神父と聖杯戦争   作:サイトー

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 Fate、始まりました。楽しみにしていたチャイカ二期もありますので、アニメが毎週楽しみです。
 そして、後書きで趣味が暴走していますので、注意して頂けますと有り難いです。


67.抑止の化身

 黒く、暗い、沈んだ悪夢。間桐亜璃紗は戦場を前に、夢で垣間見た契約したサーヴァントの過去を思い出していた。

 剣士(セイバー)弓兵(アーチャー)槍兵(ランサー)騎乗兵(ライダー)暗殺者(アサシン)魔術師(キャスター)狂戦士(バーサーカー)

 聖杯戦争で召喚される七騎の英霊達は、此処とは違う何処ぞの平行世界でも同じ。第五次聖杯戦争の最後、聖杯を破壊したセイバーはカムランの丘に戻った。アラヤとの契約に従い、彼女はまた何処かの世界で聖杯を得る為に召喚に応じた。

 彼女が再度挑んだのは―――第六次聖杯戦争。

 しかし、何かが違った。自分が聖杯を破壊した聖杯戦争とは致命的なズレが生じていた。アルトリア・ペンドラゴンを召喚した魔術師は白い髪と褐色の肌をした青年で、名は衛宮士郎。この世界で今のセイバーを召喚した士郎とは違う同じ魂を持つ誰か。あの“アーチャー”と瓜二つの姿をしているマスターだった。

 それが、どうしようもなく致命的だった。

 何故なら、その世界における“自分”はもう妖精郷へ帰還していた。

 第五次聖杯戦争において、英雄王ギルガメッシュを撃破したのはセイバーとして召喚されたその世界の自分であったらしく、衛宮士郎は言峰綺礼と言う神父を倒し、聖杯戦争を終わらせていた。彼女は召喚され、その話を聞き、ここが平行世界であるもしもの未来だと確信した。だからこそ、本来ならば召喚されるべきこの士郎の“英霊(セイバー)”ではなく、平行世界の“自分(セイバー)”が召喚された原因も一瞬で分かった。

 つまり―――この世界の自分(アルトリア)は聖杯を諦めた。

 守護者ではない故に英霊の座ではなく、魂が妖精郷(アヴァロン)に渡っているのが理由だった。確証は無かったが、この衛宮士郎に自分ではない自分は救われたのだろうと、はっきりと確信出来た。救われたからこそ、聖杯に対する執着も失くし、あの滅びを乗り越えたのだと分かった。

 そんな自分が存在している事を、彼女は知り得てしまった。

 そんな自分の在り様を聞いて、自分ではない彼女の答えに納得してしまった。

 召喚されたセイバーはその事を内心で理解していたが、目の前の士郎に伝える事が出来なかった。記憶に齟齬が生じていると偽って、最強のマスターが召喚した最優のサーヴァントとして、幾人もの強敵難敵を撃破していった。

 

「シロウ。気に病む必要はありません。何時かまた、貴方は貴方の私と出会える筈です」

 

 気が重かったのかもしれない。今の自分は乗り越えていない。救われていない。士郎、貴方は私を救ってくれたのに、その事実がこんなにも嬉しいのに、この自分には関係がないのです。

 ―――自分は、貴方が愛した自分ではないのです。

 セイバーの苦悩は更に深まるのも仕方が無かった。救国の為の聖杯なのに、聖杯が自分にとって本当は不必要なモノだと、答えだけを知ってしまった。サーヴァントとして契約した影響で、この世界の衛宮士郎が経験した第五次聖杯戦争を知ってしまった。

 

「フランス皇帝に、不可能などと言う低俗な言葉は似合わない。そうだろう?」

 

 生産品のサーベルと銃剣付きマスケット銃を持ち、派手な帽子が良く似合う弓兵。

 

「神の子殺しの処刑人だとよ、笑わせる」

 

 飾り気が一切ないローマ帝国の鎧を着込み、簡素で変哲も無い槍を持つ槍兵。

 

「さぁ、殲滅の時間だ。出来る限りの憎悪で俺を恨み、この世に怨念を残して死に果てな」

 

 額に淡く静かに輝く宝玉を宿し、空に浮かぶ黄金の舟を操る騎乗兵。

 

「お主が俺を殺せるまで強ければ強い程、此方も命の賭け甲斐が有ると言うもの。自分よりも敵が強くなければ、俺自身の最強を誰にも証明出来ないのでな」

 

 刃の如き鋭過ぎる殺気を纏い、二本の刀を持つ着物姿の暗殺者。

 

「儂ゃのぅ、造りたいだけさ。生前は面倒事で創作を腐らせちまったがの、今生はただただ最高の傑作品達を生み出したいだけなのよ。聖杯を作る為にゃ、本物がどんなモノなのか知っておく必要があるんでなぁ」

 

 綺麗に剃り上げた禿頭と、筋肉質な体を誇示する小柄な老人の魔術師。

 

「正義の理念とはそも、この吾から発生した尊厳よ。だと言うのに、数千年経っても、世界は相も変わらず醜く小汚い。

 ああ、全く以って―――嬉しい限り。

 今の世ならば、この吾の立法を完成させるに相応しい混沌だぞ」

 

 そして、バビロニア帝国初代皇帝である狂戦士が、怨敵である騎士王へ壮絶な笑みを浮かべていた。

 ……だが、その全てのサーヴァントとそのマスター達を、セイバーと士郎は上回った。敵の英霊達は誰もが強大で、魔術師らも一人として油断出来ぬ難敵だった。

 中でも革命王と立法王とは、壮絶な死闘を騎士王は繰り拡げた。だが、セイバーの他に残った最後のサーヴァントはアサシン―――無敗の剣豪、宮本武蔵。

 彼は問答無用で最強だった。無敵とさえ言っても良い。

 暗殺者らしからぬアサシンであり、剣術による真正面からの白兵戦を得意とするが、本質は其処では無い。そもそも彼よりも戦場で猛威を振えるサーヴァントは珍しく無く、霊格も低くは無いが古代や神代と比較すれば如何しても劣ってしまうだろう。

 しかし、それこそアサシンには関係が無かった。

 勝てない相手ならば、勝てる状況を生み出せば良い。敵の弱点が無ければ、自分で作り出せば良い。敵に敵を殺させ、弱らせ、または自分が弱らせた敵を他の誰かに殺させた。アサシンの同盟相手であったライダーも結局はアーチャーとの戦いで浮遊戦艦を失い、成就した聖杯の所有権を巡りアサシンと殺し合った。彼ら二人は最初の契約で示し合った通り、武人の本懐とも言える決闘をした結果―――ライダーの願望は、最後の最期で斬り潰された。

 

「ハンムラビは強かった。正義狂いの狂戦士(バーサーカー)故、色々と面倒なサーヴァントであったがな。だが、俺の兵法が最強足り得る良い判断材料だった。

 何より、本来ならばアシュヴァッターマン殿はそも、俺では殺せぬ魔人だった。だが、貴様とアーチャーの御蔭で俺でも殺し得た。

 感謝するぞ―――ペンドラゴン殿!

 我が主、間桐桜へあの聖杯を漸く捧げられる。それ以上に、お主を斬り殺せば―――俺は最強の理を自分自身に示し、この死後にやっと答えを得る事が出来るのだ」

 

「貴様は、ただそれだけの為に―――」

 

「―――無論。殺す為に斬ったのだ。理由など無い。示すべき自己の在り方を、今生で我が生命を支えて下さる主殿に見せねば、英霊以前に男とは言えぬだろう。

 ……しかし、そも生前の俺は数多の敵を斬り殺し、お主と同じ様に強くなった。強くなる為だけに人の命を奪い取った。戦国の世が終わった大平の世でも、幾つかの戦場を彷徨った」

 

「貴様程の武人がそれを良しとするのか!」

 

「他に俺ら英霊は何も持っておらんだろうが。修羅の無道こそ辿り着ける唯一の真実ぞ。あの世から呼び起こされた我ら七人の英傑らは―――揃いも揃って、死んだ方が良いただの人殺しよ。誰も変わらんさ。

 だからこそ、消えて無くなれば良いのだ。

 またこの世で死ぬ為に、殺される為に殺し戦えば良いのだ。最後まで残ったお主も俺も、やはり至れるのはこの無常のみだ」

 

 セイバーは知識として、アサシンの過去は知っている。戦う為に戦って、自分を鍛える事に生命を賭した無敗無敵。何より、アサシンは伝承に色濃く残る果たし合いだけを行っていた訳ではない。時の日ノ本の国を支配していた徳川に雇われ、戦場で多くの人を斬り殺して報奨金を得ていた。有名なものを示せば、最後の合戦である関ヶ原や、天草士郎時貞が主犯とされる一揆の鎮圧にも参加していた。そしてあの島原の戦場では、無辜の民であった筈の民草が反逆の徒となり、アサシンはその天草の者共らも大勢切り捨てた過去も持つ。

 しかし、其処にセイバーのような葛藤は無い。

 アサシンには人の身に余る理想は無い。彼はただただ人の臨界を越える修練の果てに、自分の理を見出したかっただけ。そして、その人生の結末として己が兵法を作ったが、本当はその兵法を実戦でより証明したかった。

 

「言葉は無用か。貴様に語ったところで、何もかもが遅いのだな」

 

 それにもう、アサシンは止まる訳にはいかない事をセイバーは知っていた。間桐桜は既に遠坂凛を泥に捕え、衛宮士郎も凛と同じ場所で生きながら地獄に落ちている。聖杯の中に融けた桜により、彼ら二人は生きてはいないが、死んでもいない。桜を操っていた臓現も死に、聖杯が完成するまでの門番として、アサシンだけが受肉した状態で最後の敵である彼女を待っていた。自分と同じく―――泥によって受肉したセイバーを、殺す為だけにアサシンは生きていた。

 とは言え、セイバーの汚染は軽度だが、アサシンは直接聖杯と繋がっていた。アサシンが正気を保てられているのは、自身の願望を果たすべき相手が目の前に―――最強の好敵手であったセイバーが、存在しているからだった。

 

「ああ。言わずも分かっている筈だ、聖剣使い殿」

 

 呪詛が魂に染み込もうとも、二人はもう止まらなかった。互いの主は聖杯の中におり、アサシンは守べきモノの為に、セイバーは彼らに救済を与える為に戦う。戦わねばならない。どちらかが死なねば、聖杯戦争は終わり迎えれれない―――

