後、この度の話の題名ですけど、読み終わればストンと意味が分かるようにしてみました。
デメトリオ・メランドリは、刹那の世界を垣間見ていた。自分を狙い進む
アレを見間違える理由が無い。代行者、死徒、魔術師たちが殺し合う闘争の場を一瞬で鎮圧した幻想の武器。
魔術使いエミヤが誇る悪名高き投影宝具―――
衛宮士郎は宝具を投影し、弓で射る異端の魔術師。あの弓兵からすれば、そも魔術など取るに足りない其処らの神秘。殺戮に特化した近代兵器でさえ、奴の前では簡単に攻略されてしまう。数多の戦闘用の魔術礼装も、概念武装も、異様なまで優れた眼力で全て把握されてしまう。加えて、効率的に自身の能力を運営し、戦場をたった個人で支配する英雄に等しい兵士である。
故に―――弓兵が聖騎士を一番に狙うのは、分かり切った道理。
サーヴァントが相手では、確実に殺せるとは限らない。言峰士人は既に偽・螺旋剣の攻略法を編み出している。
「――――――」
その一秒よりも尚短い時の狭間で、デメトリオは魔眼を用いて空間に無数の斬撃を放つ。むしろ、矢の進行方向に置くようにし、斬撃を防壁として応用。だが、その全てを空間ごと抉り貫かれる。
同時―――騎士は剣を構えた。
魔力は十分。身体は万全。
問題はタイミングと、迎撃が可能な技を引き出せるか。何より、彼にはそれしかない。剣を振う以外にすべきことも無く、最初からライダーを頼る気もない。必要もなく、これ程の修羅場を誰かに渡す気など湧く訳が無い。
接近。後、間合いまで10m。
男の剣は、教会では鉄槌の剣と呼ばれている。触れただけで魔を浄化し、異端を滅する人造聖剣。能力は単純明快、魔力を込めれば込めるほど破壊力が増す。物理的にも概念的にも、その刃の魂魄は鋭く重く、限界無く強くなる。それだけの剣であり、故に剣として以外の余分を出来るだけ排除されている。複雑な概念など無用、有用なのは如何程まで斬れるかと言う一点のみ。
それを完全開放。
鍛え抜いた業を、騎士は魂の底から全力で解放する―――!
「シィィイアアアアアア……ッ――――」
脳がイカれた猿の如き奇声。刃と矢が接触した直後、爆音と粉塵で道路が崩壊した。デメトリオを中心に凶悪なまで轟く破壊音が戦場を支配していた。
「……は。これだから、化け物は好きになれん」
遠距離から戦場を監視していた士郎が、吐き捨てる様に呟いていた。何故なら、欲しい結果を得られるどころか、自分の必殺と呼べる隠し玉が単純な手段で対応されてしまっていた。
―――打ち落とし。
瞬きする間もなく、矢を側面から斬り消した。
それも複雑な神秘など使わない膂力と技量による絶技。教会の聖剣を解放してはいるが、それはただ単純に剣戟の威力を上げているだけ。不意打ちを真っ向から迎撃し、砲火を粉砕する異次元染みた剣戟だった。士郎の偽・螺旋剣は対軍レベルの領域にある。壊れた幻想などと言った条件が揃えば、投影一つで対城クラスの成果も生み出せる。
その“
「
デメトリオが行ったのは本当に単純な剣技だった。それに魔眼による無数の切除の斬撃によって、回転直進する螺旋剣の軸が少しズレテいた。速度が高ければ高い程、矢の中心点は外れ力の集中が分散する。威力が僅かばかり減り、剣戟の方へ力の比重が偏る。
そして、騎士は合気斬りを応用し、矢の推進力を斬撃全てに集約。斜め上から剣を振り下し、高速回転する矢を逆に刃で磨り切った。直後、螺旋剣は二つに綺麗に切り裂かれ、投影の形を維持出来ずに吹き飛びながら森の中に消え去った。
つまるところ、デメトリオ・メランドリの剣技は最低でも対軍の領域にあると言うこと。
人の身で、英霊に並ぶのではない。人間で在りながら、宝具を上回る個人の能力を持つと言うこと。
要は衛宮士郎や遠坂凛と同種の化け物である。そして、この騎士は剣術だけでその領域に至っていた。言わば固有結界と魔法に匹敵する剣技。この騎士は本来なら万能極まる全ての才能と素質を、剣にのみ捧げた獣であった。
身体も、精神も、魔術回路も、それだけに特化した―――剣の化身。
「……だが、足止めは成功だ」
◆◆◆
―――異常なまでの死の気配。悪寒を感じる前に、士人は強い違和感で神経が捻じれそうだった。
背後から伝わる捻じれに捻じれ、歪み過ぎた空間の隙間。思考を挟まず、彼は愛剣を投影を行いながら振り返る。その刹那さえない零の間。デメトリオとカラドボルグの衝突に全員の意識が逸れ、僅かに対応が出遅れた神父が死を悟った時―――彼の眼前に、突如として黒く汚れた橙色の外套を羽織った女が現われていた。それも深く腰を下げた抜刀術の構えを、最初から作り上げていた状態。敵影を認識したと同時に攻撃が行われていると言う臨死。
回避はおろか、動く事さえ儘ならない。
