神父と聖杯戦争   作:サイトー

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 夏に就活とか地獄でした。今はただ学生生活を楽しみたい。そして、家のクーラーが使えない。熱い。


48.森の砦の放蕩姫君

「おいおいおいおいおい……!

 ―――ねぇじゃん何も! 城は何処行った!?」

 

 場所は冬木郊外の森の奥。エルナの絶叫が虚しく消える。

 

「無いですねぇ、本当に何も。……どうするのですか、我が主?

 これでは雨を凌ぐ事は無論のこと、敵の攻撃を防ぐ事も出来ずに我々の体から血の雨を降らす事になってしまいます。

 ―――あぁ、無常。

 これ程までに破壊されていますと、いっそのこと清々しいとまで感じて仕舞いますね」

 

 あっはっは、とキャスター爆笑。上品に口を歪めて声を上げている姿は、本当に相手の癇に障る厭味ったらしさに満ちている。

 

「ツェリ! どうなってんのこれホント!?」

 

「いえ、恐らく、前回の戦争で全壊してしまったのかと。報告も無く、本家の者が現地に赴くことも有りませんでしたので、このような事態になってしまったと思われます。

 完全にワタシの不備です。この不手際につきましては、存分に処罰して裁いて下さい」

 

「あー……これはぶっちゃけ、本家の奴らのミスだと思うんだけど。ツェリの所為じゃないんじゃないか?」

 

「有り難き幸せであります。この度の温情、ワタシは永遠に忘れません」

 

 ―――結論から言えば、城が無かった。瓦礫しかなかった。

 彼ら四人は知らぬ事だが、原因は前回の聖杯戦争において、ギルガメッシュとアヴェンジャーが宝具を撃ち合った為だ。森に建てられていた城はあっさりと崩落した。

 だからこそ、イリヤスフィールとメイドの三人も直ぐさま衛宮邸に引っ越しをしたのだ。藤村大河はイリヤの住居へと自宅を提供しようとしたが、大人数にもなって、更に切嗣の実子でもあったので衛宮邸へ移った裏話がある。

 と言う事情を知らないエルナからすれば、こんな事態は想像もしていなかった。まさか、城が無くなっているんて考えもしなかった。

 

「オイオイ、エルナ。瓦礫シカ無ェジャネエカヨ。コンナンジャ幸先不安ダゾ。

 折角ノ戦争デ陣地取リヲ失敗(ミス)ルナンテ、コンナ馬鹿ナ話ガアルカヨ。本当ニ頼ムゼ、チャント英霊斬ラセロヨ。死徒ヤ魔術師ナンテ斬リ飽キチマッテ、随分ト昔カラ新鮮味ガ失ッテルンダ」

 

 エルナスフィールが背中に負う魔剣がケタケタと震動して笑っている。耳障りな不協和音が心底苛々するのだが、この目の前の城の成れの果てらしき瓦礫の山に比べれば、大した支障ではなかった。

 

「黙ってろ魔剣。お前なんでそんなにペチャクチャうるさいんだ」

 

「ヘーイヘイ、シッカリト(クチ)ヲ塞ギマスヨ。剣ニ(クチ)何テ無イケドナ!」

 

 背中から震動が無くなり、エルナはクノッヘンが眠ったのを確認。

 

「……はぁ、仕様がないですねぇ―――私が城塞を建てましょう、エルナ殿」

 

「――――――へ?」

 

 きょとんとした目でエルナはキャスターを見た。このサーヴァントは確かに、城塞を建てると言葉にしていた。それは魔術的な結界による守護と言う意味では無く、実際にこの瓦礫の山から城を一つ作り直すと言うこと。

 

「……出来るのですか? 出来たとしても、魔力の方は大丈夫なのでしょうか?」

 

 驚いて疑問で脳味噌が凍っている主に代わり、ツェリが呪符を準備しているキャスターに問う。

 

「建設の方は特に問題はないですね。魔力の方は多めに消費してしまいますが、一度魔力収集用の結界を作ってしまえば、そこまで問題無い程度の消費ですから」

 

「成る程。それはとても有り難いです。ワタシが新居を準備するとなれば、酷く時間も掛かります。そして、エルナ様に相応しい城も不可能でしたから」

 

「任せなさい。これでも私、建築方面の知識にも手を出していた事が有りますので。まぁ、ある程度の形だけでしたら一時間も必要ないですよ」

 

「―――素晴しいです」 

 

「恐悦至極と言っておきましょうか」

 

 サーヴァントとメイドが静かに、しかし何処か悪巧みをする子供のように設計を互いに考え出す。多分この二人は物造りが好きなのだろう。それも敵対者から身を守るための砦の製作とのなれば、気合いの入れようも大幅に上がるもの。

 傍から従者二人の話を聞くエルナにして見れば、異次元の会話だ。豊富な知識と学者顔負けに博学な彼女からしても、趣味が混じったツェツィーリエとキャスターの話は意味が通じていない。また、トラップにも理解があるツェリから出される意見に対し、キャスターは素直に取り入れ段々と悪辣なコンセプトが出来上がっていった。

 

「ひぇー。キャスターは、ホント何でも有りなんだな」

 

 ここまで有能なサーヴァントはそうはいないだろう。魔術師のクラスであり、クラススキルの陣地作成と道具作成があるとは言え、砦まで作り上げるとは驚きだった。

 

「そうですかね?