 

「アサシン、あの死地の続きです。此処でその命―――討ち取らせて貰う!」

 

「受けて立とう。二天一流、宮本武蔵―――参る」

 

 斬り合って、互いの血が流れ散る剣士達の光景。それを夢と言う形で見ていた亜璃紗は、この世の何よりも尊いと感じていた。

 人生の果て。人間が辿り着ける極地。技を通り過ぎた業の結晶。

 騎士王は戦場を生きた騎士だ。何もかもが強くなければ、何も守れ無かった。だが、アサシンは敵の斬り方を只管に試行錯誤し、守るべきものは最初から自分の命唯一つ。敗北は即ち死であった。彼にとっての誇りとは、自分の命そのもの。

 ―――負ければ死ぬ。それで良かった。

 その違いが明暗を分けたのも、無敗の剣豪は理解していた。

 全てを自分の剣に捧げた己。逆に、彼女は自分の剣で以って全てを国へ捧げていた。そして今この時も、彼女は尊いモノを守る為に、命を掛けて彼と果たし合いに挑んでいる。

 刹那刹那の衝突で、セイバーの刃とアサシンの刃の間で弾ける火花。アサシンはそれが彼女が成す剣の結晶で在るかのように、それを大切に愛でるように、赤子よりも純粋な笑みで死合を愉しんでいる。互いが織り成す互いの一刀一刀に、今までの何もかもを捧げて斬り合った。

 故に―――終わりは直ぐに訪れた。

 二人の斬り合いは十合にも満たなかった。

 

「―――心臓と肺を潰したのだがな。いや、相討ち覚悟とは恐れ入った」

 

 セイバーは死に体だった。刀で急所を切り裂かれ、突き抜かれ、刺さった小太刀で心臓も殆んど破れている。臓器の大半が死滅し、手足も切断され掛っていた。逆にアサシンは血を一箇所からしか流しておらず―――その、心臓から流れ出る傷口一つが致命傷となっていた。

 

「――――――……」

 

 心臓に刺さったままの小太刀を、セイバーは引き抜いた。鞘の治癒で傷は言えるが、負担が大き過ぎる。受肉しているとは言え、今の状況では延命処置が限界。何より、刀身には竜殺しの術式が込められている。アサシン自身が手ずから概念を刀へ打ち込んだ対セイバー用の武装だった。それも大量の魔力を使えば生き永らえる可能性もあるが、聖剣の解放の所為でそれも余りは無い。

 

「お主の勝ちだ。出来るなら、俺の無敗を破った事を誇ってくれ。

 そして、俺を殺したその剣で以って―――この下らぬ戦争に、最期の止めを刺してやれ」

 

 セイバーはアサシンの死に様を最期まで見ることはしなかった。言葉を掛ける事も良しとしなかった。倒した剣士の静かに澄んだ眼を見て、この結末に満足している事が分かっていた。言葉は無用。そう理解しているのに、セイバーはこの最後に無粋だと思いながら―――

 

「貴方に勝ったのです。当然でしょう」

 

 ―――そんな、勝ち誇るように微笑んでから、破った剣士に背後を向けた。その後、何を思いながらアサシンが死んで逝ったのかセイバーは知らない。けれども、それで良い。果たし合いに勝利した者は、倒して殺した相手の死を惜しんではならないのだと、彼女はそう思って聖杯の元まで歩いて行く。今の彼女はもう、走れるだけでの余力は無かった。

 そうして彼女はたった一人で遂に、嘗てと同じ様に聖杯まで辿り着いた。

 邪悪に呪いが澱み、生まれたい生まれたい……と、赤子として誕生する直前の胎児が鼓動していた。あの中に、シロウが囚われている。間桐臓硯によって変異した桜と凛も、あの地獄の牢に墜ちている。あれは具現した地獄と言う現象そのもの。

 この世全ての悪(アンリ・マユ)とは人が生み出してきた地上の地獄が、そのまま悪神として形成された悪意であった。

 

「イリヤスフィール……」

 

 その悪神の偶像の前で遺体(聖杯)が横たわっていた。彼女の力でセイバーはここまで来れた。シロウ達がアンリマユへ完全に融けていないのも、彼女が命を捧げてあの内部で守っているから。

 聖剣を解放すれば、この聖杯戦争も終わりを迎える。

 無防備な聖杯を破壊すれば、世界はまた何時も通りに救われる。

 だが、中に居る彼らの魂は未来永劫救われず、地獄と共に消え果てる。あの中から救わなければ、イリヤの犠牲も無価値となる。何の為に彼女がこの段階まで悪神の覚醒を遅らせていたのか、分からなくなってしまう。

 

「……――――――」

 

 その非情な現実を打ち砕く術を、彼女は知っていた。その方法を用いて、アルトリアはセイバーとしてこの世界に辿り着いた。

 しかし、言えば終わる。

 救国もなくなり、あのカムランが現実となる。過去は無かったことは出来ないと、彼女もそう思えた。なのに、皆が救われるもしもの希望を棄て去れない。だからこそ、目の前の現実だけは負けない。理想に燃えたあの日々は過ぎ去り、終わってしまったのだとしても―――騎士王(アルトリア)騎士王(アーサー)で在る限り、自分の理想にだけは負けないのだと、そうシロウに誓ったのだから。

 

「―――契約を此処に」

 

 現界する為の核が抜け去ったのをセイバーは感じた。アサシンの手により既に死んで、鞘の力だけで動いている身とは言え、生物として必要な何かが抜け落ちたのを悟った。

 

「聖杯の寄る辺を失くし、身命を彼らに捧げる。

 世界よ、我が魂―――アルトリア・ペンドラゴンを生贄に、聖杯に囚われた者達へ救いを!」

 

 霊長の無意識集合体。アラヤの正体は、無慈悲な審判に他ならない。奴らに意思はなく、自分達(ニンゲン)が生き延びる為にのみ活動する不可視の現象。

 だからか、アルトリアのこの決定にも否定はない。

 結末が同じなら、何も変わりはしない。世界の理である唯の機構に過ぎない故、守護者の契約が結ばれるのであれば―――再度、彼女に有償の奇跡を与えよう。

 

「どうか、救われて下さい―――シロウ」

 

 その時、セイバーはアヴァロンを感じ取った。士郎はセイバーと繋がる事で聖剣の鞘を投影し、その身に聖杯戦争の期間限定とは言え完全な鞘を取り戻していた。

 だが、あの鞘のオリジナルは自分(セイバー)ではない自分の鞘の複製。自分が保有するこの聖剣の鞘では不足だった筈。繋がりを持ったとは言え、聖杯内部まで確固たるラインを感知するのは無理だった。それなのに妖精郷の名を冠する鞘は、確かに士郎との繋がりを感じ取っていた。

 ならば唱えねば。我が身に宿りし、其の宝具の名は―――

 

「―――全て遠き理想郷(アヴァロン)

 

 セイバーは聖杯から、シロウを守り抜いた。本来なら個人しか守れない筈だが、内部で融けていた所為か、シロウと同時に凛と桜の存在もセイバーを鞘で感じ取れていた。故に―――士郎へ声を届かせて、彼女は士郎の手で二人を救い上げさせた。

 ……死したイリヤの隣に、三人が眠っている。

 桜は未だアンリ・マユと契約状態であるとはいえ、シロウが眼を覚ませば問題は無いだろう。それに、セイバーは彼らと別れを告げるつもりは無かった。あの聖杯を破壊すれば、何もかもが元通りとはいかなくとも、この聖杯戦争は終わりを迎える。シロウと凛が救おうと足掻き、イリヤが命を賭して守った桜も、セイバーが大聖杯本体を破壊すればアンリ・マユから解放される。

 

「…………」

 

 決心はもうとっくに付いている。聖杯を求めて実行途中だった契約も、既に執行されてしまった。一人の王として国の滅びを乗り越えた代償に、アルトリアはあの“アーチャー”と同じ地獄に墜ちる。

 自分は救われなかった。しかし、救われても良かった。

 そんな本来なら知り得ない世界で、彼女はまた青年になったの少年と共に戦えた。自分がこうして救った彼ならば、この先の未来で嘗ての彼が愛した本物のセイバー(アルトリア)と出会える筈だ……

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)……―――――――――」

 

 ……そして、静かに唱えられた聖剣の真名が、何もかもを薙ぎ払った。亜璃紗と契約したセイバーの記憶はここで途絶えていた。

 そこから先は、英霊の座に昇ったどの英霊と同じ情景。契約を結んだとは言え、アルトリア・ペンドラゴンは守護者ではない正英霊。だが、それでも契約には代償が必要不可欠だった。頻繁に使われることはまず無かったが、それでも彼女の力でなくば解決出来ぬ脅威に対し、抑止として使われた。いざと言う時の為の便利な道具として、阿頼耶識の処刑人に成り果ててしまっていた。

 

「や、ほんと因果だねぇ……」

 

 そんな長い長い悪夢を、亜璃紗は昨日の夜にじっくりと見ていた。サーヴァントとマスターは精神に繋がりが生まれ、互いの過去を夢で見るが、彼女は率先して主従契約を悪用して過去を暴いていた。眠り時、サーヴァントの過去話を愉しめる様に、ラインに細工をしておいた。

 

「どうかしましたか、アリサ」

 

 横にいるセイバーを見つつ、亜璃紗はニコニコと笑みを浮かべていた。抑える事も出来たが、悦楽を堪えるなど自分らしくないと優しく微笑んでいた。

 

「んー、なんでも。戦争もそろそろ分水嶺を過ぎたなぁ……って、そう考えてただけです」

 

「そうですか。では、気を抜かぬようお願いします」

 

「へいへい」

 

 夜の森はとても暗く、闇に沈んでいる。セイバーと亜璃紗の二人は丘の上で、戦場の状況を見ていた。亜璃紗はセイバーへ気が抜けた返事をした後も、遠目で戦場を暗く深い森の中から観察し続けていた。亜璃紗の視界に映るのは、サーヴァントが三体に、マスターが五人。ライダーとデメトリオが他の者を全員敵に回しているにも関わらず、戦局は二人が優位に運んでいた。

