ブラック・イーター ~黒の銃弾と神を喰らうもの~   作:ミドレンジャイ

26 / 32
祝10,000UA突破!!読者の皆様には本当に感謝が尽きません。
これからも本作をよろしくお願いいたします!!


第25話 決着

「ハァロォ~サイコ野郎、また会っちまったな」

「キミは確か…神斬ジンくん、だったかな」

「お?名乗った覚えはないんだが?」

バラニウムとは違った光沢をもつ漆黒の巨大な刀剣――クロガネ長刀烈流を肩に担ぎ、まるで気負った様子もなくジンは会話を交わす。

時折バリバリと何かを咀嚼する音が聞こえる。

 

「何故ここにいる?神機使い(キミたち)は今回、『混在領域』との境でアラガミを警戒している筈だと思っていたが…」

「おいおい、推測の割には随分と的確な分析だな?」

「ヒヒ、そうかね?」

「…まあいい。ここにいるのはそこで死にかけている奴の上司から連絡があったからだ」

 

そう言ってジンは今尚脇腹に開いた風穴から滾々と血を流す蓮太郎を示した。

菫の病院から出た直後、木更に送られてきた差出人不明の空メール。

それに添付されていた動画には、あの影胤と民警の大規模パーティーとの戦闘の様子が録画されていたのだ。

上空から俯瞰するようなその映像は、影胤が作り出した地獄絵図を映していた。

木更は資料で134位という実力を知っていた気になっていたが、実際にそれを目の当たりにして考えを改めた。

蓮太郎の実力を疑うわけではない。だが、猛烈な不安に駆られたのも事実だ。

かと言って、今の映像を元に聖天子たちに蓮太郎個人へ応援を寄越すよう要請など出来るわけが無い。

ならばどうするか。簡単だ、他の民警(奴ら)以外を頼ればいい。

そう考えた木更はすぐにあるものを取り出す。

それは1枚の名刺。先日の防衛省での会議の席で貰ったものだ。

通話に出た榊博士に状況を簡潔に伝え、早急に応援を寄越してほしい旨を伝える。

しかし向こうも同じく任務にあたっている以上、あまり人員は回せないらしい。

なので、現場に近い位置に布陣し、尚且つ腕利きを1人派遣するということになったのだ。

 

「成程ねぇ…しかし、1つ訂正だ。彼は死にかけではなく、もう間もなく死ぬ」

「俺は自分で死体を確認するまで死んだとは認識しない性質なんだよ」

「ほう?では彼が再び立ち上がるという、ありもしない奇跡に縋ると?」

「生憎とその奇跡とやらを起こす神様を喰らうのが俺の仕事だ。奇跡なんてモンは信じねぇ」

 

言いつつ、長剣を構えるジン。そのまま振り返らず延珠に話しかける。

 

「嬢ちゃん、3分やる」

「え…?」

「そいつを死なせたくなかったら、とっとと叩き起こせッ」

 

その言葉を言い終えると同時にジンは影胤に斬りかかっていた。

神機使いとしての身体能力をフル活用し、凄まじい速度で影胤に肉薄すると無造作に長刀を横薙に振るう。

 

「無駄だ」

 

しかし、その斬撃は真っ向から受け止められる。

長剣は青白い燐光に阻まれ影胤に届くことは無かった。

バリアを何とか貫こうとするが、真後ろから殺気を感じ取り、ジンはその場からすぐに離れる。

直後、先ほどまでジンがいた場所が大きく切り裂かれた。

手応えが無いことに小比奈は舌打ちを1つするとすぐさまジンへ追撃を放つ。

小回りの利く小太刀を片手に追い回してくる彼女に対し、ジンは前回よりはマシだがそれでも若干防戦一方になっていた。

更にそこに影胤による援護射撃まで加わりより状況は悪化してしまう。

それでも被弾せず小比奈を捌けているあたり、彼の実力の高さが伺えるが。

 

「ヒヒヒ、どうしたんだい?動きが悪いじゃないか」

 

余裕で弾倉の交換をしながら影胤は嘯く。

 

「何処か怪我でもしたかい?」

 

そう、最初の斬撃で影胤はジンの不調を見抜いていた。

彼とは前に2回戦ったが、それに比べて明らかに斬撃が弱かったのだ。

そしてそれはジン自身も自覚していた。

『混在領域』付近からここまで短時間で来るのに少々無茶をしたのだ。

故に、ジンは戦いながらも回復錠を服用して傷の回復を待っていた。

 