 生前は好きな事をとことん突き詰めて、好き勝手に生活していただけですけど」

 

「好きな事ってアレか、神秘とか、学問とか?」

 

「―――全て、です。

 人類の文化そのものです。神秘やその他学問については、たまたま私に生まれついた才能が有り、その道へ進んだ訳ですので」

 

「へぇ、流石は博識な学者様。人生、これ即ち学ぶ道って感じか。私には縁の無い生き方だねぇ、そりゃ」

 

「死ぬまで周りの全てが、勉学の源でしたから。それが私にとって、もっとも楽しき娯楽でした。

 魔を封じ、神を暴き、人を喜ぶ。

 星を見定め、地を平定し。

 敵を滅ぼし、邪を仇なす。

 これ即ち、弱肉強食たる諸行無常。

 若い頃から年老い、世界を見る目が変われども本質は死んだ今となっても、何も変化は無い。この世界も文明の発展で薄汚くはなりましたが、楽しみを尊べる精神を偽る事は不可能です」

 

「気難しいお前らしい台詞だな。何と言うか、生前は嫌なジジイだっただろ?」

 

「良く御分かりで。昔は確か、邪悪な女狐の恋路を邪魔した事もありましたっけ。……あぁ、後は嫉妬狂いを追い詰めた事もありますね」

 

「ふーん。キャスターは女嫌いなんだ」

 

「いえいえ。嫁はしかと貰いましたし、子供も居ましたよ」

 

 会話もそこそこ。キャスターは喋りながらも準備を怠っていなかった。サクサクと砦建設に必要な道具を何処からともなく出し、大規模な結界を一瞬で構築した。

 

「まぁ、大したこと無い簡易結界ですけど、少しは足しになるでしょう」

 

 本格的なものは後で張り直しますけど、と彼は呟いたがツェリには聞こえていなかった。魔術も堪能な万能メイドにとって、恐ろしいと言うよりも既に魔神とさえ呼称出来るキャスターの凄腕は、尊敬を越えて崇拝したくなる程の絶技であった。

 彼女がこの規模且つ効果を持つ結界を作るには何週間、いや何カ月必要になるのか分からない。しかし、この男は呪文詠唱さえせずにあっさりと完成させた。確かに道具の補助もあったが、それでも畏怖すべき技能である事に違いは無い。

 

「では始めましょう、キャスター。ワタシも手伝います」

 

 しかし、メイドはそんな心情を一切顔に出さなかった。鉄面皮に見える笑みを作り、恐るべき魔術師の英霊に微笑みかけた。

 

「そうですね、ツェリ殿」

 

 そうして、瓦礫の山が浮遊し、粘土みたいに捏ね繰り合わされる。段々と形を作り上げて行き、砦としての形が完成されていった。その光景をエルナは感心しつつも、驚くこと無く見守っていた。

 ―――と、エルナスフィールは葡萄酒を飲みながら、冬木に着いた最初の日について回想をしていた。グデン、と椅子に寄り掛って首をだらしなく後ろへ反っている格好は、女性として色っぽいのだが子供っぽさも強く出ていた。

 それは正しくnot in education, employment or training、略してNEETな姿であった。とは言え、生まれてからまだ十年も経っていないので正確な定義を当て嵌めれば、別にニートでも何でも無い唯の未成年飲酒者である。

 

「ひー、ふー、みー、よー、 いつ、むー、なな……と、私を除き、全部でサーヴァントは七騎ですか。それとイレギュラー二体の確認も出来ましたね。

 ふむ……あれは、呪詛が濃過ぎて正体が丸分かりです。何処かの誰かが聖杯の地獄から、死霊でも呼び出したのでしょうかね」

 

 机の上で簡単な作業を行っているキャスターが、対面に座っている自分のマスターと、斜め横の席で自分の手伝いをしているメイドに対し、簡単な報告結果を告げた。

 そして、今のキャスターの格好はドイツのアインツベルンに居た頃を変わり、日本の若者に近い現代的な服装だ。サーヴァントとしての装備を物質化しているのは魔力が勿体無いと、物質的な衣装を着て霊体化を解除していた。

 基本的にキャスターは霊体化を好まず、姿を具現している。マスターの魔力消費の問題もあったが、キャスターが自前で調達出来る魔力に比べれば大した量では無い。こうやって霊体化を解除する必要がある作業をしている時以外も、茶を嗜んだり、念話では無く口でお喋りしたりと、中々に遊び心がある男であった。無論、遊んでばかりでは無く、戦争用に様々な道具を作成し、陣地もより強靭な作りを成す様に、魔術師のクラスに呼ばれたサーヴァントとして役目を完璧以上の、完全無欠な手腕で真っ当していたが。

