神父と聖杯戦争   作:サイトー

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 更新が随分と遅れてしまいました。申し訳ないです。決して、ダクソ2の新ステージに嵌まっていた訳じゃないんです。ヘビークロスボウと呪術の火と世紀末っぽい服装の覇者装備で、ジャギ様の真似して遊んでいた訳じゃないんです。でも、あのステージのボスは久方ぶりの正統派強敵でかなり燃えました。ぶっちゃけ、ボス攻略は作品中で一番のやり応えでした。厄介なボスは他に沢山いますが、強くてカッコいいのは大好きです。


65.ハイウェイ・ライナー

 ライダーの砲撃を受けようとは、そもそも四人は考えて無かった。

 

「―――逃げるよ」

 

 綾子は幾つもの修羅場を潜り抜けている。戦場の砲火を突き走り、敵陣に斬り込んだ事も成る。だが、ライダーのあれは条理から外れ過ぎている。

 

「去るぞ。我からすれば死ぬだけに過ぎんが、お主らからすれば一回の死で終わるからの」

 

「同意だぜ。死ぬにはまだ早い」

 

 拠点へ一気に逃げ込んだものの、地面を抉りながら疾走するゴーレム兵の轟音が外から聞こえてくる。素早く逃走手段を準備し、次の拠点へ急がねばならない。

 

「じゃ、いざという時の為に用意しておいた車で逃げましょうか。アヴェンジャー、どうなってる?」

 

「―――万全さ。今は洞窟を先に潜ったレンがキーを回して、逃走の準備をし終わってる」

 

「へぇ、流石はレン。何時も頼りになるね。あれ、そう言えばあの犬っころは?」

 

「フレディならもう逃げてる。夢魔の隣だぜ」

 

「そうか。それじゃまぁ、ゴーゴー! 車庫に急ぐよ皆様!」

 

 会話をしつつも一切止まらず、逃走用の車両に全員が乗り込む。アデルバードや綾子は敵襲を悟った時点で武装の持ち込みは完了しており、無論サーヴァントは身一つで万全だ。

 ……と、家の内部の様子を知らぬライダーは、取り敢えず殲滅の一手を打った。

 自身の魂の破片と同じ宝具を通じ、彼は兵士と思念が同化している。ただ思うだけで目的と行動を伝達出来る。しかし、それだけでは風情が無い。合理主義者故に彼は、自身の扱い方も完璧に心得ているのだから。

 

「―――撃てぇい……ッッ!」

 

 雄叫びを、皆殺しの喝采を。兵士達もまた、王が叫ぶ殺戮の声が好きなのだ。ただただ命令されるだけではなく、戦場で謳われる虐殺の合図が楽しみなのだ。

 ―――殺せ。奪い取れ!

 チンギス・カンは現実主義者であり、合理主義者であり―――快楽主義者。そもそも楽しめなければ、行おうとも思考しない。他者とは絶望的にまで乖離した悪魔よりも邪悪な思考回路が、余りに悪辣な戦争を生み出し続ける。若い頃はただの手段に過ぎないと錯覚していた闘争が、彼の人生にとって最大の喜びだった。闘争も大好きだが、殺し合って戦争に勝った後の余韻が最高だった。敵から生命と生活と財産と、何から何まで奪い取るのも最高に楽しくて堪らなかった。戦争と略奪が、彼の人生の一番の潤いだった。テムジンと言う幸福な営みを尊ぶ人間性と、チンギス・カンと言う人喰い狼が持つ獣性が、互いに拒絶する事無く両立していた。

 何故、奪い殺すのか。

 解答は楽しいからだ。

 戦いこそ、あの草原の世界。戦争が日常で、殺戮が娯楽で、虐殺が常識で、略奪が褒美だった。

 その身に溜め込むには膨大過ぎて余り、英霊となって魂から溢れ出る狂気が、宝具の軍勢から撃ち出される砲火に込められていた!

 

「はぁーはっはっはっはっははははは! げひゃっはっはっはっはっはひゃっはー!!」

 

 三秒で敵拠点は業火に消えた。豪快に全てを一切合財吹き飛ばしてやった。

 

「……ほう、逃げたか。ライダー、アサシンからの連絡だ。敵は秘密経路を辿り、森から脱出を計っているらしい。どうやら車に乗った様だ。表の道路に逃げられれば、アサシンでも振り切られてしまうぞ」

 

「―――誠か、ならば追わねば! まだまだ戦争が続けられるぞ!」

 

 敵を討てなかったと言うのに、ライダーはとても楽しそうだった。いや、彼からすればこの展開も計画通りなのだろう。相手が愚鈍ば馬鹿ならば殺せたかもしれない、何て程度の希望的観測は最初から無かった。こんな程度で殺せてしまえば、それこそ予想外の雑魚だっただけで、ラッキーと相手の無様さを吐き捨てるのみ。持てる手札を幾百も隠しながらも、同時に全ての手札を切れる準備も万全で―――騎乗兵は、サーヴァントとしても異常なまで煮え滾った害意と殺意で周囲を威圧し、禍々しく眼光を尖らせた。

 ……その視線の先で、はっきりと見付けてしまった。

 アサシンと連絡を取り合う神父の視界を追い、ライダーは地中から飛び出た自動車の影を捕えた。秘密に地下洞窟を掘り、いざという場合の逃げ道にしていたのだろう。認識阻害の術式が掛けられているが、サーヴァントの目は誤魔化せない。

 

「居たぞ、皆の者追って殺せ!」

 

 軍勢が一斉に動く。車が囮と言う可能性もあったが、それも神父が否定した。アサシンからはしっかりとあのワゴン車に全員分の気配があり、分散してはいないとライダーに士人は教える。家に残っていれば、そもそも砲撃で木端微塵になっており、アヴェンジャーとバーサーカー同盟陣営が別れれば此方の方が優位になる。死ぬ悪手だ。何故なら、ライダーが辺りに敷いた警戒網は蠅一匹通さず、実際に何処かの陣営の使い魔らしき虫や小動物を踏み潰していた。魔術の心得を植え付けた兵士を使い、地表と地中を探るソナー役もおり、空中からの脱出を発見する観測兵もいる。更に言えば、砲兵や狙撃兵さえ既に万全に揃えている。

 好機(チャンス)があるとすれば、全戦力を一点集中させた包囲網の突破。ライダーは敵にとって一番すべき戦術を先読みし、それに対する戦術を、戦略的に思考する事で最初から用意していた。加えて、その戦術もまた一味も二味も工夫をしており、対応能力も素早い展開を成功させた。

 

「―――来たよ、撃て!」

 

「了解だ、司令官様」

 

 擬似的に改造した装甲ワゴン車を運転する綾子が、大型狩猟銃を構えるアデルバートに叫ぶ。この改造済みのワゴン車には天井部分に開閉可能な窓があり、そこから殺し屋は上半身を外に出した。冷徹な目付きで此方に攻めて来るライダーの死霊兵を睨み、敵影を確認。視覚だけではなく、彼は自分の使い魔のフレディと感覚共有を行い、同時の五感と第六感を併合した索敵用超感覚を発揮。その脅威的な気配察知機能は、実際に追手だけを確認するだけではない。自分達の進行方向で武器を構えている兵や、在る程度ならば仕掛けられた罠の位置や形も把握。

 直後―――撃った。

 それは、恐るべき技量であった。ライダーが駆る兵士の一つに過ぎない死霊が、自分に迫る銃弾を―――騎馬を操り避けた。

 

「……っ―――」

 

