しのぶ☆ゴット 【神物語】   作:TAINZ

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この6話については、化物語愛読の方々にはいろいろと批判を受ける内容かと思います。

まーしかし、こんな勝手な設定もありかな( ̄~ ̄;)と、寛大な心で見ていただけるとありがたいです。

それでは6話よろしくお願いします。


しのぶ☆ゴット ー06ー

 

          ☆

 

 

…仮に・僕の前世が井伊直政だったとして…

…僕が知っている井伊直政って言ったら…

…徳川四天王・井伊の赤(ぞな)え・井伊の赤鬼…

…とにかくおっかない武将のイメージしかないんだけど…

…この少年が井伊直政だなんて・正直僕には想像が出来ない…

 

『和尚さま、大変お世話になりました、これよりわたくしは・武士としてこの国を直すべく努めてゆく所存(しょぞん)です、奪われることが決まっている命です、出し惜しむものなど何も御座いません、命()きるその時まで、わたくしが迷企羅(めきら)大将に成り変わり悪鬼羅刹を滅して参ります』

 

『ひと年じゃな、儂の方でひと年の間は、直政どのが我が寺に居りますように取り(つくろ)うておきます、その間になにとぞ主となるべき御方を見つけて下されな』

 

『母君らが、わたくしに井伊家を継がせようとしているのも、わたくしの一命を案じていてのことなのだと思います、なればわたくしはひと年の間に、頭首として恥じぬように技を磨きます』

 

『それが善いな、己が生を全力で生き抜くのも仏法にかなった人生であるわ、乱世であるこの時代では戦を()けて生きることこそ法に(そむ)いておるのかもしれぬ、我欲(がよく)()て煩悩を断ち切れというたところで、生をまっとう出来ぬ世の中では誰の耳にも届かぬしな、末法(まっぽう)の世にあって正しく法を()くことは難儀(なんぎ)じゃよ、儂は外道と(ののし)られようとも直政どのを応援いたしますぞ』

 

『ありがとうございます、そのお言葉だけでも七千の軍勢(ぐんぜい)を得たに等しい、和尚さま、名残惜(なごりお)しくは御座いますが、武士として生きることを決めたからには(おく)する訳にもまいりません、ただちに旅立とうと思います』

 

『うむ、達者(たっしゃ)にならんことを願っておりますぞ』

 

『はい、必ずや』

 

 

          ☆

 

 

…お寺の住職さんと別れたあと・数ヶ月は経ったのだろう…

…井伊直政くんが成長したのが分かる…

…見た目の大きさではなく・動きに貫禄(かんろく)が付いた…

 

…そして僕の視界に映る大地は()れていた…

旱魃(かんばつ)ってやつか…

…この時代だとダムなんてものは整備されてないから…

…雨が降らないといっきに干上(ひあ)がっちゃうんだろうな…

 

…なんだ・山から火が…

…僕は周囲の景色を一通り眺める・小高い山の頂上付近に火が灯っていた…

…人がたくさん集まって・火を()いている…

…雨が降らないっていうのに・火なんか焚いたら山火事になるぞ…

 

雨乞(あまご)いか…』

 

…直政くんも僕と同じ方角を見ていた…

…雨乞い?…

…火が灯る山をもう一度眺める・すると山の上部に神社が見えた…

…雨乞いか・雨が降るように神頼みってことね…

…しかし・あの山には見(おぼ)えがあるような…

 

 

………ひゅぅぅぅぅぃぃぃぃいいいいいん

 

 

…ん?…

…僕が眺めていた山と反対の方向から・空気を切り裂くような音が聞こえた…

…何かこっちに飛んでくる!…

 

 

 

………こおぉぉぉごおぉぉぉがあぁががが

 

 

 

…うおー!…

…飛来物が近づくに連れ・コンクリートを破壊するような音へと変わってきた…

…飛来物は空気との摩擦(まさつ)熱なのか・自らが発火しているのか…

…真っ赤に燃えた火の玉となって飛んで来た…

 

 

………ドッーーーボオーーーーーン……

 

 

