ブラック・イーター ~黒の銃弾と神を喰らうもの~   作:ミドレンジャイ

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第11話 提案

「クソッ、一体なんだ今のは?!」

「おい『赤目』がいないぞ!」

 

閃光によって目が眩んでいた警官はようやく状況を認識した。

しばらくこの付近を捜索していたが見つからないとみて諦めたようだ。

そのままブツブツ文句を言いながらパトカーで市街地に戻っていった。

警官の目を隠れてやり過ごした蓮太郎は移動を開始する。

同じく市街地へ、ではない。

自分と同じくコソコソと動く影を視界の端に捉えたからだ。

 

 

 

 

 

 

「ここまでくれば大丈夫かな…」

 

そう言って青年はふぅ、と溜息を1つ吐く。

 

「まったく、こんなまだ幼い子にあんな物騒なモン向けやがって。何やったか知らないけどやり過ぎだっての」

「………」

 

少女は未だに何が起きたか分からないようで呆けていた。

かく言う青年の方も意図して助けたわけではない。

偶々外周区に用があり付近を散策していたところ、この少女が何か厄介ごとに巻き込まれている所を発見したのだ。

咄嗟に携帯していたスタングレネードを気付かれない様に転がし目を晦ませ、見えていない間に少女を連れて速攻で離脱。

鬼の形相で捜してくる警官を何とか撒いてやっと今落ち着いた。

 

(……あ、でも備品勝手に使っちゃったし、もしかしてこれ後で皆に怒られるパターンじゃね?いやでもこれは不可抗力的なアレだし、セーフかな?)

 

等と即物的なことを考えつつも、今はその考えを後回しにする。

今考えるべきは目の前の少女のことだろう。

 

「君、大丈夫?怪我とかない?」

「………(フルフルフル)」

 

とりあえず怪我等は無いようだが、怯えが抜けないのか黙ったまま小刻みに震えていた。

尤も目の前で一方的に拳銃を向けられればこんな子でなくても大体こうなるかもしれない。

まずは怯えさせないためにも自己紹介をすべきだろう。

そう考えた青年は早速行動に移すが――

 

「えっとね、俺は「おいアンタ」うひゃあ!!」

 

直後に真後ろから声をかけられた。

 

 

 

 

コソコソしていた影をバレない様に尾行する。

タイミング的に先ほどの閃光と無関係とは思えなかったからだ。

そうして暫しスニーキングしていると別の廃墟で遂に完璧に姿を捉えた。

いるのは2人の人物。

1人は先程の少女。

先程のことを考えれば当然だがまだ青い顔で震えていた。ただ、その顔には若干戸惑いのようなものも見える。

もう1人は青年。

齢は自分より2,3上くらいだろう。

ただ全体的に人懐っこそうな雰囲気が出ており、年上なのだろうが何故か同年代の様にも見えてしまう。

黒のインナーの上から橙色を基調とした上着を羽織り、ポーチの様なポケットが付いた作業着の様なズボンをはいている。

髪は被っている大きなニット帽で隠れており、そこから僅かに金髪が覗いていた。

また、服やニット帽のそこかしこには多種多様なアクセサリーが付いている。

警察を撒いたからだろう、青年からは安堵の気配が窺えた。

 

「えっとね、俺は「おいアンタ」うひゃあ!!」

 

ともかく話をしようと話しかけたが、間が悪かったようで被せるようになってしまった。

青年はこちらの接近にまったく気付いていなかったようで随分驚いている。

 

「な、なな何アンタ?!急に出てくるなよ」

「あ、いや、悪い…驚かすつもりは無かったんだが……」

 

そう言って素直に頭を下げようとした瞬間、傍らにいた少女と目があった。

目が合うと少女は怯えた様にして青年の陰に隠れてしまう。

それを見た青年は訝しそうにしていたが、すぐにこちらへと警戒の視線を向けてくる。

やはり先程手を叩き落としたのが尾を引いているようだ。

とりあえずまずは両手をあげて、敵意が無いことを示す。

 

「……お前、さっきの警官の仲間?この子を捕まえに来たの?」

「いや、違う」

「本当に?じゃあ何でこの子こんなに怯えてんのさ」

「そのことも含めて話をさせてくれないか?」

 

青年は少し悩んでいたようだが、最終的には頷いてくれた。

 

 

 

 

 

「……で、気になって追ってきたって訳だ」

 

崩れた大きめの石の上で互いに座って、事のあらましを語り終えた蓮太郎。

それを聞き終えた青年は大きく溜息を吐いた。

 