「まあ、ちぃとばかしな……だが、もう大丈夫だ」

 

小比奈と影胤から距離を取りニヤリと笑って見せる。

そのまま徐に懐から何か丸薬のようなものを取り出して見せた。

 

「現実の人間が漫画や小説の主人公よろしく劇的に強くなる方法って知ってるか?」

「何…?」

「答えはな――」

 

そのまま丸薬を指で上に弾き、口に含んで噛み砕いた。

 

「ドーピングだ」

 

瞬間、彼の体から赤いオーラのようなものが立ち上る。

 

「?!」

 

これには影胤も堪らず目を見開いた。

当然だろう。人の体からそんなものが立ち上るわけが無い。

立ち上ったオーラはゆっくりと収まり、彼の体と神機に纏わりつきぼんやりと発光する。

特に神機はオーラのようなものが纏わりついた途端、まるで歓喜するかのように輝きが強くなった。

そのままジンは半身になると、手前に引いた神機を肩の高さまで持っていき、切っ先を影胤たちに向けるという独特の構え――ゼロスタンスを取る。

すると今度は神機のみに変化が訪れる。

構えた刃部分に黒の混ざった紫電のようなオーラが更に纏わりついたのだ。

離れた位置にいても分かる濃密なプレッシャーに影胤の警戒心は最大にまで高まっていた。

 

「フェンリル極致化技術開発局所属、『ブラッド』隊副隊長 神斬ジン――改めて、参る」

 

瞬間、ジンの姿が消え失せる。

先の延珠と蓮太郎のように、咄嗟に小比奈が影胤を担いで別の大型船に離脱したことで彼らは事なきを得たが、振り返って目を疑った。

つい直前までいた大型船。影胤がいたその位置から船尾にかけてまでが大きく斬り裂かれていた。それは小比奈が切りつけた規模とは比較にならない。

あれは恐らく完全には防ぎきれない。

そう判断した影胤は躱して隙をつく戦法に切り替える。

そう考えていると振り返った先で再びジンの姿がブレる。同時、既に剣の間合いにまで詰められていた。

 

「『イモータル・ウォール』」

 

ジンの斬撃が繰り出される直前、影胤とジンとの間に青白い燐光を放つ分厚い盾が展開される。

通常の斥力フィールドの使用法と異なり、前方方向にのみ斥力を集中させた防御手段。

前方しか守れない上に、斥力場の操作が他よりも難易度が高い為に隙が生まれやすい。

故にいざというとき以外あまり使いたくない技だが、代わりにその防御力は通常のものよりも遥かに上だ。

だが――

 

「ラァァ!!」

 

裂帛の気合と共に振り下ろされた神機は、青白い盾と一瞬だけ拮抗したかと思うとたやすく盾を切り裂いた。

だが影胤にとってはたとえ一瞬であろうと時間を稼げれば十分。

作り出したその一瞬を使い振り下ろされた神機を回避すると、すぐさま小比奈と共に左右からの挟撃に移る。

あの攻撃力を相手に長期戦は不利に働く。故に速攻かつ確実に殺す。

殆ど0距離と言って差し支えない位置から、影胤は漆黒のカスタムベレッタ拳銃―『スパンキング・ソドミー』を構え、小比奈は回避した際の運動量を使い独楽のように高速回転しながら小太刀を水平に振るう。

 

「ヌルイわぁ!!」

 

ジンがそう叫ぶと同時、地面が爆ぜた。

爆心地の中心はジンの神機、地面に振り下ろした状態から『インパルス・エッジ』の反動を利用して無理やり後退したのだ。

爆発の影響で逆に影胤たちは若干体勢を崩してしまうことになる。そしてそれは格好の隙となった。

吹き飛びながらもジンの手がブレたかと思うと、ガシャンという音と共に神機が近接主体から遠距離主体に組み変わる。

今やジンの手元にあるのは長大な漆黒の刀剣ではなく、同色の巨大なアサルト銃だった。

近距離攻撃と遠距離攻撃の両立。これが第2世代以降の神機使いの最大の強みだ。

体勢を整えつつアサルト銃――クロガネ強襲嵐哭を小比奈に照準を合わせ躊躇なく引き金を引き絞った。それに対し小比奈は殺到する弾丸の嵐を再び真っ向から叩き切ろうとして――