士人の視界に映った外套の女―――アーチャーは欠片も躊躇わず、鞘から抜き放った刃で以って神父の影を斬り裂いた。
「―――……!!」
アーチャーが振り抜いた斬撃軌道、その僅かギリギリに刃の先端を入れる事に間に合った。神父は愛剣の
頭と首に、四肢と心臓。居合斬りからの連撃交差。肩と肘と手首を最速で捻り回し、腰と両脚の踏み込みで膂力と速度を増幅。乱れ舞う刃が群れを成し、躊躇い無く神父を粉微塵へ変えるだろう。だが、その全ての軌道を彼は見切り、かろうじて防ぎ切る。とは言え、全て凌ぎ切れた所で、アーチャーが再度隙を狙い刃を振えば死んでしまう。彼女は身を捻り、刀を刺突の構えで神父に向け―――その背後をアサシンが狙う。
アーチャーは、敵の攻撃手段を知っていた。そもアサシンの姿が見えて居た時点で、暗殺と奇襲に対し常に気を張っていた。背後からの凶手を読み間違えるアーチャーではない。そして、敵が持つ短刀の刃は掠り傷一つで致命になる猛毒。彼女にはその毒素に対する守りが無い。よって、その攻撃を回避することに専念しなければならないのは道理。故に、直角に刺突の軌道を強引に捩り曲げ、アサシンの心臓狙い不意を突く。
しかし、アサシンもまた油断はない。そもそも第一目的はマスターの救助。攻撃を避けると同時、血霧によってアーチャーの視界を塞ぎ、猛毒で周囲の空気を汚染する。アーチャーは呼吸を止め、目を閉じて一気に戦場を離脱した。あの毒の霧は呼吸器官だけではなく、皮膚も融解する呪詛。加え、呪いによる毒だけではなく、生物学的な観点から見た化学反応で以って、神秘だけではない自然作用でも殺害する。呪いに対する防御なら、死なぬ程度になら耐えられるかもしれない。だが、毒素で以って“物理”的に心臓を停止させられ、脳死させられてしまえばサーヴァントでも命を落とす。
「―――っち……容易くないなぁ。はぁ、ホント面倒臭い」
面倒だった。このアサシンは暗殺の権化だった。暗殺術に通じ、呪術に通じ、毒薬に通じている。あの毒霧に神父も巻き込まれていたが、アサシンに解毒の予防薬を投与をされていたのだろう。霧が直ぐ様晴れ、中から神父と暗殺者の両名が弓兵の前に現れていた。
……神父暗殺の失敗を悟り、アーチャーは周囲の状況を第六感で感知。
自分のマスターである遠坂凛と、同盟相手の衛宮士郎は無事に目的対象と合流出来た模様。ならば、策は既に完成した。
「アンタらの相手は、このアタシだ。付き合って貰うよ」
ライダーと聖騎士の相手はマスター達に任せる。自分がこの二体の化け物を抑え込めれば、勝機はより大きくなる。
「油断するな、アサシン。あれは手強いぞ」
何処か相手の詳細を知っているような口調。アサシンはラインの繋がりもあり、マスターの心情が何となく把握出来ていた。なので、士人と弓兵の関係を聞こうとするのも自然な流れ。
「相手がサーヴァントならば当然だが、あの
それにアーチャーが持つあの刀は、何故か先程奇襲したアヴェンジャーが持つ武器と全く同一。この不可思議を疑問に思いつつも、アサシンは仕事を優先しようと神父と話を合わせる。
「まぁ、得られた情報からだとそうとしか断じられん。尤も、これは嬉しい誤算だが。前回でも楽しめた遊興を、この度での戦争でも繰り返せる。似た舞台とは言え、愉しめる結末が違うとなれば幸いとなろう」
黒い布切れのローブを全身に纏う髑髏仮面の女と、黒い法衣でフードを被り顔を隠している男。似た者同士故か格好も二人は似ていて、アサシンと士人はフードで共に表情を隠している。そして、気配を殺して現実味が薄れさせているのに、無視出来ない異様な存在感を放っている矛盾。二人は隙を見せれば、直ぐにでも夜の暗闇に消えてしまいそうだった。
「あの黒い義手と、移植した“鍵”の右腕。あれは魔術師言峰士人としての最高傑作」
士人が見ていたのは、アーチャーの左腕の義手と生身の右腕。あの兵器は自分が作ったもの。自分が育てた最高の弟子に、手ずから与えた戦争を生き残る為の便利な道具。
「……ほう? つまり、あの英霊の宝具は―――貴様の創作物だとでも、そう言うのであるのか?」
「ああ、そうだ。間違いない。自分が作った魔術作品だからな」
言峰士人には、とある一つの発想を得ていた。自分が持つ固有結界は、悪魔の泥によって中身が空になった心象風景から形を成していた。作る者として才があった所為か、外部から取り込んだ情報を固定し、一つの存在として幻想を生み出せる。そして、衛宮士郎も同じであった。宝具である聖剣の鞘を取り込んだ事で、これはただの推測に過ぎなかったが、あの固有結界を形成する事を成し得たのではないかと士人は考えていた。
ならば、悪神の呪詛や英霊の宝具の様な強力な神秘であれば、何かに別の神秘に覚醒するのではないか?
