しのぶ☆ゴット 【神物語】   作:TAINZ

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4話の後書きで、たぶん5話でこの一連の話は終わるなどと書きました。

ご免なさい、あらぬ方向に話が行ってしまいました…。
この一連の話は長引きます、それでもお付合い頂けると嬉しいです。


しのぶ☆ゴット -05-

 

 

『ラギ子さん、会ったばかりでこんな不躾(ぶしつけ)な事を言うべきで無いことは、重々承知しておりますの…、でも・どうしてもあなたの事が気になって気になって、お願いですラギ子さん、あなたのことを占わせて下さいませ』

 

躾がどうとかそういった問題じゃなくて、なんだこの目の輝きようは…、興味津々(きょうみしんしん)って顔に書いてあるぞ。

 

『あの・僕は、あっいえ・私はー、占いとかあまり興味が無いからー、遠慮(えんりょ)しとこうかなー』

 

『大丈夫ですわ・ただの占いですから、なーんにも(こわ)い事なんて有りませんわよ』

 

怖いよ、こんなにも嬉嬉(きき)としている人が占うものなんて、僕の場合は絶対に良くない結果に決まっている。

 

『ねーお願いしたよねラギ子、卑弥呼の言うとおりにして』

 

【ひたぎ】お前はこの人に何か弱みでも(にぎ)られてるのか?

 

『じ・じゃあ、占ってもらおうかな…』

 

『かしこまりました、それでは早速ですがラギ子さん、こちらに来て座ってください、ガラシャはそちらの部屋で待っていてくださいね』

 

祭壇(さいだん)を背にした【卑弥呼】が満面の笑みで僕を(まね)く、僕は【ひたぎ】に視線を送ると目が合った、しかし【ひたぎ】の目は(早く行け!)と語っているのみである…、仕方(しかた)なく僕は【卑弥呼】が示す場所で無造作(むじょうさ)に座った、そして僕が座ると【卑弥呼】は部屋を仕切るために御簾(みす)を降ろし、それからゆったりとした動作で僕の前に立つ。

 

『ラギ子さんは、普通の人間ではありませんのね』

 

『な…、なんでそう思うんですか…』

 

いったい【卑弥呼】は何について言ってるんだ、【ひたぎ】が如何(いか)に【卑弥呼】に従順(じゅうじゅん)だとしても、実は僕が男であるってことは言って無いだろうし、ましてや半分人間・半分吸血鬼の半妖なんてことは口が()けても言わないよな、それ以外で普通じゃないことって…。

 

先程(さきほど)ラギ子さんの前世が見えましたわ、真っ赤な(よろい)を身に(まと)った鬼神(きしん)のような出で立ち、ラギ子さんの前世ってとても(かぶ)いてらしたのね』

 

『はい? 僕の前世ですか…あ・私の…』

 

『無理に一人称(いちにんしょう)を変えなくてもよろしいのに、ラギ子さんの容姿で僕と言うのも新鮮(しんせん)ですわ、それに私もね…ふふ・これは内緒(ないしょ)にしておきます』

 

今のファッションで僕っ子っていったら、斧乃木ちゃんと(かぶ)ちゃうよな、まーでも言い直す方が不自然か、取り()えず普通に話すとしよう。

 

『卑弥呼さんは人の前世が分かるんですか?』

 

『ヒミコと呼んでくださって結構(けっこう)ですよ、占いの後はラギ子さんのこともおそらく別な呼び方を致しますし』

 

『それじゃあヒミコ、君の言う占いっていうのは、僕の前世を当てることなのかな?』

 

『半分当たりです・でも半分は違いますね、ラギ子さんもそうでしたが、私と波長(はちょう)の合う方は占いをせずとも前世の姿が見えます、ですのでラギ子さんの前世についてはおおよその見当は(すで)に』

 

(ふく)みのある笑い方をするな。

 

『私がこれから行う占いは、今世のラギ子さんが前世から引き()いだ因果(いんが)()ることです、あぁ心配しないで下さいね、決して他言は致しませんから、勿論ガラシャにも内緒に致します、ですからお()めになるなどとは…』

 

『いやその心配は無いよ、でも正直な感想としては、なんか胡散臭(うさんくさ)い』

 

『まぁ・ラギ子さんは本当に正直な方ですね、こうもはっきりと言われたのはガラシャ以来ですわ、さすが親友といったところでしょうか、ふふふ』

 