 

「あん? 計画じゃ、有り余った聖杯の残存魔力を利用して、生贄(サーヴァント)をもう一体準備するだけじゃなかったのかよ。余分な一騎が存在していると仮定して戦略が組めるのが、私達の利点だったんじゃなかったか」

 

 エルナはアルコールで顔を赤らめながら、自身の契約相手へ愚痴を溢す。こいつ酒臭ぇ、と顔を顰めながらもキャスターは自分の仕事をきっちり行っていた。今の彼はサーヴァントの中のサーヴァント、略してサバサバである。普通の英霊なら、と言うよりも英霊以前にこんな態度で酔っぱらっていれば、当然のように怒るのが普通だろう。

 

「そうですね。私は願望を叶える為では無く、聖杯を欲して召喚されました。故に、完全でなければ得る価値がない。

 その為には七体の生贄が必要となり、自分も死ななければならない。と、なれば、もう一体準備すれば良い話です。しかし、私達が練り上げた計画外にも、イレギュラーが発生していました」

 

 ―――聖杯。英霊が願いを叶える為の道具。

 だが、中には聖杯そのものを目的にして召喚されるサーヴァントが居ても可笑しくは無い。キャスターは願いの為では無く、完成された聖杯を欲して召喚された。願望を叶えるだけならば六体のサーヴァントを殺せば十分だが、完成させるには自分も含めた七体の生贄を捧げる必要が出る。

 その為の八体目。

 その為の復讐者。

 計画通り、大聖杯に干渉して令呪は本来は存在しない八人目のマスターに分配された。そして、八体目のサーヴァントも確認された。それなのに自分達が生み出した以外の、想定外の異常性がこの聖杯戦争で確認された。

 

「恐らくは御三家の内の一つ、間桐家が何か細工を施したのだと思いますよ。あの家を観察してみたのですが、尋常では無い邪気の濃さが凄まじくてエグいですね。それに改めて大聖杯の方を監視してみたところ、あの家の邪気に良く似た魔力残留も確認出来ました。

 単純な第一印象なのですけど、明らかに何か企んでいます。見るからに怪しさ爆発していますから、あれ」

 

 また、キャスターは間桐の地下工房を透視していた。鬼畜極まりない惨劇であったが、この事はマスター達には言わないでおいた。自分のマスターであるエルナは無駄に正義感が強い為、間桐を知れば殺しに掛る事は予知出来ていた。あの組みを潰すには、自分達だけでは危険だと未来を予測していた。

 そもそも彼は冬木に存在する全ての魔力を保有する者達を観測済み。マスターとサーヴァントの姿を知り得ており、巧い具合に敵対者同士で殺し合わせようと計略を練っていた。この事自体はエルナとツェリにも告げているので、後の戦略構築は出来上がっている。

 

「……あー、あの間桐家かぁ。確か今の当主さんは、協会帰りのエリート様なんだっけか」

 

 グイ、と酒杯を傾けて上等なワインを軽く飲み干した。ぷはぁ、と効果音が聞こえそうな程、豪快なワインに似合わぬ飲みっぷり。

 エルナの隣に居たツェリは空になったグラスを確認し、上品で完璧な仕草で酒を並々と注いでいる。そしてキャスターは、エルナ殿を甘やかし過ぎないか、と年長者として少しばかり不安になった。

 

「ええ。その通りで御座います。ワタシが調べたところ、現当主間桐桜は魔術協会にて優秀な成績を修め、卒業した様です。

 キャスター、アナタにも調達できた資料は見せましたから、御三家の情報は知り得ていますよね?」

 

 主へ葡萄酒を注ぎ終わった従者がキャスターへ確認を取った。

 ツェツィーリエが調べた資料は主に、確認出来た今回のマスター達と、前回の大まかな情報である。優勝者に遠坂凛と衛宮士郎であった事は協会を通じて知っており、執行者フラガの情報も得ている。第六次聖杯戦争における監督役も埋葬機関出の者らしい司祭だと言う事も、御三家の間桐が今回の戦争を見送るかもしれない何て信じ難い情報も手に入れていた。

 特に前回の生き残りは要注意なマスター候補して念入りな調べが成されている。同じ御三家であれば猶の事。妖しい雰囲気のある間桐も十分調べ込んでおり、念の為前回の監督役についても情報を収集しておいた。

 

「勿論です。顔と名前は記憶しておりますし、前回の聖杯戦争参加者も同じく覚えています。

 間桐桜の事も資料で名前と顔と経歴は見ましたが……彼女は元々御三家の一つ、遠坂家の者の様ですね。この時代における魔術の最高学府において、確か封印指定なる称号ギリギリの結果を出していたとか」

 

 キャスターは、間桐桜の事が気になっているらしい。いつも細い目付きを更に尖らせ、危険な者に注意するかの如く声色が低くなっていた。

 

