして言ってくれなかったんだよ!」

「……めん」

「陽菜?」

「ごめんね……ごめんね、友くん……!」

 

 私はそれに、泣いて逃げ出す事しか出来なかった。

 いっぱい伝えたい事があった。いっぱい話したい事があった。けど、何を言えばいいかその時は分からなかった。そして伝えてしまったら、もう一生会えない気がしたから。

 

 それから引っ越しの準備を進めていた次の日にも、友くんは私の家を訪ねてきたが、私は会う事はしなかった。顔を合わせてしまったら、もっと辛くなりそうだから。

 

 けど、引っ越し当日。家の前でお父さんの車に乗って駅に向かおうとした時に、友くんとその家族が別れの挨拶に来た。そこでは流石に顔を合わせない訳にはいかないので、私は友くんと言葉を交わす事になった。

 友くんの正面に立った私は、何も言わずにジッと俯いていた。言葉を交わしたくなかった。こんな辛い最後は嫌だ、話してしまったら、より一層別れが辛くなる――私は頑なに口を閉じた。

 

 けれど、友くんは違った。俯いて黙る私に向けてそっと右手を差し出し、いつもと変わらぬ調子で、口を開いた。

 

「……またな」

「え……?」

 

 放課後の帰り道、家の前で別れるように軽々と呟いたその一言に、私はポカンと彼の顔を見つめた。

 

「え? じゃねーよ。またなって言ってるだろ。そしたらまたねって返すのがマナーだろ?」

「でも……私、引っ越しちゃうんだよ? 明日にはもう会えないんだよ? 一緒に学校も行けないし、遊べないんだよ?」

「何言ってんだよ。明日じゃ無くても、いつかは会えるだろ? 一生の別れじゃないんだからさ」

「一生の別れじゃない……」

「こっちからでも、そっちからでも、いつかまた会いに行ける。何ヶ月後か、何年後か分からないけどさ。だから、また会おうって言ってんだよ」

 

 そうか……離れ離れになるって事で頭がいっぱいだった。また、会えるんだ。私がいつか、一人でも暮らせるぐらい大人になれば、また会いに来れる。また、友くんと一緒に居れるんだ。そんな当たり前の事を……悲しさと辛さで忘れていた。

 

「うん……そうだよ。そうだよね……」

「陽菜?」

「……友くん! 私、絶対帰ってくるから! 絶対また友くんに会いに来るから! だから……またね! 友くん!」

 

 ぐしゃぐしゃに涙を流しながら、私は友くんの手を握った。きっと酷い顔をしていただろう。だけど、友くんは笑顔を返してくれた。その笑顔を見て、私はさらに強く思った。

 いつか絶対に、彼の隣に戻ってくるんだ――と。

 

「遅くなっちゃうかもしれないけど……また一緒に遊ぼうね!」

「おう。向こうでも楽しくやれよ?」

「うん……頑張るよ」

 

 私は友くんの手を離して車へと乗り、白場を、友くんの下を去った。いつか必ず戻ってくると、強く決意しながら。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 お父さんの転勤先は白場から新幹線で二、三時間ほど離れた京都だった。新居は住み慣れないマンションで慣れるのには時間が掛かりそうだったが、ともかく私達の新生活は幕を開けた。

 新生活を始めて、私はいくつかの事を決めた。

 一つは友くんと離れ離れになったとはいえ、暗くならずに毎日明るく過ごすという事だ。友くんと再会した時に、こちらでの事を沢山お話する為に、こっちでも楽しく過ごすと決めた。

 

 そしてもう一つ、こちらに居る限り、一切友くんとは連絡を取らずに、夏休みなどにも白場に帰らないという事だ。別に友くんと話したく無い訳では無い。むしろ今すぐ話したいぐらいだ。けど、その一瞬だけ再会してしまうと、また離れた時が絶対悲しくなる。電話をしても、直に会えない事が辛くなる。そんな思いはしたく無い。

 だから、いつか白場で一人暮らしが出来るようになり、友くんと離れなくて済むその時まで、友くんには会わない――そう決めたのだ。お母さんや香織オバサンにも、友くんにはウチの住所を伝えないように頼んだ。

 

 とはいえ、それはそれでとても苦しい事だし、友くんの現状を知れないのはなんだか心配だ。だから、もう一人の友人である裕吾とは時折連絡を取り、友くんの事を聞く事にした。

 なんだかストーカーみたいで気が引けるけど、心配だったんだ。友くんが、私の事を忘れないかが。だから裕吾を通じて、友くんとの繋がりを維持したかったんだ。

 

