「うへへ……友くぅーん……」
テスト終了から一夜明けた朝――目が覚めて瞼を開こうとしたその時、不意に耳元からそんな声が聞こえた。
何かに体を締め付けられるような感覚に、この不抜けた声。大体の事が察する事が出来た俺は、黙って首を横に向けた。そして予想通り視界には、間抜けな顔で眠る陽菜の顔が映った。
いい加減この状況にも慣れてきたので、もう盛大に驚く事は無くなったが、それと抱き付かれる事で生まれる恥ずかしさは別だ。朝っぱらから豊満な彼女の体に密着されるのは心臓、その他諸々に悪い。
だからこそ、さっさと起きてここから脱出したいのだが……彼女の腕力は本当に寝ているのかと思うほど力強く、抜け出そうとしても、彼女がそれを許してはくれない。
つまり俺がこの状況から抜け出すには陽菜を起こすしか無いのだが――
「うぅん……すー……すー……」
気持ちよさそうに眠る陽菜の寝顔を見ると、何だか無理矢理彼女を起こすのが、少しだけかわいそうになってくる。
しかし、そうは言ってられない。この状況が続けば陽菜は寝ぼけながらさらに体を密着させてくるし、そうなったらもう色々とヤバイ。
それだけは避けたいので、俺は心を鬼にして陽菜の肩を叩き、声を掛ける。
「おい、陽菜。起きろ」
「んー……ふにゃ? 友くん……?」
目をパチパチさせながら、ボケッとした口調で言葉を発しながら、陽菜はようやく目を覚ます。
「おはようさん。もう朝だぞ」
「もう朝ぁ……? もうちょっと寝てたいよぉ……テストで疲れてるんだもん……」
「お前な……二度寝するのは自由だけど、せめて俺を離してくれ。これじゃ俺が起きられん」
「えぇ……友くんももうちょっと一緒に寝ようよぉ……その方が、私も元気出るし……」
そう言うと、陽菜はニヤニヤとにやけながら俺の首回りへ腕を回し、ほっぺを俺の頬に押し当てる。
「お前……! 何してんだよいきなり……!」
「元気チャージだよー。えへへ……」
またまた不抜けた笑い声を口にすると、陽菜はくっつけた頬をスリスリと動かす。彼女の柔らかいほっぺの感触が頬に走り、寝ぼけていた体が一気に暑くなる。
「スリスリすんな馬鹿……!」
何とか陽菜を突き放し、俺はすぐさまベッドから飛び降りる。それに陽菜はベッドの上にチョコンと座り、膨れっ面でこちらを見る。
「むー、友くんのイジワル。ちょっとぐらいいいじゃん」
「イジワルとかじゃねーよ! 易々とこういう事すんな!」
「むー……あ、友くんもしかして恥ずかしかったの? ドキドキしたの?」
「何だよ嬉しそうに……男の子はそういうもんなんです!」
「ふーん……じゃ、いいや!」
と、陽菜は何だか嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、再び布団に潜る。
「私、やっぱり疲れてるからもうちょっと寝るね! オバサンには朝ご飯いらないって言っておいて!」
「おう……って、二度寝するなら自分の部屋戻れよ!」
「だって友くんのベッドの方が落ち着くんだもーん。じゃあ、おやすみなさーい……」
布団を頭まで被り、陽菜はこちらに背を向ける。その数秒後、布団の中からスースーと気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。
寝るの早過ぎんだろ……はぁ、もう知らん。勝手にしてくれ。
彼女を自分の部屋に連れて行く事は無理だと判断し、俺は再び眠りについた陽菜を放置して、朝食を食べにリビングへと向かった。
いつも通りに扉を開けると、そこにはスマホをいじる友香、そしてベタに新聞を読む父さんがテーブルを囲んでいた。