それに適応した人間は、身の内にある魂や精神を変形させながらも、自身に相応しい潜在的な能力に目覚めるのではないか?
そんな悪魔的発想を士人は思い付いていた。人が生まれながらに持つ魂。その根底にある何かしらの因子を、人の身に余る神秘と概念で以って書き換える。長い長い時間が掛かるかもしれないが、それでも試さない理由が無い。
「宝具―――
その神秘、使いこなせている様で何よりだ。
だが、変質したのは魔術属性だけだったからな。お前の魔術特性は、あの奇怪な自然干渉法による素質。本当に愉快な気分だよ。常々疑問に感じていたからな。
だが、その姿を見れ、今やっと確信を得られた」
魔術属性「門」、魔術特性「干渉」。自覚は欠片も無く、最初は目覚めても居なかったが、生前の
―――念力使い。
それも外部から流れる魔力にまで干渉可能な、凶悪な干渉能力。
あの時、彼女は神父の魔眼による魔力の波長を、無自覚に内界から弾いていた。その潜在的な神秘による所為か、彼女は魔術特性が色濃く魔術回路に具現していた。魔術属性は年月と共に魔術行使を繰り返す事で変質したが、この特性に変化は無かった。
……つまり、言峰士人が投影した鍵の宝具でさえ、塗り潰せない程の異端。
右腕が鍵となり、自分自身が門へ変異する。もはや彼女の右腕自体が擬似的な宝具化を成していた筈なのに、それでも異能は普遍。
「超能力とは、アラヤによる異能。抑止力であり、偶発的に発現する一代限りの変異遺伝。となれば、お前のそれは何に対する抑止だったのか?
そう言う類の異能は、使う必要のあるべき者に出現する。殺人貴しかり、衛宮士郎しかり、俺が旅をし、見て回った世界はそうだった。数ある英霊達もそれに該当する者が多くいるだろう。元より、結果には何かしらの原因となる何かがある。因果関係を知れば、不理解な事も何時かは悟れる事もある。
……それが人間種の理だとすれば、答えも見えてくる。自ずとお前の異能が、何を目的とした力なのかも悟れると言うもの。
なぁ、そうだろうアーチャー。いや、この場では弟子と呼んだ方が親しみ易いか?」
人理とはまた違う繁栄の為の理ではなく、生存の為の人の理。それを魔術世界では抑止力と呼ぶ。
「―――知るか。如何でも良いさ、どうでも」
握り締める右腕からは、サーヴァントに相応しい魔力が流れ始めている。周囲にはライダーの兵士が散開し、自分を殺そうと隙を窺っているのもアーチャーにとって厄介だった。敵兵を出し抜いて奇襲に成功はしたが、場が一旦治まれば周りの兵士も戦闘に参加して来るだろう。
とはいえ、アーチャーは自分の目的を達成出来た。ライダーと聖騎士、アサシンと神父はどちらも非常に厄介だが、分断出来れば勝機はまだある。ならば、少ない戦力でどちらか一方を足止めだけに留めて何とか生き残り、もう片方の戦力で反対側を一気に叩く。そう言う意味では、この状況はアーチャーにとって好都合。
「ふむ。まぁ、そうだろうな。其方の主な目的は、我々に対する時間稼ぎだと此方も見当はついている。ライダーを総力を上げて討ち取ろうとするのも、状況から簡単に分かるしな」
しかし、戦局の状況判断能力は士人もそれなりに高い。相手の状況を自分達の状態を比較すれば、勝手に相手が何を目的にしているのか見えてしまう。
「へぇ……そう。だったら、何でこんなにチンタラと会話をしてんのよ。こっちとしては、アンタの言う通り時間稼ぎが出来て嬉しんだけど?」
「何、話は簡単だ。こちらもお前を釣れただけで、ほぼ同盟条件は完了している。むしろ、俺らの足止め役がアーチャーであるお前であった事が、奇襲を受けたとしても僥倖と言える事態だ」
衛宮士郎が放つ螺旋剣の遠距離奇襲と、遠坂凛とアーチャー達の強襲。ライダーからすれば、予想しておいたシナリオの一つに過ぎず、想定内と言う事はそれ相応の戦力も最初から準備済み。既に全てのサーヴァントを相手にしても、勝ち残るに足り得る物資と人員は確保している。しかし、それでも敵が増える事態を僥倖と呼ぶのは、些か可笑しい話。
「……? アンタ、一体何を考えて―――」
「―――ライダーの天敵はお前だけなのさ、アーチャー。そも奴が我々と同盟を結んだ理由は、キャスター討伐もあるが、お前と一対一で戦える状況を生み出す為でもあった」
