ブラック・イーター ~黒の銃弾と神を喰らうもの~   作:ミドレンジャイ

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第17話 現実

「ハァ、ハァ…」

 

息を切らせながらも全くスピードを落とすことなく、蓮太郎は自転車のペダルを全力で回していた。

向かっている場所は高校ではなく勾田小学校。

その正門が見えてくると更に速度をあげ、半ば滑り込むように駐輪スペースに入り乱雑にロックをかける。

来客用のスリッパに乱暴に履き替え即座に職員室に向かおうとするも、目的の人物は向こうから来た。

眼鏡を掛けた痩せ形の男性教諭、延珠の担任だ。

 

「ああ、あなたが藍原さんの……」

「どういうことだよアンタッ、延珠は本当に………」

 

凄まじい剣幕で詰め寄る蓮太郎に気後れするようにして、目を逸らしながら目の前の担任は話を続ける。

 

「ええ……藍原さんが『呪われた子供たち』だという噂が何処からともなくたちまして…」

「そんな……延珠は、否定、しなかったのか…?」

「………」

 

流れ落ちる汗をハンカチで拭きながら、目の前の男は尚も目を合わせようとしない。

黙ったままなのは、つまりそういうことなのだろう。

 

「…里見さん、あなたは今まで藍原さんが『呪われた子供たち』だということを私たちに黙って通学させていましたね?」

 

ようやく目を合わせたかと思うと、今度はその目に若干の非難が混ざっていた。

そのことに気付いた蓮太郎は激高するかのように反論する。

 

「事前に申告すれば、アンタ達は何かと理由を付けて延珠の入学を断ったんじゃねぇのかよ?!」

「……ッ」

 

沈黙が雄弁に答えを語っていた。

そのことが余計に癇に障った。

 

「延珠さんはショックを受けていたようなので早退させました。…こんなことを言えた義理ではないのですが、里見さん。彼女と一緒にいてあげてくれませんか」

 

担任の話を聞いた後、再び自転車に乗ったことまでは覚えている。

その後はただただ必死で、どのような道順で家に帰ったのかは分からないし、覚えてもいない。

 

「延珠ッッ!!」

 

ドアをぶち破るかの勢いで中に入るも、人影もなく、電気なども一切付いていなかった。

ただ彼女が帰ってきた痕跡はあった。

大切に使っていたランドセルは雑に床に置かれ、箪笥から自分の服を取り出した様な形跡があったのだ。

だが、書置きの類は一切無く、どこに向かったのかはまるで分らなかった。

 

「延珠………お前の帰る家は、此処だろ……」

 

呟くも誰の返事も聞こえない。

体中の力が抜け、その場でへたり込んでしまう。

 

『こういうやり方はあまり趣味ではないが仕方あるまい…明日学校に行ってみると良い。君もいい加減、現実を見るんだ』

 

カチ、カチ、と壁にかけた時計が時を刻む音だけが聞こえる中、影胤の言葉が頭の中で響き続けた。

 

 

 

 

ぱらぱらと雨が降る音で目が覚める。

時刻は午前7時。寝付いたのは午前6時だ。

眩暈や頭痛、吐き気を押し殺しシャワーを浴びる。

そのおかげか多少なりともスッキリとした気分になった。

吐き気の方は昨日の夜から何も食べていないことからきているようだ。

冷蔵庫を開け、料理もしないまま野菜などを適当に食す。延珠がいないのに料理などする気も起きなかった。

腹に何かを詰めたことで更に少し動けるようになってきた。

服を着替え、傍らに放置してあった浸食抑制剤と傘を片手に蓮太郎は家を出た。

 

外は土砂降りとまではいかないが、鬱陶しく思うくらいには降っていた。

幸いなのは雨の色が普通であったことか。

そんなことを考えながら蓮太郎は第39外周区の綺麗に舗装された道を歩いていた。

もっとも、綺麗に整えられているのは道だけだ。

周りは10年前のガストレア戦争やそれ以前のアラガミの被害を彷彿とさせる酷い有様だった。

そしてこの景色から言えることは、政府は外周区を復興させる気はないということだ。

倒壊した建物の間を走る道路を歩いているうちに視線を感じるようになった。

だが、今の蓮太郎にそれを気にしている余裕はあまりなかった。

暫く歩き、一つのマンホールの前でしゃがみこむ。

そしてそのマンホールを2、3回ノックする。

 

