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夢について真剣に考えたことがあるだろうか?
因みに今の僕【阿良々木暦】が題材にしている夢とは、将来への希望を表す夢ではなく、普段の生活で眠っている時に見る夢である。
古代人が考えていた夢の正体は、眠っている時に肉体から飛び出した魂が実際に経験したこと、それが夢としてあらわれるというものであり、また夢は神や悪魔のお告げとしてあつかわれていたりもする。
予知夢という言葉を知らない人はそうそういないと思う、夢で見た内容がそのまま現実に起こることだけど、予知夢として信憑性のある夢に対しては検討されたりもしたというから、あながち馬鹿に出来るものでもないのだ。
現代風に言えば、夢というのは普段の生活での悩み事や不安なこと、はたまた大好きな趣味であったり、勉強や仕事などの脳に蓄積された膨大な情報を整理するために夢を見るとされているが、まー僕の場合は最愛の恋人【戦場ヶ原ひたぎ】とのラブロマンスの過程を夢に見るのが常であるが…。
そして僕は夢を見ている…。
夢の中の僕は、時代錯誤も甚だしい甲冑を身に纏う、戦武者の出で立ちだった。
そして夢というのは本当に便利なもので、自分の姿は勿論、周囲の状況など自分が気になったところを、いくらでもクローズアップして見ることが出来る、そのことが夢だと言える所以でもあるのだが…、
現在の僕は夢とはいえ非常にきっぱくした状況に追い込まれていた。
『殿ー! 御味方の布陣は整ってござる、何卒・開戦の御決断をー』
ザ・鎧武者といった大柄のおっさんが、幕を押し退けて飛び込んで来た。
『忠勝どの… 殿も承知しておられる』
あれ? いま喋ったのって…僕?
『ならばこそ、何ゆえ開戦の令が出ぬ!』
『御子息が・遅参しておる…』
『な・んと…』
『………』
『………』
『すまぬな皆の衆、身内の不手際に長いこと焦れさせたわ、明朝・陽を待たず開戦致す、各々がた存分に戦ってくれぃ!』
『は・はぁ!!』
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まったく…変な夢を見た。
今の僕は大学への進学を期に寮での独り暮らしを始めた、とはいえ彼女である【戦場ヶ原ひたぎ】を追い掛ける形で大学を選んだ僕としては、押しかけ女房ならぬ押しかけ怪異であろうか、あまり威張れた感はないのだが…。
『なー忍、お前って400年前にこの国に来たんだよなー』
『なんじゃーお前様、藪から棒に聞く話かえぇ』
忍というのは【忍野忍】という名の金髪の女の子のことで、見た目は10歳程度の幼女だが、彼女の真の姿は伝説の吸血鬼、本名は【キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード】といい、怪異の王・怪異殺し・鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼と言われていた目の冴える様な美しい怪異だった、しかし去年のゴールデンウィークに起こった地獄のような出来事の結果、今は吸血鬼の搾りかすと成り果てたのだ。
『いやー僕って最近さー真面目に勉強をしているだろう、そのせいかな今日変な夢を見ちゃってさー』
『かーかっかっかっ、お前様が勉強の夢を見たじゃとぉ、それはどういったギャグなのじゃあ』
『ギャグじゃねーよ』
『ならばなんじゃ、400年前のことが気になるなど、お前様のヤキモチかと思うたがなぁ、違うというのなら、ほれ・言うてみぃ』
伝説の吸血鬼の威厳は何処へやら、幼女の姿に成った忍の言動は年相応に幼く、事ある毎に僕に絡もうとする、実際の年齢は600歳弱という計り知れないスケールだが、今の忍からは到底想像することは出来ない。
『大昔の戦場にいる夢を見たんだよ、大昔っていっても甲冑のデザインからすると、戦国時代って感じかなー、戦国時代ってだいたい今から400年位前だろう、その頃の日本ってどんな感じか聞きたかったんだよ』
『なーんじゃあ・アホらしぃ、儂はてっきり初代怪異殺しに対してお前様が嫉妬しとるのかと思うたわ、そんなこと儂に聞かんでも調べればいくらでも出てこようが、そのスマホとかいう異次元脳みそでなぁ』
スマートフォンを異次元脳みそって言うかよ、まー忍の場合は自分の脳みそを掻き回して、忘れていた記憶を思い出そうとするくらいだからな、スマホが呼び出す情報が異次元からっていうのもありと言えばありか。
『そういった情報じゃなくって…、なんていうかー生の声が聞きたいっていうかさー、実際に見てきた感想が聞きたいんだよ、僕の見た夢が本当に戦国時代のものだったのか気になるだろう』
『儂はちっとも気にならん、お前様にしたって所詮は夢の話ではないかえ、何をそんなに気にする必要があるのじゃあ』
この吸血鬼の搾りかすは、今現在において存在するためのエネルギー源は僕の血液によって賄われている、つまり僕からの吸血が行えないとこの幼女は消えてしまう、にもかかわらず僕に対しての協調性がまったく無い。
『夢にしてはリアリティーがあったんだよ、本物の戦場に居る様な感覚でさー、人の息遣いも生々しくって、本当にこれから生死のやり取りをするんだなって思うぐらいにだぜ』
『おおかたテレビの時代劇でも見たのじゃろぅ、それが夢の中に出てきただけだと言うに、まったく仰々しいのう・お前様は』
これだよ…、この金髪幼女が生活している居住区はというと・僕の影である、影に棲むという言い方をすれば、相手が怪異であることを考慮すればそんなに驚くことではない。
さて、僕がいま忍の住処を居住区と表現したことについてだが、吸血鬼の搾りかすであるこの金髪幼女は影の中に空間を造り、更には自らの好みに合わせた城まで造っているらしい、見たことは無いので忍の言を信じれば…なのだが、その裏付けというか忍はこの3次元においても物質創造能力を持っている、つまり何でも有りの【のぶエモン】っていったところである。
『お前の力を使えば、僕の夢の内容だって具現化できるだろ』
『主様は本当にあほぉじゃのぉ、いくら儂と主様がペアリングしておるとはいえ、主様の夢を具現化するなど無理に決まっておろう、もし仮に出来たとしてじゃがぁ、その場合はこの現代が戦国時代に成ってしまうが、それでも良いのかえ』
『どうもすみませんでしたー』
『ぱないの、かーっかっかっかー』