「おー、友希おはようさん」
「おはよう……父さん、今日休みだっけ?」
「父親の休日ぐらい把握してないのかお前は……一緒にキャッチボール出来るぞ! とか思わないのか?」
「高校生にもなってそんな事思うか」
強いて思うとするなら、母さんと父さんのイチャイチャを一日中見る事になるのかという憂鬱な気持ちだけだ。
父さんが休日という事を知り、改めてその事に少し憂鬱な気持ちになりながら、席に座る。
「お兄ちゃん、陽菜さんは?」
「テストの疲れがどうとかで二度寝中だ。母さーん、陽菜朝食いらないってさー!」
キッチンに居るであろう母さんに向けて言葉を投げると、すぐに「分かったわー」と返ってくる。
キチンと陽菜からの伝言を伝えたあとは、母さんが作る朝食が来るのを待ちながら、適当に時間を潰す。
「そういえばお前達、昨日のテストはどうだった?」
「どうした急に父親っぽい事聞いて」
「たまには親父らしい事したいんだよ。で、どうだ?」
「私はまあまあ」
「俺は普通」
「……なんか愛想無い返答だな……父さんの事嫌いかお前達」
と、父さんは機嫌を損ねたように口を曲げる。
「別に嫌いでは無いけど……いつも母さんとイチャイチャしてるだらしないとこを見てるから……尊敬は出来ない」
「同じく」
「何だそれは……俺だって母さんとイチャイチャしてるだけじゃなくて、仕事頑張ってるんだぞ?」
「説得力無い」
「お前達は……父さん泣いちゃうぞ?」
父さんがわざとらしい寂しげな顔をしながらそう口にすると、完成した朝食を持って母さんがキッチンからやって来る。
「大丈夫よお父さん。友希達が冷たくても、私が愛してあげるから」
「母さん……やっぱり俺の味方は母さんだけだよ! 愛してるよ!」
「もお、お父さんったら!」
そういうとこだよ――そのツッコミを、恐らく友香と共に心の中で呟きながら、俺は母さんが持ってきた朝食の白米、味噌汁、その他多数を食べ始める。
その後はイチャイチャしながら朝食を食べ進める両親を前にしての食事という、なかなかにキッツイ状況になんとか耐えながら、どうにか朝食を済ませたのだった。
朝食が終わった後は、テストから解放されて久しぶりに自由に出来る休日を思う存分満喫する事にした。とはいっても現在自室には陽菜が居るので、仕方無くリビングで適当に本でも読んで時間を潰す。
リビングにはソファーに寝転びゲームをする友香、そしてやはりイチャイチャしている母さんと父さんが居てなかなか集中出来なかったが、どうにか活字のみに意識を向けるようにする。
「そういえば友希、来週どうするんだ?」
そんな時間が続く事数時間――突然父さんがそんな言葉を投げ掛けてきたので、本を閉じてそれに返事をする。
「なんの事?」
「なんのって……お前来週誕生日だろうが」
「えっ? …………ああ……」
そういえばそうだった……最近色々あってスッカリ忘れてたわ……来週の日曜、俺の誕生日か。
「お前、自分の誕生日ぐらい覚えておけよ。わざわざ休み取った俺が馬鹿みたいだろう」
「休み? なんで?」
「そりゃお前、誕生日パーティーの為だろ。友香のもやったし、お前だけ除け者はイカンだろ」
「誕生日パーティーって……別にいいよそんなの」
そんな盛大に祝ってほしい年でも無いし……その気持ち自体は有り難いけど。
「……というか、お兄ちゃんの誕生日パーティーとか出来るの?」
「ん? どういう事だ?」
「だって、お兄ちゃんの誕生日って事は……あの人達も黙っては無いでしょ」
あの人達――その単語に俺の頭には即座にあのメンバーが浮かび上がった。
そうだよな……俺の誕生日ってなると、彼女達がどう動くのか分からんよな……というか、実際そこら辺どうするんだ? それに、俺の誕生日って事は……
