ブラック・イーター ~黒の銃弾と神を喰らうもの~   作:ミドレンジャイ

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第7話 召集

雲一つない爽やかな朝。

外では雀たちが朝の到来を告げるように五月蠅いほど囀っている。

そんな中、ボロアパートの一室では最早犯罪者の様に酷い顔になっている蓮太郎がいた。

原因は延珠だ。

入浴も食事も終わり、延珠に浸食抑制剤の注射も行い即座に寝ようとした。

それがお気に召さなかったらしい。

別に夜更かしして遊ぼうとかそう言う子供っぽい理由からではなく、マセた子供は夜のウルトラファイトを受け入れてやると宣言してきた。

そんな冥府魔道はまっぴらなので断ったら下の階の住人が怒鳴り込んでくるまで盛大に暴れまわったというわけだ。

お蔭で睡魔と頭痛がひどい。

もうこのまま学校バックレようかなと半ば以上本気で考えていると――

 

「蓮太郎喜べ!大家さんが自転車を貸してくれたぞ!」

 

延珠に逃げ道を封鎖される。

因みに自前の自転車は昨日の事件の時に乗り捨ててしまって今は無い。

溜息を吐きつつ学校へ行くべく支度をする蓮太郎であった。

 

 

 

 

 

 

延珠を勾田小学校に送り届けそのまま自分も高校に着いた。

ぶっちゃけ帰りたかったが『契約』もあるので渋々校舎に入っていく。

そんな蓮太郎は当然授業など真面目に聞くつもりは毛頭ない。

現国は寝て過ごし、数学は先生の名指しを全てガン無視。

挙句休み時間に入ると小動物系の学級委員が自分だけ書いていないアンケートの催促に来たが無視し、彼女が涙目で帰ると友人なのだろうお節介系女子が叱ってくるがこれも無視。

自分を非難しながら帰っていく女子の声を聞きながら蓮太郎は窓の外をみる。

遥か遠くには巨大な『モノリス』が見えた。

ガストレアは黒い特殊な金属『バラニウム』を極度に嫌う。

このバラニウムに囲まれた部屋に放り込まれると衰弱して死んでしまう程に。

またガストレアの再生能力を阻害する効果もある為、民警の所有する武器はほぼ全てがバラニウム製だ。

昨日蓮太郎がガストレアに向けて放った銃弾もバラニウムが使われていた。

兎に角この金属は様々な物に加工され今の世の中で使われている。

その最たる例が『モノリス』だ。

縦1.618km、横1kmの超巨大金属塊を人の住むエリアを囲むようにして配置し、発生する磁場を用いてガストレアを近づかせない結界としている。

だが偶にだがその結界を抜けてガストレアが侵入する為、民警がそれを駆除するわけだ。

ぼんやりとしながらモノリスを眺めていると不意に携帯が鳴った。

ディスプレイを見て出たくないと思うが切れる様子がない。

根負けして通話に出る。

 

「こんな時間になんだよ社長」

『仕事以外で社長呼びは止めて』

「仕事じゃねぇの?」

『仕事よ』

「じゃあいいじゃねぇか」

『とにかく事情を話すから一緒に防衛省まで来て』

「は?」

 

今社長はなんと言った?防衛省?日本の国防を担うあの―?

 

「お、おいアンタ何言って……?」

『窓の外を見て』

 

言われるままに見ると黒塗りのリムジンが止まっていた。

どうやら逃げられないようだ。

 

「チッ、分かったよ行くよ」

「遅いわ。もう後ろにいるもの」

「うおっ」

 

驚いて後ろを振り返ると既に木更がそこにいた。

 

「さ、行くわよ」

 

 

 

 

 

 

昼下がりの官庁、そこに蓮太郎と木更はいた。

今は目的の階に向けてエレベーターで移動中だ。

 

「で、なんでリムジン呼んどいて移動は徒歩と電車なんだ?」

「お金取られたくないもの」

「おいニセお嬢、なら何で呼んだ?」

「私は『天童』よ?その私が移動に徒歩なんて周りに見せられるはずないじゃない」

 

ようは壮絶な見栄っ張りの様だ。

 

「はぁぁぁぁ」

「何よその溜息」

「いや何でも。…そういや延珠は連れてこなくて良かったのか?」

「戦いになるわけじゃないもの。むしろ延珠ちゃんは眠くなるような話ね」

 

