モテ期と修羅場は同時にやって来るものである   作:藤龍

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ミスコンは女の戦場である 前編

 

 

 

 

 

 

 

 体育館にぞろぞろと入っていく大勢の人集りの後ろに並び、係員の生徒の誘導に従いながら俺達も体育館の中に入る道をゆっくりと進む。

 

「こちらをどうぞー」

 

 そして入り口に辿り着いたところで、俺の前を歩いていた裕吾と翼が入り口の両脇に立っていた係員の人から、何やら紙のような物を受け取る。

 なんだあれ? よく分からんが、係員の人が配ってるって事はミスコンに関係する物か? プログラム的な。

 よく分からないがみんなそれを受け取っているようだし、俺もそれを受け取ろうと係員の前に立ち、右手をそっと差し出す。

 

「あんたは……行っていいですよ」

「え? あ、はい……」

 

 が、係員の男は俺にはその紙を渡さず、他の人へ再び配り始める。

 どうして俺にはくれなかったのか不思議に思いながらも、列の動きを止める訳にもいかないので体育館に入る。

 

「凄い人だね……」

「ああ……なあ、その紙ってなんだ?」

 

 俺がそう問い掛けると、翼と裕吾は係員から受け取った紙に目を通す。

 

「……ああ、なるほど。確かにこれはお前は受け取っちゃ駄目だな」

「駄目? どういう事だよ」

「ま、分からなくても問題は無いだろ。それより早く移動するぞ」

 

 結局ハッキリとした答えはくれずに、裕吾はその紙をポケットに突っ込んでステージ方面へ歩き出す。

 なんだよ……教えてくれてもいいだろ。まあ、なんとなく想像は出来るけどさ。

 若干のモヤモヤを残しながら、翼と共に裕吾の後を追い掛ける。

 

 

 体育館には既に数え切れないほどの観客が集まっていて、体育館はいつぞや行ったアイドルのコンサート会場ぐらいに大勢の観客で埋め尽くされた。

 俺達は初めの方に体育館に入ったお陰で、なんとか真ん中辺りの場所を取る事が出来た。これでステージをしっかりと見る事が出来る。

 まあ、正面のステージには巨大なスクリーンがあり、そして体育館には業務用のカメラを持った奴らがチラホラ居る。多分あそこにステージ上の様子を映し出すんだろう。それならどこからでも見れそうだから、ステージから近くても大した意味は無いかもな。……というか、気合い入ってんなミスコン。

 

 そのままギュウギュウ詰めな体育館の中でミスコンの開幕を待つ事、数分。突如、照明が落ちて体育館が暗がりに包まれる。その数秒後、ステージが別の照明に照らされ、幕が開く。同時に、スクリーンにステージ上の様子が映し出される。そしてそのステージ上には、一人の男が。

 

「あれ、孝司君?」

 

 そう、ステージ上にはマイクを片手に人差し指を真っ直ぐに立て、左腕を天井に向かい伸ばす孝司が立っていた。

 何してんだあいつ――そう呆れていると、孝司はその天に掲げた左腕を勢いよく振り下ろし、大きく息を吸い込む。

 

『待たせたな野郎共! 乱場学園女子の頂点を決める戦いの祭典――ミス・ランジョーコンテストの開幕だぜぇい!』

 

 マイク越しに体育館中に響き渡った孝司のミスコン開幕のコールに、体育館に集まった男共が一斉に雄叫びを上げる。

 

「……あいつが司会進行みたいだな」

「ノリノリだね、孝司君……」

「はぁ……やっぱり色々不安だわ」

 

 せめて彼女達の機嫌を損ねるような事だけはしないでくれよ――心の中でそう祈る。

 それから孝司は無駄にテンションの高い適当な挨拶を終わらせると、今回のミスコンのざっくりとした概要を説明し始める。

 

