須賀京太郎の悲劇   作:泡泡

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 警告!!警告!!

 この作品には麻雀要素が全く存在しません。日常を淡々と描いている作品となってます。


さようなら・・・

 コンコンコンッ――。

 

 「失礼しまーす。」

 

 真面目な中にもおちゃらけた自分を出した・・・うん、出せたはずだ。いつも学校で出している雰囲気を出した。薬も気休めだが飲んできたから最近は症状がいくぶん落ち着いている。これならなんとか・・・騙せるかな?

 

 「って・・・・・・あれ?」

 

 部室の中には誰の姿もなく、ホワイトボードにはでっかく「合宿!!」の文字が・・・。

 

 「あ、そっか・・・。俺、何も聞いてないよ・・・・・・。」

 

 トボトボと引き返して職員室を目指した。数日前に、買い出しに行って帰って来た時に京太郎が卓上にあったメモに気づいていれば知ったかも(・・)しれない。ただそれだけの可能性だ。職員室に着いたはいいが、会議中で立ち入ることができなかった。それで部室に“退部願”を分かりやすい見えるところに置いてその場を去ることにした。

 

 「さようなら・・・・・・。」

 

 学校を出るまでに、走馬灯のように入部してからの事が頭をよぎった。なし崩しに入部したときは部員も少なかったので、楽しみつつも麻雀を囲むことができたのに・・・いつから楽しめなくなったのかなぁ。

 

 「あ、そっか。ここの麻雀部が全国に行けるかもって、注目されてからだったね。俺が存在意義を失ったのは・・・。買い出しと言う名の雑用が増えて、俺がいてもいなくてもどうでもいいぐらいまで堕ちて、クラスメイトだけじゃなくて皆からゴミみたいに貶され続けたのは。俺・・・疲れたわ」

 

 そのまま気持ちが晴れることなどなく校門を過ぎ、帰宅時間を過ぎて早々と真っ暗になりつつある道を独りで歩き続けた。俺は高校に入ってから幸いな事にひとり暮らしが出来ていた。それで荷物なんて無いに等しかった。すぐに荷物をまとめる事ができた。

 

 ――要らないもの、要らないもの、要るもの、要らないもの――。

 

 区別していくと要らないものが圧倒的に多かった。と言うかこれからの生活で使わないものが多かったと言ったほうが正しいだろう。麻雀卓、制服は処分する方向でいこう。

 

 「はぁ、明日は早めに起きてここを出発せねばなぁ・・・。」

 

 

 ~回想~

 

 「キミは入院しないのかね?」

 

 何度か病院に行ったがそのたびに、入院を勧められた。原因不明でもう長くないからこれからに役立てたい・・・とか何とか言ってたと思う。

 

 「セカンドオピニオンしてもいいですか?勿論、先生のことが信じられないというわけではありません。俺自身、頭の中がごっちゃですから。ひとつの区切りを付けたいんです。」  

 

 「分かっているさ。今キミが経験している痛みが原因不明と言われて、納得する患者さんがどこにいるんだい?費用は気にしなくていい。制度を活用して気が向くまでどこまでも調べてみてくれ。私が見落としている場合もあるかもしれないからな」

 

 先生は理解者だった。それでいて親身になって話を聞いてくれたりもした。それで東京のほうに担当医の先生がいるらしく、その先生を紹介してくれることになった。

 

 「ほんとに何から何まで・・・。」

 

 「いや、いいんだ。・・・・・・須賀君。これで私の診察は終わるが。」

 

 「はい・・・ありがとうございました。」

 

 言葉少なめにその診察室をあとにした。手には先生からもらった紹介状。情に熱い先生らしく、診察室からは鼻水をすする音が響いてきた。

 

 「・・・・・・・・・。」

 

 今出てきた診察室に向かって深々と一礼し、その病院を去った。

 

 ~回想終~

 

 俺はしばらく回想にふけっていたのかもしれない。荷物をまとめてからしばらくの時間が経過していたからだ。そして我に返らせたのは一本の電話だった。解約しようかしまいか迷っていてそのままになった携帯だった。ディスプレイを見て、小さく舌打ちして早く解約せねばと思ったのは無理のないことだった。

 

 「はい、もしもし・・・。部長?」

 

 「ええ、私よ。」

 

 嫌でも聞き慣れた声が聞こえてくる。今の今まで安堵に満ちていた心に少しの影がさした。

 

 「何か?」

 

 早く切りたい・・・との心の願いも虚しく嫌な予感がした。それはボタンの掛け間違えかもしれないし、どこかで歯車が狂ったのかもしれない。

 

 「おや?須賀君、私に対して何か思うことでもあるの?」

 

 「別にないですが、どんな用件です?夜も更けていますし・・・」

 

 ――早く・・・早く――ッ。

 

 「そうそう、合宿の事聞いたでしょ。明日学校に迎えに行くから。」

 

 「っ・・・。聞いてませんが?何かの間違えではないですか?(俺が行ったってただのお荷物になるだけ。俺が行ったところで必要になるなんてな。そんな勘違いあるわけがない)」

 

 「おっかしいなぁ。数日前にメモ紙を置いていったはずなんだけどなぁ・・・。まっ、いっか。明日学校でね?」

 

 「行かないです!!」

 

 こういうことはきっぱりと言ったほうが伝わりやすいだろ。そう考えて率直に言ったつもりだったんだけど、気づいてないのか・・・?

