ブラック・イーター ~黒の銃弾と神を喰らうもの~   作:ミドレンジャイ

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第4話 出会い

「おうガキんちょ、大丈夫か?怪我はねぇな?―よしよし、特に無し。服の汚れはまあ、ママに洗ってもらえ。ちびってても許してくれんだろ!」

その男は子供の安否を確認しながら乱暴に頭を撫でまわしていた。

パッと見、年齢的には恐らく蓮太郎とそう変わらないだろう。黒髪は適度に切り揃えられ耳が隠れる程度まで伸ばしている。

コートの内に暗い水色のインナーシャツを着ていることを除けば、服装も蓮太郎と同じように黒で統一されている。だがこちらはどちらかと言うと軍服のようなものを想起させる。

背丈も筋肉もそう目立ったものは無い。至って普通の少年のように見える。

 

 

――そのままガストレアに刺さっていた電柱を素手で引っこ抜いたりしなければ。

 

 

 

一頻り子供の頭を撫で終えると周りの視線をガン無視したまま、何を思ったのかその血塗れの電柱を持ったまま移動し、道端の一端に突き刺した。

もう何が起こっているのか分からない。

最初に我に帰ったのは延珠だ。軽く顔を引き攣らせながらも訊ねる。

 

「……な、何者だ、お主?」

 

すると、良い汗かいた的な爽やかな笑顔を浮かべていた少年はこちらに振り向く。

 

「おぅ?なんだ、さっきの飛び蹴りのチビか。そういうことを訊く時はまず自分からだぞ?」

 

カチンッ

 

「チビではないっ!妾は藍原延珠!蓮太郎の相棒にして将来を誓い合った”ふぃあんせ”だ!!」

 

堂々と宣言する延珠。ガキ扱いは許容してもチビは駄目らしい。

 

「お、おい延珠!なんだ将来を誓い合ったフィアンセってのは?!」

「無論、妾と蓮太郎のことだ!」

「そんなもん誓った覚えは無ぇよ!!」

 

少年を放ってギャーギャー騒ぐ蓮太郎と延珠。

それをしばらく眺めていたかと思うと、不意に少年の眼が怪しく輝き、口元がニィッと悪い笑みに歪む。

 

「ほうほう成程ふぃあんせか~へ~ふ~~ん」

「あっ!!お主、さては信じておらんな?!」

「信じさせなくていい!!」

 

わざと馬鹿にしたような口調で延珠を煽る。

 

「だ~ってな~、こ~んなチビがふぃあんせ~とか言っても~信じらんねぇ~しな~」

「ぬぐぐぐぐっっっ!!!」

「ど~しても信じて欲し~なら~、それなりのモノ示してもらわね~とな~」

「舐めるなっ!妾と蓮太郎に不可能なことなど無いっ!!」

「おい?!」

 

その言葉を聞いた瞬間、蓮太郎の背筋に仮面の男の時とは違った悪寒が走る。

少年は更に口元が裂けるように笑みを深くしながら言う。

 

「ならそうだな~、じゃあまずはその蓮太郎ってやつの格好いい所を教えてよ、大声で♪」

「?!」

「ふふん、そのくらい楽勝だぞ!よく聞くがいい、まずは―――」

 

そこから始まったのは延珠による蓮太郎の自慢話。

所々誇張表現があるものの殆ど全て実話なのだろう。

毎日おいしい料理を作ってくれる、学校まで自転車で送ってくれる、風呂上がりの髪を乾かしてくれる、等々。

極め付けは自分たちが正式にパートナーとなった切っ掛けの話だろう。馬鹿でかいガストレアから自分を守りながらパートナーになってくれと言ってくれたこと、お祝いに可愛い服をプレゼントしてくれたこと。

傍から聞いていれば微笑ましいことこの上ないのだが、当事者からすれば堪ったものではない。

なにせここには蓮太郎と延珠以外もいるのだ。面と向かってでも恥ずかしいのに、初対面の人間に大声で語っている。

見ると少年だけでなく多田島や、心なしか助けられた子供までもがニヤニヤしている。

蓮太郎の顔は既にありえないくらい真っ赤になっていた。

 

「それから他には―」

「も、もういい延珠…止めてくれ……本当に、マジで…」

 

精神的にズタボロになった蓮太郎がストップをかける。

延珠的には物足りなかったが、多少満足したので大人しく引き下がった。

それに安堵した蓮太郎だったが、責め苦はまだ終わっていなかった。

 

「クッ、クク…お、オーケーオーケー、よく分かった」

「なら!!」

「でもな~、やっぱりこれだけじゃ~な~」

「ぬぅぅう!まだ認めぬのか!」

「大丈夫大丈夫、次のこれをやったら殆ど認めてあげるから。教えてあげるからちょっとおいで」

「?」

 

素直に少年の元まで歩く延珠。

蓮太郎はまだ精神的ダメージから回復せずその場でorz状態で固まっていた。

少年に耳打ちで何事かを吹き込まれた延珠はと言うと

 

「ふっふ~ん!!それこそ楽勝なのだ、よ~く見ておれよ!」

「プッ、クククク…!あ、ああ…ククッ、よ、よ~く、ックク、み、見てるよ…」

 

笑いを堪える少年を置いて延珠は蓮太郎の元まで戻ってくる。

そしてクイクイっと蓮太郎の袖を引く。

 

「ううぅぅ…なんだよ、まだ何―――」

 

 

チュッ!