 

「よせ小比奈!!」

 

影胤に止められた。

疑問に思うも父が止せというのならそうするべきなのだろう。一瞬でそう判断した小比奈は切るのを諦め回避に徹した。

影胤のこの判断は正解である。何故なら、神機使いが用いる弾丸は正確には弾丸ではなく、高エネルギー状態で射出したオラクル細胞そのものであるからだ。

鉛玉なら蓮太郎の時のように切れただろうが、あらゆるものを『喰いちぎる』オラクル細胞弾(バレット)までは無理だ。

小比奈が銃弾の嵐に晒される中、徐々に彼女と自分の距離が離されていることに影胤はジンが自分と小比奈を分断する気だと気付いた。

そうはさせじと拳銃を向けた瞬間、三日月のように口元が裂けて凄絶な笑みを浮かべるジンと目が合った。

 

「ッ!!『マキシマム・ペイン』!!!」

 

自分の直観に従い斥力場を全開で展開する影胤。

それに対しジンは再び高速で神機を近接形態に戻したかと思うと、徐に柄の末端を手前に引いた。

 

「ヒャァ!!」

 

ギチギチギチギチギチギチッッ!!!!という異音が辺りに響き渡る。

見ると神機の鍔元にあたる部分から黒い筋肉質の繊維が幾重にも飛び出す。それらは徐々に束ねられ折り重なり合い、やがて1つの漆黒の巨大な咢を作り出した。

捕食形態(プレデター・フォーム)

神機(アラガミ)の本質にして真の姿を露わにし、迷うことなくその咢は影胤を喰い殺そうと迫り、青白い燐光が完全に広く展開するよりも早く影胤に喰い付いた。

結果として影胤は神機の捕食口による咀嚼を斥力場で懸命に耐えることになる。

 

「パパァ!!」

 

小比奈はその光景を目にするとまるで弾丸のような速度でジンに向かって突っ込んできた。

だがそれでもジンの笑みは消えない。

小比奈が向かってくることを確認した彼は、影胤をホールドしている神機を「ふんッ!」という掛け声とともに水平に力任せに振り回す。するとどうなるか。

捕食口で斥力場を展開する影胤を咥え込んだままの神機は、それ自体が巨大な鈍器と化した。

ガァンッ!!という衝撃音と共に小比奈は吹き飛び、更に振り回した円運動を継続し丸々一回転するとジンはハンマー投げの要領で影胤も吹き飛ばした。

 

「どうしたぁ、この程度か……グッ」

 

すぐさま追撃に入ろうとしたジンであったが、その場でいきなり膝をついて喀血し倒れ込んでしまう。呼吸もかなり荒くなっていた。

影胤たちは知る由もないが、先ほどジンが口にした丸薬は『強制解放剤』という神機使い専用の装備だ。摂取すると一定時間だけ『バーストモード』という自身と自分の神機のオラクル細胞を活性化させてくれる。その効果は短時間で『混在領域』付近からここまで駆け付けさせ、影胤と小比奈の強力なペアを単独でここまで追い込むほどに肉体等を強化してくれる。しかし、代償として体への負担が大きく多用は出来ないという欠点もある。

また、先ほどまで神機に纏わせていた黒い紫電のオーラもジンの体力の消耗に一役買っていた。

ジンたち第3世代の神機使い、特殊部隊『ブラッド』が他の神機使いと一線を画す戦闘力を有する最大の理由――『ブラッドアーツ』。神機を流れるオラクルの流量の増加によって神機を用いた攻撃行動が瞬間的に大幅強化されるのだ。

用いる神機の近接武器の種類で発現する能力は異なり、同じ近接武器の中でも更に能力は多岐に渡る。

その中でジンが使用していたのは長剣のブラッドアーツ――『無想ノ太刀・黒』。体力を消費する代わりに斬撃の威力を爆発的に増加させることが出来る。

強制解放剤とブラッドアーツ。この2つの併用により今まで突破出来なかった斥力場を斬り裂くことが出来たのだ。だが、ここでそれらの反動がジンを一斉に襲っていた。

いきなり倒れたことに驚く影胤たちだったが、すぐさま好機と見て反撃に出る。

 

「死ねッ」

 