「なんだ、気になんのか?」

 

「ええ、とても凄く。

 ―――なので、占ってみました」

 

 作業を一時中断し、キャスターはペラペラと達筆な腕前で文字が書かれた和紙を取り出した。折り畳んでいたにも関わらず、その紙が開かれても何故か折目がついていない。

 

「―――……占い、ですか。確かに、アナタ様程の技量がありましたら、もはや未来予知とも言える能力がありましょう」

 

「へぇ、そいつは面白い。聞かせてみろよ」

 

「分かりました。では、御教え致しましょう」

 

 得意げな笑みでキャスターは二人に応えた。

 このサーヴァントは占いが趣味であり、良く他の人間の運命を楽しそうに見定めていた。対し、自分の運命を占うのは大嫌いであり、自分の人生を自分の言葉で決定する事を好んでいない。精々がちょっとした補助程度の占いで、大筋は見ないようにしていた。

 故に一通り、顔と名前が分かった人物を占っていた。エルナとツェリは勿論、間桐以外の組みの者も占ってある。

 

「占い結果としまして、間桐桜なる人物からは災厄の相が見えます」

 

「災厄、ですか……?」

 

「はい。この災厄は純粋な意味での災厄でありまして、この聖杯戦争に関わる者全てに対して向けられています。

 我々にとっても、他の組みにとっても、不吉の鬼となりましょう。

 油断をすれば死に、慢心をすれば死に、隙を見せた者から順に殺されていくでしょう」

 

「……―――間桐桜は、令呪の選定に選ばれなかったと聞きましたが?」

 

 間桐家当主、魔術師間桐桜。キャスターの透視によって、彼女に令呪が無い事は確認済み。他七人のマスター達は既に確定されている為、既に新たなマスターとして選ばれる事は無い。

 エルナとツェリはもう、大部分の敵陣地とマスターの情報を手に入れている。敵対する可能性のある人物として挙がってはいるが、マスターの中に間桐桜の名は無い。

 

「ツェリ殿。結局のところ突き詰めて仕舞えば、この聖杯戦争は唯の殺し合いです。我々サーヴァントなどは戦力でしかありませんし、マスターにも同じ事が言えるのです。

 ならば、その戦力を如何にかしてしまえば、同じ土俵に立って戦えるのは当然のこと」

 

「ほぉ……じゃ、間桐は今回も参戦する訳だ」

 

「恐らくは」

 

「ハッハッハー! ソリャマタ、随分ト狂ッタ聖杯戦争ニナリソウダゼ」

 

 耳障りな音で魔剣が声を発する。今まで黙っていたクノッヘンであったが、根っからのお喋り好きな性格をしているので、ずっと沈黙を守る何てことは有り得なかった。

 

「その通りですよ。元より殺し合いは、先に狂った者が勝つのですから」

 

「オマエハ本当ニ最高ノサーヴァントダゼ、キャスター。

 ケレドヨ、戦略通リ簡単ニ戦争ヲ運ベルトハ思エナイゼ、実際。巧イ具合、コノ森ニサエ敵共ヲ誘導出来リャ、話ハ簡単ダロウガナ。

 ―――コノ城ハ正ニ魔城。ソシテ、森ハ怪物潜ム神話ノ森ダ。

 怪物極マル英霊達ト言エ、奴ラヲ纏メテ処刑出来ル陣地ナラバ十分ニ勝機ハ此方ニアラーナ」

 

「ええ、まぁ。問題は貴方が言ったその点ですね。この異界に敵を誘導する為、あれ程派手に暴れたのですから。

 故に不意打ちで、それも複数の陣営に対し、纏めて皆殺しに態々掛かりました。

 あそこまでやられて憤怒も危機も抱かぬ訳がありませんでしょうし、遅くてとも数日の内に準備を整えてくると思われますよ」

 

「ウェヒヒヒッヒッヒ! コエーコエー、本気(マジ)デ腹黒イナ!」

 

「腹黒い? 何を言っているのですかねぇ。

 所詮、戦争なんてモノは騙した方が早い者勝ちなのです。騙し打ち、不意打ち、裏切り、挟撃、暗殺……ありとあらゆる卑怯な行いは、勝てば官軍と言う様に生き残った方が正義と化すのです。

 私の生前も人間達は、卑劣で下衆な手段な外敵共を殺し尽くましたからね。見本は腐るほど学びましたので、やり方は十分上達しています」

 

 それを聞き、エルナは呆れた雰囲気の笑みで相棒に視線を送る。このサーヴァントは偽悪的な部分があり、そして腹黒く、目聡い。

 

「無理に悪ぶる必要なんてねぇんだぜ、キャスター」

 

「どうもこれは癖でして。

 ……死人成り果てても、人の業とは変化ないものですね。魂にこびり付いた錆は、もう二度と変わることがないとわかりました」

 

