ブラック・イーター ~黒の銃弾と神を喰らうもの~   作:ミドレンジャイ

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久々に投稿……


第30話 極東支部へ

未織に着いていくことを決めたは良いが、その後は中々大変だった。

 

まず買い物を終えたところであったので、蓮太郎たちは両手に食材を抱えていた。流石にこのまま向かうわけにもいかなかったので、時間的に余裕のある未織に許可を貰い、速攻で家に食材をおいてきたのだ。その際、延珠が能力を解放しようとしていたが、こんなことには使わせられないので即却下した。

 

そのまま未織と合流しようとしたのだが、その前に同じく一旦事務所に戻っていた木更と合流した。

 

 

…重武装の。

 

 

もう一度、あえて言おう。

 

 

重武装の、木更と、合流、した。

 

してしまった。

 

 

防弾チョッキを着込み、右手に抜き身の殺人刀・雪影を携え、左手に景胤に勝るとも劣らないほど禍々しいカスタムベレッタ拳銃、背中に大口径ショットガンを2丁交差するように背負い、果てには色とりどりの特殊榴弾を革ベルトから吊り下げ、装備していた。

 

そんな状態で、人としてアウトな目付きで所構わず殺気を撒き散らすものだから、周囲からは危ない奴を見る目で見られていた。

実際危ない奴なのだが、本人はそんな周囲の状況に気付いておらず、ただただ獲物を狩る目で援軍(蓮太郎たち)を待っていた。

 

正に開いた口が塞がらず、あんなのの知り合いだとは絶対に思われたくない。ふと、隣を見ると延珠もティナもドン引きしていたので、この思いは自分だけではないようだった。

 

とはいえ、何時までもドン引いているわけにも行かず、渋々ではあったが木更と合流を果たした。

 

未織の所に行くまでに何故そんな格好をしているのかと問うと、曰く、

 

「里見くんや延珠ちゃんたちだけで、あの腹黒女狐の所に行かせられるわけないじゃない!」

 

「この装備?勿論アイツを確殺する為のものよ」

 

「いい?里見くん。アイツを視界に納められる位に接近したら、まず気取られないように遮蔽物を挟みながら更に距離を詰めるわ。その後確実に当てられる間合いに踏み込んだら、両足を撃ち抜いて逃げられないようにして。恐らくそれでも抵抗してくるハズだから、そこは私がすかさず零距離からショットガンをぶちこんで動きを止めるわ」

 

「え?そんなことしたら女狐(未織)が死んでしまう?何言ってるのよ。いい?アイツは、そんなことで死ぬようなヌルイ奴じゃないわよ」

 

その後も恐ろしい殺害計画を、会社経営時よりも真剣かつ鬼気迫る様で語る木更を蓮太郎は、こりゃダメだ、と半ば諦め、9割以上聞き流しながら道を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

「ハァ……」

 

この溜め息は本日何度目だろうか。

そんなことを考えながら蓮太郎は極東支部への道を歩いていた。

結局、木更をあの状態のまま連れて行く訳にもいかず、3人掛かりでなんとか武装解除したのだが、お陰で未織との合流の時間に間に合わなくなってしまったので、彼女には先に行って貰って、蓮太郎たちはその後を追うという形になったのだ。

 

隣の木更を見るとあの重武装ではなくなったものの、凄まじく不機嫌であることが容易にみてとれる。

どうやら自分以外の3人が結託して反対してきたことが面白くないらしい。

だがあんな状態の人間を引き連れて行ける訳もなく、蓮太郎に一切の後悔は無かった。

……のだが、こうも不機嫌が続き、尚且つそれが自分にだけ向いている(流石に延珠たちに向けるのは大人気無いというくらいの分別はあったらしい)というのは精神的にかなりくるものがある。心なしか先程急遽購入した花束も萎れて見える。

 

「~♪」

「ティナ、さっきから何を聴いているのだ?」

 

蓮太郎が木更による精神攻撃に晒されている最中、鼻歌が聞こえてきたのでそちらを見ると、音楽プレイヤーで再生した曲をイヤホンで楽しんでいるティナの姿があった。

 

「ユノの『光のアリア』ですよ。私、大ファンなんです」

「ユノ?」

「知らないんですか?」

 

