ニーア、て言うかB2可愛い。めっさ可愛い。プラチナさんとヨコオさんのタッグだけど、楽しそうな作品になりそうとは思いつつ、ここまで面白いとは思わなかった。
久方ぶりにゲーム三昧でした。
ダクソDLC2を待ちつつ、ダクソをクリアしたらゼルダをしようと決めてます。
唐突だが、ライダーはアーチャーが苦手だった。必然的にアヴェンジャーのマスターである美綴綾子も苦手だった。自分が持つスキルもそうだが、鍛え上げた第六感がなるべく戦闘は避けろと言っている。戦うのであれば、最大限準備を完了させてからの方が良いと、自分の戦士としての直感が告げている。
……そして、もう準備は完成している。しかし、今は駄目だ。魔女一人を殺す為に戦力は整えたが、それは一対一での殺し合いを想定したもの。この場には自分が本気を出して殺すべき怨敵がまだ生きており、心底この魔女が戦場から消えて欲しかった。
「―――弓兵よ、邪魔をするなら木端となって死ぬが良い……!」
一言で例えれば、ライダーはキレていたのだ。とは言え冷徹な合理主義者故に、冷静沈着さは失っておらず、思考は果てまで透き通っているのだが。そもそも狙いはセイバーであり、そして神父はその殺人行為に対する邪魔者。アーチャーなど、その神父を越える煩わしさ極まる邪魔の中の邪魔者だ。
「お、急だね。まぁ、それ、効かんけど」
そのミサイル全てにアーチャーは干渉し、地面へ叩きつけて誤爆させた。身動き一つせず、魔力を対して消費することもなく、数百と飛び出たCランク宝具の群れを無効化してしまった。
阿頼耶の触覚として持つ魔術化した超能力―――
―――天敵。
弓兵殺しのアーチャーが、この英霊だ。モンゴルが最も得意とする戦法が弓矢であり、飛び道具による殺戮を一番好むライダーにとって乱入して来たこの魔女は今回の聖杯戦争で特別闘い難く―――それ以外の理由で、自分を殺し得る真の天敵でもあった。
「私の闘争の邪魔をしますか、アーチャー?」
「止しなって、セイバー。今は精神が狂ってるみたいだし、口調だって安定してないじゃないか」
「うむ、それはアーチャーに同意する。呪われ、斬り壊され、自我の補完がまだ完了していないのだろう。俺が施した簡易的な精神治癒では完治など遠い。霊媒医師として言わせれば、心の修理するには儀式を行う必要があり、自然に治癒させるには長期間の療養が必要だろうて。
……まぁ、尤も、もはや自然に治ることなど有り得ないが。その精神はまた同じ様に壊されぬ限り、死して座に帰還するまで常にそのままだろうよ」
「……―――ええ、否定はせん。ええ、しませんとも」
無論、戦闘能力は万全で、剣術の冴えは生前以上。アルトリアは王道を斬り棄てられたことで修羅に堕落し、羅刹の魔境を経て、冥府の底に君臨すべき魔道に至っているのだ……それも、強制的に。
―――狂っていない訳がない。
強さを剣として完結させたが故に、今のセイバーの人格は崩落している。精神崩壊ではなく、心の崩落、人間性の失墜だ。元々強引に善悪両極端の二面性を統制した状態が、完全にその二極を混合されて新生したのだ。それなりに鋭い感性を持っていれば、今のアルトリアがまとめではないのは簡単に悟れた。
「―――貴公、漸く死力を尽くす気が出たか」
瞬間、世界が死ぬ。気配なく狂気は体現され、地獄が顔を現した。先程まで何の余丁も無かったのに、報復王はライダーの背後から姿を
ただただ気配だけで圧死する。人殺しが纏う血の気配などこの聖杯戦争では珍しくないが、世界が死ぬ程に血臭が溢れ返っている。同じ空気を吸うだけで、同じ空間に居るだけで、思考を狂気に洗われて、自分の命を自分の手で虐殺しなくてはならないと錯乱し、発狂死するまでの禍々しい存在感だった。
他者の精神に伝播する狂気―――不死者の呪詛が、狂い溢れる地獄の釜。
「バーサーカーかの。それは言わぬが花と言うモノぞ。己が為の報復、他が為の復讐、それら憎悪に本気を出せぬ人間など、所詮は死者以下の生きているだけの唯の肉よ。塵よ、虚ろよ。
今の
「復讐鬼として目覚めたか」
「呪いよ。あの魔女による魂の暴走ぞ」
ライダーの性質が悪い所は、自覚を持って狂っていること。理性的に自己判断をした上で、生前以来の久方ぶりの復讐の狂気に酔いしている点。セイバーを喰い殺すことに専念しているのも、それが今の自分にとって一番価値のある娯楽だからだ。
故に、先程の戦闘もセイバー狙いだった。戦略的にもいざとなれば神父を殺している隙を突いて、神父ごとエクスカリバーで一掃する可能性があり、セイバーよりも士人を先に殺す方がリスクがあったとは言え、それを抜きにしても心情的にはセイバーを神父よりも早く殺したかったのも事実。
「ならば、我の助けはお主の妨げになろう」
「すまんな。戦術的にお主の助けは有り難く、戦略的にもこやつらの早期殲滅が正しいのだろう。これを勝ち取る為の戦争とすれば、殺し方を態々
……だが、これは徹底徹尾―――私闘である。
国も、一族も、嘗ての守るべき者達にも関わりの無いことぞ。選んで殺さねば、この現世に甦った価値も無し。誰が為でも無く、
今のチンギス・カンはそれしかない。誇りも、理念も、略奪に集約される。
―――もはや、略奪の為の略奪だった。