親友じゃなくて恋人…まーいいや、【ひたぎ】が胡散臭いと(ひょう)していたにも関わらず、【ヒミコ】に対して完全に傾倒(けいとう)しているというのは気になる。

 

(ろん)より証拠(しょうこ)と申しますわ、詮議(せんぎ)(ほど)は占いが終わってからでも遅くはないですよ』

 

了解(りょうかい)、僕もヒミコのことが知りたくなったよ、僕の因果ってやつを占ってくれ』

 

『はい』

 

『ではラギ子さん・ここは神前ですので、まずは胡坐(あぐら)から正坐(せいざ)へと変えていただけますか』

 

『大変失礼いたしましたー』

 

僕は(あわ)てて座り直し…、

何故(なぜ)平伏(へいふく)していた…。

 

『あら・とってもお行儀(ぎょうぎ)がよろしいのですね、その調子でお願いしますわ、ふふ』

 

しまったーーー、

つい何時(いつ)もの習慣(しゅうかん)で…、

いや…この件については色々な憶測(おくそく)が出来る状況(じょうきょう)ではあるが、()えて否定(ひてい)をさせてもらおう、

いま僕が居る場所は祭壇の前である、

【ヒミコ】が神前だと言うのであれば神に対して(こうべ)()れたのであって…、

決して普段の僕が誰にでもすぐに土下座をする等という誤解はやめて貰いたい。

 

『それでは、ラギ子・(こうべ)()れたまま瞑目(めいもく)なさい…、あなたの因果が如何(いか)なるものか…、大(みわ)によって解き明かされます…』

 

平伏したままの僕は【ヒミコ】の言葉に(したが)い目を(つむ)る、

僕の頭の上で紙垂(しで)が振られる音が二度・三度聞こえた、

心地の良い音と共に僕の意識が遠のく…。

 

 

          ☆

 

 

…あれ・僕は寝てるのか?…

…いや・意識はハッキリしている…

…変な気分だ・僕の身体が軽くなっていく…

…身体から意識が離れていくのか?…

 

…何処かの風景が見えてきた…

…ここは・僕の住んでいた町だよな…

…上空からの俯瞰(ふかん)図ってところか…

…北白蛇神社の山も見えるや…

 

…あぁ風景が変わった…

随分(ずいぶん)古い景色だな…

…たぶん昭和時代か…

…高度成長期ってやつだよなー・町が煙ってる…

 

…また風景が変わるのか…

…う・・・一面が焼け野原…

…これは戦後の日本…

…焼け()げた大地と瓦礫(がれき)の山…

…こんな惨状(さんじょう)からよく復興(ふっこう)したな…

 

…そうか・いま僕の意識は過去に(さかのぼ)っているんだ…

…いったいヒミコは僕に何を見せようというんだろう?…

 

…また戦争か…

…でも・なんで洋式の軍隊と和式の軍隊が戦っているんだろう…

…あーそうか・江戸時代末期の戊辰(ぼしん)戦争か…

…この戦争で鎖国(さこく)が終わり・軍事国家に変わったんだった…

…日清・日露・第一次・第二次世界大戦へと参戦したんだったな…

 

…これはー・江戸時代ってところかな…

…お城が在って・その周りは城下町…

…それなりに大きな(はん)みたいだけど…

…なんか・すげー平和そうに見える…

…人の顔がこんなにも生き生きしてるのって・初めて見たかも…

…戦争なんてものとは無縁(むえん)

 

…平和な時代が有って・その後に大きな戦争が有る…

 

…違うのか・大きな戦争の痛みが有って・そして平和を求めた…

 

…たぶんこの国の歴史は・ずっとその繰り返しだったんだ…

 

…だからこの景色は・戦国時代なんだよな…

活気(かっき)が無い・みんな疲れた顔をしてる…

…米作りをしなきゃいけないのに・戦に行かなければならない…

…この時代の人達は何を幸せだと感じていたんだろう?…

…江戸時代の人達とはまったく違うじゃないか…

…現代の僕達ともまったく違う…

…生きていることが苦痛?…

…生まれた時代のせいだと・そう(あきら)めるしかないのか…

 

…ここはどこだ?…

…お寺…だよな…仏像が沢山あるし…

…人がいる…寺の住職(じゅうしょく)さんと・子供?…

…まだ中学生くらいかな…

…話してる声が聞こえる…

 

