ブラック・イーター ~黒の銃弾と神を喰らうもの~   作:ミドレンジャイ

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第18話 雨の中で

ヘリに乗って暫くすると、窓の外は急な豪雨に見舞われていた。

蓮太郎は今、普通のヘリよりも若干広めに作られたコックピットの助手席に座っている。

隣では前に見たとおりの能面のような顔でヘリを操縦するシエルがおり、蓮太郎の後ろにジン、シエルの後ろに本来のヘリの操縦士がいた。

延珠は更に後ろの搭乗口付近の椅子に座っている。

因みに何故シエルが操縦士の代わりにヘリを操っているのかというと、単純に彼女の方が操縦が上手かったからだ。

彼女曰く、『幼少の頃から他にも色々叩き込まれましたので問題ありません』らしい。

それで本職よりも上手いのだから彼女のスペックの高さが窺える。ただ、心なしか本来の操縦士は若干涙目だ。

窓の外に注意を払いながら蓮太郎は携帯で通信を行っていた。相手は木更だ。

 

「それで木更さん、これはいったいどういう状況なんだ?」

『感染源が発見されたのよ。場所は32区よ』

「32区?なんでそんな離れた場所に……」

『聞いて驚いて。なんとそのガストレア、空を飛んでいるようなの』

「は…?」

 

何かの聞き間違いか?

感染源は蜘蛛のガストレアのはずだが…。

 

「蜘蛛が空を飛ぶなんてあり得るのか?」

『そんなのこっちが聞きたいわ。とにかく現場に急いで。他の民警も感染源を狙っているわ。でも、天童民間警備会社(ウチ)が一番乗りよ。と言うより、絶対に一番に目標を仕留めるのよ、里見くん。そのヘリ借りるのに来年分の学費つぎ込んじゃったんだからね、手柄を取られたら私中退よ!まったく、同盟組んだんだからもうちょっと良心価格でも良いじゃないの…』

「聞こえてんぞ天童社長」

『うにゃっ?!』

 

スピーカーモードだったので後ろまで聞こえていたらしい。

後ろからジンが手を伸ばしたかと思うと携帯を取られてしまう。

 

「同盟は確かに組んだが、こっちには通常業務(アラガミ討伐)があるんだ。ヘリなんざいくらあっても足りねえんだよ。そんな中でアンタが『一番性能の良い奴を貸してちょうだい』、なんて言うからわざわざ極東支部の中で一番足の速い奴をチャーターしたんだ」

『そ、そうだけど……もうちょっと負けてくれたっていいじゃない!』

「このヘリはそんじょそこらのヘリよりも圧倒的に性能が上なんだぞ。あれ以上値を下げられるわけねぇだろ。そもそも、値段も聞かずに交渉を打ち切るアンタが悪い」

『うっ……』

「まあ、その手の悪い金貸しの餌食になる前に経験出来て良かったじゃねぇか。ちと高い勉強料だと思って諦めるんだなファハハハハハハ!」

『きいぃぃぃぃ!!ムカつくぅぅぅ!!!』

 

後ろから聞こえてくる会話に頭が痛くなってくる蓮太郎。

どうやらウチの会社員は、大体後ろの少年が天敵らしい。

 

『はぁ…はぁ……と、とにかく里見くん、そういうことだから頑張ってね!』

「あ、おい木更さん?」

 

何がそういうことなのか分からないが通話が切れてしまった。

聞こえてくるのは虚無感の漂う不通音のみだ。

思わず溜息を吐いていると――

 

「あれはなんでしょうか…?」

 

ヘリを操縦しているシエルが何かを発見したようだった。

彼女が示す方向に蓮太郎とジンは共に目を凝らす。

見えたのは空中に浮かぶ真っ白い二等辺三角形状の物体だ。

簡単な紙飛行機を作って上から見たらあんな感じだろう。

尤も、その紙飛行機はあんなに巨大ではないし、薄らと8本脚の影が透けたりもしない。

 