「……分かってたけど、どこでもやっぱこの子たちの扱いは酷いな…」

「…?どこでも?」

「ああ、俺ここ一年くらい仕事で結構世界中を回ってたんだ」

「世界中?!マジか…」

「仕事って言っても簡単なヤツだけどね。……ただ、そうやって見て来たけど彼女らの扱いが良かった地域は無かったよ」

 

目を伏せて鎮痛な面持ちで語る。

その様子からは本当に『呪われた子供たち』のことを心配している様子が伝わってきた。

沈みかける雰囲気を察したのか、傍らの少女が縋る様にして青年の袖を握っている。

そうだ、この少女にも言うべきことを言っていなかった。

 

「なあ」

「ッ!な、なに…?」

「その…さっきは悪かったよ、叩いちゃったりして」

 

歯切れは悪いが目を合わせて謝る。

少女はこういう事は初めてなのか、目をパチクリさせていた。

しばらく固まっていたが、その後力なく首を振った。

 

「…別に、いい。今までにもこんなことあったし、テッポウ向けられるのも叩かれるのも慣れてるから……」

「………」

「…あんた、あの子の保護者かなにか?」

「え?」

「あの髪の長い子…昔外周区で見たことあったから」

「あ、ああ。延珠は今の俺のパートナーだ。一緒に民警をやってる」

「……そっか」

 

少女は非常に複雑そうな顔をしていた。

また会えて嬉しい、でも何で彼女は一緒にいる人がいて一緒に笑っているのに自分は笑えないのかという恨みや妬み、それでも突然いなくなって心配だったから安心した。

様々な感情が幼い胸中に渦巻いて顔に滲み出ていた。

益々沈む空気を何とかするように青年の方が元気よく声を張り上げる。

 

「よぅし!暗い空気はこのくらいにして別のことを話そうぜ!」

「別の事って……一体何話すんだよ」

「へへ、実はこっちの話が俺としてはメインなんだけどな」

 

そう言って青年は少女の方に向き直る。

 

「君さ、もし良かったら一緒に来る?」

「……?」

「どういうことだ?」

 

いきなりこの青年は目の前の少女を引き取る様なことを言いだした。

人のことを言えた義理ではないが、目の前の人物はとても人を養うような経済力を持っているとは思えない。

だがその予想は裏切られた。

 

「ちょっとしたツテがあってさ。こういう『呪われた子供たち』を引き取ってるんだ」

 

その言葉に蓮太郎も少女も大いに驚いた。

今の時代にIISOの様な機関を除いて、彼女らを自分から引き取る様な所があるなど聞いたことが無かったからだ。

訝しみながらも少女は悩んでいるが、表情を見るにあまりいい具合ではない

 

「いや勿論強制はしないよ。どうしても行きたくないとかだったら無理にはいいよ」

「あ、いや、そうじゃなくて……」

「ん?」

 

少女は俯いてボソボソと渋る理由を言う。

 

「…友達が、いるから……私だけ行くのは、皆に悪いから…」

「その友達ってどれくらいいる?正直に教えてくんないかな?」

「………」

「駄目かな?」

「………15人くらい」

 

それだけ言うと黙り込んでしまった。

自分に手を差し伸べてくれた人の所へ彼女個人としては行ってみたい。

だが友達をおいて自分だけそんな所へ行くのは罪悪感があった。

かといって15人も纏めて連れて行ってくれるわけがない。

少女はそのように思っていた。

それを聞いた少年は「ちょっと待ってて」とだけ言ってどこかへ連絡を取り始める。

二言三言話すとすぐに戻ってきた。

その顔には笑顔が張り付いている。

 

「オッケー!じゃあその友達の所まで連れてってくれる?」

「……え?」

「君もお友達も皆一緒に連れてってやるよ!」

「え?え?で、でも、15人もいるよ…?」

「確認とってみたけど全然余裕余裕!」

 

ポカンと青年以外の2人は呆けてしまう。

15人もの『呪われた子供たち』を受け入れる施設がある。

俄かには信じられない話だ。

でも、もしそれが本当なら…。

少女も同じ考えなのか、先ほどよりも多少希望に満ちた顔をしている。

それでも即座に頷かないのは散々大人に酷い目に遭わされてきたせいか…。

迷ているせいか黙っていると目線を合わせるために腰を下ろした青年がスッと手を差し伸べてくる。

蓮太郎はその眼を見た時に確信した。

この青年は信じられる人物だと。

ややあって少女もまた潤みながらも青年の手を取った。

 

 

 

 


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