奪う為に復讐し、奪う為に殺害し、奪う為に略奪する。元マスターの復讐と言っているが、如何に強靭な精神で黒化に耐え、人格の変異を乗り越えようとも、間桐桜が施した呪いによる感情の増幅をゼロには出来ない。膨大に膨れ上がったセイバーに体する憎悪の念以上に、略奪による愉悦の狂気の方が膨れ上がっている。狂気に耐えて抑えられたとしても、内側から常に聖杯の呪詛と魔女の術式による黒泥が汚染し続けている。
「ふぅーん、あ、そ。でもね、アンタの王としての信条も、人としても心情も知らんし、その必要もないかな。アンタの気持ちは分かるが、アタシもまたアタシの為に闘争を始めるだけさ……」
アーチャーの殺意は一点、ライダーのみ。元よりライダーを相手にする計画であったが、バーサーカーを半分無視した雰囲気だ。
「……と言うことなので、護衛の仕事もここまで。獲物を見付けたのなら、最初の計画通り狩りに専念させて貰うから」
マスター達の護衛任務も、そもそもライダーを相手にする為の布石。数多のマスター共が、略奪軍の本体であるライダーを誘き出す囮であり、アーチャーをマスターの命を餌にして狩猟を行っていた。
……しかし、そのライダーが合理性に欠ける行動を行った。アーチャーはライダーの行動原理を理解しており、彼ならばまずマスターを狙うだろうと、戦争に勝つ為ならば最速で最善の策をまずは実行すると思っていたのだが―――チンギス・カンを、彼女は少し見誤っていた。
国を率いて、国を喰らう戦争ならば、
……尤も、それも全て瓦解したが。
「失せろ、
それを邪魔をするのなら、我輩は何でもしよう」
「何でもする? 良く言うね、略奪王。何でも出来る為に、何でも奪い取るアンタは、そうやって実際に憎悪を燃やしていても、もう排除すべき敵対者として私を殺す為の計算をしてる。理性的にね。それが見ていて気色悪い。気持ち悪い。吐き気がする。
邪魔をするなら……だって? 笑わせるなっつーの。
それが略奪と言う侵略戦争に繋がるのなら―――邪魔をされるのも、楽しい癖に」
つまるところ、今のライダーからすれば、アーチャーと言う障害を徹底して殺し、サーヴァントとしての在り様を命ごと略奪し、自分の軍隊に取り込むことさえ楽しいに違いなかった。復讐とは、その憎悪を晴らすことを目的にして対象者の殺害行為に及ぶのだろうが、ライダーは復讐すると言う行為自体が目的だった。憎悪などもはや唯の感情に過ぎず、自分が味わった苦しみを相手に与えたいのではない―――敵に苦しみを与える過程を、彼は喜んでいる。
故に、略奪王。蹂躙者は、国を略奪する為に人を略奪する。
―――皇帝として国益を得る為に必要な略奪行為そのものを、彼は己が最大の歓喜としているが為に。
「げひゃはははははあははははははハァーハハハハハ!! 何だお主、良く理解しおるな!! もしやあれか、生前我らモンゴルによって全て奪われ歴史に埋もれた弱者か何かかの!?」
「別に。でもま、歴史に埋もれた英霊ってのは当たりだね」
テンション高いなぁ、と呆れつつもアーチャーは自分の出自を複雑そうな心境で思い返す。……思い返した所為で言峰士人に対する殺意が再燃し始めたが。
「成る程のう。お主、守護者に属する英霊だったの。ならば、生前の
「ええ、そうね。生前のアンタなんて知らない。けど死後のアンタは敵が強い程、目的達成が困難であればある程、略奪を楽しく感じる
そして、恐ろしい事にアーチャーは会話の途中であると言うに―――瞬時、取り出した拳銃を発砲。何一つとして予兆なく、大した意義もなく、己が己に科した任務を遂行。
とは言え、相手はライダー。油断も慢心も全く無く、弾丸をバリスタから高速変化させた左手の人差指と親指で掴み、そのまま砕く。彼の体毛はAランク宝具に匹敵する防御力を持ち、肉体もまたAランク宝具級の耐久度を持つ。ヘラクレスの「
しかし、今のライダーはただただ単純に、金剛の如き頑強さと、羽毛の如き柔軟性を誇る。言ってしまえば、鉄のようなクッションである。固い物は衝撃に対して脆く割れ易いが、逆に衝撃に対して粘る物はゴムみたいに柔らかいのが常識だ。しかし人獣の肉体は概念的に強いのもあるが、科学的にも“堅くて柔らかい”と言う理論上有り得ざる完全無欠の超合金のような肉体であるのだ。
「ほう、ほう―――ほう! 行き成りだのぅ、
弾丸を、そんな肉体を使って磨り潰しながら、
「そう? けれど温い事言うね、獣帝。まぁ、ぶっちゃけアンタを殺せれば全て良い事になるし、殺したいだけだしね。道徳心とか、枯れたさ。
それに殺せそうならパパッと殺さなきゃさ、不真面目ってもんじゃないか?」
「ふん―――英霊狩りの守護者は言う事が違うの。我ら英霊を狩り殺すことに掛けては、
「それが英霊としてのアタシの役割だから。この身はアンタら真の英雄には程遠い凡愚だけれどね、それでもアタシは永劫に続く座で守護者に成り果てた英霊さ」
弓兵殺しの弓兵であり、英霊狩りの英霊である。人類に叛旗した黒き抑止共に対する抑止力であり、抑止の守護者であるが故の抑止の化身。つまるところ、化身とは言葉通りであり、その奴隷。正しい意味で彼女は抑止力に隷属させられた
哀れだと、チンギス・カンは素直にそう思う。死した後に