時間稼ぎは士人からしても望むところ。故に態々話す必要のない情報を売り、アーチャーの思惑も手伝って時間を潰している。
「……ああ、成る程。そう言うこと。つまりライダーかアサシンか、アタシを殺す役はどっちでも構わなかった訳か」
天敵と言われ、確かにアーチャーは納得する。そして、変わらない神父の狂い具合が厭になった。彼女はライダーに勝てるか否かと言えば微妙だが、相討ち覚悟ならば高い確率で殺せる。マスターの協力もあればライダーにだけは高確率で殺せるも、そこにメランドリが加わると一気に勝率は下がる。しかし、自分達には衛宮士郎が居る。となれば、アーチャーにライダーと一対一で戦わせれば、作戦次第では勝負に出るのも悪くなかった。
「ふ。随分と聡い良い女になったな。この状況は、俺らとあの覇帝と聖騎士からしても好都合。お前らにとっても好都合。互いが互いに望み、自然と生み出された必然の戦場だと言う訳さ」
ライダーは纏めて皆殺しにしてしまいたかった。このままアヴェンジャー組とバーサーカー組を討ち殺せえばそれはそれで満足だが、奴らを餌に他の組を戦場に炙り出せれば更に良い結果となる。何より、サーヴァントを殺せば殺す程―――ライダーの宝具はより凶悪に深化する。単純に力が強まり進化するのではなく、何処までも戦場に特化せんと兵士と兵器が深化するのだ。
キャスターはアサシンと神父が居れば問題ない。このアーチャーを殺せれば、ライダーは聖杯戦争も思い通りの軌道に乗れると考えていた。
「そうか。こっちの奇襲は想定済みで、罠に飛びこんだようなもんなのってね。そっか、そーか……ってなると、こっちもまた面倒な事をしないといけなくなる。計画変更かな」
「クク。そうだな、此方もお前らの思惑通りと言う訳にはいかなくなった」
ジリジリと周囲の兵士がアーチャーとの間合いを縮める。今は今かと手に持つありとあらゆる銃火器を構え、発砲の瞬間を待っている。
「―――撃てよ、雑兵共。殺せるなら、殺してみろ」
嘲りと言う、酷薄で不気味な笑み。アーチャーが浮かべたのは、それの最上級。侮辱であり、もはや向けられただけで殺意が爆発する屈辱。血に染まる赤い幽兵達は怒気のまま、銃火器を手当たり次第に発砲。
だが―――無意味。むしろ、悪手に過ぎない自殺行為。
弾丸一つ一つをアーチャーは研ぎ澄まされた空間感知能力を持つ第六感で把握し、初弾の一粒一粒に異能で干渉。回転をそのままに直進方向を反転させ、弾丸を連射する兵士達へ反射させた。加え、連射してくる後続の弾丸も異能で逸らし、そのままあらぬ方向へ跳び撥ね、結局は他の兵士に被弾。
「―――やはりか。弓兵で在りながら、その癖アーチャークラスで呼ばれるサーヴァントの天敵になる訳だ」
「その通りさ。アンタを殺すのに便利な道具だったよ、アタシのこの異能」
アーチャーの能力を知っている士人は、この結果を容易く予想していた。いや、そもそも彼女の異能を鍛え上げたのは言峰士人と言う男。使い方も利用方法も知り尽くし、ライダーの兵士が無能になるのは理解していた。とは言え、兵士達が接近戦を挑めば話はまた違うのだが、そうすれば今度はアーチャーが一方的な遠距離戦を展開する事になり、結局は堂々巡り。
ライダーが本来の宝具を解放するか、あるいはライダー本人が兵士達を操っていれば話は別だが、今のライダーは他の敵を迎撃するのに集中している。あっさりとアーチャーに殺された兵士達はライダーが持つ宝具の魔力源へ変換され、この場から消えて無くなった。ライダーは既に、神父と暗殺者に増援を送る気は無いらしい。見張りの観測兵位は遠くに居るのだろうが、士人もアサシンも兵士らに手助けして貰う気は無いので問題は無く、戦闘を見られる事も最初から分かっていたことだ。
「厄介だな。弓兵殺しのアーチャーのサーヴァントか……ふむ。アサシン足る私も、殺害手段が限らてしまうな。尤も、殺せれば問題は別に無いが」
周囲に居るのはアーチャーと、神父とアサシン。瞬く間に兵士を殺し尽くし、彼女は何でも無い様に戦場へ君臨する。そして、アサシンは自覚は無いが敵の能力を理解した上で、取るに足りないと侮蔑していた。この異能は彼女の根幹でもあり、敵がほざいた言葉に反応せずに無視はしたくなかった。