そんなことを話しているとちょうど目的の階に着いた。

第1会議室と書かれた扉の前に立ち、木更の代わりに扉を開ける。

蓮太郎は息を飲んだ。

開いた先の空間の広さにではない。そこにいた人間の数とその職業が問題だっだ。

 

「木更さん、こいつは…」

「ウチだけが呼ばれたんじゃないとは思っていたけどこれほどとはね…。流石にここまで同業者が呼ばれているとは思ってもみなかったわ」

 

中にいたのは2種類の人間。

1つはパリッとした仕立ての良いスーツに袖を通した人たち。

恐らく全員が民警の社長格だろう。既に用意された椅子に座っている。

もう1つは見るからに荒事専門といった厳つい人たち。

服装はバラバラで、同じくスーツで髪型までワックスでピシッ決めている者もいれば、パンクな格好の金髪グラサンまでいる。

彼らの傍にはイニシエーターと見られる少女たちも幾人か見られた。

本来なら十分な広さを持っているだろう会議室が手狭に感じるほど民警が詰めかけていた。

 

(こんだけ大がかりな場を用意して一体何があるってんだ?チッ、良い予感はしねぇな……)

 

一歩、会議室の中に入る。

その瞬間、中の雑談がピタリと止み、殺気の籠った視線が突き刺さる。

 

「アァ?おいおい最近の民警の質はどうなってんだ、ガキまで民警ごっこかよ。社会科見学なら黙って回れ右しろや」

 

一人のプロモーターと思われる大男が威圧しながら近づいてきた。

鍛え上げられた筋肉がタンクスーツの上からでもよく分かり、頭髪は本人の気性を表すかのように荒々しく逆立っていた。

顔を髑髏模様入りのスカーフで隠し、迫力のある三白眼で値踏みするように睨んでくる。

背中にはバスターソードと言うバラニウム製の巨大な黒い刀剣を背負っている。

アレを自在に使いこなせるなら相当の猛者だ。

正直おっかないが木更を庇うように前へ出る。

だが、男はその行動が気に食わなかったらしい。

 

「あぁ?」

「アンタ何者だよ、用があるならまず名乗――」

 

ガンッ!!

 

突如として顔面に鈍い衝撃が走る。どうやら頭突きをかまされたようだ。

吹き飛ばされ背中から倒れるも、蓮太郎は顔を押さえながら即座に跳ね起きる。

ベルトに挟んであったXD拳銃に手が伸びる。

 

「カカ、バァーカ、何熱くなってんだよ。挨拶だろ?」

『ヒュー、モロだぜモロ』『わ~痛そう~!』『あんなのも避けられないとか程度が知れるね』『所詮ガキってことだろ』『馬鹿が、雑魚はとっとと帰れよ』

周りはこちらを嘲笑ように囃し立て失笑した。

 

(この野郎ッ……!)

 

一瞬状況を忘れて本気で拳を構えそうになる。

 

「里見君、こんなのに構っちゃ駄目よ、目的を忘れないで」

「あぁ?!今何つったよクソアマ!!」

「やめたまえ将――」

 

この男の所属しているであろう会社の社長が静止を掛けるがその前に事態が唐突に動いた。

 

 

ドゴォッッッ!!

 

 

先程蓮太郎が食らった頭突きよりも、なお重く凄まじい音が響き渡った。

目の前の三白眼の大男からだ。

もっと正確には下半身。

大男の股間から響いていた。

 

「……………………………………………………………………………………………………………」

 

一言も発せずに崩れ落ちる大男。そのままピクピクと痙攣している。

シンっと静まり返る会議室。

何が起こったか分からず呆けているようだ。

だが蓮太郎は見た。

崩れ落ちる寸前、大男の股間が何者かに後ろから蹴り上げられるのを。

 

 

 

 

「民警の挨拶って変わってんのな。まさか一発かますところから始まるとは」

 

 

 

 

その後響いたのは何処か気の抜けた少年の声。

その声はつい最近、と言うより昨日聞いたものだった。

 

「お、お前……」

「おっ、また会ったなロリコン民警」

 

神斬ジンがそこにいた。

 

 

 

 

 


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