「それにね、生前も英雄ならざる英霊もどきを殺した。死んで守護者としてもそう殺して、折角自意識を剥奪されずに現世に召喚されたこの聖杯戦争でもまた……あぁ、アタシは英霊を殺してる。また殺し続けて、これが終わっても世界が続く限り狩りは終わらない。殺し続けるだけ。
追って、弄って、狩って、殺す。狩り殺す。
だからアンタもさぁ―――狩り殺すよ。その野望を狩り取らせて貰うよ」
弓兵もまた、壊れていた。召喚された時と状況が違い、アーチャーはコトミネと殺し合ってしまった。精神に亀裂が入るには十分な苦痛であり、コトミネを手に掛けていれば完全に人格が変異していただろう。呪いを自分の身の内から生み出し、誰に呪われることもなく自分の憎悪で反転現象を引き起こしていた程だ。
「ライダー、別に我は構わぬぞ……」
「すまんな」
「気にするで無い。些事だ」
そして、バーサーカーは一瞬で全員の視界から消えた。だが気配を全く消す事無く、狂乱の憎悪を撒き散らしながら真っ直ぐに突き進む―――既に乱闘状態に突入してるだろう、もう一つの戦場へ。
チンギス・カンの宝具である獣が発した咆哮により、既にキャスターの結界は完全に砕け散った。バーサーカーが脱出出来たのも、ライダーによる結界壊しの副作用。結界の再生機能を司っていた城も自爆により砕け、もう一度結界を張るにはキャスターとて時間が必要。そうなれば何処に誰が居るのか気配を察知して向かう事などバーサーカーからすれば出来て当然の芸当であり、そもそもマスターとサーヴァント同士で結ばれるラインの効力も復活している。
「早く行きなって、セイバー……ついでにそこの腐れ外道の屑神父もね。この人獣野郎はアタシが相手してやる」
「―――御武運を」
「―――感謝するぞ、愛弟子」
セイバーと士人の二人もまた、バーサーカーを追って戦場から離脱し、新たな戦場へ走り向かった。セイバーなど魔力放出を全開にし、戦闘機宛らのジェット噴射による低空飛行で、稀に地面を踏み付けて更に加速するで爆走していった。狂化を全開させて、森の木々を自分に当たった瞬間に粉砕させて進むバーサーカーに追い付く程の超加速であり、段々と距離を縮めていく程だ。無論、士人は人間なので強化を施しても一般自動車程度の速力しか出せず、二人の後を追って走り出す。
「―――愛弟子。愛弟子、愛弟子ねぇ……ったく。ホント、アンタは真性の人でなしだよ」
小さく呟くような独り言。誰に聞かせる訳でもなく、彼女の小言は空気に霧散して消えた。しかし、ライダーの耳はそれを聞き逃さなかった。獣となった騎乗兵の五感は鋭い上に頑丈で、様々な“衝撃”に耐性を持つ。例え鼓膜が破れる程の爆音の中だろうと音を聞き分け、視界が潰れる閃光の中だろうと色と形を識別する。
当然、アーチャーの言葉に込められた感情も、ライダーは悟れた。それが分かったからこそ、これ以上相手を理解する必要はないと判断した。もう既に殺す為には必要なだけの情報収集はでき、十分に戦略も練り込ませ、対弓兵戦用の戦術も構築済み。
「では、アーチャー―――戦争の時間だ。その命、奪い頂く」
「そうね。だからさ―――死にな、ライダー。狩り殺すから」
加えて
「―――遅い」
尤も、そんなことをする必要も彼女にはなかった。空間魔術に特化したアーチャーは、空間の歪みや罅にはかなり鋭く、縮地による空間転移など自前の第六感と合わせれば非常に容易く察知出来た。むしろ、移動が完了する前に何処に出現してくるのかさえ、アーチャーには理解出来る。
となれば話は簡単。出て来た瞬間を狙い、その限りなく零秒に近いライダーの隙を突き、自身もまた縮地に近い歩行で意識の狭間をすり抜ける―――背後を奪う。
アーチャーの手には薙刀。
彼女は空間に門を斬り開く鍵として、その概念武装に宝具化した魔術を施す。
「
本来ならばアーチャーとしての射出宝具であるが、彼女はそれを薙刀の刃に装填、展開する。言うなれば、宝具の付与魔術とでも言う奥の手だ。世界に門を開くことで空間に亀裂を与え、凝縮空間による大斬撃を放つ対軍宝具を、絶対的斬撃付与による対人宝具として応用する。
アーチャーの魔術の集大成である宝具、真名「
強烈な鋭さを持つだけに思える宝具だが、こと固有結界使いに対しては凶悪な空間干渉魔術である。
「―――ぬぅ……っ!」
迫り来る空間斬撃。間一髪で
とは言えライダーはこのカラクリに直ぐ様気が付いた。どうも発動させている
「―――ッチ、これだから外道非道の合理主義者は」
念力と偽門を応用した空間感知能力を暴かれた事をアーチャーは悟る。態とスキルのランクを低下させることで相手の能力に対応するとなどと、相手と自分の能力を徹底して道具扱いしなければ思い至らない。しかし、だからと言って自分が転移を利用した縮地もどきを止める理由にはならない。
アーチャーの空間切断は霊核さえ抉ればライダーを殺害可能だが、ライダーのマルミアドワーズも圧倒的膂力でアーチャーを一撃で霊核ごと霊体を木端に粉砕する。要は互いに一撃必倒であり、アーチャーとの戦闘に限りライダーはより精密に戦術と戦略を練る必要が出る。
「逃げ腰かぁ……っ!? そんなんじゃアンタが造った帝国も多寡が知れるってもんだね!!」
「逃げ腰じゃと、当たり前だ!? お主みたいな英霊に狩り殺されるなど、死んだ後で更なる恥の上塗りになるからの!!」