地に伏すジンの元へ小比奈が最速で駆け抜け、今まさに首を落とそうというところで彼女は違和感に気付く。こんな状況だというのに、ジンが未だに笑っているのだ。

その意味に彼女は気付かなかった、気付けなかった。

何故ならその笑みを見た瞬間に、彼女は吹き飛ばされていたからだ。目の前のジンは未だに倒れたままだというのに、彼女は恐ろしいまでの速度で港の方まで吹き飛んでいく。

その光景に影胤は本日最大の驚愕に見舞われた。

小比奈が超速で吹き飛んでいく光景に、()()()()

 

 

 

 

 

「だから、言っただろ?――ドーピングで強くなれるって」

「うるせーよ…」

 

 

 

 

 

彼女を蹴り飛ばしたであろう漆黒の足を戻しながらジンの軽口にそう嘯く少年の姿に、だ。

 

「馬鹿な…キミは、いったい――」

「悪いが、延珠を一人にするわけにはいかねぇんだよ」

 

影胤の呟きに答えともつかない言葉を返す彼は傷だらけであったが、その瞳には闘志が灯り力強い輝きを放っていた。

 

「きっちり3分だ――里見蓮太郎」

 

言いながらジンは立ち上がり、塞がっている腹の傷を小突いた。そう、あの腹の巨大な風穴が塞がっていた。

 

「流石に、マジで死ぬかと思ったがな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの槍で風穴を開けられた時、蓮太郎は間違いなく死の淵に立っていた。目の前が暗くなり寒気に包まれる中見たのは、自分があのまま負けた時、東京エリアがどうなるかという幻だった。

幻の中でモノリスは倒壊し、街は火に包まれ、ガストレアがそこかしこを闊歩していた。それでも生き残った人たちは避難キャンプで傷の治療を施された後、空路で大阪エリアに移送されていた。生き残った人の中には木更と、運よく救助された延珠の姿もあった。

だが、その延珠は蓮太郎の死を受け入れられず、木更の手を振りほどき1人東京エリアに残った。

蓮太郎はどこかで生きている。そう信じて。

否、信じたかった。

本当は分かっていた。もう大切な人がいないと。

蓮太郎の両親が死んだときには周りに木更や菊之丞、菫たちがいた。

なのに自分が死んだ後、延珠の傍には誰もいなかった。

延珠は1人残され、泣いて叫んでいた。

 

1人にしないで、と。

 

いや、それは幻だったのか現だったのか、それすらどうでも良かった。

その言葉を聞いた時、一気に意識が覚醒した。リスクなど考えず、残り4本のAGV試験薬を全て消費した。

骨が軋み、肉が痙攣しながら盛り上がり、血管が沸騰しながら悪寒が体中を駆け抜けた。

肉体の中で細胞の死滅と再生が高速で繰り返され、凄まじい激痛に支配され、絶叫しながら立ち上がった時、腹の傷は塞がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び自分の前に立ちふさがる蓮太郎に、ジンに、影胤は怒りと憎悪を爆発させた。

 

「何故だ…何故だああぁぁぁああぁぁああ!!!」

 

絶叫しながらも的確に銃弾をばらまく。対して蓮太郎は義眼による演算で軌道を見切り、ジンはまだ残る強制解放剤の力で増大した身体能力を駆使して、それぞれ銃弾を避けていく。

 

「何故分からない里見蓮太郎ッ?!今の人間に!世界に!守る価値などないということに!!」

「分かってんだよ、ンなことは…」

 

至近距離まで接近した後、腕部のカートリッジを解放。空薬莢が3つ排出される。

天童式戦闘術1の型8番―『焔火扇・三点撃(バースト)』。

加速した拳が展開された障壁を突き破り、影胤を殴り飛ばす。

 

「だがなぁ、お前の言う『理想の未来』だけは許容出来ねぇッ!!」

 

吹っ飛んだ先では回り込んでいたジンが、黒い紫電を纏う神機を構えていた。

 

「キミもだ神斬ジンッ!!人の為世の為、常に命を懸ける神機使い(キミたち)を周りはどう扱った?!本当にそんな奴らを守る価値があるのか?!」

 