 あの騎士バケモン過ぎる、と亜璃紗は内心で戦慄しながら淡々と監視する。遠坂凛と衛宮士郎は話に聞いていた通りの規格外で、美綴綾子はあの神父の弟子だけあって常識で考えない方が身の為だろう。アデルバート・ダンも噂以上だが三人と同じでギリギリ英霊未満。この四人は英霊を殺し得る能力もあるのだろうが、亜璃紗でも戦えない事もない。しかし、デメトリオ・メランドリは明らかに可笑しい。何が可笑しいかと言えば、全部イカれてる。膂力、敏捷、技量が人間じゃない。反射速度が相手を置き去りにしている。むしろ、相手よりも下な部分が一切ない。動きから、油断もしておらず、慢心には程遠く、加減なく殺しに掛っている丁寧さ。

 怖い怖いとぼやきたくなる異常だった。だが、彼女にそんな人間らしさはもう無くなっている。死にたくはないが、死ぬのが怖い訳ではなかった。怖いのは、あの場に居る連中全員が自分以上の狂人だと言う事だ。亜璃紗は自分が壊れた狂人だと言う自覚はあるが、アレらに比べればまだまだ子供に過ぎないと、大海を知った井の中の蛙な気分に浸れる。

 

「頃合いかなぁ……しかし、私じゃ分からないな。ねね、セイバーさん? 直感で良いからさ、もうやっちゃっても良いか如何か、答えて欲しんだけど?」

 

「桜が言った条件はもう満たしています。絶好の機会が、そろそろ訪れると思いますが」

 

「そうか。だったら話は早いな。タイミングはそっちに任せるよ。だから―――」

 

 桜からの指令は理解している。作戦立案をしたのは衛宮切嗣なので相変わらずやり口がえげつなく、且つ無慈悲非情で楽しそうな内容で、亜璃紗は思い出しただけで笑みを浮かべてしまいたくなる。相手が突き落とされる絶望を失望を想像するだけで、敵の“心”の動きを存分に愉しめそうだと期待していた。

 

「―――焼き払え、セイバー」

 

「了解しました、我が主(マイ・マスター)

 

 黒く輝く聖剣を振り上げたセイバーは、その宝具の真名を遂に解放し―――

 

 

◆◆◆

 

 

 ―――手加減などと、思考する余裕が有り得ない。アーチャーは眼前にいる神父と暗殺者に対し、正真正銘の全力で殺しに掛る。

 宝具・真偽両腕(ツインアームズ)。外界の干渉に特化した左の義手に、内界を操作する為に鍵を移植された右の魔手。その右腕からアーチャーは、彼女本来の武装を取り出した。

 その異形の武器は、強いて言えば―――薙刀。刃渡り五尺、柄が五尺。全長がおよそ3m近くもあるかなりの長さ。その刀身は怖気と寒気を問答無用で相手に与える鋭さと無骨さを誇り、気が狂う程の威圧感に溢れている。

 だが、これはそんな程度の話ではない。

 

「――――――」

 

 アーチャーのサーヴァントでありながら、一目で誰もが理解出来る。あの薙刀が、あの弓兵が持つ本当の武器。本来ならランサーのクラスに相応しい槍の武装でありながら、弓兵の英霊として召喚された彼女は、この兵器で自分自身の武を完成させていた。

 その得物を手に持つ。それだけで―――全てが、凌駕されていた。

 筋肉と神経が戦闘にのみ特化した兵器に変質し、思考形態が殺人を行う為だけの演算装置に生まれ変わる。如何程の技量と執念と、鍛錬と殺戮にどれ程の年月を掛ければここまでの極められるのか。才能や素質、修練なんて話ではない。アーチャーは完成された更に先の武の領域に辿り着いている。言ってしまえば、武器を構えるだけで、あの女は他の何かに転生している。生まれ変わったとしか形容できぬ自己の変態。気を整え、気合いを込める等と言う次元ではなく、あの女は武器を構えただけで究極に至る自分自身を生み出せていた。

 死んだ、と言峰士人は素直に認めた。

 ミツヅリ(あれ)に勝つのは不可能だと理解してしまった。

 あのカタチこそ、理想を越えた人殺しの姿。士人が人生を賭して死力の限り鍛錬を行い、幾度も死線を潜り抜けても辿り着けた無かった殺人の完成型。守護者に変貌した自分でさえ至れ無かった武の頂き。

 

「――――――参る」

 

 宣告。その後、一歩だけ彼女は進んだ。音も無く、姿も無く、アーチャーは―――士人の前で薙刀をもう振り抜いていた。

 ―――斜め下からの斬り上げ。

 恐らくそうとしか、斬られた士人も断定出来ない。

 アーチャーの一撃はもはや矛の軌跡でしか確認出来ず、音速を容易く見切る士人でさえ“思考”を合間に挟めない斬撃。体感時間を幾ら圧縮したところで、追い付くことがそもそも有り得ない。斬った後時間が思い出したかのように、彼は自分の傷跡から血が吹き出るのを茫然と見ている。

 アーチャーの一閃は、斬られ始め、斬られ終わる間が存在しないと錯覚してしまう程の―――時間を置き去りする魔速に至っている。士人は欠片も敵の動きに反応出来なかった。彼は単純に絶望的な危機感に対し、身に染み込んだ反射的防衛が少しばかり行えただけだった。

 

「マスター……ッ―――!」

 

 崩れ落ちる士人にアサシンは刹那もなく近寄り……それも、今となっては無駄。まるで空間を消し、時間が逆行したとしか思えぬ英霊を越えた迅さで、薙刀の矛先がアサシンの首を貫いていた。

 

「ん? そう言や確か、アンタは首を刺した位じゃ死なないんだったな」

 

 首を串刺しにし、彼女はアサシンの屍を軽く持ち上げていた。だが、屍の筈の暗殺者はまだ生きている。何より、サーヴァントは殺されて死体になれば塵も残さず消える。よって、屍が残っている時点でまだ生きている証拠となり、アーチャーは疑問を思い浮かべた。

 

「……ぐ、ぁあ」

 

 声帯を抉られているのだ、アサシンが言葉を発せられない。精々が呻き声が限界。それも死ぬ間際の断末魔。両手で刃を抑え、血液を硬化させてこれ以上斬り込まれない様に耐えていた。彼女は血反吐を滝のように流し―――その危険性に、アーチャーは即座に気が付いていた。

 直後、アサシンの周囲に濃霧が発生。だが、既にアーチャーは範囲外に離脱するも、その濃霧は意思を持つかの如き動きでアーチャーの方向へ流れる。それを彼女は何ら脅威に感じていないのか、あるいはもう思い付いていた対処法を使う事に決めたのか、実に冷めた目で観察していた。

 

「―――っち。あーあぁ、メンド臭ぇ。死んどきゃいいのに」

 

 吐き出された毒霧を一瞥しただけでアーチャーは周囲に吹き飛ばしていた。超能力を魔術に応用した簡易的な神秘であり、一工程で突風を生み出したのだ。

 尤も、アーチャーの宝具内部にはガスマスクなどの空気汚染対策の道具も揃っているので、いざとなれば如何とでもなるのだが。着込んでいる外套一式も特性品で、生前の師からの贈り物を自分流に改造した一品。名を無法礼装と呼び、血肉を溶かす酸の霧程度の障害なら簡単に無効化可能。

 

「死んでおらんよな、マスター」

 

「問題だらけだが、命は無事だ」

 

 士人は深く切り裂かれている。しかし相手の刃が、彼の先端数cmを斜めに肉体を抉り裂いてだけ。咄嗟に宙へ投影した愛剣は中身が不十分で、あっさり両断されてしまったが、死なない程度の盾にはなっていた。そして、手に持った双剣でも何とか斬撃軌道に挟み込ませたが、尋常ではない鋭さに押し負けた。士人はそのまま斬られてしまった……が、黒い泥で傷に対し応急的な蘇生は出来ていた。止血程度なら問題は無い。

 

「……ふん。相変わらずしぶといね」

 

 無造作に薙刀は一閃。薙ぎ払いにより、アサシンと士人の首を同時に斬り落とす。何とか後方へ下がることで、その斬首で死ぬ未来を回避したが、後退した分の距離をアーチャーは音も無く間合いを詰めていた。同時に次の一手を斬り放っている。それを二人が何とか凌いだところで、アーチャーは止まらない。彼女は恐ろしい事に、同時に二人を相手にしつつ、攻撃を仕掛け続けて攻勢を維持していた。

 踏み込みと斬り返しをほぼ同時に連続される悪夢めいた動き。距離を取って逃げ切れず、こちらが攻撃する機会が皆無。静動剛軟を自由自在に操り、零から隙間なく最高速度へ至る緩急動作。

 

「――――――……」

 

 だが―――それも直ぐ終わった。くるりくるりと流れる薙刀が、しゃらんと斬撃を容易く生み出していた。

 

「……終わりさ。流石のアンタでも、手足が半分になれば―――もう動けない」

 

 右脚と左腕が落ちていた。士人は倒れ伏せ、血の泥沼に沈んでいた。アサシンは両手両足に加え、肩と腹部を複数の刃で突き抜かれ、魔力を封じる妖刀魔剣で串刺しにされ、仰向けで地面に磔にされていた。

 だが、一番危機的なのはそれではない。士人が斬り落とされた左腕には、アサシンとの契約の証である令呪が宿っていた。契約そのものが途切れる訳ではないが、それでも繋がりが大幅に弱体化するのは間違いはない。加え、令呪よる援護も不可能となる。

 

「アサシン。アンタの種はもう知ってるからね。相手の切り札ってヤツは、対応策を練っとくのは当然だけど、一番は使われる前に潰しちまうのが一番だよ。

 まぁ、そんな事はアタシなんかよりも、暗殺者のアンタの方がよく理解してるんだろうけど」

 

 薙刀は彼女が本気である事を証明。だが、この結果を得る程の技量は発揮した上で、アーチャーは薙刀による武を全力で解放した訳ではなかった。ただ殺すだけなら、もっと素早く決着をつけられた。しかし、アサシンに逃げられない様、士人の動きをなるべく封じる様と、万全を喫して挑んでいた。

 とは言うものの、アーチャーでもアサシンを捕えるのは至難。彼女はまだ見せていない手を利用し、死角からアサシンに不意打ちした。つまり、今まで一度も使かわなかった魔術を行使し、士人を囮にした。神父の手を知り尽くすアーチャーだからこそ出来た手。