斬り合いながら沸点が低くプライドの高い王族に良く効く挑発をアーチャーはするも、そもそもライダーは生まれながらの王でもない。皇帝としての矜持の根幹となる手に入れた王権も、生涯を賭して生み出した国家権力だ。地べたを這いずり回り、泥を啜って、矢を幾度も射られ、刃で肉を切り裂かれ、仲間と臣下が何千何万と死に果てようとも絶対に自分で始めた戦いを諦めない男は、この世に溢れた人間が味わえる真の屈辱を理解している。
全て経験によって理解した上で、この闘争を楽しむ為に―――彼は自分から感情を爆発させる。
折角の相手からの挑発行為だ、骨の髄まで味わい尽くさねば。この女の命を略奪する時に味わえる喜悦が、一味も二味も違ってくるのだから。
「
永劫の時間が過ぎ去り、干物みたいな魂になった守護者の
なので、挑発には挑発を。黄金斧剣を正確無比な剣術で追い詰め、
「人が気にしていることを! 女の心が分からない蛮族の癖に!?」
「間抜けが、女心を理解せねば挑発など出来んわ!? それに
「なんだと、アンタもハーレム野郎なのか!? ならば尚更生かしておけないねぇ―――そして、死ねぇ……っ!」
アーチャーの人生において、ハーレム気質の男に碌な奴は全く居なかった。一人とて存在しなかった。あんなのは自分勝手に女を振り回す馬鹿野郎の名だ。生前も、その死後でもこの自論は変わらない。憎悪も嫌悪も、愉しめなければ召喚された価値がない。
今を殺し合うこの瞬間が、愛おしい。
命を奪い合うこの地獄が、喜ばしい。
これをする為に召喚され、聖杯を求めて現世に再誕した。サーヴァントなどと言う魔術師共の傀儡に、座に眠るこの魂を転生させたのだ。ならば罵り合うのも一興で、血を流すのも娯楽に過ぎない。嘗ての人生を思い出す為に必要な苦痛であるのだ。これはライダーとアーチャーが互いに共感する狂気である故に、殺し合えば殺し合うほど精神が高揚し、血を奪い合うほど己の獣性が牙を剥く。
「フン、やはり―――お主が我輩の怨敵となったのぅ……っ」
不死系か防御系のスキルないし宝具が無ければ、死に難いサーヴァントとて死ぬ時は普通に死ぬ。人獣化したライダーは擬似的な不死と防護スキルを展開しているが、相手のアーチャーはそれを打ち破る天敵。彼が最も得意とする飛び道具と機動力を活かした蹂躙戦術も、アーチャーは異能と戦術で以って拮抗する正に天敵の中の天敵だった。故にこのアーチャーとだけは、ライダーは自身の優位性を無価値と考え、普通に殺されて死ぬ当たり前のサーヴァントとして対峙せねばならない。
戦闘考察。ライダーは一目で薙刀のカラクリを理解し、刹那で把握。結界を容易く切り裂く空間斬撃は固有結界化した肉体を破戒し、自身の霊核を斬り壊すだろう。とは言え、心臓、首、頭部の霊核に当たればの話だが。それ以外ならば、魔力は要るが即座に再生可能。更に敵は此方に対する有効打を持ち、飛び道具を念力で無効化する。しかし、念力の出力を上回る力で手元から離れた矢および弾丸を遠隔操作すれば、アーチャーの弓兵殺しは打ち破れる。ランサーが解放した投げ槍ならば、念力の防護域を食い破れるだろう。要は射出した後に念力の神秘以上の魔術的な推進力と、更に必中の呪詛などの強制力があれば、奴の念力を突破出来る。
となれば必然、
単純に追尾し続け、敵を目指して進み続ける魔弾では射殺せない。となれば、それこそあの念力を突破可能な飛び道具など、ライダーでもゲイボルグ以外に思い浮かべない。あるいは、エクスカリバーなどの実体の無いエネルギー系の飛び道具か。士人であれば呪詛により敵を殺すまで魔力の限り追尾する「
弓兵殺し、とは実に的確な仇名だった。通常の飛び道具を念力で無効化し、念力に有効な飛び道具なら自身の技能で対処する。
「故、少し羽目を外すぞ、アーチャー」
―――気配は消失し、もはやその姿目視不可。
―――一撃一撃がサーヴァントの霊体を気で崩壊させた上に、洗礼で浄化する神域の暴力。
嘗て、大天使を素手で撲殺した聖者が居た。神代の真エーテルが満ちる世界において、神に仕える使徒を殺害する拳の奥義。簡単な話、真エーテルで構成される神霊を素手で仕留める能力とは、即ち真エーテルを生身で破壊する術理に他ならない。
「―――――――――!!」
左目の義眼を怪しく橙色に発光させ、アーチャーは何もかもを見逃さないと警戒態勢に移行。直後、死が唐突に吹き暴れる。
―――ヤコブの拳を中華の合理で振う脅威。
気配なく接敵し経路と回路をズタズタにする内部破壊を敢行し、霊体を肉体ごとグズグズに融解させる程の浄化させる絶命の一打。その一打を何度も何度も連続で叩き込む即死の嵐。キャスターの式神を喰らった際に略奪したのか、あるいは残留思念として土地に染み込んだ英霊の妄念を―――現世に召喚された後に喰らったのか。略奪王は座におけるその二つ名の通り、英霊の保有技能を喰らった霊体が持つ情報から見事略奪し、軍事兵器として運用してみせた。
その不可視必殺の一打一打を、アーチャーは対応した。
―――有り得ない、と普通ならば思考するだろう。驚き、硬直してしまうだろう。だがライダーは一瞬たりとも思考を止めず、それを可能とする技術の種を考察し、殆んど零秒で理解してしまう。
“義眼と念力に、空間を媒体とした物体探知かのぅ。何より勘が良い。流石は英霊狩りの奴隷ぞ、隙が無い”
薙刀の刃を牽制に使うことでライダーの動きを制限し、拳を見切り回避する。