 

 そんな風に将来の事を見据えながら色々な事を決めて、私の新生活は幕を開けた。引っ越しから三日ほど経って落ち着いてから、私は新しい小学校へと通う事になった。

 全く知り合いの居ない、新しい学校。五年生という中途半端な時期の参加に、私の心の中は不安でいっぱいだった。

 

「その……桜井陽菜です! よろしくお願いします!」

 

 恐らく、こんなに緊張したのは生まれて初めてかもしれない。新しいクラスメイトを前に、ガチガチに震えた声で、私は学校生活初日の挨拶した。

 お友達は出来るのだろうか、もしかしたらまたいじめられたりするのだろうか、そうしたら私はどうしたらいいんだろうか……いつも一緒に居た友くんが居ないからか、私はどうすればいいか分からなかった。

 

 けど、一時間目が終わったその時、ある一人の生徒が私に声を掛けてくれた。

 

「――ねぇ、桜井さんって、東京から来たの?」

 

 栗色のツインテールが特徴的な女の子で、その言葉遣いはいわゆる京都弁では無く、私と同じ標準語だった。その突然の質問に困惑しながら、私は慌てて答えた。

 

「う、うん……白場ってところに……」

「あー、あそこね。実は、私も三年前に東京から引っ越してきたんだよ」

「そ、そうなの?」

「うん! だから桜井さん不安なんじゃ無いかなーって声掛けてみたの! 安心していいよ! みんな優しいから! なんなら、私が友達になってあげよっか?」

「ほ、本当に!?」

 

 友達という単語に反応して、私は思わず大声を上げた。その反応にも彼女は明るく笑いながら、親指を立てた。

 

「モチ! 都会人同士、仲良くやろうぜ!」

「仲良く……うん! よろしくね! えっと……」

「あ、自己紹介まだだったね。私は菊池(きくち)恵理香(えりか)! 恵理香でいいよ。私も陽菜って呼ぶからさ!」

「恵理香ちゃんか……よろしくね!」

 

 すっと右手を差し出すと、恵理香ちゃんはそれを笑顔でガシッと掴んだ。

 いきなり友達が出来た事に少し驚きながらも、とても安心した。この学校でも上手くやれそうだと。

 

「全く……あんまり転校生を困らせちゃ駄目だよ、姉さん」

「フフッ……エリちゃんらしくて、ウチは好きやけどなぁ」

 

 恵理香ちゃんと固い握手を交わしていると、また別の生徒が近寄ってきた。一人は恵理香ちゃんと同じ栗色髪の、大人しそうな男子。もう一人は、おっとりとした顔付きの黒髪ショートカットの女子だ。

 

「困らせてって、私は新たな友と親睦を深めてんの!」

「そういうガツガツしたのが嫌な人も居るんだよ……えっと、ごめんなさいね」

「あ、困ってなんかいない……です! えっと……」

「ああ、彼女は赤坂(あかさか)椿(つばき)。私の友達。で、こっちは斗真(とうま)って言って、私の双子の弟」

「桜井さん言うたな。よろしゅうなー」

「姉がいきなり失礼を……どうかよろしくしてやって下さい」

「ちょっと! 私が失礼な人みたいに言わないでよ!」

 

 ワイワイと楽しそうに会話を交える恵理香ちゃん達を見て、私は思わず笑い声をこぼした。

 彼女達となら楽しい日々を送れそうだ……こうして、私の新生活は最高のスタートを迎えたのだった。

 

 

 

 それから私は恵理香ちゃん、椿ちゃん、斗真君と共に、京都での毎日を過ごした。学校の休み時間や放課後、休みの日も一緒に遊んだりした。

 

「はぁ……夏休みにクーラー効いた部屋でだらけるってのは最高だねぇ……」

「姉さん、人の家で腹出して寝ないでよ……ごめんね、桜井さん」

「ううん、別にいいよ! それより、今日は何して遊ぼっか?」

「せやな……百人一首なんてどうやろか?」

「椿、遊びのチョイス……もっと面白いのやろーよ。ゲームとかさ」

「百人一首かてしっかりやればおもろいんやで? エリちゃんはもっと古き良き日本の文化に触れた方がええで。なあ、陽菜ちゃん」

「わ、私もちょっと難しそうだから遠慮したいかな……」

「……百人一首おもろいのに」

 

 

「すみません、夕飯ご馳走になっちゃって」

「いいのよ別に。これからも陽菜と仲良くしてあげてねー」

「もっちろんです! オバサンおかわり!」

「エリちゃんはどこでも遠慮せーへんな」

「……こんな姉ですみません」

「全然オッケーよ。じゃんじゃん食べてね」

「はーい!」

 