 アサシンの敏捷性ならば、アーチャーの攻撃範囲から逃げる事は出来る。攻撃範囲で避け続けられはしないが、範囲外に逃げる様にすれば長時間粘れる。しかし、士人には無理な話。薙刀の有効範囲内で神父と共に攻撃を捌き続けるのは、流石のアサシンでも限度がある。

 よって、敵の弱点を抉ろうとするのは暗殺者の必定。だが薙刀の弱点でもある至近距離まで詰め寄ろうとも、アーチャーには頑丈な左の義手があった。この腕は盾にも成り、鈍器にもなり、そもアーチャーは極めて優れた格闘技能も持っている。一瞬でアーチャー我流の柔術で絡み取られ、地面に叩き伏せられた直後には今の状況。宝具も相手に使わせぬアーチャーの猛攻の中、マスターを助けつつ、自分も生き残る為の残された一手だったとは言え、アサシンは手段を間違えてしまった。彼女はマスターが死のうとも暗殺に徹するべきだった。

 結果がこれだ。刃で串刺しにされ、魔力を乱され、宝具を封じられ―――士人も、十秒も捌き切れずに手合を斬り落とされた。

 

「―――やられた。流石に巧いな」

 

 士人は、自分が綾子へ教えた通りに自分が斬られた事を、皮肉気に笑っていた。見事に此方の力を出させずに、自分の能力を一気に使い、一瞬で勝負に決着を着けていた。

 

「当然だよ。守護者に成り果てた後のアンタだったら、アタシと互角なんだろうけど……発展途上の今の言峰士人じゃあ、頑張ってもそんな程度。アサシン一人なら逃げられたのに、アンタがこれじゃ足手纏いにしかならんさ。

 でも、ま、アサシンはアサシン一人だけじゃ、サーヴァントを殺し切れないからね。暗殺者ってのは、そう言うクラスのサーヴァント。結局、アタシを殺すにはマスターであるアンタが必要になる」

 

 無様な敗北者を見る目でアーチャーは士人を見下していた。アサシンはその光景を、生前でさえ感じたことがない屈辱を味わいながらも、目を逸らす事をしなかった。

 何故なら、あの弓兵は暗殺者である自分に、背中を呆気無く見せていた。

 確かに今の彼女は、全く身動きが取れない。体中には、魔力封じや契約破り、または使い魔殺しの妖刀が刺さっている。霊体を酷く損傷させた上、主である言峰士人との間にあるラインを抉られている。加えて、宝具の真名解放まで封じられていれば詰みだろう。

 

「……―――」

 

 瞬間、空気が凍る。この危機に至ってしまえば、目前の死など無関係。アサシンは自分の血液を媒体に、封じられていようが自滅覚悟で宝具を解放し……それもまた、アーチャーは一切澱みなく敵の行動を阻止する。宝具の真名解放をしようと魔力を使う前段階で、弓兵は何ら躊躇いもなく―――撃った。

 パン、と軽い音が鳴る。人の血肉を吹き飛ばす軽快な炸裂音が響いた。

 

「―――ギ……!」

 

「流石は暗殺の英霊さんだ、油断も隙もあったもんじゃないなぁ。でもよ、知ってんでしょ? このアタシはそこで手足をちょん切られてる男の弟子なんだ。死に損ないだろうと、相手が赤子でも敵は敵。身動きを封じた程度じゃあ、警戒を解く訳がないじゃないか」

 

 その後にまたパンパンパンと、一発一発等間隔のタイミングでアーチャーはモーゼルC96を発砲し続けた。機会の様に淡々と、アサシンに風穴を空けていった。

 

「んー。ま、こんなモンで十分か」

 

 ふ、と銃口から上がる煙を一吹き。血溜まりで沈むアサシンにアーチャーは近づき、おもむろに仮面を剥ぎ取った。勿論、アーチャーは礼装一式に含まれている手袋で血液感染を防ぎ、流れ出る血液に触らないよう気を付けながらであるが。

 

「確かアンタは、ハサンの中でも異質な呪術師の暗殺者で―――葬主のハサン……だったっけな」

 

 そう口達者にらしくなく、彼女は抑揚が効いた声で喋っていた。そして、ものの序でなのか、アーチャーは白髑髏の仮面を両手で挟み、粉々に押し潰した。

 ……髑髏の仮面は、暗殺教団の“アサシン”がハサンで在ることの証。

 それをゴミをゴミ箱に捨てるように壊し、手袋に付いた粉を手を叩いて地面へ落とす。その後、彼女が人生の象徴でもある残骸を、アーチャーは靴の裏で踏み潰した。ジャリジャリ、と土と破片が混ざる音が静かに鳴った。

 

「暗殺教団伝統のザパーニーヤの開発者であり、自身も一時期教団当主を務めていた異例のアサシン。数多のアサシンを育て、幾人かのハサンを生み出したからこその葬主の異名。

 その気になれば他のハサンの宝具も、ある程度は模倣も出来るんでしょ?」

 

 アーチャーは淡々と、アサシンへ絶望を与えているのだ。お前の能力、お前の技術、お前の生前を知っていると、例え運よくこの場から生き残れても、お前の手の内を知っていると言葉で追い詰めていた。生前、自分の死がしていた行いを真似て、敵の心を圧倒的な悪意で挫くのだ。

 

「それ……が、如……何し、た? 殺した、いのな、ら……早く……殺、せ」

 

 血を口から吹き出しながらも、アサシンはアーチャーへ言葉で毒を吐く。撃ち込まれた銃弾は魔術回路の機能を阻害するのか、もうこのアサシンであっても“何も出来ない”状態へ成り果てていた。そこまで念入りにアーチャーは彼女を甚振り、つまらなそうに致命傷を幾度も与えていた。

 

「別に、アンタの命にゃ興味なんてないよ。敵だから殺すだけ。当たり前だけど、敵じゃなかったら殺さないし。

 けどま、そう言う風に割り切んないと、アタシも色々とヤバい心理状態だからさ。狂いそうで、意図的に狂気を発散しないと世界を意味も無く滅ぼしたくなって、凄く困るくらいなんだ。

 ……本当は誰でも良い気分なんだ。

 溜まり積もった憂さを晴らしたくて、堪らないんだ。相手としてそこの死にかけが最上な獲物なだけ。この不快な興奮、アサシンのアンタだったら分かってくれると思うんだけど?」

 

 濁りに濁った常人の眼光。この世の何よりも、アサシンはアーチャーが気味が悪かった。サーヴァントは死人だとは言え、これ程までに生気がないと違和感しかなかった。だが、何よりも恐ろしいのは、この女が正常な精神を何の負荷もなく保っているから。

 狂って良い程の膨大な猟奇的衝動に襲われているのに、自分にとって当たり前な普通の視野で世界を見ている。

 

「ほざ、け……抑止の、化身」

 

「へぇ、なるほど。やっぱ座の奴らには分かっちまうか……」

 

 守護者とは、抑止力に使われる奴隷だ。あるいは、掃除屋、始末屋と言っても良い。彼らは死後、契約の代償としてアラヤの兵器として運用され続ける。信仰が低い英霊もまた、死後に霊長の都合が良い様に使われ続ける。

 だが―――このアーチャーは、第八識(アラヤ)が力が与えた純正天然の異能者だった。

 抑止としての顕現。生まれながらの遺伝が覚醒した突然変異。その力で以って幾度も世界滅亡の危機を阻止し、この世を滅ぼす寸前まで暴れた神父を殺す為の契約。英霊と化したアーチャーの抑止としての力は、生まれながらの異能に加え、生まれた末に契約で得た守護者としての奇跡。

 彼女こそ、霊長が自分を存続させる為にならば、少数の自分(ニンゲン)達を切り捨てる無機質な機構そのもの。その生贄。生まれながらに第八識から遺伝した異能(抑止)で以って脅威を払い、死後は抑止の守護者として人類を殺して霊長を延命させる本物の、阿頼耶識が生み出した超能力者。

 故に―――ミツヅリは抑止の“化身”と、ありとあらゆる英霊達に罵倒される。

 

「……あークソ、厭なこと思い出させやがって」

 

 悪態をつくアーチャー。しかし、そこで違和感を覚える。何故、士人が会話に入り込んで来ないのか疑問を浮かべる。一応、話せる程度の重症に済ませておいた筈。令呪でアサシンを無理に動かすかもしれないと警戒もしていたが、それもしないようだ。

 手足を斬り落とし白兵戦能力を削げば、弓兵殺しの異能を持つアーチャーにもう奴に出来ることは無い。とは言え、それでも自分の心を甚振る為に猛毒を言葉にするとアーチャーは考えていた。

 

心の中には何も無い(There is nothing in my heart.)―――」

 

 答えが、世界を震わせるそんな呪文だった。既に士人は己が世界を展開させる準備を整えていた。直後、世界が歪み初め、空間が捲りあがった。彼はもうある程度の工程を無詠唱で内界で唱え済ませており、後はもう実際に呪文をカタチを与えて詠唱するだけ。

 

「―――その心は、再び無から生まれ落ちた。(Therefore,I bless empty creation.)