 殺し屋が脅威に思うのも無理は無い。ライダーの兵士達は喰い殺した獲物の質で肉体の濃度を高められ、食べた量で兵士の数を増やす事が出来る。この冬木に来る前までは、教会が実験用に捕えておいた死徒や魔獣を餌にしたり、実際に戦場や死都で狩りにも興じて自軍の強化を図った。現代の軍人や魔術師、秘密裏に現場で代行者まで吸収し、技術や神秘を食っていた。とある人狼の村を喰い滅ぼしもした。

 召喚された僅か一週間半。出来る事をライダーはとことん準備し、やり尽くした。

 その事で、兵士一体一体に様々な因子が混ざり、血肉と骨格が強まる。神秘の濃度も高まる。多種多様な技術や能力を付加する事も出来た。騎馬も同様に、魔獣へと化けていった―――……だけなら、まだ良かった。ライダーの兵士と騎馬は、キャスターの式神まで餌にしていた。鬼種の因子も混ざり、魔獣として最高純度を誇る神秘も吸収していた。

 ……と、なれば必然、恐ろしい事になった。身体機能はサーヴァントより劣化するとは言え、技量に錆びは無い。むしろ、十全に技能を発揮する。量を増やし、質も高まった兵士達はより屈強な―――英霊殺しの、帝国略奪軍となる!

 

「……◇◆◆―――」

 

 騎馬が地面を強引に踏み付けた。次の一瞬、更に馬は眼前の木に衝突し、その樹木を砲弾にしてワゴン車へ弾丸として放った。

 その木へ向け、ダンは構えておいたショットガンを撃ち放った。散弾は樹木を木片に変え、銃弾の衝撃で強引に吹き飛ばし―――銃撃を敢行。敵が其処らの吸血鬼以上の身体能力と、戦乱の世を荒らした兵士の技量を誇っているならば、それ相応の銃火で対応すれば良い。

 ダンは狙撃戦専用の狩猟銃(ウェザビーMkV)ではなく、普段愛用する回転式拳銃(コルト・パイソン)を抜き、構えると同時に発砲。敵兵死の胴体を狙うと見せ掛け、相手にフェイントを掛けた直後、亡霊が馬を動かさせ弾道から避けた後に騎馬の脚を撃った。直撃はしたが、魔獣化した騎馬は痛覚などなく、恐怖も無いのか、まるで芝刈り機の如き凶走は健在。しかし、血は溢れ、ダメージはある。故にほんの少し、騎馬の歩調が乱れた隙を狙い、兵士の顔面に弾丸を撃つも―――それさえ、兵士からすれば唯の豆鉄砲。軍刀で弾丸を弾き、そのままワゴン車へ向けて突進!

 

「―――死ね」

 

 直後、ほぼ同時に撃ち放たれたクイックドロー。六連装回転式拳銃(リボルバー)には、後四発の銃弾が残っており、それを正確無比な死の弾道で発射。馬の脳天をブチ抜き、兵士が一瞬身動き出来ない隙に、心臓と首と額に一発叩き込む。直ぐ様銃弾を装填しつつ、他の敵騎馬隊が撃ってきた銃弾を車内に入る事でダンは避け、銃身と頭部の上半部だけ出して狩猟銃で狙撃。銃弾は相手の肝臓辺りを見事ごっそり抉り取り、内臓をブチ撒けながら地面に落下し、馬もその場で停止した。

 

「……は、銃剣付きAK型のアサルトか。敵も渋い武器使うぜ」

 

 敵の追撃舞台の騎馬兵士達の武器は統一されておらず、弓矢を使う兵もいれば、現世で調達したであろう銃火器を撃つ者もいた。とは言え、改造ワゴン車の装甲を貫通する武器を使う者はまだ出てきておらず、森の中な所為か、あの大砲を積んだゴーレムも追い掛けて来ず、更に言えば遠距離砲撃もして来ていなかった。

 ダン一人で、迫り来る騎馬兵を始末は十分だった。

 だが、そんな事はライダーからすれば当然考えるまでも無く、司令官として持つ第六感で戦う前から分かっていた。よって、まず移動手段を潰そうと考えた。人間の行動原理を知り尽くした皇帝の作戦が、兵士全体に行き渡る。

 

「―――上! マジか!?」

 

 超長遠距離から、楕円を描く擲射弾道で砲弾が装甲車に向けて墜落してきた。腕のいい観測兵がいるのか、それとも砲兵の技量が高いのか、その両方か、砲撃は正確無比に車の進行方向を予測して撃たれていた。ダンは使い魔のフレディと感覚を共有している事で発射された瞬間の緊張を察知し、此方に砲撃が下るのを感覚した。

 

「砲撃が来ますぜぇ……!」

 

 そして、それは勿論、助手席に座るフレディも察知した。車を運転する綾子もそれなりの直感を持ち、気配に鋭くも、この犬には叶わない。自分が感覚で捉えるよりも早く砲弾を感知し、余裕を以って弾道から進行方向を外す。

 ―――轟音が鳴り響いた。

 辺り一帯の地面を抉り潰し、木々が一斉に吹き飛んでいた。

 それも一発だけでは無い。何発か連続して砲撃が下され、将棋やチェスで碁盤のマス目を塗り潰す様に道を塞いでいる。

 爆風でワゴン車は大きく揺れるも、綾子の運転技術で横転する事もなく、無事に走り続けている。恐らくは、騎馬隊が砲撃の為の“目”になっている。彼らの位置情報と、敵を捕えた視覚情報により、観測兵に情報が伝わり、敵影を森の中でも完璧に捕え、砲兵が撃っている。

 

「―――まさか、対物狙撃銃(アンチマテリアル)か!?」

 

 と、安心するのはまだ早い。持っている武装が重かった所為か、少し先行部隊よりも遅れて重装備騎馬隊が最前線に到着。だが、砲撃によって進路が限定されてしまい、速度も遅れたのも原因だろう。更に砲撃はまだ続いており、厭らしい砲弾軌道で狙い撃っていた。そんな中での対物銃を持つ兵士の出現は危機以外の何者でもない。あの銃火器はむしろ、銃とは名ばかりの、小型の砲だ。人を撃つ殺す銃撃ではなく、当たればヘリや戦闘機を撃ち落とし、車両を吹き飛ばす砲撃。対人に使うには過剰な破壊力を誇る代物だが、この車を撃破するのは丁度良い。

 凄まじい轟音の中、遂に対物徹甲弾が撃たれた。

 エンジン部に当たれば流石の改造車も、一撃で爆発四散する事だろう。乗っている自分達が死ななくとも、全員で素早く移動できる足役を失うのは酷く痛い。

 ―――ダダダダダ、と途切れぬ連続銃火。

 ワゴン車の後部の扉が開かれ、そこから銃口が異様な威圧を持ちながら出現していた。対物徹甲弾を装填した銃機関銃を綾子が素早く掃射。

 

「―――うん。流石はブローニング。敵が粉微塵だ」

 

「ほぉー、あの騎兵隊が一瞬で血肉塗れになったか。やっぱり、不意打ちは亡霊にも有効か」

 

 予め、綾子は儀式魔術で纏めて銃弾に強化を施してある。ある程度ならばサーヴァントにも有効だが、ライダーの亡霊兵程度なら致命を与えるのに十分な殺傷能力を持っていた。恍惚とした笑みで、敵を撃ち殺し続ける綾子の姿はかなり危ないが、アヴェンジャーは怖い女性が苦手なので何も言わないでおいた。

 

「……なぁ、バーサーカー」

 

「ふむ。どうかしたか、アヴェンジャーよ?」

 

