モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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休日のご予定は計画的に

 ――ゴールデンウィークが明け、とうとう今日から学校が再開である。

 とはいえ、木曜日と金曜日だけ登校したらまた土曜日から連休なのだが、これならもう学校行かなくてもよくね? と、思ってしまうのが学生という生き物の思考だろう。だって二日だけだもん。メンドイよ。

 

 とはいえ、そんな文句を言ったって現実は変わらない。せいぜい土曜日からの連休をどうしようか考えて二日間を過ごそう――そう思いながら親友Aこと裕吾と共に今日も学校に到着。下駄箱で靴を履き替え教室へ直行しようとしたところ――

 

「世名君、おはよう」

「ん? ああ、天城か……おはよう」

 

 階段近くで天城に声を掛けられ、立ち止まる。

 裕吾は軽く挨拶をしてそのまま階段を上がる。待ってやろう的な考えは無いのか友よ……

 まあ、アイツなりの気遣いだろうと解釈し、天城へ視線を戻す。その時、不意に首からぶら下がる物が見え、自然と視線が天城の胸元に移る。

 

「あ、こないだのペンダント付けてくれてるんだ」

「うん。世名君から貰った物だもん。肌身離さず持ち歩いてるよ」

 

 肌身離さずか……まあ、大切にしてくれてるなら買った甲斐があるな。一万円もしたし。

 

「ところで世名君」

「はい?」

「私とのデート以降――何も無かった?」

 

 ……とりあえず笑顔が怖いですよ、天城さん。女子たるものスマイルは可愛くですよ! 何も無かったってどういう事? 少なくともあれ以降俺が他の三人とデートに行った事は知ってるはず。その内容を言ってるのか? ……何て言えばいいの? 「すっごい楽しかった!」とか言ったら死にそうなんですけど。

 

「……と、特に変わった事はありませんでしたよ?」

「…………そっか、なら良かった!」

 

 な、なんとかはぐらかせたか……? なんか妙な間があったけど。

 

「そ、それじゃあ俺教室行くな!」

「あ、ちょっと待って!」

 

 早くこの空気から抜け出そうと階段へそそくさと歩み出すと、天城が腕を掴んで制止する。急なボディタッチ止めて! 心臓に悪い!

 とか思った途端今度は耳元に顔を近付けてくる。急な接近も止めて! 色々マズい!

 

「今週の日曜日って……空いてる?」

「日曜日……? あ、空いてるけど――」

「なら、ちょっと付き合ってくれる?」

 

 付き合う……ってまたデートですか!? したばっかじゃん!

 

「詳しい事は後で連絡するから、よろしくね」

「え!? ちょっ、天城さーん!?」

 

 俺の制止を聞かず、天城は駆け足で階段の先へ消えていった。……一方的過ぎるでしょ!? もうちょっとコミュニケーション交わそうぜ!

 

「はぁ……仕方無いか……」

 

 後で天城とゆっくり話すか……別にデートするのが嫌な訳じゃ無いが……他の三人が知ったらな……とりあえず、話し合うしか無いな。……裕吾居なくて良かったな……居たら絶対拡散されてた。

 

 いきなりの天城からの誘いに動揺しながらも、とりあえず教室へ向かう。

 

「おはよーっす……」

 

 扉を開け教室に入ると同時に何人かの男子生徒に殺気を向けられる。うん、もう慣れた。そんなに憎らしいか? ならば変わってくれ! 俺が代わりにお前を憎んでやるから! そうすれば気持ち分かるよ!?

 この殺気がいつ無くなるのか――そんな途方も無い事を考えながら教室をぼーっと見回していると、偶然近くに居たある人物と不意に目が合う。

 

「お、おはよう……海子」

「お、おはよう……友希」

 

 目を泳がせながら小さく呟く。そんな恥ずかしいなら無理に呼ばなくていいぞ? 俺も若干恥ずかしいし。そして周りの男子生徒達よ、殺気を強めるんじゃないよ。そんなに下の名前で呼ばれるのが羨ましいか? お母さんにでも呼んでもらえコノヤロー。

 

「その……こ、こないだはありがとうな……」

「お、おう……」

 

 何これ気まずい。別れた翌日のカップルか! ……まあ、大体似た感じではあるか?

 

「……と、ところで! 少し聞きたい事があるのだが……」

「な、なんだ?」

「そのだな……今週の日曜日だが……暇か?」

 

 ……何かデジャヴ。え? もしかしておたくも? いや、それは無いよね。うん、この子そんな欲張りな子じゃ無いよ。

 

「……何か用かな?」

「かか、勘違いするなよ! 別にまた一緒に出掛けたいなー、とか考えてる訳じゃ無いぞ!」

 

 だから何そのツンデレチックの素直な言葉! もう勘違いするなよって言いたいだけじゃね!? というかまたデートかよ! アナタに至っては二日前じゃん! 我慢しなさいよ! そんなハイペースだと俺の体力、財布、その他諸々がバーストするよ!?