 何を思い浮かべているのか、キャスターは何処か底無しの虚に似た眼でエルナを見た。キャスターは人造人間である彼女を見ていると、神秘が持つ業の深さを実感する。そんな彼女が自分のマスターになった現実を顧みるに、この世は実に上手い具合に出来あがっていると自分に対して皮肉を言いたくなるのだ。

 

「だからこそ、英霊は魔術師のサーヴァントに相応しい存在なのです。アナタはサーヴァントとして、とても理想的なキャスターです。ワタシから見た場合、召喚されたのがアナタで良かったと感謝しています」

 

 メイドはその真髄までメイドとして完璧である。故に彼女はキャスターを好んでおり、助けて上げたいとも考えている。そして、キャスターがエルナの相棒として、ツェリは彼を完全なサーヴァントで在る様に補助する義務を自分に課していた。

 

「いやはや、貴女には気苦労を掛けますね。感謝しているのは此方の方ですよ」

 

 キャスターはそう言った後、思考回路を更に多く別けた。マスターとそのメイドと日常生活を楽しみつつも、結界と使い魔と千里眼を使った外部視界を作り、それらから送られる映像を分析する。

 ―――魔城は、静かに森の中で君臨している。

 古代の森を再現し、城壁に囲まれた堅固な砦が威容を放つ魔術師の陣地。アインツベルンのテリトリーは確実に敵を殺害する為の処刑場であり、息の根を止める事に特化した屠殺施設に化けている。もう嘗ての森には戻らない。

 そんな森の砦の中から、キャスターは戦場となる冬木を全て見透している。七組の動向を探っている。マスターとサーヴァントを見付け出している。そして、キャスターにとって一番重要なのは、まだ本拠地を見付けられていないアサシン組の発見となる。彼はそんな事をしつつ、自分のマスター達を会話を楽しんでいた。

 

「それじゃキャスター、街に出るぞ。索敵ついでに気分転換だ」

 

「はい……――――――え?」

 

 そうして、そんなマスターの気紛れな提案に、聡明な筈のキャスターは思わず頷いてしまっていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 冬木市は主に二つに別れていた。新都と住宅街が川を挟んで成り立っており、開発が進む地域と昔ながらの情緒を残す町と真っ二つになっている。

 中でも新都から川を挟んで反対側にある住宅街は、余り娯楽施設がない。しかし、今の時代の日本では、地方の商店街の衰退で賑わいが減ったと言われるが、冬木の商店街は昔と変わらず繁盛していた。生活感に溢れる街並みは正に日常とも言うべき暖かさがある。

 

「……隠れ鼠(アサシン)を殺し損ねたのは痛かった」

 

 時間は昼。主婦が買い物に出歩く様子が見れる中、かなり物騒な言葉を吐く西欧系の人物が一人。そして、隣に大柄なアジア系統の顔立ちをした人物を連れ立っていた。

 西欧人の服装は上も下も黒色で統一している奇抜な様相。黒髪黒目の長身が目立ち、髪の毛はボサボサのまま肩まで長く伸ばしている。傍目から怪しい布に包まれた荷物を、彼は腰に付けて運んでいた。そして、ただ其処を歩いているだけで気が狂う程の威圧感が出ているものの、巧く隠しているので戦場を知らぬ者では悟ることは出来ないだろう。しかし、逆を言えば、感覚が鋭い者が見ればこの男の異常性は極々自然と理解して仕舞えた。

 また、アジア人風味の男性はゆったりとした服を着ている。茶色の髪は荒々しく背中まで伸ばされており、少しだけ長い顎髭を生やしていた。尋常ではないカリスマ性に満ち溢れた気配を放っており、一度見ると意識に染み付いて忘れられない印象を残す男であった。

 

我輩(ワシ)にして見れば上々であるのだがな、デメトリオ。

 敵戦力も探れ、暗殺してくる時の手段も予測がつくから無駄では無かった。序盤戦であれ位深く探りを入れられたのであらば、戦果として十分だぞ」

 

 ―――デメトリオ・メランドリ。イタリア生まれのイタリア育ち。

 本業は魔術師ではないが、職業柄魔術の心得を持っていた。何の因果か分からぬが、令呪が宿ったことで参戦を決めた外来魔術師だ。召喚したサーヴァントは騎兵のクラスを持つライダーである。

 そして、本職は聖堂教会所属の聖騎士(パラディン)

 彼は随分と特殊な立場に居る聖堂騎士であり、実は代行者にも属している蝙蝠屋だ。実家関連で魔術協会とも繋がりを持つ。異端を滅する信仰深い騎士であるものの、実際は派閥間や両キョウカイ間で起こる面倒事の処分や、単騎で外部に出て敵を滅ぼす代行者もどきな騎士であった。

 

「そうか。合理的な事だな」

 