『今回のミスコンの参加者は全部で五人! どの女性もこの学園に多くのファンを持つ絶世の美女! 彼女達はこれからいくつかの審査で競い合い、最終的にどの女性がミス・ランジョーに相応しいかを決めるぜ! そして、優勝者には我が学園の某男子生徒とのデート券を得られまーす。ガンバレー』

 

 最後の方を嫌々な感じで言うな、なんかムカツク。にしても、いくつかの審査ってなんだ……それが一番不安なんだよな。

 一体どんな審査をするのだろうかと、いくつかの予想を頭の中で立てる。しかし、ある事が引っ掛かり、その思考を一旦止める。

 

「そういえば……孝司の奴、朝倉先輩が参加するって言う前に既に参加者が三人ほど居る……とか言ってたけど、それはどうなったんだ?」

「ああ、そういえばそんな事言ってたよね。でも、それじゃあ参加者が五人だと足りないね」

「その事なら、孝司の奴がその三人は天城達の参加が決まったあとに辞退したとかなんとか言ってたぜ」

 

 辞退したって……なんか都合が良過ぎないか? もしかしたら、そんな三人は居なかったのか? でも、あの時のあれは嘘って感じじゃなかったし……まあ、どうでもいいか。

 ともかく、このミスコンはあの五人だけの戦いになるようだ。正直誰が一番になるかは全くもって想像が出来ない。誰が一番でもおかしくない、レベルの高い戦いになりそうだ。

 

『それじゃあ時間もちょっと押し気味だし、早速行くぞー! まずは参加者の登場――の、前に! 最初の審査を発表するぜ! 最初の審査は……コスプレ審査だぁ!』

 

 コスプレ審査――あまり馴染みの無い単語にクエスチョンマークを浮かべる。

 なんとなく察する事は出来なくはないが……嫌な予感全開だないきなり。

 

『コスプレ審査はいわゆる、水着審査のコスプレ版! これから参加者の皆様にはそれぞれ思い思いのコスプレをして出て来てもらいます! ご観覧の皆さんは、誰のコスプレが一番可愛いかしっかりと見極めるよーに!』

 

「……あいつ、コスプレ喫茶が無理だったからこっちでやる事にしたな」

「まあ、水着審査になるよりはマシだろう」

「でも、コスプレか……どんなコスプレするんだろうね、天城さん達」

「そうだな……気合いが空回って、変な衣装とか着てこなきゃいいけど……」

 

 一抹の不安と期待を同時に抱きながら、彼女達の登場を待つ。

 

『まずはエントリーナンバー1! 学園のアイドルと呼ばれ、多くのファンを持つ大和撫子! 天城優香の登場だぁ!』

 

 ブンッ! と左腕を振るい、孝司は舞台袖を指差す。直後、天城が若干俯き加減の状態で、ゆっくりとステージ上に姿を現す。天城は俺が最後に見たメイド服では無く、別の衣装を身にまとっていた。

 フリフリの黒を基調としたスカートに、黒一色のブーツ。そして上はド派手な赤いシャツに、派手な装飾が目立つまたまた黒のベストという、全体的に派手な衣装。言うなれば、アイドルのステージ衣装のようだ。

 そんな衣装を着た天城は、恥ずかしそうに顔を赤くしながらも、ステージの真ん中に立つ。そしてスクリーンには、そんな天城がしっかりと映し出される。

 皆に注目される中、天城は息を大きく吸い、両手でマイクをしっかり握り締め、口を開く。

 

『え、えっと、その……て、天城、優香、です。わ、私、こんな大会出るなんて思ってなくて、色々と緊張してますけど……頑張るので、その……よ、よろしくお願いします!』

 

 そんな言葉と共に天城が深く頭を下げると、会場の男共が体育館を揺るがすぐらい巨大な歓喜の声を一斉に上げる。

 

「可愛いぞー! 天城さーん!」

「それでこそ我らがアイドルー!」

「大和撫子バンザーイ!」

 

 天城のファンと思われる男達の魂の叫びに、天城はカァッと耳まで赤くして、そこから逃げるようにステージの後ろの方へ下がった。

 天城……頑張ったな。恥ずかしがり屋なのによく頑張ったよ。本当、ごめんな、あの馬鹿のせいでこんな事に巻き込んじゃって。

 

「凄い盛り上がり……それにしても、天城さん随分派手だね……なんのコスプレだろ?」

「あれは……ラヴァースのステージ衣装だな。アイドルのコスプレって訳か」

「ラヴァースの?」

 

 という事は、香澄ちゃんから借りたのか? マジモンのアイドル衣装かよ……でも、香澄ちゃんと天城じゃサイズが合わないんじゃないか? という事は手作りなのか?