 

「ね、冬休みはどうする?」

「エリちゃん、まだ十月やで?」

「流石に気が早過ぎるでしょ……」

「いーじゃん別に! 私達もうすぐ小六! 中学になったら色々忙しいでしょ! ね、陽菜!」

「うん、先の事を考えるのは良い事だよ!」

「二人ともお気楽やなぁ。もうすぐテストやで?」

「……忘れてた」

 

 みんなとの毎日はとても楽しくて、私は毎日を笑顔で過ごせた。

 そしてあっという間に一年近くの時が流れ、私は京都での生活に馴染み、普通の生活を送れるようになっていた。それでも――

 

「もうすぐ卒業かぁ……ねぇ陽菜……って、どうしたボケーッとしてさ」

「……え? あ、ごめん……友くんの事考えてた……」

「友くんって……例の幼なじみやんな?」

「うん……そろそろ離れ離れになって一年以上だからさ……どうしてるのかなって……」

 

 京都でみんなと楽しく過ごしていても、友くんの事は一向に忘れられず、離れ離れになった、会えない悲しみは相変わらず私の心を締め付けていた。

 早く会いたい。早く時が流れて、大人になりたい。ここでの生活も楽しくなってきたけど、やっぱり白場に帰って、友くんに会いたい――その気持ちは日に日に増していった。

 

 それでも、私はまだ子供。親の下を離れる事は出来ない。だから今は、待つ事しか出来ない。時が流れる事を、ただひたすらに。

 

 さらに時は流れ、私は中学へ進学。恵理香ちゃん達と同じ中学で、私は小学校の時と変わらずに彼女達と共に歩む、楽しい新たな毎日が始まった。

 中学に進学したとはいえ大きな変化は無く、平和で楽しい時間を、友くんが居ない悲しみに耐えながら私は過ごした。

 

 

 そして中学二年の、三年生を控えた春休み――私は、ある決断をした。

 

「お父さん、お母さん。私……高校生になったら、白場で一人暮らしする!」

 

 リビングに両親を呼び集め、私は堂々と二人に自分の思いを伝えた。二人はその言葉に驚いた様子は見せずに、お父さんが代表して口を開いた。

 

「……理由は?」

「私……やっぱり友くんに会いたい! 本当は高校卒業してちゃんと働けるようになってからって思ったけど……もう我慢出来ないの! 私、早く友くんに会いたい!」

「……そう言うと思った。お前は、本当に友希君の事が好きなんだな」

「じゃあ……」

「だが、お前みたいな奴に一人暮らしをさせる訳にはいかん」

 

 と、お父さんは少し怖い目付きで睨みながら、そう口にした。

 

「……どうして?」

「……お前は俺達から見たらとても危なっかしいんだ。頭も決して良いとは言えんし、色々子供っぽい。それに家事も出来なければ、仕事もろくに出来ないとも思っている。そんなお前を、親として一人にさせる訳にはいかん」

「うっ……そうかもしれないけど……それでも私は……!」

「落ち着け。まだ許さないとは言っていない」

「それって……?」

「……四月から半年間、家の事を一人でやってみせろ。いわゆる、疑似一人暮らしだ」

 

 お父さんの言葉に、私はどういう事だと聞こうとしたが、それを言ってしまったらマイナス評価になりそうなので、そっと言葉を飲み込んだ。

 

「料理や洗濯、家事全般を母さんに頼らず、一人でやってもらう。食費なんかも、毎月決まった金額しか使わせん。もしそれで半年間、問題無く生活出来たのなら……一人でもやっていけると判断して、白場に行くのを認めよう」

「お父さん……!」

「ただし、もし駄目だと判断したら、少なくとも高校を卒業するまではウチに居てもらうぞ。分かったな?」

「……うん、分かったよ!」

 

 私は絶対、友くんのとこに帰るんだ……また友くんと一緒に、隣を歩くんだ。その為に……私が一人でもやって行けるって、お父さん達に認めさせてやる!

 

 こうして、白場に戻る為、友くんと再会する為の――私の半年間の挑戦が始まった。

 

 

 

 

 

 




 唐突ですが、今回から陽菜の過去編です。
 友希の下を離れ、彼女が再び友希の下へ帰る為に何をしていたのか、彼女の友希への強い思いを描く――そんな感じの話になると思います。暫し、お付き合いを。

 次回もお楽しみに。





▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。