「取り敢えず、俺らも参加するか。ほら、前からも敵影が視えるし」

 

「そうよなぁ。お互い、マスターからの武器を無駄にはせん方が良いか」

 

 サーヴァントの二名に遠距離攻撃が不得意だ。むしろ、そんな手段は存在しない。アヴェンジャーは少ない数だが投げナイフ程度ならば所有してる焼け石に水で、バーサーカーは皆無。

 よって、接近戦しか出来ない殺人貴(アヴェンジャー)に綾子は「使えねぇな」と侮蔑の笑みを浮かべながら、取り敢えず銃弾をバラ撒いて使えと、汎用機関銃を渡していた。軽機関銃でも良かったが、少しでも装弾数が多い方にしておいた。

 彼は胡乱気な目付きで銃火器を手に持つと、慣れない素人な動きで敵へ発砲。とは言え、狙いだけは鋭く、死の線や点を切り裂いてきた第六感は銃器にも適応されるのか、何故か吸い込まれるように弾丸が敵兵に直撃していった。本人は投げナイフの方が使い易いと感じつつも、この場面では銃器の方が有効だと理解しているので、仕方ないと言う顔付きで撃ち殺していた。

 それと、バーサーカーにはここぞと言う時の為の、単発式改造小型擲弾銃(グレネードランチャー)をアデルバート・ダンが手渡している。単発式故に一発一発装填する必要があるも、バーサーカーは素早い手先で装填を可能にしており、装填時に弾丸へ呪詛の魔力を込めて爆破力を強化。的確な軌道で前方の敵騎馬隊を吹き飛ばしていた。

 いざ、と言う時の為の虎の子の隠し玉(グレネードランチャー)だったが、ダンがバーサーカーへ渡すのに躊躇いは無かった。直撃さえすれば並のサーヴァントも撃破可能で、何人もの魔術師を纏めて鏖殺出来る代物。人手が足りないのに、バーサーカーを遊ばせる理由は無かった。

 マスターが互いのサーヴァントに道具を与え、戦場で優位な働きをさせる。

 そう言う意味では、実に効率的で効果的な、戦場で敵を殺し慣れた兵士の思考だった。

 

“……バーサーカー。弾はまだ十分か?”

 

“まだ数十発残っておる”

 

“あー、弾切れの危険があるな。仕方ない、無くなれば特殊榴弾も使って良いぞ。けど、なるべく残しておいてくれ”

 

“了解ぞ、アデルバート”

 

 ダンは自分の魔術道具作成の為に、錬金術を齧っている。金属と薬品さえあれば弾薬を生成出来るが、それもまず拠点を作ってから。また、彼は魔術師以前に殺し屋で、銃火器による殺人を生業とする魔術使いだが、そもそも―――封印指定を受ける程の魔術師でもある。封印指定を食らった原因は兎も角、露見した彼の神秘自体は相応の異端。魔術師としての側面も十分以上に持ち備えており、時計塔に居た学歴は伊達ではない。

 加え、バーサーカーのスキルである魔術放出(呪)が有効に使えると思い、彼はグレネードを渡したのもある。サーヴァントとは言え素人のバーサーカーには、狙って撃つよりも纏めて殺す系統の方が使い易い。ばら撒いて殺す為の機関銃系統も良かったが、それは殺人貴がしてくれている。尤も、流石の殺し屋とは言え……この場で有効に使える程の大量連射可能な重火器など、日本に持ち込んでいなかったのだが。精々がちょっとしたマシンガン程度で、相手の大軍を打ち砕くには役者不足。だったらまだ、グレネードで吹き飛ばしてくれた方が良かった。重機関銃まで常備している美綴綾子が可笑しいのだと、ダンは意味も無く考えたが、何時もの事と直ぐに忘却した。

 

「……おい、ダン。バーサーカーの武器はあれだけ?

 敵が前方左右にも来て囲んで来たから、今は猫の手を借りても足りてないけど、もっと良いヤツは無いんかい?」

 

 ワゴンの後部座席から、後ろのダンに綾子は問う。バーサーカーは巧いことグレネードを使っているが、弾幕の集束率が少し甘い。状況判断能力は凄まじく高いが、銃の技術はまだまだ。ダンや綾子のように武器に慣れているなら、あのグレネードランチャーでも十分有能だが、バーサーカーにそれを期待するのは兵士として間違いだ。

 

「ああ。持ち込んだ武装は、お前らみたいな吃驚人間用の対人武装だけだからな。機関銃やらの対物重火器は持ってきてない。そもそも殺し屋に過ぎない俺は軍事兵器は持ってないし、ああ言うのは好きじゃないんだよ。重くてお荷物になるし、実際あんまり使えない無用の長物だし、白兵戦に持ち込むのも馬鹿だし。

 精々がグレネードとか、プラスチック爆弾みたいな設置爆弾や時限爆弾、後はクレイモアみたいな地雷のトラップ工作用の道具でお終いさ」

 

 尤も、それらトラップもライダーによって除去されてしまったが。逃走経路以外には罠が仕掛けてある筈なのに、一度も発動することなく超えられてしまった。

 それにそもそも、アデルバート・ダンは職人だ。人殺しが仕事だ。

 殺し屋として持つ遍歴が、銃器や爆弾は好むが軍事兵器を嫌う小難しい性格になっていた。

 

「そうか? 鉄砲玉は破壊力でしょ。吹き飛ばしてバラバラにしないと、やっぱ化け物相手に撃っても即効性がない」

 

「巨砲主義者め。銃は芸術品であり、日用品だぜ。命を的確に奪ってこそ、道具は道具として輝くんだ。

 あんなのは銃じゃない。人を殺す武器じゃ無く、肉を壊す機械だ。風情も無ければ、ぶっちゃけ撃てりゃそれで良い破壊装置。

 なんで、それが分からないんかねぇ……」

 

 ダンにとって、銃器は好きだが兵器は嫌いだ。

 人を殺すのを上手だが、人を壊すのは苦手だ。

 殺すまでに創意工夫を凝らし、自分の技量で成さねば殺人なんて重労働は割に合わない。彼はそう考えていた。良くも悪くも職人だった。言わば、生まれと育ちで培った習性だった。むしろ、彼の戦闘方法を考えれると邪魔なお荷物。隠れ潜み、虎視眈々と狙い続け、接近戦でも技量を駆使するとなるば、素早い行動が可能な装備が必須。いざという時、荷物になる武器はゴミだった。自分が常に背負え、装備出来る武器が限界。過剰武装は逆に自分の機動戦術を狭めてしまい、暗殺用の戦略が立て難くなった。

 

「うげ。何だかんだで、アンタはロマンチストだ。殺しの為の銃が浪漫対象とか、メンタルマッチョにも程があるんじゃないか。

 良いじゃないか、カッコいいし。対物狙撃銃とか、重機関銃とかの方が浪漫じゃん」

 

「……つーか、ああ言う重い得物はオレ駄目さ。身軽になれないと、死徒とかが相手だと簡単に死ねる。待ち伏せとかにも有効かもしれないけど、それだったら離れて狙撃したり、爆弾仕掛けた方が自分は成功し易いしなぁ」

 

 敵兵を撃ち殺しながらも、ダンと綾子は淡々と会話を続ける。銃声で聞こ難いが、強化された耳は聴覚が鋭くなりつつも、大音量にも耐えられる強度も保有する。

 

「えぇー、そうかなぁ? 拠点防衛や、今みたいな移動戦じゃ重宝すると思うよ」

 