「なぁにー?」

 

すると上蓋が開き、中から7歳ほどの女の子が舌足らずな声と共に顔を出した。

瞳の色は赤かった。

彼女はマンホールチルドレンという戦災時に孤児になってしまった子供の一人だ。

 

「人を捜している。この子に見覚えはないか」

 

延珠の写真を取り出そうとしたが――

 

「せーはんざいしゃはお断りですので。のでので」

 

そう言って目の前の子はマンホールを閉じてしまった。

唖然とする蓮太郎。

再度ノックすると再び同じ子が顔を覗かせる。

 

「しつこいせーはんざいしゃは嫌いですッ」

「待て待て待て!俺は性犯罪者じゃねぇ、人を捜しているだけだ!てか何で俺を性犯罪者だなんて思いやがった?!」

「お顔がそれっぽかったですので」

「この、ガキ……ッ」

 

納得いかないことが多々あるが今はそれを捨て置く。

今度こそ延珠の写真を見せて少女に訊いてみた。

暫く写真を見ていた少女だったが…。

 

「知りません」

「…そうか。一応他の人にも聞きたいんだけど、誰か大人の人いないか?」

「でしたら長老ですので、呼んできますので中に入ってお待ちくださいですので」

 

そのままマンホールを退けて中に入る様促してきた。

 

 

 

 

外に比べると中はかなり暖かかった。

なんとはなしに待っていると眼鏡を掛けた1人の老人が進み出てくる。

 

「民警の方がこのような所に来るなんて珍しいですね」

「里見蓮太郎だ。失礼だがアンタは…?」

「私は松崎と申します。ここで彼女らの面倒を見ているのですよ」

 

そう言って彼―松崎の視線の先には数人の子供たちがいた。

 

「……やっぱりアイツも『呪われた子供たち』なんだな」

「やっぱり気付きましたか」

「そりゃ、7歳くらいの女の子が60㎏超のマンホールを片手で持ち上げてりゃな…」

「いずれはここを出て、普通の人々の中で生活して欲しいのですがね。まだ力を制御しきれていないので、感情を抑える術は最低限学んでいかないと」

「……松崎さんも『奪われた世代』じゃねぇのかよ」

「関係ありませんね。むしろウィルスを生まれつき宿して生まれてくる彼女ら『無垢の世代』は被害者ですよ」

「……皆、アンタみたいな物の考え方だったらいいのにな」

「遺恨はそう簡単には消えませんので、仕方のないことです」

 

話の分かる人に出会って思わず話し込みそうになるが、目的を思い出し意識を切り替えた。

 

「この子を見かけなかったか。名前は藍原延珠」

「……残念ですが知りませんな」

「そうか…」

 

一礼して去ろうとした蓮太郎であったが、松崎に引き留められた。

 

「これからどちらへ?」

「39区を虱潰しに捜す。コイツの故郷なんでな」

「彼女でなくても良いのでは?」

「……何?」

 

聞き捨てならないことを言われ振り向く。

 

「見た所あなたはイニシエーターに逃げられたプロモーターだ。民警においてペアの性格の不一致など珍しくもないはず。序列は大きく下がりますが、ペアを解消して新しいイニシエーターと契約すればいい。あなたはまだ若いのだから十分返り咲くことも出来「うるせぇよ…」……」

 

一度深呼吸して目を瞑る。

 

「俺はイニシエーターだとかプロモーターだとかを抜きにして延珠を捜している。俺たちのことを何も知らないアンタが偉そうに語んじゃねぇよッ!!」

 

松崎は驚いて目を見開いていた。

 

「悪い、怒鳴るつもりは無かったんだ。情報提供、感謝する」

 

少々バツの悪さを感じながらも蓮太郎はその場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

「いい青年じゃないか。このまま見送って良かったのかい、お嬢ちゃん?」

 

 

 

 

翌日、蓮太郎は菫の元にいた。

驚いたことに延珠は学校に登校しているという連絡を受けた。

すぐさま学校の教室を覗いてみたが、延珠の周りだけ机の間隔が開けられており、クラスメイトからはいないものとして扱われていた。

止めたくなったが、これは彼女の戦いだと思い、浸食抑制剤を担任に預けるに留まった。

そしてその足でそのまま菫の元に来たというわけだ。

 