「へぇ? 面白い事言うね、そこの整形顔」
「……む? ああ、そうだが? 私は整形が得意分野だぞ」
アーチャーはこのアサシンが持つ技能の詳細を知り得ている。無論、顔の変化で高度な変装術を有しているのも分かっている。そこで相手が鍛えた技術を愚弄し、暗殺者の感情を引き出そうとした。なのに、皮肉を素で流してしまう挑発殺し。アーチャーはこの暗殺者が神父の同類の輩だとはっきり理解した。結局は言葉通り、マスターとサーヴァントは似た者が召喚される良い例だと分かっただけ。
厭になる、嫌になる、否になる。
人殺しに何も感じなくなった自分と、そんな自分と同類に過ぎない敵が癇に障る。殺し殺されが普通に過ぎない日常などだと、言葉で会話をするだけで理解してしまう。神父と暗殺者は弓兵にとって、見ているだけで感情が逆立ってしまう異様な敵だった。
「はぁ……全く、厭なくらいアンタらは似た者同士だ。やる気は出るけど、此処じゃ全力が余り出せない。なので―――」
この場はライダーの宝具である略奪結界の内部。同盟対手であるので神父と暗殺者は無効化しているが、それ以外の生命に容赦はしていない。実際、アーチャーが異能と魔術で行使した飛び道具を封じる軌道逸らしの術も、使用する魔力量が増えている。万全なステータスを発揮する為に必要な魔力も増大している。
となれば、ライダーを相手にする必要は皆無なので、この場に留まる意味は無い。
「―――アタシに付いてこないなら、ライダーを一方的に狙撃させて貰うよ」
一瞬でアーチャーは刀を門を開き、自己の内界に仕舞い込み、それと一緒に銃火器を取り出した。
「ほう……? それは俺が趣味で作ったヤツか」
「便利な道具だよ。死んでからも使わせて貰ってるのさ」
何時か何処かで、第五次聖杯戦争前に士人が製作した武器を右手に持っていた。FNP90と呼ばれる個人防衛火器が大元の改造銃。また、左手にはモーゼルC96。此方も大幅に大元の性能を改造されており、同じなのは殆んど外観だけになっている。
その二つの銃器。敵が持つ武器は見覚えがあるモノばかり。士人はこの因果に感謝しつつ、アーチャーの正体が嬉しくて堪らない。
「じゃあ、会話はここまで。殺し合いを再開しようか」
挑発を行い、アーチャーは敏捷性を生かして一瞬で夜の森の暗闇に姿を消した。しかし、遠ざかっていく気配は隠しておらず、士人とアサシンを誘っているのは明らか。既にライダーの略奪結界の範囲外から抜け出し、戦闘準備を開始していることだろう。そして、士人とアサシンは躊躇わなかった。アーチャーを逃さないと二人は一気に速度を上げて追いかけた。
直後、アーチャーからの銃撃が始まる。
士人とアサシンも遠距離攻撃で敵を牽制したいが、相手は生半可な攻撃を念力の異能で無効にする。となれば、ここは素直に攻撃を捌きながら接敵する他ない。
“ふむ。一方的な展開に持ち込まれたぞ、神父”
“そうだな。アレにはそう言う嫌らしい戦術を、徹底して教科書通りに基本を教えたからな。仕方無かろう”
アーチャーを追いかける二人は念話で愚痴を溢しつつも、速度を落とす事無く走っていた。森の中と言う悪条件でありながら、生身で時速100kmをオーバーする程の長距離疾走。アサシンはその程度の曲芸は軽く出来るのは当たり前だが、士人も魔力によって身体機能を補正。
つまり、アーチャーはそれ以上の速度で走りながらも、後ろを警戒しながら銃撃を敢行していた。夜の森と言う条件を簡単に無視し、逃走と迎撃を成立させているのだ。そんな逃げている相手の思惑に乗りながら、士人とアサシンも相手を自分達の策謀に引っ張ろうとしている。
“成る程。貴様の教えを受けたと言うのであれば、最悪極まる難敵だ。始末が悪い―――ん?”
“どうした?”
“いや、問題は無いぞ。あやつに直接肉体に干渉されたが、呪詛を流して防げた。しかし、ふむ……そうなると、アーチャーが持つ異能は魔力による抵抗が可能なのか?”
“ああ。魔力による抵抗にアレの異能は弱い。とは言え、直接触れられると危ないが。故にだ、肉体ではなく武装に干渉されたとしても、自分の魔力を流して抵抗は出来る”
“……貴様は平気なのだな?”