今まで考えても無かった事が一気に疑問として、次々と湧き出てくる。それに少し頭を悩ませていると、突然ピンポーンという軽快な音がリビングに響く。
「あらあらお客様かしら。はいはーい」
父さんから離れ、母さんが玄関の方へ向かう。それになんとなく、みんな無言で母さんが戻るのを待っていると――
「友希ー! あなたにお客よー!」
「俺に?」
こんな早い時間帯に一体誰だろう……まあ、なんとなく想像出来るけど。
来客の予想を立てながら、リビングを出る。玄関に着くとそこには、俺の予想とは少し違った、お客
そう、天城、海子、出雲ちゃん、朝倉先輩――俺が予想した人物の全員が、一遍にやって来たのだ。
「み、みんなしてどうしたんだ……?」
予想外の一斉襲来に、流石に驚きを隠せず声が一瞬詰まる。それに天城が申し訳無さそうに口を開く。
「ごめんね、一斉に押し掛けちゃって」
「いや、別にいいんだけど……一体なんの用だ?」
その質問に、代表して朝倉先輩が答える。
「ちょっとした話し合いよ。来週の11月1日――友希君の誕生日の件でね」
◆◆◆
「はい、どうぞー」
母さんがキッチンから持ってきたお茶を、来客である天城達の前に出す。彼女達はそれをお礼を言いながら受け取る。全てのお茶を渡し終えると、母さんはニコニコと笑いながら「ごゆっくりー」と口にしてリビングを出た。
これで、今リビングに居るのは俺と彼女達だけになった。友香達は空気を読んで自分の部屋に戻った――というか逃げた。
「…………」
どこなく感じる緊迫した空気に喉が渇き、俺は目の前のお茶を一気に半分近く飲み干す。その時、不意にリビングの扉が開き、パジャマ姿の陽菜が、眠そうに目をこすりながらリビングに入ってくる。
「ふあぁ……ごめん優香ちゃん達、お待たせー」
「やっと来たか……」
天城達をリビングに案内してからすぐに起こしに行ったのに、なんでこんなに時間掛かるんだ。無理矢理引っ張り出せばよかったかな。
陽菜がゆっくりと歩き、俺達の近くに腰を下ろすと、何故か他のみんながそんな陽菜を妬むような目で見つめる。
「えっと……何かご不満でも?」
「いいえ。ただ桜井さんが本当に友希君と同棲をしているという事を改めて理解したら、何だかイラッと来ただけよ」
「うん。毎日こういう風に世名君と朝一緒に居ると思うと、心がムカムカするだけだから」
「そ、そうですか……」
これ以上はこの事に触れない方が身の為だな――早急にこの話を取り止め、わざとらしく咳払いをしてから口を開く。
「さて……俺の誕生日の事で話があるとかなんとか言ってたけど……どういう事だ?」
その質問に、代表して出雲ちゃんが答える。
「決まってます。先輩の誕生日に、誰が先輩と一緒に過ごすか――それを決める為に来たんです!」
やっぱりか――出雲ちゃんの言葉を聞き、俺は内心呟いた。
「皆、誕生日には友希と二人の時間を過ごすと決めただろう? ただ、友希の誕生日の時はどうするんだ――という話になってな」
「私達としては、世名君の誕生日も大切な記念日。だから、その日も私達は世名君と素敵な一日を過ごしたい」
「だから、今日は誰が先輩との誕生日を過ごすかって事を話し合いに来たんです!」
「そうか……」
やっぱりそうなるよな……今まで自然と避けていたんだろうが、改めて考えると難しい問題だな。
今まで彼女達の誕生日には、記念日という事で一日中デートをしたり、とことん付き合ってあげた。誕生日は全員平等に一回ずつ訪れるし、誰か一人が除け者という事が無いから全員納得してくれた。