 

 降魔の刻―――黒き泥で生み出された暗い太陽。地平の果てまで空白に塗り潰された歪な空間。天上に黒く燃える陽光と共に、ひらひらと死灰が降り落ちて、地面に当たっては融けて消え続ける。何も無く、物体が形を保てず、生み出される前の存在因子として保管された世界。情報の坩堝であり、世界の主たる神父のみが、空白から情報を創造する固有結界。

 其の名は、空白の創造(エンプティクリエイション)

 この世において史上最悪の、数多の個人兵器を創り上げる為だけの量産工場――――――

 

「お……? あらま、アサシン甚振るのに夢中に成り過ぎたかな」

 

 それなのに、アーチャーは危機感に煽られていない。むしろ、彼女の態度は逆。懐かしそうに、いっそ穏やかな眼でこの世界を眺めている。

 士人は彼女のその態度が油断なのか、慢心なのか今一分からない。何より、自分が育てたこの女にそんな余分な機能は付随していない筈。だと言うことは、未来のこの弟子は楽しんいるのだろうと結論を出す。言峰士人をやっと殺せることに冷静さを保てない……いや、保つような真似をしたくない。感情をそのまま吐露し、溜まった泥を吐き出したいのだろうと彼は考えた。そして、彼が出した答えはほぼ当たっていた。

 だから、アーチャーは延々と意味も無く喋ってしまう。戦闘に不要な贅肉で心を満たしてしまう。今もこうして、折角手足を斬り落として倒れていた神父が、投影した剣を杖にして立ち上がってる光景を見ているのみ。アーチャーは殺害の効率よりも、長年の憎悪を晴らす行為を優先していた。

 

「魂が発生した時の(カタチ)を、思う儘に為す。それこそが、魔術理論・世界卵の真髄。

 固有結界とは、つまるところ術者の魂そのもの。より強い心象風景(ココロ)を具現すればする程、異界法則は己が最強を成す為に世界を圧倒し、絶対的な魂で以って侵食する―――……って、アンタから教わった理だったね」

 

 敵の言葉を塗り潰す様、神父は呪文さえ唱えず数多の武装軍を空間内に創造した。アーチャーの視界がカタチを得た神父の殺意に埋め尽くされる。

 それは、まさに無尽蔵と例えられる大量の兵器達。一つ一つが上級の英霊でさえ直撃すれば霊核を破壊され、この世から抹消される幻想の権化。加えて、兵器軍の中には退魔の概念武装や魔力殺しの宝具も複数存在し、特に魔術による防御など無意味。そして、防御型の宝具や結界宝具であろうとも、その幻想が持つ概念自体が無効化される宝具殺しの群れが紛れ込んでいる。

 これは―――死ぬ。いとも容易く、英霊だろうと殺される。

 何より、これら一つ一つを爆発物として使われれば、周囲数百mが虚無へ還る事となる。流石のアーチャーもこの爆撃軍に耐える事は不可能だ。

 

「でもよ、幾ら魂が強かろうと―――更に凌駕された強さの前じゃ、無価値に堕ちる。殺人の業って言うのは、そう言うものだと教えたのも、アンタだったからね」

 

 飛来する刃。それは魔力殺しの槍。障壁を濡れた紙を破るかの如く裂く武器だが、その効果が成されるのは刀身のみ。アーチャーは力場を展開し、武器の“魔力殺し”が機能していない箇所へ干渉。あっさりと自分に迫る軌道から逸らし、弾丸は明後日の方向へ吹き飛んで行った。

 そして―――二弾、三弾と次から次へと武器が彼女へ襲い掛かる。

 人を一人殺すには過剰な攻撃を前にアーチャーは動かなかった。動く必要が全くなかった。視線で捉えるまでも無く、空間を三次元的に把握し、自分に当たる武器に少しばかり干渉するだけで良い。指一本分軌道から外すだけで、自分に当たることもなく地面に堕ちるだけ。

 相性が悪い、なんて次元の話ではない。

 弓兵殺しのサーヴァント。それがアーチャーのクラスで現界する皮肉。こと飛び道具で彼女を殺す事は出来ない―――何て事実は、士人からすれば至極当然の末路。彼はなるべく身を動かさず、静かに法衣へ隠し持つ武器を取り出した。

 ―――漆黒の回転式拳銃。聖堂教会が秘蔵する猛毒の弾丸。

 嘗て犬殺しの為に投影した予備を、彼は戦場に持ち込んでおり―――その銃を、躊躇わずアーチャーへ撃った。

 黒い銃身が放つ弾丸は魔力を容易く食いちぎり、異能の干渉力場など無意味。加え、この弾丸には魔力殺しの効果が全体に伝わっている。剣や槍のように、効果が及んでいない柄などの部分に干渉され、あっさり軌道をずらされる事もなく……―――

 

「つーぅ……あぁ! 相変わらず痺れるな、それ!」

 

 ―――義手の掌で、アーチャーが弾丸を掴み取っていた。確かに、念力の力場を弾丸を破ったが、それによりアーチャーは弾丸の性質を察知してしまっていた。となれば、直に対処すれば良いと考えた。そもそも予め念力で対応出来ぬ物が来れば、それに対応した取るべき行動を決めていた。

 結果、士人の弾丸が与えたダメージは魔術回路を一本ほど痺れさせた程度。反射的に念力で干渉した所為で、毒素により魔力の流れが乱れ、術者に魔術がフィードバックした影響だった。だが、それも回路を壊すには程遠い効果であり、魔術を破られた際に起きる常識的な効果の範囲。

 この銃身が放たれる銃弾には、生命力が強ければ強いほど殺傷性が上がる毒素が含まれる。しかし、その効果も霊格を殺されればしっかりと死ぬアーチャーでは、サーヴァントと言えど人間相手にするのと大きな差は生まれない。直撃すれば普通の人間のように殺せるが、弾丸を武器で受け止められてしまえば何の効果も無かった。

 

「―――」

 

 本来なら、士人が隠し持つこの概念武装は、殺し切れぬ怪物に止めを刺す為だけのもの。不意打ちにも使えず、そもそも相手が人間ならばただの銃器でしかない。何より、投影による攻撃よりも遅く、魔術に対して干渉性能が全く無い。低ランクの魔術衝撃で防げるレベル。アーチャーの力場を突破出来たのも、装填した弾丸へ投影した聖遺物で洗礼したからだ。絶対的な不老不死でも無い限り、死徒へ対しても通常の洗礼の方が遥かに威力がある。実際、今の所この銃で殺した敵は犬一匹だけ。

 しかし、アーチャーの干渉力場と突破出来る遠距離武器は、今の士人にはこれだけしか無かった。

 

「……だけど、そんなのただの苦し紛れさ」

 

 アーチャーは淡々とした仕草で、宝具内から士人と“同じ”黒い銃を取り出し―――瞬間、弾丸が士人が持つ黒い銃へ直撃。神父は隠し玉の神殺しを破壊され、その衝撃で後ろへ吹き飛んで倒れた。

 

「これはアンタから貰った奥の手の武器だったね、確か。でも、作ったのはアンタだろうと、使い慣れているのはアタシの方さ」

 

 吹き飛び、血が更に体内から流れ出た。アサシンも身動きが取れず、神父も他にアーチャーへ対する策が殆んど消えてしまった。再び投影による絶え間ない掃射で、相手が武器を念力で捉え、投げ返す余裕がない程の爆撃で何とか均衡を保てている。だが、それだけ。

 そんな程度の危機、アーチャーからすれば取るに足りない日常だ。呟く様に小さな声で、彼女は念力を使いながら呪文を唱えた。

 

起動(ブラスト)―――固定(セット)亀裂疾走(スペースパージ)

 

 眼前の空間に、アーチャーは小さい“孔”を穿った。僅かに、その隙間の孔からは元の空間が覗く事ができ、夜の森の光景が視えていた。本当に腕一本通るか否かと言う大きさで、空間転移を容易く行使する彼女であれば、この程度の空間操作は驚くに値しない。

 ならば何故、世界の主たる士人は―――投影による絨毯爆撃を停止させているのか?

 

「固有結界ってのは発動するのが面倒で、維持魔力も膨大だけど、展開し続けるのに問題となるのはそんな当たり前なことじゃない。他の魔術と比べ物にならない程、固有結界ってのは世界から眼の仇にされて修正対象となる。

 ならさ―――そんな結界内で、外部と連結する隙間を作るとどうなるか?

 答えがこれさ。外部からの修正作用に加えて、術者が支配している筈の内界からも修正の波に襲われる。そうなってしまえば、維持するのに更なる魔力が必要になる。少しでも気を抜けば、一瞬で世界に支配権を取り戻される」

 

 更にアーチャーは、固有結界内で流れ込んで来た元の世界の空間が広がる様、孔の圧力をより増大させている。広がれば広がる程、崩壊させようとする修正作用は更に大きくなり、孔もまた比例して広げる事が出来る。ここまでされてしまえば、士人とて結界を維持するだけで回路が臨界を越えた。固有結界内で武器を製造する余力も消えてしまう。

 言わば―――結界殺し。

 抑止に使われる世界の作用を効率的に使い、自分が相手を打倒する為の道具とする。抑止の化身と呼ばれるのも、それが理由の一つ。

 

「さて、もう良いよね。アンタも抗うだけ抗っただろうし、そろそろさ―――」

 

 世界が元の風景に戻っていた。あの空白の世界は、生み出された時と同じ様に、唐突に消え果てた。深い闇が満ちる森に帰還したアーチャーは、倒れ伏す二人へ一歩一歩近寄る。アーチャーは憎悪と怨念を噛み締め、薙刀を握り直した。アサシンは何も出来ず、士人は死ぬ間際。

 

「―――壊すよ」

 

 刃を振り下し、神父の首を斬り落とす直前で止めた。皮一枚切り裂き、血が僅かに流れ出てた。後ほんの少し薙刀を支える力を緩めるだけで、彼の首は地面に転がってしまうだろう。

 ……世界が死んでいた。誰も動けずにいた。士人は諦めてはいないが、敵に隙を見出せず。アサシンもまたマスターを助ける手段がない。アーチャーも直ぐにでも殺せると言うのに、最後の一手を出せずにいた。

 彼女が何を躊躇っているのか、士人には分からなかった。英霊の座に上ったと言うのであれば、アーチャーの悲願を達成される今この時は、人間が想像も出来ない長い年月を掛けた悲願の筈。後少しだけ刃を下せば良い。腕の力を緩めれば殺せるのに、その瞬間―――遥か遠くから、空へ昇る黒い極光が空気を震わせた。

 

「セイバー……?」

 

 聖剣(エクスカリバー)の一撃と酷似した宝具の気配。アーチャーはそれが黒く染まっている事と、セイバーが死んでいなかった事実を疑問に思い、士人もまた第五次聖杯戦争で聖杯が破壊された時の光景を思い出す。

 だが―――

 

「な……―――令呪!?」

 

 ―――それは、一瞬の出来事だった。

 神父へアーチャーが最期の一撃を与える直前、彼女は瞬く間に消滅した。マスターである遠坂凛により、強制的に空間転移が実行されたためだ。サーヴァントが自分の意志で抗う余裕を与えぬ程の、突然の出来事だった。

 ……空気が弛緩する。残されたのは、神父と暗殺者のみ。暫くの間、二人は喋る事もなく、降って湧いた幸運を理解し、そこで思考が僅かに止まっている。自分達が助かったのだと、数秒してから二人がやっと認めた。

 

「あー……本当に助かった」

 

「運よく助かったな。本当に今回は駄目だと思ったぞ」

 