「なんだありゃぁ…」

「蜘蛛のパラシュート……そういうことか、あれを追ってくれ!」

「蓮太郎さんはあれが何か分かるのですか?」

「ああ、()()が感染源だ。旧南米だかに蜘蛛の巣をパラシュート状に編んで、風に乗って旅する小蜘蛛がいるんだよ。ただ、アレは何だか知らんがパラシュートじゃなくてハンググライダーを編んでやがる…あんなモン見たことも聞いたことも――」

 

自分で言っているうちに先日の菫の講釈が思い出された。

 

「成程…進化の跳躍(オリジナルなユニーク能力)、ね。道理で目撃報告も無いわけだ、あんな能力を持った蜘蛛の成体なんて世界中探しても存在しねぇからな」

「アラガミも大概だが、ガストレアも中々舐めた能力を持ってんな」

「どうしますか?」

「高度を下げながらスピードを合わせて、上空から追跡してくれ」

「分かりま――」

 

ゴォンッッ!!

突如として暴力的な音と共にヘリが大きく揺れる。その拍子に蓮太郎は大きく頭をぶつけてしまった。

 

「ッテェな、何だ一体?!」

「後ろのドアがこじ開けられました。やったのは貴方のお連れです」

「は?今は飛行中だろ、なんのつも――」

 

言いかけて延珠の意図に気付き、背筋が凍った。

 

「延珠、待て!!」

 

蓮太郎の静止の声も虚しく、高高度から延珠が頭から落下するのが見えた。

物理法則に従いグングンと落下の速度は増していき、まるで流星の様にガストレアのハンググライダーに激突した。

流石に死角からの襲撃には対応できなかったようで、ガストレアは延珠と一緒に下方に見える森へと落ちていった。

 

「高度を下げてくれ、早く!!」

 

シエルの対応は素早かった。

急激な動きで高度を下げたためにバランスを崩すが、それを気にすることも無く下に降りるための方法を模索する。

咄嗟に目に入った荷造り用のビニール紐で何とかしようとするが、その前にジンに肩を掴まれた。

 

「離せ!!」

「落着け馬鹿!」

「落ち着いてられるか、早くしないと延珠がっ!」

んなモン(ビニール紐)使ったって途中で強風に煽られて投げ出されるのがオチだ!10秒で良い、待て!」

 

そう言うとジンは蓮太郎の襟首を引っ張り、ヘリに格納してあった自分の神機を手に取った。

そしてそのまま蓮太郎を右手で小脇に抱え、左手で神機を持ち、延珠が飛び出ていったドアの前に立つ。

 

「お、おい、一体何を――」

「ジン、何をするつもりですか?!」

「シエル、お前は操縦を交代して上空で狙撃銃(神機)を構えて待機。俺たちの位置を補足しつつ、もしもの時は援護してくれ。問題ないようだったらこちらから連絡する。これは副隊長命令だ」

 

それだけを告げるとジンは蓮太郎を抱えたまま、空へと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

「うおおおおぉぉぉぉぉおおおぉぉおお?!?!」

 

絶叫が迸る中、一塊の影が森の中へと凄まじい速度で落下していく。

ズドンッ!!という轟音と共にそれは地面に着地した。

音の発信源はジン。ヘリから垂直に落下した彼は、自分の他に蓮太郎と自分の神機を持った状態で空中に身を躍らせたのだ。

普通の人間なら良くて重症、下手をすれば死んでもおかしくないような行為だが、ゴッドイーターとしての身体機能と彼自身の技能によって落下の衝撃は最小限まで抑えられた。

小脇に抱えられたままの蓮太郎は堪ったものではなかったが。

 

「が、はっ…し、死ぬかと、思った……」

「あのままビニール紐で降下するよりは断然生存率は高ぇーよ」

 