「……で、先生は何やってんだ?」

「見て分からんかね、エロゲーだ。君もやるかい?」

「やるわけねぇだろ?!」

 

目の前の変人は人がいる目の前で堂々と18禁ゲームを絶賛プレイ中だ。

時折彼女の向こうにあるだろうディスプレイから艶めかしい音声が聞こえてくるが全て無視した。

 

「何でまたそんなモンやってんだ?」

「暇だから我慢できなくてチャーリーとお別れしてしまってね。超興奮したが、また明日から新しい恋人を探さねばならない寂しさも同居していたよ。取り敢えずこの興奮を抑えるために、二次元の子相手にギシギシアンアン繁殖してみたわけだ」

「死体を解体して興奮するのも、その興奮をエロゲーで発散すんのも理解出来ねぇ……」

「別に理解してくれと言っているわけじゃない。それにぶっちゃけつまらなかった。まあ、興奮を冷ますための興醒めとしては役立ったがね」

 

そう言って何かを投げ渡してくる菫。

受け取ってみるとエロゲーのパッケージの外箱だった。

タイトルは『監禁調教24時 ~花梨はお兄たまの孕み嫁~』。

 

「内容は11歳の無垢な小学生を高校生の兄があの手この手で手籠めにするお話だ。私としてはヤンデレ化した妹が兄を殺して寄り添う展開を希望していたのだが、どう選択ルートを変えてもそんなエンディングは無くてね。全く、このゲームのプロデューサーは何を考えているんだか。というわけで、君にこのゲームをあげよう、要らなかったら延珠ちゃんにプレゼントしてあげたまえ」

「何がどう“というわけ”なのか全く理解出来ん?!あと、そんなモン延珠にあげるわけねぇだろ!!」

「まあ、そんなことはさておき」

「そんなことに付き合わされるこっちの身にもなってくれ……」

 

相変わらずこの人はこちらのことなどお構いなしに自分の世界を展開してくる。

そして――

 

「なにがあった?話してみろ」

 

肝心な所ではキチンと意を汲んでくれるから性質が悪い。

蓮太郎は出されたコーヒーをちびちび飲みつつ、今までのことを語る。

外周区の子供との遭遇、未知の病に侵され神機使いの支部で保護されている子たち、延珠の家出とその過程であったことを洗いざらい話した。

聞き終わった菫は険しい顔で黙り込んだままなので蓮太郎は不安になってしまった。

 

「せ、先生?」

「ん?ああ、すまん。今晩の飯は何にしようか考えていた」

「ちょ?!」

「途中からは聞いてなかったよ。なんせ普通過ぎてつまらないからね」

「なっ…」

「なあ蓮太郎くん。そもそも人類は何故ガストレアやアラガミを殲滅しなければならない?」

 

虚を突かれ、一瞬たじろいでしまう。

なおも菫は鋭い視線でこちらを射すくめてくる。

 

「どうした、答えられないのかい?」

「待ってくれ……ガストレアは人を喰って遺伝子情報を書き換える、アラガミは同じく人やその文明を捕食してその情報を自らに取り込む。どちらも共通して人類の敵だからだ」

「ふむ、なるほど。だが世界にはガストレアを穢れた地球を浄化するために現れた神の遣いだと唱える宗教団体もあるぞ」

「そんな、どうして……」

「人類は急速に資源を貪り、地球という舟を駄目にする要因だからな。きれいさっぱり掃除して次代の『操縦者』の為に席を任せた方が良いってことだろう」

「そんで最終的には人類は不要だってか?そんなもん誰でも言える極論じゃねぇか!そもそもガストレアが神の遣いだってんなら、『呪われた子供たち』はなんだってんだよ?」

「それこそ人類と神の遣いとのメッセンジャーを務める『神の代理人』だよ」

 

バンッ!と。

気付けば机を強く叩き、立ち上がっていた。

 

「延珠は人間だ、1つの意志と人格を備えた人間だ!それ以上でもそれ以下でもねぇ!」

「なんだ、ちゃんと分かっているじゃないか」

「あ」

 

してやったりとばかりに両手を広げる菫を見て、蓮太郎は嵌められたことに気付いた。

途端に急に恥ずかしくなってくる。

 