「まぁ、否定はしないぜ。けどよ、オレはお前と違って身軽に持ち運び出来ない。防衛する位なら最初から逃げるし、強引にでも手持ちの武器で無理矢理突破する」

 

「そう言う時にも便利だよ。グレネードとかもそうじゃない? やっぱ突破力と粉砕力が戦場だとモノを言う」

 

「オレはね、自分の銃に愛着が強く湧く。愛用品は礼装にもしてるんで、使い捨てにもしたくない。勿体無いし、置いて逃げれば武器から足が付く。重火器の有能性は認めてるけど、オレとの相性がとことん悪い。そうなると目立つ上に、片付けと持ち運びが面倒な兵器は使用したくない。元々が使い捨てな爆弾は良いけど、でかい狙撃銃や機関銃は厭なのさ」

 

「成る程。殺し屋の美学ね」

 

「違う。習性だぜ、習性。オレに美学はない。あるのは執念とか、妄念とか、そんな程度。要は相性が大切なのさ。

 お前からすれば非常に便利な道具なんだろうけど、オレの戦術と戦略からすれば唯のお荷物になってしまう訳だ。フィーリングって大事だし、オレはお前みたいな戦争屋じゃなくて殺し屋に過ぎないさ」

 

 それが美学、個人の拘りって言うんじゃないかな、と綾子は思った。だが、黙っておいた。本人がそう言うのであれば、そう言う事にしておけば良いと淡白な考えをする。

 それに相手が言いたい事も十分に分かる。この男は妙に几帳面で、もしもを考えて常に武装を限界まで備えていた。身一つで全て出来なくては、戦略に濁りが生じる。

 

「ふーん。そっかそっか……んで、バーサーカーに武器を貸して欲しいか? 後払いで良いよ」

 

「……っけ、死の行商人め。どうせ何処ぞの戦場で奪ったか、拾ったかした武器なんだろ?」

 

「正解。それでどうするん?」

 

「頂くさ。出来れば、アイツに似合う厳ついのを頼むぜ」

 

「了解……―――っと、ほら。バーサーカー! 良い武器貸して上げるよ! 壊しても良いけど、無事だったら後で返してね!」

 

「ふむ、感謝ぞ」

 

 何も無い空間から重火器を取り出すと、綾子は背後のバーサーカーに投げ渡した。彼は感謝しつつも、グレネードランチャーを車内に置き、機関銃を手に取った。女神に騙されて渡され、今でも憎悪すべき対象とは言え、使っている内に愛剣になった魔剣ダインスレフに比べるとこの武器は大分重い。英霊として宝具とは誇りなどだろうが、バーサーカーにそんな下らない感傷は一切無い。武器は武器。

 よって、魔剣(ダインスレフ)から銃器(グレネードランチャー)へあっさり武器を代えた様に、バーサーカーは特に思う所もなく同盟相手から武器を借りた。武器の形状から使用方法を何となく察し、そのまま鉄火を炸裂させて外の騎馬隊に撃ち放った。そして、DShK38重機関銃を巧みに操り、バーサーカーは更に鉄壁の弾幕網を作り出した。発射と同時に魔力放出で弾丸に魔力を纏わせているのか、唯でさえエゲツない威力を持つ対物弾が更に破壊性能を向上させていた。

 

「ああ、それといざって時用にロケランも置いとくよ。好きに使ってね」

 

「…………」

 

 生きた武器庫だな、とダンはその光景を見て呆れてしまった。あの神父の宝具開発の実験台になったと聞いたが、良い仕事をすると殺し屋として理解した。確かにこの能力は一人で戦争行為を成し遂げる戦力へ持ち込み、動きながら常に戦場で弾薬を保つことが出来る。広大な敵陣地に入る時、武器運搬は面倒だが、これならば簡単に解消出来ることだろう。アデルバートは長時間の作戦の際、出来るだけ武器が必要となるので、羨ましい限りだと考えた。尤も、自分には無用の長物だが。得物は手元に必要なだけ、手慣れた銃器だけ在ればいい。

 

「ああ。そういや、今は誰が運転している?」

 

「レンだけど」

 

「あ、え? あの子猫が運転してるのか?」

 

「いや、レンは普通に上手いよ。動物的勘も鋭いし、ちょっと工夫すれば人間時の肉体年齢上げて、手足も伸ばせるからね」

 

 騒音が五月蝿い。しかし、二人は一瞬たりとも手を休めずに敵を撃ち殺しながら、軽快なトークで互いの意識を高揚させていた。

 しかし、騎馬隊の数は段々と増えていく。何故か砲撃の雨は止んでしまっていたが、銃弾の包囲網はどんどんと増加する一方。全員が砲撃が途中から消えた事を不気味に感じながらも、淡々と乗馬兵を殺し続ける。とは言え、相手にする兵士達も百戦錬磨の帝国略奪兵。強い兵士はとことん強く、殺せない兵士も多い。特に隊を率いている隊長格の戦闘能力はサーヴァントと錯覚する程。彼らの中にも技量や機能に優劣があるらしく、それは馬にさえ適応されていた。

 

「―――外だ! 森を抜けられる!」

 

 アヴェンジャーが叫んだ。汎用機関銃で敵を的確に一体一体撃ち落としていたが、彼の視界は遂に森の終わりを見た。後十数秒もすれば、足場の悪い土の地面から、整備されたコンクリートの自動車へ逃げられる。そうすれば、このワゴン車も更に加速させ、敵から一気に距離を取れるだろう。

 だが、そうはさせじと騎兵が一気に車へ接近。銃弾が当たり、蜂の巣になろうと構わないと、仲間を肉の壁にしてまで近づいてきた。死しても、また宝具に回収されて情報を再生して貰える不死身の死霊だからこその、自分の命を顧みない強行突破。とある一体が隙を見抜き、対物狙撃銃を撃ち放ったが、レンはブレーキを踏みつつハンドルを切る事で回避……するまでは、良かった。隊長格だと思われる赤い亡霊兵は、手に持つ銃剣付きAK47を片手に馬を台にし、此方に誘導されて近づいてきた敵ワゴン車へ跳んだ。

 

「◆◇…‥っ」

 

「―――っ……!?」

 

 時間が停止した、と亡霊兵とダンは錯覚した。宙を飛んでいる最中の兵士にとって、これが極地。殺し屋アデルバート・ダンが屋根を守っているとなれば、撃ち殺されて当然。だが、もしも弾丸を当てられねば、彼は敵の侵入を許し、高確率で死ぬ。

 咄嗟にダンは水平二連散弾銃(ソードオフ・ショットガン)を抜き取り、即時発砲。待った無しの瞬殺。故に、敵兵士も即時対応。宙で身を捻り、片腕を吹き飛ばされながらも、殺し屋にアサルトライフル(AK47)を連射。その弾道を背を後ろに捻ってダンは避けるも、既に敵は眼前。ダンの心臓目掛け、兵士は銃身の先にある刃で命を狙う。

 銃剣が取り付けられた突撃小銃(アサルトライフル)は短槍だ。銃を構え、銃口を敵に向け、狙いを定め、引き金を引く。手順を踏まねば確実に命を奪えないが、槍ならば別。狙い、刺す。これだけで良く、だからこそ接近戦を想定した銃剣なのだ―――が、ダンは咄嗟に外へ出る。そのまま背を後ろにした時の勢いを生かし、足で敵の銃を蹴り飛ばした。そして、即座にショットガンの次弾を撃ち、相手の頭部を粉砕した。

 

「……っち、糞が(ファック)

 