 

 「どうしたの、須賀君?」

 

 「この際ですから言っておきたいと思います。これで辞めたいと思います。直接会うことができなくて申し訳ないんですが・・・」

 

 「えっ・・・ど、どういう事?」

 

 今まで聞いたことがないほどの焦った声が耳元から聞こえてくる。近くには染谷先輩の声やタコスの声も聞こえてきたから、合宿で一段落ついた頃と推測できる。

 

 「どういう事も何もただその言葉の通りです。誰もおられなかったので部室に退部願を出しておきました。それと・・・・・・。・・・・・・なら。」

 

 ――ブチッ、ツーッ、ツーッ・・・・・・――。

 

 久side

 

 須賀君と最近すれ違いが多かった。それはそれとして落ち着いたら相談に乗ってあげればいい。と思ってた。私たちは何も言わずに買出しに行ってくれる須賀君に感謝していた。だから日曜に労う会でもやろうかと思ったけど、連絡がつかなかった。自宅にも行ったけど不在だった。でも、全国に行ける・・・そう思って須賀君のことを考えずにはしゃいでいたのが彼の心を蝕んでいたのかも。今ではそう思えるようになっていた。

 

 次の日も、何となくすれ違った。次の日も、次の日も・・・だ。ここまで来ると私だけでなく他の部員もおかしさに気づいた。そしてそれとなく咲が須賀君に近づいたが、ぞんざいに扱われたみたいだった。最近は部活にも、来なくなってきた。授業が終わるとすぐに学校からいなくなるようだ。そのことをクラスメイトに聞いても、誰も行方を知らなかった。

 

 そうこうしているうちに、合宿を行なうことになった。須賀君とは最後まで連絡が取れなかった。ホワイトボードに大きく『合宿』って書いたからいくらなんでも気づいたでしょ?一抹の不安を隠しながら合宿の合間に電話してみる。数回コールしたあと、暗い口調の須賀君が電話に出た。

 

 「何か?」

 

 ・・・あれっ、彼はこんな声を出す人だったかなぁ。最初に思った感想はそれだった。

 

 「私に対して何か思うところでもあるの?」 

 

 「別に無いですが・・・・・・。」

 

 いいえ、こんな人生に悲嘆したような声を出す須賀君に初めて会ったわ。それを隠すように用件に入ることにした。

 

 「明日学校に迎えに行くから・・・・・・。」

 

 合宿は男性禁止ではないし、何よりも部員を全員連れて行かないわけにはいかないわ。

 

 「聞いてませんし、何かの間違えでは・・・?」

 

 あぁ、やっぱり見てなかったのね。ちゃんと顔と顔を合わせて話し合えばよかったわ。それに口の中でモゴモゴと呟いたけれどそれは聞き取ることができなかった。 

 

 「数日前に卓上にメモ紙を置いていったはずだけどなぁ。まっいっか、明日学校でね?」

 

 「・・・ないです。」

 

 「(えっ?)どうしたの、須賀君?」

 

 今、聞き間違えじゃなきゃ『行かない』って言った?須賀君らしくないわね?ここは一発発破でも掛けて・・・。

 

 「この際ですから言っておきたいと思います。これで辞めたいと思います。」

 

 「えっ・・・ど、どういう事?」

 

 行かないし、辞めたいって。携帯の近くにいる、まこの声が遠くでエコーがかかっているかのように聞こえてくる。

 

 「言葉の通りです。部室に退部願を出しておきました。それと・・・・・・。・・・・・・なら。」

 

 最も聞きたくなかった返事が聞こえてきた。『さようなら』って声だ。それからすぐに向こうから電話を切られた。ややしばらく呆然と立ち尽くしていた。まこの声も右から入って左に抜ける感じだった。何かの間違いだったって信じたい気持ちで一杯だった。

 

 その後、何度も携帯に電話をかけても『おかけになった電話番号には現在お繋ぎすることができません。しばらくしてからもう一度おかけなおしください』というアナウンスが流れるだけで繋がることはなかった。

 

 「どないしたんや、顔真っ青やで?」

 

 「ううん、何でもないわ。帰ったら話す。」

 

 「そか・・・。」

 

 ―ねぇ、貴方は何を考えているの?―

 

 久side end




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