―――狂気である。恐らくは、あの女は生前に“気”に関する何かしらの技術を得ており、英霊の技能として備わっておらずとも、知識としては理解しているのだろう。ライダーも大陸で暴れてた時、モンゴルの武術とは術理が異なる中華の武術に属する“気”については、生前からも知ってはいた。だが、これの異常性は英霊化した後に獲得することで理解し、そもそもまともな“英霊”の感性では圏境による天地同一による透明化は破れない。これを打ち破るには非常に優れた第六感か、同じく自分も圏境による気配察知能力で透明化した相手を見破る他に手段はない。高度な魔術の使い手ならば専用の術式を土地に仕込むことで経路を乱すか、仙人の類ならば相手に気の一撃を打つことで相手の経路を乱すことで透明化を破ることも可能だろう。
しかしだ、アーチャーはどのどれもが違う。
自分の能力を鍛え上げたことで、ライダーの圏境に対応しているのだ。
優れた第六感を軸に、探知能力を全力回転させて、この気配遮断を見破っている。不可視の筈のそれを、我流の術理で目視してしまっている。自分の感覚を魔術によって操作し、義眼に仕込んだ術式で脳を制御し、自分の直感を視覚と連結させていた。本来なら擬似的に感じ取れるだけの気配を、視覚情報として取り込んでいるのだ。
「ぎゃはぁはっはははははハハハハハ! 流石は、流石は英霊狩りだ!!」
皇帝特権により魔術師のスキルを得たライダーは、アーチャーが発動している術式を解析することで、この状態を細部まで分かっていた。
だから、略奪王は楽しそうに嗤っていた。
あの女は圏境を見破ると同時に、その肉体を限界を遥かに超えて酷使しているのも分かっていた。薬物投与による肉体改造と、魔術行使による過剰強化だ。動く度に激痛が全身余す所なく奔り、神経が悲鳴を上げて脳に訴えているが、彼女はそれを辛いとは感じていない。痛みを痛みと認識し、体中に苦痛を感じているが、それを精神的な苦痛として感じ取れていない。
恐らくは、この状態で戦うことがアーチャーにとって“普通”の事に過ぎないのだろう。
自分が全力を出せば激痛に襲われるが、もはやそれだけとしか認識出来ていない。
肉体が内部から崩壊し、肉と骨が損傷しようとも、自分で刻み込んだ戦闘専用の魔術刻印により問題はない。生前の師匠の一人である“コトミネ”から学んだ霊媒医療と、同じく師匠である“フラガ”から学んだルーン魔術によって思考レベルで自己治癒が可能だ。この二体の守護者も似たような回復能力を持ち、アーチャーの自己治癒も同等の回復力を発揮する。
「―――無駄よ、無駄無駄無駄無駄ぁ……ッ!!
アタシに中華の合理は効かないさ! 何せ、師匠の
つまるところ、慣れているだけ。生命力を操る体術によって透明化したライダーは確かに脅威だが、それもアーチャーからすれば戦い慣れた恐ろしさだ。一撃必殺の拳も脅威だが、基本的に凶器が急所に当たれば死ぬものだ。毒を仕込んだ得物であれば尚更だ。強いと言えば強いのだが、魔術で強化されたナイフだろうと、霊体を融かす洗礼浄化であろうと、急所に当たれば一撃で死ぬのは同じ事。
「なに、拝金主義者だと?
モンゴルによって支配された国の武術を、その支配国の初代皇帝が奥の手として使う皮肉。隠し玉として宝具内で練り込み、皇帝特権として運用したが、よりにもよって最初の戦闘で失敗する。それも念の為に中華関連の文化と余り関わり合いが無さそうなサーヴァントを相手にしたのに、その英霊の生前の師匠に中国武術の使い手が居るなどと、流石のライダーでも予測不可能。
「勿論、洗礼詠唱にも慣れているんだ。こっちも師匠に使い手がいてな!」
「そうかの、凄いの! だが死ねぃ……!」
刹那―――ライダーは魔の迅速さで背後を取った。瞬きする間もなく、後頭部、肩、背骨、股間を狙う拳の連打。
「ホント死ぬ……!? ただの縮地やめろ、マジやめろ!!」
次元跳躍でも空間転移でもない単純な歩行による移動術。しかし自前の空間探知に引っかからないために、アーチャーからすれば脅威の度合いは次元跳躍を遥かに超える。
体術のみによる移動と、そこから繋がる格闘術。アーチャーは何とか動きを見切り、拳も全て薙刀で逸らし切った。しかし、そもそも肉体の規格が違い過ぎ、技量もライダーの方が僅かに高い。押し切られるのは目に見えており、避け切れなかったライダーの拳が体を僅かに掠るだけで、肉体が内部から砕け、霊体が溶け出し、皮膚から血が流れ出た。
とはいえ、それはライダーの方も同じ。薙刀の刃が掠る度に固有結界に亀裂が奔り、魂そのものが痛みの余り悲鳴を上げ続けている。
「だろうぞ! お主の命を奪いたいからの、
「ふざけんな! アタシは普通に死んだ普通の婆さんであって、そんな変なお婆さんじゃないっつーの!?」
「英霊はのぅ、全盛期だのなんだの言って若作りばかりぞ。若くして死んだ奴以外は、老け込んだ爺婆の魂の癖にの!?」
「それアタシのこと言ってるんだな! 分かってるぞ!
……ってか、そー言うアンタは全盛期が中年のおっさんじゃないか!?」
「男はこの位の年齢が一番油が乗っておるのだ!」
「女だってそうさ!」
「……それはあれかの、もしや性欲的にかの?」
「この、こんの……セクハラ大魔王が!!」
「―――愚か者め!