 地面を転がり、士人は楽な体勢を取る。その後、全身全霊を掛けて立ち上がった。投影した杖を上手く使い、転ばぬように足を進める。

 

「無事―――……には、かなり程遠い在り様だな。いや、お互い」

 

「だが、死んでいない」

 

 士人は既に泥を使い、止血は済んでいるので失血死は間逃れる。死にはしないが、早くしないと手足の蘇生は間に合わない。流石に手足は生やせないので、神父は地面に転がっている自分の手足を回収しないとならない。しかし、まずはそれより先にしなくてはならない事がある。

 

「痛むぞ。歯を食いしばっておけ」

 

「心配無用だ。私はハサンの一人だぞ。痛覚などまともに機能しておらん」

 

「そうか。ならば、遠慮なく」

 

 彼はアサシンを地面に固定している妖刀を引き抜いた。一本ずつ、傷が広がらないよう丁寧に、且つ素早い動き。体の自由を取り戻したアサシンは、呪術により血を使い、肉体の自動再生を開始させる。それと同時、体内の残っている弾丸を抜き取る為、指で自分の肉を抉っていた。また、血流を操作することで、幾つかの銃弾をそのまま血液と一緒に流し出した。

 

「動けないから、お前に頼みたいのだが……」

 

「分かっておる。直ぐに拾ってこよう」

 

 万全には程遠い。回復したなどお世辞でも言えない。しかし、アサシンは体質の御蔭で苦痛はないが、それでも動き難い体を動かし、自分のマスターから離れた肉体の一部を拾い集めた。

 

「少し移動するぞ、神父」

 

 その後、彼女は士人を正面から抱き支え、木の下まで運んだ。彼は抵抗することなく、すまないとだけアサシンに礼を言った。

 

「手足は私が固定しておいてやる。貴様は治癒に専念しておけ」

 

「ああ、感謝する」

 

 やるべき事をやる。今の彼女が考えているのはそれだけではないが、一番すべきことは素早くこの戦域から抜け出すこと。その為に、マスターの治療が最優先。木に背中を預ける彼の正面にアサシンは座り、手足を持って支えていた。

 神父は眼を瞑り、泥による再生と、霊媒魔術による治癒に取り掛かる。綺麗な手足の切断面同士が繋ぎ合わさり、数分もせずに神経や筋肉は元に戻るだろう。骨もこのままいけば問題はない。アサシンも血液を操り、切断面がずれないよう頑丈に固定していた。慎重で精密な動作が要求されるが、二人の集中力をもってすれば雑談をしながらでも問題はないレベルの共同作業だ。

 

「なぁ……」

 

「何だ、アサシン」

 

 今のアサシンは、何時もの仮面を付けていなかった。アーチャーに壊され、装備を復元するのにも相応の魔力が要るからだ。しかし、そんな無駄な魔力を使う余裕はなく、彼女はハサンとして付け続けなければならない暗殺者としての貌を取り外していた。

 紫色の瞳が近くで士人の眼を覗き込んでいる。同時に、黒い瞳がアサシンの眼を観察していた。互いの息が当たるほど近く、細かな表情の変化も簡単に見て取れる。

 

「あのアーチャー……貴様を殺すのを、最後に躊躇っておった。殺意は私が認めるほど本物であったが、殺害を未だに決心しきれていないぞ」

 

「分かっている。あの女の甘さだ。いや、人間としての強さとも言えるか」

 

「ふむ。もしや、態とそのままにして、あれを育てたのか?」

 

「無論。俺が鍛えるべき個所では無かった故な。有りの儘に、そのまま業を極めて貰いたかった」

 

「だが、弱点には程遠い。欠点とも言えぬ」

 

「それも当然だ。俺はしかとアレにその事を教えたからな。弟子も弟子で自覚を持っている為か、逆に容赦を失くさせた。苦しんでいても、苦しいまま決断し、思いを実行する」

 

「歪にも程があろう」

 

 アーチャーは攻撃に欠片も慈悲を乗せていなかった。確実に殺す為の手を打って出ていた。なのに、最後の一手まで追い詰めた時、無抵抗な神父を殺すのを僅かに躊躇った。殺し合いに容赦はしないが、殺害に躊躇する。勿論、士人が反撃をすれば確実に対処し、あの場で殺していたことは事実。だが、あの状態のままだった場合―――果たして、アーチャーは自分から止めを刺せていたのだろうか?

 

「だが、そうでなければ、アレが強く在れぬのもまた事実。苦悩と葛藤が生み出す迷いも、我が弟子の魅力の一つさ。むしろ、あの甘さが強くなることを諦めなかった原因の一つでもあろう。

 恐らく、ミツヅリは生前に“私”を殺した事を後悔している。心の奥底に残り続ける悔恨の澱が、止まることを良しとせずに戦い続けたのだろうよ」

 

「哀れな。暗殺対象にし難いぞ」

 

「なんだ、殺したくないのか?」

 

「まさか。ただ、そうさな……苦労して殺したとしても、充実を得られなさそうと思ったまでぞ。ライダー辺りの英霊であれば、暗殺を行うのも悦に浸れるがな」

 

「職人だな、お前も」

 

「生まれて此の方、死んだ今となっても暗殺者を廃業しておらんのだぞ?

 獲物の選り好みくらいは私とてある。妊婦だろうと、子供だろうと、赤子だろうと仕事ならば殺すが……ふん、暗い感情が消える訳でも無いからな

 ―――と、長話は過ぎたか。一応、完治には遠いが治りはしたな」

 

「ああ。無事に繋がった。固定するのも、もう大丈夫だ。感謝する、アサシン」

 

「で、貴様……その様で歩けるのか?」

 

「歩くだけならば問題はない。しかし、走るとなると手足が()げるな」

 

「そうか」

 

 仕方ないか、と立ち上がったアサシンは考えた。整え過ぎて、人間味がない能面のような貌を彼女は歪ませた。普段は仮面で隠していているが、この女は素顔も仮面みたいで、人形にしか見えない顔立ちだった。感情の色が一切ない鉄面皮。問答無用で綺麗な顔立ちなのに、素直に美しいと表現出来ないのだ。悩んだ表情を浮かべていても、何故だか元の無表情のままにしか見えない。

 なので―――唐突に士人がアサシンに口を唇で抑え込まれたのも、余りに唐突な出来事だった。

 

「……おい」

 

 接吻などと生易しい行為では無かった。貪ると言う表現が似合うほど生々しい。舌が舌を蹂躙し、口内で液体が乱れる音が外まで聞こえている。しかも、唾液に交った血の味しかしなかった。

 

「仕方なかろう。貴様とのラインが途切れ掛けておる。血液と唾液程度の体液交換では、修復にはまだまだ程遠い。何より、互いに魔力不足が深刻ぞ」

 

 令呪と再接続したものの、契約で結ぶラインは万全ではない。儀式魔術で契約を結び直そうにも、魔力に余裕がない。となれば、アサシンが選んだ手段は実に効率的で、成功率も魔術でするよりも遥かに高い。高いのだが―――……流石の士人も、少し呆気に取られていた。

 

「くく。何だ神父、貴様もそんな人間らしい顔を作れるのだな」

 

「はぁ……全く、暗殺者のサーヴァントは不意打ちが好きと見える」

 

「すまない、私の悪い癖だ。ついついその何だ、興が乗って……な」

 

「まぁ、別に構わん。役得だとでも思っておこう」

 

「そうしておけ。今まで私が口付けしてきた男たちは、体内から爆散して死んで逝ったからな」

 

「なるほど。普通に怖いな、それ」

 

 まだまだ機能を取り戻し切れていない。今は回復に専念する。しかし、何も出来ぬから、アサシンはこの時が聞く良い機会だと考えた。

 

「……それで、貴様これからどうするつもりだ?」

 

「どうとは?」

 

「決まっているだろうが。ライダーとの同盟だ。だが、あの黒い極光……確実に、あの戦場で異常事態が引き起こされておる。アーチャーが令呪で転送されのも、十中八九あれが原因だ。まぁ、あれの御蔭で我らが助かったと言うのも、随分な皮肉だがな。

 何より、この―――狂った呪詛の気配。

 私は呪術師でな、これでも地獄の天使たる精霊を支配下においている。生前において数々の怪異を身に修めたが、ここまでの邪悪は今の時代では有り得んぞ。それこそ、私が生きた時代よりも尚、太古の時代に遡る神話の邪神の領域ぞ」

 

「既に教えた筈だ。あれが―――」

 

 確かに、アサシンは戦争の初めに聞かされていた。この聖杯戦争はまともではない。その元凶であり、聖杯が壊れている原因。

 

「―――あれがこの世全ての悪(アンリ・マユ)

 やはり、それしか有り得んか……っち、思った以上の化け物だぞ。制御などと、考えること自体が無謀だ」

 

 聞いていた以上の悪魔。自分が心臓に封じている精霊も相当な代物の筈だが、アレから伝わる魔力はそれだけで呪いになっていた。魔術師でもなく、異常に耐性がない唯の人間であれば、呪いを感じ取っただけで発狂死する。

 

「仕方ない。戻るぞ、神父。担いでやるから、気配を隠すのに集中しろ」

 

「……担ぐ? いや、俺は歩けるぞ」

 

「逃げるにしろ、状況を把握するにしろ、迅速に動かねばならん。それに、重傷の貴様をこの場に放置する訳にはいかないぞ」

 

「お前の言う通りだ。しかしな、世の中正論だけで動いている訳では―――……ないのだがなぁ?」

 

 疑問符を浮かべながら、士人は俗に言うお姫様抱っこと言う人生初体験を味わっていた。

 

「なんだ、抱っこの方が良かったのか。神父?」

 

「いや、もうこれで構わん」

 

「では、おんぶか?」

 

「すまない。はっきり言って手足に力が入らないから、早く動かれると落ちてしまう」

 

 これはアサシン流の気遣いなのだと、彼はそう思う事にした。座で能力を完成させたとは言え、弟子に完敗したとなれば、一人の師として嬉しくもあり、悲しくもあり。士人にそんな感傷は欠片もないが、それでも何かを考えてしまうのは間違いない。

 

「だろう? ならば、急ぐとしよう。それに、この格好の方が治癒がし易い。貴様が脱力しつつ移動するとなれば、現状はこれしかない。

 ……着く頃には、それなりに治癒を完了させておけよ?」

 

「ああ。分かった分かった」

 

