ブラック・イーター ~黒の銃弾と神を喰らうもの~ 作:ミドレンジャイ
今回の話はプロローグ的なものなのでかなり短めです。
第28話 忍び寄るもの
未那はベッドに寝そべったままぼんやりと病室の天井を見つめていた。
苗字もあったが、親に捨てられた時にそんなものは一緒になくなってしまった。
首をぐるりと左右に回すと、同じようにベッドに横になっていたり、腰かけていたりの違いはあれど、そこそこの広さのある部屋の中は同い年の子で溢れかえっていた。
一応部屋の外に出ることは出来るが、あまり遠くに行くことは出来ない。実質監禁に近い状態かもしれない。
それでもここに来るまでの生活に比べればこちらの方が断然良い。
雨風をしっかり凌げる空間に、温かい寝床と食事。同じ境遇の子がいることで仲間がいる安心感もある。細々とした検査をちょっと面倒だが、その日食べるものを一々街中から危険を冒して盗んでこなければならないことに比べれば、この程度は何でもない。
それでも未那は思わずにはいられない。
(いつ治るんだろう…?)
黒いヘンテコな蜘蛛のような模様の浮き出た腕をしげしげと見つめる。
ここに来る前から『子供たち』の間で聞いていた噂話。
偶に降ってくる『赤い雨』に濡れると悪いことが起こる。
体の何処かに黒い蜘蛛の模様が浮き出た子は暫くするとどこかに消えてしまう。
黒い蜘蛛に触ると自分にも蜘蛛が浮き出てくる、等々。
ここに来るときにニット帽のお兄さんに黒い蜘蛛のことを説明してもらったけど、言ってることが抽象的過ぎてあまり良く分からなかった。その後に会った眼鏡の人も教えてくれたけど、今度は難しくて分からなかった。
分かったのはこの黒い蜘蛛は病気によるものだということ。
治療が凄く難しいこと。
――それでも治そうと頑張ってくれる人がいること。
正直、嬉しかった。
今までそんな風に優しくされたことがなかったから。
特にニット帽のお兄さんは忙しいはずなのに、何かと自分たちの所に来てくれる。触ることは出来ないから流石に一緒には遊べないけど、自分たちの話はきちんと聞いてくれるし、何より笑顔で話してくれるお話がいつもとても面白かった。
でも、最近はあまり来てくれない。
何かあったのかと心配になるけど、検査に来る人たちに聞いても何も答えてくれなかった。
一体どうしたんだろう。今日も駄目元で聞いてみようか。
そんなことを考えていると今日の定期検査の時間になった。
子供の人数に対して検査をする大人の人数が少ないから待つ時間も長いし、検査項目も多いから検査が終わると大体皆ぐったりしてすぐ寝てしまう。
今日もそうだった。
違ったのは眠る前に部屋に人が入ってきたのが見えたこと。
車椅子に座ったその人はとても綺麗な人だった。
まるでお人形さんみたい。未那はそう思った。
でも眠気には勝てなくて、その人を見ているうちにどんどん瞼が重くなっていく。
完全に瞼が落ちる直前に、一瞬だけその人と目が合った。
目が合うとその人はニッコリと薄く笑う。
まるで我が子を見守る母のような笑みで。
まるで獲物を見つめる捕食者のようで。
安堵と若干の恐怖が混ざり合ったまま、未那の意識は落ちていった。
「フフ、可愛らしい寝顔……」
「貴女も、私の『お人形さん』と一緒に遊んで頂戴ね…?」