男なんて生き物はの、死んだ後でもこんなものぞ。特に意味もなく婦女子をからかうのが好きなのだ。美人ならば尚更よ」
「合理主義者の癖して、そんな所は非効率的な糞野郎だ! 死んで座に還ってアタシに詫び続けろ、略奪王!!」
「げひゃはははひゃははっは! 良い良い、実に良い罵倒ぞ!! 生きの良い女は大好きぞ、強い女ならば最高ぞ!
素晴しく、その命―――奪い甲斐があるからのぅ……!」
「あっそ。それはこっちも同じことだ。
アンタみたいな凶悪な大英霊なら、その魂―――狩り殺すのも愉しいからなぁ……!」
殺し合いながら、興に乗って喋り、叫び合う。二人とも、敵を殺すのが楽し過ぎて我慢出来ない。いや、相手がアーチャーでなければ、ライダーでなければ、二人とも殺意で以って淡々と殴り殺し、斬り殺すだけなのだろう。だが、互いに今のこの臨死の連続を楽しめているのが、命を奪い合う刹那の死が愉しめているのが、面白くて堪らない。そんな狂気を理解し合い、そんな地獄を相手も“普通”に思えているのが嬉しかったのかもしれない。
可笑しな自分と共感し合える可笑しな殺し相手。
そんな異常極まる状況が、欲望に狂う遊び人みたいにノリノリで、病に犯された狂人みたいに殺し合えている理由だった。
「―――ほう」
そして、ライダーはそんな風に呟きながら笑みを溢した。場の流れを完全にライダーが掌握し、戦闘のリズムをアーチャーは中々自分方へ奪い取れずにいる。
一時戦闘が中断され、ライダーは皇帝特権を解除。
透明化は解かれ、人獣の姿を再びアーチャーの前に出していた。
「……ッチ、面倒臭いな。それ、仕切り直しか」
「実に便利ぞ、この技能はのぅ。生前ならば戦場にて戦術的に良く使ったが、それでもそれはただの人間の兵士が持つ技術。英霊と化すことで鍛えた技が概念を持ち、サーヴァントとしてスキルを行使する。それだけで、ただの技術がここまでの道具となる訳ぞ。
まぁ、我輩のこれは皇帝特権と言う概念と化した英霊の技能だがな。宝具と同じく、スキルもまた伝承の結晶故、殺し合いでは実に有能よ」
そんなライダーだからこそ、こんな風に会話をするのさえ自由自在。圧倒的カリスマ性も無造作に放ち、逆らい難い嫌な雰囲気さえ漂っている程だ。
「にしても、お主相手ではヤコブの格闘技も効き難いの。中華の気の武術も、完全に対応慣れしておるし、実に殺し甲斐がある」
「そりゃまぁ、生前に聖杯戦争経験済みの魔術師だからさ。そもそも修行相手が中国拳法の使い手でね、それには慣れてるさ。それと杖から極太ビーム撃つ預言者、と見せ掛けた拳で語るエジプト出身の聖職者と戦ったことがあってな。そん時にソレ、ユダヤの聖人が持つヤコブの使徒殺しは覚えた」
それにアーチャーもライダーと話すのは楽しいのか、何時でも殺せるように隙は窺うも、会話は会話として楽しんでいる。次の瞬間には首を斬り落とし、心臓を串刺しにする準備をしながら喋っている。歳を取った老婆のように枯れている様で、獣よりも禍々しい獣性を漏れ出しながら笑みを浮かべていた。
「それはまた、随分と悪質なイカサマぞ。人類史に刻まれた歴史と伝承からだけでは、お主の経歴を調べ、手の内を探ることが出来んと言う訳ぞ」
「良く言うな。そっちはそっちで人類史に刻んだ信仰を使って、阿頼耶識から知名度の度合いから色んなボーナス特典貰ってんだからさ。実際、羨ましい限りだよ。死んで人間から英霊と言う来世に転生した程度のことで、伝承の具現として宝具やら前世以上の技能をスキルにして得られるんだからなぁ。
アンタの皇帝特権だって、生前は才能があったとは言え、ただの普通の人間が持つには有り得ない能力だ。宝具の固有結界なんて最たる代物さ。アタシも座に召されて強くはなったけど、無名の守護者じゃアンタみたいに伝承や信仰で得られる能力は皆無だよ?」
「愚痴るのぅ、分からんでもないが。そりゃ
「……ま、ここが日本だったのが運の尽きさ。
この国でアンタの知名度は、この国出身の英霊よりも高い場合があるほど有名なんだろうけど……アンタらモンゴルと戦い、征服されなかった国なんだ。そんな国で聖杯戦争をやるとなれば、知名度が高かろうともさ、やっぱ大陸で召喚されるより弱体化するのは必然だ。我ら英霊に対する人の信仰とはそういうモンでもあるから。アタシにはあんま関係ないけど。
アンタが本場の大陸だったら、陸上移動要塞と固有スキルが使えたんだろうけど、この聖杯戦争では―――使えない」
ライダーは固有結界以外に持つとされるもう一つの宝具「
固有スキル「獣神の加護」も、帝国皇帝始祖として持っていた。英霊化した後に世界中から信仰され、蒼い狼の神として自分が自分自身に与えるモンゴルの祝福だ。他のモンゴル皇帝や国家建国で活躍した英雄も、このチンギス・カンによる加護をスキルとして保有するが、このチンギス・カンが持つ「獣神の加護」こそそれらスキルの大元となる唯一無二の原典であった。
「ほう。確かに大陸と比較すればの、この島国では知名度が高かろうとも万全足り得ない。故に宝具は固有結界一つだけぞ。サーヴァントとしてのスキルも一つ概念として保持出来ておらん。似たようなことは皇帝特権と宝具で如何とでも成るがな、やはり有る方が戦術の幅は広がり、戦略構築が便利にはなろうて。