相当な高さから落下したというのに、着地した当人はなんでもないかのようにケロっとしていたのが蓮太郎には驚きだった。

だが、そんな驚きに呆けている間もなく、どこからか戦闘音が聞こえてくる。

蓮太郎はジンと顔を見合わせると水煙で視界が悪い中、音のする方に向かって走り出した。

地面は雨でぬかるみ、服も水を吸って重かったが気にすることなく進んでいく。

やがて小高い丘を登りきったところで、眼下で件の戦闘が繰り広げられていた。

だがその戦闘は一方的な物であり、もう終わるところであった。

空を飛ぶために極限まで減量したモデル:スパイダーが、その細く鋭い8本の脚で巧みに刺突を放つが、延珠にはかすりもしない。

力を開放した延珠は相手の攻撃を全て見切っていた。

刺突を掻い潜り、懐深くに潜り込むとバラニウムを靴底に仕込んだ蹴りを真上に向かって放つ。

モロに蹴りを喰らったガストレアは、顎を牙ごと砕かれながら上へ吹き飛び、轟音と共に地面に落下した。

ガストレアはピクリとも動かない。どうやら完全に息絶えたようだ。

 

「蓮太郎っ」

 

こちらに気付いたようで、延珠はこちらに走り寄ってきた。

 

「蓮太郎、やったぞ。倒したぞ、妾たちが一番乗りだ」

 

笑顔で告げてくる延珠。だがその笑顔は傍から見ても無理をしていると分かった。

 

「延珠…」

「凄いだろ蓮太郎、妾が一人で倒したのだぞ」

「ああ…」

「妾は東京エリアの皆を護ったぞ…ッ」

 

 

 

 

「学校の皆を、護ったぞ……ッ!!」

 

 

 

 

そこが限界だったのだろう。

目に溜まっていた涙は滴となって頬を伝っていく。

堪らず延珠を抱きしめていた。

蓮太郎に抱きとめられながら、延珠は涙声で問い掛けてくる

 

「わがらないのだ…いぐら考えても、わがらないのだ………。妾がいぎつぐ先はガストレア(アレ)なのか…?友達も作らず、ずっど、一人なのか…?ぞれでも…ぞれでも、妾は、た、ただがい続けなければいげないのか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺がいる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付けば言葉を発していた。

 

「今は戦うしかないかもしれねぇ、居場所が『何処』かも分からないかもしれねぇ。でも!」

 

先ほど出なかった答えが、すんなりと出て来る。

 

「俺は、お前と一緒にいるから!世界がお前を受け入れるまで、お前を導いていきたいと思ってる!現在(いま)も、未来(これから)も、俺はお前と一緒に歩いて行きたい!お前は――どうしたい?」

「……一緒に、いきたい!!」

「なら、もう大丈夫だな?」

「うん。――蓮太郎、ありがとう」

 

もう、涙は無かった。

 

「とはいえ、もうこんな無茶すんなよ。左足、怪我してんじゃねぇのか?」

「うっ…捻っただけで、大したことないぞ。1時間もすれば治るからな」

「アホ。子供がやせ我慢すんな」

「…おーいお二人さん、そろそろいいかい?」

 

蓮太郎と延珠が互いの絆を確かめている間に、ジンは一人でガストレアの死骸を調べていたようだ。

彼が指し示す先には、ガストレアの胴体に癒着した件のケースがあった。

 

「さっさと回収して終わりにしようぜ」

「ああ」

 

その後、3人でケースを無傷で摘出することが出来た。

 

「しかし、これ中に何が入っているのだ?」

「まあ、碌なもんじゃねぇだろ」

「だろうな。『七星の遺産』がどんなもんか知らねぇが…嫌な予感がする。延珠、神斬、さっさと撤収しよ「避けろ里見!!」えっ」

 

 

 

 

「ヒヒ、ご苦労だったね里見くん」

 

 

 

 

ジンの声に反応した時には遅かった。

目の前に現れた白い仮面に、凄まじい力で顔を掴まれ、そのまま背後の木まで投げ飛ばされる。

背中に衝撃を感じ、意識が飛びかけた。

 

「蓮太郎ッ!」

「延珠、ミツケタッ」

 