 というかどうすんのこれ、いわゆるダブルブッキング状態じゃん! これは何とか話を付けねばイカンぞ――

 

 と、考えた矢先狙ったかのようにチャイムが鳴る。

 

「く、詳しい事は後で連絡する!」

 

 と、海子は足早に自分の席へ戻る。

 俺に休まる時は来ないのか……? 後周りの視線が痛いです。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 ――昼休み

 

 

 あの後休み時間に海子と話し合おうとしたが、気まずいのだろうか海子は授業が終わるとすぐ教室から姿を消し、次の授業ギリギリに戻ってくるので、結局話せないまま昼休みを迎えてしまった。

 案の定海子は昼休みも忽然と姿を消した上、いつもなら来るはずだが、今日は四人とも弁当持参でやって来なかった。そして今日に限って弁当を持ってきていない俺は売店で適当に昼飯を買っている最中である。

 

「何とか天城と海子と話し合わないとな……気が重い……とりあえず天城の教室行ってみるか」

 

 売店で買った焼きそばパンと牛乳を片手に天城のクラスへ向かおうとした途端――

 

「あ、センパーイ!」

 

 聞き慣れたハイテンションな声に肩を少し震わせ立ち止まる。

 

「出雲ちゃんか……どうかした?」

「私も売店にお昼ご飯買いに。ごめんなさーい、今日ちょっと寝坊しちゃってお弁当作れませんでした……」

「いや、別に構わないよ。でも寝坊なんて珍しいね?」

「それは……こないだのデートから先輩の夢ばっかり見ちゃって、つい睡眠時間が長くなってぇ……」

 

 両頬に手を当てながらクネクネと体を動かす。スッゴいニヤケてるし、よだれ垂れてるぞ。どんな夢見たんだよ……

 

「そう……それじゃあ、俺ちょっと用があるから――」

「あ、そうだ先輩! 日曜日って暇ですか?」

「……ん?」

 

 あらヤダまたまたデジャヴ。この流れ……絶対それだよな……?

 

「もしよかったらまたお出かけしましょうよ!」

 

 やっぱりねー! もう何回目のハットトリック!? みんな以心伝心でもしてるの? 私もしなきゃ的な考えで動いてるの!? というかトリプルブッキングじゃねーか! 海子と天城なら土日に分けようとか考えたけど、三人は無理だぞ! さ、流石に出雲ちゃんには言わないとイカンよな――

 

「って、居ない!?」

 

 出雲ちゃんはいつの間にか売店から遠く離れた場所に居て、こちらに手を振っていた。移動スピード早いよ! ちょっと目を離した隙にどんだけ離れてんの!

 

「それじゃあ先輩、よろしくお願いしますねー!」

 

 そう満面の笑みを浮かべながら俺の前から姿を消した。

 

 ……みんな身勝手過ぎるでしょ! 要件告げて即退散は酷いって! こっちの言い分も聞けよ! あのデートのせいで何か自由度が増してない!? じゃじゃ馬過ぎるよ!

 

「は、早く話し合わないとな………そうだ、メールで――」

 

 最初からそうすれば良かったんだ。そうポケットからスマホを取り出したが――

 

「ワオ! ブラックアウト!」

 

 スマホの画面は見事に真っ暗でした。何で充電してないの俺! 何だ、神様が俺をおちょくってるのか!? 嫌がらせ反対!

 

「し、仕方無い……昼休み中に三人を捕まえて、話を――」

「あら、丁度良いところに」

 

 早速行動を開始しようとした瞬間、またまた聞き慣れた声に足が止まる。

 まあ……薄々想像出来てたけど。あの三人動いてるなら絶対来ると思ってたけど!

 

「こ、こんにちは朝倉先輩……」

「何だか表情が堅いわね? 疲れが溜まってるのかしら?」

「あ、あははは……」

 

 このタイミング……多分この人もだよな? いや絶対そうだよ! 間違え無いよ、俺の勘がそう言ってる! 言うなら早く言ってくれ! 確認してから速攻今俺の置かれているブッキング状態を伝えるんだ!

 

「そういえばこないだくれたぬいぐるみ、大切に家に飾らせてもらってるわ」

「そ、それはどうも……俺も部屋に飾ってありますよ……」

「あら嬉しい。一応似たようなものだったし、お揃いみたいで良いわね」

「そ、そうですね……」

「そうだ、また今度ゲームセンターとやらに行きましょう。今度はいっぱい取れるだろうし、お揃いの物を増やしましょう」

「そ、そうですねー……」

「ああ、後それから――」

 

 世間話なげぇー! 何、わざとなの? どうせ「日曜日暇?」って聞きに来たんでしょ? 要件言って下さいよ! 世間話はその後で良いでしょう! こっちから聞けば早いんだろうけど、違ったら恥ずかしいしな……どうせその内言うだろうし、落ち着いて確認を取ってからこちらの状況を伝えれば良いんだ――

 

 その後も朝倉先輩の話に耳を傾ける。一体いつ本題に入るのか警戒していた――が。

 

「あら? もう昼休みももうすぐ終わりね」

 

 嘘!? もうそんなに時間経った!? というかこの人話長っ! というかデートの誘いに来たんじゃ無いのかこの人……俺の思い過ごし? ただ世間話しに来ただけなのか?