和尚(おしょう)さま、わたくしは何ゆえ命を(ねら)われねばならないのでしょう、こうして仏法に帰依(きえ)したにも関わらず、娑婆(しゃば)の母君はわたくしをまつり立てようとなさいます、その度にわたくしはまた命を狙われます、仏がわたくしに与えたもうた試練なのでございましょうか?』

 

『虎松どの…、誠に不憫(ふびん)な星の(もと)にお生まれになられた、心優しく真っ直ぐな性格ゆえに、なおのこと苦しまれて居るのですな…』

 

『虎松どの、この世に生まれた生きとし生けるものは・みな仏との約束をして生まれてくるのです、ですがな・その約束は生まれてから(しばら)くするとみな忘れてしまう、娑婆で()らす人々には毎日の生活がすべてでしてな、仏の教えにふれることも・仏とした約束を思い出すこともなかなかできぬのですわ』

 

『ですがな、神仏は常に衆生(しゅじょう)と共にありまする、常に人と共にあり自らの宿縁(しゅくえん)に気付かせようと働きかけておるのですわ、しかし人とは(おろ)かな生き物でしてな、こうして出家(しゅっけ)をし仏に祈る日々を暮らす儂らでさえ、仏とした約束を思い出せず湧き起る煩悩(ぼんのう)に振り回されるばかりでしてな、ですが仏はそんな人の愚かさをよう知っていて下さっておいででな、如何に愚かであっても見捨てることなく寄り()って下さっておるのじゃよ』

 

()が寺の御本尊(ほんぞん)は薬師如来様ですがな、じつに柔和(にゅうわ)お顔をなさっておりますじゃろう、脇侍(きょうじ)を務める日光菩薩・月光菩薩も共に柔和なお顔をされている、しかし天部の神々である十二神将や四天王のお顔というのはじつに厳しいお顔をしておいでですよな、どうしてこのように鬼神が(ごと)きお顔であるかご存知(ぞんじ)かな』

 

『十二神将は十二の時と十二の月と十二の方位を魔から守る為で御座います、四天王は東西南北の守護をする為に魔を(にら)みつけています』

 

左様(さよう)ですな、ではそれらの魔とはいったい何であり、守る物とは何ですかな』

 

『魔とは悪鬼(あっき)羅刹(らせつ)です、それらの魔から仏法を守るのです』

 

『うむ、では悪鬼や羅刹というのは如何なるものかはご存知かな』

 

『悪鬼とは仏道を(さまた)げる悪い神で、羅刹は破壊と滅亡をもたらす神だと教わりました』

 

『如何にもその通りですな、しかしこんにちでは悪鬼とされる夜叉や羅刹も、四天王である多聞天(たもんてん)のもとに(つか)えておいでなんじゃ、もともとが悪神であっても仏によって改心させられた(のち)は守護神となるのですな』

 

『そのようなことがあるのですか…、でしたら十二神将や四天王とはいったい何から仏法を守るというのでしょうか?』

 

『人々の煩悩からなのですわ』

 

『人々の煩悩からですか?』

 

『左様、悪鬼や羅刹は人の外からやって来るものではなく、人の内側から湧き起る煩悩によって生まれるものなのですわ、人の(よく)というものは無尽蔵(むじんぞう)(ふく)らむものでしてな、何もせずにほおっておけば我執(がしゅう)(とら)われた悪鬼となってしまう、そこで薬師様は十二の神将のお一人お一人に七千の夜叉や羅刹を(つか)わされた、八万四千もの夜叉と羅刹たちとは人々の湧きあがる煩悩に対して睨みを利かせておいでなのじゃ、十二神将や四天王がみな鬼の形相(ぎょうそう)をしておいでなのは、人々の煩悩を断ち切るという覚悟の表れなのですな』

 

『和尚さま、煩悩というものはそれ程までに恐ろしいもので御座いますか、わたくしにはどうしてもそのように思えないのですが』

 

『虎松どのは()んだ心の持ち主ですな、出家しているにも関わらず娑婆の出来事に困惑(こんわく)しておる(わし)の方が、よっぽど悪鬼に近いのかもしれませぬ』

 

『和尚さまは何かお悩みなので御座いますか』

 