直後、延珠の周囲にある木々がまとめて3分割され、大音量と共に吹き飛ばされる。

赤い瞳でバラニウム製の2刀小太刀を構える小比奈が現れる。

 

「蛭子、影胤ぇぇ!」

「君のとこの社長さんも、可愛い顔してえげつないね。私の後援者になりふり構わず嗅ぎまわるわ、そこにいる神機使い(ゲテモノ喰い)と手を組むわでね。さっさと片を付けろと御達しがきたのさ」

「なんだと……」

「ああ、そうそう。応援の民警なら期待しない方が良い。近くの雑魚は粗方殺しながら来たからね」

「……ッ!」

 

良く見ると影胤の赤い燕尾服は、その上から更に何かの赤い液体がそこかしこに飛び散っていた。

そのことに気付いた蓮太郎は即座にXD拳銃を抜き放ち、発砲した。

 

「無駄だよ」

 

だが、当然の如く斥力フィールドで弾かれてしまう。

それを確認するや、蓮太郎はケースを放り出して影胤に肉薄する。

ぬかるむ地を踏みしめ、丹田に力を込める。

それらの力を、腰の回転や腕の振りで余すことなくエネルギーに変換。

放つのは天童式戦闘術一の型八番―――

 

「『焔火扇』ッ!」

 

渾身の右ストレートはしかし、青白いバリアによってあらぬ方向に逸らされてしまう。

当然体勢は崩れ、その隙を目の前の怪人が見逃すはずもない。

アサルト銃形態に神機を変化させたジンが援護するも、彼の銃弾もバリアによって防がれてしまう。

影胤は自前のカスタムベレッタを引き抜くと、蓮太郎の右肩にゼロ距離で3発発砲。

 

「ぐあっ……ぐっ」

 

激痛に肩を押さえながら後退するも、後ろにあった巨大な岩に退路を塞がれてしまった。

 

「君に一つ私の技をお見せしよう――『マキシマム・ペイン』」

 

突如として影胤を中心として展開する斥力フィールドが、急激にその範囲を広げた。

恐ろしい勢いで蓮太郎は岩に叩きつけられる。

しかもそれだけに留まらず、なおも蓮太郎の体を押しつぶし続ける。

まるで体中をプレス機に掛けられたようで、自分の体の中から聞こえてはいけない音が響いてくる。

影胤と初めて遭遇した時に、警官が死んでいた理由がこれだと蓮太郎は理解した。

 

「ほう、まだ生きているか…もう少し圧力を上げるか」

 

なおも蓮太郎を押しつぶしにかかる影胤であったが――

 

「ウラァッ!!」

 

影胤の丁度真左に近接状態の神機を振るうジンがいた。

尤も、『マキシマム・ペイン』のせいで彼と影胤の間にはそれなりに距離があったが。

 

「ぬ、ぐぅぅううう!」

「君もしつこいね。この前のやり取りで君では破れないと分からなかったのかい?」

 

あの会議の席でジンは近接神機で影胤のバリアを突破出来なかった。

そのことが影胤に一種の油断を生んだ。

 

「ぶっ…飛べオラァァァァ!!!」

「な?!」

 

直後、凄まじい衝撃が影胤をバリアごと吹き飛ばす。

お蔭で押しつぶし続けていた圧力が消え、膝をついた蓮太郎はそのまま激しく喀血した。

 

「『イマジナリー・ギミック』ごと私を弾き飛ばすとは…何をした?」

「答えると、思ってんのか…」

 

一方ジンの方も迫りくるバリアを押し留め続けたのと、先程の『インパルス・エッジ』のせいでかなり息が上がっている。

スタミナを消費する代わりに大威力の砲撃を叩き込むこの技によって、影胤のバリアを破るとまでは行かなくとも、吹き飛ばすことには成功した。

だが依然状況は悪い。

蓮太郎は既に満身創痍、延珠も足の怪我のせいで動きがぎこちない。あれで小比奈の相手は相当キツイ筈。

唯一ジンは怪我らしい怪我は無いが、大分体力を消費し、且つケースと蓮太郎たちを守りながら戦うことは出来ない。

故に蓮太郎とジンは一番合理的な思考を紡ぎだす。

 