―――……それを、何故お主が知っておるのだ?」
「言う必要がないし、それは野暮ってもんさ」
「成る程のぅ。まぁ邪魔者とは言え、復讐相手でもない美女の口を無理矢理割るのは趣味でない。お主相手に愉しめることだけを、我輩は骨の髄まで楽しめれば良いだけだしの。相手の秘密なぞ幾ら気になろうが、ただ気になるだけぞ。
我ら英霊、所詮は死人よ。
偶然訪れた来世での稀人同士の邂逅こそ、この聖杯戦争ぞ」
秘密は秘密のままで良し、とライダーは笑った。出会えたのなら、殺し合える現実こそ幸福なことなのだと理解しているからだ。
「そうさ、アタシらはもう死人だ。肉体はとっくに腐れ朽ち、精神も座に堕ちた時点で変貌して、別の何かに生まれ変わっている。この魂もさ、生前と同じ様でいてもね、中身はもう人間以外の何かに変わり果てている。まるで一回死んで転生を成した後のような別人のそれと同じなんだ。いや、事実今のアタシらはそう言う風に、死ぬことで人間から英霊と言う現象へ転生した後の魂なんだろうね。生前なんて言葉よりも、本当は前世と言った方が正しいのさ。アタシたちは、アンタもこの“あたし”も……人間じゃなくて、英霊なんだ。
死んで全て終わりにした筈なのに―――我ら英霊、失った命を再び捨てて殺し合う」
会話を楽しみたいからしていたが、アーチャーは段々と精神が煮滾ってきた。相手を殺したいと思い、ライダーもまた同じ感情を共感している。
闘争。殺人。殺戮。戦争。名誉と繁栄の裏にある深淵と邪悪。
それらは人の業であり、そんな業の結晶もまた英霊である。英霊に対する信仰とは、正にそんな地獄の塊で出来ている。
「んじゃまぁ―――仕切り直しはここまでさ。
折角殺し合うことを愉しめる相手なんだ。アンタはアタシにとって最高の
「有り難い話ぞ。ならばこそ、造作も無く死ね。枯葉の様に死ね。この邂逅こそ聖杯戦争だと言うのであれば、この死もまた我輩とお主の運命ぞ。
故に―――愉しみ給え、我が怨敵よ。
貯蔵した己が業全てをさらけ出し、それを奪い取る喜びを我輩に与えてくれ」
軍刀二本。ライダーは皇帝としての己が使う本来の得物を、今の自分の大きさに合わせて内側から取り出す。それに対してアーチャーは薙刀を構え、更に深く相手の動きを警戒する。
……が、無駄だった。繰り出される剣戟は、既に理外の異界常識。固有結界と同化したことで、己が技術を魔法の領域にまで叩き鍛え上げた。剣筋は誰のスキルも皇帝特権で模していない自分本来の、戦場で死に触れながら学んだ独自の我流殺人技術。しかし、その技量を宝具と皇帝特権で補助し、有り得ない領域まで鋭さを増していた。
「――――……!!!」
死後も含め、これ程の狂気に
……あれは、略奪した全てを技に注ぎ込んだ剣の術理だった。
人生全てを修行に費やした武人であろうと、神代から現代まで生きて鍛錬を続ける魔人であろうと、経験によって構築されたチンギス・カンが使う殺人剣には及ばない。あの皇帝が振う刀は、全ての略奪兵の経験を情報として研磨し、大陸で築いた数千万全ての死を凝縮させた業。
刹那、刹那に煌くは―――
「斬る」
―――この場でセイバーに殺された、デメトリオ・メランドリの剣でもあった。
残留思念として土地に付いた聖騎士の残滓を取り込み、チンギス・カンは己が剣技を死後に完結させた。あの剣士が最期に至ってしまった領域をライダーは幻視する。
聖堂教会の人造聖剣。聖騎士が死んだ後、この場に落ちて、地面に今も転がっているあの剣。それをアーチャーは知っており、その本来の持ち主も知っている。それの剣術を理解している。そもそも生前、この第六次聖杯戦争で手に入れた収集物の一つであり、現世に召喚された今の自分が持つ蔵の中にも存在している。
「それは、その技は……―――」
「斬るぞ。ああ、全て奪うとも。お主の命―――斬り奪おうぞ!」
繰り返し閃くは、無天の剣。ミツヅリを圧倒する程の、純粋な剣の獣なり。
「―――略奪王……!」
賭けるべきは、己が命のみ。勝率など思考する価値も失い、勝機など忘我の果て。意識さえ燃やしてアーチャーは自分自身を稼動させ、このライダーと斬り合っていた。防御と回避に専念するのではなく、押されつつも、彼女は対等に殺し合っていた。
その奇跡を略奪王は喜んだ。何て、命を奪う価値がある怨敵なのか。今の自分の強さを彼は正確に理解している。英霊である時点で、そもそも勝ち目など無い程に―――強く、ただ強く。
皇帝の技は英霊全ての総決算とも言える集大成故に。略奪を繰り返す程に、彼は限りなくソレに近づけるが故に。
殺すのではなく、殺し合い―――
奪うのではなく、奪い合い―――
―――略奪王は戦場を住処に生きる事が全てだった。
「―――…‥!」
「……―――!」
宝具など、ここまで至れば既に不要。魔力を溜めるなど自殺行為。互いに視線を交差させる暇もなく、数十手先の未来を殺し合い、数百手先の有利を奪い取る為に今を駆け抜ける。つまり、逃がさないし、離さない。互いに互いを引き寄せ、離脱させて真名解放の好機など許す筈もなく、ただただこれを喜び、尊ぶことに専念する。
時間を忘れ、何もかもを加速さえ―――双剣と薙刀は、幾度も幾度も切り裂きあった。
「―――
それをアーチャーは自分から破り棄てる。永遠に続きそうな剣戟を、自分の手で終止符を打つ為に。