 

「――あれは私じゃなくて、ゆかりさんのですよ」

 

 あの衣装の出所を考えていると、不意にそんな声が届き、直後に誰かに肩をチョンチョンとつつかれる。それに慌てて顔を向けると、そこにはいつの間にかサングラスを掛けた二人の女性の姿があった。

 

「お久しぶりです、お兄さん」

「か、香澄ちゃん! それに小鳥遊さんも!? いつの間に……」

「はぁい、また会ったわね」

 

 ほんの少しサングラスをズラしながら、小鳥遊さんがヒラヒラと手を振る。

 ど、どうやってここに来たんだ? こんなに人が密集してるのに……いやそれはさて置き――

 

「香澄ちゃん、文化祭来てたんだ」

「はい。仕事で来るのが遅れちゃいましたけど。お姉ちゃんのミスコンに間に合ってよかったです」

「そっか……にしても、今の……あれが小鳥遊さんのってどういう……?」

「言葉通りよ世名君。あれは私の衣装なの。香澄に貸してあげてって頼まれたから、私の使ってる衣装を貸してあげたの。私と優香、サイズがほぼ同じだから」

「そ、そうなんですか……もしかして、あの衣装貸す為に文化祭来たとか……?」

 

 その問い掛けに小鳥遊さんは「ご名答」と口にして、パチッとウインクをする。

 そうだったのか……というか、二人はサイズ一緒なのか……近い体型だとは思ってたけど。

 

「でも、どうして香澄ちゃんはそんな事頼んだんだ?」

「実はお姉ちゃんに、ミスコンでコスプレ審査があるから、アドバイスをくれないかってお願いされたんです。で、一番身近なコスプレっぽい衣装をお姉ちゃんに貸したんです。私のが合えば、私が貸したんですけどね」

「な、なるほど……」

 

 アイドルの衣装なんて如何にもコスプレって感じだしな。妥当なチョイスかな。

 

「でも、まさかお姉ちゃんがこんな大会に出るなんてねぇ……さて、私もじっくりと見学させてもらいますか」

「ところで、他の子はどんなコスプレをするか知ってるの?」

「いや、全く……」

 

 多分、今までみんなが俺に隠してた事がコスプレの事なんだろうな。確かに、聞かされてないから驚くな。他の四人はどんな衣装を着てるんだか、ちょっと楽しみだな。

 とりあえず不健全なものでは無い事に安心して、他の四人の登場を少しワクワクしながら待つ。

 

『それではどんどん行くぞー! エントリーナンバー2! ちょっと厳しい物言いや、ツンとした雰囲気にファンが多い、意外と武闘派な2年A組委員長! 雨里海子だぁ!』

 

 さらにテンションが上がった孝司の言葉から数秒、天城と同じく舞台袖から、海子がやはり恥ずかしそうに現れる。彼女もメイド服から別の衣装に着替えていた。

 黒いヒールに、青く、色んな柄が印刷されたノースリーブの衣装――いわゆる、チャイナドレスだ。海子の細く綺麗な両腕が露わになり、さらにスリットからこれまた綺麗な生足が見え隠れしている。これには会場の男共もテンションが上がり、歓声が会場を揺らす。

 そんな激しい歓声を聞きながら海子はステージの真ん中まで早足で進み、先の天城と同じようにマイク越しに喋り出す。

 

『エントリーナンバー2番、雨里海子だ……! その……い、以上だ!』

 

 と、何だか投げやりな感じで言葉を吐き捨て、海子はそのままステージの後ろに下がり、天城の隣に立つ。

 

「いいぞー! サイコー!」

「海子ちゃーん! こっち見てくれー!」

「照れ屋な感じも可愛いよー!」

 

 海子も凄い人気だな……目立たないだけで、あいつのファンも多いんだな。海子も相当の照れ屋なのに、よく頑張ったよ。

 しかし、チャイナドレスとは意外というか……確かに似合ってはいるけど、海子のチョイスなのかな?