『儂の(うれ)いはこの戦国の世に対してでしてな、足利将軍家が衰退(すいたい)してからというもの、全国の武将たちが(こぞ)って戦を始めましたな、虎松どのはその戦国の世の(ことわり)にて命を狙われておるのです、本来は因果というものは世襲(せしゅう)されるべきものではないのじゃが、自らが成した原因が後に善くない結果を招くことを恐れることで、このような理が出来たのですが』

 

『虎松どのの御父上は、今川様に謀反(むほん)嫌疑(けんぎ)を受けて殺されましたな、まだ幼少であった虎松どのも今川様に殺されるところでしたが、その際は新野様の助命(じょめい)によって助かりました、しかし新野様が亡くなられるとまたしても命を狙われなさった、今川様は御自身が成した悪因が自らの身に降りかかる結果を恐れておいでなのです』

 

『わたくしは仇討(あだうち)など望んでおりませぬ』

 

『左様でございますな、虎松どのは聡明(そうめい)な心の持ち主でらっしゃる、仏法への探究心(たんきゅうしん)も申し分ない、ですがな・虎松どのが如何に仏門に帰依し徳を高めたとしても、今川様の疑心暗鬼(ぎしんあんき)が取り除かれることは無いのです、これが先程(もう)した人の煩悩が作り出す悪鬼なのですわ』

 

『それでは、わたくしはいつか今川殿に殺されるその日まで、仏に(おが)み続ける日々を暮らさねばならないのでしょうか?』

 

『儂は仏に仕える身なのだが…、虎松どの・旅をなさいませ、旅をしてこの乱世(らんせ)を自らの目で見なされ、そしてこの混沌(こんとん)とした乱世に終止符(しゅうしふ)を打つべき武将を見極(みきわ)めるのです、その武将の臣下(しんか)となりこの戦国の世を治めなさいませ、虎松どのが生きて往くすべはそれしかありませぬ』

 

『わたくしは寺を出て旅をするのですか、そして武将の臣下に成るという事は、武士として生きるという事で御座いましょうか』

 

『その通りです、この乱世を終わらせる事こそが虎松どのの生きる意味とするのです、命を奪われるのを待つのではなく、虎松どのの使命として闘うのです、坊主(ぼうず)である儂が虎松どのに刀を持って闘うことを進言(しんげん)をしたからには、儂らも衆生と共に苦しむ覚悟(かくご)を持たねばなりますまい、儂も善き武将を見つけますぞ、そして虎松どのと共にこの乱世に終止符を打つべく尽力(しんりょく)致そう』

 

『わたくしの使命で御座いますか』

 

『左様です、虎松どの・神仏と盟約(めいやく)なさいませ、虎松どのは酉年生まれでしたから迷企羅(めきら)大将に(ちか)うのが(よろ)しいな、己が命を()してこの国の(まつりごと)を直すことを誓いなさりませ、さすれば必ずや神仏の御加護(かご)がありまする』

 

『分かりました、わたくしはこれから先に残された命を(ささ)げ、現世にて迷企羅大将になり変わり、この乱世の政を直すと誓います、どうか御仏の御加護をわたくしにお与え下さいませ』

 

『虎松どの、これより先は名を直政(なおまさ)と改め井伊家の家督(かとく)()ぎ、この乱世に終止符を打つべき主にお仕えなさいませ』

 

『御名ありがたく頂戴(ちょうだい)いたします、名に恥じない働きが出来るよう尽力致します』

 

…なんて時代だよ…

…こんな少年が命を狙われるなんて…

…これから・この直政君は1人で旅をするのか…

…うん?…

…直政…井伊家…

…って・井伊直政じゃん!…

…徳川四天王の1人で…

…井伊の赤鬼…

…ヒミコが言ってた赤鬼って井伊直政のことだったのか?…

…ひょっとして・この男の子っていうか井伊直政が僕の前世だとでも言うのかよ…

 




さて、どうして暦の前世話になっているのかと言いますと、阿良々木暦の自己犠牲体質への疑問から書き始めました。

もちろん自己満足ですが、自分なりに納得のいく理由が書ければ良いなと思っています。

お付合い下さった皆様に感謝しつつ次話を進めますので、またのお付合いよろしくお願いします。

PS.しのぶ☆ゴットは5話しかないのに、時間軸がずれてきてます。
 気になった方には申し訳ございません、のちのち直します。

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