 

 

顔を上げた蓮太郎は素早く首に手を回され、不意打ち気味に唇に軟らかい感触を押し付けられた。

硬直していると延珠はパッと離れて、両手を後ろに組んではにかんだ。

 

「お、おま、な、何して…」

 

自分でもさっき以上に頬が赤くなっているのが分かる。

 

「なんだ、もっとしたかったのか?蓮太郎にならもっと凄いことをしてやっても良いぞ?」

「バ、バカッ!冗談でもンなこと言うんじゃねぇ!!誤解する奴がいたらどうす―――」

「………いい趣味してんじゃねぇか豚野郎」

「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!」

 

もう場は混沌の一言だった。

脂汗と冷や汗を同時に大量にかく蓮太郎。

ジト目で手錠(素敵なブレスレット)片手に蓮太郎に迫る多田島。

ニヨニヨ笑いながら蓮太郎の傍から離れない延珠。

盛大に爆笑を続ける少年。

顔を真っ赤にして硬直する子供。

 

「ちょうどこの近辺で最近少女に悪戯する馬鹿がいてな?身長はお前くらいで、体重はお前くらいなんだが……どう思うよ?」

「ざ、ざけんな。誤認逮捕は警察の威信に関わるぜ?!」

「詳しい話は署でしてもらおうか」

「こ、この野郎っ!え、延珠っ!お前からも何か言ってくれ!!」

「とても他人には言えないような深い仲だ」

 

ジャキッ!!パンッ!

 

「うぉい?!ガチで発砲してんじゃねぇよ?!」

「黙れ変態ロリコン野郎!この場で俺が裁きを下してやる!」

「こいつはただの居候だ!!」

「夜は毎日凄まじくて寝かせてくれないのだ。涙目になってもお構いなしなんだぞ」

 

パパンッッ!!

 

「うおおぉおぉおお?!お、俺は寝相が悪ぃんだよ!」

「妾の全てを曝け出して見せたのに」

 

パパパパンッッッ!!!

 

「成績の話だぁぁああ!!!!」

 

もはや本気か冗談か分からない勢いで追いかけてくる多田島。

蓮太郎は涙目になりつつ、この騒動の原因を睨む。

 

「て、てめぇ!!何とかしろ!!!」

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!あひゃ、ふひゃひゃひゃ、げほっげ――っほ、ひゃひゃ、ごっほ、ひーひー、あはっ、はひっはひっ、げほげほ、おえ!」

「笑い過ぎだ!!!」

「い、いやだって、ぶほっ、ほほっほ、が、ガチで、ガチでぶほっ!ガチで真正のロリコンが、いるんだもん!!ごふっ、む、無理、もう無理、ぶふっ、もう腹が結合崩壊……ぶはっ!」

 

結局…逃げ回りながら多田島の誤解を解くしか蓮太郎には道が無かった。

 

 

 

 

 

「チッ、お洒落なブレスレットをプレゼントしてやれたのにな…」

「ざけんな!その前にあの世への片道切符を押し売りしやがって!!」

「ひーひー…まだ腹痛ぇ」

「てめぇは反省しろ!!」

 

肩で息をする蓮太郎。色々ありすぎてお疲れの様だ。

そんな風にしていると、ふと延珠の背中に目がいき、息を飲んだ。

背中の皮が捲れて痛々しく真っ赤になっていた。

 

「延珠…お前、その傷…」

「ああ、これか。あの吹っ飛ばされた時のモノだろう」

「おいおい嬢ちゃん、さっさと医者に行った方が良いぜ」

「心配無用だ、この程度すぐ治る。むしろ服を駄目にされた方が腹が立つ」

 

そう言っているうちに治癒が始まった。

みるみる傷が小さくなり、ついには完全に消えた。

横を見ると多田島は小さく口を開いたまま固まり、少年の方も「おお…」と言って驚いている。

 

「ていうか有耶無耶になってるが、お主、結局何者だ?」

 

延珠のその質問にはたと思い出す。

そうだ、元はといえばこいつが何者なのかを聞いていたのだった。

 

「あー、俺?俺はまあ、こういう者?」

 

そう言って少年は右腕を持ち上げて見せてくる。

より正確には手首のあたりに装着してあるものだ。

 

「…!『腕輪』…ってことはお前さん…」

 

多田島が納得のいった頷きを見せる。

そう、この腕輪は『ある者たち』の証明―

 

 

 

 

 

 

「フェンリル極致化技術開発局、特殊部隊『ブラッド』所属、神斬ジン(カミギリ ジン)だ。まあ、『ゴッドイーター』って言った方が分かりやすいか?」

 

 

 

 

 

 

 


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