 言外に、霊体化しないのは合理的では無いと彼は言っていた。余分に魔力を消費してでも実体を持って生活する事の有効性を、無言の圧力で問い質していた。

 しかし、そんな程度ではライダーに通じない。サーヴァントである彼からすれば、確かに霊体化は節約には便利だ。戦力はここぞと言う所まで温存する主義である。だが、出来る贅沢を拒む程、貧乏性では無いのも事実であった。

 

「それは勘違いであるぞ。手段は簡単なほど成功し易い。重要なのは結果を出すまでに必要な過程を簡略化する事だ。

 お主は中々に頭は良いが、物事を難しく考え過ぎ、思考回路に余分が多い。根はシンプルであるのだから、もっと莫迦になれば良いものを」

 

 道を歩く人影は二人だけだ。人が集まる箇所を離れ、ライダーとそのマスターは今、敵地へ威圧しに出掛けていた。

 教会からの前情報で御三家は知り得ている。

 また、前回や前々回のマスター達の情報も仕入れてあった。

 そして、ライダーが放った斥侯の群れは他の参加者も既に観測済み。

 よって、この度の第六次聖杯戦争はどうやら、定められた規律から逸脱しているのだと理解していた。

 何せ確認出来ただけでも、召喚されたサーヴァントがライダーを含めて八体だ。デメトリオからすれば、敵を殺す為の道具は揃えて来たが想定以上の混戦模様になると判断し、冬木が地獄と化すとあっさり諦めた。騎士と言う立場からすれば、魔術師である時点で罪深いが、この地に住まう人々には何の罪も無い。聖杯戦争と名付けられた災害で果たして何人の死ぬのか、考えただけで憂鬱だ。

 

「む……」

 

 自分たち以外に誰も居ない道路で、耳障りな音が響く。エンジンが猛り狂い、排気ガスが毒々しく漏れ出す。明らかに法的速度を軽くオーバーし、歩道もない狭い住宅街の道を爆走している。

 ―――車が一台、前から迫って来ていた。

 デメトリオが見たところ、ドイツ製の高級車だ。彼は運転マナーがなっていないな、と顔に出さず嘆息しながら壁際に寄った。避け無ければ歩行者ごと引き殺す勢いだ。聖杯戦争に参加した教会の騎士、デメトリオ・メランドリは命を賭して参戦しているが、その死因が不慮の交通事故では死んでも死に切れない。

 

「……なに――――――」

 

 車の運転手は黒髪の美女だ。あれ程美しい女性は人生で初めて見たが、綺麗過ぎて正直腰が引ける。程度を知らぬ美貌は既に猛毒で、気味が悪くさえあった。そして、助手席に座るのは、長い銀髪をした日本の土地に死ぬほど似合わない給仕服を着た美しいメイド。そのメイドの彼女は鉄の無表情で、自分達二人を胡乱気な眼で見ている。だが、そんな事は今の事態に比べれば些細なこと。

 ―――自動車は、そのまま壁に寄ってデメトリオの目の前に移動していた。

 これにはライダーも驚きの表情を示す。マスターに倣って車の前から移動したのに、その車は自分たちの動きに合わせてハンドルを曲げたのだ。これは明らかに殺意ある敵対行為……!

 

「死んじまいなぁ―――」

 

 運転手の女の感極まった声。車の中から僅かに聞こえてきた黒い悪意。

 

「……――――――!」

 

 加速が完了してしまっている。人を轢殺するには十分な破壊力。ライダーは兎も角、デメトリオは人間故に直撃すれば負傷は間逃れない。

 真横へ回避―――否。ハンドルを切られて引かれてしまう。

 上空へ回避―――否。宙に滞空すれば隙が生まれてしまう。

 ならば、取れる対抗手段は限られた。デメトリオは車が自分に直撃する刹那―――足の裏をボンネットの上にまるで滑る如き動作で乗せた。狂気に染まった行動だが、彼は勢いそのままもう片足で屋根に上がる。時速100kmを超過する車の屋根を歩き、彼はストンと交通事故には軽過ぎる音で着地。

 

「大事ないな。お主は見ていて安心出来る故、サーヴァントとして実に楽だ」

 

「嫌なサーヴァントだ。マスターを盾にするか」

 

 ライダーの回避法はマスターとは違って実に単純、コンクリートの塀に飛び上がり普通に避けていた。狙われていたデメトリオならば塀ごと引き飛ばされていただろうが、このサーヴァントはマスターの影に隠れて車の突進を避けていたのだ。

 

「―――結界か」

 

 デメトリオが呟く通り、周囲から気配が消えて無くなった。人避けに分類される結界だが、その効果は絶大で、並の魔術師では思い付くことさえ出来ない技量によるもの。その発生源は車から。そして、効果は一定範囲の人間達の意識から、ありとあらゆる非常識を認識させないと言う狂ったもの。更に言えば、文明の利器では決して結界内の神秘が確認出来ない様に成る程の、圧倒的秘匿性である。

 

「素晴しく愚かしい。まさか、このような真昼間から殺され掛るとは思わなかったぞ。だが、実に効果的な方法だ。戦略として、敵が思いもしない手段で攻撃するのは常套手段となる。