「蓮太郎くん。君は自分が何処の誰だか知っているだけまだ良い。だが延珠ちゃんにはそれすらない」

「え?」

「外周区に住んでいる子は殆ど捨て子だ。彼女らは親の顔すらも知らず、多くの人から軽蔑の眼差しと共に踏みつけにされる。――君は彼女たちを同じ『人間』だといったな。そんな君に出来ることはなんだ?延珠ちゃんの隣で教え導いてやることなんじゃないのかい?」

「…!」

「君たちは――家族じゃないのかい?」

 

敵わない。

何度もこの人には思い知らされてきたことだが、今、また改めて実感した。

 

「先生、俺やっぱり延珠に会ってくるよ」

 

そう告げて出ていこうとしたが、ふと思うことがあった。

 

「先生」

「なんだい?」

「ガストレアが『神の遣い』なら、アラガミはなんなんだ?」

 

そう聞くと菫は目を細め、一拍置いてポツリと呟いた。

 

「……『終末捕食』」

「…え?」

「いや、この話は今度にしよう。早く延珠ちゃんの所に行ってやりな」

 

それっきり菫は何も語らず、ただ手を振っているだけだった。

 

 

 

 

大学病院を出てすぐ携帯に着信があった。

 

『もしもし、里見さんですか?』

 

声ですぐに分かった。

 

『藍原さんの担任です。…少々厄介なことになりまして、すぐに学校に来れませんか?』

 

息急き切って学校に到着すると前方に人の輪が出来ていた。

激しい悪寒が体を支配する中、横を学校の生徒たちが横切っていく。

 

「ねえ、さっきのアレ、なんだったの?」

「ほら、3組のあの子いたでしょう。あの子実はガストレアウィルスの保菌者(キャリアー)だったんだって」

「えー!うそー!私あの子に触られたことあるよ、どうしよー」

「あたし、あの子のこと前から嫌いだったんだよねー。なんかナマイキだしさ」

 

嫌な既視感に襲われながらも輪に近づいていく。

輪の中心には少年と少女、2人の生徒がいた。

少年が何事かを大声で叫ぶと周囲は同調してエールを送り、少女が何事かを叫ぶと恐ろしいまでの沈黙と冷たい視線が刺さった。

少女が延珠だと気付いた時は足元から崩れるかと思った。

更に近づいていくと、遂に声が聞こえるようになる。

だが、その内容は聞いているこちらの胸が悪くなるようなものだった。

 

「え?『赤目』って本当に俺たちの周りにいるのかよ!なんで民警はあいつら駆除しねぇの?」

「前にさー、外周区(ゲットー)の奴が街にいるの見たんだけどさ。目が本当に赤く光ってて超キモかった!ホント、学校に来ないでほしいよね」

「なんで民警って『呪われた子供たち(あいつら)』使ってんの?一緒に駆除しちまえばいいじゃん」

「なー。民警ってぜってー頭わりぃぜ。俺だったら『呪われた子供たち(あいつら)』に爆弾でも巻いてガストレアに放り込むね。こうすれば『赤目』同士仲良く一緒に消えんじゃん」

「ホント、アイツらマジねーわ。一生外周区(ゲットー)から出てくんなっつーの」

 

一瞬、本気でコイツ等全員の顔を全力でぶん殴ろうかと思考が加速する。

だが、彼らの表情を見て拳を下ろさざるを得なかった。

大半は野次馬だったり後ろ指を指すことを趣味にしているような連中ばかりだったが、一部の者は青い顔をして本気で怯えていた。

恐らくガストレアウィルスに関する正しい知識を持っておらず、触れられただけで感染すると思っているのだろう。

 

「黙れ化け物ッ!!」

 

声は延珠と相対している男の子からだった。顔を赤黒く紅潮させて甲高い声で延珠に詰め寄っていた。

 

「わ、妾は化け物ではない!」

「じゃあなんだってんだよ?!いいか?!俺の父さんは、ガストレアに足を食われてからずっと酒浸りになって、母さんに暴力を振るうようになったんだ!『お前ら』が、『俺たち』をところ構わず殺しまくったせいで俺の家はッ!!」

 

延珠は激しく首を振っていた。

 

「違う!!それは妾じゃないッ、妾は人間だ!」

「キメェんだよ、人間のフリしてんじゃねぇッ!」

「妾は人間だ!」

「うるせぇ化け物!」

「妾は人間だッ!!」

「しつけぇぞ!!」

「妾はッ、人間だッ!!!」

「黙れって言ってんだよ!このッ、化け物がッ!!」

 