 

「――評判いいじゃーん! やっぱり私の目に狂いは無かったね」

 

 と、唐突に聞こえた嬉しそうな声に顔を後ろに向けると、そこには先ほどまで居なかった滝沢の姿があった。

 い、いつの間に……つーかこいつもどっから来た? 人でいっぱいよこの辺。

 

「お、世名達居たのか」

「……今の言葉、お前があれを選んだのか?」

 

 何故ここに居る――そんな事をツッコんだら負けだとなんとなく思い、別の疑問を投げ掛ける。

 

「まあな。海子がミスコンでコスプレ衣装が必要って言うから、私と由利でが用意してやったんだよ。やっぱり闘う女はカンフーだな!」

「そ、そうか……ところでその川嶋は?」

「由利なら裏で海子の着付けの手伝いだよ。優香側には別の協力者が居たみたいだし、私達は海子を応援する事にした。優香もなかなかいいじゃん。どっちが勝つか楽しみだわ!」

 

 と、笑いながら、滝沢は腕を組んでステージへ視線を集中させる。

 なるほど……みんな誰かに協力してもらってる訳だ。となると、あの人やあいつも彼女達の手伝いなのかな?

 今日いくつか抱いた疑問の答えがなんとなく分かっていく中、孝司はミスコンを進める。

 

『まだまだ盛り上がって行くぞー! エントリーナンバー3! 一年生の間、そして後輩キャラが好きな紳士達に絶大な人気を誇るお茶目な少女、大宮出雲ぉ!』

 

 さらにハッチャケたテンションな孝司の紹介の直後、前の二人と違い、堂々とした振る舞いで出雲ちゃんがステージ上に姿を見せる。

 膝丈ぐらいの黒のタイトスカートに、ピッチリとした黒のジャケットと、大人びた印象を抱かせる黒一色のスーツ。さらに黒縁の眼鏡まで掛け、右手には差し棒のような物を持っている。その姿、まさに女教師といった感じだ。

 この王道とも言えるコスプレに、再び会場の男共は熱狂する。が――

 

「エロい衣装なのに……エロくない……だと……!?」

「でも、物凄く可愛いぞ……背伸びしてる感が!」

「ロリ女教師……いける! いけるぞ!」

 

 と、何だか何人かは一風変わった反応を見せる。

 恐らく出雲ちゃんにとっては望ましく無い反応なのだろう。ステージ中央へ向かう途中、出雲ちゃんが一瞬ズッコけた。

 まあ、出雲ちゃんは子供扱いとか嫌いみたいだしね……この反応は、いい気分では無いだろうね。でも、可愛いと思うし俺的には有りだと思うよ、うん。

 さり気ないフォローを心の中でしている間に、出雲ちゃんはステージ中央に立ち、若干不服そうな顔をしながら左手のマイクを口元に持ってくる。

 

『エントリーナンバー3番、大宮出雲です。この大会はあくまで通過点ですが、全力でやるのでよろしくお願いします……あと! 私ロリじゃないですからね全然!』

 

 最後に怒号を吐き、出雲ちゃんはちょっと怒った様子でステージ後ろの海子の隣まで下がる。

 

「――アハハ……出雲さん、ちょっとご立腹みたいですね……」

 

 出雲ちゃんが下がるのを見ていると、正面の方から何だか聞き覚えのある声が聞こえ、視線をステージから少し落とす。すると、視界に見覚えのある後ろ姿が映った。

 