 悪態を吐き、外に体を出した自分を狙う銃弾をギリギリで避けつつ、カウンターで敵兵士の一体を銃殺。直ぐに車内へ戻り、また狙撃と銃撃を敢行する体勢に戻った。

 そして、遂に装甲車は森を脱出。

 緑化地域から一気に走り抜け、補整された車道へ脱出を成功させた。改造された装甲ワゴン車は、見た目は普通だが既に小型要塞と化していたが、それでも尚、銃痕の後が痛々しい。本来なら、銃弾程度ならば弾き返し、戦車並の装甲であり、強化ガラスはバズーカにも耐える。コンクリートの塀やガードレールに衝突しても、逆に相手を粉砕するようなゲテモノ車。だが、ライダーの兵士が使用する武器は宝具でもあり、銃弾も概念による威力を持つ。その破壊力を防ぐには、それ相応の神秘的な防御が必要だった。しかし、ワゴン車は無事で、全員が生きていた。

 綾子は一息ついた。レンが運転するこの車は外に出た瞬間、一気に加速させ既に時速200km以上。ライダーの騎馬もその程度の速度は出せるだろうが、最初の加速で此方が勝っている。騎馬を森の中で操るのは普通なら悪手だろうが、敵が車に乗って逃走しているなら話は別で、機動性が優れる騎馬隊の方が有利。此方は他に手段は無かったとは言え、予め経路を作っておいたとしても車を使う方が悪手。しかし、こうも広い場所に出たスピードバトルになれば、勝敗は五分五分。彼女は周囲を警戒しながら、更なる集中を精神に施し、機関銃を構えた。

 

「ま、何が来ようと逃げ切ってやる。あたしの車をこんなに傷付けた恨み、晴らして上げるよ」

 

 直後―――耳を抉るような轟音が、空気を強引に壊す。

 走る車の後ろを警戒していた綾子の視界に、敵影の正体が目に移った。

 逃げるワゴン車を追い、巨大な何かが森から飛び出して来たのだ。地面の整備されたコンクリート道路を粉砕しながら、敵を撃滅せんと追い掛けてきた!

 

「ゲェヒャッヒャッヒャッハー! 逃がすか、皆殺しぞォオ!!」

 

 道路へ飛び出した戦闘戦車(タンクゴーレム)は、足の裏にキャタピラでも仕込んでいるのか分からないが、両脚を動かさずに地面を滑っていた。スケート靴やローラーブレードに推進力を込めれば、この様な移動方法をする事が出来るだろう。実際、脚部には小型動力炉エンジンを組み込み、限定的ながら反重力作用と浮遊術式により、キャタピラとホバーによる高速移動を可能にしていた。

 そして、そのゴーレムの頭部。ライダーは其処に胡坐で座り込んでいる。

 楽しくて堪らないと子供みたいに高笑いをして、敵をお気に入りの玩具を視るみたいに観察していた。

 

「―――なぁ……ッ!」

 

 喉元から変な声が、綾子は思わず出てしまった。何故なら、余りにも眼前の光景がイカレていたから。そして、ゴーレムは前方10m先に走る標的へ、肩の大砲を躊躇わず砲撃。ドォン、と内臓を揺さぶる重低音が響いたと同時に爆炎と砂塵が舞う!

 

「ほうほう、勘の良い……」

 

 ―――が、装甲車は健在。直撃すれば大破以前にこの世から消えて無くなるが、支障は何処にも無い。

 大砲が発射される瞬間、車は逃げる様に速度を更に上げていた。そして、お返しにワゴン車から吹き出る銃火がゴーレムを襲った。しかし、もはやこのゴーレム、魔術的に強化され半ば概念武装化している対物徹甲弾を受けても掠り傷が出来るのみ。

 ゴーレムは左手を動かし掌を広げ、頭上のライダーを守りつつも、車との距離を一気に詰めた。あろう事か、ゴーレムは地面を滑り走っていながら、強引に踏み込んだ。まるで、武術を齧った兵士の如き動作であり、一瞬だけ魔力をジェットエンジンみたいに噴射させたのだ。

 

「……ならば、斬り潰してしんぜようぞ!」

 

 ゴーレムが右手に持つ巨人の特大直剣。真名をエッケザックスと言い、小人が作った巨人の魔剣だ。英雄ディートリッヒ・フォン・ベルンが巨人エッケから奪い取った正真正銘の英霊が持つ宝具である。妖精の鍛冶屋が生み出した神造宝具でもあり、神父の捏造品とは言え宿る神秘の量は膨大。造り手の言峰士人ではなく、担い手でも無いので真名解放は出来ないが、鈍器として十分有能な破壊鎚。

 バックミラー越しに、運転席に座るレンは背後の悪意を見て無表情になった。いや、彼女は普段から表情を作らない無口な使い魔だが、何時にも増して目が死んでいた。綾子と甦った主人達が銃弾を砲火しているのが見えるが、ビクともしていないのも見えるので絶望感も凄く重い。

 

「…………」

 

 運転し易い用に少々肉体年齢を上げておいたが、そんな程度でアレを一体どうすれば良いのか。彼女がそんな思考をする間も無く、高笑いするライダーは巨剣を構わず振り下す―――!

 

「ブレーキっすよ……っ―――」

 

 動物的直感で危機を察知。隣に座るフレディの声を耳に入り、咄嗟にブレーキを踏む。一気に減速させたおかげで、剣が上部を振り通っていく。そして、右側のガードレールギリギリまで寄せ、ゴーレムの巨体を避けると同時に、またアクセルを踏む事で限界加速。剣を振り下したことで一時的に速度が落ちたゴーレムを抜き去り、また逃走を再開させた。

 

「む……」

 

 胡坐をかいたまま、ライダーは喉を唸らした。膝を肘の上に置き、手の平の上に顎を乗せて、遠くの敵影を睨んでいた。此方が加速するまでの間に、また距離を取られてしまった。

 ライダーは騎乗スキルを持つ故に、自分が直接思念操作した戦闘戦車(タンクゴーレム)で敵車両に追い付けたが、他の機体はまだ到達していない。正確に言えば、丁度今到着した。とは言え、自分のゴーレムだけでは味方が到着するまでの時間稼ぎが、ギリギリ間に合わなかったのが悔やまれる。このまま移動しながら精密砲撃も出来なくは無いが、標的も動いていると当て難い。と言うよりも、弾道は正しい筈なのに歪められている。回避の腕前が良いのもあるのだが敵の中に多分、そう言う系統の“何かしらの神秘”を扱える異能持ちがいる。彼が持つ司令官としての経験が、そう訴えていた。高度な戦術眼と、冷徹な戦略眼により、相手の戦力を丸裸にしていく。死ぬまで鍛え続けた戦術的直感と、生まれ待った天性の戦略的思考が、複雑に混ざり合い、一つの結果と幾つもの可能性から、行使すべき作戦を練り出し、策を幾十幾百幾千と積み重ねた。

 ……いや、こうなってしまえば、土台のプランを今の状況に合わせて少し効率的に組み換え、ゴーレムの使い方を変えた方が成功率が上昇するかもしれない。遠中近距離万能な破壊兵器な為、逆に利用手段を絞るのが難しいが、兵器運用こそ司令官の嗜みだ。

 ライダーはまず、タンクゴーレムを散開。自分の護衛に数体残し、何体かを高台の丘に配置させつつ、他のゴーレムは追撃に入る。森の中に戦力を潜めながら、敵が森林地帯を脱出した場合の策をそのまま展開させていた。

 