何とはなしに聞くと逆に驚いた顔で見返されてしまった。周りを見ると延珠や木更も知っているような顔をしていた。何となく居心地が悪い。まるで自分1人だけが流行に乗り遅れてしまった感じがする。

 

「今、世界で話題の歌姫ですよ。CMとかでもよく出てますよ」

 

ほら、とティナが指差す先の広告用大型ディスプレイには1人の少女が美しい歌声を響かせるPVが流れていた。

 

「…ん?」

 

それを見た蓮太郎はふと疑問の声を上げた。

 

(この子、どっかで見たような…)

 

チクリと記憶を刺激する少女の姿に見入っていると、何を思ったのか延珠がむくれだした。

 

「蓮太郎、浮気はダメだぞ」

「何の話だ一体…」

 

相変わらずの発言に再び溜め息の漏れる蓮太郎であった。

 

 

 

 

 

 

「ここがフェンリル…」

 

蓮太郎たちは今極東支部内にいた。

先に着いていた未織が話をつけてくれたのだろう、巨大な装甲壁のシャッターの前で長々と待つこともなくスムーズに敷地内に入ることが出来た。

支部内に入る前に通った旧外部居住区とそこに住む『子供たち』を見た蓮太郎を除く3人は終始驚きっぱなしのようで、特に延珠とティナはしきりに辺りを見回しては目を見開いていた。

そしてそれは支部の中に入っても終わることは無い。

 

無骨で機能重視の外観。

辺りから漂う土と油の匂い。

使い込まれたソファとデスク。

 

お世辞にも小綺麗とは言い難い。だが、そこには年季の入ったもの独特の趣が存在していて決して不快にはならなかった。

 

延珠たちが未だ呆けている間に蓮太郎は目的の場所を聞くため、受付にいる赤髪の女性に声をかけた。

 

「すみません。ちょっとお聞きしたいことが…」

「はい、何でしょう…、! 貴方は…」

 

受付の女性、竹田ヒバリは微かに驚きの表情を浮かべた。どうやら前回訪れた時に蓮太郎の顔を覚えていたらしい。

一方蓮太郎の方はと言うと、正直直球で聞くのは躊躇われる質問でもあるので声をかけたは良いがどのように質問するかで迷っていた。

どうしたものかと思っているとヒバリの方が蓮太郎の持っている花束に気付いた。

彼女はそれで要件を察したようで、優しくも寂しげな微笑を浮かべた。

 

「…ロミオさんにですか?」

「…はい」

「彼も喜ぶと思いますよ…」

 

先の景胤討伐の作戦では夥しい数の戦死者が出てしまった。

未踏査領域でガストレアに食われた、或いは“仲間入り”した者。

景胤たちに無惨にも殺された者。

そうやって死んでいったのは主に民警だが、その中に1人だけ別の人種がいた。

それは作戦当時、アラガミの乱入による作戦の混乱を防ぐべく戦っていた神機使いの1人。

名をロミオ・レオーニ。

人懐っこい笑顔が印象的で、“呪われた子供たち”からも慕われていた、蓮太郎も好感の持てる青年だった。

 

そんな人物の訃報を蓮太郎が知らされたのはつい最近の事であった。

 

聞いた時は俄には信じられなかった。先の戦いで知り合った黒髪の少年に連絡を取ろうとしても取れず、また蓮太郎の方も色々と忙しくてとても極東支部に来る余裕は無かった。なので今回の未織への同行は渡りに舟と言えた。彼の冥福を祈る為にも直接彼の墓前に花束を届けたかったのだ。

そんな蓮太郎の心中を知ってか知らずか、ヒバリは申し訳なさそうな顔をする。

 

「すみません。今ロミオさんのお墓参りは出来ないんです」

「え?」

「彼のお墓は移動要塞フライアの中なのですが、現在フライアは黒蛛病の研究の為に立ち入りが禁止されているんです」

「そう、ですか…」

 

思わず肩を落としてしまう蓮太郎。それを見たヒバリは慌ててフォローする。

 

「あっ!でももしかしたらブラッドの方々と一緒なら入れるかもしれませんよ」

 

 

 

 

 

 