 そうして、アサシンは気配を完全に殺しながら、マスターを抱えて走り始めた。士人も自分の技量が許す限り、存在感を抑え込む。

 神父は思考を止めず、治癒も進める。集中してはいるのだが、凄く近い距離からか、士人はアサシンが口元を緩めているのが良く見えた。普段から人をからかい続ける所為か、いざという場面で相手に遠慮なく揶揄される。そんな自業自得、あるいは因果応報な罰を受ける神父は、他人に見られてはならぬ格好のまま夜の森を潜り抜けて行った。

 

「だが、お前の傷はどの様な状態だ?」

 

 治癒を進ませつつ、彼はアサシンに問う。自分の方はある程度の目途は立てたが、アサシンの治療は進んでない。傷自体は塞いでいるも、ダメージは残ったまま。

 

「傷は酷いが、一晩あれば完治出来る。それよりも契約のラインが不完全なのが痛い。とは言え、ラインの魔力供給が無くなった訳ではないからな」

 

「ふむ。では、そちらの治療は安全地帯に戻ってからか」

 

「そうしてくれ。先程臨時で繋いだラインで暫く保つ。この一晩程度であれば戦闘に問題ないぞ」

 

 同盟相手のライダーと、そのマスターであるデメトリオ・メランドリを切り捨てる事を考えつつ、この先で待ち受ける地獄を考えると愉快な気分になって仕方がない。だが、その場には自分達を圧倒したアーチャーも高確率で戦っている。

 まずは、情報収集をしなくてはならない。

 戦場に割り込むかどうかは、それから決定する。

 神父と暗殺者の二人はイレギュラーを想定しながらも、先がまるで見えない戦場を疾走していった。




 との事で、アーチャー無双回。彼女は英霊化した士人と同レベルですので、今の士人じゃ手足も出ません。アサシンもアーチャーに勝てませんが、士人がいなければ逃げ切る事は出来ます。とは言え、アーチャーの能力を知れましたので、ここから先ならば勝算がない訳ではないです。

 後、セイバーの英霊化する原因となった第六次は、元々この作品の第一部にする予定でした第六次聖杯戦争でした。設定が数年も眠ってましたが、今回これを使ってみました。ですので、セイバーが戦ったサーヴァントが気になる人は、設定を乗せましたので見て頂けると嬉しいです。

◆◆◆◆◆

真名:ナポレオン・ボナパルト
クラス:アーチャー
性別:男性
身長/体重:166cm/55kg
属性:中立・中庸

パラメータ
筋力D  魔力B
耐久D  幸運B
敏捷B  宝具A+

クラススキル
対魔力:D
――魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
単独行動:A
――マスター不在でも行動できる。ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。

スキル
騎乗:C
――騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
軍略:B
――一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
カリスマ:B
――軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。
皇帝特権:A+
――本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。該当するスキルは騎乗、剣術、銃撃、狙撃、砲撃、等。ランクがA以上の場合、肉体面での負荷(神性など)すら獲得する。これは、我輩の辞書に不可能は無い、と言う我が儘を可能にするスキル。正確には、不可能を嫌う心意気や、諦観を打破する伝承の具現。

宝具
王の砲火(ラ・ヴィエイユ・ギャルド)
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~80 最大捕捉:1000
――戦争芸術と謳われた電撃作戦の具現。好きな場所に砲台を設置し、任意のタイミングで発射する宝具。また、現世で大砲系統の兵器を調達し、宝具として新たに配備可能。戦闘時に砲門だけ具現して砲撃する事も行えるが、予め戦場に砲台を準備させて置くことも出来る。出現可能な大砲に限りは無く、魔力が許せる範囲が限界。大砲の一つ一つにアーチャーが信頼する亡霊の兵士が憑依操作し、的確な砲撃を敢行可能としている。
鮮烈革命(コード・レボリューション)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1
――外部からの間接的干渉を阻害することで、フランス皇帝として得た絶対権利を保持する。これは目的達成のための障害を排除し、不可能を可能にする宝具。繰り返された革命を革命で終わらせ、国家を自分が創造した法典で国を治めた逸話の具現。ナポレオン最大の功績と称された歴史上初の近代的法典……のアイデア用下書きをしたメモ帳が宝具。また、このメモ帳には法案以外にも様々な考案考察が書かれており、まるで人生を辞書にしたような書物になっている。

【Weapon】
無銘・サーベル
――普通のサーベル。見た目が気にっている。絵にもなっている。
無銘・銃剣付きマスケット銃
――兵士時代に戦場で時々持ち歩いていたマスケット銃。使い慣れていないが、フランスの皇帝に不可能と言う言葉は似合わない。銃弾の装填と発射が魔力式運用なので連射可能。
法典の下書き
――実は手に持っているのは下書きのオリジナル。考え付いたアイデアをつらつらと書いてるだけのメモ帳もどき。文化英霊として保有している宝具。

◆◆◆◆◆

真名:ロンギヌス
クラス:ランサー
性別:男性
身長/体重:180cm/80kg
属性:秩序・善

パラメータ
筋力B  魔力A
耐久B  幸運C
敏捷B  宝具A

クラススキル
対魔力:A+
――A+以下の魔術は全てキャンセル。クラスによる対魔力に、自身が元々保有していた対魔力スキルが追加されている。事実上、魔術ではランサーに傷をつけられない。

スキル
啓示:B
――"直感"と同等のスキル。直感は戦闘における第六感だが、"啓示"は目標の達成に関する事象全て(例えば旅の途中で最適の道を選ぶ)に適応する。根拠がない(と本人には思える)ため、他者にうまく説明できない。
聖人:B(A+)
――聖人として認定された者であることを表す。だが、聖列から外されたためランクダウンしている。ランサーの場合、サーヴァントとして召喚された時に"秘蹟の効果上昇"、"HP自動回復"の二つが自動選択される。
秘蹟:A
――教会に伝わった原初の洗礼詠唱。サーヴァントに有効な程、直接的な霊体の浄化を得意としている。

宝具
神血の開眼(ヘブンズアイ)
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1
――神の血で癒された盲目の淨眼。本来ならば見えないモノが視える。例えるならば、見えない筈の生命や魔力、透明化した物体や結界など境目。あるいは、他者の感情や思考を識別できる。これにより、あらゆる隠蔽系統のスキルや宝具を無効化。もはや目そのものが聖杯と同じ聖遺物であり、千里眼スキルも併せ持っている。
祝福する聖者の槍(ロンギヌス)
ランク:B 種別:対人(自身)宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
――神の血液で祝福された槍。所有者の負傷や呪詛を瞬時に治癒する。あるいは、何かしらの間接的な魔術干渉を向けられた場合、例え宝具による神秘でも自分から逸らす事が可能。令呪にさえ有効。しかし、純粋な物理的破壊能力を無効にすることは出来ない。
処刑せし神血の槍(ロンギヌス)
ランク:A++ 種別:対神宝具 レンジ:2~3 最大捕捉:1
――神を殺した槍。魂を滅する絶対なる一撃を放つ。これは真名解放した状態で、矛先を対象に接触させる必要がある。対象が宝具やスキルで守られている場合、蘇生型宝具と防御型宝具の神秘を事象崩壊させ、相手の命を無へ抹消する。これは神を現世から葬った神殺しの具現。

◆◆◆◆◆

真名:アシュヴァッターマン
クラス:ライダー
性別:男性
身長/体重:170cm/61kg
属性:混沌・善

パラメータ
筋力B  魔力A+
耐久C  幸運B
敏捷B  宝具EX

クラススキル
対魔力:C
――第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:A
――幻獣・神獣ランクを除くすべての獣、乗り物を自在に操れる。

スキル
心眼(真):B
――修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理” 。逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
破壊神の加護:A
――シヴァ神からの祝福。マントラや宝具の使用時、魔力の破壊作用が上昇する。また、筋力を1ランクアップさせる効果を持つ。
気配遮断:A
――サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。完全に気配を絶てば探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
森の彷徨者:A+
――自然と一体となる特異体質。植物の域を越えた不動の明鏡止水。周囲の太源を呼吸をするように体内へ蓄積する効果を持ち、森林内における気配遮断のスキルランクを大幅に上昇させる。また、太源の吸収量も濃い森の中である程、効率的な働きを発揮する。

宝具
天翔る王の御座(ヴィマーナ)
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:――
――黄金とエメラルドで形成された空飛ぶ舟。輝舟、黄金帆船とも。水銀を燃料とする太陽水晶によって太陽エネルギーを発生させ駆動する。舵輪を備えているが、操作には必ずしもそれを用いなければならないというわけではない。各種兵器と多様性に富む機能を保有し、利用方法も状況によってそれぞれ異なる。
梵天滅矢(ブラフマーストラ)
ランク:A 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:200
――弓から放たれる壊滅の一矢。狙いを定めた対象を自動追尾する閃光となり、着弾と共に爆発する。凶悪な熱量を誇り、一瞬で広範囲を焼き払う。これはパラシュラーマから授けられた父ドローネのブラフマーストラを遺品として譲り受けた宝具。
滅び下す炎天の矢(ブラフマーストラ・アグネア)
ランク:EX 種別:対国宝具 レンジ:50~99 最大捕捉:測定不能
――火の矢。上空に幾つも放った矢の束が膨大な熱量を誇る擬似太陽となり、対象へ向けて高速落下する。保有しているエネルギーが余りにも強く、都市一つを壊滅されてしまう程。また、この矢が纏う閃光には強力な呪詛が含まれており、生物が浴びると瞬く間に全身に毒素が回り細胞が死滅する。霊体に対しても猛毒であり、魔術回路に機能不全を引き起こす。この宝具はパラシュラーマが持つブラフマーストラと同類の兵器であるが、アシュヴァッターマンのアグネアは矢の束を空中で凝縮・加速して放っている。ドローネの無念と自分自身の憎悪によって兵器として完成しており、地上全てを容易に破滅させる。
宝玉よ、祝福あれ(マントラ・ウパラ)
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1
――額の宝石。揺らめく七色の輝きを内部に保ち続けており、魔力炉として機能している。魔力行使を補助する作用を持ち、特にマントラや宝具で消費する魔力量を大幅に削減してくれる。また、洗脳や催眠などと言った外部からの間接的干渉を遮断する。他人に譲ることで宝具の加護を与える事も可能。