「……しぶとい。ここまで派手に電撃戦を敢行し、まだ生きる。

 我輩(ワシ)の策を破る力量を褒めれば良いのか、たかだか数人を仕留め切れぬ自身の不甲斐無さを笑えば良いのか……ふむ、しかし愉快ぞ。殺し切れぬのも、また一興。これもまた、良く味わった戦争よ。若返る様よ。

 ―――強襲騎馬隊、突撃せよ。歓迎してやれ、盛大にな!」

 

 予め敵の逃走経路を予測していたとしか思えなかった。ライダーが配置した騎馬隊が崖の上から、ワゴン車目掛けて崖を蹴り、落石の如き猪突猛進で落ちてきた。岩石の如き重装備の大鎧を身に付け、騎馬にも同様の重厚な鎧を纏わせていた。

 ―――死だ。

 モンゴルの教科書的殺戮手段だ。

 

「―――畜生め(サノバビッチ)、奇襲かよ!」

 

 つまり、この地獄が、弱肉強食を掟する草原の世界。逃げても逃げても、嬲り殺し。ダンが吐き捨てた悪態が物語っている。

 

「レン―――……っ」

 

 義経が一ノ谷の戦いでやった逆落としに酷似した奇襲。ライダーは時間が許す限り、各国様々な伝承の伝説的逸話も学習済み。それらを参考に、彼は宝具を利用し戦術を増やし、戦略の幅を広げている。これもその一つ。

 そして―――激震が車内を揺るがす。

 騎馬隊に向けて銃撃するも、弾丸が届いていない。いや、当たってはいる。しっかりと当てているのに、誰にも効いていない。

 彼らは単純な対策として、加護を施した鎧を着込んでいた。兵士と騎馬の鎧に術式を刻み込み、物理衝撃のベクトル方向を様々な方向に拡散させ、銃弾をまるで毬みたいにあらぬ方向へ弾き飛ばしていた。兵士も騎馬も構わず進軍し―――横合いから、綾子達は一斉に襲撃された。

 だが、レンはスピードを一瞬だけ上げた……だけだった。敵にフェイントを仕掛けていた。ブレーキを踏み、急停止。車体を停止させ、騎馬隊の大部分が自分達の前方に流れる。数は少ないながらも、ワゴン車に横合いからぶつかって来た奴らは、勘の良いバーサーカーが二振り三振りと魔剣を豪快に回し、吹き飛ばしていた。殺人貴も咄嗟に降り、敵兵をバララバにした。敵が如何に守りを固めていようとも、狂戦士の膂力と死神の魔眼の前には無力。

 

「―――飛べ」

 

 殺意を言葉にし、後部座席から投げ渡された携帯対戦車擲弾発射器(RPG―7)を構えるアデルバート・ダン。彼は奇襲に失敗した前方の敵兵へ向け、躊躇わずトリガーを引く。勿論、綾子もバーサーカーとアヴェンジャーが降りた時点で咄嗟に車両背後の敵兵目掛け、術的改造を施したポテトマッシャー型の古臭い手榴弾を十個纏めて投げていた。

 そして、アクセル全開。背後に居る敵は爆炎に包まれ焼かれ、横の敵はほぼ壊滅。前方の敵はまだ生きているとはいえ、ダンが撃ったRPGが功を成し、方向転換し切れていない。フロントガラスから良く見える敵兵らを、横合いから強引に轢き殺すには、とても丁度良い配置であり―――レンは、無表情のまま最高速まで一気に加速した。

 

「…………」

 

 グチャリ、ブチュリ、と爆風で転倒した間抜けをタイヤで潰す。構わず弾き飛ばし、轢き殺す。赤い亡霊が轢殺され、更に赤黒くなって死んで逝く様は、言語化し難い陰惨さに満ちていた。レンが何も喋らないのも、無口だからと言う理由だけでは無いのだろう。

 ―――と、突破は出来たが、時既に遅し。

 ライダーはタンクゴーレムに仕込んだ隠し玉の一つを開帳。配置しておいた移動大砲に特化したゴーレムが、数多の観測兵から送られる情報で標準を定める。そして、確かな手応えと共に砲の撃鉄を引く。熱狂的な殺意を示さんと、猟奇的なまで虐殺を体現する戦術兵器が投下した!

 撃たれたのは、大砲は大砲でも中身は榴弾だった。

 込められた材料は爆破性の化学物質や、魔術薬品。また、食らった式神から得られた術的知識を応用し、爆破の範囲を凝縮させ、概念的な重みを上げている。本来なら、爆風は延々と外側に広がっていくのが普通だが、一定距離まで広がると中心部にまた吸引される。これを受けると吹き飛ばされるのではなく、内側に圧縮されて爆殺される。まるでブラックホールの如き特性を爆弾であり、一般社会に神秘の露見を抑える為に破壊痕を小さくする対策でもあった。

 ……それが、ワゴン車の後ろで爆発してしまった。ヴォオン、と空間が抉れて壊れる重低音が響く。バーサーカーとアヴェンジャーは車両へ素早く逃げ込んでいたが、あれは逃げ切れないだろうと直感。全員が死の刹那を予感し、レンが最大加速させても一秒二秒寿命が延びるのみ!

 

「―――殺せ」

 

 呟くな様な召喚主(マスター)から御命令(オーダー)。この程度の危機ならば令呪さえ使う必要は無い。アヴェンジャーは第六感で脅威に気付いたと同時、一気に天井の扉からワゴン車の上に移っていた。コンクリートの道路が捲れ上がり、吸い込まれている光景が目に入る。

 爆風と空間の境界が、殺人貴(死神)には良く見える。そして、見えると言う事は、その現象を殺せると言うこと。直視の魔眼で視覚化された死の線を切り裂くのも良いが、それでは面倒だ。こんなのは何時ものことで、まとめて全て死なせてしまえば良い。愛刀の七つ夜ではなく、投擲用に隠し持っている投げナイフを手に持ち、音もなくスラリと投げた。

 ―――無。

 言葉にする事が不可能な、虚無が成す死の消去。

 アヴェンジャーは魔眼で観測した「死の点」を投げたナイフの刃で穿ち、爆風をそのまま撃ち抜いた。彼からすれば所詮、壁に掛けられた的にダーツをする程度の簡単な作業。それも此方に段々と近づいてくるので、目を凝らせば“的”になる黒点も更に大きなって外しようも無かった。これが高位宝具の概念や、現象そのものならば死の点も小さく、ナイフを投げ当てる何て曲芸は無理だったろうが、これなら投擲で十分対処可能。

 

「―――…………ヌ?

 何だそれは、有り得んだろう。奴は本当に何でも有りか!