「「延珠(嬢ちゃん)、逃げろ」」

「嫌だ!」

 

そう答える延珠の後ろから小比奈が迫るのを見て、蓮太郎は延珠の足元に一発発砲する。

反射的に避けると、それは同時に小比奈からも若干の距離を取ることになった。

延珠は蓮太郎に視線を送るが、その眼を見てすぐさま身を翻そうとする。

だが、それで諦める小比奈ではない。

そこまで離れてもいないのですぐさま追撃の姿勢を見せる小比奈に、ジンは躊躇うことなく大型の銃器を向けて引き金を引いた。

そしてそれは影胤にも分かっていること。

ジンと小比奈の間に入ると『イマジナリー・ギミック』を用いて銃撃を防いできた。

銃撃を防がれたジンだが、その顔には若干の笑みが浮かんでいた。

彼が発砲したのは小比奈を足止めする為ではない。影胤の方の動きをある程度封じるためだ。

そして小比奈の方の足止めは―――

 

ガガガガッ!!

 

上空より放たれる複数のレーザーによって成された。

 

「シエル、嬢ちゃんの回収を頼む」

『了解です、ジン達も早く――』

「状況的にちとキツイ。俺らは後回しだ」

『しかし…』

「俺のしぶとさは神機兵の件で知ってるだろ?里見もそこそこのモンを持ってる。なんとかしてやるさね」

『…分かりました。ご武運を』

 

そこで通信は切れてしまった。

 

(里見、動けるか?)

(正直、ヤバイ。意識が、飛びそうだ)

(隙をついて逃げるぞ。俺が担ぐから、お前はケースだけしっかり握ってろ)

(分かった…)

 

逃走の算段を付けていると前方から怒気が伝わってくる。

 

「パパ!延珠、逃げた!斬りたい!追いたい!」

「駄目だ、我が娘よ。他の民警を呼ばれると厄介だし、アレと同レベルの神機使いを上空の仲間が呼んだら更に面倒だ。さっさと仕事を済ませよう」

(今のうちに…)

 

そう思った蓮太郎がケースを密かに確保しようとした瞬間、腹部に衝撃を感じた。

見ると蓮太郎の腹から黒い刀身が2本生えている。

背後から刺されたことに気付くまで数秒かかった。

 

「しまった、里見ッ!」

「弱いくせに!弱いくせに!弱いくせに!」

「が、あ…ッ」

 

裏拳で何とか小比奈を追い払うも、蓮太郎は深刻なダメージを負ってしまう。

小比奈は小太刀を引き抜くと、今度はジンに向かってきた。

 

「クソッ、邪魔だガキ!!」

 

長大な獲物故に、小比奈の速度に翻弄されるジンは防戦一方になってしまう。

一方の蓮太郎はケースを取ることも忘れ、逃走に走る。

威嚇の為に銃を乱射するが、碌に狙いも付けず発砲する為当たる筈もなく、むしろ反動で傷が痛み、意識が飛びそうになるほどの激痛を感じていた。

焦る思考とは裏腹に非常に緩慢な動作で逃げていた蓮太郎は、雨で増水し勢いの増した川によって道を塞がれてしまう。

後ろで小比奈に足止めされるジンと、こちらにカスタムベレッタを向ける影胤が見えた。

 

「……死にゆく友よ、何か言い残すことは?」

「へ、へへ…地獄に、落ちろ…」

おやすみ(グッド・ナイト)

 

影胤のフルオート射撃が場所を問わず、蓮太郎の体を貫いた。

拳銃を取り落した体がゆっくりと傾いていく。

薄れゆく意識の中で見えたのは、十字を切る影胤と、その背後から凄まじい勢いで自分に向かってくる黒い影。

着水した体は、恐ろしい速度で流されていった。

 

 

 


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