少年が何かを投げつけた。

延珠に当たって地面に落ちたそれは、延珠が大事にしていたランドセルだった。

だがそれはカッターか何かで切り刻まれボロボロになっていた。

ランドセルの中に入っていた教科書や文房具も同様だ。

ページは破られ、『人殺し』『死ね』『赤鬼』などと誹謗中傷の言葉がそこかしこに書かれていた。

 

「わ、妾は、妾は…」

 

次第に声が尻すぼみになっていく延珠。

不意にある一点へと視線を向けると、まるで助けを求めるかのように、少し手を伸ばした。

視線の先を追うと、そこには蓮太郎も会ったことのある延珠の親友ともいうべき少女が遠巻きに見ていた

 

「舞ちゃ…――」

 

向こうも延珠の視線に気付いたようだ。

そして、向こうも特に考えがあった訳ではないだろうが。

反射的に視線を逸らしていた。

だが、それは延珠を絶望のドン底に落とすには十分だった。

 

『君が幾ら奴らに奉仕したところで、奴らは何度でも君のことを裏切るぞ』

 

再び影胤の言葉が蘇る。

悔しくて目頭が熱くなった。

 

「延珠」

 

こちらに気付いた延珠は目を見開き、一歩後ずさった。

 

「蓮太郎…」

「延珠。学校を、移ろう」

 

言い聞かせるように、一言ずつ区切って言う。

 

「妾は、負けたく、ない…」

 

そっと抱きしめた延珠の体は冷たく、小刻みに震えていた。

 

「友達も、たくさん出来たのに」

「もう、友達じゃない」

 

少しずつ延珠が顔を当てている制服の部分が、温かく湿っていくのが分かった。

 

「…もう妾は駄目なのか?」

「ああ…終わりだ」

「…童はやり直せないのか?」

「そうだ…。世界がお前たちを受け入れるのに、まだ時間が掛かる」

「…それでも、妾たちは、戦わなければならないのか?」

「……………そうだ」

「……なら、教えてくれ、蓮太郎。……それまで妾は、一体、『何処』に居ればいいというのだ…」

 

蓮太郎は何も答えられなかった。

どうすれば良いのか分からず途方に暮れていると、不意に頭上からバラバラという音が聞こえた。

何かと思い頭上を見上げる前に、校庭に何かが凄まじい音と共に着地した。

 

「いたいた。おーいお前ら」

 

濛々と砂煙が上がるが、幸いにも砂煙はすぐに晴れ、着地地点と思しき場所から人の声が聞こえてきた。

黒い軍服の様な服装をした黒髪の少年だった。

 

「お前…神斬」

「早速お仕事の時間だ…ってなんだこの状況」

 

黒髪黒軍服の少年――神斬ジンは蓮太郎たちの傍まで来ると訝しげな表情で周りを見回す。

そして、泣いている延珠と、傍に落ちているボロボロのカバンと、未だに蓮太郎やジンも含めて敵意を放っている生徒たちを見て大体の状況を把握したようだった。

周りを恐ろしく冷たい目で見回すジン。

見回された生徒たちは「ヒッ」と息を呑み顔を引き攣らせ、先程までの喧騒が嘘の様に完全に黙り込んでしまった。

それを見て一瞬でつまらなそうな表情になったジンは、周りの生徒たちをいないものとして話を進める。

 

「例の合同作戦の初任務だ。一緒について来い」

「ついて来いって、…どこに?」

 

疑問をぶつける蓮太郎に、ジンは答えを言う代わりに頭上を指さす。

その先を追ってみると、先ほどの音の正体が頭上に浮かんでいた。

音の正体は巨大なヘリコプターだ。

兵装などは一切装備されておらず、速度と運搬に特化した物だった。

側面には巨大な狼の紋章が入っている。

 

「シエル、そのまま校庭に着陸してくれ」

『了解です』

 

徐々にヘリは高度を落としてくる。

そのまま指でクイッとヘリを指し、『行くぞ』とジェスチャーをしてくるジン。

蓮太郎も任務だと聞き、延珠の手を引きながらジンに続いてヘリに乗り込んでいった。

 

 

 

 

 




これからはなるべく週1で更新できるように頑張ります。

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