けど、俺自身の誕生日は一回だけしかこない。つまり、俺の誕生日にデートという権利を得られるのは、たった一人だけ。そして天城達はみんな、その権利を欲しがっている。そうなれば、その権利を奪い合う事になるのも当然と言えば当然だ。
参ったな……そんな事全然考えて無かったわ……その時の対策ぐらい誕生日デートの事決めた時に考えとけばよかった……こうなる事ぐらい予想出来ただろう。
……しかし、最大の問題は誰が俺とデートをするか決めるという事では無い。何故なら――
「誕生日にデートかぁ……それって、私の場合はどうなるんだろう?」
「どういう事だ? 陽菜」
「えっと……私と友くん、誕生日一緒なんだけど……それってどうなるのかなーって」
陽菜がサラッと口にした言葉に、みんな時が止まったように固まる。そして数秒後――
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
天城、海子、出雲ちゃんが目を丸くして、部屋全体に響き渡る大声で叫んだ。
そう、これが最大の問題――陽菜の誕生日も、俺と同じ11月1日なのだ。
同じ病院で、生まれたのも一時間違いだったり、俺達は結構繋がりが深い幼なじみなのだ。昔はよく「私の方が一時間早く生まれたから、友くんよりお姉ちゃんなんだからね!」と陽菜に小さな事で威張られたりもしたものだ。
それはさて置き、問題はそれだ。相手の誕生日には一日付き合ってあげるというルールを俺と彼女達は決めた。つまり、陽菜の誕生日にも俺は付き合ってやらなければならない。
しかし、陽菜の誕生日は俺の誕生日でもある。つまり、俺が陽菜の誕生日に付き合うと、必然的に陽菜が俺の誕生日に俺と過ごす権利を得る事になるのだ。
その事実をみんなも理解したのか、動揺を隠せずに慌てふためく。
「ひ、陽菜! それは本当なのか? お前が友希と同じ誕生日とは……」
「あら? あなた達知らなかったの?」
「って、朝倉先輩は知ってたんですか!?」
「当然よ。生徒会長として、学園の生徒のプロフィールは頭に入っているわ。今日はこの事をどう処理するのかを話し合うと思ってたのだけれど」
「そ、そんな訳無いですよ、今知ったんですから……」
「と、とりあえず一旦落ち着こうか! ほらお茶飲んで……」
テーブルの上に置かれたお茶を、彼女達の前まで押し出す。彼女達はそれを手に取り、ゆっくりと喉に流し込んで一息つく。
「ふぅ……ごめんね、動揺しちゃって」
「いやいいよ……それで、どうします……?」
その問い掛けに、みんな複雑な表情を浮かべる。
「……世名君の誕生日に、私は世名君と二人っきりで居たいよ」
「私もその気持ちは同じだ。だが……ルールを破って陽菜を除け者にするのも、どうかとは思う……」
「そうね。あなた達はみんな誕生日に……何人かは当日では無いけど、友希君と共に過ごした。なのに桜井さんだけそうはさせないというのは、少々ズルイわね。友希君の誕生日に素敵な思い出を作れないのは残念だけれど……ここは諦めて桜井さんに譲るのが道理よ」
「……桜井先輩に協力的ですね」
「ここでルールを破るような発言をしては、後々私に不利だからね。それで、友希君の意見は?」
「お、俺ですか? 俺は……」
俺の誕生日にみんなが素敵な思い出を作りたいって気持ちは分かるけど、陽菜の誕生日だけ付き合ってあげないってのは仲間外れにしているみたいで嫌だ。
それか、海子や天城と同じように日にちをズラして、俺と陽菜の誕生日を別個にするか? でも、俺達の誕生日は日曜日。折角当日に付き合ってやれるんだから、そうしてあげたい。