斥力場で形成した鎌で切りつけてくる影胤は奇しくも、あの日蓮太郎にジンが問いかけた問いをそのまま返してくる。

一般人と神機使いとの間には、今も残るとある溝があり疎まれ蔑まれることが多々ある。

守ってきた人間にそんな仕打ちを受けてまで、まだ守る価値はあるのかと。

鎌による斬撃を捌きながらその問いをジンは、「知るか」と一言で切り捨てた。

 

「俺が大切なのは9割(馬鹿共)じゃなく1割(仲間)だ」

 

振るわれる鎌を下から掬い上げるように弾き飛ばし、がら空きになった胴体に回し蹴りを叩き込む。

 

1割(仲間)の為にしか俺は戦わん。他が助かるのはオマケだ」

 

人類全ての為にではなく、本当に大切な人たちの為にのみ動く。

それがあの問いにおけるジンの答えだった。

 

「残念だッ」

 

再び吹き飛ばされ、それを利用して距離を取りながら影胤は銃を乱射するが2人には当たらない。

 

「非常に残念だよ、里見くん!神斬くん!」

 

一足早く距離を詰めた蓮太郎と格闘戦をしつつ影胤は語る。

 

「私とキミたちはッ、根っこの所では同じだと思っていた!だがッ!!」

 

「私が間違っていたようだ」

 

ジンが迫りきる前に蓮太郎を蹴り飛ばし、ジンに当てることで時間を稼ぐ。

 

「最後に言おう里見蓮太郎!神斬ジン!キミたちは弱くなどなかった、私にとっての最大の脅威だ!!」

 

そのまま両手を後ろに引き絞りながら、それぞれの手に斥力場を集中させる。

 

「では、さらばだ!!」

 

直後、影胤の両手よりそれぞれ巨大な燐光の槍が形成され蓮太郎とジンに殺到する。

『エンドレス・スクリーム』の2重発動。

蓮太郎とジンを脅威と認めた影胤が放つ奥の手であった。

対する蓮太郎は腕を引き絞りながら薬莢を排出、爆速のアッパーカット―天童式戦闘術1の型15番『雲嶺毘湖鯉鮒(うねびこりゅう)』にて迎え撃つ。

一方ジンはゼロスタンスの型を取り、神機に黄金のオーラを纏わり付かせる。そのまま神機を大きく後ろに引き絞り、衝撃波と共にあらゆるものを粉砕する突き―『轟破ノ太刀・金』を放った。

 

「ハァァアァァアアアァアアア!!」

「ガアアァアァアァアァアァア!!」

「シャァアアアァァァアアァア!!」

 

槍と拳、槍と剣が衝突し、轟音を撒き散らしながら夜を昼さながらに染め上げる。

凄まじい激突の余波が嵐のごとく吹き荒れる中、一際大きな轟音が響き渡った。

その瞬間、蓮太郎の超音速のアッパーと、ジンの衝撃波を伴う突きがそれぞれ槍を消し飛ばし、アッパーと衝撃波によって影胤は上空高くまで吹き飛ばされた。

 

「里見!」

 

その声に反応するように蓮太郎は跳躍し、横にした神機の刃の腹に乗った。

 

「ラァアアア!!」

 

バースト状態の神機使いの膂力を全開にし、蓮太郎を砲弾のように影胤の元まで飛ばす。

完璧なコントロールで影胤と同じ高さに至った蓮太郎は、体を半回転させて頭を地面に向けながら脚部の薬莢を全てまとめて撃発させた。

黄金の空薬莢がまるで雨のように降り注ぐ中、不意に影胤と目が合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか…私は、キミに…キミたちに、負けた、のか――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「墜ちろ蛭子影胤ッ!!―――『隠禅・哭汀・全弾撃発(アンリミテッド・バースト)』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーバーヘッドキックの要領で放たれた乾坤一擲の蹴りは、影胤の斥力場を突き破り、肺を潰し、肋骨数本をまとめてへし折りながら、彼の体を100m以上も吹き飛ばして海に沈めた。

ジンと、駆け付けた延珠と共に油断なく海面を見据えるも上がってくる気配は無い。

蓮太郎はゆっくりと息を吐きだし、2人に笑顔を向けたが、延珠は未だに目の前の光景が信じられないようでポカンとしていた。

それにクスリとしつつもう1人に視線を向ける。

相変わらずの人を食った笑みを浮かべる少年の目の前まで移動し――

 

パァン!と

 

無言で景気のいいハイタッチを交わし、不器用ながらも互いに互いを、勝利を称えあった。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。