 げひゃっひゃっはーはっはっはっは、本当に腐れ神父から聞いていた通りか!? この聖杯戦争は地獄の悪鬼しかおらんのか、面白過ぎるぞ!!」

 

 愉快痛快とライダーは高笑いをした。自分の戦術が容易く潰されたと言うのに、それも戦略の過程に過ぎないと笑みを浮かべていた。

 聞いていた魔眼の宝具か、と脳裏では冷静に分析しているが、それはそれ。これはこれ。

 ライダーにとって聖杯戦争そのものが死後の娯楽。略奪を成功させる過程もまた、愉悦となる日常生活。

 ……この戦争で誰もが思っている。コイツとだけはなるべく戦争をしてくない。もしもだ、もし、自分達が追い詰める事で出来て、逃走するライダーを追撃したとしても、その道中には必ず何かしらの、合理的な確実に相手を殺害する為の殲滅戦法が待ち構えている。本来彼が創設した軍団国家の兵は、狩りに用いる戦術と騎兵の技術と機動力を活かし、臨機応変に様々が戦法を得意とする。彼らの生活自体が戦争の予行練習だった。そんな熟練の兵士達が宝具として亡霊となり、現代の兵器と道具を取り入れ、更なる戦術的進化を遂げ、ライダーの戦略は正しく万能と化す。

 敵が敗走するとなれば、勿論―――徹底した殲滅戦を成す為の戦術を、前以って戦略の一部に取り入れるのは必然だ。

 ―――いとも容易く殺すのだ。

 ―――悪辣に呆気無く死なせるのだ。

 ライダーが生み出した帝国は、遊牧民族だからこそ可能な高機動戦術がある。それを大元の戦法を利用し、彼の合理的戦略が十分に生かされた。彼らは騎馬に乗りながら弓矢で敵を遠距離で削りつつ、自分達に近づいてくれば高機動で戦場を駆ける騎馬で距離を取る。そのまま此方にまである程度近づけば、敗走と見せ掛け、戦術的罠に嵌めて壊滅させる。追い掛けて来なければ、そのまま弓矢によって削り続ける。敵が逃げ出せば、高機動で追い掛けながら弓で殺し続け、追い付けばそのまま入れ食い状態だ。この基本戦術を徹底可能な野戦に相手を持ち込む事が、戦略の胆。城攻めや都市の焼き打ちなども行えるが、それはモンゴル以外の国家の技術と戦術を取り入れ、戦略を更に合理的にしたから出来た戦争。チンギス・カンが生み出した殺しのお手本があればこそのモンゴル。

 

「―――では、第五陣。準備に掛かれぃ……」

 

 とても静かに、号令を伝達させた。ライダーと、その皇帝に仕える侵略兵達は、彼奴等の屍を視るのが目的として再度、追撃戦を再開させた。

 

「……敵さん、まだ諦めて無いね。あー、ホントに面倒なのに目をつけられた。レン、どうする? 運転代わろうか?」

 

 ワゴン車の中で、綾子は神父と瓜二つの死んだ魚の目で悪態を呟く。まだ時間は深夜で、ライダーが張り巡らせた人払いの結界が周囲数キロを覆っている。

 

「……」

 

 そして、レンはふるふると首を横に振り、綾子の提案を無言で断った。自分は迎撃役には向かず、運転位の役目しかこなせない。それに貴重な戦力となる綾子を運転席に縛る訳にはいかなかった。

 

「そう。だったら、まだまだお願いするよ。しかし、あれだねアヴェンジャー、念の為にこれアンタに渡しとくわ」

 

「―――これはまた業物で。良い刀じゃないか」

 

「ああ、そうさ。それにアンタのそのナイフじゃ少し間合いがね。このカーバトルだとお得意の暗殺戦法も駄目駄目だし、使えないし。後、使えないし」

 

「酷い事をこれまた直球で。それも二回も言うかよ。まぁ、否定は出来ないが」

 

 確かに今の状況では、相棒の七つ夜(ナイフ)は無用の長物。相手が乗り込んで来ない限り、必要にならない武器。だが、少々長い刀身のこれならば、車で擦れ違い様に敵を切る事が出来る。些細な違いであろうとも、優位な武器を使わない手は無い。そも、彼は長い間使っていた故に七つ夜に愛着があるだけで、得物が小刀から刀に変わっても殺人技術に翳り無し。

 この刀は綾子のコレクションの一つ。何でも錬金術師が工学的、魔術的に硬く鋭い日本刀を作成しようと思考した末に錬鉄した逸品らしい……と、綾子も綾子で今一詳しい出自は知らない。何年か前に天狗の人喰い混血を殺害した時に手に入れただけで、使い勝手が良いからそれ以降も使っている。

 

「……おっと。あらま、前方塞がれてる。丁度良いやアヴェンジャー、殺し斬れ。砲弾ならあたしがどうとでも出来るし」

 

「了解した、マスター」

 

 進行方向に敵影を確認。大砲を構えており、何故か片手で乗用車を潰しながら持っていた。恐らく結界を張った時点で範囲内に居た為、ゴーレムに見付かって破壊されたのだろう。あれでは中に人がいた所でミンチになっている。

 そのまま逃走するのは無理とは考えていたが、やはり敵側は何十もの罠を張っていた模様。綾子は不機嫌な目付きで前方のダンクゴーレムを睨み―――発射された砲弾を、強化された視覚で認識。一秒が十秒となり、その十秒が更に百秒となり、やがて零秒の停止に至る限界圧縮された体感時間。絶対なまで自己の時間を支配した世界の中、美綴綾子は己が異能を解放した。

 瞬間、彼女の視界にのみある種の力場が発生。超能力で例えれば念力に属する自然干渉法。

 それは才能が可能とする超能力じみた魔術行使。つまり、超能力であると同時に、魔術回路に癒着した異能による魔術であった。

 ヴォオン―――と、砲弾は車体の横へ無理矢理逸らす。次の間に爆弾へと利用された車をゴーレムは同時に投げていたが、それも車道外に吹き飛ばす。そして、ワゴン車は一気に加速し、ゴーレムの眼前まで接近。攻撃軌道全てを綾子が全力で車両から逸らし、ゴーレムの股の下を車が通った瞬間―――アヴェンジャーが残像も映さぬ目視不可の速度領域で以って、美しい刃を数度だけ閃かせた。

 

「――――――……」

 

 ばらばら、と戦闘戦車(タンクゴーレム)の巨体が解体した瞬間―――物影から一瞬の隙を見付け、言峰士人の従僕がワゴン車に張り付いた。暗殺者のサーヴァント―――アサシン。

 己が背後を暗殺者に狙われる失態。アヴェンジャーは確かな自分の死を感覚した、その刹那だった。咄嗟に刀を敵に向かい振うも、いとも容易く回避され、自分の懐に潜り込まれるのは理解していた。実際に、その展開に持ち込まれ、その時点で暗殺者の策は成立していた。

 アサシンは自身の宝具である妄想血痕(ザバニーヤ)の布石を打っていた。丁度アヴェンジャーとアサシンがいる場所には、赤色の霧で覆われていた。これはアサシンが血の濃霧を口内から竜の炎のように吐き出した為だ。後はサーヴァントをも毒殺可能な宝具へと、真名によって昇華するのみ。この呪術は宝具として解放しておらずとも、英霊さえ身動き出来ない猛毒なのだ。もはや、何も出来ずに殺されるだけとなり―――

 

妄想(ザバ)―――」

 

 ―――その宝具(呪術)を、殺人貴は()す。

 隠し持っていた七つ夜(短刀)で血痕の呪詛を殺し、自分に振り掛かる地獄の天使(ザバニーヤ)の神秘を斬り殺した。アサシンが空気中に展開していた毒血の赤霧は一瞬で消え、アヴェンジャーは躊躇わずマスターから預かった刀と、愛用の短刀で敵を解体せんと刃を閃かせた。

 その乱舞に合わせ、アサシンは血液で生成したファルシオンに酷似した片刃剣で捌く。だが、その血剣も数合目で殺され、魔力諸共霧散する。その時、既にアサシンはアヴェンジャーの暗殺失敗を悟り、如何に殺すか、あるいは生きるか更に脳裏で模索。たった2秒の間で数十合も斬り合いながら、アサシンは打開策を練る。

 

「―――……っち」

 