でも、それは天城達も同じだろう。彼女達も俺の誕生日当日に一緒に居たいと思ってるだろう。それにもし別個にしたとしても、その権利を誰が手にするかをどうにかして決める事になる。それはそれで大変だ。
細かい事あれこれ考えてたらキリが無いな……天城達には悪いけど、俺の誕生日云々は諦めてもらうか? いや、でもそれは――
「――ねぇ! それなら一ついい方法があるよ!」
俺が必死に思考を回していると突然、陽菜が手を挙げて声を上げる。それに皆の視線が彼女に集まる。
「いい方法? 一体何かしら?」
「簡単だよ! みんなで、誕生日パーティーしようよ!」
「パーティー……?」
「うん! 友くんと、私の誕生日を祝うパーティーだよ! 二人っきりの思い出って訳にはいかないけど……これならみんな平等に友くんの誕生日に思い出を作れるでしょ?」
陽菜のその提案に、みんな言葉を失ったようにポカンと口を開く。
確かにその方法なら、誰かを除け者にする事無く、平和に俺の誕生日の思い出を作れるが……
「……桜井さんはそれでいいの?」
「そうね。友希君の誕生日にパーティーを開くという事は……あなたは誕生日に友希君と二人きりで過ごせないという事になるわ。それでもいいのかしら?」
「そうだ! 私達は友希と誕生日に素敵な思い出を作ったのに……お前はいいのか?」
「うーん……確かに友くんと誕生日にデートしたりしたいなーって思うけど……私はそれより、みんなに――お友達に誕生日を祝ってほしいな! だって、その方がみんな楽しいもん!」
「陽菜……お前……」
「ね? どうかな、みんな。私と友くんの誕生日……みんなで祝ってくれる?」
陽菜の言葉に天城達はしばらく沈黙し、互いに視線を交わす。
「……正直、世名君の誕生日に二人でデートをしたいけど……それで妥協してあげる」
「そうですね……桜井先輩に先輩を独占されるぐらいなら、その方が百倍マシです」
「私もお前がいいなら……反論は無い」
「……決定ね」
「みんな……ありがとう! これでいいよね、友くん!」
「……陽菜、いいのか?」
みんな誕生日は二人きりで好きなだけ付き合ってやると決めたのに、陽菜だけそうしてやらないのは正直心苦しい。彼女だって本当は俺と二人で過ごしたいと思ってるはずだ。
しかし、陽菜は俺の言葉に何故か怒ったように頬を膨らませ、こちらに顔を近付ける。
「もー! 本人の私がそれでいいって言ってるからそれでいいの! それとも、友くんは自分の誕生日に誰かと二人で過ごしたいの?」
「そ、そういう訳じゃ無いけどさ……」
「なら誕生日パーティーでいいでしょ? 友くんは私がしてほしい事を拒否するの?」
「うっ……わ、分かったよ……お前がそれがいいなら、俺は何も言わないよ」
「うん! それじゃあ、これで決まりだね! 私と友くんの誕生日は、みんなでパーティーしよー!」
元気良く叫びながら、陽菜は右手を高々と掲げる。
まさか、こんな風にまとまるとはな。みんな不満が完全に無いって訳じゃ無いけど――
「楽しみだなー! みんな、私の事もちゃんと祝ってね?」
「世名君のついでにね」
「そうです。あくまで先輩メインですから」
「えぇ……ひどーい……」
「あ、安心しろ。しっかり祝ってやるから」
「そうね。友希君との思い出なんて作る暇無いほど、盛大に祝ってあげるわ」
一応、楽しみにはしてくれてるのかな。陽菜に感謝しないとな……こんな風に平和的に事を納めてくれた事を。もし俺の誕生日に誰がデートするかとかいう事になったら、また色々と面倒だっただろうしな。
……陽菜には少し悪いが、きっとこれが最善の答えだよな。二人きりってのは無理だったけど、陽菜には少しでもパーティーを楽しんでもらえるように頑張らないとな。