「あれ、中村居たのか?」

「え? あ、世名先輩、居たんですね! 全然気付きませんでした」

 

 俺も全然気が付かんかった……というかさっきまで居なかったような……いや、もう深く考えるのは止めとこう。キリが無い。多分これまだ続くパターンな気がするし。

 

「それにしても……出雲さんの衣装、凄く完成度が高いですよね。流石悠奈さんです」

「え? あれって小波が作ったのか?」

「はい。悠奈さん、ああいう服作りが好きらしいです。出雲さんが私ピッタリなのを作ってほしいとオーダーしたんですよ。私も少しだけお手伝いしたので、無事に出来てよかったです」

「ふーん……」

 

 小波の奴、そんな才能があるとは……という事は、スイーツ店寄った時に言っていたミスコンの準備ってのはその事だったのかな。

 中村と適当に会話を切り上げ、そのまま再びステージへ目をやる。

 

『さあさあ、次も盛り上がる事間違え無し! エントリーナンバー4! 我が乱場学園の生徒会長にして、日本人離れの美貌を持つクールビューティー! 朝倉雪美ぃ!』

 

 もう喉が潰れるのではないかと思う叫び声と共に、舞台袖から朝倉先輩が姿を見せる。同時に、会場の生徒から歓声では無く、驚きの声が漏れる。理由は、朝倉先輩の衣装だ。

 足元から胸元辺りまでを覆い隠し、それとは逆に大胆に肩と背中を露出させた、ボリューミーで豪華な衣装――お姫様が着るような、純白のドレスを朝倉先輩は見事に着こなしていたのだ。そのあまりに高貴な雰囲気に、観客は驚きを隠せなかったのだ。

 まあ、そうなるよな……俺も驚いた。たかがミスコンで着るような衣装じゃないもん。

 そんな静寂もなんのその、朝倉先輩は冷静な足取りでステージ中央へ歩き、観客達へ目を向ける。

 

『エントリーナンバー4番、朝倉雪美です。今回は生徒会長といった事は一切関係無く、一人の生徒、一人の女性としてここに立っています。これから私は彼女達と真正面から戦い、私の女性としての魅力を余す事無くお伝え出来るよう誠心誠意、努力します。ですから皆さん、もしも私に少しでも魅力を感じて頂けたのなら――是非とも、投票をお願いしますね?』

 

 まるで演説のような言葉の最後に、朝倉先輩は小さく微笑みを見せた。そのクールな彼女から出た微かな微笑みに、会場が一気に湧き上がった。

 

「朝倉先輩の笑顔……イイ!」

「ふつくしい……素晴らしい!」

「決めた! 俺あの子に決めたぞ!」

 

 先の静寂はどこへやら、大歓声が湧き上がる中、朝倉先輩は一瞬計画通りと言わんばかりに口元をつり上げ、後ろへ下がった。

 先輩……狙ったな。俺はよく見るけど、多分人前じゃあんまり笑わないだろうしな、先輩。そりゃ効果抜群だわ。

 

「朝倉先輩……何だか凄いね。衣装もそうだけど……」

「だな。しかし、あの人のあれはどっちかって言うとコスプレより、真の姿って感じだけどな」

「まあ、本物のお嬢様ですからね、お嬢様は。あの衣装も、実家から持ってきた昔のドレスをこしらえたものですし」

「そうなんですね…………へ?」

 

 翼、裕吾に続いて届いた声に違和感を覚え、慌てて視線を真横へ移す。するとそこには、ニッコリと笑顔を浮かべる冬花さんの顔があった。

 

「うおぉう!?」

「ナイスリアクションでございます。一時間ぶりぐらいですね、世名様」

 

 こ、この人マジでどっから出てきた……!? 怖いんですけど!