 結果、舌打ち一つで状況にケリを着ける。彼女はアヴェンジャーへ向け、血液を媒体に体中の刻印から呪いを生成し、熱風の呪術を無詠唱で放ち―――それも呆気無く殺される。どうやら、暗殺者としてだけではなく、呪術師として修めた神秘も、あの魔眼の前では無価値に消えるらしい。宝具の血液による物理干渉と呪詛だけではなく、呪術による物理的自然現象も関係が無いようだ。

 だが、視界を潰すことは出来た。アヴェンジャーに隙は欠片も無いが、逃走経路程度の隙間は作れた。

 アサシンは音も無く空へ跳び上がり、血液で作った赤い短刀(ダーク)を乱れ投げる。その全てを二刀で以ってアヴェンジャーは無造作に斬り落とす。彼はそのまま地面に落下するアサシンに追撃しようと、隠し持っている投げナイフを出そうとするも、無駄だった。戦車砲染みた投擲であろうとも、アヴェンジャーが刀をクルリと回すだけで威力が死に、車体を守ると同時に短刀の乱れ切りで自分の身も攻撃から防いでいた。そして、車両は一気に急加速。このままでは、アサシンは車から引き離されてしまうだろう。

 

「無駄ぞ、愚か者……」

 

 だが、アサシンは片手から赤い糸を射出。彼女は自分の呪術の毒素の研究の際、毒蜘蛛の生態系を調べ尽くしていた。その時に手に入れた術であり、自分の毒血を蜘蛛の糸状にし、対象物に張り付ける毒蜘蛛の呪術だ。また、糸は何本もの糸が絡み合ったかの様に太く、赤い血液により毒棘が成されている。粘着される上に、棘の傷口から猛毒が体内へ侵入する暗殺者らしい外法。

 

「…………―――!」

 

 アサシンはその血縄を車体後部に付着させる事に成功。そのまま気合いを込め、コンクリートの上に着地。彼女は硬化血液により、具足を作成し両脚を保護。車に引き摺られて地を滑るが、同時にブレーキ役でもあった。段々と減速させ、何れかは停止する。流石にアサシンの筋力と耐久では、工学的概念的にも強化された暴走車両(モンスターカー)を止められないが、敵からすれば煩わしいにも程があった。

 故に、後部座席から銃を構える綾子が、外敵を狙って乱射するのは道理。

 装甲車を蜂の巣にする重機関銃がアサシンを襲ったが、彼女は有り得ない事に踊った。髑髏面が月光に光り、死神の如き舞で避ける。しかし、綾子は敵がアサシンである事を理解し、相手が車に付けている糸を撃つ。大元を引き千切れば、敵は離れよう。だが、硬質な糸は弾丸一発では千切れ無かった。

 ―――その隙を穿つ。

 アサシンは相手に向け、毒血の投げナイフを投擲。掠っただけで、サーヴァントだろうと行動不能にある猛毒だ。人間が受ければ、毒が少しでも心臓や脳に回っただけで即死。そのナイフを綾子は睨んだだけで宙に停止させ、挙げ句相手に返し撃った。

 アサシンは敵が超能力(サイコキネシス)の類の異能を持つ魔術師だと理解した瞬間に、糸が遂に弾丸に負けて切れてしまった。今度は逆に綾子がアサシンに向けて銃火を散らすも、あっさりと敵は離脱して姿が消えてしまった。

 

「……む。同業者共ばかりだったな。やり難いぞ」

 

 走り去る車を見つつ、アサシンは溜め息と共に呟く。

 

「だが、僅かな足止めには成功した。しくじるなよ、神父」

 

 言われた通り、数秒は準備する時間を生み出してやった。それで十分だ。

 サーヴァントとしてと言うよりも、同格の相棒として認めているからこそ、彼女は言峰士人の話を聞いている。それはマスター云々ではなく、仕事に対する実直さと確実性をある程度は信用していると言うこと。そして、彼女の信用はとても正しかった。

 道路の先、先回りに成功していた士人。彼が車両を視認するのと時を同じく、綾子やアデルバート達も士人の姿を捕えた。全員に悪寒が奔った瞬間、既に相手の一手が形を成していた。

 

「―――ふむ。逃げ場は無いぞ。聖杯戦争を共に愉しもうではないか」

 

 道路を塞ぐように、刀身が長い魔剣軍が等間隔で柵を作っていた。このままワゴン車で走り抜ければ、車はスライスされて四散する破目になる。あれ程の概念武装となれば、銃弾を撃ち込んでも弾かれる。爆破物を投射したところで、魔剣の刃ならば爆風も切り裂くだろう。よってレンは仕方なくブレーキを踏み、車を停車させた。道路の外側は崖と森林地帯となっており、車での逃げ道はなくなっていた。その気になれば逃げ込む事も出来なくは無いが、そうなれば作っておいた逃走経路では無い為、呆気無く追い付かれる事となる。

 そして、ぞろりぞろりと神父の背後から数多の軍勢が現われた。ライダーも自軍の者を先行させていたのだ。

 

「さぁ、追い付いたぞ。戦争の時間ぞ。貴様ら全員、死んで我輩の覇道を飾ると良い」

 

「ああ、早く斬ってしまおう。時間も限られている」

 

 数秒後には本隊も合流。その場にはライダーのマスターであるでデメトリオ・メランドリも居た。アサシンは音もなく既に神父の傍らに佇んでいる。

 

「―――はぁ……結局、総力戦か。一番いやなパターンだね」

 

 綾子の台詞が現状の全てを物語っていた。神父を見付けた直後、全員の行動は迅速だった。二秒も掛からず車両から降りており、本隊のライダーとデメトリオが到着する頃には臨戦態勢には突入済み。ワゴン車は綾子が作り出した“門”によって回収されているので、完全武装した状態で障害物もなくしている。

 

「―――そろそろ狂うか? バーサーカー」

 

「そうさのぅ。頃合いかもしれんな」

 

 アデルバート・ダンは切り札足る令呪で以って、バーサーカーの狂化を考えていた。ダンはもう一つの切り札である巨銃を右手でぶら下げつつ、包囲網を敷かれた360度全体を警戒。開戦時、問答無用で撃ち殺そうと内心で殺意と害意が混ざり煮え滾っていた。

 そして、ほんの一瞬だけ音が消えた。

 まるで嵐の前触れみたいに、静寂が世界を支配した。

 誰かが動けば、その瞬間に乱戦が始まる。ライダーの軍勢が段々と熱気を高ぶらせ、世界の色を赤く血で塗り潰していく。だが―――……

 

「―――偽・螺旋剣(カラド・ボルグ)

 

 ……そんな呪文が、何処か遠くから唱えられた。轟く爆音、抉られた空間、貫かれた世界。この場に居るほぼ全ての人間が戦慄し、驚愕した。

 ―――閃光が、眩く世界を引き裂いた。




 今回の話は簡単に纏めますと「ライダーからは逃げられない」です。ライダーは勝つ為に幾つもの戦術兵器を準備しています。流石に戦略兵器は持っていませんが、彼の宝具がもはや戦略兵器ですので、その戦略兵器軍の中に戦術兵器が沢山ある雰囲気にしています。後、今回活躍させましたゴーレム戦車ですが、これは殺して吸収した錬金術師を主に、その他諸々の殺した獲物の知識を使ってます。彼は何でも有りですけど、何でも出来る用になる為には準備が命です。如何に軍隊としての形まで完成させられるかが問題でして、この度の聖杯戦争ですと、キャスターの式神を略奪出来ましたので更に向上してしまう結果に。実はキャスター陣営を一番削り取っているのがライダーでして、殺したキャスターの使い魔達をそのまま自軍に吸収している状況になってます。
 読んで頂きまして、本当にありがとうございました。

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