武器
ブラフマーストラ
――カルナが持つアストラと同じ兵器。ブラフマーストラはブラフマーストラ同士で威力を相殺することで、対消滅させられる。これはアシュヴァッターマンが誇るアグネアも同じで、相手が自分よりも小規模なブラフマーストラであろうとも対消滅してしまうらしい。
マントラ
――インドで使われていた神代の魔術。現代でも使われている。アシュヴァッターマンは兵器運用や武器を万全に使う為にマントラを父から習得しており、他にも応用手段が多くある。
ドローナの弓
――父の遺品である弓。とある聖仙から譲られたものだとか。マントラによって矢を生成する。
無銘・剣
――暗殺により血で汚れた魔剣。見た目は簡素で飾り気が一切ない鉈に似たただの片刃刀。能力はなく、強いて言えば頑丈で壊れず、鋭く強靭な刃を持つ。宝具ではないが、概念武装としては非常に優秀。破壊神から呪いが掛けられている所為か、斬ると同時に破壊力も上昇している。

◆◆◆◆◆

真名:宮本武蔵
クラス:アサシン
性別:男性
身長/体重:171cm/71kg
属性:中立・悪

パラメータ
筋力B  魔力D
耐久C  幸運A+
敏捷A  宝具C

クラススキル
気配遮断:B
――サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。アサシンは剣士であるが生前、奇襲や隠密行動を得意としていた。

スキル
心眼(偽):A
――視覚妨害による補正への耐性。第六感、虫の報せとも言われる、天性の才能による危険予知である。
透化:A
――明鏡止水。精神面への干渉を無効化する精神防御。また、心理戦においても常に平常心を保ち続ける。暗殺者ではないので、アサシン能力「気配遮断」を使えないが、武芸者の無想の域としての気配遮断を行うことができる。
二天一流
――兵法理念。剣術の極意。相手の動きを完全に見切り、回避と反撃を可能とする。また、特定の型や構えが必要なスキルや宝具を無効化する。これは自分自身の技術を完成させ、敵の精神と力量を誤差なく読み取る事で成せる戦闘論理の一種。相手の装備や動作から能力と行動を何手先も予測し、一挙一動を五感と第六感を用いて正確に把握し、無拍子で反応する洞察力が本質。
道具作成:C
――魔力を帯びた道具を作成する技能。兵法家として戦闘に必要な武器を準備し、あるいは水墨画や工芸で作品を残した芸術家としての能力。生前は魔術などの神秘に縁は無かったが、様々な道具を作った伝承からこのスキルを得られた。

宝具
五輪書(ごりんのしょ)
ランク:C 種別:対自己宝具 レンジ:0 最大捕捉:1
――自らが鍛え、極め上げた兵法を記した書物。六十回以上の勝負を行い、全てに勝利した兵法の集大成でもあり、その伝承の具現でもある宝具。所有している間のみ、保有スキルを強化する。また、無敗無双の剣士を再現する能力によって、心理戦で有利な判定を出し易くなり、幸運ランクを上昇させる効果も持つ。補助型の宝具ではあるが、宮本武蔵が持つ事で能力を更に底上げする規格外の性能を誇る。
虎振(とらぶり)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大捕捉:1
――宝具と化した対人剣技。相手の技が繰り出された時にのみ発動。攻撃を瞬時に避け、一歩で懐まで踏み込み、横合いから太刀を一閃する。回避、接近、反撃をほぼ同時に行う人外の迎撃奥義。敵が攻撃に集中しているほど成功率が高まるが、自分も負傷する確率が高い。その性能から、敵宝具の真名解放を封殺する事に特化している。本来ならば一刀流で行うが、二天一流を完成させたことで二刀流でも可能。つまるところ、見切りによる致死の奥義殺しである。

【Weapon】
無銘・木刀
――人間を撲殺するには丁度良い刀型の棍棒。サーヴァントさえ撲殺するアサシン手製の白兵戦用武装。
和泉守藤原兼重
――愛用の刀。主に右手で使用するが、一刀での扱いにもなれている。他にも様々な刀を所有していたが、アサシンはこの刀が一番斬り易いとのことで、サーヴァントになった今は主に愛用している。もっとも、折れたり刃毀れすれば、直ぐに違う刀へ乗り換えてしまうのだが。
無銘・小刀
――扱い慣れているが、無銘の刀。主に左手での扱いになれており、投擲にも利用出来る。アサシン曰く、鎖鎌使い宍戸に止めを刺した刀らしい。実は最も信頼している刀で、若い頃に強敵を倒した相棒として強い愛着がある。

◆◆◆◆◆

真名:ダイダロス
クラス:キャスター
性別:男性
身長/体重:169cm/73kg
属性:混沌・中庸

パラメータ
筋力B  魔力A
耐久D  幸運B
敏捷D  宝具A

クラススキル
陣地作成:――
――宝具の影響でこのスキルは意味をなさない。
道具作成:EX
――魔術的な道具を作成する技能。武装類や建築物の作成を得意としている。

スキル
概念改造:A+
――自作の道具は勿論、自作以外の装備品にも改良を施せられる。このスキルはかなり特殊で、剣や鎧は勿論、自動車や飛行機といった機械も対象にしている。むしろ複雑な構造をしている方が、キャスターはより改造に燃えてしまう。また、他者の宝具さえスキルの対象範囲となっている。
探究の知恵:A
――様々な分野で発揮させる特殊な思考回路。特に謎解きや、道具の発明おいて大きな効果を発揮する。

宝具
幽閉迷宮(ラビュリントス)
ランク:A 種別:対陣宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
――キャスターが生前に建築した大迷宮。魔力によって自由自在に地下へ、稼働式大規模陣地を作成することが出来る。内部はキャスターが匠の真髄を凝らした英霊を殺す為の殺戮空間と化しており、伝承よりも凶悪な罠の坩堝となっている。また、地表の好きな個所へ迷宮の出入り口を作り、自在に出入りが可能。星の地脈から太源を強引に吸収しているため、キャスターが消滅するまで半永久的に展開。中心部には迷宮を運営する魔力炉を核として搭載できる。
大いなる発明(アーマーズ・インベンター)
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
――自分の作品を宝具にする。生前に生み出した宝具を多数所有しているが、現世でも新たに宝具を作り出せる。彼が作った宝具は『幽閉迷宮』に保管され、迷宮内部なら取り出しは自由。外部でも出入り口を作れば装備品を好きな様に移動できる。

◆◆◆◆◆

真名:ハンムラビ
クラス:バーサーカー
性別:男性
身長/体重:180cm/71kg
属性:秩序・中庸

パラメータ
筋力B  魔力B
耐久B  幸運A+
敏捷B  宝具A

クラススキル
狂化:E
――凶暴化する事で能力をアップさせるスキル。……が適性がなく、理性を完璧に残しているのでその恩恵はほとんどない。筋力と耐久がより“痛みを知らない”状態になっただけである。しかし、本人は生前よりも更に筋肉質になった肉体を喜んでいる。むしろ、このスキルは宝具で召喚した配下に応用する事で真価を発揮する。

スキル
皇帝特権:A
――本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。該当するスキルは騎乗、剣術、槍術、体術、透化、勇猛、等。ランクがA以上の場合、肉体面での負荷(神性など)すら獲得する。
直感:B
――戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。
軍略:B
――一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
カリスマ:B
――軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。

宝具
王の規律(ロウ・オブ・バビロン)
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
――石板に刻まれた碑文の法典。太陽神に加護された王の絶対法律。この宝具の所有者を傷付けた場合、等価の損傷を加害者と共犯者が負担する。所有者よりも霊格が低い者が加害者であった場合、被害者が受けた負傷よりも深くなる。さらに、所有者が殺害された場合、加害者とその殺害に関与した協力者の命を奪う。目には目で、歯には歯で、と言う言葉で有名なハンムラビ法典が正体。これは社会正義と弱者救済が印された太古の法理で、王が民に示したバビロニア帝国の法典である。実質、サーヴァントに傷付けられても相手が同じサーヴァントではほぼ等価の報復しか出来ないが、相手サーヴァントと契約し協力しているマスターとなれば話は別となる。とは言え、実行犯以上に報復対象となる罪状が高くなる事は無いが、令呪や命令などでマスターが主犯格となっていれば効果はより高まってしまう。また、戦闘面では傷害罪や殺人罪が主に有効となるだけで、詐欺罪、誘拐罪、脅迫罪なども宝具の対象となる行為に該当する。
黄金陽兵(シャマシュ・バビロニア)
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:100
――幽霊兵団の召喚。輪郭が火のように揺らぎ、肉体と武装が炎熱を纏っている。各々の兵士全員が独立したサーヴァントであるが、宝具は持たず戦闘能力は下級サーヴァント以下である。他にも全員がランクD相当の『単独行動』スキルを保有しているため、短時間であればマスター不在でも活動可能。戦争行為を成す兵士であるが、彼らもまたハンムラビ法典の守護下にあり、彼らにダメージを与えれば『王の規律』の対象となる。霊体が炎化しているのも『王の規律』による太陽神の加護が具現しているため。もっとも元々が死人の亡霊であるため、サーヴァントが殺したところで大した報復にはならない。だが、殺せば殺すほど損傷が蓄積していき、共犯者と認定させるマスターも罪を背負う対象となってしまう。正体はバビロン王朝第六代王にして、バビロニア帝国初代皇帝ハンムラビと共に他国の都市を滅ぼした初代帝国軍侵略兵。

【Weapon】
無銘・片手剣
――煌びやかな様でいて実用的な両刃の剣。バビロニア初代皇帝になった時、特別に作らせた自分だけの剣だとか。
無銘・片手盾
――輝かしい紋様が刻まれた小盾。バビロニア初代皇帝になった時、剣に相応しい盾が欲しくなって作らせたとか。
ハンムラビ法典
――宝具となる石碑。効果が出るまで若干時間差があり、宝具ごと死体を残さぬ程の一撃で葬りされば、法典の効果が出る前に消滅してしまう弱点がある。

◆◆◆◆◆

 読んで頂き、ありがとうございました。没サーヴァントで白い死神やスツーカの悪魔もいましたが、それの設定は乗せないでおきます。
 後、彼らは相性が極端に良かったり、悪かったりします。一番の難敵はバーサーカーで、彼の法典宝具を攻略出来ないと勝ち残れないと言う無理ゲーだったりします。


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