 ……成る程、非常識に見えて準備は万全と」

 

 ライダーが関心した様子で言葉を話す。聞いていたデメトリオも頷くことで肯定し、気配がさらに険呑に研ぎ澄まされていく。

 

「ツェリ、あいつらライダーとそのマスターみたいだぞ……!」

 

「ええ。その様ですね」

 

 いつの間にか開いていた窓から発せられる麗しい女性の声。興奮しているのか、実に熱っぽい敵意が含まれた叫びであった。

 そして、タイヤと地面が擦れる耳に痛い響く高音。

 キィキィ、と耳障りな不協和音で半回転する。

 そのまま車の窓から視線がデメトリオとライダーに向けられた。左回りにハンドルが回された為、丁度助手席のドアが二人の正面になった。

 

「――――――」

 

 助手席の窓から手が伸びる。手の平を向けている者はメイドだった。車の中から銀髪赤眼のメイドが、否……アインツベルンに生み出された戦闘用人造人間が、殺意と共に圧倒的な奔流と化した魔術を行使する。

 

「……――――――」

 

 標的はデメトリオ・メランドリ。対魔力を持つライダーでは無く、殺し易いマスターを狙った騙し撃ち。

 ―――摂氏三千度を上回る火炎塊の放射。

 単純な火の魔術とは言え、使用された魔力量と概念の重さが通常の魔術師では考えられない。明らかに何かしらの細工が施された理論によって、この炎は運営されている。なにせ無詠唱で放たれた上、人間をそのまま蒸発させる火力となれば見た目通りの神秘で無いと直ぐに理解出来る。

 その火炎がデメトリオを焼き殺す。火に直接触れずとも空気を通し、灼熱が皮膚を焦がす。それに対し、彼は腰に下げていた荷物を瞬時に取り出して構えた。抜き身の両刃刀剣が、鋭い剣気を纏っていた。

 

「火か。スタンダードな魔術だ」

 

 ―――デメトリオは容易く切り裂いた。

 だが、ただ斬っただけでは、魔術で生み出された火炎の勢いは消えない。ならば斬撃一つで火の群れを消し去る技量は、既に人間の領域では無くなっていた。

 

「素晴しい火力よ。お主以上に魔術が巧いようだな、あの給仕は」

 

「だが、マスターでは無い」

 

 運転手とメイド。そして、後部座席には一人の男が座っているのが見える。気配からして後ろに座る男が、彼女らが召喚したサーヴァントだと確認出来た。

 その車に乗る三人が降りる。

 運転手の女は意気揚々と敵意を振り撒き、メイドは静かに主人の後ろに佇んでいる。しかし……

 

「―――気分最悪です。

 この乗り物、牛車と比べものになりません。現代怖い」

 

 ……英霊らしき人物の顔色が凄く危なかった。口元を抑え込み、気を抜けば一瞬で形容し難き流体物が溢れ出そうな雰囲気だ。

 

「オイオイ、大丈夫カ? 流石ニソレ、ヤバイダロ」

 

 男と共に後ろの座席に積み込まれていた剣が、当たり前のように声を発していた。その剣は今にも吐きそうな彼を心配しつつも、手足の無い剣では身動き出来ないので外へ出るのを手伝って貰っていた。魔剣がキャスターからエルナに渡るが、キャスターは蒼白い顔のまま自分のマスターの方を向く。

 

「どうぞ、マスター。クノッヘン、をぉ……―――」

 

「ああ、すまない―――で。お前、ホントに大丈夫か?」

 

 自分のサーヴァントから武器を手渡された運転手の女、エルナスフィールがキャスターを心配する。ツェツィーリエは敵の前だからか無表情のままだが、雰囲気を見るにキャスターを凄まじく心配しているようだ。彼女は素早いが慌てない雅な動作で、彼の背中を優しく撫でていた。

 

「ぎゃ―――」

 

「……ぎゃ?」

 

 自分のサーヴァントの不可解な言葉に首を傾げる。鉄塊の如き巨大な魔剣であるクノッヘンを右手だけで持つエルナは、初めてキャスターが弱っている所を見る。もっとも、これ程車酔いが酷いとは思わず、今から敵と戦えるのかとかなり心配していた。

 

「―――逆流……しそうです」

 

「………………………マジ?」

 

 このまま斬り掛ろうか、と凄くデメトリオは悩んでいた。深く深く何処までも迷い、その思考回路の結果、こんな不意打ちで戦争に勝利する騎士の無様さを笑い、今は警戒だけに留めて置いた。

 ……後、どうしようもない嫌な予感が、彼の足を止めているが一番大きい理由であった。巧妙に隠されているが、魔力を使って眼を凝らせば狂った理論で構成された術を盗み見する事が出来る。ライダーもライダーで敵の隙を窺っているが、あのキャスターの周りに尋常ではない魔術障壁が展開されるのを見抜いていた。今は出ていないが、自動的に稼働する厭らしい術式がサーヴァントを中心に渦巻いている。

 

「ツェ、ツェ、ツェリ!? どうすんのこれ!!」

 

「喉に指を入れましょう。苦しいのでしたら、楽にさせるのが一番だと思われます」

 

 ―――瞬間、三人へ同時に斬撃が奔った。

 デメトリオもライダーもその場から欠片も動いていない。何一つ怪しい動作をしていない。なのに、エルナとツェリとキャスターの首を落さんと目視不可の刃が躍った。

 

「―――危な!