“慣れているからな。練習台になってやった事が幾度かある”
“そうか。しかし、そうなると益々厄介な話だ。物理的な遠距離攻撃は効かない。私の呪術も逸らされる可能性が高い”
“だろうな。生身の魔術師には効き難い欠点はあるが、悪魔染みた物理干渉能力を保有している様だ。俺の想像以上に成長していてる。嬉しい限りだよ”
“気持ちは分からんでも無いぞ。私も嘗ての弟子達にも幾人かのハサンがおる。彼らが私を殺せる程に強くなったとなれば、師として大変喜ばしいからな”
銃弾を払いながら、念話による情報交換と愚痴の言い合いを随時行う。喋らなくとも意思疎通出来る利点を生かさぬ理由は無く、弓兵から放たれる魔弾も二人は完璧な連携で防いでいた。P90による弾幕で壁を作りつつ、モーゼルC96が的確に急所を狙ってくるが、神父と暗殺者からすればまだまだ温い。手元に投影した悪罪の刃を盾にしつつ、障害物で木々で身を隠す。アサシンなど体に弾丸が当たる箇所の血液を硬質化させ、頭部や心臓を両腕で防ぎながら突き進んでいる。
「逃げるのは此処までにするよ、お二人さん。ここをアンタらの死に場所にしようか」
……ふ、と二人の足が止まった。アーチャーが少し森の木々が開けた場所で佇んでいる。何より、普段の彼女からは想像不可能なまで、凶悪に歪んだ殺気を纏っていた。士人とアサシンが様子を見た方が良いと第六感で脅威を感じるまで、アーチャーの存在感が深く澱んでいた。
今のこの場所は、ライダー達が居る決戦場から離れている。ライダーの宝具が保有する観測兵も、既にアーチャーが張った簡易的な結界の所為で物理的にここを視認する事は出来ない。マスター達の視界にもこの場所なら届かない。
「でもさ、言峰。アンタにはこの最後に聞いておきたい事がある」
「何かね、ミツヅリ?」
そう、名前を呼ばれてアーチャーの気配は激変した。今にも死にそうな程、激情に追い立てられた復讐鬼の如き圧迫感。なのに、そんな彼女の表情はとても透き通っている無表情。冷徹などではない。あれはもう、内側にあるべき何かがごっそりと消えていた。
「アンタが美綴綾子と言う弟子を育てた理由―――つまり、このあたしをこんなにまで歪ませた理由が知りたい」
これだけは聞いておかねばならなかった。
「……長くなっても構わないかね」
「構わないよ。その為に、態々こんな誰の目にも届かない場所まで来たんだ。戦闘を行う仕草をする必要もないし」
森での銃撃も、アーチャーはマスターである遠坂凛や衛宮士郎たちに、戦いながら移動していると認識して貰う為のフェイクだった。最初に行った神父に対する奇襲もこの位で死ぬなら構わないと言う悪意はあったが、この程度は死なないと言う確信があった。
だからこそ、士人はあっさりとミツヅリの本心に気が付いてしまっていた。
相手が
「強いて言えば―――娯楽だよ」
「……そう。それで?」
そんな事は最初から知っていた。こいつは何処まで逝っても、所詮は言峰士人に過ぎない業の獣だ。アーチャーはそも、楽しめないなら愉しもうさえしない神父の異常性を理解していた。
「フ、くく。まぁ、お前があいつならば、その態度も納得出来るな」
「御託は要らないよ。アンタの在り方はもう知ってるから。だけど、何でこのアタシを―――」
「―――それはお前ならば、この私でも愛せるかもしれないと考えたからだ」
「…………あ―――いや、アンタ本気?」
好きだ、と言われた事はある。けれど、愛しているとは一度も言われた事は無い。アーチャーは士人が嘘を必要としない極悪人だと理解しており、彼が自分を愛していないと言う事を正確に理解していた。
けれども―――あの言峰士人が、自分を愛そうと足掻いていた事は初めて聞いた。いや、生前の自分はそんな程度なら悟っていたかもしれない。しかし、記憶が摩耗し過ぎて、確かに覚えているのは最期の瞬間、こいつの心臓に刃を突き立てた時くらい。思い出を大切にしていた筈で、召喚されてから大分記憶も思い浮かんで来て、記録の方も既に万全な筈。
「意外か? それとも、生前のお前は俺にそう言われなかったか?」
生前を懐かしみつつも、守護者と成り果てた彼女はもう過去とは別離した身。無意味な行為だと理解していながら、神父を見ると胸が苦しくなった。原因は憎悪の感情も確かにあるが、他に何を思っているのかは封印しておく。
「さぁ、どうだろうね。もう過去は朧にしか思い浮かべないから。でも、そうか。うん、そんな生前の記録もあったかもしれない」
「成る程。守護者になった弊害か」
「気にするなよ。今は続きを聞きたいんだ」
「そうかね……」
笑みを浮かべ、士人は楽しそうに頷いた。普段の彼からは余りにもかけ離れた穏やかな表情で、今の彼は多分何も偽っていない。本当に心に宿す衝動のまま、アーチャーと語り合う事を心底愉しんでいる。
「……私はな、人の業が好きだ。世界を旅し、人々と触れ合い、様々な悲劇や惨劇を存分に楽しんだ。地獄を愉しみ、今もまだ楽しんでいる。
故に―――自分自身の手で生み出したかった。
言峰士人にとって最高の、そして頂点となる娯楽品を作りたかった。だが……」
息を吸い、言葉を切った神父の表情は何処までも澄んでいて、透明で。悪徳を良しと笑う邪悪である筈なのに、聖人君子の様な神々しい静寂を放っていて。だからこそ、そんな言峰士人を神聖で、敬虔な聖職者に感じてしまう自分自身がおぞましかった。アーチャーは生前よりも尚、この男の恐ろしさを第六感で味わい―――それ以上に、何故あんな怪物に恋心を抱いてしまっていたのか、再度思い返す事となった。