 幽霊の如くいきなり出てきた冬花さんに、俺だけで無く周囲に居た香澄ちゃん達も驚いたように目を丸くする。そんな彼女達に冬花さんは丁寧に自己紹介をしてから、ステージに目を向ける。

 

「……あれ? そういえば、雹真さんは? 一緒じゃ……」

「雹真様なら気分が悪いとかなんとかで帰りましたよ。全く、あの程度で音を上げるとは……まだまだですね」

 

 ウフフッ……と、不気味な笑い声を漏らす。

 何をしたんだよこの人……いや、怖いから聞くのは止めておこう。

 気を取り直し、ミスコンに集中する。朝倉先輩も出てきたし、残るはあいつだけだ。

 

『さーて、残す参加者はあと一人! 早速登場してもらいましょう! エントリーナンバー5! 最近学園中で噂になっている転校生! 天真爛漫な元気ハツラツガール、桜井陽菜のお出ましだぁー!』

 

 最後まで衰える事が無かった孝司のハイテンションな呼び出しと共に、最後の参加者である陽菜が舞台袖から元気よく飛び出す。そしてその瞬間、会場のボルテージが跳ね上がった。

 体のラインがくっきりと際立つ薄いピンク色のワンピースに、同色の小さなキャップ。コスプレの定番中の定番――ナース服に身を包んだ陽菜の登場に、会場は大きな盛り上がりを見せた。

 

『えっと……エントリーナンバー5番! 桜井陽菜です! 私、こういった大会みたいなのは生まれて初めてなんで、どうすればいいか色々分かんないけど……でも! 精一杯頑張るんで、応援よろしくお願いしまーす! 目指すは優勝だぁー!』

 

 と、少しも緊張した様子が無いいつも通りの感じで、陽菜は拳を高々と突き上げる。そしてそれに呼応するかのように、観客も一斉に拳を突き上げる。

 

「うぉぉぉ! なんだあの子可愛いぞ!」

「スタイルもいいし元気だし可愛いし完璧かよ! 嫁に欲しい!」

「ナース服という捻りの無いコスプレもいい……! これは萌えますわぁ……」

 

 一気にファンが増えたな……ああいう感じの子、男は好きそうだもんな。しかし、あの衣装も陽菜が一人で考えたのか?

 

「――私も一応協力したよ」

 

 と、もはや定番になってきた不意の声が俺の元に届く。それに俺はもう驚く事も無く、その声の方――斜め前辺りに視線を向けた。

 

「って、友香か。お前が陽菜に協力したのか?」

「うん。出雲の方は悠奈達が協力してたみたいだし、今回は陽菜さんの方をね。他にもクラスメイトとかがアイデア出すのに協力したみたい」

「そっか」

 

 あいつ人望とか集めるの得意だしな。転入して一月だけど、友人も沢山出来たのだろう。

 

「でもなんでナース服?」

「私がお兄ちゃんはナースが好きって教えた」

「何勝手に言ってんの!? というか違うよ!?」

「でも嫌いじゃないでしょ?」

「うっ……まあ、そりゃ……」

 

 ナース服が嫌いな男などそう居ないだろう。というか、陽菜以外の四人の衣装も嫌いじゃない。みんな可愛くて綺麗だし、全部好きな部類なコスプレだ。

 そしてそれは恐らく会場の皆もそうだ。これは誰が優勝するかより分からなくなってきたぞ。

 

『以上、全五名の参加者で、ミス・ランジョーの座を目指して、激しい戦いを繰り広げます! みんな、まだまだ盛り上がって行くぞー! それでは早速、次の審査に移るぞー! さらに盛り上がれよ野郎共ー!』

 

 孝司の言葉に、会場の観客が「うおぉぉぉぉぉ!」と叫ぶ。

 テンション上がり過ぎだろ……でも、審査って……ダンスとか歌か? いや、それはちょっと大掛かり過ぎる。一体何をするんだ?

 

『それじゃあ次の審査内容の発表! 次の審査は――見た目の美の次は、心の美を審査! ズバリ! 根掘り葉掘り聞いちゃいます! ドキドキ質問コーナーだぁい!』

「…………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ようやくミスコン、開幕です。勝者は一体誰になるのか? 次回に続きます。






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