…い・隕石(いんせき)が落ちた!…

…は・初めて見た・けど…

…なんでドッボーン?…

…それに…

 

 

………ズッ…ザッバーーーーーー……

 

 

…雨・なんてもんじゃねー…

…滝だぞ・こりゃー…

…直政くん…

 

…おいおい・隕石の落ちた方へ走ってるよ…

…男子三日会わざれば括目(かつもく)して見よっていうけど…

…これは変わりすぎだろ・見た目は可愛いのに…

…滝のように降り注ぐ雨にも関わらず・雨乞いをしていた山の裏手へと走って行った…

 

…そして僕が見た光景は・隕石が落ちたにしては意外とキレイなクレーターだった…

…というより・もともとこの形状だったのだと確信する…

 

…まず・周囲の生活区域とクレーター部の境にまったく違和感が無い…

…次に・隕石が落ちたのと同時に滝のような雨が降った…

…最後に・僕の推論(すいろん)()べるならば隕石の落下地点は湖である…

 

…そして僕は・これと似たような話をかつて聞いたことがあった…

 

 

『そなたは雨乞いによって遣わされた神か、それとも人々を悪鬼へと(みちび)く羅刹女であるか』

 

 

…そう・僕が見間違える筈のない者がクレーターの中心で(たたず)んでいた…

…その者の名はキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード金髪の美しき吸血鬼…

…いま僕の視界に映る彼女は・まるで愛と美の女神ヴィーナスの誕生を連想させる・一糸まとわぬオールヌードである…

…もちろん僕とペアリングしている忍の幼児体型などではなく・全盛期の完全大人バージョンだから正直目のやり場に困る…

 

 

『………』

 

 

…この時代の忍だと・とてもじゃないけど忍野忍とは呼びにくいから・キスショットにしとこう…

…キスショットは直政くんをチラッと見て・それから辺りをぐるりと眺めた・その時僕と一瞬だけ目があった気がしたが・キスショットの視線は僕とは別の方を見る…

 

 

『そなたは何者です、私は井伊直政』

 

 

…キスショットは直政くんに視線を向けた…

 

…直政くんの本能なのだろうか・キスショットと視線が合った瞬間に・直政くんは大きく後ろに飛んで距離を取り刀を抜いた…

 

…キスショットの口が薄く開く・しかし何も言わずに唇を閉じる・キスショットは何も言わない代わりに不敵な笑みを浮かべた…

 

…直政くんはキスショットが神ではないことを確信しているのだろう・刀を持つ手に力がこもっているのが分かる…

 

…その瞬間である・突然キスショットの体が煙となって消えた…

 

 

『………』

 

 

…直政くんは目を見開いてキスショットが消えた場所を見つめている…

 

…そして次の瞬間・直政くんの背後にキスショットが実体化した・深紅のドレスを(まと)った美しき鬼は・直政くんの首筋に優しく牙をたてる…

 

…キスショットに吸血された直政くんは同時にエナジードレインもされたのだろう・その場で倒れ込んでしまった…

 

…まるで鮮血(せんけつ)のような赤いドレスを纏ったキスショットが直政くんを見下ろす・これは過去の出来事だから直政くんが死ぬなんて展開は無いはずだけど・食事としての吸血とエナジードレインをされて無事に済むのだろうか…

 

 

『先ほどは、この地の言葉が分からんかったからのう、お主の問いかけに答えてやれんですまぬ、お主の記憶を分けてもろうたわ、和尚とかいう者の話し方はこんなかのう、かかかか』

 

 

…キスショットがエナジードレインをしたのは直政くんの記憶であり・日本語を理解するためだったようだ…

 

 

『私に何をしたのだ、羅刹女!』

 

『なに、お主の問に答えてやろうと思うてな、儂が何者か知りたいのじゃろう』

 

『そなたは神などではない』

 

『正解じゃよ、しかしお主の言う羅刹女などというものとも違う、儂の名はキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード、お主らが言うところの吸血鬼といった存在だのう』

 

