須賀京太郎の悲劇   作:泡泡

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 あと数話で終わる予定です



最後の一手へ

 それから数日間は病院に戻り、平穏な日々を過ごすことができた。しかしそれの平穏は表面上だけだった。辛い検査は毎日行なわれたし、面会謝絶な時もあった。

 

 ――うん、俺はまだ・・・俺でいられる――

 

 「須賀君、今日は調子良いみたいだね?どこか違和感はあるかい?」

 

 「あぁ、せんせー。うん、大丈夫かな、違和感・・・?うーん、腕に力が入らないかな」

 

 「そうか、先程投与した薬のせいかもしれない。ちょっと様子見だな」

 

 担当医は優しい初老の男性だった。心の安定剤ともなってくれる良い先生だ。

 

 「なぁ、せんせー・・・」

 

 「なんだい?」

 

 「俺は・・・いつまで・・・・・・」

 

 「・・・・・・須賀君?マイナスなことばかり考えていると、気が滅入ってしまうよ。そのことはあまり考えないこと。テレビでも見ていると良いよ、付けるね・・・。おっ、これは麻雀の全国大会の様子だね」

 

 「・・・・・・っ、あぁそうだね・・・。ごめん、せんせー・・・少し一人にしてください」

 

 「いいよー。じゃあ、また夕食後に来るよ」

 

 ネガティブになりそうになる俺の手綱を握り、落ち込みそうになる心をそうならないように支えてくれる、良い先生だ・・・。でもテレビを見ると、ネガティブな雰囲気に陥ってしまうのでミュート(消音)にして観るだけにした。

 

 「はは・・・頑張っているんだ」

 

 横目で見ると、そこには俺がいた清澄が映っていた。うん、それだけ・・・。俺には麻雀する時間なんてなかったから、ルールを初心者レベルで知っているだけ・・・。あとは人数合わせにいただけ・・・。

 

 「うん、消極的になる・・・。少し寝るか」

 

 俺には体力を付けることも必要なので、寝る事も大事だ。それにいつまでこんな普通なことができるわけでもないし・・・。 

 

 清澄は危なげもなく勝ち進んでいるようだった。当然だろう、俺という荷物がなくなったんだから。やはりネガティブな事ばかり考えちゃうな・・・。嫌な俺・・・。

 

 入退院を繰り返しているせいか、体力が元通りになることはなく衰える一方の筋肉を見ながら静かに布団をかけ直した。

 

 ――はふぅ、落ち着くぅ・・・。寝よ・・・――

 

 最近、思考も衰えてきたのかもしれない。けれど結果が決まっているのにそれに逆らうことなどできなかった。俺に残されているのは今、精一杯生きることだけだ。うん、悔いが残らないように・・・自分に嘘をつくことなく生きてみよう・・・。残されている自分の道筋がどこまであるか分からないけれど・・・。

 

 そうと決まれば、ネガティブな感情は今日までで終わりにしなければ・・・。でも麻雀からは離れた生活で・・・。精一杯生きて、生きて『これが俺の人生だっ。悔いは無いっ』って言ってみたいな。それでも悔いが残る人生は過ごしたくなかった。

 

 

 何も言わずに退部届けだけを出して去った最初の居場所、それに病院で出会った優しい二人の少女・・・僅かでありながらも、自分の人生に触れる事になったのだからどんな結果になろうとも自分の置かれた状況を伝えたかった。

 

 ――でもそれにはまだ勇気が足りなかった――

 

 自分が必要とされていないのに、手紙を書いて自分のことを気遣って欲しいだなんて・・・未練たらたらじゃないか?それにか弱いあの()は心身ともに脆弱になってしまわないだろうか・・・?

 

 もどかしさと一緒になって出てくる自分の根深いネガティブな感情がその夜、行き巡っていた。

 

 ~次の日~

 

 この日も延命の為の治療が行なわれていた。一段落した頃に、思い切って担当の先生に聞いてみることにした。

 

 「ねぇ、せんせー?相談があるんだけれども・・・」

 

 「うん、なんだい?須賀君のほうから相談なんて珍しいね・・・」

 

 「あはは・・・。俺だって聞きたいことがあったら相談するよ・・・」

 

 「そうだね、何かな?」

 

 治療が終わったので、注射器やその他の点滴などすでに終わって(から)になった物を片付けていたがその手を休めて聞いてくる。俺は鎮痛剤のせいで少し頭が回らなかったが、今聞かなかったらチャンスを逃すと思って聞いてみた。

 

 「・・・喧嘩別れした訳じゃないけれど、疎遠になった友達がいる・・・。その友達に自分の状況を伝えたいけれど、今それに出ている・・・」

 

 と、言ってテレビを指差す。そこには麻雀を行なっている生徒らが映っていた。先生はすぐに分かったようだ。頷いて俺の話を聞いている。続けて話す。

 

 「だから・・・あまり心配をかけたくない。でも、俺は・・・伝えたい・・・。なぁ、これって偽善かな?」

 

 「それは、人として当然の考えだと思うよ。君の場合、いつどうなるかなんてわからないものだからね?だけど、その方法が分からないってところを考えているんだろうて?」

 

 「ああ、そうなんだ・・・。直接会ったら表情で分かってしまう。それだけは何とかして避けないと。それに今、良いところまできているのに最後の最後まで、俺のせいで負けるなんてことあっちゃならないんだよっ!!」

 

 声を荒げてまくし立てるように告げた。その須賀京太郎の眼差しを見て、担当の先生は何かを思いついたようだった。




 

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