 これ一体どんな魔術だ? この私がまるで理論が分からない何て、全くどんな細工を魔術に施してるんだか。

 ……わかる、ツェリ?」

 

 首に奔る斬撃をエルナは左手の義手であっさりと防いだ。

 

「皆目見当もつきません。ワタシの知識にも見当たらない神秘のようです。しかし、キャスターならば分かるでしょう」

 

 ツェリはその攻撃を体を屈めて避けていた。ついでにと、キャスターの頭も掴んで同時に回避させていた。サーヴァントであるキャスターならば簡単に避けられていたとツェリも分かっていたが、それでもメイドの習性として彼を守る為に体が勝手に動いていた。キャスターもキャスターで、彼女に逆らうこと無く攻撃を避ける事に成功している。

 ……キャスターは自分が斬られる瞬間でも身動きしなかった。死を確かに見ていたのに動かなかった。

 それはツェリを信頼していたからと言うよりかは、まるで自分が死なない事が分かっていたかのような無動作だ。まるでじっとしていれば、自分が攻撃を受けない事を知っているかのような、冷静過ぎる対処の仕方。

 

「私の目で見たところ、どうもアレは魔眼に一種ですかねぇ……っうぷ。

 斬撃だけを現象として引き起こす何て、不可思議多い神秘の中でも非常識極まります。実体による切断では無く、意識に染み込んだイメージを目を通して世界に投射するとはまた、何を鍛えれば其処まで……」

 

 フラフラと誰も居ない密室で独り言を呟くように、キャスターは敵の攻撃を見破っていた。

 ―――魔眼の斬撃は極悪だ。

 まず、見えない。そして、無拍子で遠隔から斬り殺す。つまり、対策が不可能なのだ。見られているだけで、常に命を握られている。

 デメトリオは黒い瞳を更に暗く闇に染め上げ、奈落の視線をキャスターに向けた。

 

「……無駄ですよ」

 

 キャスターが後方に下がった直後、脳天から胃まで伸びる縦切りが通った。背中をツェリに摩っていた貰った御蔭か、酔って失っていた気力も治り始めていた。

 

「実に素晴しい異能なのでしょうけど、不意打ち、騙し打ちでしか通用しませんね」

 

 忌々しい、と純粋にデメトリオは内心で吐き捨てた。

 魔力の流れ、視線の動き、気配の濃さ、そして何よりも凶悪なまでの殺気の凝縮。魔眼の力を使うには圧倒的なまでの集中力を必要となり、一般人が向けられただけで意識が消失する程の威圧感。下手をしなくとも発狂死する圧迫感。

 ただの魔術師程度ならばあっさり斬り殺せ、武人でも魔力を察知出来ぬなら簡単に斬り殺せる。故に回避するには、剣閃の軌道から体を動かすか、不可視の刃の軌道上に障害物を置けば良い。

 とは言え、理屈通りに対処出来る攻撃では無い。魔眼を回避する為にはサーヴァントクラスの危機察知能力と、危険回避能力が要る。

 ならば、こうも簡単に避ける為に要るのは、ライフル並の銃弾を目視してから回避する身体機能と、音速以上の速度で稼働する魔力を感知して反応する超感覚。そして、刃の軌道から逃れる為に肉体を的確に動かす技量が重要となる。その三つを揃えなければ、魔眼の前では無力な獲物に成り下がる。そして、これら三つを十分に鍛え上げていようとも、どれか一つを使えない状況に追い込まれれば殺される。

 

「―――正面からでは無理か」

 

 死徒を見るだけで殺せる異能。これで殺せないとなれば、ここに居る者全員が規格外の化け物だらけ。敵から見えない位置から強襲する暗殺ならば通じるかもしれないが、どうも気配を消すのは苦手だ。そもそも索敵能力が戦争に参加している人間は可笑しい。暗殺を警戒している超常の化け物相手に、先手の奇襲を仕掛けるのは難しい。自分を殺そうとする相手に慢心や油断をする間抜けなら兎も角、この手合いを殺害するのは実に困難。

 今のままでは敵に魔眼は通じない。

 この能力(チカラ)の真髄は、まだまだ隠しておくことに決めた。

 

「……では、始めるか」

 




 マスター最後の一人、デメトリオ・メランドリです。彼が聖杯戦争に参加した因果は色々とあるのですが、しっかりと後で説明出来るようにしたいです。
 読んで頂き、ありがとうございました。

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