「……ヌゥ―――!」
悪寒を信じ、ライダーは更に加速した。あの呪文には殺意が凝縮されていた。言葉を瞬間に死を味わえる程の狂った力が込められていた。
―――二刀必殺。
メダンドリが至った刃の次元跳躍を引き起こす程の、剣技と魔力のみで空間を切断する斬撃。それを交差させて振り上げた双剣を叩き落とし、周囲の空間に斬撃痕が残留する程の魔剣がアーチャーに繰り出され―――それを、彼女は薙刀の一刀のみで受け止めた。右腕に亀裂が入り、衝撃で右肩が砕けるも、彼女は大英雄さえ造作も無く斬殺する魔法の領域に至った技を凌駕した。剣の力を全て受け流すことは出来ずとも、ほぼ全ての威力を逸らすことに命を賭して、アーチャーは右腕が使えなくなった。
そして、呪文の効果が発動する。
彼女は己が宝具を、薙刀の刃から瞬時に移し替えていた。対象は残った左腕―――宝具の義手だった。
「――――――――――――」
―――迫り来る手刀の一閃。ライダーは死を視ていた。殺意によって必殺の意を出し、彼は自分の必殺を誘い出されたことを理解した。
尤も、それこそがライダーの狙い通り。
この瞬間こそ、今までの全てが集約される決着の時。
既にライダーは右手の軍刀を手放し、自分もアーチャーと同じく右の獣腕を強化して繰り出していた。既に先程の一閃で空間破壊に刃が耐え切れず、薙刀との衝突で二刀とも使い物にならずにいた。
「――――――」
「――――――」
互いに雄叫びを上げる時間もなく、無音の世界で、互いの腕が交差し合う―――抉り合う、その激突。獣の爪は宝具を裂き、既にAランクを凌駕する殺傷能力を誇り、チンギス・カンが出せる最迅速且つ最膂力。義手の刃は空間を容易く抉り、固有結界であろうと孔を空ける異能と化し、ミツヅリが出せる徒手における禁じ手。
……ああ、と人獣は未来を悟る。
己の腕が手刀により裂かれる光景を、彼は加速した体感時間の中でゆっくりと見えていた。
まず最初に中指が抉れ、手の平が縦に切り裂かれ、そのまま二の腕を真っ二つにしながら自分目指して突き進んでくる怨敵の魔手。斬殺の義腕とでも言うべき、固有結界と化した敵が相手だからこそ有効な、人獣チンギス・カンのみを確実に殺害する結界殺しの禁忌。
ミツヅリの黒腕は突き進み―――獣の心臓を遂に捕えた。
鋼鉄の皮膚を裂いて、肉をくり抜いて、骨を突き砕いて―――チンギス・カンの心臓を握り締める。
「アタシの勝ちだ」
「おうとも。そして、
彼女は敵が感嘆と共に漏らした敗者の言葉を受け入れ、握った心臓ごと義手を思いっ切り振り抜いた。そのまま彼女は心臓を握り潰し、蘇生など有り得ぬ様に砕き捨てた。
そして、ライダーは遂に固有結界を維持する霊核を抜き取られ、人獣からただのサーヴァントに姿が戻った。本当なら倒れ伏して休みたいのだが、召喚されたこの現世における最期の時だ。彼は自分の意地と突き通すと決め、その両脚で立ったまま自分を殺した女を視た。
「すまないな。アンタが呪われていなけりゃ、結果は違ったかもしれない。けれど――――――」
「野暮だのぅ。お主はあの略奪王から勝利を奪ったのだぞ、存分に誇り給え」
お主の勝ちなのだ。もしこの勝利に何か価値があると言うのでのあれば―――誇ってくれ。誇って欲しい。
「―――そうか。じゃあ、有り難く奪わせて貰うよ」
チンギス・カンのそんな思いを感じ取れたのか、アーチャーは実に誇らしそうに笑った。
「……そうするが良い。
さぁ、行け。敗者を悼む時間なぞお主には無かろう」
無言のままアーチャーは消え果てる男の死体を置き去りにし、走り駆けて行った。ライダーの内心に溢れるのは、間桐桜に敗北した時点でこうなるのは必然だったと言う後ろめたさと、味わえた戦争そのものは最高の出来栄えだったと言う満足感。
しかし、自分を殺したのは人類史に名も無き守護者。アーチャーと言うサーヴァントは歴史に名を残さぬ、人の世のを守るだけの兵器。チンギス・カンが生前に楽しみ喜んだ、この世を護る為の阿頼耶の奴隷、その為の生贄で。だからこそ、国家の滅亡と人民の殺戮を偉業の一つに持つ英雄として、彼女に敗北するのはそう悪い気分ではなかった。
結局のところ自分が始めた闘いの果てならば、こうやって殺されるのも―――つまらなくはないのだから。
「まぁ、すまんかったの、デメトリオ。この我輩を戦友に態々選び、こんな楽しい戦場に召喚して貰ったマスターを勝たせられなかったのは残念だった。だが、そう悪くない戦争であった。
この度の侵略、実に命の賭け甲斐のある………――――――――」
とのことで、チンギス・カンが負けました。彼もアーチャーが相手だと勝てないかもしれない、負ける可能性の方が高いかもしれない、と思いながらも、既に敗北した身だからとノリノリと戦い抜きました。桜に呪われず、マスターも死んでいなければ、負けそうになった瞬間にとっとと戦略的撤退を選ぶのですが、それも野暮だと死ぬまで勝ちにこだわって負けて、モンゴルの英雄として殺されることを選びました。
それは兎も角、カルデアラジオを聞きました。まさか声優のキャラがあそこまで濃過ぎて、あんなにぶっ飛んで面白可笑しいとは考えていませんでした。いやぁ、早くノッブとかジョージとかゲストで来て欲しい。