『吸血鬼…、血を吸う鬼ということか、その鬼がこの地に何をしに来たのです、人に害を成すのであれば・私はそなたを()る』

 

『くっくくくくく・かっかかかかか、お主が儂を斬ると申すか、かかかかか・愉快(ゆかい)・愉快、気に入ったぞ井伊直政、お主が儂を斬れるように(きた)えたくなったわ』

 

愚弄(ぐろう)するか…』

 

 

…凄いな直正くんは・キスショットにすごまれても動じてない…

…直政くんは方膝(かたひざ)を着いた格好(かっこう)で刀を(かま)えた…

 

 

『ほう・動けるとは(おどろ)いたのう、顔に似合わずなかなかの覚悟じゃな、どれ・お主の覚悟がどれ程のものか見てやるかのう』

 

 

…僕が知っているキスショットよりも・400年前のキスショットは圧倒的に生気が強いな…

…キスショットは両手を広げた・そのまま刀を構える直政くんの前に立つ・これでは斬ってみろと言ってるもんだが・直政くんの覚悟を(ため)しているのか…

 

 

南無(なむ)・迷企羅大将、鬼を斬る力と加護をお与えください…』

 

『なるほどのう、ずぶの素人(しろうと)という訳でもないようじゃな』

 

『鬼よ地獄へと帰れ!』

 

 

…直政くんの刀はキスショットの腹を横凪(よこな)ぎに切り裂いた…

 

 

『見事じゃ、雑念(ざつねん)の無いよい一太刀であったぞ、しかしな・儂を斬るということはそれでは無理じゃよ』

 

 

…そう僕が誰よりも知っている・キスショットの回復能力はほとんど不死身と言っても過言(かごん)ではない・刀に切り裂かれた腹からは鮮血が飛び散った・だがその血が煙と化すのとほとんど同時に刀傷は消えていた…

 

 

『なんじゃ震えておるのかえ、覚悟は立派であったがなぁ、やはり初めてのようじゃのう、儂の体は人間のものとさして変わらぬ、どのような手応(てごた)えじゃった?』

 

『ぐ…う、あ・おえー』

 

 

…この後直政くんは戦でたくさん人を斬るけど・やっぱり初めての時は震えたんだな・ゲロも吐いてるし…

 

 

『どうするのじゃ、今のお主では儂を斬ることは出来ても、儂を殺すことは出来ぬぞ』

 

 

…キスショットは本気で直政くんを鍛えるつもりなのか…

 

 

『…そなたは私を鍛えると言ったが、何が目的なのです?』

 

『目的のう、気まぐれじゃよ、儂は人間と話すのが久々だからかのう、退屈(たいくつ)をしておったから退屈しのぎかもしれんし、さもなくば食糧として()うのかもしれんな』

 

『食糧ですか…、良いでしょう・キスショット私のことはそなたの自由にして構いませぬ、しかし他の者達への危害は許しません、私がそなたを斬るとき・またはそなたが私を食する時、それまでは決して他の者を殺さぬと(ちか)って下さい』

 

『おなごのような顔をしていて、儂と対等であるかの物言いをするとはますます気に入ったわ、よかろう直政・お主が儂を退屈させぬ間はその約束を守る、しかしお主が(あきら)めた時は()らうてしまうが・良いのか?』

 

『無論! 武士に二言は有りませぬ』

 

『かっかっかっかっかっ』

 

 

…1年前だったか・僕は忍から400年前に忍が日本を(おとず)れたと聞いたことがある…

 

…話の切っ掛けは確かクラヤミとの遭遇(そうぐう)だった…

 

…400年前に忍がこの国を訪れたのは単なる偶然で・その前は南極に居たとのことである…

 

…干魃で苦しむ集落の人々から神と(あが)められたとか…

 

…しかし・その嘘がクラヤミを呼んだ筈で・キスショットを神と崇めた人達はことごとく消えたと言っていたけど…

 

…直政くんは歴史上の人物として後世に語られている以上・クラヤミに呑み込まれてはいない筈だ…

 

…だとしたら・いま僕が見た映像とはいったい?…

 

 


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