「――話はまとまったみたいね」
突然、リビングの外から声が聞こえてくる。それに全員が一斉に顔を向けると、そこには母さん、父さん、友香の三人が廊下からリビングを覗いている姿が見えた。
「い、居たのかよ……」
「悪いな、全部聞かせてもらってた」
「誕生日パーティーなら、家でやりましょうか。どうせ元々しようと思ってたし。腕に縒りをかけてお料理作っちゃうわよー」
「わぁ、ありがとう香織オバサン!」
「いいのよ別に。ところで出雲ちゃん達、よかったらお昼食べていく?」
「え、いいんですか?」
「折角だもの。食べていきなさい。世名家の味を教えてあげるわよ」
「それじゃあ……お言葉甘えて、ご馳走になります」
天城の言葉に続き、みんなコクリと頷く。それを見て母さんは気合いを入れるようにエプロンの紐を結び直す。
「よーし、いっぱい作っちゃおうかしらねー!」
「あ、私も手伝います。ご馳走になるだけは申し訳無いので」
「あら、ありがとうね優香ちゃん」
「むっ、私も手伝います!」
「それじゃあ私も手伝おうかしらね」
「じゃ、じゃあ私も……」
と、みんなぞろぞろとキッチンに向かう母さんの後を追う。
「あらあら、みんなありがとうねー」
「あ、私もやりまーす!」
「陽菜ちゃんは駄目よー」
「うっ……はぁい……」
陽菜が料理が不得意な事を知っている母さんは、速攻で協力を拒否。陽菜はガックリと肩を落としてその場に座り込んだ。
みんなが母さんを手伝いにキッチンへ向かい、リビングには俺、陽菜、父さん、友香の四人が残る。友香と父さんは料理が出来るのをテレビを見ながら待つ。陽菜は拒否られた事に対してまだ落ち込んでるようで、ソファーの端っこで体育座りをしていた。
「うぅ……私もまた料理勉強しよっかなー……」
「上手く行きそうに無いがな……ところで、本当によかったのか?」
「何が?」
「その……誕生日だよ。折角その……俺と二人っきりでデートとか出来る機会なのにさ……」
「もー、それはいいって言ってるでしょ!」
そう俺の言葉を遮ると、陽菜は俺のほっぺを人差し指で少し強めにつつく。
「確かにデートとかしたかったなー、と思うけどさ……それと同じぐらいみんなに祝ってほしいもん! だって誕生日は大勢で祝った方が楽しいもん! 友くんも、その方が嬉しいでしょ?」
「そ、そりゃまあ……」
「だったら、私は友くんが喜ぶ方を選ぶよ! 友くんが嬉しい方が、私も嬉しいもん!」
「陽菜……」
こいつは……本当に変わらないな。自分の幸せより俺や他人の幸せを願う奴だ。……いや、他人の幸せが彼女の幸せなんだろうな、きっと。
「ありがとうな、陽菜」
「いいのいいの! その代わり、ちゃーんと私の事を祝ってよね、友くん! じゃないと許さないよ?」
「分かってるよ。お前もな」
「もちろん! 嫌ってほど祝ってあげるよ! その為に、お料理頑張る!」
「……悪いがそれは止めてくれ」
何はともあれ、こうして俺と陽菜の誕生日の予定は全員集めてのパーティーに決まった。まだもうちょっと先の事だが、少し楽しみだ。
陽菜の事をどう祝ってやるか、一体どんなパーティーになるのか――それらを考えながら、俺は母さん達の作る昼飯が完成するのを待った。
「暇だなぁ……やっぱり私も手伝う! 盛り付けぐらいなら出来るもん!」
「ダーメ」
「うぅ……香織オバサン厳しい……」
とりあえず……陽菜がパーティーの料理を作ったりしないのを祈ろう。
友希&陽菜の誕生日はバースデーパーティーに決定。
誕生日イベント開始はもうちょっと先になる予定ですが、どんな感じになるのかはその時をお楽しみに。
次回は普通に日常回……の予定。