「……もはや、それも終わりを迎えた。こうして自分の生み出した創作物の末路を、この目で見る事が出来なのだからな。
捻じれ曲がったその歪み、言葉に出来ぬ奇怪さ。
それこそ
期待していた答え。予想していた真実。つまり―――今の自分を生み出す為だけに、言峰士人は美綴綾子を完成させたのだ。
「……そうかい。けどね、アンタはそれで良いさ。最初から理解していたし」
「知っているよ。何より、お前がそう言う人間だと言う事も、俺は理解している。だからこそ、分からない事があるのだが」
「ああ、アンタの気持ちは分かるさ。このアタシがその程度で何故態々、言峰士人を殺そうとするのかって事だろ?」
「ああ。疑問と言えば疑問だ。尤も、
とは言え、俺にはまだ愉しみたい物語がある。それを邪魔するとなれば、理想を遥かに超えた最高傑作たるお前でも殺さねばならん」
「ホント、極悪外道だ。人の気持ちを理解して弄ぶのがそんなに楽しいか?」
「今更問う様な事柄ではないな、それは。愉しめるから楽しむだけだ。原因はあるが、俺は其処に理由は存在しない。
だが、そうだな……故に、聞いておきたい事がある」
「一応“この今生”では最期にするつもりだからね。アンタの言葉だ、答えてやるよ」
静かに、とても穏やかに、神父は微笑んだ。神の啓示を受けた聖職者よりも尚、今の彼は直視に耐え難い神聖さを纏っている。
それはもはや人間では無かった。
何処までも黒く深く、煮え滾る灼熱とした泥の眼光を、アーチャーに向けている神父の瞳。人間では無く、英雄でも無く、怪物でも無く、泥人形としか形容出来ない人型の残骸。アレの心の中には本当は何も無いのだと、対峙した者に分からせる空白がソコには存在していた。
「ふむ、有り難い。では聞こうか。お前が守護者になった時―――一体、何を代価にして契約を結んだ?」
これは聞いてはならぬ質問だった。士人は悟っており、だからこそ耐える必要が無かった。聞けば、それだけでこの聖杯戦争に匹敵する歓喜を、聖杯の呪詛を衝動にして生きている自分の心が震えてくれる。ただ生きるだけでは得られぬ感動が、この瞬間に手に入る!
そんな、狂気さえ生温い泥人形の求道を、彼女は受け入れる。理解した上で、肯定し、殺す。今此処で終わらせる。だから、この答えこそ、言峰士人とミツヅリが争う戦火の宣告となる。
「生前のアタシはな、言峰―――アンタを殺す為に契約を結んだ」
守護者になった後でも、深く記憶に刻み込まれている。誰も彼もが殺されて死んで、何もかもが消えて無くなり、最後に残ったのは彼との決着。
殺し合い、戦争を続け―――自分の手で命を奪った。
唯の人間では果たせなかったから、アラヤと契約するしかなく、その代償を払い言峰士人を殺して終わらせた。
……あの時に至ってしまえば、もう分かっていた。
自分が目覚めた異能の意味も、何故こんな結末になったのかも理解していた。この世界にとって、自分の価値を死後になって漸く理解した。
「―――成る程。やはり、そう言うカラクリか」
「アンタ、やっぱり気が付いていたんだね」
殺意の裏にある後悔の念。人間の精神状態、心の機敏を読み取る技術に士人は非常に優れている。士人が考えたのは、守護者になった嘗ての弟子が契約する程の事で、尚且つ自分に関係が生まれる事態。そう思考すれば、結果の一つとして浮かぶ答えが幾つかある。自分の殺害を考慮するのは至極当然で、アーチャーの視線の意味を悟れば分かり切っていた事実であった。
「薄々だがな。予想の一つに過ぎなかったが、これでも内心驚いているぞ。だが、それだけではあるまい。お前の内に潜み切れぬ呪詛の澱は、たかだか俺一人を殺した程度の悔恨では無い」
「否定しない。それだけなら、ここまでアンタを憎まなくても良かった。
だからさ、アンタを殺して守護者の契約を結んだ後も、そのまま世界を謳歌したよ。良く鍛え、アンタみたいに無価値だとしても自己を極め、異能も魔術も完成させ、更にその先にある限界を幾度も超えた。勿論、武術も知識も何もかも完成させた。
そのまま死んで、死後に訪れる絶望も、そう苦しいものじゃなかった。掃除を行う始末屋として命を奪ったが、人間と言う生命には最初から期待はしていないしね。正直に言えば、こんなもんだろうと言うある種の納得と、意味を成さない諦観に至れたよ」
世界に達観した老人みたいな、枯れて朽ちた何も無い空虚な瞳。事実アーチャーからすれば、守護者になった後もこの世界は予想通りで、余りにも普通過ぎた。死んで、生きて、永遠に囚われ、それが特別でも何でもない普通の世界にしか感じられなかった。
―――超能力。人間種が持つこの異能は、阿頼耶識による後押しによって生まれ持つ。
原因はそれなのだろう。超能力者は常識を認識する脳内のチャンネルが違う。だが、彼女は何が有ろうとも社会において普通だった。平和な日常でも、生死が混じる戦場でも、死後に今尚味わっている殺戮の繰り返しも―――
耐える必要が無い。
彼女の精神は最初から狂うことが有り得ない。
何もかもを普通にしてしまう唯の一般人。どんな境地に辿り着こうとも、倫理が欠ける事さえ無い普通の常識人。死ぬも生きるも当たり前、幸福も不幸もどちらも等価。
「けどさ―――気が付けたんだ。あれは何処ぞの平行世界で召喚された戦争でね、ある事を知ってしまったんだ。
もし、アタシがアンタに出会わなければ、どうなっていたか?