ヒバリの話を聞いた蓮太郎は延珠たちを伴って旧外部居住区の一角に来ていた。何でもここでブラッド隊の隊長が子供たちの面倒を見ているらしい。

 

「里見くん。ブラッド隊の隊長って確かあの会議でもいたわよね」

「ああ」

「む?どんな奴なのだ蓮太郎?」

「そういや延珠は会ったこと無かったけか。…ん~、俺もそこまで多く接した訳じゃねぇけど、分かってるのは中身も外面もメチャクチャイケメンってことだな」

「あら、嫉妬?」

「違ぇよ!?」

 

クスクス笑いながらからかう木更に思わず大声を出してしまう。だが蓮太郎としも、そう取られても仕様が無いほど彼は出来た人間だったのだ。

 

「確かジュリウス・ヴィスコンティ大尉でしたね」

「知ってるのかティナ?」

「先の聖天子暗殺計画時に、障害となりそうな人物のプロフィールは全て渡されていましたから」

 

思わぬ所から情報が出てきたことに驚く蓮太郎であったが、当のティナは皮肉気に苦笑するだけであった。

 

「渡された資料によりますと確か…彼は児童養護施設“マグノリア・コンパス”を出た後、数年前に同施設の管理者でもあるラケル・クラウディウス博士が創設したブラッド隊に入隊。非常に高い戦闘力と統率力を持つ為十分な注意と万全の備えを怠らないように、とのことでした」

「あのエイン・ランドがそこまで警戒するほどの奴か…」

 

ガストレアの脅威から世界を救うべく結集された世界最高峰の頭脳を持つ4人の天才。

通称『四賢人』。

 

 

日本支部『新人類創造計画』最高責任者 室戸菫教授

 

オーストラリア支部『オベリスク』最高責任者 アーサー・ザナック教授

 

アメリカ支部『NEXT』最高責任者 エイン・ランド教授

 

それらを統括するドイツの最高責任者 アルブレヒト・グリューネワルト教授

 

 

彼らは互いが互いの才能に嫉妬し終始手を取り合うことなく、それぞれが個々人のノウハウを駆使して機械化兵士を作り出した。

 

室戸菫によって里見蓮太郎が。

アルブレヒト・グリューネワルト翁によって蛭子景胤が。

 

そしてエイン・ランドによってティナ・スプラウトが作り出されたのだ。

 

『呪われた子供たち』の能力に更に機械化兵士の能力が加わる。これがどれ程の破壊力を生み出すかは蓮太郎たちが身をもって経験した。

そしてそれは本人であるティナも、ティナを作り出し聖天子の命を狙う指示を出したエイン・ランドも承知のはず。

にも関わらず、これ程警戒するということが間接的にジュリウスの実力を示している。

皆が一様に戦慄する中、ふと蓮太郎は疑問に思うことがあった。

 

ブラッド隊の副隊長 神斬ジン。

 

蓮太郎と幾度となく出会ったあの黒髪の少年も恐ろしいほどの戦闘力を秘めていた。

後で木更に聞いたのだが、景胤との決戦時には腕利きの神機使いが送られるらしかった。そしてそこに送られたのはジン。

事実、彼はその力で景胤たちを圧倒していた。

だが、あの危機的場面ならばジュリウスを送ってもおかしくはないのでは無いだろうか。

彼が隊長だから現場を離れられなかったのだろうか。

それとも……

 

考え事をしているうちに蓮太郎たちは開けた場所に出ていた。

 

 

 

そして、そこに広がっていた光景に目を見開いて絶句する。

 

 

 

見渡す限り辺り一面が真っ赤に染まっている。

その赤い海には大きな物体……動かない子供たちが大勢倒れていた。

その子供たちを庇うような態勢で真っ赤に染まって同じく倒れている青年や少女の姿も確認出来た。

 

 

 

そして…

 

 

 

「ハーッハッハッハッハッハッハッハッッハッハッハッハッハッハ!!」

 

 

 

その中心で、両手を真っ赤に染めた黒髪の少年が天を仰いで高らかに哄笑していた。

 




申し訳ありませんが、まだまだリアルがごちゃごちゃしているため不定期です。
しかし、どんなに時間が掛かっても投稿を止めることはしません。
こんな駄目作者が書いたものですが、どうか長い目で見守って頂ければ幸いです。

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