 

「長話に付き合わせて悪かったわね」

「へ? あ、いえ別に!」

 

 結局朝倉先輩はデートの誘いを言わずに去って行った。なんだ……そりゃ絶対そうだとは限らないよな……ちょっと自意識過剰だったか……

 少し拍子抜けに思いながら、少し安心しながら立ち去る先輩の後ろ姿を見つめる。

 

「あ、それから今週の日曜日開けておいてくれる?」

 

 …………ん? 今何かサラッと聞き覚えのある言葉が――

 

「詳しい事は後で連絡するから、よろしくね」

「…………ちょっと待って!」

 

 突然の事に停止していた思考を覚醒させ、朝倉先輩を追い掛けようとする――が、狙ったかのように再びチャイムが鳴り響く。

 

 ……結局そうじゃん! デートの約束はあんなサブリミナルに伝える事じゃないでしょ! そして何でも詳しい事を後で連絡しようとするの!? 通信機器に頼り過ぎるの良く無いよ! 自分の言葉でゆっくり伝えよう!

 

「これどうすんだよ……」

 

 まさかのクワトロブッキング状態になった事に頭を悩ませながら、焼きそばパンと牛乳を頬張りながら教室へ戻った。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ――放課後 自宅

 

 

 結局。放課後も四人を捕まえる事が出来ず、俺は諦めて家へと帰宅した。

 何なのあの子達! 何故俺を避ける! わざとでしょ、わざとやってるでしょ! 俺を困らせてそんなに楽しいか!?

 

「はぁ……とりあえずメールで四人に伝えるか――」

 

 充電器をスマホに接続し、しばらく時間を置いて起動。いち早くメールを送信しようとしたが、起動と同時にスマホにメールが届く。案の定、四人からだ。

 きっと例の詳しい事だろうと、四人のメールを確認する。

 

「えーっと……何々――」

 

 ――今日はいきなり誘ってしまってごめんなさい。ただ、こないだの世名君とのデートが忘れられなくって、また一緒に出掛けたいなって思って……

 内容なんかは世名君が決めていいから、もしよかったら日曜日、また付き合って下さい。返事、待ってます。

 

「…………」

 

 ――朝はいきなりあんな事を言ってすまなかった。少し動揺してしまい、取り乱した。

 改めて、今度の日曜日に是非私と共にまた街へ出てほしい。

 もちろん、用事があるなら無理にとは言わない。ただ、もし予定が無いのなら、付き合ってくれると嬉しい。それでは、連絡待っているぞ。

 

「…………」

 

 ――先輩! お昼に話した事だけど、ちゃんと意味分かってるよね?

 こないだはあんまり色んなところに行けなかったから、今度こそ先輩と色んな場所巡りたいなーって思って!

 もし先輩がOKだったら、連絡ちょうだいね! もし断ったら、私泣いちゃうからね!

 

「…………」

 

 ――友希君へ。

 先程は唐突にごめんなさいね。世間話が少し長くなって本題を疎かにしてしまったわ。

 要件だけど、もし友希君の都合が良ければまた一緒に外へ出てほしいの。私としても休日に外へ出るのは続けていこうと思っているし、是非友希君にも付き合ってもらいたいの。

 都合が良ければ、連絡してほしいわ。

 

「…………」

 

 ――断りずれぇ!

 何これ! みんなスッゴい楽しみにしてる感じじゃん! 短い文章から色々伝わってくるぅ! これ「俺、今クワトロブッキング中なんだよね!」とか言ったらどうなるか分かんないよ! 相手絶対凹むし! 何かより一層ギスギスしそうだしぃ!

 お、落ち着け俺、何とか打開策を捻り出すんだ……全員断る? いやいや! 俺日曜日超暇だし、それは何か罪悪感パネェ! かといって誰か一人に付き合うのもあれだし……あくまで俺達の関係性は平等だ! 何か、みんなが平等になれる案は――

 

 ――また一緒に出掛けたいなって。

 

 ――私と共にまた街へ出てほしい。

 

 ――色んな場所巡りたいなーって思って!

 

 ――また一緒に外へ出てほしいの。

 

「……いや、一つ方法はあるな――」

 

 でもこれはどうなんだ? 正直平等ではあるが、四人は全然望んだ結末では無いだろう……でも、俺の小さな脳みそではこれぐらいしか思い付かない。

 

「……一か八かだな」

 

 最悪断るより酷い結果になるかもしれないが……そこは何とか認めてもらうしかない!

 

「やってやるぜ……この地獄の日曜日(ヘルズ・サンデー)――乗り切ってやる!」

 

 意を決した俺はすかさず脳内で文章を組み合わせ、全員に同内容のメールを送信した。

 

 これが吉と出るか凶と出るか――今は祈るだけだ。

 

 

 

 

 

 

 




 まさかのまたまたヒロインからのデートのお誘い。強欲なヒロイン達です。

 クワトロブッキングをどう乗り越えるか……乞うご期待!




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