究極的な仮定を言ってしまえば、もし言峰士人が存在していなかったら?」
「それで、答えはどうだったのだ?」
ニタニタと士人は笑う、深く静かに笑うのだ。このアーチャーが自分に齎してくれるだろう道楽は、本来ならば味わえぬ理を越えた世界の無様さだ。これを愉しめずにいて、自分はあの養父の息子ではなく、あの英雄王の臣下でもない。
「そもそもアタシは、超能力に目覚め無かった。アンタがいなければ、そもそも超能力を生まれ持つ事も無かった。結果論に過ぎないけど、答えはそれだった」
「―――クク……」
「もう分かるだろ。この超能力の抑止の対象は―――この超能力を覚醒させた言峰士人、アンタ本人だった」
「……アッハッハハハハ! これは傑作だ、お前は本当に私の最高傑作だ!!」
「―――黙れよ。アンタ、あたしの生前から分かっていたんだろ!?」
もう、アーチャーは耐え切れない。冷静で居続けるなんて有り得ない。心の奥底に溜まりに溜まり、遂に溢れ出た激情の澱の波。神父が自分からそれを引き出す為に演じていると分かっているのに、彼女はもう狂うしか道が残されていないのだから。
「まさか! 人間もどきの自覚はあるが、そこまで人間離れはしていない。まぁ、俺にとってお前の異能は天敵であり、成長したお前に勝つのは至難だとは理解してはいたよ。だからと言って、弟子である美綴綾子が持つ業の為ならば、言峰士人を殺せる程に極まろうとも関係ない。惜しみ無く力を与えた。
その異能が仕組まれたモノであろうとも、それこそ俺には無価値な事実。
英霊となり世界の理を知った今のお前ならば理解出来る筈だ。何かしらの、そう在れと定められた流れがこの世にはある。この世界の創造した神と呼べる何か。魔術師が目指す根源とやらにでも潜んでいるかもしれぬ―――そうだな、言わば世界の方程式」
言峰士人は知っている。自分の未来とも言える守護者の魂を、内側から全て知り得ていた。断片的な情報と、英霊の座から俯瞰する世界の光景。繰り返される人類の救済と、殺戮の日々。どんな力によって、霊長のシステムが運営されているのか。そして―――垣間見た自分の過去の記録。
「だがな、そんな事は如何でも良い話だ。そもそも俺にとって、お前は都合が良かった。客観的に見た時、お前と衛宮士郎の存在は分かり易い異常だった。遠坂凛も同等の娯楽品とは言え、お前達二人は特別だった。
言峰士人と同じ
そう歪ませた方が、私にとって人生が楽しめた。お前達の内側に芽生えた業を大切に大切に、宿ったモノが枯れない様に鍛え上げた。
素質と才能に恵まれたお前は、特に良かった。手段を与え、方法を教えれば、俺を置き去りにして極まってくれた。存分に楽しませて貰い、今もまだ楽しませて貰っている」
話はそれだけと士人は言葉を途切れさせた。他にも言うべき事もあるが……隠しておいた方が面白い事もある。彼はアーチャーが抱く澱に必要なモノだけを言葉にし、棄てる様に投げ与えた。
「……ヒ、クヒ。ひひ、ははははは―――」
引く攣る表情が、今のアーチャーの本当の顔だ。士人の隣にいるアサシンでさえ、あれ程の狂気を感じたことは無い。暗殺教団で殺戮の日々を繰り返したこのアサシンが、そう感じる程の壊れた人間が―――この、目の前にいる弓兵だった。
何せ、この女はまともだ。
無限地獄よりも尚、精神が崩壊する奈落に落ちている最中なのに……アーチャーは、自分を見失っていない。それはもう狂気としか呼べない正気だった。
「―――第四次聖杯戦争の最後、あの聖杯の悪魔に呪われた少年。ソレがアンタだった。そして、ソレがこれから先に様々な世界の危機に関わり、世界を滅ぼす可能性を持つ化け物に対してアラヤが準備した生贄。それが、美綴綾子と言う守護者の存在意義だった。
この異能は―――アンタに対する抑止力だった。
……結末は、そんなモノだった。
勿論、アンタと何の関わり合いも無い世界の危機も何度か救った。けれど、アタシじゃなければ止められない事態があった。それには全てアンタのつまらない遊興が関わっていた」
言えば終わる。アーチャーは望みも無ければ、願いも無い。しかし、果たせばならない自分自身で自己に科した義務がある。
「アタシはな、アンタを殺さないと前に進めないんだ―――」
今にも死にそうな顔で微笑んでいる。彼女は
「―――だから、頼む。あたしの為に死んでくれ」
黒幕系主人公がフィーバーし始めました。ここのアーチャーがどうなるかは、後のお楽しみにして下さい。そして、一番最悪なのは、アーチャーがどんな風になってしまっているのか、ライダーと戦っている美綴さんが見れない所なんですよね。ここでUBWルートの士郎みたいに直でアーチャーを知れれば、あるいは……
後、ダクソ2のDLC良かった。良かったけど、タマネギは何となく分かってしましたけど、まさかアレまで出てくるとは! ボスはクライマックス感が凄くて雰囲気最高でした。